極楽色の花吹雪

外の空気が暖かくなり、だいぶ春めいてきた春休み。銀は財前の家に遊びに来ていた。財
前の好きな曲を一緒に聞いて教えてもらったり、財前の作った曲を聞いたりして楽しい時
間を過ごす。3時のおやつを食べ終わったあたりで銀が財前に話しかけた。
「せや、財前はん。この後まだ時間あるか?」
「今は春休みですし、全然大丈夫っス。」
「今日はええ陽気だし、水ごりに行きたいと思ってな。この前ええ場所を見つけたんや。
一緒に行かぬか?水ごりしたくなければ、一緒に行くだけでもええんやが。」
「さっきまで、俺の好きなことに付き合うてもろたんで、一緒に行きますし、水ごりも付
き合います。何か準備していくものあります?」
「水ごり用の行衣とタオルはあるから、終わった後の着替えとかやろか。」
「準備万端やないっスか。」
行衣とタオルを持参してきている時点で、水ごりに行く気満々だったのだなと財前はくす
っと笑う。財前が一緒に水ごりをしてくれると聞いて、銀は嬉しそうな表情になった。
「ほんなら、今から行くか。あまり遅くなると寒なってしまうからな。」
「はい。ホンマ師範修行好きなんスね。メッチャ嬉しそうやないですか。」
「はは、まあ好きでやってることやしな。それに今日は財前はんと一緒に行けるんが嬉し
くてな。」
銀のそんな言葉を聞いて、財前は照れるような表情を見せる。照れていることを誤魔化す
かのように財前は出かける準備を始め、準備が終わるとくるっと銀の方を振り返り、出か
けようと促す。
「ほな、早く出かけましょ。」
「せやな。」
水ごりに行くというのになかなかに乗り気な財前に銀は顔を緩ませる。家族に二人で出か
けてくることを伝えると、銀と財前はわくわくとした様子で家を出た。

銀が財前を連れてやってきた場所は、いつも滝行をしているところとは違う場所であった。
いつもの滝よりは少し小さいが、周りにはところどころに桜の木が生えている。
「こないな場所初めて来ました。」
「ワシも最近見つけてな。あまり人も来んような場所やし、水ごりするにはええ場所やと
思うて。」
「それにそんなに多くはないですけど、桜が満開でええ感じっスね。」
「せやねん。この前来たときは、五分咲きくらいでな。そろそろ満開になってるんやない
かと思て、財前はんと来たいなあと思っとったんや。」
水ごりはついでで、どちらかと言えば、財前と桜を見ることが銀の目的であった。
「財前はん、ちょっとついて来てくれへんか?こっちにええ場所があるんや。」
「?」
財前の手を引き、銀は滝の少し奥にある小さな岩窟へと案内する。その岩窟は滝のすぐ裏
あたりにあるが、直接水がかかる場所ではない。且つ二人で入っても余裕があり、滝の表
側からは死角になっている場所なので、銀はそこを着替えをしたり、荷物を置いておく場
所として使っていた。
「よう見つけましたね、こんなとこ。」
「滝の周りはどないなってるんかなと気になってな。適当に見てまわってたら見つけたん
や。荷物置いたり、着替えをするのにええ場所やろ?」
「確かにそうっスね。ここなら物も濡れなさそうですし。」
岩窟の奥の方に財前は持ってきた荷物を置く、その隣に銀も持ってきた荷物を置いた。
「ほんなら、水ごりの準備するか。」
「はい。」
今着ている服を脱ぎ、銀の持ってきた行衣に着替える。自分では上手く着付けることが出
来ないので、財前は銀に着付けてもらう。
「ちゃんと俺の分も用意しとるんですね。」
「誘ってしてくれるならと思ってな。」
「あっ、これって下着穿いたままでもええんですか?」
「替えがあるなら別にええと思うけど、ないなら一応脱いでおいた方がええかもしれんな。」
さすがに下着の着替えまでは持ってきていないと、財前は行衣の下の下着を脱ぎ、脱いだ
服と一緒に置いておく。準備が出来たということで、二人は岩窟から出て、滝の下へと向
かった。

財前もいるということで、いつもより少し短い時間で銀は滝行を切り上げる。先程着替え
をした場所に戻ろうと、頭から爪先からびしょ濡れになっている財前に手を差しだす。
「大丈夫か?財前はん。」
「はい。師範と一緒なら、滝行もたまには悪くないっスね。」
「ははは、そりゃよかったわ。」
銀の手を取って、財前はゴツゴツとした岩場を歩く。岩窟に入ったと同時に少し強めの風
が吹いた。
ザアアァァ・・・
岩窟のすぐ上に桜の木があるようで、風に揺らされたくさんの花びらが舞い散る。滝の飛
沫に傾きかけている日の光があたり、桜の花びらとあいまって、それはひどくキラキラと
輝いて見えた。
「うわ、メッチャ綺麗や。写真撮っとこ。」
荷物の中からスマホを出すと、財前はその美しい風景をカメラに収める。何枚か写真を撮
った後、スマホを鞄の中にしまい、キラキラと輝く桜吹雪を自分の目で眺める。そんな財
前を銀は少し岩窟の奥から眺めていた。滝行の直後なので、髪からは水が滴り、行衣はピ
ッタリと体に張り付いている。光の差す岩窟の入口で、ひらひらと舞う桜吹雪に手を触れ
るように差し出している。そんな財前の姿に目を奪われ、銀はドキドキと胸が高鳴るのを
感じる。
「ココからの景色最高っスね、師範。」
微笑みながら銀の方を向いて話しかけるが、銀は財前に見惚れていて返事をするのを忘れ
る。ぼーっとしている銀にもう一度財前は声をかける。
「師範?」
再度名前を呼ばれ、銀はハッとする。
「あっ、ああ、すまん。財前はんが何や天女みたいやなあと思って見惚れとった。」
「何スかそれ?天女って。おもろ。」
自分が天女なんて、そんな柄でもないし信じられないと、財前はふっと笑う。そうは言う
がやはり今の財前はとても綺麗で、銀はそんな財前を無性に抱き締めたくなった。濡れた
ままの体で銀は財前に近づき、ぎゅっとその体を抱き締める。
「し、師範!?」
突然銀に抱き締められ、財前の鼓動は跳ね、驚いたような声を上げる。
「今しがた滝行して煩悩を払ったつもりやったが、全然払えてへんな。あまりにも財前は
んが綺麗で今にも消えてしまいそうで、こうせずにはいられへんかった。」
「消えるって何なんスか。師範と一緒なのに消えるはずないでしょ。」
「すまんな。もう少ししたらちゃんと離れるから・・・」
まだもう少しだけ財前を腕の中へ抱きとめておきたいと銀はそんなことを言う。その言葉
を聞いて、財前は銀の体を抱き締め返し、顔を上げて銀の顔を見る。
「離れんでええです。・・・師範がこんなことしてくるんで、ええことしたくなってきま
した。責任とってください。」
「せやけど、ここは外やし、そないなこと・・・」
「こんなとこ、師範以外誰も来へんし、声も音も全部滝の音でかき消されるんで平気っス
よ。」
抱き合っている状態でそんなことを言われ、銀の心臓はばくばくと速くなる。もちろんそ
れは財前にも伝わっている。もう一押しだと、銀が腕の力を緩めたタイミングで、銀から
一歩離れ、行衣の腰にある紐をほどく。行衣の下は下着も何も身につけていないので、は
らりと開かれた行衣の間から、濡れた肌が覗く。
「師範、俺が天女みたいに見えるんなら、師範の手で『極楽』に連れてってください。」
「っ!!」
そんな財前の誘い文句に銀は一瞬で落ちた。利き手では財前の右手の手首を掴み、逆の手
で財前の頬に触れ、そっと口づける。その口づけを合図に二人は滝の裏で一儀に及ぶこと
を決めた。

片手で財前の身体を支えながら、銀はその厚い唇で財前の肌を撫ぜる。首筋から鎖骨、胸
から腹にかけてをなぞるように、濡れて冷たくなった肌に銀の唇が触れると、財前は甘い
声を上げる。
「ふっ・・・ぁ・・・師範っ・・・」
「財前はんの肌は、ホンマに冷たいなあ。こないに冷やしてしもて堪忍な。」
「謝らんといてください・・・それに、この方が師範の唇も手も熱く感じられて・・・都
合がええっスわ。」
冷えた体がだんだんと熱くなってきているのを感じながら、財前はそんなことを口にする。
財前とは対照的に滝行をした後でも銀の体温は高く、唇や掌から伝わるその熱が財前にと
っては心地よかった。
「まだ体全体は冷たいが、さすがにココは熱くなってきとるみたいやな。」
財前の前で膝をつくと、はだけた行衣の合間から見える熱に銀はそっと手を触れる。
「あっ・・・」
「ここ、口でしてもええやろか?」
「そんなっ・・・アカンでしょ。師範がそんなとこ・・・口にするなんて、そんな・・・」
「せやけど、財前はんはワシのするやんか。」
「それは・・・その・・・」
「大丈夫や。ちゃんと気持ちよくなれるようしたるから。」
銀の言葉を聞いて、財前の心臓は壊れそうなほど高鳴る。銀にそんなところを咥えられた
いろいろな意味で正気を保てる気がしないと、財前は興奮と戸惑いで何も言えなくなる。
そんな財前の顔を銀はちらりと確認する。恥ずかしがっているような顔ではあるが、本気
で嫌がっている顔ではない。それならばと、銀は財前の熱を口に含む。
「ひ・・あっ・・・!?」
感じやすい熱が銀の唇や舌に触れる。舌を押しつけられ、ちゅうっと軽く吸われれば、ビ
クビクと腰が跳ね、信じられないほどの快感が財前の身体を駆け抜ける。
「やっ・・あぁんっ・・・しは・・んっ・・・ああっ・・・!」
思ったよりも大きな反応を見せる財前に銀の気分は高揚する。もっと財前を気持ちよくさ
せてやりたいと、銀は財前の弱い場所を見つけるかのように口でその熱を弄る。
「ああっ・・・師範っ・・・んっ・・・ああぁ・・・っ・・・!」
(口でされるんこないに気持ちええなんて知らんかった・・・アカン、このままだと師範
の口、汚してまう・・・)
「はっ・・・師範、もぉ・・・離して・・・このままやと・・・」
下肢も口の中の熱もビクビクと震えているので、財前が伝えようとしていることを銀は理
解する。しかし、銀はそこから口を離そうとはしなかった。銀がそれを離そうとせず、絶
え間なく刺激を与えてくるので、財前の限界はすぐに訪れる。
「やっ・・も・・アカンっ・・・師範っ・・・ああぁっ・・・!!」
銀の肩をぎゅっと握り、財前は銀の口の中に熱い蜜を放つ。財前の熱から口を離し、銀は
口に残る蜜を嚥下する。銀の肩を掴んだまま大きく息を乱し、財前は銀のその様子を見て
いた。
「ハァ・・・そんなもん・・・飲まんといてください・・・」
財前の蜜を飲み干した後、銀は口に手をあてしばらく黙っている。
「不味いから・・・戸惑っとるんでしょ・・・」
銀が何も言わないので、財前は呆れたような口調でそんなことを言う。しかし、銀が黙っ
ていた理由はそうではなかった。
「いや、味はあんまりよう分からんのやけど、なんや財前はんの飲み込んだら、えらい胸
がドキドキして・・・なんやろな・・・メッチャええ気分や。」
「な、何言うてるんスか!?そないなことあるわけ・・・」
「財前はんなら分かると思うんやけどな。ワシのを飲んで、ワシが何を言うたとしても、
全然平気な顔して、むしろ、嬉しそうな顔しとるやんか。何でそないな顔するのかと思っ
とったけど、今なら分かる気ぃするわ。」
「・・・そんなん言うの、ずるいっスわ。」
自分が銀のをしたときにそのような顔になるのは、心から銀を好きだと思っていて、そん
な銀の出したものを飲めるのは嬉しいことだと思っているからだ。銀の今の言葉は、銀も
自分と同じ気持ちであるということを意味している。それがどうしようもなく嬉しくて、
財前は顔を真っ赤にして、その顔を腕で隠そうとする。
「さてと・・・」
その場で立ち上がると、銀は財前の顔を覆っている腕をそっと下ろし、そのまま抱き締め
る。濡れた行衣越しに銀の体温が伝わり、財前は激しい胸のときめきと何とも言えない心
地よさを感じる。
「っ!!」
「こうしてた方が温かいやろ?あとはコッチを慣らさんとやな。」
財前の身体を抱き締め、腰のあたりに腕を回した状態で、銀は財前の行衣の裾をめくる。
最後までするつもりの銀に財前の胸は高鳴った。銀の利き手の指が双丘の中心に触れると、
財前の腰はひくんと揺れる。
「んっ・・・」
「ちょっと力抜いとってな。」
銀の言葉に頷くと、銀が少しでも手を動かしやすいようにと財前は軽く足を開く。何度も
銀を受け入れているそこは、銀の指を拒むことなく嬉々として受け入れる。ゆっくりとそ
こをほぐしていくと、もっと奥へ、もっと弄って欲しいと言わんばかりに、財前のそこは
きゅんきゅんと締まる。
「はっ・・・あ・・んっ・・・師範・・・」
「財前はんのココ弄られるん嬉しそうやな。」
「そないなこと・・・あらへん・・・・」
「正直に言わんとここでやめてまうで。」
「師範・・・意地悪や・・・」
顔を真っ赤にして目を潤ませながら、財前は銀の顔を見上げる。その顔がどうしようもな
く可愛らしく、銀は思わずニヤけてしまう。
「はは、冗談や。こないなとこで終わらせるんは、ワシも辛いからな。」
そう言って財前の中から指を抜くと、財前の身体を反転させ、岩窟の入口のところに手を
つかせる。
「せっかくやから、桜を見ながらするのもええかと思うてな。」
「まあ、この場所だとこの体位がしやすいっスよね。」
「ほんなら、ええか?」
「はい・・・」
行衣の裾は捲り上げたままで銀は財前の腰を抱き、自身の熱をそこにあてがう。銀と繋が
る期待感に財前は軽く呼吸を乱す。
「いくで・・・」
腰を抱く手に力が入り、低い声で囁かれる。閉じた蕾を開かせるように、大きな熱が財前
の中に入り込む。
「んっ・・ぁ・・・・ああっ・・・!」
「ハァ・・・大丈夫か?財前はん。」
「あっ・・・しは・・んっ・・・ぁ・・んんっ・・・・」
少々苦しそうな声を上げながらも、もっと奥へと銀を誘うように財前はその腰をぐいぐい
と銀の方へ押しつける。
「平気そうやな。」
「はっ・・・師範っ・・・もっと奥まで・・・挿れて・・・」
「財前はんはおねだり上手やな。」
「んんっ・・・ああぁっ・・・!!」
財前の腰を引き寄せながら、さらに奥に入るように銀は腰を進める。自分の中が銀でいっ
ぱいになる感覚が堪らず、財前は甘い声を上げ悦びを表す。思っていたよりもキツイ感じ
もなく、財前もだいぶよさそうな雰囲気なので、銀はゆっくりと中の楔を動かし始める。
「ふあっ・・・師範っ・・・あっ・・・あ・・んっ・・・!」
「ホンマ財前はんとこないなことするんは、ええ気分やな。」
「ホンマですか・・・?」
「ホンマやで。外でするなんてと思っとったけど、財前はんと交わるんが気持ちよすぎて、
そんなんどうでもよくなってまうな。」
軽く呼吸を乱しながらそんなこと言う銀に言葉に、財前の心は嬉しさで躍る。どちらもい
い気分で、お互いの熱を堪能し合っていると、岩窟の外で一際強い風が吹く。先程と同じ
ようにたくさんの桜の花びらが舞い散り、滝の方へ向かって降り注ぐ。滝の飛沫も風で多
く飛び散り、その飛沫に西日が差すことで虹が生まれる。当然その光景は銀と財前の目に
しっかりと映っていた。
「すごい景色やな・・・」
「ホンマに・・・極楽みたいや・・・」
「間違ってないんやないか。『極楽』のもともとの意味は、『幸福のあるところ』って意味
やしな。」
「師範・・・今、幸せなんスか・・・・?」
「もちろんや。財前はんと一緒に気持ちええことして、こないに素晴らしい景色を見るこ
とが出来とる。これが幸せやない言うたらバチが当たるわ。」
「俺も今・・・メッチャ幸せです・・・・」
腰に回されている銀の手に自分の手を重ねながら財前は、幸せいっぱいの声色でそう呟く。
その言葉に銀はドキっとしてしまい、それは財前の中にある熱にも伝わる。
「んっ・・ぁ・・・師範、何でここにきて大きくなるんスか・・・」
「すまん。財前はんが幸せや言うの聞いて、嬉しくてな。」
「俺と師範一緒におったら・・・いつでも極楽行けますね。」
「はは、せやな・・・」
目の前に広がるこの上なく美しい景色を眺めながら、二人はもうしばらくその身を繋げた
ままでいる。五感で感じる全てが心地よく、二人は時間をかけて絶頂へと昇りつめる。互
いの名を呼びながら、銀も財前も幸せな想いを雫として溢れさせる。心も身体も極楽色に
染まり、二人はこの幸せな時間を心に刻みつけた。

濡れた行衣を脱ぎ、持ってきていたタオルで綺麗に体を拭くと、どちらも着替えとして持
ってきていた服に着替える。しばらくぼーっとしていた財前であったが、ふと思いついた
ように、岩窟内に落ちている桜の花びらを拾い始めた。
「何してるんや?」
「いや、ちょっと記念に持って帰ろうかなと思て。」
「それはええな。ワシも少し持って帰ろ。」
「師範の分も俺が拾っとくんで大丈夫です。」
「そうか?ほんなら、一緒に拾っておいてもらおかな。」
拾った花びらを鞄にしまうと、財前は小さな溜め息をつく。心地の良い疲労感が身体を包
み、動くのが面倒になってくる。
「大丈夫か?財前はん。」
「慣れないことしたんで、少し疲れましたわ。気分はメッチャええんですけど。」
「ほんなら、帰りはワシがおぶって行こか?財前はんが嫌でなければやが。」
「ええんですか?」
「もちろんや。ワシの滝行に付き合うてくれたお礼や。」
「ほんならお言葉に甘えて・・・」
荷物を持つと、財前はしゃがんでくれている銀の背中に乗る。パワー自慢の銀は財前をお
ぶったところで何の問題もない。
「ほな、帰るで。もうだいぶ暗くなってしもたしな。」
「そうですね。」
銀におぶわれながら、財前は銀の首にぎゅっとしがみつく。銀の背中は大きくて温かく、
とても安心する背中であった。
「師範・・・」
「何や?」
「今日はこんなええとこ連れて来てくれてありがとうございます。」
「こちらこそ、一緒に来てくれておおきにな。」
「滝行するのも合わせて、また一緒に来たいです。」
「ホンマか?そりゃ嬉しいな。また、絶対来ような。」
「はい。」
そんな会話をしながらしばらく山道を歩いていると、すーすーと耳元で寝息が聞こえてく
る。財前が眠ってしまったことに気づいた銀はふっと顔を緩ませる。
「疲れてしもたんやろな。せやけど、ええ時間やったな。また来られるとええなあ。」
財前を背負ったまま、銀は財前の家へと向かう。夕闇の中、財前の家までの帰り道、背中
に財前のぬくもりを感じながら、銀は二人で過ごした極楽の余韻を楽しんだ。

それから数時間して、財前は自分のベッドで目を覚ます。頭を撫でる大きな手のぬくもり。
それに気づいて、財前はパッと目を開く。
「すまん、起こしてしもたか。」
「師範?あれ、ここどこや?」
「ここは財前はんの部屋やで。帰り道で寝てしもうてな。送り届けて帰ろうと思っとった
んやけど、財前はんのご両親とお兄さんから是非夕食をと誘われてな。御馳走になるのは
ええとして、財前はんが起きてから一緒に食べよう思て待たせてもらってたんや。」
「うわっ、すいません!師範の背中で寝てしまった上、待たせてしもて。」
がばっと体を起こし、財前は慌てた様子で銀に謝る。しかし、銀は何の問題もないと言っ
た様子でニコニコと笑っていた。
「大丈夫やで。ワシが付き合わせたことで疲れてしまったんやろ?それに、財前はんの寝
顔ぎょーさん見れて、待ってる時間もええ時間やったで。」
そんな銀の言葉を聞いて、財前の顔は桜色に染まる。照れているのを誤魔化すかのように、
財前はベッドから下り、夕食を食べに行こうと促す。
「師範、腹減ってますよね。早う食べに行きましょ。」
「ああ、起きたら食べれるようにと、ここに持ってきてあるんや。正確には持ってきても
ろたやけどな。」
「あっ、そうなんスね。ほんなら、ここで食べますか。」
小さなテーブルの上に乗っている夕食を二人は食べる。少し遅めの夕食だなと思いつつ、
財前が時計に目をやると、既に21時を回っていた。
「気づかなかったっスけど、もうこんな時間なんスね。もう遅いですし、師範今日泊まっ
ていきません?」
「ワシは一人暮らしやから、それは全然構わんのやけど、突然泊まったりして大丈夫なん
か?」
「夕飯の食器片づけに行くときに聞いときますわ。たぶん大丈夫です。」
二人で夕食を食べ終えると、財前は空いた食器をキッチンへ置きに行き、銀が泊まること
を家族に伝える。夕食に誘った時点でそのつもりだったので、財前の家族は銀が泊まるこ
とを了承した。食器を片付けて部屋に戻ると、財前はそのことを銀に伝える。
「師範、泊まって大丈夫です。」
「そうか。おおきにな。」
「まだ、師範と一緒におられるなんて、嬉しいっスわ。」
銀が泊まることに対して、財前は素直に笑顔を浮かべそんなことを言う。素直で可愛らし
いことを言ってくる財前に銀も嬉しくなる。
「あっ、せや。今日撮った写真、印刷して師範にもあげますわ。」
銀と出かけた際に撮った写真を印刷してみようと、財前はスマホを出し、滝の裏の岩窟か
ら桜を撮った写真をパソコンへ転送する。その中からイイ感じに撮れている写真を選び、
軽く加工した後、パソコンの側にあるプリンターで印刷した。
(ええ感じやな。あとはこれに拾ってきた花びらを並べて・・・)
自分と銀の分を印刷した写真の裏に拾ってきた桜の花びらを並べ、ラミネートシートで挟
んだ後、ラミネーターにかける。表から見れば桜吹雪の写真、裏から見ればその場所で拾
った桜の花びらというお揃いのカードが出来上がった。
「これ、師範の分です。どうぞ。」
「この短い時間で、こないに綺麗なもん作ったんか。さすが財前はんやな。」
「別に大したことやないっスわ。けど、ええ感じに撮れてますね。師範とこの景色見れた
ん、ホンマよかったです。」
「せやなあ。春休みのええ思い出が出来たな。」
「はい。」
二人で見た美しい景色の写真を眺めた後、銀は優しく財前の頭を撫でる。今日は銀が泊ま
ってくれる上、春休みはまだ数日残っている。もっとたくさん銀との思い出を作ろうと考
えながら、財前は幸せいっぱいな笑顔を銀に見せた。

                                END.

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