船の上で××× −蜉蝣×疾風−

すっかり腰が抜けて座ったまま動けなくなっている疾風を見て、蜉蝣は何だかムラっとし
てしまう。すっと立ち上がり、どこかに何かを取りに行くと、蜉蝣は船床にへたりこんで
いる疾風の前にしゃがんだ。
「な、何だよ?」
「さっき俺に責任取れって言ったよな?」
「あ、ああ。言ったけど・・・」
「なら、ちゃんと責任取ってやるよ。」
ニヤリと口元を緩ませながら、実に鮮やかに手さばきで、蜉蝣は疾風の腕を後ろ手に縛る。
「えっ・・・?なっ・・・!?」
「お前の買ってくる縄は、なかなか使い勝手がいいぞ。ついでにこっちもっと・・・」
疾風に反抗する隙を与えず、蜉蝣は木刀に疾風の足を縛りつけてしまう。足を広げたよう
な状態で、そんなふうに拘束され、疾風は焦るが、もうどうすることも出来ない。
「何しやがるっ!」
「たまにはこういう趣向も悪くないと思ってな。」
「ふざけんな!外せよ!」
「なら、この口で、俺のを満足させられたら、外してやってもいいぞ。」
疾風の口に人差し指を当て、蜉蝣はそんなことを言う。それを聞いて、ムッとする疾風で
あったが、負けず嫌いな性分な故、嫌だとは言わなかった。
「やればいいんだろ。やってやる!」
「そうこなくちゃな。おっと、その前に・・・」
動けないのをいいことに、蜉蝣は疾風の着ている着物や袴を中途半端に脱がし、頭に巻い
ている手拭いを外す。拘束された状態で、着乱れた着物を纏っているというのは、かなり
の色気を醸し出す。
「似合うぞ、その格好。」
「そんなこと言われても全然嬉しくねぇ!」
「まあ、そんなカリカリするなって。」
「お前の所為だろうが!」
「お前は全部俺の所為にしたがるなあ。」
「したがってるわけじゃなくて、事実だろ!」
どんなに怒鳴っても、顔色一つ変えない蜉蝣に、疾風はイラっとする。しかし、言葉を放
つ以外には、何もすることが出来ない。
「準備も万端だし、早速してもらうか。」
「すぐにイカせて、この縄、絶対解かせてやる!」
怒っているわりには、それほど嫌がっていないようで、疾風はなかなかやる気満々な言葉
を口にする。それならば、がっつりしてもらおうと、蜉蝣は色気たっぷりの疾風を見て、
すっかり高まっている熱の塊を、疾風の前に突きつけた。
(うっ・・・やっぱ、間近で見ると結構な迫力だな・・・)
威勢よくあんなことを言ってみたものの、いざそれを目の前にすると、怖じ気づきそうに
なる。しかし、ここで出来ないと言うのは、四功の名が廃る。はあっと大きく深呼吸をす
ると、疾風は大きく口を開け、目の前にあるそれを口の中へ含んだ。
「は・・む・・・ん・・・っ」
ただ口に含むだけでは、蜉蝣を満足させることは出来ないと、歯を立てないようにしなが
ら、疾風は頭を前後に動かす。
「ほう、なかなかやるじゃねぇか。」
「んんっ・・・んっ・・・んむっ・・・」
「けど、もう少し吸われたりした方が好みかもしれねぇな。」
蜉蝣がそう口にすると、疾風はいったん頭を動かすのをやめ、ちゅうっと蜉蝣のそれを吸
う。そうしながら、疾風は蜉蝣の反応を見ようと、上目遣いで蜉蝣の顔を見上げた。声を
上げることはないものの、先程より明らかに感じているような表情を見せているため、疾
風のやる気は俄然高まる。
「んっ・・・んんぅ・・・」
「ふっ・・・いいぞ、疾風。」
熱い息を吐き、疾風の頭を撫でながら、蜉蝣はそんなことを呟く。そんな蜉蝣の行動に、
何故だか疾風の胸はドキンと高鳴った。
(なんかすげぇドキドキしてきちまった・・・)
あまりにドキドキしすぎて、蜉蝣の顔が見ていられないと、疾風は瞳を閉じて、その行為
に集中することにした。疾風があまりにも夢中になってしてくるので、蜉蝣は想像以上に
早く限界近くまで、熱が高まってしまう。
「疾風っ・・・」
「んぐっ・・・んんんっ・・・ふあっ・・・!」
限界まで高まったそれは、熱く濃い白濁の蜜をその先から溢れさせる。突然口の中に放た
れた熱い蜜を疾風は何とか飲み込もうとするが、全てを飲み込むことは出来ず、途中でそ
れから口を離してしまった。そのため、口の中でとどまっているべきだった蜉蝣の蜜は、
疾風の顔を軽く汚した。
「ハァ・・・ハァ・・・」
「悪いな。お前の顔汚しちまった。」
「別に・・・大したことじゃねぇよ。」
「そうか。それにしても・・・さらにやらしい感じになってるなあ。」
疾風の顎を上げ、蜉蝣はそんなことを呟く。少し視線を下に下げれば、頭をもたげている
疾風の熱が目に入る。疾風のそれもすっかり高まっていることに気づき、蜉蝣は疾風の前
に座り、すっとその熱に手を伸ばした。
「ひゃっ・・・ちょっ、おい!蜉蝣!」
「俺のしてくれたお返しに、お前のもしてやろうと思ってな。」
「その前に縄外せよ!ちゃんとイカせただろ!」
「それは後でも出来る。」
「やっ・・・何で・・・約束が違っ・・・あっ・・・ああっ・・・!」
反論しようとする疾風だが、高まった熱を擦られながらでは、まともに言葉が紡げない。
(くそ〜、蜉蝣の奴、信じらんねぇ!でも、でも・・・)
「あっ・・・かげろっ・・・あっ・・・ん・・・ああぁっ・・・」
疾風の弱い部分なら、蜉蝣は全て知り尽くしていた。的確に一番気持ちいい部分だけを一
番丁度よい強さで擦られる感覚に、疾風はすぐに落ちてしまう。
「やっ・・・も・・・いっ・・・」
後一回強く擦られれば、達するというところまできて、疾風は切羽詰まったような声を上
げる。しかし、その声を聞いて、蜉蝣はパッとその手を離してしまった。
「えっ・・・な・・・」
「どうした?疾風。」
困惑したような表情で、自分の顔見てくる疾風に、蜉蝣はニヤニヤと笑いながら尋ねる。
もう少しで達けそうだったのにということを口にするのが恥ずかしくて、疾風はぷいっと
蜉蝣から顔をそむけた。
「べ、別に・・・何でもねぇよ。」
「そうか。」
素直ではない疾風も可愛らしいと思いつつ、蜉蝣はその口元を緩ませる。そして、ある程
度、疾風の熱が落ち着いたのを見計らって、再びそれを弄り始める。
「ひあっ・・・何でっ・・・」
「何でって、弄って欲しかったんだろ?」
「そんなことな・・・あっ・・・ああぁ・・・!」
口では否定しつつも、身体は正直だ。蜉蝣に触れられているそこは、再び熱を帯びてゆく。
「あっ・・・ふあっ・・・ん・・・あっ・・・あっ・・・!」
だんだんと高まってゆく快感に、疾風の鼓動は次第に速くなってゆく。もう少しで達ける
・・・そう思った瞬間、再び蜉蝣の手は疾風の熱から離れた。
「んっ・・・ハァ・・・は・・・」
そして、少し熱が治まりかけたところで、また弄られ始める。あと少しで達することが出
来るというところまで高められるも、最後の決定的な刺激が与えられないという責めを、
疾風は十数回も蜉蝣によって与えられた。始めはそんな中途半端な状態に耐えていた疾風
であったが、さすがにそこまで繰り返されると、身体の奥の疼きは限界まで高まってしま
う。
「ハァ・・・もう・・・あっ・・・!」
また、直前で手を止められ、疾風はキッと蜉蝣を睨む。そして、ついに我慢していた言葉
を蜉蝣に投げかけた。
「もういいかげんにしろよ!何でこんな状態でやめるんだよ!」
「何のことだ?」
「とぼけるなっ・・・もう・・・こんな状態・・・嫌だ・・・」
言葉に出してしまうと、その感覚はより研ぎ澄まされたものになってしまう。耐えられな
い程の疼きに、疾風は半べそ状態で、蜉蝣の顔を見た。
「こんな状態って、どんな状態だよ?」
「もうちょっとで・・・イけるのにっ・・・そこで蜉蝣が・・・弄るのやめるからっ・・・」
「それのどこに問題があるんだ?」
「俺はちゃんとイキたいんだよ!なのに・・・蜉蝣が・・・・」
本気で泣きそうになっている疾風を見て、蜉蝣は逆に嗜虐心を煽られてしまう。
「だったら、ちゃんとその口でどうして欲しいか言ってみな。」
「・・・っ!」
「そうしたら、お前の望む通りのことしてやるぞ。」
普段であれば、そんなことは言わないと強がる疾風であったが、今の状態ではそんな余裕
はなかった。
「ちゃ、ちゃんと・・・」
「ちゃんと、何だ?」
「ちゃんと・・・最後まで俺のを・・・弄って・・・イ、イカせて欲しい・・・」
「最後だけ、もう一回言えよ。」
「イカせて・・・蜉蝣・・・」
素直におねだりをする疾風の言葉を聞いて、蜉蝣はニヤリと笑って、疾風の熱をぎゅっと
握る。そして、すぐにでも達してしまいたくなるような程激しく、疾風のそれを擦り上げ
た。
「ひっ・・・あっ・・・あ・・・ああぁ・・・!」
「すぐにでもイっちまうそうだなあ?疾風。」
「あっ・・・あ・・・イッ・・・あっ・・・」
「ほら、イッちまえ。」
低く妖しい声でそう囁かれ、疾風はぞくぞくと背筋に甘い痺れが走るのを感じる。それと
同時に、蜉蝣の手に包まれているそこから、今まで出したくても出せなかった熱い雫を迸
らせた。
「ふあっ・・・ああぁ――っ!!」
散々焦らされていたため、なかなか絶頂感が治まらない。いつもより長い絶頂感に身を震
わせながら、疾風は意識が飛んでしまいそうな気持ちよさに、甘い眩暈を感じていた。
「ふ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
「満足か?」
やっと達かせてもらえた快感に、疾風は素直にコクンと頷く。疾風の呼吸が落ち着くのを
待った後、蜉蝣は疾風を四つん這いのような体勢にさせる。四つん這いとは言えども、腕
は後ろ手に縛られたままなので、膝をつき、腰を上げた状態で、上半身は船床についてい
るという体勢だ。
「なっ・・・蜉蝣っ・・・!」
「そろそろコッチの方も弄って欲しい頃だと思ってな。」
「そんなこと思ってなっ・・・あっ!」
「思ってないわりには、随分易々入っちまったが?」
「くっ・・・そ・・・」
どんなに口では嫌がってみせても、蜉蝣のすること為すこと身体は全て受け入れてしまう。
「ひっ・・・あ・・・ああっ・・・んっ・・・んんぅ・・・」
「お前ので指が濡れてるから、慣らしやすいな。」
「んなこと・・・知るかっ・・・」
「痛いよりはマシだろう?ほら、もう二本目も入るぞ。」
「ひっ・・・んあぁっ・・・!」
二本の指で内側を弄られる感覚は、一本の指で弄られるのとは全く違う。急に大きくなっ
たその刺激に、疾風は、ぶるぶると下肢を震わせる。
「ん・・・あっ・・・ああっ・・・・」
「まだ二本はきついか?だったら・・・」
「ひあっ・・・あっ・・・そ、そこはっ・・・ああぁっ・・・!!」
あまりに疾風が苦しそうに声を上げるので、蜉蝣はわざと、一番感じる部分だけを中心に
擦り上げる。
「あっ・・・ああ・・・蜉蝣っ・・・ひあっ・・・!!」
そこに触れられてからは、疾風の声は一気に艶めいたものに変わる。その声がたまらない
と、蜉蝣はぐりぐりとその部分ばかりを責め始めた。
「ああぁ・・・だ、だめっ・・・そこばっかされたらっ・・・あっ・・・ああっ・・・!」
「そんな声で鳴かれたら、やめられるわけないだろう。」
「でも・・・でも・・・ひあっ・・・やっ・・・もうっ・・・」
そこへの集中攻撃に耐えられず、疾風はパタパタと船床へ白い雫をこぼす。達したことで、
疾風のそこは蜉蝣の指をぎゅうぎゅうと締めつけた。
「さっき達したばかりなのに、もうイッたのか?」
「だ、だって・・・」
「まあ、イクってことはちゃんと感じてるってことだから、俺的にはなんの問題もないけ
どな。」
「んっ・・・あっ・・・ま、まだするのかよっ・・・?」
「ちゃんと慣らしておかないと、俺のを入れた時キツイだろ?」
「そう・・・だけど・・・」
達してすぐに刺激を与えられるのは、身体がついていかないと思いつつも、蜉蝣の言って
いることももっともなので、疾風はそれほど強く文句は言えなかった。疾風があまり拒ま
ないのをいいことに、蜉蝣は疾風の弱いとこばかりを責め、何度も指でイカせる。もう十
分にほぐれてはいるのだが、疾風の反応があまりにも可愛いので、蜉蝣はしつこいくらい
にそこを弄り回した。
「ひぁっ・・・かげろっ・・・もう指じゃ・・・やっ・・・」
「何故だ?指でこんなに感じてるじゃねぇか。」
「ああぁっ・・・そ・・・だけど・・・ふあっ・・・ああぁん・・・」
「何度もイッってるし、何が不満なんだ?」
分かっていながら、蜉蝣は意地悪くそんなことを尋ねる。そんな蜉蝣の言葉に疾風は、真
っ赤に染まった顔を蜉蝣の方に向け、潤んだ瞳で蜉蝣の顔を見た。
「確かに・・・蜉蝣は・・・弄ったりするの・・・すげぇ上手いし・・・メチャクチャ気
持ちいいけど・・・」
「ああ。」
「指じゃ・・・蜉蝣と繋がってるって感じ・・・しねぇもん・・・」
「だから、どうして欲しいって?」
「蜉蝣の・・・早く俺ん中に・・・入れて欲しいんだよ!」
ハッキリとそう言い放つ疾風を前に、蜉蝣はもう我慢出来なくなる。もうはち切れんばか
りに大きくなった熱い楔を、存分にほぐされた疾風の蕾に押し当てると、蜉蝣は一気にそ
の内側を貫いた。
「ひっ・・・ああぁんっ!!」
まさかこんなに急に奥まで入れられるとは思っていなかったので、疾風は思わず達してし
まう。ビクビクとその身を震わせながらも、しっかりと自身を受け入れてくれている疾風
に、蜉蝣はふっと口元を上げる。
「またイッたのか?今日はイキまくりだな。」
「お前がっ・・・俺の弱いとこばっか・・・するから・・・」
「でもその弱いところを弄られるのが、お前は大好きなんだろ?」
「ひあっ・・・あぁんっ・・・!!」
やっと入れてもらえたそれが、ゆっくりと動き、敏感になっている内側を擦り上げる。そ
れが半端なく気持ちよく、疾風は堪えきれない声を上げる。
「あと、あれか?こんなふうに縛られて、無理矢理されてるみたいな状況に、興奮してん
のか?」
「そ、そんなこと・・・ねぇ・・・」
「それにしては、ここの締めつけ、いつもより随分と強いみたいだけどよ。」
抜こうとすると、抜かすまいと絡みついてくる疾風の内壁に、蜉蝣は熱い息を漏らす。ギ
リギリまでそれを抜くと、今度は一気に奥の奥まで、熱い楔を突き入れた。
「あっ・・・ああぁ――っ!!」
「どうされるのがいい?ゆっくり動くのがいいか?それとも、ぐちゃぐちゃになるくらい
激しく動くのがいいか?」
「はぁ・・・どっちもが・・・いい・・・」
すっかり蜉蝣の熱の虜になっている疾風は、素直にそんなことを呟く。
「どっちもって、欲張りだなあお前は。」
そんな疾風の答えに、蜉蝣はクスクスと笑って、ぐっと腰を引いた。
「けど、どっちもがいいなら、そうしてやるよ。お前の望み通りにな。」
そう口にすると、蜉蝣は疾風の望んでいるような形で動き始める。ゆっくりと自分の熱の
形を覚えさせるように動くこともあれば、その内側の全てを抉るように激しく動いたりも
する。そんな緩急織り交ぜられた蜉蝣の動きに、疾風はすっかり夢中になり、いつの間に
か自ら腰を振っていた。
「あっ・・・ふあぁっ・・・かげろっ・・・蜉蝣っ・・・!!」
「ハァ・・・どうだ?ちゃんとお前の思う通りになってるか?」
「んんっ・・・すげ・・・イイっ・・・蜉蝣のが・・・俺ん中・・・行ったり来たりする
のが・・・もう・・・たまんねぇ・・・」
「だったら、もっとお前の中を俺でいっぱいにしてやるよ。」
そう言いながら、蜉蝣はずんっと疾風の奥に自身を埋め、その更に奥に、熱い蜜を注ぎ込
む。自分の中でどくどくと脈打ちながら、熱い雫を注いでくる蜉蝣の熱を感じ、疾風の身
体はその何とも言えない甘い痺れを伴った快感に震える。
「あ・・・ああぁ―――っ・・・」
蜉蝣で自分の中が満たされる快感に、疾風はもう何度目か分からない絶頂を迎える。頭の
中が真っ白になり、何も考えられなくなる。ふと意識を手放しかけた瞬間、耳元で蜉蝣が
何かを囁いた。
「・・・・・・」
その言葉を聞いて、疾風はひどく心が満たされるのを感じる。そして、疾風はそのまま目
を閉じ、意識を手放した。

しばらく意識を失っていた疾風であったが、ゴシゴシと何かを擦る音で目を覚ます。
「ん・・・んん・・・」
目を開くと、蜉蝣が甲板をブラシを使って掃除をしていた。
「何やってんだ?蜉蝣。」
「やっと起きたか。何って、掃除しないとバレバレだろ。あーいうことしたの。」
「あー、なるほどな。あれ?いつの間に俺、着物着たっけ?」
してる間は上も下も着乱れていたはずなのだが、何故か今は、いつも通りしっかりと身に
つけた状態になっていた。
「お前が気を失ってる間に着せておいてやったんだ。あのまま放置だと、また俺がしたく
なっちまうからな。」
「なっ・・・あれだけしといて、まだし足りないのかよ!」
「少ないくらいだろ。疾風は何回もイッてたけどな。」
楽しげに笑いながら、そんなことを言ってくる蜉蝣に、ほんの少しムッとする疾風であっ
たが、この疲れた体で自分で着替えるのは確かに億劫だ。そう考えると、ここまでしっか
り着替えさせてくれたのは、逆に助かることだとも思えてくる。
「まあ、そのまま放置しといて、それでまたムラっとされて、もっかいされるってのより
は全然マシだな。」
「だろ?」
「けど、何回もイッたとか言われるのは、ちょっと腹立つ!」
「事実を言っただけだぞ?」
「事実だけど、言われたら嫌なんだよ!」
そう言いながら、疾風はがっと立ち上がるが、まだ大して休めていない状態でそんなこと
をしたために、強い立ちくらみが起こる。
「あ・・・れ・・・?」
そのまま疾風の身体は、ふらっと後ろに倒れそうになる。そして、次の瞬間、何かが倒れ
る音が船内に響き渡った。
「ったく、いきなり立つから。」
「・・・蜉蝣?」
倒れたと思って目を開けた疾風であったが、その身は蜉蝣の腕の中におさめられていた。
船内に響いた音は、蜉蝣が持っていた掃除用のブラシが蜉蝣の手から離れ、倒れる音であ
った。
「悪いな。思ったより無理させちまってたみたいで。大丈夫か?」
「べ、別にちょっと立ちくらみがしただけで・・・大したことじゃねぇよ。」
いきなり自分を気遣うような言葉をかけてくる蜉蝣に、疾風はドギマギしてしまう。
「とりあえず、お前はまだ座って休んでろ。もう少しで掃除も終わるから。」
「お、おう・・・」
ゆっくり疾風を床に座らせると、蜉蝣は再び掃除へしに戻る。
(こういうとこ、ずるいよなあ・・・)
すとんと船床に座りながら、疾風は蜉蝣を見ながらそんなことを思う。ゴシゴシと床を磨
いた後、ざっと水で流し、蜉蝣は持っていたブラシをしまいに行った。そして、戻ってく
ると、疾風の隣に腰を下ろす。
「どうだ?少しは休めたか?」
「ああ。さっきはいきなり立ち上がっちまったからだし、今はそんなにくらくらするとか
もないから平気だぜ。」
「そうか。それならよかった。」
本当に安心するような笑みを浮かべる蜉蝣を見て、疾風はときめいてしまう。何となくそ
れが恥ずかしくて、疾風はぼすっと蜉蝣の膝に頭を乗せつつ、寝転がった。
「どうした?急に。」
「疲れてはいるから、少し休ませろ!」
「甘えん坊だな、疾風は。」
「別に甘えてるわけじゃねぇもん。ただ寝転がるんだったら、枕があった方いいと思って
してるだけだからな。」
「はいはい。」
そっぽを向きながらそんなことを言っている疾風の頭をポンポンと蜉蝣は撫でる。子供扱
いするなと思いつつも、疾風はその感じは嫌いではなかった。
「蜉蝣。」
「何だ?」
「手、こっちに伸ばせよ。」
「?」
自分のすぐ目の前にある床を軽く叩き、疾風はそんなことを言う。何がしたいのかよく分
からないが、蜉蝣は言われるままに、そのあたりへ手を伸ばした。すると、疾風はすぐ側
に伸ばされた蜉蝣の手をぎゅっと握った。
「やっぱり甘えたいんじゃねぇのか?」
いきなり手を握られ、蜉蝣はニヤニヤしながらそう問う。しかし、そこまでしておいて、
疾風はそれを否定する。
「そんなことねぇ。・・・ただ、こうしてた方が落ち着くんだよ。」
「落ち着くねぇ・・・」
ある意味甘えていると言われるより、嬉しいものだなあと、蜉蝣はその顔を緩ませる。何
となく笑われてような気がして、疾風はちらっとだけ蜉蝣の方に顔を向ける。
「何そんなニヤけてんだよ・・・」
「いや、本当疾風は可愛いなあと思ってな。」
「可愛いは褒め言葉じゃねぇ・・・」
「本当は嬉しいくせに、素直じゃねぇなあ。」
「嬉しくなんかっ・・・」
「好きだぞ、疾風。」
疾風が少し強めに否定の言葉を口にしようとした瞬間、蜉蝣はすっと疾風の耳に口を近づ
けて、そんな言葉を囁く。それは、疾風が達する時に蜉蝣が口にした言葉であった。その
言葉を聞き、疾風の胸はドクンと高鳴る。
「・・・ずりぃよ、蜉蝣。」
「何がだ?」
「可愛いは確かにそれほど嬉しいとは思わねぇけど・・・好きって言われたら、嬉しくな
いわけねぇじゃん。」
「それは、嬉しいってことだよな?」
「そうだよ!悪いか!」
「いーや、悪いことなんて一つもないぜ。」
ハッキリとそう言われ、逆に疾風は恥ずかしくなってしまう。顔を真っ赤にして、蜉蝣か
ら顔を背けた。
「俺も好きって言われたら、嬉しいんだけどな。」
「・・・・っ!」
「疾風は俺のことどう思ってるか聞かせて欲しいんだが。」
蜉蝣にそう言われ、疾風はドキドキして、何も言えなくなってしまう。しかし、自分が言
われて嬉しいのは確かなので、自分だけ言ってもらって、蜉蝣に言わないのは悪い気がし
た。覚悟を決めると、疾風はぐいっと蜉蝣の腕を引っ張り、自分のすぐ目の前に来た蜉蝣
の頬にうちゅっとキスをする。
「お、俺だって、蜉蝣のこと大好きなんだからな!」
想像以上に可愛い告白をしてくる疾風に、蜉蝣は顔が緩むのを抑えられない。
「すごく嬉しいぞ、疾風。」
「も、もう言わないからなっ!」
「もう一回俺が言えば、言ってくれるのか?」
「うっ・・・」
「冗談だ。あんまりたくさん言われても、新鮮味がなくなってしまうしな。」
あまりに恥ずかしそうにしている疾風が可愛すぎると、蜉蝣はまたポンポンと頭を撫でる。
もう何をされてもドキドキが止まらないと、疾風はぎゅっと目を閉じる。目を閉じても、
頭に浮かぶのは蜉蝣のことばかりだ。
「蜉蝣のバーカ。」
「何だ?それも告白の一つか。」
「そう思いたいなら思っとけ!」
自分ばかりドキドキしている感じが悔しくて、何気なくそんなことを呟いてみるが、蜉蝣
は笑いながらそんな言葉を返す。真っ青な空の下、そして、真っ青な海の上で、水軍の中
でも年長な二人は、若い者にも負けないくらいラブラブで、この上なく甘い雰囲気を醸し
出すのであった。

                                END.

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