月蝕狂想曲 −月寿−

ここは、様々な種族が住む世界。人族、獣族、鳥族、魚族、虫族、花族などが共生してい
る。人族以外は、二つのモードを持っており、感情や気分、状況によってモードが変わる。
それぞれの種族が、その種族特有の特徴を持っており、その特徴を生かしながら環境に順
応している。今日は明るい満月が夜空に輝いている。しかし、今日の満月は少し特別で、
その兆候がゆっくりと表れ始めていた。

森の寝床で休んでいた越知は、自身の身体に起こっている異変に気づく。本来満月の日は
月下美人モードになるはずなのだが、今日はマタタビモードのままだ。そして、特に感情
が昂っているわけでもないのにマタタビの匂いがひどく強くなっている。
(月下美人モードになれない。何かがおかしい・・・)
そう思いながら空を見上げると、先程まで真ん丸だった月が少し欠けていることに気がつ
く。
「月食か。」
モードが変わらないのは月食の影響があるかもしれないと、越知は推察する。いつもであ
ればそろそろ毛利がここへやってくる頃だ。
(毛利は大丈夫だろうか。)
自分は月下美人モードになれず、花族特有の香りが強くなっているだけだが、他の種族は
違うかもしれないと、越知は毛利の身を案じる。しばらくすると、毛利が越知のもとへや
ってくる。
「あっ、月光さん!遅くなってすんません!何や今日はちょっとおかしくて。」
いつもであれば、夜になるとコウモリモードでいることが多い毛利であるが、越知の前に
現れた毛利はヤマネコモードであった。しかもその姿はかなりいつもと違っていた。
「毛利・・・?」
「うわっ、月光さん、マタタビの匂いすごいですね。月下美人モードやなくて、マタタビ
モードってことはやっぱ月光さんももう一つのモードになれない感じになっとります?」
「ああ。お前もそうなのか?」
「はい。いつもやったらコウモリモードになる時間帯なんやけど、全然なれなくて。しか
も何やヤマネコモードもおかしなことになっとって・・・」
一目見たときから気づいていたが、今日の毛利はかなり獣感が高くなっている。いつもは
ヤマネコモードでも猫耳と尻尾がついている程度で、残りの部分は人と変わらないような
見た目であるが、今日は猫耳と尻尾の他に手足も猫っぽくなり、顔も猫のヒゲが生えてい
たり、瞳の雰囲気も猫特有のものになっている。服であまり見えてはいないが、体全体に
も猫の毛が生えているように見受けられた。
「ホンマ今日獣感すごいですよね。手もこんななってますし。」
そう言いながら、毛利は手の平を越知に見せる。毛の生えた柔らかそうな手の平の中心に
は、普段はない肉球が存在していた。
(肉球まで・・・ああ、この姿はダメだ。)
もともと毛利のことは大好きであるが、動物としての猫も大好きな越知は、かなり猫寄り
の姿になっている毛利にすっかり心を奪われていた。
「ここに、触れてもよいだろうか?」
ピンク色の肉球を見せつけられ、越知はどうしようもなくそこに触れたくなってしまう。
「へっ!?べ、別に構わんですけど・・・」
毛利の許可を得て、越知は毛利の肉球をふにっと押してみる。
「うにゃあんっ!!・・・っ!?」
「っ!!」
勝手に漏れてしまった猫の鳴き声のような声に、毛利は顔を真っ赤にして口を覆う。愛ら
しいその鳴き声に越知の鼓動は速くなる。もう一度今の声が聞きたいと、越知はふにふに
と柔らかい肉球を揉みしだく。
「にゃっ!!んにゃっ・・・にゃんっ!!」
(可愛すぎるっ・・・)
猫の鳴き声を漏らす毛利に、越知はひどく興奮してしまう。それはマタタビモードの香り
をさらに強くし、側にいる毛利を酔わせる。
(肉球触られるの気持ちいいし、月光さんの匂いがいい匂いすぎて・・・)
「つ、月光さん・・・もうアカンですぅ・・・」
「あ、ああ。すまない。つい・・・」
「月光さんの匂い強すぎて、我慢出来へん・・・」
強いマタタビの匂いに酔い、毛利はあからさまに発情しているような表情になる。自分好
みの姿に、蕩けるような表情。そして、時折漏らす猫のような甘い鳴き声に、越知もその
気になっていた。
「今日はお前のその姿が好みすぎて、手加減出来そうにない。大丈夫か?」
「大丈夫です!ぎょーさんしてください!!」
いつもより猫っぽい顔で嬉しそうに笑い、毛利は越知に向かって腕を伸ばす。あまりに自
分好みの毛利の姿に越知は自分の中の理性が崩れていくのを感じていた。

既に半分ほど陰に覆われた月の下で、いつもよりふわふわとした毛利の体をしっかり抱き
ながら、越知は毛利に深く口づける。いつもよりザラザラとしている毛利の舌に触れ、越
知はゾクゾクしてしまう。越知の口内から溢れる甘い蜜は、毛利の舌を伝い、ゆっくりと
体内に取り込まれる。越知の蜜を飲み込むたび、毛利は身体の奥からじわじわと甘い快感
に侵食されているような感覚を覚える。
「んっ・・・んんん・・・」
(ああ、この舌ざわりも身体の柔らかさもたまらない・・・)
月食の影響なのか越知は箍が外れているような状態になり、自身の舌で執拗に毛利の口内
を責める。しかし、媚薬のような甘い蜜を存分に飲まされることで、毛利がそうされて感
じるのは蕩けるような心地よさだけであった。
(月光さんメッチャええ匂い・・・口ん中気持ちよくて蜜も甘くて、ずっとキスしとって
欲しい。)
そんなことを考えている毛利であったが、越知の蜜の媚薬的な効果の影響もあり、繋がる
場所がひどく疼いてくる。尻尾をピンと立てながら、ゆらゆらと腰が動いているのに気づ
き、越知は唇を離す。
「んはっ・・・ハァ・・・ハァ、月光さん・・・」
唇を離されると、毛利は無意識に越知の胸に頭をすりすりと擦り付ける。猫が甘えるよう
なその仕草に越知の胸はひどくときめく。
(その姿でその仕草は反則だ。)
繋がるための場所が切なく疼き、毛利は下に穿いていたものをするりと脱ぐと、まるで発
情期の雌猫がそうするように、尻尾を立て四つん這いになりながらそこを越知に見せつけ
る。
「月光さん・・・はよ繋がりたいです・・・」
その部分もヤマネコと人のちょうど中間くらいの状態になっており、目の前に広がる光景
に越知は息を呑む。すぐに繋がりたい衝動に駆られるが、それは毛利を傷つけてしまう可
能性があるため、毛利の腰に腕を伸ばし、座ったまま後ろから抱きしめるような形で抱き
寄せる。
「せっかくならば、気持ちよい方がよいだろう。挿れるのはきちんと慣らしてからだ。」
「んん・・・」
もどかしい気はするが、越知の言うことももっともだと、毛利は大きく脚を開き、越知に
寄りかかる。自身の指を口に含んで十分に濡らすと、越知は猫の毛で覆われている双丘の
中心にその指を挿れる。
「んにゃああんっ!!」
「っ!!」
「にゃっ・・・んにゃっ・・・月光さん・・・」
いわゆる喘ぎ声が猫の鳴き声のようになっていることに、越知の胸はひどく高鳴る。猫に
近い見た目に猫の鳴き声のような甘い声。それが越知のフェチズムを刺激する。
「ハァ・・・毛利。」
「んにゃあっ・・・にゃっ・・・にゃあっ・・・!」
猫感の強い毛利を抱きながら、越知は猫にするような愛情表現をしたくなる。ふわふわと
した毛利の髪に顔を埋め、スーハーと息を吸う。
(ああ、いい香りだ。)
「にゃあぁんっ!!」
猫吸いのようなことをされ、越知の匂いや蜜の影響でどこもかしこも敏感になっている毛
利はゾクゾクしてしまう。越知の蜜の絡んだ指で中を弄られ、愛情を込めて猫吸いされる。
それがどうしようもなく気持ちよく、毛利は呼吸を乱しながら、絶え間なく鳴き声を上げ
る。
(メッチャ気持ちええ。月光さんもいつもより興奮しとるみたいやし、あー、何や愛され
てる感ヤバくてたまらん。)
「ハァ・・・つ、月光さん・・・俺もう我慢出来へんです・・・!」
「俺もだ。」
どちらも身体の奥が疼き、繋がりたい欲求がこの上なく高まる。二人を照らしている月は
既に8割ほど陰で覆われ、かなり弱い光になっていた。
「その姿にふさわしいのは、おそらく後背位だろうが、今日はお前のその顔を存分に眺め
ていたいし、しっかりと抱き合っていたい。」
そう言って、毛利の身体を自分の方へ向かせると、既に先走りの蜜が溢れてきている雄し
べを毛利の入口へあてがう。
「ハァ・・・んにゃっ・・・」
越知の首に腕を回し、これから繋がる期待感に毛利は息を荒げる。毛利の潤んだ目を見つ
めながら、越知は深く毛利の中へ侵入する。
「にゃああぁんっ!!」
「くっ・・・!!」
もっと深くまで繋がりたいと、越知は繋がったまま毛利の身体をしっかりと抱いて立ち上
がる。側にある木に毛利の背中をつけると、ぐっとさらに腰を進める。
「にゃあんっ・・・深・・い・・・っ!!」
「すまない。今日は止められそうにない。」
「にゃっ・・・だ、大丈夫でっせ・・・こないに深く繋がれて・・・嬉しいです・・・」
艶やかな笑みを浮かべ、毛利はそう口にする。そして、越知の首にしっかりとしがみつき、
その背中に脚を絡ませる。毛利が触れている部分は猫の毛のぬくもりが感じられ、越知は
その心地よさに魅せられる。
「はぁ・・・んにゃっ・・・にゃんっ・・・」
(可愛い、気持ちいい・・・好きだ。)
毛利の中を穿ちながら、越知は絶え間なくそんなことを考える。越知の想いは匂いや蜜に
反映される。しかも今日は越知の意思とは関係なく、いつもよりその香りが強く放たれて
いる。獣族の本能が強くなっている毛利にとって、それは狂おしいほどの多幸感をもたら
す。
(ええ匂い・・・どこもかしこも気持ちええ・・・月光さん大好き・・・)
「月光さん、月光さんっ・・・にゃあっ・・・にゃあぁんっ!!」
「毛利っ・・・ハァ・・・」
「月光さんっ・・・もっと奥の方、ぎょーさん擦ってください・・・!」
「ああ。」
先程より激しく動く越知であるが、毛利の背中が木にぶつかっていることに気づく。越知
の香りと蜜で陶酔状態の毛利はそんなことは全く気にしていないのだが、越知は少しでも
楽にさせたいという思いに駆られる。
ぶわっ
『っ!?』
次の瞬間、越知の腰の辺りからマタタビのつるが伸び、葉や花で毛利の身体を覆う。葉や
花がクッションになり、毛利の背中が直接木にぶつかることはなくなり、その体位故に不
安定だった身体は、かなり安定する形で支えられていた。
「つ、月光さん・・・これは?」
「俺もこんなことになったのは初めてでよく分からないが、どうやらマタタビのようだ。」
「花族はこないなことも出来るんですね。」
「今日初めて知ったがな。」
「せやけど、月光さんがこうしてくれたおかげで、月光さんと繋がっとるとこだけに集中
出来るようになりました。」
越知の出したつるのおかげで、そこまで気張ってしがみついている必要がなくなったと毛
利は嬉しそうに笑う。それは自分にとっても好都合だと、越知は大きく腰を動かす。
「んにゃああっ!!」
「確かにこの方がお前をより感じられるな。」
毛利の身体を覆っているマタタビの葉や花も越知の一部なので、人の形をした部分よりは
いくらか弱いものの毛利に触れている感覚があった。
(あ、身体覆われてるんもマタタビやから、これはアカンかも・・・)
全身を越知のマタタビで覆われ、毛利は甘く大きな快感が身体の奥から迫り上がってくる
のを感じる。
「ハァ・・・んにゃっ・・・月光さ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
だんだんと大きくなっていく快感に抗えず、毛利は激しく呼吸を乱し、蕩けた瞳で越知を
見る。
(何だか急に毛利の中が耐えられないほど、気持ちいい・・・)
そんな毛利に呼応するように越知の快感も一気に高まる。二人の真上に浮かぶ月は赤銅色
に染まり、いつもの明るく白い光はその姿を消す。
「にゃんっ・・・にゃっ・・・んにゃあっ・・・!!」
「毛利・・・ハァ・・・くっ!!」
「月光さんっ・・・んにゃっ・・・俺、もう・・・」
「俺もだ。んっ・・・」
どちらも耐え難いほどの大きな快感の波に襲われ、ビクビクとその身を震わせる。
(気持ちええ!!好き、好き、好き!!)
(可愛い、可愛い、可愛い・・・)
「んにゃあぁっ・・・イ、イクっ・・・!!」
「・・・・っ!!」
「にゃあああぁっ!!!!」
毛利のことを大切に想いながらも極上の快楽を与えいと願う越知の想いがこもった熱く濃
い蜜が毛利の中へ放たれる。その蜜を搾り取るかのように、毛利の柔らかい壁は幾度も収
縮を繰り返す。
(外は全部月光さんに包まれとるし、中も月光さんの蜜でいっぱいや・・・あー、メッチ
ャ幸せやー。)
越知の雄しべがビクビクとしているのを感じながら、毛利はうっとりとする。しばらく越
知にぎゅっと強く抱きしめられていたが、ふとその力が緩む。
「ハァ・・・ハァ・・・毛利。」
「メッッチャ気持ちよかったです・・・」
「ああ・・・そうだな。」
まだ落ち着かない様子で、呼吸を乱している越知を見て、毛利はあることに気づく。
「月光さん、もしかして全然収まってない感じです?」
「・・・ああ。すまない。」
「何で謝るんですか?せやったら、もっとしましょ♪」
まだ越知に包まれている状態のこの気持ちよく幸せな時間が続くと分かり、毛利の胸は嬉
しさで躍る。毛利のその誘いに興奮し、越知は再び腰を動かし始める。
「んにゃあんっ・・・!!」
「今日のお前のその鳴き声、すごく好きだ。」
「きょ、今日は何や勝手にこうなってまうんで・・・ちょっと恥ずかしいです。」
「それからその見た目も・・・」
「月光さん、本物の猫ちゃん大好きですもんね。ケモ度の高い俺、どないですか?」
「本当に可愛くて・・・可愛すぎて、ずっと俺の腕の中で愛でていたくなる。」
冗談っぽく聞いてみたつもりだが、予想以上に越知が熱い視線を向け、感情を込めて答え
るので、毛利の体は反応してしまう。ぎゅーっと内側が締まるのを感じ、越知は毛利が今
の言葉に喜んでいることに気づく。
「お前は可愛いと言われて嬉しいのか?」
「へっ!?いや、その・・・つ、月光さんがそう思ってくれとるのは・・・すごく、嬉し
いです・・・」
可愛いと言われて嬉しがっていることが恥ずかしく、毛利は顔を真っ赤してそう答える。
それならばと、越知は毛利の猫耳に口を近づけ、低い声で今まで心の中に留めていたこと
を口に出す。
「可愛い。」
「んにゃっ!!」
「その声もその姿も可愛くて、大好きだ。」
「にゃああんっ!!」
越知の声で可愛いや好きだという言葉が繰り返されるのを聞き、毛利の胸はこの上なくと
きめき、身体が反応してしまう。言葉を紡ぐたび、キュンキュンと締まる内側の動きが心
地よく、越知は中にあるそれをかき回すように動かしながら幾度もその言葉を繰り返す。
(月光さんに可愛い言われたり、好き言われたりするのメッチャ嬉しい。繋がってるとこ
ずーっと気持ちええし最高や。)
「ハァ・・・んにゃ・・・月光さん・・・」
「ん?どうした?」
何か言いたげな声色であることに気づき、越知はそう尋ねる。猫のような大きな瞳で越知
を見つめ、ふわりとした笑顔を浮べて、毛利は甘えるような声色で言葉を放つ。
「俺も月光さんのこと、大好きでっせ・・・」
越知に繰り返し囁かれる言葉に対しての返事なのだが、越知はその言葉を聞いて、毛利に
対する想いが留めておけないほどに溢れる。
(月光さんの匂い、また強くなっとる。嬉しいと思ってくれとるんや。)
「毛利、またお前と共にイキたい。」
「ええ。また、ぎょーさん俺の中に出してください。」
毛利の言葉を聞いて、再び絶頂感が高まり、越知はそんなことを言う。ゾクゾクと甘い波
が込み上げてくるのを感じながら、二人はぎゅっと抱き合う。
「好きだ、毛利。」
「俺も大好きです!!」
越知は大好きな毛利のその姿を全身で堪能し、毛利は大好きな越知の匂いを全身に纏い感
じる。互いの全てが混じり合う恍惚感と多幸感。それらが最高点に到達したとき、二人は
一つになる歓びに甘い声を上げる。二人が悦喜の蜜を迸らせた瞬間、赤い月は光を取り戻
し、一筋の白い光が二人を照らした。

だんだんと月の形が満月に向けて戻っていくにつれ、越知も毛利もだいぶ気分が落ち着き、
抑えきれなかった香りの強さやいつもとは異なる見た目も少しずつ戻っていく。
「だいぶいつもな感じに戻ってきました。月光さんの匂いもだいぶ柔らかくなってきまし
たね。」
「ああ、そうだな。」
まだ変化途中であるため、まだいつもより猫感は強いものの、全身を覆っていた猫の毛は
消え、顔の雰囲気もいつも通りになっていた。
「結構戻りましたけど、まだ手足は猫っぽいままですわ。」
両手を眺めながら、毛利はそう呟く。猫感が残っている毛利の手にはまだ肉球が残ってい
た。
(消えてしまう前にもう一度触りたい・・・)
そう思いながら、越知が毛利の手を眺めていると、毛利はそんな越知の視線に気づく。
「肉球、もう一回触っときます?」
「いいのか?」
「はい!月光さんなら、いくらでも触ってもろてええですよ。」
「それならば・・・」
両手で毛利の手を包み、長くしなやかな指でふにふにと肉球に触れる。
「ふふ、やっぱちょっとくすぐったいですわ。」
「とてもよい触り心地だな。いつまでも触っていたくなる。」
気分が落ち着いていることもあり、そこに触れられて感じるのは少しのくすぐったさ程度
だ。もう一つ完全に元に戻る前にしておきたいと、越知は肉球に触れたまま、もふっと毛
利の髪に顔を埋め、スーハーと息を吸う。
「あっはは、月光さんそれ猫吸いですよね?」
「完全に戻ってしまう前に、もう一度しておきたいと思ってな。」
「よう分からんのですけど、それしてる方はどないな感じなんですか?」
「いい匂いがして心地よくて、とてもよい気分になる。」
「そうなんですね。オモロー!」
自分でそんな気分になってもらえることが嬉しくて、毛利は楽しげに笑う。戻るまでと越
知は毛利を自分の腕の中に収め、猫にするような仕方で存分に毛利を愛でる。ちょっとく
すぐったいと感じながらも、越知に可愛がられるのは素直に嬉しいので、毛利は越知の好
きにさせていた。しばらくそのままでいると、毛利は月の形が真ん丸に戻っていることに
気がつく。
「あっ、お月様が元に戻りましたよ!」
「お前の体もいつも通りに戻ったな。」
月食が終わると毛利も越知もいつも通りの状態に戻る。ほんの少し残念感を匂わせながら、
越知はそう呟いた。本来この時間帯は、越知は月下美人モードで、毛利はコウモリモード
なので、特に意識せずにどちらもそちらのモードに変化する。
「あ、月光さん、月下美人モードになってますね。」
「お前もコウモリモードになっているようだな。」
「よう分からんですけど、やっぱお月様がいつもとちゃうかったからかもしれへんですね。」
「そうだな。」
とりあえずいつも通りに戻ってよかったと越知も毛利も安堵する。いつも通りになったと
ころで、ちょっと試してみようと毛利はもう一度ヤマネコモードになる。人族以外は、状
況に応じて自動的にモードが変化することも多いが、基本的には自分の意思でどちらのモ
ードにもなれるのだ。
「えいっ!」
ヤマネコモードになったところで、毛利はあることを試す。試してみたところ、やりたい
ことは成功したので、毛利は満面の笑みを浮べて越知に話しかける。
「見らんせーね、月光さん!ヤマネコモードで、肉球自由に出せるようになりましたよ!」
一度そうなったならばちゃんと意識すれば出来るのではないかと思い、毛利は越知がひど
く気に入っていた肉球を出せるかを試してみた。他の部分はいつも通りであるが、毛利の
両手の平に肉球があるのを見て、越知の表情は分かりづらいながらも嬉しそうな表情にな
る。
「それは、意識すればいつでも出せるということか?」
「はい!これで月光さんが触りたいと思たら、いつでも触れますよ!」
「・・・・・。」
あまり表情には出さないものの、毛利の肉球がいつでも触れるようになったことに、越知
の胸は歓喜で打ち震えていた。月下美人の香りが甘く強くなったので、言葉はなくとも越
知が喜んでいることは毛利に伝わっていた。
「嬉しいですか?」
分かっていながらも毛利はそう尋ねる。
「ああ。毛利のそこにいつでも触れられるとは、至福の極みだな。」
「はは、何や難しい言葉使うとるけど、メッチャ嬉しいってことやね!」
「そうだな。」
再度現れた毛利の肉球に触れながら、越知は頷く。自分も身体の一部を好きなように変化
させられるようになったのだから、越知もそういうことが出来るのではないかと、毛利は
聞いてみる。
「月光さんもさっきみたいに、花とか葉っぱとか出せるようになっとるんやないですか?」
「どうだろうな?」
今は月下美人モードであるが、理論は同じだろうと越知は月下美人の花を咲かせるように
意識してみる。すると、白と青の髪を飾るかのように、大きな月下美人の花が耳の上あた
りで花開く。
「うっはー、何やかっこええ髪飾りみたいになっとりますね!!」
「これに意味があるかは分からないがな。」
「えー、似合うとるし、ええ匂いやし、メッチャかっこええですよ!俺は好きです!」
そう言われて悪い気はしないと、越知はふっと微笑む。
「お前が喜ぶのであれば、たまにするとしよう。」
「はい!」
明るい月明かりの下で、二人の楽しげな声が響く。いつもとは違う月食の夜。赤銅色の月
は二人にささやかな置き土産を残していった。

                                END.

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