跡部と宍戸が思いを確認しあって、早一週間。だいぶ人間としての生活に慣れてきた宍戸
は今日も跡部と一緒に街へと遊びに来ている。毎日が楽しい。こんなにも充実した日は今
までにどのくらいあっただろうか。宍戸は跡部からもらった赤いゴムで髪を束ね、金色の
鈴のついたリボンをし、いつも跡部がそばにいてくれることを確認する。跡部も跡部で、
宍戸からもらった四つ葉のクローバーのペンダントを肌身離さず身につけている。お互い
のことをいつも思い合う中、二人は今までにない幸せな毎日を過ごしていた。だが、それ
がずっと続くと思っていた矢先、あってはならない出来事が起きてしまった・・・・・。
「亮、俺、ちょっとこの店で今日の夕飯に使う材料買わなきゃいけねーんだけど、すぐ終
わるからこのあたりで自分の好きなもん見てろよ。」
「おう。分かった。じゃあ、この辺で適当にぶらぶらしてるな。」
「あんまり遠くには行くんじゃねーぞ。」
「分かってるって。景吾も早く終わらせろよな。」
いつものように買い物に来た跡部は宍戸を外に残して食料品を豊富に置いている店へと入
っていった。人間にだいぶ慣れてきた宍戸は少しの間なら、一人でいても問題ないくらい
になった。食料品よりもおもしろいものがこの市場にはたくさんある。最近はそれを見る
のが宍戸の楽しみの一つになっていたのだ。そのことを知っている跡部は、こういうふう
な買い物をする時だけ宍戸を外に残して必要なものを買うということを最近になってし始
めた。ここ数日間で何回かこのようなことをしたが、特に何の問題もなかったので、跡部
は今日も安心して一人で店に入ったのだ。
おっ、この花、屋敷の庭に確かあったよな。この花もすげぇキレイ。こっちのは匂いがい
いな。あっ、これもなかなか・・・・
今日はどうやら花屋を見ているらしい。たくさんの花に触れたり、匂いをかいだりと少し
の時間を存分に楽しもうといろいろなことをする。
これとか花束にしたらきっとキレイだろうなあ。あっ、これ景吾にピッタリだ。
ニコニコしながら、気に入った花などを手に取ったりする。入り口近くでそんなことをし
ていると何人かの少年達が宍戸の横を通り、中に入って行こうとしていた。その少年達の
顔を見た瞬間、宍戸は持っていた花を落とす。そして、その少年達から顔を背け、カタカ
タと震え出した。
な・・・何でこいつらがここにいるんだよ・・・。
どうやらその少年達は数週間前、宍戸を瀕死の状態にさせた者らしい。跡部と出かけたあ
の時以来、どんなに街へ出ても会うことがなかったので安心していたのだが、今ここで会
ってしまった。それも今は跡部がいない。宍戸に耐えがたい程の恐怖心が訪れた。
嫌だ、怖い・・・怖い・・・景吾!!早く帰って来てっ!!
宍戸はその場にうずくまる。その時、宍戸自身はまだ気づいていないが、宍戸の体に恐る
べき変化が現れている。その少年達は店から出てくると、すぐそばでうずくまっている宍
戸に気がついてしまった。
「何だ?こいつ。」
ギクっ!!
「なあ、これってコスプレかなんか。」
少年の中の一人が宍戸の黒髪の間から生えている猫の耳を思いきり引っ張った。そう、宍
戸の体は少しずつ黒猫の姿に戻り始めているのだ。
「痛っ!!」
「もしかして、これ本物?・・・こいつ、化け物だ!!」
一人の少年がそう叫ぶ。宍戸はガラスに映った自分の姿を恐る恐る見た。今まで完璧な人
間だったはずの体に髪の毛と同じくらい黒い猫の耳と尻尾が生えている。手に目を落とす
と爪がありえないほど鋭くなっていた。
「っ!!」
なっ!?何でっ・・・!?耳に尻尾・・・。どうしよう、このままじゃ・・・。
次の瞬間、宍戸の一番恐れたことが起こってしまう。
「化け物だ!!化け物がいるぞ!!」
「黒猫の化け物だ!!」
「悪魔の使者だ。こいつがいると不幸になるぞ。」
「殺っちまえ!!」
少年達の罵声があたりに響く。そして、前と同じような仕打ちが始まった。
「嫌だっ!!違う・・・誰か助けてっ!!」
宍戸は逃げようとした。助けを呼んだ。だが、逃げられない。周りにいる人々も見て見ぬ
フリだ。この前の記憶が鮮明に蘇る。石を投げられ、蹴られ、殴られ・・・またあの時の
ようになってしまうのかと恐怖でもう動くことさえままならない。その恐怖心からさらに
猫化は進行していく。
「ニャっ・・・っ!!」
しゃべれない!!声が・・・・人の言葉が出てこねぇ!!
もう人間の言葉が話せなくなるまでになっていた。すると少年達の暴力と罵声はさらにひ
どくなる。石を顔に当てられる。押さえつけられ殴られ、蹴られる。だが、もう助けを呼
ぶことは出来ない。このままもう跡部に会えなくなってしまうのかと思った瞬間、視界の
片隅に跡部の姿が見えた。猫の言葉でいい!!宍戸は思いきり叫んだ。だが、すぐに口を
塞がれてしまう。
今、猫の声がしたよな・・・?まさか!?
跡部は猫の鳴き声がした方に向かって走った。何か嫌な予感がした。そして、それは的中
していた。
「亮っ!!」
「・・・・。」
跡部は驚愕の光景を目にする。あの時のようにボロボロで傷だらけな体。顔や腕のいたる
ところから血が出ている。宍戸は決して涙を流さず、唇を噛み、必死でそれを堪えていた。
そんな光景を見た跡部は一瞬で理性を消し去った。それは、跡部の本当の力、すなわち吸
血鬼の本性を表に出してしまうということを意味することとなる。
次の瞬間、空が一気に暗くなった。さっきまでは雲一つない快晴だった空が真っ黒な雲で
覆われる。そして、どこからか黒い軍団がバタバタと羽をはばたかせて跡部のまわりにや
ってきた。
「テメーら、俺様の亮に何しやがる。」
跡部は怒りに満ちた顔で少年達を睨みつけた。さすがの少年達もこの気迫に押され、宍戸
を離し、逃げようと後ずさりをした。宍戸はその瞬間、地面に倒れる。もちろん意識はあ
るのだが、さきほど殴られた傷と中途半端に猫化した体によって立っていることは不可能
に近かった。逃げようとする少年達に跡部は力の限りを尽くして制裁を加え始める。
「絶望への前奏曲を聞け。」
静かな声で跡部は言い放った。その瞬間、直接的には聞こえないがキィィィンという超音
波のような音があたりに響き渡る。跡部の従える200匹ほどの吸血コウモリがいっせい
にそのような音を出しているのだ。
『うわああぁぁぁ―――!!』
少年達は頭を抱え、苦しみ始めた。コウモリの出す超音波が直接脳にダメージを与えてい
るのだ。だが、跡部はこんなものじゃ足りないと次の罰を与える。
「破滅への輪舞曲だ。」
こう言うと数十匹のコウモリが少年達の腕に噛みつき、血を吸い始める。その腕はみるみ
るうちに血の気を失い、紫色になってゆく。
「その腕で亮をあんなにも傷つけた。当然の報いだ。」
超音波で脳をやられ、腕から血を吸われた少年達は苦しみ悶え、その場をのたうちまわっ
ている。跡部の目は怒りに満ち、人間のような光を持っていない。まるで悪魔のようだ。
その容赦のない行動と超絶な力を恐れたまわりの人々は、そこから動けないでいた。だが、
そんな中にも行動力がある者もいるらしい。すぐに家に帰りあるもので跡部に対抗しよう
という考え、それを持ってきた。
ズギュ―ンッ・・・
宍戸の目にはそれがまるでスローモーションの映像のように見えた。大きな銃声が鳴り、
跡部の胸を弾丸が貫通する。真っ赤な血が飛び散り、それとともに銀色の小さな破片がキ
ラキラと舞い散った。幸せの象徴が砕け散る。跡部はその場に崩れた。
「く・・はっ・・・」
「あっ・・・」
宍戸の頭の中を走馬灯のように跡部と出会ってから今日までの出来事が一気に駆け巡る。
自分が何かする度に見せてくれた笑顔、いつも自分を気遣ってくれた優しい声、一緒に眠
った時に感じた匂い、ぬくもりをくれた腕と、これ以上ないほどの安らぎをくれた唇・・
・・今、それが目の前で消えようとしている。だが、自分にはどうすることも出来ない。
今体中にある傷の痛みなど全てが感じなくなってしまうほど、胸の奥が痛んだ。もう今ま
でのような幸せな日々は訪れることはない。一番大事な人を守れないまま、自分は何も出
来ないでいる。全てが絶望に包まれて、宍戸は発狂したかのように泣き叫び始めた。
「う・・あああぁぁぁ――っ!!」
倒れた跡部にすがりつき、誰もが切なさを感じるくらい悲痛な叫びを上げる。もうあの時
には戻れない、自分は何を恨めばいい?そんな考えばかりが頭の中を凌駕し、とめどない
涙が溢れる。涙も声も枯れてしまうくらい宍戸は跡部の傍で泣き続けた。
この騒ぎはあっという間に街中に広がる。薬屋の滝もこの騒ぎを聞きつけ、慌ててその現
場へと向かう。騒然とする中、その中心にいるのは跡部と宍戸。跡部は血を流し倒れてい
て、宍戸は傷だらけの体で泣き叫んでいる。そして、その傍らでは数人の少年達がありえ
ないような状況で苦しみ悶えている。こんな尋常でない光景を目の当たりにし、滝は困惑
したがやらなければいけないことは一つ。まずは跡部と宍戸を助けることだ。
「ちょっと大変だけど、しょうがないか・・・。」
滝は自分の妖術を使い、跡部と宍戸、そして自分以外のここにいる全ての人々を眠らせた。
その後で大変なことになっている二人のもとまで行き、問題を解決させようとする。
「跡部、跡部。」
何度か声をかけると跡部は意識を取り戻す。吸血鬼である跡部は首を飛ばされるか、自分
の血を全て吸われてしまうか、心臓のちょうど中心の部分を貫かれるかしないと完全に死
ぬことはない。どうやら心臓の中心を貫かれるというのはかろうじて避けられていたらし
く、跡部はまだ生きていた。
「大丈夫?」
「大丈夫・・・なわけねぇだろ・・・ある程度力を使っちまったから、傷が治せねーんだ
・・・。」
「ゴメンね。俺も結構力使っちゃってさあ、この後もたぶん使わなきゃいけなくなるから
今は治せない。」
「別にお前になんて・・・頼ろうなんて思わねぇから・・・安心しろ。」
苦しそうに呼吸をしながら、跡部は途切れ途切れに滝と話しをする。宍戸はといえば、い
まだに泣き続けている。跡部が生きているということを認識することが出来ないほど頭の
中が混乱し、ショックを受けているのだ。
本当はしたくねぇんだけど、今回ばかりはしょうがねぇ。すまない亮・・・。
跡部は泣きじゃくる宍戸に手を伸ばし、首に巻かれている赤いリボンを外す。そして、一
言だけ謝ってからその露わになった首筋に噛みついた。
「すまねぇ・・・亮。」
「っ!!・・・うっ・・あ・・・」
宍戸は跡部に噛みつかれると気を失ってしまう。だが、それと同時にさきほどまで現れて
いた猫耳や尻尾が跡形もなく消え去った。宍戸の血を少しだけ飲むと跡部は銃で撃たれた
傷をあっという間に治癒させた。これも吸血鬼ならではの能力であろう。血を飲むと力が
倍増するというのは本当らしい。
「ふぅー、何とか治ったな。」
「さすがだねー。跡部、今宍戸の血どのくらい飲んだの?」
「10mlくらいだぜ。そんなにたくさん飲んだら亮の方が危なくなっちまうじゃねーか。」
「10mlでそんなに元気になれるもんなの?」
「お前、知らないだろ。吸血鬼はな、一番愛する者の血を飲むと例え1mlだろうが一般
人の数百倍の効果が出るんだぜ。」
「へぇ。って、それよりさ、この後どうすんの?特にこいつらとか結構ヤバイ状態だよ。」
滝は跡部が制裁を加えた少年達を指差して、呆れ顔で尋ねる。跡部はむすっとした顔で答
えた。
「そいつらは亮を傷つけたやつらだ。だから、俺様が制裁を加えてやった。そんな奴らど
うでもいい。」
「そうはいかないだろー。一応、他の人はこのことの記憶を消そうと思ってるんだけどさ。
いくらこいつらが宍戸に暴力を加えたって言ったって、ここまでしたら記憶を消したって
結構問題が生じるよ。」
「じゃあ、お前の好きにしろよ。」
跡部はもうそんな奴らはどうでもいいという感じで後処理は滝に任せた。滝はしばらく考
えて、どうするかを決めた。
「こいつら宍戸のこと瀕死にさせた奴らだよね。」
「ああ。」
「じゃあ、やっぱ完璧に治しちゃうのは俺的にも納得いかないなあ。」
「じゃあ、どうすんだよ?」
「利き手の小指をなくす。」
「何か微妙だな、それ。でも、何で小指なんだ?」
「小指って結構重要なんだよー。小指がないと手全体に力がうまくはいらないし、でも、
腕全部が使えなくなっちゃうよりかは全然いいじゃん?手に力が入らなければ石も持てな
いし、暴力ふるうなんてもってのほかだからね。」
まあ、いいんじゃねぇと跡部は滝の提案に賛成する。滝は腕のケガを治癒させた後、小指
をなくしてしまい、その少年達を含めたこの出来事に関わった人全員の記憶を消した。
「あー、やっぱちょっと力使いすぎちゃったかも・・・。ヤバッ・・・」
「あっ、おい!!滝!!」
滝は妖術の使いすぎで倒れてしまった。そこへ、ちょうどよく鳳がやってくる。
「わあ!!滝さんどうしたんですか!!それに何でここいっぱい人が倒れてるんです!?」
「こいつは力の使いすぎだ。周りのは特に気にしなくていい。」
「とにかく滝さんを助けないと・・・。」
鳳は前に滝がやったようにキスをして、力をあげた。この場合はあげたというよりは戻し
たと言った方が正しいのかもしれない。当然のことながら鳳は犬の姿に戻ってしまう。犬
の姿で鳳は滝の顔をペロペロと舐める。
「ん・・・あれ?わあ!!長太郎!?」
犬の姿になっている鳳を見て滝はビックリ。跡部は呆れた表情でそのわけを話す。
「今、ちょうど鳳が来てお前に力戻してた。だからこうなってんだよ。」
「そうなの!?あー、ゴメンね長太郎〜。帰ったらちゃんと戻してあげるから。」
滝は鳳を抱いて慌てて帰ってゆく。跡部も宍戸を抱きかかえて、自分の屋敷へと戻る。こ
こに倒れている人々は今日あったことは何も覚えておらず、いつも通りの生活に戻るので
あろう。
その日の夜。やっと宍戸は目を覚ました。初めてこの家に来た時と同じように跡部のベッ
ドに寝かせられている。意識は戻るが宍戸はなかなか目を開けない。むしろ開けられない
のだ。
景吾の匂いがする・・・。俺、今どこにいるんだろう・・・?目を開けたらやっぱり一人
なのかな?だったら、開けたくねぇ。景吾がいないんだったら・・・・。
宍戸は目を閉じたまま涙を流す。その涙を拭われるのを感じた。感じたことのある優しい
手で。思わず宍戸は目を開けた。
「目、覚めたか?亮。」
そこにはいつも通りの大好きな顔があった。宍戸はこれは夢なのかと思い、頬っぺたをつ
ねる。つねる前に傷口に触ってしまいその痛みからこれは夢でないと分かった。
「景吾・・・・?」
「どうした?」
「景吾・・・本当に景吾なんだよな?」
「何当たり前のこと聞いてんだよ。どうみたって俺は俺だぜ。」
「景吾ぉ・・・・」
宍戸は再び目に涙をいっぱい浮かべ、跡部に抱きつく。そして、声を上げて泣きじゃくっ
た。跡部はそんな宍戸の頭を優しく撫で、落ち着くまでしばらくそのままでいる。
「俺、お前のおかげで助かったんだぜ。」
いまだ嗚咽を漏らしている宍戸に跡部は言った。
「ひっく・・・何・・で・・?」
「お前がくれたペンダントあっただろ?あれに弾が当たったおかげで、心臓に弾が当たら
なかったんだ。まあ、貫通はしてたけどな。俺は吸血鬼だから、そのくらいのことじゃ死
なねぇんだ。」
「・・・・・。」
「それから、その傷を治すためにお前の血、ちょっとだけ飲ませてもらったぜ。だから、
もう完璧に治った。サンキューな。」
自分は何も出来ないと思っていたので、宍戸はこれを聞いてすぐには信じられなかった。
「本当に・・・俺のおかげで治ったのか?」
「ああ。本当だぜ。」
「よかった・・・・。」
宍戸は心から安心したというような溜め息を漏らし、もう一度跡部の胸に顔を埋めた。跡
部はそんな宍戸をそっと抱きしめる。
「亮、ちょっと相談したいことがあるんだけどいいか?」
「何?」
跡部が真剣な眼差しでそう言うので、宍戸は何となくドキッとしてしまう。
「俺、お前とずっと一緒に居てぇ。これからずっとだ。」
「ああ。俺もそう思うぜ。」
「だけど、俺は吸血鬼でお前はただの黒猫。このままだと寿命の差がありすぎる。」
「・・・・そう・・だな。」
「だから、お前も吸血鬼になってくれねぇか?」
「えっ・・・?」
跡部の唐突な頼みに宍戸は驚く。自分が吸血鬼になるなど誰が考えるであろうか。だが、
宍戸は跡部のこの頼みを何の戸惑いもなしに受け入れる。
「どうすればなれるんだ?」
「なってくれるのか!?」
「だって、俺も跡部とずっと一緒に居たい。一緒に居れるんだったら吸血鬼にでも何でも
なってやるよ。」
「サンキュー。」
跡部は精一杯の愛情を込めて宍戸のことをさらに強く抱きしめた。そして、引き出しから
剃刀を出し、自分の手首を軽く切った。
「おい・・・何してんだよ?」
それを見て宍戸は不安になる。いきなり目の前でそんなことをされたら、驚くのは当然で
あろう。
「俺の血を飲むんだ。そうすりゃお前も吸血鬼になれる。」
跡部は宍戸の口の前に血の滲み出てくる手首を差し出した。初めはやはり戸惑う宍戸だが、
跡部と一緒に居られるのならとそこに口をつけ、少しずつそれを飲み始めた。
「ん・・・んっ・・・」
そうされることで痛みが伴うのか、跡部は少し顔をしかめた。ある程度、宍戸が飲めたと
分かると跡部は顔を上げさせ、血で真っ赤になった唇にそっとキスをする。
「これでお前も俺と同じだ。」
満足そうに笑いながら跡部は言った。本当になっているのかが、宍戸にはいまいちよく分
からない。だが、しばらくするとやはり体に変化が現れる。
「ハァ・・・景吾っ・・・何か体が熱い!!」
「大丈夫だ。少し経てばすぐに治る。ちょっとの間我慢しろ。」
「んっ・・・くっ・・・景吾っ・・・」
体に起こる変化が意外と激しくて、宍戸は跡部にしがみついてその苦痛に耐える。確かに
自分の中で何かが変わっているということは、嫌というほど感じられた。跡部言った通り、
少し時間が経つとだんだんとその苦しさはおさまってくる。ほとんどその苦痛がなくなる
と宍戸は自ら跡部の首に腕を回して、笑いながらキスをした。
「これで、俺達ずっと一緒に居られるな。」
「ああ。これからよろしくな亮。」
「おう。」
吸血鬼になったことで、宍戸も不老不死の体を手に入れた。これからは跡部とともにずっ
と同じ時間を過ごしていけるのだ。
「跡部ー、これはここでいいのー?」
「ああ。滝、ケーキは出来たか?」
「うん。バッチリだよ。」
「跡部さん、ローストビーフ焼けましたよ。」
「じゃあ、樺地、いつものように盛り付けだ。」
「ウス。」
今日は宍戸がここに来てちょうど一周年の記念日だ。みんなそろってパーティーの準備を
している。ローストビーフや羊肉、ビーフカッセロールやピザなどそれぞれの好きな食べ
物に加えて、大きなケーキが用意されている。大きなテーブルにそれを並べて、パーティ
ーの準備は完璧だ。
「よーし、じゃあ乾杯しようぜ。」
ジローが全員のグラスにジュースを注いで、楽しそうにこう言った。
「それじゃあ、亮がここに来て一年経つのを記念して乾杯!!」
『乾ー杯!!』
高らかにグラスを掲げて、それぞれジュースを思い思いに飲む。誰もがみんなこのパーテ
ィーを楽しみ、仲間がいることをすごくいいことだと思った。
一年前、あの事件が起こった時、滝はとっさに周りにいた人々の記憶を全て消した。その
おかげで跡部も宍戸も今まで通りに生活することが可能となった。不老不死の吸血鬼、何
千年も生きる力を持っている妖狐や鬼、それから力を得ている犬に妖怪である座敷わらし。
彼らは身を滅ぼすことなくこれからいつまでも一番愛する者と一緒に生きていくことが出
来るのだ。そんなことを表す言葉を跡部がさらっと口にした。それを聞いた他の面々の反
応はまちまちであったが、誰もが納得するような言葉であった。
「跡部、それはくさすぎー。」
「でも、間違ってはないと思いますよ。」
「それもドイツ語かよ。」
「まあ、跡部ならそれくらいは当たり前やな。」
「ちょっと固いような気もするけどねー。」
「ウス。」
「でも、メチャクチャ景吾らしいじゃん。な、景吾♪」
「当然だろ?俺達にピッタリの言葉じゃねーか。」
跡部の放った言葉。それはこんなものであった・・・。
『Wir leben in Ewige Liebe.』
−俺達は永遠の愛の中に生きる−
この言葉の通り、ここに集まったメンバーはいつまでも一番愛する者と幸せに暮らすので
あった。
END.