花咲くバレンタイン
〜Valentine Day〜(氷帝)

跡部×宍戸

跡部Side

バレンタインデー当日。跡部と宍戸はバレンタインイルミネーションを見に来ていた。街
路樹が赤く彩られ、キラキラと光を溢している。そんなイルミネーションの下で、宍戸は
用意していたチョコレートを跡部に差し出す。
「跡部、これ・・・」
「バレンタインのチョコレートか。ありがとうよ。」
「跡部は毎年ありえねぇ数のチョコもらってるからもらい慣れてるだろうし、俺のチョコ
なんか大したもんじゃねぇけどよ。やっぱ、あげたいと思って。」
やはりチョコをあげる瞬間は緊張してしまって、宍戸はドギマギとしながらそんなことを
言う。どんなにたくさんチョコをもらっていようが、自分が一番好きだと思っている者か
らもらえないと意味がない。そんなことを考えながら、跡部は宍戸からもらったチョコを
眺め、ふっと笑う。
「もらい慣れてる?だったらどうした。おかしなことを気にするヤツだな。」
「そりゃ気にするだろ。跡部はすげぇモテるし、俺から見たってやっぱ・・・カッコイイ
なって思うところたくさんあるし・・・」
恥ずかしそうに目を逸らしながら普段は言わないようなことを口にする。赤く輝くイルミ
ネーションのためか、宍戸の顔はいつもより赤く染まって見えた。そんな宍戸の頬に触れ、
跡部は自分の方に視線を向けさせる。
「今は、お前のことしか見てねーよ。」
「あ、跡部っ・・・」
真っ赤になりながら自分を見ている宍戸が愛おしくてたまらず、跡部は触れるだけのキス
をする。チョコレートのような甘い甘い口づけ。恥ずかしさと嬉しさと緊張と高揚感。様
々な感情が入り混じり、宍戸はもう跡部しか目に入らなくなる。
「余計な心配してる暇があるなら、この瞬間に酔いしれな。ハッピーバレンタイン。」
跡部と一緒にバレンタインのイルミネーションを見に来て、キスをされ、そんなことを言
われる。それがどうしようもなく嬉しくて、宍戸の胸はこの上なくときめく。
(こんな恥ずかしいこと言われてるのに、メチャクチャ嬉しい。本当跡部には敵わねぇぜ。)
こんな気持ちになっていることに多少の悔しさを感じながらも、宍戸は顔を緩ませる。跡
部と共に過ごすバレンタイン。今はこの瞬間を存分に楽しもうと、宍戸は跡部の言葉にと
びきりの笑顔を見せた。

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宍戸Side

バレンタインの放課後。後輩の指導を終えた宍戸を跡部は人気がない場所へ呼び出す。
「急に呼び出したりしてなんだよ。他のヤツがいると話しにくい事か?」
「別に俺としては何ら構わねぇんだが、お前が嫌がりそうだと思ってな。」
跡部は自分のやることなすこと全てにおいて自信を持って行っているので、人がいようが
いまいがあまり気にすることはない。しかし、宍戸はそうではない。こういうことをする
のは、人がいないところの方がよいだろうと思い、跡部はわざわざ人気のない場所へ宍戸
を呼び出したのだ。
「ほら、手を出せ。いいものをやる。」
よく分からないが、宍戸は跡部の言う通り素直に手を出した。差し出した手に渡されたの
は高級感の漂う包装が施された小さな箱であった。そして、宍戸は今日がバレンタインデ
ーであることを思い出す。
「いいものやるって、お前・・・もしかして、これバレンタインのチョコじゃ――」
「ああ、そうだ。お前のために最高級のミントチョコを用意してやったぜ。」
自信満々な顔で笑う跡部に宍戸は言葉を失う。あまりに驚いている宍戸の顔を見て、跡部
はくすっと笑う。
「どんな顔だよ、それ?俺様からバレンタインチョコを貰えたんだぜ?もっと喜べ。」
「いや、まさか貰えるなんて思ってなかったから驚いたっつーか・・・」
思ってもみない跡部からの贈り物に宍戸はまだ戸惑っていた。ドキドキと心臓が高鳴り、
顔が熱くなってくる。何となく赤くなっている宍戸の顔に、跡部はからかうように言葉を
かける。
「アーン?照れてやがるのか?」
「べ、別に照れたりしてるわけじゃねーよ!」
「別にいらねぇなら突っ返してもいいんだぜ?」
そんなことは絶対に言わないと思ってはいるが、跡部はそう煽る。跡部の予想通り、宍戸
はチョコを受け取り、両手でぎゅっとその箱を抱える。
「とにかく、コイツはもらってく。・・・ありがとよ。」
「ふっ、最初から素直にそう言えばいいんだよ。今日はバレンタインだ。俺様の家に来て、
もっと最高のバレンタインを過ごそうぜ。」
跡部の家に行けば、豪華な料理と跡部と二人きりで過ごす時間が約束されている。それは
断れないと、その誘いに頷いた後、宍戸は跡部の家に泊まるという連絡を自宅に入れた。

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岳人×忍足

岳人Side

バレンタインデー当日。忍足は部活帰りの帰り道、用意していたチョコレートを岳人に手
渡した。
「はい、岳人。バレンタインのチョコレートやで。」
「えっ、バレンタイン?マジか・・・」
忍足からバレンタインのチョコを受け取り、岳人はひどく驚いたような反応を見せる。そ
なに驚くことだろうかと忍足は首を傾げる。
「今日がバレンタインっちゅーこと忘れてたん?」
「いや、今日がそうだってわかってたけど、考えないようにしてたっつーか。」
「なんでや?バレンタインは普通浮かれるもんちゃうん?」
「なんでって、場合によっちゃ俺には関係ねー日になったかもしんねーじゃん。」
例え期待していたとしても、チョコレートを一つも貰えなければ、バレンタインは何でも
ない日になってしまう。期待度が大きければ、そうなった場合の落胆は大きくなる。だか
ら、岳人はなるべくバレンタインを意識しないようにしていたのだ。
「なんや岳人、一つもチョコ貰えんと思っとったん?バレンタインやのに。」
「って、そういうのはいいんだよ!あー、つまりその・・・」
貰えないかもしれないと思っていたことが何となく恥ずかしく、岳人は少し大きな声で言
い返す。しかし、忍足からチョコレートを貰えたことはこの上なく嬉しいと思っていた。
「チョコ、スゲー嬉しい。ありがとな!」
「喜んでもらえてよかったで。ちなみにそのチョコは義理でも友チョコでもないで。れっ
きとした本命チョコや。」
忍足から貰ったチョコが本命チョコだと聞いて、岳人の胸はドキンと跳ねる。バレンタイ
ンデーに大好きな相手から本命チョコを貰えた。それはもう最高のバレンタインではない
かと、高く高く飛び跳ねたくなるほど岳人の心は嬉しさでいっぱいになっていた。

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忍足Side

バレンタイン当日になり、忍足は真剣な表情の岳人に話があると言って呼び出された。あ
まりに緊張感のある岳人の態度に、忍足は自分が何かやらかして岳人を怒らせたのではな
いかとビクビクしていた。呼び出された場所に行くと、ピョンと岳人が目の前まで近づい
てきて、押しつけられるように何かを渡される。
「侑士、コレやるよ。」
岳人から渡されたものに目をやると、手作り感溢れるチョコレートに可愛らしいラッピン
グが施され、自分の手の内に収まっていた。
「チョコレートやないか・・・。話がある言うから、何事かと思ったわ。」
「今日はバレンタインだからな。お菓子の作り方の本読んで、頑張って作ってみたんだけ
どよ、いざ渡すってなったら結構緊張しちまって。」
困ったように笑いながら岳人はそんなことを言う。いつも一緒にいる忍足にチョコを渡す
など別に緊張することではないのだが、気合を入れて手作りしたこともあり、無駄に緊張
してしまっていた。
「緊張しとった?ああ、それで・・・俺が何かやらかしたわけちゃうならええけど。」
真剣な表情での話があるはそういうことだったのかと忍足は一先ず安心する。岳人から手
作りチョコを貰えたのは素直に嬉しいと手の中にあるチョコを眺めていると、岳人がまた
緊張した面持ちで見上げてくる。
「な、なあ、侑士。それ、本命チョコなんだけど・・・つーか、俺的には侑士とは好き同
士だと思ってるんだけど・・・その、キス・・・してもいいか?」
誰もいない場所に呼び出されているので別に構わないと忍足は考える。少し間をおいた後、
忍足はそんな岳人の言葉に頷いた。
「そ、そっか。えっと・・・じゃあ。」
背伸びをして、忍足にキスをしようとするが、その表情はかなり緊張しており、頬に触れ
る手は若干震えている。
「ていうか、待ってや。そないされると、緊張がうつるやん・・・」
岳人が緊張しているのを見て、忍足も緊張してきてしまう。どちらもドキドキと胸を高鳴
らせながら瞳を閉じ、唇を重ねる。唇を離すと、岳人はニッと笑って忍足の顔を見上げた。
「・・・こっち見んといて。チョコレート、おおきに。」
してみたものの思ったより恥ずかしく、忍足は照れながらそんなことを言う。しかし、本
命チョコを岳人から貰えたことは素直に嬉しかったので、岳人にお礼を言う。
「どういたしまして。へへ、侑士に喜んでもらえたし、侑士とキス出来たし、メッチャ俺
らバレンタインしてるじゃん!」
さっきまでの緊張顔を笑顔に変え、岳人は嬉しそうにそんなことを口にした。

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ジロー×樺地

ジローSide

バレンタイン当日、今日もいつものようにジローは昼寝をしていた。夕方になり、そんな
ジローを起こしに来たと同時に樺地は今日のために準備していたものを渡そうとしていた。
「ジローさん、チョコ、いりますか・・・?」
「えっ、チョコ?食べる食べる!」
「どうぞ・・・」
お菓子が大好きなジローは、樺地の質問に笑顔で答える。樺地が渡してくれたチョコレー
トはふわふわの包装紙で包まれ、オレンジ色のリボンがついていた。そんないかにもバレ
ンタインらしいチョコレートを受け取り、ジローはそれが自分へのバレンタインチョコで
あることに気づく。
「って、バレンタインのチョコじゃんっ。やったー!ウレC―!!ありがとー!!」
「喜んでもらえてよかったです・・・」
ジローが嬉しそうにしているのを見て、樺地は笑みを浮かべる。普通のチョコを食べる感
覚で樺地の質問に答えてしまったことをジローは謝る。
「起きたばっかで、バレンタインことすっぽ抜けてた。ゴミンね。」
「いえ、ジローさんが喜んでくれるなら、それだけで十分です・・・」
こんなふうに自分を起こしに来てくれるし、バレンタインのチョコレートもくれる。そん
な樺地が大好きだなーと思いながら、ジローはこの貰ったチョコを樺地と一緒に食べたい
と考える。
「じゃあせっかくだし、一緒に食べなきゃっしょ。きっと美味しさ倍増だCー。」
「ウス。」
いつもより少し明るい声で樺地はジローの言葉に返事をする。ジローのことを考えて作っ
た甘く可愛らしいチョコレート。二人で食べるそのチョコは、口の中で甘くとろけ、二人
の心を幸せな気持ちでいっぱいにした。

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樺地Side

学校からの帰り道、ジローは思い出したかのように、鞄をゴソゴソあさり何かを出す。赤
いリボンのついたそれをジローは樺地に差し出した。
「はい、樺ちゃん。バレンタインのチョコレート。」
「バレンタインのチョコレート・・・」
まさかジローからバレンタインのチョコレートが貰えるとは思っていなかったので、樺地
は驚いたような反応を見せる。
「バレンタインって、好きな人にチョコあげる日じゃん?だから、俺は樺ちゃんにあげよ
ーって思ってさ。樺ちゃんがおすすめしてくれたお店のチョコブラウニー買ったんだー。」
ジローから貰ったチョコレートを見た後、ジローに視線を戻す。
「あの、今食べた方がいいでしょうか・・・?」
「えっ?何で?」
「もしかしたら、すぐに感想を聞きたいかもしれないと思ったので・・・」
そんな樺地の言葉にジローはうーんと考える。樺地がすすめてくれたブラウニーなので、
味は自分より樺地の方がよく知っているはずだ。ジローが考え込んでいるのを見て、樺地
は戸惑っているような表情で言葉を続ける。
「おかしなことを言っていたら、すいません。少し、緊張しています・・・」
「あはは、そうなんだ。今すぐには食べなくて大丈夫だC〜。あっ、もしよかったら、俺
も一緒に食べたいなあ。後でどこかに座って一緒に食べよう!」
「・・・では、あとでゆっくりいただきます。どうもありがとうございます。」
少し前に約束した通り、ジローは樺地と一緒にそのブラウニーを食べたいと、そんなこと
を言う。貰ったブブラウニーが美味しいことは分かっているが、ジローと食べるとまた格
別に美味しくなるだろうと思いながら、樺地はそれを食べるのを心から楽しみにしていた。

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