越知×毛利
越知Side
バレンタイン当日、毛利はいつものように越知の側に行き、楽しげな笑顔を浮かべ、青い
包装紙で包まれたチョコレートを越知に差し出す。
「月光さん、バレンタインのチョコです!」
「バレンタインのチョコレートか。話題にしている者達がいたが、さして興味は・・・い
や、なんでもない。今の言葉は浅慮だったな。」
『さして興味はない』と言いかけて、越知は言葉を止める。自分のために毛利がチョコレ
ートを用意してくれているのだ。さすがに興味はないは失礼だろうと考えた。
「改めてですまないが、チョコレートをもらっても構わないだろうか。」
「もちろんです!はい、どうぞ。」
越知の言葉を気にする様子もなく、毛利はチョコレートを越知に渡す。毛利がどんなチョ
コレートを贈ってくれたのか気になり、越知はその場で丁寧に包みを開けて中を見る。そ
こには『そばの実チョコレート』の文字があった。
「これは・・・そばの実のチョコレート?お前は面白いものを見つけてくるのだな。」
「えへへ、月光さん、そば好きやないですか。月光さんにあげるチョコレートどんなのに
しようかなーって調べとったときに見つけて、買うてみました。って、面白いもの見つけ
てくるってそれ、褒めとります?」
よくよく聞いてみると実は褒められてはいないのではないかと、毛利はそう聞き返してみ
る。越知としては、褒めるニュアンスを含めてそう口にしたので、その言葉に頷いた。
「・・・無論、褒めている。この礼は来月に必ずしよう。当日会いに行くから待っていて
くれ。」
「ホンマですか?月光さんからのお返し、メッチャ楽しみですわ。」
ニッコリと笑いながら、毛利はそう返す。部屋に戻ったら早速毛利から貰ったチョコレー
トを食べようと、越知はそのチョコを見て微笑んだ。
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毛利Side
バレンタイン当日、東屋の椅子に腰かけながら、越知は毛利にバレンタインのチョコを渡
す。越知からチョコレートを貰えたことが嬉しくて、毛利はその場で貰ったチョコを開け
た。
「うっはぁー・・・美味そうなチョコレートですね。本当に俺がもろてええですか?」
箱の中には猫の顔の形をしたチョコレートがいくつも並んでいた。美味しそうだと思うと
同時に何て可愛らしいチョコなんだと、きゅんきゅんしてしまう。これを越知が選んだと
いうのだから尚更だ。
「こちらの趣味で選んでしまってすまない。ただ、お前がそれを食べているのがどうして
も見たくてな。喜んでもらいたいという気持ちは十分に込めたつもりだ。」
「・・・ありがとうございます!こない気持ちのこもった贈り物をもらえるなんてホンマ
嬉しいわ。」
越知からバレンタインのチョコが貰えたというのがこの上なく嬉しく、毛利はその顔に満
面の笑みを浮かべる。もう一度越知から貰ったチョコに目を落とすと、来月のことがふと
頭をよぎる。
「お返し、何がええやろ・・・」
「どうした?」
「ああ、こっちの話。気にせんでええですよ。」
このチョコと同じように猫の何かをあげたら喜んでくれるかもしれないと考えながら、毛
利は越知にニッコリと笑いかける。
「喜んでもらえるようなお返しを考えるんで、楽しみに待っとってください。」
「ああ。楽しみにしておこう。」
毛利の笑顔に心惹かれながら、越知は毛利の頭を優しく撫でる。毛利の手にしている猫の
チョコと同じくらい毛利のことを越知は可愛く愛おしいと思い、自然と笑みがその口元に
こぼれていた。
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大曲×種ヶ島
大曲Side
バレンタイン当日、種ヶ島はあまり人が来ない場所へ大曲を呼び出した。大曲が歩いて来
るのに気づき、種ヶ島は大きく手を振る。
「竜次、ちゃんと来てくれたんやな☆」
「呼ばれたから来たけどよ・・・今日が何の日だか分かってるんだよな。」
「当たり前やん。今日はバレンタインデーやで。何や竜次、バレンタイン的な何か期待し
とるん?」
楽しそうに笑いながら、種ヶ島はそんなことを聞く。そんな種ヶ島の質問に、大曲は笑っ
て答えた。
「バレンタインに呼び出されたら誰だって期待するに決まってるし。」
「はは、竜次でもバレンタイン楽しみにしたりするんやな。そんな竜次にええもん用意し
て来たで。」
そう言いながら、種ヶ島は大曲の手をちょんちょんと叩く。
「ん?手を出せって・・・」
種ヶ島に促され、大曲は種ヶ島に向けて手を差し出す。差し出された手に種ヶ島は用意し
たバレンタインのプレゼントを一つ乗せる。
「はい、竜次。バレンタインデーのプレゼントやで☆」
白い紙に包まれた魚の形のそれを見て、大曲は嬉しそうに笑う。
「こりゃ、たいやきか。チョコより俺の好物ってわけかよ。」
「竜次はたいやき大好きやん?チョコよりそっちのが喜ぶかなーと思て。まだまだたくさ
んあるから、それ食べ終わったら言ってや。」
「フッ・・・こういう変わり種も大歓迎だし。ありがたく頂くぜ。」
種ヶ島からのバレンタインのプレゼントを大曲は喜んで受け取る。変わり種ついでにと、
種ヶ島は大曲の唇にちゅっとキスをする。
「これも変わり種のプレゼントや。バレンタインデー・キッスってな☆」
突然のキスに驚く大曲であったが、すぐに顔を緩ませ、いつもの言葉を言い放つ。嬉しさ
のにじむその言葉を聞いて、種ヶ島は楽しそうに笑った。
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種ヶ島Side
バレンタイン当日、同じ部屋にいる種ヶ島に大曲はさらっとチョコを渡す。
「ほらよ。バレンタインのチョコ、欲しかったんだろ?」
そう言いながら、大曲が渡したチョコレートは、さらっと渡して来たわりには見て分かる
ほどに高級そうなものであった。
「このチョコ、めっちゃ気合い入っとるやん。」
「まあ、せっかく贈るなら良いもの贈りてぇと思ってな。」
さすが大曲だなあと思いながら、種ヶ島は貰ったチョコレートに目を落とす。まるで本命
チョコのようなその見た目に、種ヶ島は嬉しくなる。
「こない気持ちのこもった贈り物をもらえるなんてバレンタイン様様やなあ。」
「そうかよ。」
「・・・なんて感謝する相手を間違えたらアカンか。」
感謝する相手はバレンタインではなく大曲だと、種ヶ島は目の前にいる大曲に視線を向け
る。
「ホンマ、おーきに。大事に食べさせてもらうで。」
「ああ。来月のお返し、期待してるぜ。別にものじゃなくたって構わねぇしな。」
意味ありげに笑いながらそんなことを言う大曲に、種ヶ島は少し驚いたような顔を見せた
後、楽しげな表情になり頷く。今の感謝と来月の期待感を煽るように、種ヶ島は大曲の頬
に軽くキスをした。首に腕を回しながら、無邪気に笑っている種ヶ島を見て、大曲も楽し
くなってくる。
「今日はバレンタインだし、少しくらいお前の言うこと聞いてやってもいいし。」
そんな大曲の言葉に種ヶ島はパッと花が咲いたように明るくなる。どんなお願いをしよう
かなと種ヶ島は嬉しそうに胸を躍らせていた。
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君島×遠野
君島Side
バレンタイン当日、遠野は君島を見つけ、いつも通り声をかける。
「君島ぁ!いいもん持ってきてやったぜ!」
いつものテンションに少し呆れながらも、君島は遠野の声のする方に振り返る。遠野の手
には真っ赤なハートにそのハートよりもさらに赤いリボンのついた箱が握られていた。
「ほら、お前の欲しがってたチョコレートだぜ。」
「おや・・・?これはバレンタインのチョコレートですか。」
遠野のことなので、処刑に関する何かを贈ってくるかと思っていたが、予想よりは普通の
見た目のチョコレートに君島はホッとする。しかし、その箱の中身がそうではないかもし
れないと、君島は遠野の目の前で貰った箱を開けた。そこにはたくさんのピンク色にも近
い赤いハート型のチョコレートがぎっしりと詰まっていた。
「フッフッフ、心臓の形をしたルビーチョコレートだ。どうだ?嬉しいだろう?」
遠野としては、心臓に近いイメージで贈ってきているのだろうが、ハート型の箱にたくさ
んのハート型のチョコレート。まるで愛がいっぱいつまったチョコレートを贈られている
ようなその見た目に、君島は図らずもきゅんとしてしまう。
「どうもありがとう。キミの心づかいが何よりの力になります。あとでゆっくり頂きます
ね。」
「せっかく俺がお前のために用意してやったんだ。俺のことを考えながら食べな!」
わざとなのか天然なのか分からないが、そんなこと言ってくる遠野を思わず可愛いと思っ
てしまう。冷静な雰囲気を崩さないようにしながら、いつも通りの口調で、真心と表現し
た下心のニュアンスを込めて、君島は遠野の言葉に答える。
「私のために素敵な贈り物を用意してくれたキミに・・・来月は最大限の真心を込めてお
返しする事を約束しましょう。楽しみにしていてくださいね。」
「それならお前も俺に心臓を寄こしな!楽しみに待ってるぜ。」
今回渡されたのはハート型のチョコなのだがと呆れつつも、逆に言えば、遠野もそれを欲
しがっているのかと君島は頷く。放つ言葉はさておき、ハートがたくさん欲しいとは、な
かなか可愛らしいところもあると、君島はくすっと笑った。
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遠野Side
バレンタイン当日、君島は遠野の部屋を訪ね、用意したバレンタインのチョコを渡そうと
する。君島の顔を見るやいなや、楽しそうに遠野らしい言葉をかけてくる。
「お前、処刑されたそうな面構えをしてるな。いい顔だ。」
「処刑されたそうな顔ってどんな顔ですか、まったく・・・ああ、今日はバレンタインデ
ーなので、キミに贈り物を持ってきたんですよ。」
「・・・俺に捧げたいものがある?心臓かぁ?クーックック・・・生贄になりたいわけか。」
表現がいちいち大袈裟で意味が分からないと思いながら、君島は用意してきたものを手に
する。
「どうぞ、遠野くん。」
「いいぜ。よこしな。お望み通り、俺が血祭りにあげて―――」
「バレンタインのチョコレートです。」
「って、チョコレートだぁ??おい、なんだこれは。」
心臓ではなくバレンタインのチョコレートと聞いて、遠野は怒ったような顔になる。バレ
ンタインなのだから当然だろうと、君島は呆れたような笑みを浮かべる。
「バレンタインにチョコを受け取ったんですから、来月にはちゃんとお礼をしてください
ね。」
「はぁ?礼が欲しいだと・・・?まさかお前・・・俺の心臓を狙ってやがるのか?」
「ちゃんとこの贈り物の中身を見てから言ってください。それ相応のお礼を期待していま
すよ。」
君島にそう言われ、遠野はしぶしぶ渡された箱のふたを開ける。その中身を見て、遠野は
絶句する。箱の中にはリアルな心臓にそっくりなチョコレートが入っていた。普通の感覚
であれば、グロすぎて食べられないようなそのチョコも遠野にとってはこの上なくツボな
見た目であった。明らかに嬉しそうな表情に変わった遠野の顔を見て、君島は一流のパテ
ィシエに無理を言って作ってもらった甲斐があったなとふっと笑った。