跡部×宍戸
跡部Side
ホワイトデー当日、跡部は宍戸を呼び出した。ホワイトデーということもあり、宍戸は少
々ドキドキしながら、跡部との待ち合わせ場所にやって来た。
「用ってなんだよ?」
「手ぇ出しな。バレンタインの礼だ。」
跡部に言われるままに手を出すと、差し出した手に高価そうなラッピングがされた箱を渡
される。
「おう。ありがとよ。」
「・・・フン。お前こそ、もらい慣れているように見えるぜ?」
先月のバレンタインデーに宍戸に言われたことを返すように跡部はそんなことを言う。そ
んな跡部の言葉を聞いて、宍戸は分かりやすく慌てたような素振りを見せる。
「なっ・・・べ、別にそんなことねーし!俺は跡部ほどはモテねぇし、もらい慣れてるな
んてそんなこと・・・・」
何故か全力で否定しようとしてくる宍戸を見て、跡部は笑う。モテると思われることは別
に悪いことではないだろうと、跡部はそんな宍戸を可愛らしいと思う。
「バーカ、冗談だ。慌ててんじゃねーよ。」
「冗談かよ。ったく・・・」
「だが、慌てるってことは身に覚えがあるってことだな。」
「っ!!だ、だからっ、そんなことねぇって言ってんだろ!」
いちいち恥ずかしがって激しい口調で言い返す宍戸が実に宍戸らしいと、跡部は宍戸への
想いを募らせる。からかうのはここまでにして、伝えたかったことをきちんと伝えようと、
跡部はその言葉を口にする。
「フッ・・・。いや、からかって悪かった。チョコレート、美味かったぜ。」
「本当か?でも、俺があげたチョコなんてそんな高価なものでもねぇし、手作りってわけ
でもねぇし・・・」
「お前がくれたってことだけで、それは唯一無二の価値を持つんだぜ?どんな高価なチョ
コだろうが、一流シェフの手作りだろうが、その価値には敵わねぇよ。」
自分のあげたチョコがそんなにかと宍戸は恥ずかしくて顔を赤く染める。
「大袈裟すぎるだろ・・・」
「アーン?俺様が一番好きだと思ってる奴から貰ったチョコレートだぜ?大きな価値があ
って当然だろうが。」
跡部が主語になるとそう思えてきてしまうから不思議だ。それでもやはり恥ずかしいと思
いながら、宍戸は跡部から貰ったお返しをぎゅっと抱えうつむく。そして、ぼそっと跡部
に聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。
「ま、まあ、そんなに喜んでもらえたなら、あげた甲斐があったぜ。」
うつむいている宍戸の顎を指で上げ、自分の方を向かせる。驚いたような瞳で見つめてく
る宍戸の表情がたまらず、跡部はふっと口元を上げ、その唇にキスをした。
「っ!!」
「そのお返し、お前の好きそうなものを選んでやったつもりだぜ。俺様のことを考えなが
ら、じっくりと味わいな。」
「お前っ・・・また、そういう・・・・」
跡部らしい言い回しのセリフに宍戸の胸はひどく高鳴る。バレンタインのときと同じよう
に、恥ずかしさと嬉しさでときめく心。やはり跡部には敵わないと思いつつ、宍戸は楽し
そうに笑っている跡部の顔に釘付けになっていた。
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宍戸Side
ホワイトデーの日。宍戸は先月のお返しをするために跡部を探していた。一人で歩いてい
る跡部の姿を見つけると、たたっと駆け寄る。
「お、いたいた。」
宍戸の声が耳に入り、跡部はそちらの方を振り返る。
「宍戸か。何か用か?」
今日がホワイトデーということは分かっているが、跡部はわざとそんなふうな言葉を返す。
「何って、先月のチョコのお返しだ。もらう時はうろたえちまったが・・・」
確かに先月チョコレートを渡したときは、宍戸はかなり戸惑っており、驚いたような表情
を見せていた。そのことを思い出し、跡部はくくっと笑う。
「やっぱり照れてたんじゃねーか。だから、うろたえてたんだろ?」
「は?やっぱり照れてたんだって・・・」
「あの驚いたツラも、文句言いながらもチョコ受け取る姿も、可愛かったぜ?」
「バカ言ってんじゃねーよ。変な事言ってないで早く受け取れって。」
用意したホワイトデーのお返しを押しつけるように宍戸は跡部に渡す。宍戸からのお返し
を受け取り、跡部は嬉しそうに笑った。しかし、跡部にからかわれ、スムーズに渡すこと
が出来なかった宍戸は不満顔だ。
「ったく、もっと上手く渡すはずだったってのに・・・。激ダサだぜ。」
「別にそんなことないと思うぜ。」
「はあ?もとはと言えば、お前が・・・」
「上手く渡すってどんな感じだ?今さっきの渡し方はお前らしくて、俺は結構好きだぜ。」
自分では全く納得いっていない渡し方を好きだと言われ、宍戸は戸惑う。
「お前、やっぱムカツク・・・」
「でも、好きなんだろう?」
「ウルセー!ムカツクっつってんのに、何なんだよその返しは!?」
「そんなにカッカしてんなよ。今日はホワイトデーなんだぜ?」
「お前が・・・」
いつも通りのケンカ腰の口調の宍戸に、跡部はふっと微笑みながら言葉を返す。
「ホワイトデーのお返し、ありがとよ。嬉しいぜ、宍戸。」
「っ!!」
そう言われてしまうと怒る気も失せてしまう。まだ少しムスッとした顔で跡部の顔を見つ
め、宍戸はツンデレっぽいセリフを口にする。
「きょ、今日はホワイトデーだし、お前がどうしてもっつーんならお前の家に行ってやっ
てもいいぜ。」
「ふっ、いいぜ。俺の家で最高のホワイトデーを過ごそうぜ。」」
バレンタインのときの同じようなセリフを言いながら、跡部は宍戸を自分の屋敷へと誘う。
跡部の家に行けるということで、少し機嫌の良くなった宍戸は、嬉しそうに口元を緩ませ
た。
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岳人×忍足
岳人Side
ホワイトデーの放課後、岳人は忍足と一緒に下校していた。そんな帰り道の途中で立ち止
まり、岳人は忍足に用意してきたバレンタインのお返しを手渡す。
「ほらよ、これ。チョコのお返し。」
「おおきに。」
岳人からお返しを受け取ると、忍足はその場で包みを開けようとする。それを見て、岳人
は慌てたような素振りを見せる。
「って、今開けんのかよ!ちょ待っ・・・心の準備が・・・!」
「何そないに慌てとんねん。別に変なものが入っとるわけやないんやろ?」
そこまで慌てる理由が分からないと、忍足はいつもの通りの落ち着いた口調でそう尋ねる。
もちろん忍足のためにお返しを選んだわけで、変なものは入ってはいない。しかし、この
場でそのお返しを見た忍足の反応を見るとは思っていなかった。
「や、だって緊張すんだろ。喜んでもらえるかわかんねーし・・・」
「せやけど、俺のために考えて選んでくれたんやろ?」
そうだけどもと思いつつ、岳人はドキドキしながら、忍足が渡したお返しの中身を開ける
のを眺める。包みの中には巾着型の袋に入った和の雰囲気のある京飴と青い羽根の栞が入
っていた。そんな自分好みのお返しに、忍足は嬉しそうに微笑む。
「ええやん。こーいうん好きやで。嬉しいわ。」
「え、嬉しい?そういうので良かった?な、ならいいけど・・・」
「俺好みやし、なかなかええセンスしとるし、ホンマ何でそんな中身見られるん嫌がった
んか分からんくらいやわ。」
お返しの中身を見た忍足の反応が、想像していたよりもかなり良い反応だったので、岳人
はホッと胸を撫でおろす。そうなると、あれほど慌ててしまったことが何だか恥ずかしく
なってしまう。
「・・・無駄に慌てちまったじゃねーか。渡すとこからやり直してー・・・」
「ほんならやり直すか?」
「いや、そこまで開けといてそれはねぇだろ!」
「それやったら、渡すふりでもええんちゃう?手をぎゅっとするみたいな感じで。」
「手をぎゅっと?こうか?」
お返しを持っている忍足の手を包み込むように、岳人は忍足の手を両手で握る。そして、
先程と同じように、チョコのお返しだということを伝える。
「これ、チョコのお返しだ。」
「おおきに。嬉しいで、岳人。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
岳人が手を握っているという状態で、二人は何も言わずにしばらく見つめ合う。どちらも
触れ合っている手が熱くなり、顔も熱くなってくる。
「何か結構照れるな。コレ。」
「せやな。せやけど、俺はこの感じ嫌いやないで。」
「まあ、それはちょっと分かる。」
手を触れ合ったまま、もうしばらく見つめ合っていると、どちらもふっと吹き出す。何と
なくお互いを好きだと思う気持ちが大きくなって、恥ずかしいながらも嬉しくなる。いい
気分だなあと思いながら、忍足は岳人からもらったお返しを鞄にしまうと、岳人の手にも
う一度触れる。
「今日はホワイトデーだし、少しくらいいいよな?」
「ああ。もちろんええで。」
そんな忍足の手を今度は手を繋ぐように握り、二人は帰り道を再び歩き始めた。
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忍足Side
ホワイトデーの日、忍足は岳人と他愛のない話をしていた。特にそういった話をしている
わけでもないが、思い出したように忍足は用意してきたバレンタインんのお返しを岳人に
差し出す。
「チョコレートのお返し、受け取ってや。」
「へっ!?チョコレートのお返し??」
あまりに突然のことだったので、岳人はひどく驚いたような反応を見せる。
「そないに驚かんでも・・・。ホワイトデーなんやし、予想はしとったやろ。」
「い、いや、ホワイトデーだってことは分かってたんだけどよ、まさか今それが出てくる
とは思ってなかったっていうか・・・」
「それとも、お返しもせんようなヤツやと思とった?」
「そんなことねぇし!侑士はそういうとこはすごくちゃんとしてるし、驚いたのはこっち
の問題だし・・・」
わざとそんなことを言う忍足に岳人は慌てた様子で答える。予想のしていないことをする
と焦るのは岳人らしいなあと思いながら、忍足はふっと笑った。
「・・・なんてな。急でびっくりしたんやろ。」
「お、おう・・・」
「ほんならもう一度や。チョコレート、おおきに。お返し受け取ってや。」
「ありがとな。チョコレートのお返し、バッチリ受け取ったぜ。」
あげるところからもう一度やり直してくれる忍足を前に、岳人は苦笑しながらそのお返し
を受け取る。
「それはさっきも言った通り、チョコレートのお返しや。お返しせなアカンのはもう一つ
あってな・・・」
「もう一つ?俺、何か他にあげたっけ?」
先月渡したのはチョコだけだよな?と岳人は首を傾げる。恥ずかしそうに顔を赤らめなが
ら、忍足は少し屈む。そして、ちゅっと軽く岳人の頬にキスをした。
「ホ、ホンマは口にしようと思っとったんやけど・・・何や恥ずかしくて、これが限界や
った。」
先程の余裕のある表情とはうってかわって、忍足は耳まで真っ赤になり、恥ずかしそうな
表情を浮かべている。その表情が岳人にとっては非常にツボで、ドキドキと胸がときめく。
「今の・・・バレンタインのとき、俺がキスしたことに対してのお返しだよな?」
「い、一応、そのつもりやで。」
「そしたら、やっぱ口にして欲しいなー。こんなふうに。」
背伸びをして忍足の首に腕を回し少し屈ませると、岳人は忍足の唇にキスをする。バレン
タインのときよりもスムーズに口づける岳人に、忍足の鼓動はひどく速くなっていた。
「アカン・・・ドキドキしすぎて、心臓爆発しそうや。」
「あはは、そんなにかよ?キスのお返しもありがとな、侑士。」
岳人もかなりドキドキしていたが、それよりも今は嬉しさが勝っている。チョコレートの
お返しをもらい、甘い甘いキスをする。ホワイトデーらしいことをしているなあと、岳人
はニコニコしながら、いまだに真っ赤になっている忍足をしばらく見つめていた。
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ジロー×樺地
ジローSide
ホワイトデー当日、ジローは樺地にバレンタインのお返しを渡そうと呼び出した。
「あのさ、バレンタインのお礼、美味しいのと楽しいのとどっちがいい?」
突然そんなことを聞かれ、樺地はしばし考える。
「美味しいのと楽しいのと、ですか・・・。欲張りかもしれませんが、どちらも気になり
ます。」
樺地がどっちもと答えるのは少し意外だなーと思いつつ、ジローはほんの少し驚いたよう
な顔を見せた後、ニコッと笑う。
「どっちも?いーよー。じゃあハイ、これ。」
ジローが渡してきたお返しは、思っていたよりも大きな袋に入っており、樺地は驚く。こ
んなにたくさんもらってもよいのかとジローを見た。
「ありがとうございます。これ、たくさんありますが、自分が全てもらってしまってもよ
いんでしょうか?」
「俺の好きなお菓子、いろいろ混ぜてみた。食べたら美味しいし、選ぶの楽しいっしょ?」
確かにそれならこの量になるかもしれないと、樺地は納得する。美味しいのと楽しいのど
ちらがよいかを聞いた理由もそういうことかと理解する。
「確かにこれは、どれも美味しそうですし、選ぶのも楽しそうです・・・」
「俺もバレンタインのチョコ、美味しくて楽しくて嬉しかったCー。へへっ!」
バレンタインデーに一緒にチョコレートを食べたことを思い出し、ジローは嬉しそうに笑
う。樺地もそのときのことを思い出し、今回もそうしたいと考える。
「あの・・・また、一緒に食べませんか?」
「いいの!?」
「ジローさんが好きなお菓子と言っていたので、どこがおすすめかというようなことを聞
きながら、選びたいです・・・」
「うんうん!全然オッケー!!一緒に食べよー!」
そうと決まったならとジローと樺地は近くのベンチに移動する。二人でそこに腰かけると、
樺地はジローから貰ったお菓子がたくさん入った袋を開けた。その中身を見ながら、ジロ
ーはそのお菓子のどこが好きかを樺地に説明していく。
「これはね、俺の好きなお菓子の今の季節限定のやつ!んで、こっちはチョコレートのふ
わふわ感が最高でー、こっちは・・・」
本当にたくさんのお菓子が入っているなあと、樺地は袋の中身を見て改めて嬉しいと思う。
あるもの全部は食べられないので、ジローの説明を聞きながら今食べたいと思うものを樺
地は選ぶ。
「これが食べてみたいです。」
「それも超オススメ。あっ、せっかくだし、俺が食べさせてあげるー!」
樺地が選んだお菓子を袋から出すと、その中の一つを手に取り、樺地の口元へ持っていく。
「はい、どーぞ。」
「ウ、ウス。」
ジローに差し出されたお菓子を口に入れると、樺地はその甘さと美味しさに笑みをこぼす。
「美味しいです。ありがとうございます。ジローさんもどうぞ。」
お返しと言わんばかりに今度は樺地がジローに食べさせる。樺地に好きなお菓子を食べさ
せてもらい、ジローは満面の笑みを浮かべる。
「やっぱり、樺ちゃんと一緒に食べるお菓子はいつもより美味しく感じるC―。」
「ウス。ジローさんと食べていると、美味しくて楽しくて嬉しいです。」
そんな樺地の言葉にジローは本当に嬉しそうに笑った。ホワイトデーのお菓子を二人で味
わう。そんな楽しく幸せな時間をジローと樺地はしばらく楽しんだ。
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樺地Side
ホワイトデー当日、樺地はいつものように昼寝をしているジローを探しに行き、すぐに見
つける。あまり人気のない場所で眠っているジローを起こし、しっかりと目を覚ますのを
待つと、樺地は用意してきたバレンタインのお返しをジローに差し出した。
「バレンタインのチョコレートを、ありがとうございました。」
「もしかしてコレ、ホワイトデーの?」
「これは・・・お礼です。受け取ってください・・・」
「わー、ありがとう!樺ちゃん!」
樺地からお返しを受け取り、ジローは嬉しそうにお礼を言う。何が入っているのかなーと
キラキラと目を輝かせながら、ジローは樺地から貰ったお返しを眺める。
「今、開けなくても大丈夫です。家で、ゆっくり・・・」
「えへへ。」
バレンタインのときにすぐに食べた方がよいかと聞いてきた樺地に自分が答えた言葉と似
たようなことを言い出すのを聞いて、ジローは思わず笑ってしまう。
「・・・また、おかしなことを言ってるでしょうか。やっぱり、緊張していて・・・」
「ううん、大丈夫だよ。樺ちゃんから貰ったお返しは、家でゆっくり食べるね。」
「・・・大丈夫なら、良かったです。喜んでくれると・・・嬉しいです。」
「樺ちゃんがくれたものなら、どんなものでも嬉しいよ。あっ、そうだ!今日はこのまま
一緒に帰ろー。」
「ウス。」
もともとそのつもりであったので、樺地はジローと一緒に帰ることにする。しばらく他愛
もない話をしながら歩いていたが、ジローがまた眠そうな顔になる。
「樺ちゃんと帰るの楽しいんだけど・・・眠たい・・・」
「大丈夫ですか・・・?」
「樺ちゃんおんぶしてー。」
「ウス。」
いつものことのなので、樺地は少しも躊躇うことなく頷く。ジローを背負うと樺地は二人
分の鞄を持ち歩き出す。
「いつもゴメンね、樺ちゃん。」
「嫌だと思ったことは一度もないので、大丈夫です。」
それを聞いて、ジローは驚いたような反応を見せた後、ニッと笑って樺地の首にぎゅっと
抱きつく。
「ありがとー。樺ちゃん、大好きー。」
「ウ、ウス。」
「樺ちゃんの背中はー、大きくてあったかくて優しくて、すごくすごく安心するー。だか
ら、俺は樺ちゃんが大好きなんだよー。」
半分寝言のような雰囲気でジローはそんなことを口にする。しばらくして、耳元ですーす
ーと穏やかな寝息が聞こえ始める。
(温かい・・・)
寝ているジローの体温を背中で感じ、樺地はそんなことを思う。なかなか口には出せない
が好きだという気持ちはジローと同じだ。心も体も春のような暖かさを感じながら、樺地
はジローの家へ向かってゆっくりと歩き出した。