バレンタイン・デーからちょうど一ヶ月。そう今日はホワイト・デー。一ヶ月前と同じよ
うに宍戸は跡部の部屋にいた。時間はもう10時を回っているが、二人はお楽しみはこれ
からといわんばかりに、眠ろうとは全くしていない。
「なあ、跡部。今日、何の日か分かるか?」
「あーん?監督の誕生日か?」
「うっ。確かにそうだけど・・・じゃなくて、他に何かあるだろ?」
「鳳の誕生日からちょうど一ヶ月が経ったな。」
「それも合ってるけど、そうじゃなくて・・・」
「何が言いたいの?お前。」
「だからー、今日はホワイト・デーだろ!!俺、お前にバレンタインあげたじゃねーか。
何かお返しねーのかよ?」
「何で、俺がお前にお返し用意しなきゃいけねーんだよ。第一、バレンタインの時、俺も
お前にチーズケーキ作ってやったぜ。」
「あっ・・・。」
「何だよ?忘れてたのか?」
一瞬、ヤバッというような顔を見せたので、跡部は溜め息をつきながら言った。
「わ、忘れてないぜ。」
「じゃあ、何で俺にお返しせがむんだよ?それだったら、お前も俺に用意すべきじゃねー
の?」
「うっ。」
図星をつかれて、宍戸は何も言い返せなくなる。確かにバレンタインの時、二人はお互い
にお菓子を作ってあげた。なので、ホワイト・デーと言ってもどちらが必ず用意してなけ
ればならないということはないのだ。
「まあ、お返しなんてどうでもいいけどな。」
「そ、そうだよな。俺達、バレンタイン・デーにお互いにあげたし。」
「お返しはいいからよ、これからしようぜ宍戸。」
「えっ、今日もすんのか?」
「当然だろ?バレンタインの時もしたんだ。今日もするに決まってるだろうが。」
「別に決まってるわけじゃねーと思うけど・・・・」
「文句はなしだ。じゃ、始めるぜ。」
「んんっ・・・ぅん・・・」
文句を言おうとする宍戸の口を跡部はしっかりと塞ぐ。用意の出来ていなかった宍戸は口
をきちんと閉じることが出来なかった。少しだけ開いている唇の間から跡部の舌が滑り込
んでくる。
「んぁ・・・あ・・・んん・・・」
歯の裏や舌の表面をそっと舐められ、背筋に痺れが走る。宍戸は思わず跡部の前髪を掴ん
だ。
チュッ
「んんっ・・・ふぅ・・・ぁん・・・」
軽く舌を吸われ、宍戸はピクンッと体を震わせた。体から力が抜けてゆき、髪を掴んでい
た手も力なくベッドに落ちる。
「綺麗だぜ、宍戸。」
「あ・・ふ・・・・んぅ・・・んん・・ん・・・・」
一瞬唇を離し、跡部は呟く。だが、またすぐに宍戸の唇は塞がれた。あまりの刺激に宍戸
の頬は紅潮し、目は潤んでくる。そんな変化を楽しむように跡部はさらに宍戸の口内を味
わう。自然と溢れてくる甘い蜜をしっかりととらえながら。
「んんぅ・・・あ・・・んっ・・・んんっ・・」
いくらしても足りないのか、跡部はなかなか唇を離そうとしない。熱くて、気持ちよくて
宍戸はこれだけでどうにかなりそうだった。やっと、解放された時には、宍戸はもう鼓動
が速くなり、息もだいぶあがっていた。
「ハァ・・・ハァ・・・」
「キスだけで、そんな息切らしててどうすんだよ?」
「しょうがねーじゃねぇか。お前がなかなか離さないからいけないんだろ!?」
「俺、そんなにキス上手いか?」
「・・・・ムカつくくらい上手い。」
宍戸は悔しいと思うけれど、これだけは間違いないことだったのですぐに認めた。たった
あれだけのことでここまで気持ちよくさせられてしまっては、文句の言いようがない。
「そんなにキスで気持ちよくなれるんだったら、体中にしてやるぜ。」
「えっ・・・」
跡部は宍戸の着ている服のボタンを外し、至るところにキスをし始める。
「やっ・・・ああ・・・あっ・・・」
「やっぱ、お前、感じやすい体してんな。その声、すごい好きだぜ。」
「なっ・・・何言って・・・ふっ・・あ・・・んんっ・・あ・・・」
宍戸の体に次々と鮮やかな花びらが落ちてゆく。跡部はその花びらを確認するように何度
も何度も同じ場所に唇を落とした。
「あっ・・・跡部ぇ・・・」
「上だけやってても、飽きちまうからな。下もやらせてもらうぜ。」
「くっ・・う・・ん・・・!」
ズボンも剥ぎ取ってしまい、跡部は剥き出しになった宍戸の足にさっきと同じく、キスを
する。上半身より敏感であるのか、足にキスをされると宍戸はさっきよりも大きく反応を
示す。
「あっ・・・はぁ・・・んくっ・・あぁん・・・」
「足にされんのそんなにイイのか?」
「そんなこと・・・ねぇけど・・・んっ・・・」
「下着もだいぶキツくなってんじゃん。」
「やだっ・・・跡部・・・やめっ・・・!」
宍戸が止めるのを全く無視して、跡部は下着をずり下ろす。さらけ出されたそれがあまり
にも素直な反応を見せているので、宍戸は恥ずかしくなり、両手で顔を覆った。
「何、顔隠してんだよ。」
「うっ・・・だってぇ・・・」
「別に恥ずかしがることねぇだろ。お前のこれがこうなってんのは、俺がすることが気持
ちイイって感じてるからだろ?」
「そ、そうだけど・・・でも・・・恥ずかしい・・・」
顔を覆っていた手をゆっくり外しながら、宍戸は跡部を見る。跡部は寝ていた宍戸の体を
いったん起こして、直接掌でそれに触れた。
「んっ・・・ああっ・・・!」
「お前のここはホント素直でいいな。俺が触れば、しっかり反応してくれる。」
「あっ・・・や・・・はぁんっ・・・」
「ほら、もうこんなに先が濡れてきてるぜ。」
「跡部・・・そんなに・・・擦るなぁ・・・あっ・・・」
先走りの蜜で濡れた手で擦られ、宍戸は過敏に反応する。熱を持ち、そこから体中へと言
い表せないほどの気持ちよさが走る。
「ああっ・・・くぅっ・・はぁ・・・あっ・・・んん・・・」
「俺に触られて、気持ちイイのか?」
「う・・・んっ・・・うあっ・・!」
「お前、今、すっげぇイイ顔してるぜ。」
「はぁ・・・だって・・・俺・・・くっ・・ん・・・」
「何だよ?」
「跡部に触られて・・・すっげぇ・・・気持ちイイんだもん・・・」
「!!」
ちょっと意外な宍戸の言葉に跡部はドキンとしてしまった。今回はゆっくりしてやろうと
思っていたが、思わず手の動きを速めてしまう。
「あっ・・!・・うくっ・・跡部っ・・・」
「お前がんなこと言うから、早くイカせたくなっちまったじゃねぇか。」
「お、俺の・・・所為かよ・・・・ひゃっ・・あんっ・・・!」
「随分、濡れてきたな。もうそろそろイキそうなんじゃねぇ?」
「うあっ・・・跡部の・・・アホ!」
「何だよ。気持ちよくさせてやってんのにそんな言い方ねぇんじゃねーの?」
「ウルセー・・・っんん・・・あっ・・・もうっ・・・」
宍戸は跡部の腕を掴み、溜まっていた熱を一気に放った。跡部の手は白濁の液体で汚れて、
しまったがそんなのは全く気にしない。
「あっ・・・ハァ・・ハァ・・・」
息を乱す宍戸の瞼にそっとキスをして、跡部は宍戸の放ったもので濡れた手を使い、後ろ
を慣らし始める。
「うっ・・・あん・・・あっ・・・!!」
「おっ、結構すんなり入るな。」
「やあっ・・・あっ・・・跡部っ・・・!」
「もう一本、普通に入りそうだな。」
「くっ・・はぁ・・・」
思ったよりすんなり受け入れられたので、跡部はそのまましばらく慣らして、自分のを入
れようと用意する。
「今日は『抱き地蔵』でいこうと思うんだけどいいか?」
「抱き・・地蔵・・?何だよそれ・・・?」
「まあ、簡単に言っちまうと座ったままの騎乗位だな。」
「別にいいけど・・・キツくねぇよな・・・?」
「ああ。キツくはねぇんじゃねぇの?」
跡部はベッドの頭の部分を背もたれの代わりにし、寄りかかった。膝を立て、手を宍戸の
方に伸ばす。宍戸はかなり乱れた格好のまま、跡部の腹のあたりをまたぎ、自ら入れる準
備を整えた。
「大丈夫そうか?宍戸。」
「ああ。・・・たぶん、大丈夫。」
そう言うと、宍戸はゆっくりと腰を落とす。花弁が押し開かれるようなちょっとした不快
感はあったが、跡部のものが奥まで入ってしまうとそんなことは感じなくなってしまった。
「ああっ!!あっ・・・あぁんっ!!」
「くっ・・・は・・・そんなに一気に入れるんじゃねぇよ。」
「うっ・・・あっ・・・入っちまったもんは・・・しょうがねーだろ!!」
「ったく。この体位だと俺は動けねぇからお前が動けよな。」
「なっ!?・・・あー、もうっ・・・分かったよ・・・!!」
騎乗位にしてしまうと跡部はほとんど動けないので、必然的に宍戸が自ら動かなければい
けなくなる。不器用に腰を動かして、宍戸は自分で一番イイと思うところを探った。
「あっ・・・んくっ・・跡部っ・・・跡部っ・・・!!」
「宍戸・・・!!」
「ふあっ・・・ああっ・・・やっ・・・もうっ・・・」
「はぁ・・・まだ、早いんじゃねぇ?」
「でもぉ・・・あっ・・・お前のが熱くて・・・」
「お前の中だって、相当熱ぃよ。かなり気持ちいいけどな。」
「じゃ・・・跡部・・・前も触って・・・」
宍戸が潤んだ声でそれもしがみつきながら、頼むので跡部はくらっときてしまった。利き
手で宍戸の熱をそっと包み込んで、刺激を与える。
「んんっ・・・あぁん・・・跡部ぇ・・・」
「いいぜ。もっと動けよ。」
「うあっ・・・ああ・・・イイ・・・イイよ・・跡部っ・・・」
宍戸は跡部の胸に体をピッタリとくっつけ、腰を必死で動かし、喘ぎまくる。あまりに激
しく宍戸が動くので、跡部もかなり宍戸の中で感じていた。
「んっ・・・くぅんっ・・・跡部ぇ・・・もぉ・・・イク・・・」
「ああ。もういいぜ。俺もイキそうだしな。」
「ふあっ・・・あぁんっ!!」
「うあっ・・・宍戸っ!!」
ギシギシと鳴っていたベッドの音が一瞬鳴り止み、二人は同時に高みに達した。
あまりにも体が汚れてしまったので、二人は軽くシャワーを浴び、ベッドに戻ってきた。
「今日もよかったな宍戸。」
「ま、まあな。」
疲れたと感じる体とは裏腹に心の中は満足と充実感でいっぱいだった。
「そうだ、宍戸。」
「何だよ?」
「ちょっと、目つぶって手出せ。」
「?」
宍戸が素直に目をつぶって手を出すと、何か冷たい金属のようなものが手に当たった。
「もう目を開けてもいいぜ。」
「わあ・・・」
宍戸が目を開けると、その手にはシルバーのハート形のペンダントが乗っていた。
「ホワイト・デーのお返しだ。」
「サンキュー。でも、ハート型じゃあ、外にはつけていけねぇな。」
「俺の前だけでつけろよ。」
「ああ。・・・跡部、実は俺もホワイト・デー用意してたりするんだな。」
「マジかよ。」
宍戸は枕の下に隠してあったプレゼントを出した。宍戸のプレゼントも跡部と同じくペン
ダント系のものだった。
「なかなかいいデザインじゃねぇか。」
「そうだろ?これなら跡部に似合うと思ったんだ。」
「サンキューな。」
跡部は軽く宍戸にキスをする。その時、ベッドの横に置いてあった棚に手をかけたのだが、
そのはずみにテレビのリモコンが押され、テレビがついてしまった。
『花屋の店先に並んだ いろんな花を見ていた・・・』
ちょうど、その時、音楽番組がやっていてSMAPの『世界に一つだけの花』が流れてい
た。
「あっ、この曲、SMAPの最近流行ってる歌だよな?」
「ああ。」
「俺、この曲好きだなー。歌詞がいいよな。」
「そうだな。俺も好きだぜこの曲。」
跡部も宍戸もこの歌は好きなようだ。確かに個性的なメンバーが多い氷帝学園にはこの曲
はピッタリだろう。
「でもさ、この曲の中で、ナンバー1にならなくてもいいとかそういう感じの歌詞あるけ
ど、やっぱ、人って何かしらでナンバー1になりたがるもんだよな。」
「まあな。まあ、俺はいろんなことでもうナンバー1になってるけど。」
「確かに。俺なんかナンバー1になれるもんないもんなあ。頭も悪いし、テニスじゃお前
に負けまくりだし。」
「いや、お前はもうナンバー1になってるぜ。」
「へっ?何で?」
「俺の中でのナンバー1はお前だぜ。」
「ま、マジで!?」
「ああ。つーかさ、この曲のナンバー1つーのは、世間的にナンバー1になるってことだ
ろ?俺は、人間はみんなナンバー1になれると思うぜ。」
「どういうことだよ?」
跡部はふっと笑って、宍戸の肩に手を回して話した。
「別にみんなのナンバー1にならなくてもいいってことだよ。家族でも友達でも恋人でも
誰か一人の一番になれたら、それだけでいいんじゃねーの?」
「・・・お前、たまにはいいこと言うな。」
「たまにはは余計だ。」
「でも、確かにそうだよな。みんなのナンバー1にならなくても、誰かしらにナンバー1
だって言われたら、それだけでうれしいよなあ。」
「だろ?宍戸、俺のナンバー1はお前しかいねぇからな。覚えておけよ。」
「ああ。」
跡部のナンバー1だということをしっかり確認させられ、宍戸はうれしそうに跡部に甘え
る素振りを見せた。
「あっ、あとな『一人一人違う種を持つ その花を咲かせることだけに 一生懸命になれ
ばいい・・・』って、部分あるだろ。俺、そこの歌詞聞いて・・・・」
「ああ。」
「あっ、やっぱいいや。」
「んだよ、それ。ちゃんと、最後まで言えよ。」
「だって、恥ずかしい。」
「言わないと、知らねぇぞ。」
そう言いながら、跡部は宍戸の上にのしかかった。
「わあっ、分かった!分かった!言うから!!」
「で、何だよ?」
「もし、俺が花を咲かせるんだったら・・・跡部の隣に咲きたいなあって思って。」
「お前、よくそんな恥ずかしいこと言えるな。」
「っ!!お前が言えっていったんじゃねぇか!?あー、だから、言うの嫌だったんだよ。」
宍戸は顔を真っ赤にして、跡部を軽く小突いた。
「冗談だって。俺もそう思うぜ。お前が隣に咲いてくれるんだったら、一人で咲くより何
億倍も綺麗に咲けると思う。」
「本当にそう思うか?」
宍戸は確かめるように跡部に尋ねる。跡部は宍戸の頭をそっと自分の方に引き寄せ、優し
い口調で囁いた。
「当然だろ。お前は俺だけの『世界で一つだけの花』なんだからよ。」
「跡部・・・」
宍戸は恥ずかしいなと思いながらも、うれしくて仕方なかった。腕を跡部の首に回し、頬
にキスをする。
「跡部・・・すげぇ、うれしい。」
小さな声で宍戸は呟く。
「そうか。じゃあ、二人で最高に綺麗な花を咲かせてやろうぜ。」
「ああ。」
お互いに最高の花を咲かせようと約束し、二人はもう一度口づけを交わした。世間ではナ
ンバー1でなくても、誰か一人のナンバー1になれることが人間にとって、きっと一番幸
せなことなのであろう。ナンバー1同士が共にある時、『世界で一つだけの花』がどんな
ものより美しく咲き乱れるのだろう。
END.