新学期もそろそろ始まるという冬休みのある日、中等部2年2組のメンバーは鉢屋と雷蔵
の部屋でパソコンを弄っていた。
「お前、よくこんなサイト見つけてくるよなあ。」
「別に金請求されるわけではないし、見る分には自由だろ。まあ、気をつけないと請求さ
れるようなサイトもあるけどな。」
「ていうか、本当は18歳未満は見ちゃダメなんだけどね。」
鉢屋がマウスやキーボードを操作しながら見ているのは、年齢制限が必要そうな動画サイ
トだ。そういうことに強い興味があるお年頃ゆえ、ついついパソコンで検索してしまうの
だ。
「つーか、お前が見るのかなりマニアックなものばっかでどうかと思うんだけど?」
「そうか?基本的に雷蔵も一緒に見てるけど、そんなこと言われたことないぞ。」
「ええ、マジかよ!?」
竹谷のつっこみに鉢屋はしれっと答える。と、三人のいる部屋のドアをノックする音が聞
こえた。
コンコン
「はーい。」
ドアへ向かったのは雷蔵で、返事をしながらドアを開けた。ドアの前に立っていたのは、
中等部2年1組の久々知と勘右衛門であった。
「よっ。」
「どうしたの?こんな時間に。」
「何か暇だったから遊びに来た。」
「三郎、兵助と勘右衛門が遊びに来たけど、部屋に入れていい?」
とりあえず、同室の鉢屋にも許可を得ようと雷蔵はそう声をかける。特に断る理由もない
ので、鉢屋は問題ないと返事をした。部屋の中に入ると、久々知と勘右衛門はパソコンの
前にいる竹谷を見つける。
「あれ?八左ヱ門も来てたんだ。」
「あ、ああ。まあな。」
「パソコンで何か調べ物か?何見てるんだ?」
鉢屋と竹谷がパソコンの前にいるので、何を見ているのだろうと久々知は横から覗き込む。
そこに映し出されているのは、何も身につけていない女性の映像であった。
「うわっ!?」
「三人で何見てんだよ?」
久々知も勘右衛門も真っ赤になりながらもパソコンの画面に釘付けになっている。そんな
二人を見て、鉢屋はニヤニヤと笑いながらからうように言葉をかける。
「お前らだって興味あるだろ?さっきから画面に釘付けだぜ?」
「そ、そりゃ、興味ないって言ったら嘘になるけど・・・・」
「でも、ここまで堂々と自分の部屋では見たりしないかな。」
純粋なフリをしてもやはり中学生男子。久々知も勘右衛門も素直に興味があることは認め
た。
「つーかさ、三郎が選ぶのはおもちゃ使ってたり、縛られてたりでさー、結構無理矢理な
のが多いんだよな。」
「三郎だし、そういうのが好きなんじゃないの?」
「どうなんだよ?三郎。」
竹谷、久々知、勘右衛門のつっこみに、鉢屋は特に動揺する様子もなくそうだと答える。
「別に見る分にはどれが好きだって構わないだろ。実際にするわけじゃないんだし。」
「でも、今日のはそんなにすごくないと思うよ。イラストとかだと、もっとすごいのいっ
ぱい見てるよね。」
「もっとすごいのって何だよ?」
雷蔵の言葉に久々知はそう尋ねる。そういうイラストを見ないことはないが、そこまでた
くさんの種類を見たりはしない。
「あれじゃねぇ?りょなとかいうヤツ。」
「何だよ?それ?」
「エロくてグロいみたいなやつ。俺はあんまり得意じゃないジャンルだけどな。」
竹谷の言葉にそれは確かに自分もあまり好きじゃないなと久々知は顔をしかめる。見せた
らどんな反応するのだろうと、鉢屋はポチっとそのような画像を出してみた。
『うわっ!!』
驚いたような声を上げたのは、久々知と勘右衛門だ。あまり得意でなくとも、見ないこと
もないので、竹谷はそれほど驚いた反応は見せない。
「いやー、俺もこれは無理無理!!」
「さすがにこれはないだろ・・・こんなんずっと見てたら気持ち悪くなるぞ。」
「まあ、これがすごく好きかって言われたらそうでもないけどな。絵柄によっては好きか
もだけど。」
「そうだねー。あんまりリアルだとちょっとキツイよね。」
1組の二人は平然としている鉢屋と雷蔵がありえないという目で見る。さすがに苦手なの
に画像をずっと出しておくのは可哀想だと、鉢屋はその画像を閉じた。
「でもさー、私は八左ヱ門が好きなのの方がどうかと思うぞ。特に動画系のは。」
「八左ヱ門はどんなのが好きなんだよ?」
「えー、そんな変なの見てねぇと思うけど。」
「じゃあさ、これを見てどう思う?私は苦手だからあんまり見ないけど。」
そう言って鉢屋はとある動画を表示する。鉢屋自身は目を背けているが、他のメンバーは
とりあえずパソコンの画面に目をやった。始めはいたって普通のそういう動画の雰囲気で
あったが、途中から何かおかしくなる。初めてこんな内容の映像を見るので、久々知と勘
右衛門の顔は青ざめる。
「うわあっ、これは無理無理っ!!さっきのより俺はダメだ!!」
「俺も無理ぃ!!てか、こんなの大丈夫な奴いるの!?」
半分涙目になりながら、久々知と勘右衛門はぎゃあぎゃあと騒ぐ。しかし、竹谷だけは食
い入るようにその動画を見ている。竹谷の凝視している画面には、ありえない程大量の虫
が映っている。
「八左ヱ門、こういうの好きだろ?つーか、これ見てお前の好きな奴想像して、興奮して
るんじゃねーの?」
「いやいや、どんなだよ!?その想像されてる奴不憫すぎるだろ!」
自分がこんな状況になったら発狂ものだと、勘右衛門は盛大につっこむ。しかし、鉢屋は
首を振った。
「それがそうでもないんだよなあ。そいつが無類の虫好きというか、虫とか爬虫類とか大
好きな奴でさー。なあ、八左ヱ門。」
「えっ!?い、いや・・・・そんなことは・・・・」
あまりにも動画の内容に夢中になっていたために、竹谷はドギマギとした様子で鉢屋の言
葉に答える。
「むしろ、こういう状況その子は喜びそうだよね。こんなにたくさんの虫に囲まれて幸せ
〜みたいな感じで。」
『怖っ!!』
「ん?でも、八左ヱ門の好きな奴って・・・・」
そんなことありえないと思いつつも、竹谷が誰に好意を抱いているかを久々知は思い出そ
うとする。その人物を思い出し、久々知は雷蔵が言ったことに納得する。
「あー、うん。雷蔵の言うこと分かるかも。確かに嫌がるってことはなさそうだな。」
「マジかよ!?」
「恍惚としてそうだよね。ねぇ、八左ヱ門。」
「つーか、私がそろそろ限界なんだが。音聞いてるだけでもぞわっとする。消すぞ、八左
ヱ門。見たかったら、後で個人的に見とけ。」
「あっ。」
鉢屋が動画を消すと、竹谷は非常に残念そうな声を上げる。竹谷はこういうのが好きなの
かと思い、かなり引き気味な勘右衛門とは対照的に、久々知は鉢屋や雷蔵の話を聞いて、
何となく納得してしまった。
「ちなみにお前らはどういうのが好きなんだよ?今さっきの反応見てると、何でもオッケ
ーってわけじゃないんだろ?」
「うーん、俺はもともとそんなにたくさん見たことないからなあ。あ、でも、よく分かん
ない企画モノとかは好きかも。」
「あのツッコミどころ満載の奴な。あれは確かに面白いよな。」
「あーいうの見てるとき、三郎は笑いまくってるもんね。」
「とりあえず、三郎とか八左ヱ門とかが好きなのは、勘弁って感じだな。あんなの見たの
初めてだし。」
「あれは好き嫌い分かれるよね〜。」
本当にゲンナリしている勘右衛門を見て、雷蔵は苦笑する。
「兵助は、アレだろ?豆腐プレイだろ?」
「んなわけないだろ!!てか、そんなの見たことないし、豆腐をそんなことに使うなんて
許せん!!」
「じゃあ、どんなのが好みなんだよ?」
「え、えーとぉ・・・・」
久々知が口ごもりながら迷っていると、再び部屋のドアをノックする音が聞こえた。
コンコン
「ちょっと、出てくるね。」
「ああ。今日は来客が多いなあ。」
ドアに向かったのは今回も雷蔵で、ガチャっとドアを開けた。
「遅くにゴメンね〜。久々知くんいるかな?」
「いますよ。なんだったら入ります?」
「いいの?」
「はい。今、2年生みんな集まっているんで。」
「じゃあ、少しだけお邪魔させてもらおうかな。」
久々知に用があるようで、タカ丸がやってきた。久々知の部屋に行ったのだが、外出して
いるようだったので、他の部屋にいるかもしれないということで、鉢屋と雷蔵の部屋を訪
ねてみたのだ。
「みんなで集まって何してるの?」
「動画観賞会ですよ。」
さらっとそう答える鉢屋にまあ間違ってはいないけどと、他のメンバーは苦笑する。どん
な動画を見ているか気になり、タカ丸はパソコンを覗き込んだ。
「なるほど〜。みんなでこういう動画見ちゃってるわけか。」
「今、兵助がどんなのが好みなのかって話をしてたんですよ。」
「なっ!?」
「それは気になるなあ。どんなのが好きなの?久々知くん。」
ふにゃっとした笑顔でそんなことを聞いてくるタカ丸に、久々知は答えられるかとそっぽ
を向いて顔を赤らめる。
「兵助だけ答えないなんてずるいぞ。」
「そうだそうだ。」
「うぅ〜・・・・」
「あれだな。言わないと豆腐プレイってことになるぞ。」
竹谷、勘右衛門、鉢屋に捲くし立てられ、久々知は言わざるを得ない状況になってしまう。
恥ずかしさで涙目になりながら、蚊の鳴くような声で久々知はボソッと呟いた。
「ち、痴漢・・・ネタとか・・・・結構ドキドキして・・・・」
「ほほー、それはする方とされる方とどっちに感情移入するんだ?」
「・・・・される方。」
『ぶっ・・・』
あまりに素直に答える久々知に、他のメンバーは思わず吹き出す。せっかく恥ずかしいの
を我慢して言ったのに、何故笑われるのだと久々知はもう泣きそうな表情になっていた。
「いいんじゃない?好みは人それぞれだし。教えてくれてありがとー、久々知くん♪」
「そう言われるのはそう言われるので、また微妙です・・・・」
「ちなみにタカ丸さんはどんなのが好きなんですか?」
「んー、ぼくはジャンルっていうより・・・・」
そう言いながら、タカ丸はカチャカチャっとパソコンを弄る。そして、とある動画を映し
た。
「ぼく、この女優さんのが好きかな。」
『・・・・・・。』
女優モノかと思う前にそこにいた全員があることを思った。
(兵助にそっくりじゃん!!)
「ちなみに、タカ丸さんはどうしてこの女優さんが好きなんですか?」
「顔が好みだし、雰囲気も好きかなあ。」
それを聞いて、久々知はムスっとしたような表情になる。今パソコンに映し出されている
女優にヤキモチを焼いているのだ。そんな久々知の様子に気づき、鉢屋はニヤニヤと笑い
ながら、その理由を尋ねてみる。
「兵助が機嫌が悪くなってるみたいだけど、私にはその理由がさっぱり分からないな。何、
そんなにふてくされてんだよ?」
「そりゃ、タカ丸さんが兵助以外の人を好きって言ってるからだろ?」
「ぼくとしては、兵助、本当愛されてるなあと思ったけど。」
「えっ?」
鉢屋、竹谷、雷蔵の言葉を聞いて、久々知は意味が分からないと首を傾げる。そんな2年
生メンバーの会話を聞いて、タカ丸は困ったように笑う。
「たぶん、兵助以外はタカ丸さんがこの女優さんを好きな本当の理由分かってると思うよ。」
「本当の理由?」
「マジで分かってないのかよ?」
「えー??」
本気で分からないというような表情で、久々知はハテナを浮かべる。そんな久々知を見て、
他の2年生メンバーは顔を見合わせて、ふぅっと小さな溜め息を漏らした。
「満場一致でさ、この女優さんを見た感想、兵助にそっくりだと思うぞ。」
「本当似てるよね。顔の感じとか、雰囲気とか。」
「えっ、あっ・・・じゃあ、タカ丸さんがこの女優さん好きな理由って・・・・」
「兵助に似てるからだろ、そりゃ。」
「あはは、バレちゃった。」
恥ずかしそうに笑うタカ丸に、ボンっと火がついたように真っ赤になる久々知。こういう
動画を見ながらここまでイチャつけるとはさすがだと、鉢屋や竹谷は感心する。
「は、恥ずかしいからその動画もう消せよ・・・」
「いいですか?タカ丸さん。」
「うん、構わないよ〜。」
タカ丸お気に入りの動画を消すと、そこにいるメンバーはふぅっと一息つく。そして、思
い出したかのようにタカ丸が声をあげる。
「あ、そうだ!ぼく、久々知くんに借りてたCD返そうと思って探してたんだよね。今か
ら久々知くんの部屋行っていいかな?」
「えっ?ああ、別に構わないですけど。」
「じゃあ、ぼく達はこれで失礼します。」
さっきから恥ずかしい思いばかりしているので、久々知はもうこの部屋から出たくて仕方
がなかった。そんな久々知の気持ちを汲み取ってか、ただ久々知と二人っきりになりたか
ったのかは分からないが、タカ丸は他の2年生メンバーに軽く挨拶をして、久々知を連れ
て部屋を出て行く。タカ丸と久々知が出て行ってしまうと、勘右衛門がふと口を開く。
「そういえば、雷蔵がどんなのが好きなのかまだ聞いてなかったな。」
「そういやそうだな。どうなんだよ?雷蔵。」
先程の好みの話の続きで、勘右衛門と竹谷は雷蔵にそう尋ねる。すると、普段は迷いに迷
う雷蔵が、パッと答えを口にした。
「ぼくは特にこれが好きってのはないかな。逆にこれは苦手だとか見れないなあとか思う
ものもないけどね。」
「えっ、じゃあ、三郎が好きなジャンルとか、八左ヱ門が好きなあの虫とかが出て来るの
とかも全然平気なわけ!?」
「うん、まあ、わりと。」
それはすごいなあと、勘右衛門は思わず感心してしまう。竹谷は鉢屋が好きなものはあま
り得意ではなく、鉢屋は虫が出て来るのは苦手だと言っていた。そして、自分はどちらも
苦手だと考えると、ある意味一番最強なのは雷蔵なのではないかと思ってしまう。
「確かにどんなの見てても雷蔵だけは平気な顔してたもんな。」
「さすが雷蔵だ。どんなのも平気って奴はなかなかいないからな。」
「そんなすごいことじゃないよ。」
そう言いながら雷蔵は苦笑する。とりあえず、全員の好みやそういうことに関する話が聞
けたと、鉢屋も雷蔵も竹谷も勘右衛門も満足する。
「さーて、俺もそろそろ自分の部屋に戻るかな。」
「俺もそうする。今日は初めて見るものが多くて、ドキドキしつつも何か疲れちまった。」
「もう結構遅い時間だしね。」
「そうだな。」
「んじゃ、またな。雷蔵、三郎。」
「また、暇があったら遊びに来るわ。」
勘右衛門と竹谷が部屋から出るのを見送りつつ、鉢屋と雷蔵はひらひらと手を振る。二人
きりになり、静かになった部屋で鉢屋も雷蔵も寝る準備を始める。
「ふあ〜、みんながいなくなったら静かになって眠くなってきちゃった。」
「もう寝るのか?」
「うーん、どうしようかな。」
「というか、今日は雷蔵と一緒に寝たいんだが。」
「しょうがないなあ。今日は特別に許してやろう。」
ニッと笑いながら、雷蔵はそんなことを言う。雷蔵は本当に可愛いなあと思いつつ、鉢屋
は雷蔵のベッドにもぐりこんだ。
「パソコン消しちゃうよ。」
「ああ。」
「みんなであーいうの見るのも楽しいけど、やっぱりぼくは三郎と二人でいろんなの見る
方が好きだな。」
何の気なしにそう言う雷蔵の言葉を聞いて、鉢屋の胸はひどく高鳴る。これから一緒に寝
るというのに、どうしてくれようと鉢屋は悶々としてしまう。
「よし、じゃあ寝ようかな。」
パソコンをシャットダウンし、部屋の電気を消すと、雷蔵は鉢屋のいるベッドに入る。
「もうおやすみしていい?」
「ダメ。こんだけ煽っといてそれはないだろ。」
「あはは、やっぱそうだよね〜。」
鉢屋の気持ちを汲んで、雷蔵はくすくす笑う。明日もまだ冬休み。もう少し夜更かしして
も大丈夫だろうと、二人はしばらくベッドの中でじゃれ合うのであった。
END.