花咲くバレンタイン
〜White Day〜(四天宝寺・二翼)

金太郎×白石

金太郎Side

学校からの帰り道、金太郎は白石に声をかける。
「なぁなぁ、今からワイとタコヤキ食べようや!」
「お、ええで。ホワイトデーでも金ちゃんは相変わらずやな。」
今日はホワイトデーではあるが、金太郎が何かを用意している様子はない。バレンタイン
のときに用意しとくと言ってはいたが、きっと忘れているのだろうと白石は大して気にし
てはいなかった。別に何かお返しを貰えなくても、白石にとっては今日金太郎と一緒に過
ごせるというだけで、十分に嬉しいことであった。
「ワイ、チョコ貰えて嬉しかったから、同じように嬉しくなって欲しいねん。」
「えっ?それって・・・」
「一緒にタコヤキ食べたら絶対嬉しいし、それにめーっちゃウマいで!絶対、絶対やから!」
顔いっぱいの笑顔を浮かべて、金太郎はそんなことを言う。それを聞いて、タコ焼きを二
人で食べに行くことがホワイトデーのお返しであるということに白石は気づく。
「金ちゃん・・・」
「ほな、行くでー!ワイからのお返しや!」
白石の手を握り、金太郎はお気に入りのタコ焼き屋に向かって走り出す。タコ焼き屋に到
着すると、金太郎はすぐにタコ焼きを頼む。
「おっちゃん、タコヤキ二人前!今日はホワイトデーやから、ワイが奢るんやで!」
嬉しそうにそう注文する金太郎に、タコ焼き屋の店員はオマケをしてくれる。いつもより
一つ多いタコ焼きを受け取ると、金太郎は代金を払い、白石の手を引いてすぐ近くのベン
チに座った。
「はい、白石。ホワイトデーのお返しや!」
「おおきに。ホンマ美味そうなタコ焼きやな。」
「せやろー?めーっちゃウマいんやで!せっかくやから、ワイが食べさせたる!」
楊枝で一つタコ焼きを刺すと、金太郎はふーふーと息を吹きかけて冷まそうとする。自分
で食べるのであれば熱々のままでよいのだが、白石に食べさせるとなると少し冷ました方
がよいだろうと考えてのことだ。
「ちゃんと冷ましてくれとるのやな。おおきに、金ちゃん。」
「たぶんこれで食べれると思うで。」
金太郎が差し出してくれているタコ焼きを白石は大きな口を開けてパクンと食べる。中は
まだ熱々だが、外側は金太郎が冷ましてくれていたおかげで火傷するほどは熱くはない。
「はふっ・・・熱いけど、メッチャ美味いなぁ。」
「えへへ、せやろ?ワイも食べよー。」
自分で食べる分は少しも冷まさず、金太郎はパクパクとタコ焼きを食べる。一つ食べるご
とに本当に幸せそうな顔になるので、そんな金太郎を見て、白石も何だか幸せな気分にな
ってくる。
「金ちゃんホンマに美味そうにタコ焼き食うし、このタコ焼きメッチャ美味いから、何や
幸せな気分やな。」
「ワイも白石とタコ焼き一緒に食べれて、メッチャ嬉しいで!」
「おおきにな、金ちゃん。金ちゃんの言うとった通り、金ちゃんと一緒にタコ焼き食べれ
てメッチャ嬉しいで。最高のホワイトデーや。」
ニッコリと笑いながらそんなことを言う白石に、金太郎はドキッとしてしまう。好きなも
のを好きな人と一緒に楽しむのは何て幸せな時間なんだろうと思いながら、金太郎は花が
咲くような笑顔を見せた。

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白石Side

部活を終え、帰ろうとしている金太郎に白石は声をかける。
「なあ、バレンタインのお返し渡したいんやけど、ちょっとええかな。」
「バレンタインのお返し?何のことや?」
もちろん先月のバレンタインデーのときにチョコレートを渡したことを覚えているので、
ホワイトデーの今日に何かお返しを貰えることは分かっている。しかし、ちょっと白石を
からかってみようという悪戯心から金太郎はそんな言葉を返す。
「今日はホワイトデーやん。って、忘れてたとか言わんといてや。」
「あはは、白石がどんな反応するかなーと思て、ちょっとボケてみたで。」
「・・・なんや、ボケたんか。ホンマは期待してたんやな?唇の端んとこ、ニヤけたん見
逃せへんかったで。」
「さすが白石やなー。ワイのことよう見とるやん。」
普段あまりしないようなことをしているので、金太郎は少しニヤけていた。それを見逃さ
なかったと白石は指摘する。
「ほな、これ俺から。受け取ってや。」
「おおきに!これはうち帰ってからゆっくり食べるな。」
嬉しそうな笑顔でそんなことを言う金太郎を見て、白石は少し意外そうな顔をする。
「金ちゃんのことやから、その場で開けると思っとったわ。」
「すぐ開けた方がええの?」
「いや、家でゆっくり開けてもらえればええで。」
白石から貰ったバレンタインのお返しをじっと見つめて、にっと笑った後それを鞄の中に
しまう。お返しをしまったため、空いた手で白石の腕に抱きつく。
「なあなあ、白石ぃ。」
「何や?金ちゃん。」
「バレンタインのとき、白石にちゅうしたやろー?アレのお返しも欲しいんやけど。」
「えっ!?えっとぉ・・・」
それは暗にキスして欲しいと言っているわけで、白石はドギマギと戸惑うような反応を見
せる。
「こないな誰が通るとも分からん場所ではちょっと・・・」
「ほんなら・・・」
白石の手を引いて、金太郎は大きな木の陰に移動する。人が通る場所からは死角になって
いるが、そのことがより白石を緊張させた。
「ここなら、誰にも見られへんで!」
「う・・・しゃーないなぁ。」
金太郎の身長に合わせ少し屈もうとすると、金太郎に肩を掴まれ、無理矢理座らされる。
「そのままワイの首に腕回すみたいな感じでして欲しい。」
さすがに座らせられれば、金太郎を見上げる形になる。金太郎を見上げながら、白石はお
ずおずと首に腕を回す。
「これ、メッチャ恥ずかしいで・・・」
「今の白石の顔、めーっちゃかわええで!」
「一回だけやからな。」
ドキドキしながらぎゅっと目をつぶり、白石は金太郎の唇に軽く触れるだけのキスをする。
白石にキスのお返しも貰うことができ、金太郎は満足そうに笑った。
「えへへ、白石にぎょーさんお返し貰えてメッチャ嬉しいで!」
「こんなお返しするん金ちゃんにだけやからな。」
「大好きやで、白石!」
そう言いながら、金太郎はそのままぎゅうっと白石に抱きつく。それを言われるともうい
ろいろどうでもよくなってしまう。こんなホワイトデーも悪くないなあと思いながら、白
石はふっと口元を緩ませ、金太郎の頭をポンポンと撫でた。

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銀×財前

銀Side

ホワイトデー当日、銀は財前を呼び出す。ホワイトデーということもあり、少々ドキドキ
しながら財前は銀との待ち合わせ場所に向かった。
「師範。」
「お、来てくれはったか。」
「用って何ですか?」
何となく分かってはいるものの財前は知らないふりをしてそう尋ねる。
「先月はチョコレートおおきにな。はは、もう1度伝えたかったんや。」
「師範らしいっスね。」
先月チョコレートをあげたことに対してのお礼をもう一度言われ、財前はふっと笑う。そ
んな財前に銀は小さな包みに入ったお返しを渡す。
「ほな、これをおぬしに。チョコレートのお返しや。」
「ありがとうございます。」
お菓子にしては随分小さな包みだなあと思いながらも、銀からバレンタインのお返しが貰
えたことを財前は嬉しく思っていた。上機嫌な財前を見て、銀も嬉しくなる。
「ただ渡すだけも寂しいと思うてな、おぬしさえ良ければ、そこのカフェテラスで少しお
茶でもどうやろか?」
「えっ?ええんですか?」
「もちろんや。どうやろか?」
「えっと・・・行きます。」
戸惑いつつも財前が頷いてくれたので、銀は笑顔になる。近くのカフェテラスに入ると、
二人は各々好きなドリンクを頼み、日の当たるテラス席に座った。
「日が当たっていると、結構暖かいな。」
「そうっスね。あ、あの、師範がくれたお返し、ちょっと開けてみてもええですか?」
「ああ、もちろんええで。気に入ってもらえると嬉しいんやけどな。」
小さな包みの中身が気になっていたので、財前はそんなことを尋ね、貰った包みを開ける。
そこにはお菓子ではなく、青、黄、赤、白、黒の石がついた五つのピアスが入っていた。
「ピアスや。五つももろてええんですか?」
「財前はんは五つピアスの穴が開いてるやろ?せっかくやから、そろえて贈りたいと思う
てな。」
今つけているピアスは五輪の色なので、銀から貰ったものとは少し違う。何の色だろうと
考えていると、銀の好きなものに関係するもので思い当たるものがあった。
「これ、仏教の五色っスよね。」
「ほう。よう分かったな。」
「師範に影響されて、たまにそういうの調べたりしてるんで。俺へのプレゼントなのに、
自分の好きなもの絡めてくるなんて流石っスね。」
「はは、バレないと思ったんやけどな。嫌やったか?」
苦笑しながらそんなことを問う銀の言葉に財前は首を振る。嫌でないことをよりハッキリ
と示そうと、財前は今しているピアスを一旦外し、銀から貰ったピアスをつけた。
「どうっスか?」
「よう似合っとる。ええ感じや。」
「ありがとうございます。師範からのお返し、メッチャ嬉しいです。いつもと違うんつけ
とると、何かつっこまれそうでメンドイで、これは師範と二人きりのときにつけることに
しますわ。」
「気に入ってもらえてよかったわ。ホンマ、かわええで。」
「っ!!あ、ありがとうございます・・・」
似合うではなく、思わず可愛いと口にしてしまい、銀はあっとなるが、財前が満更でもな
い反応を見せるのでニヤけてしまう。ホワイトデーに財前と放課後デートができ、贈った
お返しも喜んでもらえた。なかなか良いホワイトデーを過ごせているなと思いながら、銀
は頬を染めて照れている可愛い後輩をしばらく眺めていた。

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財前Side

ホワイトデー当日、財前は人気のない学校裏に銀を呼び出した。待ち合わせの場所に銀が
やってくると、制服の袖を引っ張るようにして、より人気のない校舎の陰に連れて行こう
とする。
「今から、ちょっとええですか。こっち来てください。」
「今日はホワイトデーやからと思って来てみたが、やはりこういうんは照れるなぁ。」
バレンタインデーにチョコを渡しているが故に、財前が自分を呼び出した理由を銀は分か
っていた。そんなことを口にしつつ、なかなか動こうとしない銀に痺れを切らし、財前は
先程よりも少し強い口調で銀を呼ぶ。
「ええから、はよ来てください。はぁ・・・。照れるとか、そないな振りせんでもええで
しょ・・・」
「はは、今日の財前はんはいつもより強気やな。」
実際、銀にお返しをするということで財前のテンションはいつもよりもいくらか上がって
いた。校舎で死角になっている場所に銀を連れていくと、財前はふっと口角を上げ、銀を
見上げる。
「お返し、欲しいんやろ。楽しみにしてたん知ってるんで。」
生意気な後輩感たっぷりの口調で財前はそんなことを言う。そんな財前に銀は内心ドキド
キしまくりであったが、表面上はいつも通り落ち着きはらった様子を見せていた。
「ほな、あげますよ。」
「っ!?」
ぐいっと顔近づけながら、手に何かを握らされる。至近距離の財前の顔に胸を高鳴らせつ
つ、銀は手を開き、渡されたそれが何かを確認する。包みを開けずとも、お菓子でないこ
とは分かる。
「開けてみてもええか?」
「ええですよ。」
小さな袋に入ったそれを開けると、中にはアクセサリーのようなものが二つ入っていた。
パッと見ピアスのようにも見えるそれに銀は首を傾げる。
「これは・・・ピアスか?」
「惜しいですけど、ちゃいます。師範、ピアス開けてないやないですか。これはイヤーカ
フです。耳につけるっちゅーとこはピアスと一緒ですけど。」
よく分からないが、耳につけるアクセサリーということは理解した。よくよく見てみると、
そのイヤーカフには何か文字が彫られている。
「っ!!これは・・・」
「気づきました?師範にピッタリやと思って、買うたんですよ。」
二つのイヤーカフの片方には『色即是空』、もう片方には『空即是色』の文字が彫られて
いた。自分の好きな言葉が彫られたアクセサリーであることに気づき、銀のテンションは
一気に上がる。
「こないなアクセサリーあるんやな。」
「探せば結構ありますよ。つけてあげるんでちょっと貸してください。」
二つのイヤーカフを財前は銀の左耳につける。銀の容姿でこのようなアクセサリーをつけ
るとなかなかの見た目になるなあと財前は思わず笑ってしまう。
「ど、どうやろか?」
「フフッ・・・いかつ。」
「なっ!?」
「いや、でも、メッチャ似合うてますよ。かっこええです。」
銀の耳の辺りに手を添え、ほんの少し顔を赤らめながら目を細めて財前はそう呟く。その
表情と仕草と言葉に銀の胸はひどく高鳴る。
「師範・・・」
「何や?」
「もう一つ、ホワイトデーのお返しあげますわ。」
そう言いながら、財前は銀の首に腕を回し、少し背伸びをして銀の唇にキスをする。自分
でしておきながら、唇を離した財前の顔は真っ赤に染まっていた。そんな財前の頭を撫で、
銀は嬉しそうな笑みを浮かべる。
「おおきに、財前はん。この耳飾りも今のキスもこの上なく嬉しいお返しやで。」
銀にそう言われ、財前の胸は嬉しさで躍る。二人きりの校舎裏。そこはもう嬉しさと幸せ
な雰囲気でいっぱいになっていた。

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千歳×橘

千歳Side

ホワイトデーの前後、千歳は橘の家に遊びに来ていた。一人で出かけていた帰り道、たま
たま買い物帰りの橘と会う。
「よっ。ちょうどよかところで会えたばい。」
「千歳。今日も出かけてたんだな。」
千歳と偶然会えたことが嬉しくて、橘はご機嫌な様子で千歳を見る。そんな橘に千歳は今
日出かけながら用意したバレンタインのお返しを差し出す。
「美味かチョコ貰ったお礼あげたいけん、受け取って欲しか。」
そう言って千歳が差し出したものは、ネットで調べ、美味しいと評判のごま団子であった。
ホワイトデーのお返しらしくはないが、橘の好物をあげたいと思いそれを選んだのだ。紙
袋に入った箱の中身を見て、橘は目を輝かせる。
「たいぎゃ美味そうなごま団子ばい。ありがとうな、千歳。」
自分の好物を貰えたことが嬉しくて、橘は笑顔になる。そんな橘を見て千歳も嬉しくなっ
た。
「・・・お、笑った。嬉しそうな顔見られて俺も満足ばい。」
「今日はコレを買いに出かけとったと?」
「まあ、そんなとこばい。」
「そうか。家に帰ったら一緒に食べような。」
そう言う橘の表情もとても嬉しそうで、千歳の胸は高鳴る。
「やっぱ、桔平は笑ってる方がよかね。」
「それはどういう意味だ?」
「桔平の笑ってる顔はたいぎゃむぞらしかばい。桔平の顔はどんな顔でも好いとーばって
ん、笑ってる顔がいっちょん好きばい。」
屈託のない笑顔でそう言われ、橘の顔はかあっと赤くなる。照れたような表情も可愛らし
いなあと思いながら、千歳はにへらっと笑った。
「桔平の笑った顔は、キラキラしとって太陽のごたる。桔平と一緒にいると、みーんなキ
ラキラして見えるとよ。」
「そ、そぎゃん恥ずかしいこと、こぎゃんとこで言うんじゃなか!」
「桔平んこと褒めてるばってん、嬉しくなかとね?」
「・・・嬉しいけん、困る。こぎゃん緩んだ顔、お前以外に見せたくなか。」
耳まで真っ赤になっている橘を見て、千歳はきゅんとしまう。そんなに見せたくないのな
らと、千歳は橘の顔を自分の胸に埋めさせるように抱き締めた。
「桔平はほんなこつむぞらしかねー。こぎゃんしとったら、他の奴には顔見られんばい。」
「ちょっ・・・やめろ!!これはこれで見られたら、困る!」
知り合いがそんなにいない大阪ならまだしも、ここは家の近くの道だ。どこで知り合いに
会うかも分からないと橘は慌てた様子で千歳をはがそうとする。
「あはは、冗談ばい。」
パッと腕を離すと、千歳は声を上げて笑う。そんな千歳につられ、橘も困ったような笑み
を浮かべる。
「全くお前は・・・」
「怒ったと?」
「別に怒ってはなか。家ならいくらでも今みたいなことしてもよかけん、早く帰るぞ。」
「っ!!それなら早く帰るばい!」
家に帰ればイチャイチャしてもいいというようなニュアンスの橘の言葉に千歳は驚く。せ
っかくのホワイトデーをもっと楽しまなければと、千歳は橘の手を掴んだ。
「桔平とイチャイチャするの楽しみばい。」
「ふっ、お返し食べるのが先だぞ?」
橘の手を掴んだまま、千歳は橘の家に向かう歩みの速度を速める。千歳と同じ気持ちなの
で、特に手を振り払うこともなく橘は千歳と同じ速度で歩みを進めた。

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橘Side

ホワイトデー当日、橘は千歳に会いに大阪に来ていた。千歳の部屋に向かって歩きながら、
人があまり多くない場所で立ち止まる。
「ちょっといいか。バレンタインのお返しを作ってきたんだ。」
「バレンタインのお返し、手作りとね!?」
「ああ。手作りだが・・・意外か?一応心得はあってな。」
橘が手作りのお返しを持ってきたということで、千歳は一気にテンションが上がる。橘が
料理が得意なことはもちろん知っている。しかし、まさかホワイトデーに手作りのお菓子
を貰えるとは思っていなかった。
「桔平が料理得意なことは知ってるばい。桔平の手作りお菓子とかたいぎゃ嬉しかぁ。」
「だが、菓子は勝手が違うな。正直に言うと、実は妹に少し手伝ってもらってしまった。」
「杏ちゃんよりは、桔平の方が料理は上手そうばってん手伝ってもらったんね。」
「しかし礼の気持ちはしっかり込めたぞ。いいスパイスになっているかは、わからんがな。」
気持ちのこもった手作りのお菓子など、これ以上嬉しいものはないと、千歳は嬉しそうに
笑ってそのお返しを受け取る。
「どぎゃんお菓子か気になるけん、ちょっと開けてみてもよかね?」
「構わないぞ。わりと上手く出来たと思うんだが・・・」
橘から受け取った箱を千歳はゆっくりと開ける。箱の中には、トトロの顔を模したタルト
がいくつも並んでいた。あまりにも可愛らしいその見た目に千歳の胸は鷲掴みにされる。
「うわうわ、トトロばい!!桔平、トトロ!!」
ジブリ映画が大好きな千歳は目を輝かせて、橘と箱のお菓子を交互に見る。
「えっ、ほんなこつすごかぁ〜!!これ、手作りとか桔平天才やなかと?」
「ははは、そぎゃん喜んで貰えると頑張って作った甲斐があるたい。」
「食べるのもったいないくらいむぞらしかぁ。桔平、ありがとー。」
トトロのタルトが入った箱を大事そうに抱え、この上なく嬉しそうな表情で千歳はお礼を
言う。あまりにも嬉しそうな千歳を見て、橘も嬉しくなってくる。
「今日は夕飯も俺が作ってやるばい。」
「そぎゃん大サービスしてくれると!?俺、今日は世界一幸せな男かもしれん。」
「それはさすがに大袈裟過ぎだろ。」
「そんなことなかよ。桔平といられるだけで俺はいっちょん幸せばい。」
嬉しそうに目を細めてそんなことを言ってくる千歳に、橘はきゅんとしてしまう。千歳よ
り少し前を進み、橘は千歳の方を振り返る。
「千歳。」
「何・・・」
「好いとおよ。」
返事をしようとする千歳の言葉を食い気味で、橘は言葉を続ける。その言葉を聞いて、千
歳の心臓はドキンと跳ねる。言った後で恥ずかしくなり、橘は軽く頬を赤らめ、千歳から
目を逸らした。
「・・・三倍返しどころの話じゃなか。」
橘があまりにも嬉しいお返しをいくつもくれるので、千歳は思わずそんなことを呟く。こ
の後も橘と一緒に過ごせるなんて、今日はなんて最高な日なのだろうと思いながら、千歳
は顔を緩ませた。

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