花咲くバレンタイン
〜White Day〜(U−17)

越知×毛利

越知Side

ホワイトデーの日、越知は毛利と偶然会う。越知としては、毛利に会いに行こうと思って
いたところだが、その前にたまたま道で会ったのだ。
「あっ、月光さん!!」
「今からお前のところに行こうと思っていたのだが・・・ちょうどいいところで会ったな。」
「そうなんですか?俺に何か用ですか?」
越知と会って、毛利は今日がホワイトデーであるということをすっかり忘れていた。純粋
に何の用かを首を傾げていると、越知が綺麗にラッピングされた箱を出してくる。
「先月のチョコレートの礼だ。遠慮せずに受け取ってほしい。」
「あっ、今日はホワイトデーですね!ありがとうございます!」
そういえば先月のバレンタインデーにチョコレートをあげていたと毛利は思い出す。越知
からお返しが貰えたことが嬉しくて、満面の笑みを浮かべながら毛利は受け取ったお返し
を眺める。嬉しそうな毛利の顔を見て、越知はホッとしたような表情になる。
「気の利いた事は言えないが・・・改めて感謝を伝えさせてくれ。」
「えっ?」
「・・・ありがとう。」
「っ!!」
先月貰ったチョコレートのお礼を越知は口にする。笑顔が苦手な越知が見せる優しく微笑
んだ顔。そんな越知の表情に毛利は胸を撃ち抜かれる。
「お礼を言うんは俺の方です。てか、月光さんにそないな顔でお礼言われたら、メンタル
アサシンされてしまいますわ。」
「そんなにプレッシャーをかけたつもりはないのだが・・・もし、そうだとしたら、すま
ない。」
「いやいや、謝るとこちゃいますって!月光さんの笑顔が格好よすぎて、心臓爆発しそう
って話ですわ。」
冗談を本気で捉える越知に、毛利は笑いながらそう返す。笑顔が格好よすぎてという言葉
に反応し、越知は軽く顔を赤く染める。
「そうか・・・」
「せっかくこんなとこで会うたし、ちょっと二人で散歩でもしません?あっ、時間あった
らでええんですけど・・・」
「もちろん構わない。」
それを聞いて、毛利の顔はパッと目に見えて明るくなる。そんな毛利が愛おしくて、越知
はいつものようにふわふわの髪に触れ、優しく頭を撫でた。
「えへへ、やっぱり月光さんに頭撫でられるのええですね。」
頭を撫でられて嬉しそうに笑う毛利に、越知はさらにきゅんとしてしまう。そんな毛利と
この後どこに行こうかと、越知はそのことを口に出しながら思案する。
「散歩はどこに向かうのがよいだろうか?買い物をしたいなら街の方へ向かうし、他に行
きたいところがあれば・・・」
「ほんなら、自然が多いとこがええです。まあ、月光さんと一緒ならどこでもええんです
けどね。」
「分かった。そのような場所に向かうとしよう。」
向かう場所が決まったということで、越知と毛利はゆっくりと歩き出す。今自分達の周り
には人はおらず、これから向かうところもそれほど人が多い場所ではない。それならばと
毛利は越知を見上げて、一つおねだりをする。
「月光さん。」
「どうした?」
「少しだけ、手繋いでもええですか?」
「・・・構わない。」
「ありがとうございます!」
越知の了承が得られたので、毛利は越知の手を握る。そんな毛利の手を越知も握り返した。
春風のようなぬくもりをその掌から感じながら、二人は春の散歩を楽しんだ。

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毛利Side

バレンタインデーと同じように、ホワイトデーの日にも越知と毛利は東屋にいた。先月よ
りは少し暖かくなり、穏やかな雰囲気のそこで毛利は用意してきたバレンタインのお返し
を越知に手渡す。
「はい、コレ。チョコレートのお返しです。」
「チョコレートのお返し?」
今急にここで渡されるとは思っていなかったので、越知は少し驚いたような反応を見せる。
「ん?なんで意外そうな顔しよるん?もしかして忘れてると思ってました?」
「いや、そんなことはないが・・・」
「むしろ、逆です。お返し渡した時の反応を考えてワクワクしながら待ってたくらいやで。」
自分にお返しを渡すことをそんなに楽しみしてくれていたのかと、越知は少し感動する。
そんなふうに考えてくれたお返しがどんなものかと越知は非常に興味を持った。
「せやから遠慮せんと受け取ってくれたら嬉しいです。」
「ありがとう。ありがたく受け取らせてもらう。」
「はい、どうぞ。」
毛利からお返しを受け取ると、越知はそのお返しをじっと眺める。今、開けてみたいがど
どだろうかと考えていると、毛利が声をかける。
「開けてみてください。」
「いいのか?」
「もちろんです。」
毛利がそう言ってくれるのならと、越知は包みを開けた。包みを開けると、長方形の箱が
入っており、越知はその箱の蓋を開ける。中にはハートの形と猫の形をしたカラフルなマ
カロンが入っていた。
「随分と可愛らしい菓子だな。」
「はい!バレンタインのときに月光さんにもらったチョコレートがメッチャ可愛かったん
で、月光さんにも可愛いお返しあげたいなーと思て選びました。」
箱の中の猫に越知はすっかり釘付けになっており、大きな手で猫の形をしたマカロンを一
つ手に取る。あまりの可愛さに越知はほわほわとした雰囲気でそのマカロンを眺めた。
「食べてもええですよ。」
「いや、食べるのは帰ってからにしようと思う。まだもう少し、この可愛らしい菓子を眺
めて楽しみたい。」
「こーいうん好きですか?」
「ああ、好きだ。」
キッパリとそう答える越知の言葉に毛利はドキッとしてしまう。マカロンに対して言って
いるのであって、別に自分に対して言われてるわけではないのだが、越知の声でのその言
葉は胸に響いた。
「そ、そんならよかったです。月光さんに喜んでもらえるんが一番なんで。」
「ありがとう、毛利。お前の心遣いに感謝する。」
嬉しそうに微笑む越知にドキドキしながら、毛利は箱の中からハート型の方のマカロンを
手に取った。そして、それを越知の口元に持っていく。
「これ、俺の気持ちです。月光さんが大好きっていう。」
「それは嬉しいな。」
「食べてくれますか?」
猫のはもったいないがハートのはよいだろうと、越知は口を開け、毛利の気持ちのこもっ
たマカロンを食べる。口に広がるほどよい甘さ。その甘さを毛利にも少し分けてあげよう
と越知はちゅっと毛利の唇に口づけた。
「っ!?」
「甘くて美味いな。」
「つ、月光さん・・・」
「俺もお前のことが好きだぞ、毛利。」
先程の毛利の言葉に返事をするかのような言葉を越知は返す。突然の越知からのキスに顔
を真っ赤にして、毛利はほのかにマカロンの味がする唇を手で覆った。

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大曲×種ヶ島

大曲Side

ホワイトデー当日、大曲は種ヶ島を呼び出した。ホワイトデーに大曲に呼び出されたとい
うことで種ヶ島はうきうきとした気分で大曲のもとへ行く。
「来たで〜、竜次。」
「おう。急に呼び出して悪かったな。」
「全然大丈夫やで☆ホワイトデーに竜次に呼び出されるなんて、期待してもええってこと
やんなぁ?」
こんなことを言ってくるのは実に種ヶ島らしいと大曲はふっと笑う。もちろんお返しをあ
げるつもりで呼び出したので、用意してきたそれを種ヶ島に差し出す。
「先月のたいやきのお返しを持ってきたぜ。菓子の中に何か細工があるんだと。」
「へぇ。そりゃ気になる感じやなあ。開けてみよ。」
何だか面白そうな大曲からのお返しに種ヶ島は興味津々だ。大曲からそのお返しを受け取
るやいなや、その中身を確かめる。中には花のような形の和菓子が入っていた。
「見た目だけじゃなくて、中身も味わえる。2つの事が同時に楽しめるなんて面白れーだ
ろ。」
「二刀流っちゅーことやな。何や竜次みたいでおもろいやん。」
「ま、すべては食べてみてのお楽しみってやつだし。せっかくだから一緒に楽しもうや。」
「ほんなら、ちょっと座れるとこ移動して開けてみよか。」
大曲自身もそのお菓子の中身は気になっていたので、種ヶ島にあげつつ自分も楽しんでみ
たかった。二人で座ることが出来、お菓子を広げられるところまで移動すると、種ヶ島は
さっそくそのお菓子を出してみる。
「それ、北陸の菓子で『辻占菓子』っていうらしいし。中におみくじみたいなものが入っ
てるんだと。」
「へぇ、何やフォーチュンクッキーみたいやな。おみくじっちゅーことは運勢でも書いて
あるんかな?」
ひとまず一つ食べてみようと、種ヶ島はピンク色のお菓子を手に取り、カリっと小さくか
じってみる。中心の辺りに小さな紙が入っており、それを出すとその紙を広げてみる。
「えっと、『ぬしははなれん』?すり鉢とすりこ木が描かれとるけど、どないな意味や?」
「何だろうな?すり鉢とすりこ木は両方ともないと意味ねぇから、お互いに必要としてる
とかか?」
「はー、なるほどな。そういうふうに考える感じなんか。」
「俺も一つ食べてみるか。えっと・・・『おまえがたより』だってよ。」
「竜次が俺のこと頼りにしてるっちゅーこと?あはは、ええやん。」
「まあ、間違ってはねぇけどな。」
種ヶ島の言葉に大曲は笑いながら答える。お菓子自体は砂糖菓子な味であるが、これはな
かなか面白いと、どちらも楽しみながら食べ進めていく。
「おっ、今度は『くちをすうて下んせ』やって。描いてある絵もよく分からんし、これは
なんやろ?」
「絵は関係ねぇかもしれねぇが・・・・」
その言葉の音だけを聞いて、大曲は種ヶ島の唇にキスをする。いきなりキスをされ、真っ
赤になって慌てる種ヶ島に大曲は言葉を続ける。
「こういう意味じゃねぇのか?」
「は!?キスが?何で・・・って、あっ!『口を吸うて』ってことか!竜次、流石やな。」
「はは、まあ、あってるか知らねぇけどな。」
「せやけど、いきなりするのは反則やで。もうメッチャドキドキしよる。」
次に食べたお菓子の中の紙を広げると、二人はそこに描かれている絵と言葉に苦笑する。
「俺のは『なによりごすき』やって。」
「俺のは『はなしはせん』だと。」
「ちゅーかこの絵、キノコやろうけどちょっと他のもん連想させられるな。ちょっとエッ
チな感じや。」
「だな。」
どちらの紙にも描かれたキノコであるものを連想してしまうと、二人は顔を見合わせて笑
う。こんなものもあるのかと感心しながら、二人はしばらくそのお菓子とおみくじを楽し
んだ。

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種ヶ島Side

ホワイトデー当日、種ヶ島は大曲と待ち合わせをしていた。種ヶ島が待ち合わせ場所に到
着すると、既に大曲が待っていた。
「ちゃーい☆待たせてもうたかな。」
「いや、そんなに待ってねぇし。」
種ヶ島を待ちながら読んでいた本をパタンと閉じると、大曲は種ヶ島を見る。いつもより
少しオシャレな格好の種ヶ島を見て、大曲はふっと笑う。
「なかなか気合入った格好じゃねぇか。それで、今日はホワイトデーだけど、何かお返し
用意してんのかよ?」
「早速お返しなんやけど・・・このあと、一緒に出掛けへん?」
「へぇ。そういう感じか。もともとそのつもりだったから構わねぇし。」
「お菓子もええけど、思い出に残るもんをと思ってな。」
お菓子などの物ではなく、一緒に出掛けることをホワイトデーのお返しと考える種ヶ島の
案に、大曲は悪くないと考える。
「お返しはデートってことか。いいんじゃねぇか。」
「買い物でも遊園地でもどこでもエスコートしたるで。」
「エスコートなんて必要ねぇし。」
「ほな、お手をどーぞ?」
「話聞けし。まあ、お前がどうしてもっつーんなら、手、繋いでもやってもいいぜ。」
差し出された手を大曲はニヤリと笑って握る。素直に手を握られて、種ヶ島はカァっと赤
くなる。
「自分から手出しといてそんな反応なのかよ?」
「い、いや、やって、竜次に手握られたらそりゃ照れるやん。」
「それで、どこ行くか決めてるのか?」
「んー、竜次はどっか行きたいとこある?」
大曲の行きたいところに行く予定だったので、、種ヶ島は特にどこへ行くかは考えていな
かった。種ヶ島にそう尋ねられ、大曲はしばし考える。
「そうだな・・・どうせなら人が多いところより、お前と二人きりの方がいいし、カラオ
ケとかどうよ?」
「おー、ええな。ラブソングとか歌ったるで☆」
「お前、歌上手いしな。」
「竜次もたくさん歌ってや。あっ、せっかくやし、デュエットもしようや。」
「勘弁しろし。」
そんなことを言いつつ、大曲の顔は緩んでいる。行く場所が決まったならと、大曲と種ヶ
島はカラオケ店に向かう。カラオケ店に向かって歩きながら、種ヶ島は大曲の顔をじっと
見る。
「何だし。」
「んー、何でもないで。」
「何でもないことはねぇだろ。」
「いやー、竜次とデート出来るん嬉しいなあと思て。」
恥ずかしそうな笑顔を浮かべながら、種ヶ島はそう返す。
「ふっ、これはホワイトデーのお返しなんだろ?お前が嬉しがってるんじゃなくて、俺を
楽しませないとダメじゃねぇのか?」
「ほんなら、竜次は何して欲しいん?」
「は?お前が楽しそうにしてりゃ俺も楽しいし。」
「なっ!?もー、竜次それはずるいで・・・」
楽しそうに笑いながらそんなことを言ってくる大曲に、種ヶ島は顔を真っ赤にして照れる。
ホワイトデーのお返しデートは始まったばかり。二人で存分にイチャイチャして楽しもう
と、大曲も種ヶ島も胸を躍らせながら街を歩いた。

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君島×遠野

君島Side

ホワイトデーの日、君島は急ぎ足で待ち合わせをしている人物のもとへ駆け寄る。
「お待たせしてすみません。ギリギリまで今日のスケジュールを調整していたものですか
ら。」
「お前から呼び出しといて、俺を待たせるとはいい度胸じゃねぇか。」
君島がホワイトデーの今日呼び出した相手は、先月のバレンタインデーの日にチョコレー
トをくれた遠野であった。少しの時間待たされて文句を言う遠野であったが、その口調は
怒っているようなものではなく、どちらかと言えば、楽しそうなものであった。
「で、お前はバレンタインデーのお返しに何を用意したんだ?何も用意してないなんてこ
とはねぇよなあ?」
こんなことを言えるのは遠野だけだろうと君島はふふっと微笑む。そんな遠野に返すため
のお返しは用意してあると言えばしてあるし、用意していないと言えばしていない。その
意味を君島は遠野に伝える。
「私がキミに用意出来る最高の贈り物・・・」
「最高の贈り物か。そりゃ楽しみだ。」
「それは私自身ではないかと思いまして。今日はとことんおつき合いしますよ。」
そんな君島の言葉に遠野はポカンとした表情になる。それはどういう意味だと、思わず言
葉を失ってしまう。そんな遠野の様子を見て、君島は言葉を続ける。
「フフ・・・急な事に驚かせてしまったかな。」
「べ、別に驚いてはねぇけどよ、それはどういう意味なんだ?」
「まずは紅茶を飲みながらゆっくり予定を決めましょうか。」
予定を決めるということは、一緒に出掛けるということかと遠野は理解する。それはそれ
で悪くないと、遠野はニヤリと笑う。近くのカフェに入り、紅茶を頼む二人だが、レジの
近くのガラスケースに遠野はあるものを見つける。
「アップルパイがあるじゃねーか。」
「頼みますか?時間はあるので、少しくらいここでゆっくりしてもいいですよ。」
「食う。」
迷わずそう答える遠野のために君島はアップルパイも注文する。自分の好物が食べれると
遠野は上機嫌な様子で、受け取った紅茶とアップルパイを手に君島と店の奥の席に座る。
「なかなか美味そうじゃねーか。」
大きなアップルパイを前に遠野は嬉しそうにそう呟く。フォークで一口サイズに切り、口
へと運ぶ。
「どうですか?アップルパイのお味は。」
「美味いな。味も食感も好きな感じだ。」
「それはよかった。それで、この後の予定なのですが、どこか行きたい場所とかあります
か?」
「どこでもいいのか?」
アップルパイをもぐもぐと食べながら、遠野はそう返す。そんなことを聞くということは
どこか行きたい場所があるのだなと君島は考える。
「もちろんです。今日はホワイトデーなので、どこでもお付き合いしますよ。」
「博物館に行きてぇ。最近行けてねぇし、久しぶりに行きたいと思ってよ。」
「博物館ですか。それはどのような?」
「別にどこでもいい。わりとどんな展示でも博物館は好きだ。」
てっきり処刑関連の場所に行きたいと言われると思っていた君島は、少し意外だと思いつ
つもデート場所としてはなかなかよい場所だと考える。スマホを取り出し、この近くの博
物館を検索すると、遠野に見せる。
「それならば、ここでお茶を飲みながらどの博物館に行くか一緒に考えましょう。」
「おう。」
君島のスマホを覗きながら、遠野はアップルパイを堪能する。好物のアップルパイを食べ、
何だかんだで好意を寄せている君島と博物館デートが出来る。それが非常に嬉しくて、そ
こまで顔には出しはしないが、遠野はわくわくと胸を高鳴らせていた。

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遠野Side

ホワイトデーの日の練習後、部屋へと戻ろうとする君島に遠野は声をかける。
「おい、待ちな。・・・話がある。」
「何ですか?遠野くん。」
今日がホワイトデーであることを分かっているので、遠野からどんなお返しが貰えるのだ
ろうと期待しながら返事をした。
「チッ、ご機嫌じゃねーか。爛々と目を輝かせやがって・・・」
「今日はホワイトデーですからね。今日、話があると言われたらそういうことでしょう?」
口元を緩ませながらそんなことを言う君島に向かって、遠野はいつも通り処刑を絡めたセ
リフを言い放つ。
「まあ、活き活きとしたそのツラは悪くねぇ。処刑のし甲斐がありそうだ。」
「処刑されるのであれば、遠慮させてもらいますが。」
遠野の言う『処刑』は、テニスの試合であれば、処刑に模した攻撃となっているが、日常
的に使う『処刑』の場合は、何かしらの比喩であることを君島は理解していた。
「お待ちかねの『お返し』を用意してやった。俺についてきな。」
「『お返し』ですか。それは私を喜ばせるものになっているんですか?」
「もちろんだ。バレンタインデーにはお前の心臓を貰ったからな。」
「アレは私の心臓ではないですけどね。まあ、遠野くんがそう捉えたいのであれば、別に
構いませんけど。」
そんな会話をしながら二人は遠野の部屋へ向かう。遠野の部屋に到着すると、遠野は胸ポ
ケットから何かを出した。
「ほら、お返しだ。受け取りな。」
「随分と厚みが薄い包みですね。お菓子ではなさそうですが。」
「フッ、それは開けてからのお楽しみだぜ。」
遠野から受け取った包みを君島は開けてみる。中には一見シンプルに見える黒いコンパク
トミラーが入っていた。
「鏡ですか。悪くないですね。」
「ちゃんとよく見てみろよ。さすがに俺のリアルな心臓を贈ることは出来ねぇが、その雰
囲気は反映させてやったぜ。」
遠野にそう言われ、目を凝らしてコンパクトミラーの表面を見る。少し角度を変えるとキ
ラリと何かが光る気がした。そのことに気づき、君島は角度を変えて眺めてみる。すると、
黒地の表面に薄っすらと赤いハートが浮かび上がることに気がつく。可愛らしいハートと
いうよりはリアルな心臓の形に近いそのデザインに君島は感心した。
「なるほど、一見シンプルな黒のコンパクトに見えますが、角度を変えるとハートが浮か
び上がるデザインになっているんですね。いいデザインですし、面白いじゃないですか。」
「だろ?お前よく鏡見てるし、ちゃんと使えよな。」
「ええ。ありがたく使わせてもらいますよ。」
遠野からのお返しをポケットにしまうと、君島は遠野に近づき、ベッドに倒すように強く
押す。急に押され、バランスを崩した遠野はベッドの上に倒れる。
「何しやがる!?」
「遠野くんの本物の心臓も欲しくなりましてね。まあ、本当に取ることは出来ないので、
ココに私のモノだという印をつけるだけにしておきますよ。」
「っ!!」
服の上から心臓の辺りを指で触れ、君島はそんなことを言う。その指先に鼓動の速さが伝
わってしまいそうなほど、遠野の心臓はドキドキと大きな音を立て、速いリズムを刻んで
いた。

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