月蝕狂想曲 −君篤−

ここは、様々な種族が住む世界。人族、獣族、鳥族、魚族、虫族、花族などが共生してい
る。人族以外は、二つのモードを持っており、感情や気分、状況によってモードが変わる。
それぞれの種族が、その種族特有の特徴を持っており、その特徴を生かしながら環境に順
応している。今日は明るい満月が夜空に輝いている。しかし、今日の満月は少し特別で、
その兆候がゆっくりと表れ始めていた。

夜空に浮かぶ満月が少しずつ欠けていることに気づきもせず、遠野はリビングでファッシ
ョン雑誌を読んでいた。
「おっ、これ悪くねぇな。今度君島に街に連れてってもらうか。」
雑誌に載っている服を買いに行きたいと、遠野はそんなことを呟く。ページをめくろうと
したそのとき、紙の端で指先を切ってしまう。
「んっ・・・」
指先が切れて痛いと感じるのではなく、ゾクッと気持ちいい感覚が遠野を襲う。
(あれ?俺、いつの間にリンゴモードになってんだ?)
雑誌を読み始めたときは間違いなくヘビモードだったのだが、今はリンゴモードになって
いる。君島が近くにいないので、あえてリンゴモードでいる理由はない。とりあえず、ヘ
ビモードに戻ろうとしてみるが、何故かヘビモードに戻れなかった。
「えっ?何でだ?ヘビモードになれねぇ・・・」
呪いをかけられていたときとは逆の状態になっていると、遠野は困惑する。しかし、リン
ゴモードだからと言って特に困るはないだろうと、遠野はそのまま雑誌を読み進めようと
する。
(・・・指先がゾクゾクして集中出来ねぇ。)
痛みを快感と認識してしまう性質故に、遠野は指先から伝わるほのかな快感にムラムラし
てきてしまう。
「ハァ・・・」
(やっぱリンゴモードだと、いろいろよくねぇな。)
雑誌を読む気分ではなくなってしまい、遠野は雑誌を閉じてテーブルの上に置く。もう少
しハッキリとした刺激が欲しいと、遠野は自分の手の甲をぎゅっと抓る。
「んあっ・・・!」
(ヤベェ、気持ちいい・・・)
実際は痛みであることは理解しているものの、感じる感覚としては快感であるため、遠野
は自分の肌を抓ったり、爪を立てたりすることを止められなくなってしまう。
「あっ・・・ハァ・・・んっ・・・」
(こんなのダメなのに・・・)
してはダメだと分かっていても、本能がより大きな刺激を求める。もっと分かりやすい痛
みすなわち快感を感じたいと、遠野は腕を捲り自身の腕にガブリと噛みつく。
「んんんっ・・・!!」
痛みが強いほど快感は大きくなるので、遠野はくっきりと歯形がつき、血が滲むほどに歯
を立てる。
(気持ちいい・・・ああ、もっと・・・)
「ハァ・・・ハァ・・・もっと・・・」
痛みを求める衝動が溢れ、遠野の頭にハサミやカッターなどの刃物が思い浮かぶ。
(さすがにそれはマズイ・・・ああ、でも、自分じゃ止められねぇ。)
このままでは取り返しのつかないことをしてしまうと、遠野はギリギリ残っている理性を
フル稼働させ立ち上がる。
「君島・・・」
自分では抑えられないこの衝動を君島に止めてもらおうと、遠野はフラフラとした足取り
で君島の部屋へと向かった。

自室で紅茶を飲みながら、君島は窓の外の月を眺めていた。
「そういえば、今日は皆既月食でしたね。いつの間にか随分欠けているようだ。」
既に半月よりは欠けている月を見ながら、君島はそう呟く。こういう月も悪くないと、静
かに紅茶を口に運ぶとノックもなしに部屋のドアが開く。
「ん?」
「き、君島ぁ・・・」
「っ!!」
息を乱しながら顔を紅潮させ、甘いリンゴの香りを辺りに撒き散らしながら現れた遠野に、
君島は素直にドキッとしてしまう。どうにかこの衝動を君島に止めてもらいたいと、遠野
は迷うことなく君島のもとまで歩いて行き、震える手で君島に抱きつく。
(っ・・・すごい香りだ。)
「どうしたのですか?遠野くん。」
内心ひどくドキドキしているのだが、表面上は全くそんな素振りは見せず、君島は冷静な
口調でそう尋ねる。
「何か・・・ヘビモードになれなくて、リンゴモードでいたら、無駄にムラムラして、自
分を痛めつけるのが止められねぇ・・・」
チラリと遠野の腕や手を見てみると、自分でつけたと思われる引っ掻き傷や噛み傷がいく
つもついていた。
「確かにせっかく綺麗な遠野くんの肌が傷だらけになっていますね。」
「刃物も使いたくなってきたから、それはさすがにヤバイと思って・・・もう自分じゃ止
められねぇから、助けてくれ。」
縋るように自分に助けを求めてくる遠野に、君島は興奮してしまう。
(この状態で私に助けを求めにくるなんて、思ったより信頼されているのですね。)
「分かりました。遠野くんのその衝動、私がどうにかしてあげますね。」
発情している遠野の顔をその目で捉え、ニッコリと微笑みながら君島はそう言い放つ。君
島がそう言ってくれるなら安心だと、遠野は君島の言うことには迷わず従おうと決めた。

遠野がこれ以上自傷行為をしないようにと、君島はあるものを遠野に嵌める。
「これ、ピロリーでしたっけ?こんなもの作って何になるんだと思ってましたけど、ちゃ
んと役に立ちましたね。」
処刑好きな上、手先が器用な遠野は、好きな処刑具で作れそうなものは自作したりしてい
た。ピロリーはいわゆるギロチン拘束をするためのもので、首と両手を一列に並んだ穴に
嵌め、身動きを取れなくさせる枷の一種だ。それを作ってみたと嬉しそうに自慢にしにき
たときには、呆れたような反応を見せ、相手しなかった君島であるが、実際遠野がそれを
つけている姿を見ると、なかなか悪くないと自然に口元が緩む。
「俺も自分に使われるとは思ってなかった・・・」
「でも、ピッタリですよ?」
「そりゃ・・・一応、使えるか確認するために自分で試してるし・・・」
「へぇ、そうなのですね。一人でそんなことして、随分やらしいですね。」
意地悪くそう言う君島の言葉に遠野はカアァと赤くなる。そんな反応をする遠野を可愛ら
しいと思いながら、君島はベッドに腰かける。
「私の膝に上半身を乗せるようにして、膝をついてください。」
「・・・・・・」
君島に言われた通り、遠野は首と手に嵌められているそれが君島にぶつからないようにし
ながら、胸と腹を君島の膝に乗せ、床に膝をつく。何をされるのだろうと遠野は胸を高鳴
らせる。
(今の遠野くんは、いつもより感覚が鋭くなっていそうだしな。大したことをしなくても
いい反応を見せてくれそうだな。)
そんなことを考えながら、あるものを手に取り、逆の手でピロリーに触れる。
「今の遠野くんのこの格好、まるでギロチン刑を受ける前みたいですよね?」
「た、確かにそうかもしれねぇけど・・・」
遠野の長い髪は首を通している穴の顔側に流れているので、首の後ろは君島に晒されてい
る。普段は髪で隠れているそこに、今手にしているものをすっと当てる。
「ひっ・・・!!」
ひんやりとした薄い何かがうなじに当てられ、ピロリーを嵌められている遠野はそれが何
かを確認することが出来ず、刃物のようなものであると知覚する。
「これをすっと引いたら、遠野くんのここは切れてしまうかもしれませんね。」
「あっ、あっ・・・君島・・・」
「切って欲しいですか?」
君島の言葉に遠野はビクビクと震え、興奮から呼吸が荒くなる。持っているそれをより強
くそこに押し当てると遠野の身体はビクッと跳ねる。
「やっ・・・ああぁんっ!!」
「ふふ、感じているのですね。だったら、もっと気持ちよくさせてあげますよ。」
そう言いながら、遠野のそこを切り裂くが如く手に持っているそれを押しつけたまますー
っと引く。
(嘘だろ!?マジで切られて・・・)
「あああぁんっ!!」
首の後ろを本当に切られていると錯覚し、遠野は甘い悲鳴を上げ、ガクガクと下肢を震わ
せる。そんな遠野の反応にゾクゾクしながら、持っているものを口元に当て、君島は妖し
い笑みを浮かべる。
(首に当てているのはただの金属の定規なんですけどね。しかも当てているのは厚みのあ
る方で、切れるなんてことはないのですが。やはり、今日はかなり刺激に対して敏感にな
っているようですね。)
「ハァ・・・ハァ・・・」
息を乱しながら恍惚としている遠野を横目に、持っていた定規を元の位置に戻すと、君島
は遠野のズボンと下着を片手で下ろす。あらわになったそこを軽く撫でると、遠野はビク
っと反応する。
「自分で自分をこんなに傷つけて、遠野くんは悪い子ですね。」
「えっ・・・なっ・・・?」
「お仕置きです。」
そう言いながら、君島は遠野のそこを少し強めに叩く。
「ああぁっ!!」
予想していた以上によい音が響き、君島は思わず口元を緩ませる。
(そんなに強く叩かなくてもこんなに大きな音が出るのか。今の遠野くんにはちょうどい
い刺激ですね。)
「あっ・・・君島っ・・・」
「もっと叩きますよ?それともやめます?」
自分から叩かれることを望むのはさぞ恥ずかしいだろうと、わざと君島は遠野に選択させ
る。
(そんなの決まってるだろうがっ・・・)
ほんの少しの羞恥心を感じながらも、痛みを求める衝動が強く、遠野は迷わず答える。
「た、叩いて欲しい・・・」
「分かりました。」
予想通りの答えだと、嗜虐的な笑みを浮かべ、軽く手を振り上げる。再び君島の手の平が
遠野のそこにぶつかると、強さのわりにはいい音が響き、遠野の口から甘い声が漏れる。
「んあああっ!!」
「そんなに嬉しそうな声を上げられると、全然お仕置きになりませんね。」
「ハァ・・・君島、もっと・・・」
「いいですよ。」
遠野に求められるまま、君島は何度もそこを叩く。動けない状態で君島に臀部を叩かれて
いる状況とその刺激に、遠野は芳しいリンゴの香りを放つ。叩くたびに甘く強くなるその
香りに、君島の気分は高揚する。
(スゲェ気持ちイイ・・・このまま続けられたら・・・)
「んあっ・・・君島っ・・・ああぁんっ!!」
「ふふ、こんなことをしているのに、本当に気持ちよさそうで可愛いですね。」
「やあぁんっ・・・あっ、も・・・ヤバっ・・・」
遠野の反応からそろそろイキそうであることを理解し、君島は音よりも強さを重視した形
で遠野のそこを叩く。
「ひっ・・・イッ・・・!!んああぁんっ!!」
ビクビクと震えながら、自分の膝の上で達する遠野を眺めながら、君島は何とも言えない
恍惚感を覚える。少し赤くなっている遠野のそこを優しく撫でてやると、遠野は背中を仰
け反らせるようにして大きな反応を見せる。
「ああぁんっ!!ダメだっ・・・イッてるのに、そんなふうに触られたら・・・」
「気持ちいいですか?」
「ひあっ・・・気持ちいっ・・・あああぁっ!!」
君島がそこに触れていると、ジンジンと痺れるような快感がいつまでも収まらず、遠野は
しばらくイキ続けているような状態になる。相当よかったようで、君島がそこから手を離
しても遠野はしばらくビクビクと震えていた。
「ハァ・・・んっ・・ハァ、ハァ・・・」
(分かってはいたけれど、実際これでイクのを目の当たりにすると結構クるな。)
「イッて少しは自傷衝動も落ち着いてるでしょうし、これは外してしまいますね。」
「んっ・・・」
繋がるには今遠野の首についているものは邪魔だと、君島はそれを外す。首や手を自由に
動かせるようになると、遠野はゆっくりと身体を起こし、膝に引っかかっていたズボンと
下着を足から抜く。そして、君島の首に腕を回して、君島の脚を跨ぐようにして膝をつく。
「お前のがずっと腹に当たってて、ケツ叩かれるのもスゲェ気持ちよかったけど、早く繋
がりたくてもどかしかった・・・」
「おや、そうなのですね。だったら、すぐにでも挿れてもいいですよ?」
挿れるかどうかは遠野次第だと言いながら、君島は既に十分な大きさになっているそれを
外に出す。あらわになったそれに視線を落とし、ゾクゾクとしながら遠野は自身の入口に
それを押し当てる。
「んっ・・・ハァ・・・」
(早くこれを挿れたい!)
今は痛みを求める衝動よりも君島と一つになりたい気持ちが上回り、遠野はその衝動に従
い、腰を落とす。花族の特性で、遠野のそこは溢れんばかりの蜜で濡れ、君島の楔を余す
ところなくぬるりとした壁で包み込む。
「んあああぁっ!!」
「んんっ・・・!!」
「あんっ・・・君島の、やっぱ気持ちいい・・・」
ぎゅうぎゅうと君島の熱をその内側で締めつけながら、遠野はうっとりとそう呟く。
「ハァ・・・遠野くんの中も熱い蜜が溢れていて、とても気持ちいいですよ。」
「んあっ・・・あっ、んっ・・・!!」
もっと君島のその形を感じたいと、遠野は腰を上下に動かし始める。もう幾度も交わって
いることもあり、遠野のそこは君島の形にピッタリとフィットする。それはどちらにとっ
ても非常に心地よく、一つになっている感覚をより強く感じさせる。
(痛くするのもされるのも気持ちいいけど、やっぱ君島と繋がってるこの感じが一番気持
ちいい。)
そんなことを考えながら、遠野はじゅぷじゅぷと自分の中で君島の熱を擦り続ける。
「んあっ・・・遠野くん!!」
「ハァ・・・んっ・・・くっ・・・あっ、あっ・・・!」
「くっ・・・・気持ちいいっ・・・」
遠野の中があまりにも気持ちよすぎて、君島は言葉にせずにはいられないほど感じていた。
そんな君島の言葉を聞いて遠野は嬉しくなり、胸に留めておけない想いを口に出す。
「あんっ・・・君島、好き、好きっ・・・!」
「あっ・・・」
「好きだ・・・君島っ・・・!!」
「遠野くんっ!!」
花族が心の中で思っていることは全て、その香りや蜜に影響を与える。口に出さずにはい
られないほどのその想いは、内側から溢れる蜜にも全身から放たれる香りにも最大限に含
まれる。
(どうしよう。抑えられないくらい遠野くんのことが愛おしくてたまらない。)
溢れんばかり遠野の想いに包まれ、君島も遠野への想いが極限まで高まる。そんな相手と
今一つに繋がっている。その幸福感たるや言葉では言い表せないと、君島は陶然とした表
情で遠野の頬に触れる。
「君島・・・」
「遠野くん・・・」
互いの名前を口にし、しばらく見つめ合った後、唇を重ねる。何度か唇を合わせた後、も
っと深く繋がりたいと舌を絡める。
(今日はいつもより君島と一つになってる感覚がスゲェ。ずっとこのままでいてぇ。)
(極上のリンゴの味。ああ、もっと味わっていたい・・・)
口づけを交わしながらも、遠野はゆるゆると腰を動かす。遠野の蜜がゆっくりと身体の中
に取り込まれ、じわじわと高みへと押し上げられていく。いつもよりゆっくりと何かが込
み上げてくる感覚に二人は夢見心地で会話を交わす。
「ハァ・・・んっ、ちょっとイキそうかも・・・?」
「私もです・・・今日は高まり方が穏やかですね・・・」
「じわじわと気持ちいいのが強くなるこの感じ・・・嫌いじゃねーぜ。」
「同感です。」
「なあ、君島・・・君島も俺のこと好きって言ってくれよ・・・」
「仕方ないですね。」
どちらも軽く呼吸を乱しながら、お互いの顔を見て口角を上げる。
「好きですよ、遠野くん。」
「俺も。君島のこと大好きだぜ。」
お互いの好きという言葉で、一気に絶頂感が高まる。ぎゅっと抱き合いながら、一番深い
場所で繋がる。
「んっ・・・イクっ・・・!!」
「あっ・・・君島っ・・―――っ!!」
高まるのも穏やかであったため、その絶頂感はゆるやかにいつもより長く続く。一つに融
けてしまいそうな心地よさを味わいながら、二人は絶頂感が治まってもしばらく繋がった
ままでいた。

皆既月食の皆既の状態が終わり、月の形が半分ほど戻ったあたりで、二人はやっと離れる。
しばらく経っても、繋がっていたときの幸福感がまだ残っており、どちらもいい気分でベ
ッドに横になっていた。
「君島がしてくれたおかげで、あのヤバイ衝動は治まったし、お前とするのは気持ちよか
ったしで、よかったぜ。」
「それは何よりです。」
「本当お前がいてくれて助かった。お前がいなきゃ何してたか分からなかったからな。あ
りがとな。」
「いえ・・・」
自分と出会わなければ、リンゴモードになることはなかったので、そんな危険な状態には
ならなかったのではないかと思いながらも、それを言うのは少し違う気がして、君島はそ
の言葉を飲み込む。
「それにしても、何で急にヘビモードになれなくなっちまったんだろうな。今もまだなれ
ねーし。」
「あっ、もしかすると・・・」
「えっ?何か知ってるのか?」
「皆既月食の影響かもしれませんね。今日は皆既月食なんですよ。」
「へぇ。じゃあ、それが終わったら戻るかもしれねーってことか?」
「あくまでも予想ですが。」
ベッドから下りて、窓の外を見てみると、まだ少し欠けているものの、もう少しで満月に
戻るくらいには光が戻ってきていた。
「あっ、そろそろ終わりそうだ。」
月食が終わり、真ん丸の満月に戻るのを確認すると、遠野はヘビモードになれるか試して
みる。
「おっ、ヘビモードになれたな。」
「よかったですね。」
「お前の好きじゃないモードなのにそう言ってくれるとは優しいじゃねーか。」
「異常状態が解消したなら、それくらいのことは言うでしょう?」
からかうようにそう言う遠野に君島は冷静にそう返す。ヘビモードはリンゴモードとは異
なり、痛覚はちゃんと痛覚なので、リンゴモードのときに自分でつけた傷がヒリヒリズキ
ズキと痛むことに気づき、遠野は顔をしかめる。
「手とか腕とか結構痛ぇな。」
「結構な勢いでつけていたみたいですからね。」
「あれ?でも、君島が切った首の後ろとかあんだけ叩かれたケツとかは全然痛くねぇ気が
する。」
よっぽど君島の方がひどいことをしているはずなのにそこは全然痛くないと、遠野は不思
議そうな表情でその部分に触れる。
「当然ですよ。そもそも首の後ろは切っていないですし。」
「は?でも思いっきり刃物当ててただろ?」
「遠野くんの首に当てていたのはこれです。しかも、こちら側なので切れるわけないでし
ょう?」
そのときに当てていた金属の定規を君島は遠野に手渡す。君島が示した方はいくらか分厚
くなっている側なので、確かにこれで皮膚が切れてしまうとは思えなかった。
「マジかよ。メチャクチャ切られてる感じしたのに。」
「遠野くんは処刑や拷問を想像して、イけてしまうくらいなんですから、そう思い込ませ
れば、刃物だと信じてくれると思いまして。」
「はあ!?何かスゲェ騙された感じだし。」
やはり刃物だと信じていたのかと君島はクスッと笑う。
「お尻の方はもともと他の部分に比べたら痛みは感じにくい部分ですし、そもそもそこま
で強く叩いてませんから。わざと音が大きくなるようにはしてましたけど。」
「えー、メチャクチャ気持ちよかったのに。いや、そこまでじゃなくてもいいってことは、
逆にいいことなのか?」
わりと素直な感想を口にする遠野の言葉に君島は吹き出してしまう。
「本当リンゴモードの遠野くんはドMですよね。そこがいいところではあるんですが。」
「お前だってドSなんだから、俺がそうじゃなかったら大変だろ。そうじゃなきゃ、処刑
好きな俺以上のただのヤベェ奴だからな。」
君島の言葉に遠野は負けじと言い返す。お互いに少し特殊な性癖であると自覚していなが
らも、それ故相手との相性は抜群なので、それが問題だとは微塵も思っていなかった。
「あっ、でも、あれだからな!確かにリンゴモードの俺は痛いのが気持ちよく感じちまう
けど、一番気持ちいいのは君島と繋がってるときだからな!」
「なっ!?」
「痛いのだけ気持ちいいと思われてるのは癪だからよ。ちゃんと覚えとけよな!」
「遠野くん・・・」
その告白の攻撃力はなかなか高めだと、君島の顔は赤く染まる。
(そんなことを言われたら、余計に遠野くんと繋がることが嬉しくなってしまう。)
「全く遠野くんは正直すぎるんですよ。そういうことは、自分の胸に留めておいてくださ
い。」
「はあ?お前は知ってて損はねーだろ。別にお前以外にはこんなこと言わねぇから安心し
とけ。」
まるで二人だけの秘密だと言わんばかりの遠野の言葉に、君島はときめいてしまう。冷静
さを保っていたいのに、遠野の言葉に心をかき乱されてしまうことを悔しく思いながらも、
君島の胸はどこか満ち足りていた。

いつもとは少し違う月食の夜。一つ間違えれば危険な状態になる可能性のあった遠野のモ
ード異常も、君島の的確なコントロールのおかげで、いつも以上に楽しむためのスパイス
となった。月食の影響で素直な想いがいつもより溢れ、二人の絆は自然と深まるのであっ
た。

                                END.

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