ここは、様々な種族が住む世界。人族、獣族、鳥族、魚族、虫族、花族などが共生してい
る。人族以外は、二つのモードを持っており、感情や気分、状況によってモードが変わる。
それぞれの種族が、その種族特有の特徴を持っており、その特徴を生かしながら環境に順
応している。あの月食の日からしばらく経ったある日、月食の影響を受けたメンバーが集
まり、ティーパーティーをしていた。
君島の家に集まったいつものメンバーは、君島の家の庭でアフタヌーンティーを楽しんで
いた。君島の淹れたお茶を飲みながら、お菓子を食べる。他愛もない話をしていると、君
島はふとこの前の月食の日のことを思い出す。
「そういえば、この前皆既月食があったじゃないですか。あの日、遠野くんが結構大変な
ことになっていたんですけど、アナタ達は大丈夫だったんですか?」
君島の言葉に、越知はいつも通りの冷静な表情を崩さず、毛利は少し赤くなり、大曲はあ
からさまに嫌そうな顔になり、種ヶ島は楽しげな反応を見せる。これは何かあったなと君
島は好奇心をくすぐられる。
「あー、あの日はホンマ大変でしたわ。」
「おっ、やっぱお前らも何か影響があったんだな。」
そのときのことを思い出し、毛利は平静を装いつつそんなことを言う。おかしくなったの
は自分だけではなかったと、遠野は少し安心する。
「俺はマタタビモードから、毛利はヤマネコモードから変化出来なくなったな。」
これくらいなら話しても大丈夫だろうと越知はそう口にする。
「俺は鯛モード、竜次はウミネコモード固定やったな。ヒトデモードになれへんと陸に上
がれへんから、結構困ったわ。」
「やっぱ、どっちかのモードに固定される感じになったんだな。」
「そう言うアツはどうやったん?呪いかけられてたときみたいにヘビモード固定になって
まったん?」
「いや・・・あの日はリンゴモード固定だったな。」
少し恥ずかしそうにそう言う遠野の様子を見て、種ヶ島はおっと何かに気づく。
「さっきサンサン、アツが結構大変なことになってたって言うとったけど、具体的にはど
うなってたん?」
「あのときの遠野くんは・・・」
君島がそう言いかけると、遠野はその言葉に被せるように言葉を放つ。
「リンゴモードの感覚バグのせいで、自傷衝動が半端なくて、ヤバそうだったから君島に
助けてもらった。それだけだ。」
君島が説明すると余計なことまで言いかねないと、遠野はそのときの状況を自分で説明す
る。
「ほーん。まあ、リンゴモードは生粋のドMやからな。確かに暴走すると危なそうやな。
ていうか、そんなやったらサンサンが側におってくれて良かったやん。」
「それはまあそうだな。」
「で、具体的にはどんなプレイでどうにかしたん?」
「ちょっ!?な、何言ってやがる!!」
そんな状態であれば、さぞアブノーマルなプレイを楽しめたのだろうと、種ヶ島はからか
い口調でそんなことを言う。
「別に大したことはしていませんよ。自傷防止に遠野くんが自作したピロリーをつけて、
ギロチンごっこと自分を傷つけたお仕置きにお尻ペンペンしただけです。」
君島の言葉を聞いて毛利は頭にハテナを浮かべ、首を傾げる。
「ピロリーって何です?初めて聞いた言葉なんですけど。」
「別名ギロチン枷とも言いますね。ギロチン刑をするときに頭と両手を動かせないように
木で固定しますよね。木の穴から頭と両手を出す感じで。あれです。」
「君島も処刑具に関してメチャクチャ詳しくなってるじゃねーか。」
さらっと説明する君島に大曲は思わずそうつっこむ。
「私も遠野くんに会うまでは知らなかったですし、全く興味もなかった事柄ですけどね。
遠野くんがしつこいほどに話してくるんで覚えてしまいました。」
「ほう、やるじゃねーか。って、そうじゃなくて、余計なこと話すな!!」
「種ヶ島くんが聞いてきたので。」
「リンゴモードやと、痛いのが気持ちええんやろ?ギロチンごっこが何したかはよう分か
らんけど、お尻ペンペンって可愛らしく言っとるけど、要するにスパンキングやろ?そん
ときのアツにとっては結構よかったんちゃうん?」
君島は詳しく話してくれることに気づき、種ヶ島は意地悪く笑いながら更に質問を重ねる。
そのときのことを思い出し、妖しい笑みを浮べながら君島はその質問に答える。
「ええ。どちらも可愛らしく喘ぎ声を上げて、ビクビク震えてましたよ。」
「君島っ!!」
そのときのことを話されるのは恥ずかしいと、遠野は顔を真っ赤にして君島を止めようと
する。
「そんなにからかってやるなし。」
さすがに遠野が可哀想だと、大曲は呆れたような口調でそんなことを言う。
「確かにサンサンとアツの話だけ聞くのは不公平やもんな。ほんなら、俺と竜次のことも
話したるわ。」
「いや、何でそうなるんだし!やめろ!!」
大曲が止めるのを受け流し、種ヶ島は楽しそうにその日のことを話し始める。
「皆既月食のときな、片方のモードに固定されてまったのはそうなんやけど、アツは自傷
衝動が強くなったって言うとったやろ?俺と竜次もそんな感じになってん。俺らの場合は
自傷衝動やなくて、『食べたい』『食べられたい』って気持ちがメッチャ強くなってな。」
「それは比喩的な意味ではなく、文字通りの意味でか?」
「せやで☆」
越知の質問に種ヶ島はいつもの調子で答える。
「まあ、俺も月光さんの蜜もろたりするし、そこまでおかしくはないんちゃいます?」
種ヶ島が魚族、大曲が鳥族であることを考えると、食物連鎖的な意味ではそういうことも
あり得るかもと毛利は何となく納得する。ただ、そういう欲求が生まれたとしても本当に
食べることは出来ないだろうと、毛利を含め大曲と種ヶ島以外のメンバーはそう考えてい
た。
「んで、俺も竜次も我慢出来なくなって、結局竜次に食べてもろたわ☆」
『えっ!?』
種ヶ島の爆弾発言に、そこにいるメンバーは皆フリーズする。
「おい、お前何言って・・・!!」
「えっと、それは、大曲さんが種ヶ島さんをガブッと食べたって意味であっとります?」
「あっとるで!」
ドギマギとしながらそう尋ねる毛利に、種ヶ島はさも当然であるかのように答える。
「さすがにそれは・・・」
「おいおい、俺と君島がしたことなんて比にならねぇくらいヤベェことしてるじゃねーか!」
君島は若干引き気味に、遠野は先程まで恥ずかしがっていたのが嘘のように楽しげな様子
でそんなことを言う。
「食べられたと言っているわりには、傷跡もなく随分と元気そうだが・・・」
いつも通りの種ヶ島を見て、それは信じられないと越知も口を挟む。
「そりゃそうやで。月食が終わって、ヒトデモードになれたら食べられたとこ全部再生し
たからな☆何の問題もあらへんで。」
「えー、せやけど、ガブッて食べられるんはさすがに痛いんちゃいます?」
「それがな、食べられとる間、もうずーっと気持ちよくて。エッチしてるのとホンマ変わ
らん感じやったわ。」
「お前、俺のことドMドMってからかうけど、お前の方がよっぽどじゃねーか!ガチで食
べられて気持ちよかったは、どう考えてもヤベェだろ!」
食べられた際の感想を口にする種ヶ島に遠野はつっこむ。それは確かにと、種ヶ島と大曲
以外のメンバーは頷きながら心の中で同意する。
「ちなみに本当興味本位で聞くんですけど、種ヶ島くんの味、どんな味だったんですか?
食べたのは、魚族の魚の部分ですよね?」
知的好奇心から君島は大曲にそう尋ねる。
「そりゃな。魚の部分とはいえ、俺は最後まで食わねぇようにと思って我慢してたのに、
コイツが煽りに煽ってくるからよ。我慢出来なくなっちまった。」
「やって、竜次に食べて欲しかったんやもん。」
「食べて欲しかったんやもんじゃねーし。」
「で、味はどうだったんだよ?」
「・・・スゲェ美味かった。魚の部分だからか大して血は出なくてよ。極上の鯛の身が舌
の上で蕩けて、新鮮な魚の身の甘みっつーか、言葉では言い表せないような旨みが口の中
いっぱいに広がってよ。マジで美味かった。」
「今まで食べたものの中で一番美味かったって言っとったもんな☆」
「うるせーし。」
大曲の話を聞き、そんなに美味しかったのかと、君島と遠野、越知と毛利はドキドキして
しまう。
「スゲェ美味そうだなとは思うけど、食べたいかと言われたらちょっとな。」
種ヶ島をチラリと見ながら遠野はそう呟く。
「まあ、そうですね。」
「えー、アツもサンサンもひどいなあ。まあ、俺のこと食べてええんは竜次だけやからえ
えけども。ていうか、体液とかやなくて自分の肉が相手の体の一部になるって、究極に一
つになる感あってヤバない?それもあって、竜次に食べられたんメッチャ嬉しかったんよ
な。」
またすごいことを言い出していると、大曲以外のメンバーは何とも言えない表情を見せる。
「確かにそれは物凄くロマンチックやと思いますけど・・・」
「ヒトデモードの再生能力ありきだからな。したいかと問われれば、さすがにそれはと言
ったところか。」
いくらお互いのことが好きでも自分達には真似出来ないと、越知と毛利は苦笑する。
「遠野くんもリンゴモードでは痛みを感じなくとも、ヘビモードでは普通に痛がりますか
らね。」
「再生能力もねーしな。その点君島はヘビモードに戻っても痛くねーように痛くしてくれ
るからさすがだよな。」
「君島は矛盾が過ぎて、遠野の言ってることが意味分からなくなってるし。」
「さっすがあの矛盾だらけのアツの呪いを解く条件に合致した人物だけあるわ☆」
君島と遠野もさすがに本当の意味で食べることは無理があると顔を見合わせて話す。そん
な二人の会話を聞き、大曲と種ヶ島は二人の言っていることも大概だとクスッと笑う。
「つーか、越知と毛利はどうだったんだよ?大変だって言ってたけどどう大変だったんだ?」
自分達と大曲・種ヶ島ペアの話はもう十分だと、遠野は越知と毛利に話を振る。
「俺はいつもよりもケモ度が高くなってましたね。顔以外は全身ヤマネコの毛で覆われて、
手も足もヤマネコの手足みたいになって。」
「へぇ、そりゃオモロイやん。ケモ度の高い毛利、ちょっと見てみたかったわ。」
「あっ、ちょっと待ってくださいね。全身そうするんは出来へんですけど・・・」
あの月食の後、出来るようになったことを毛利は披露しようとしてみせる。
「えいっ!」
あのときと同じように、毛利は手を猫のものに変化させる。もふもふの毛が生え、ピンク
色の肉球が現れた手を見て、そこにいるメンバーは目を丸くする。
「おー、スゲェな。ガチの猫みたいな手になってるし。」
毛利の手を見て、大曲は感心する。
「自由に変えられるんは手だけですけど、あの月食の後から出来るようになったんですわ。」
「これ、本物やんな?ちょっと触ってみてもええ?」
「別に構わ・・・」
種ヶ島にそう聞かれ、毛利がそう言いかけると毛利の手がどこからか現れた蔓と葉で覆わ
れる。
『っ!!??』
「ダメだ。」
毛利を後ろから抱きながら、越知はキッパリとそう言い放つ。
「あはは、月光さんがダメ言うんで、触るのは無しでお願いします。」
「これはマタタビの葉と花ですよね?」
「お前、こんなこと出来たのかよ?」
毛利の体を覆うマタタビの葉や花を見て、君島と遠野は驚いた様子でそう尋ねる。
「ああ。毛利と同じようにあの月食の後から自由に出せるようになった。」
「急に出てきたからビックリしたし。毛利に触られたくないなら、普通に口で言えばいい
じゃねーか。」
「自由に出せると言ったが、無意識に出てしまうこともある。今のは後者だ。」
「はは、毛利の肉球独り占めしたくて無意識に出てまったってことやんな?ツッキー、ヤ
キモチやきの独占欲つよつよやん☆」
大曲と種ヶ島につっこまれながらも、越知はその表情を変えることはない。しかし、無表
情でありながらも、毛利の猫の手を覆っているマタタビの蔓で越知はふにふにと毛利の肉
球に触れていた。
「月光さん、手、ちょっとくすぐったいです!」
「は?別に越知、お前の手に触ってねーだろ。」
「触れているが?」
遠野の言葉に越知はしれっとそう返す。
「もしかして、越知くんから伸びているその植物の部分にも感覚があるのですか?」
「ああ。人の部分よりはだいぶ弱いがな。」
越知の言葉を聞いて、大曲は種ヶ島と、君島は遠野と顔を見合わせる。そして、誰もが思
っているであろうことを種ヶ島が口にする。
「その部分にも感覚あって、その勢いで毛利に触れられるってヤバいなあ。手の届かない
ところからも触れるってことやろ?手よりは服の中とかにも入れやすそうだし、ツッキー
エッチやん☆」
「そ、そないなことないです!これでそんなふうにされたことないですし、そもそもして
るときに俺が木にぶつかる衝撃を和らげようとして・・・あっ!」
余計なことまで言ってしまったと、毛利は肉球のついた手で口を覆う。
「なるほど。そもそもそれが出るようになったきっかけが最中ってことか。」
「やっぱ、間違ってへんやん。」
「木にぶつかる衝撃って、どこでどんな体位でしてんだよ?」
「まあ、人族以外は基本寝床が外ですからね。そこまでおかしくはないんじゃないですか?」
余計な部分について、つっこみを入れてくる他のメンバーに毛利は恥ずかしそうにしなが
ら越知に謝る。
「わーん、すんません、月光さん!」
「さして問題はない。」
シュルシュルとマタタビの蔓や葉をしまいながら、越知はいつも通りの口調でそう口にす
る。毛利も手を元に戻すと、恥ずかしさを鎮めるためにずずっとお茶を飲む。
「まあ、確かにあの月食の日はいつもと違うて大変やったけど、個人的には悪くなかった
んちゃうかなと思っとるで。」
「それはちょっと分かる。」
何気なく種ヶ島が呟いた言葉に遠野は同意する。何がとは言わないが、その日にしたこと
がよかったのは確かであった。
「確かにあのときの毛利は、この上なく愛らしかったな。」
「月光さんもずっとええ匂いでしたし、匂いも強めでずっと気持ちよかったです。」
「ケモ度が高くなってたら、越知の匂いの効果も強そうだしな。俺はかなり不本意だった
けど、修二が美味かったのは間違いねぇし。」
「それ聞いて嬉しいわ☆」
「私自身はそこまで影響があったわけではありませんが、遠野くんは可愛かったですし、
皆さんから面白い話もたくさん聞けたのでよかったです。次の皆既月食が楽しみですね。」
楽しげにそう言う君島の言葉を聞いて、他のメンバーは少し複雑な気持ちになりながらも
頷く。
いつもとは違うことが起こった皆既月食の夜。そのときのことを話しながら、そこにいる
メンバーは少しの恥ずかしさと楽しさ、そして、まだ先の次の皆既月食への期待感を胸に
抱くのであった。
END.