紫陽花 ―SideT―

しとしとと降り続く雨
太陽もなかなか顔を出しはしない
憂鬱になりそうなこの季節
だけど俺はこの季節が結構好きだ

気分を変えるかのように色を変える紫陽花の花
そんな紫陽花の咲く道を 俺は君と一緒に歩く
朝は降っていなかったから
そんな理由をつけてわざと傘を忘れた
ひとつの傘に君と二人

雨を受ける紫陽花を見て どこか穏やかな気持ちになる
日本では「浮気」という花言葉 だけど他の国では「忍耐強い愛」
俺はこっちの花言葉の方が好きだ
紫陽花はきっと雨に恋をしている
だから雨の多いこの季節に一斉に咲き乱れるんだ

そんなことを君に教えてあげると
君は紫陽花をじっと見つめた
「だから、紫陽花は梅雨が終わると花が枯れちゃうんですね」
恋する相手である雨がいなくなれば枯れてしまう
ああ、そうか。俺は思わず納得してしまった
でも、紫陽花は次の梅雨がくるまでずっとその場で待ち続ける
だからきっと、紫陽花の花言葉は「忍耐強い愛」と言われるのだ

もし俺が紫陽花だったら
いつまでも咲き続ける自信がある
だって君の雨は降り止まないから
そう言ってあげたら、恥ずかしそうに君は笑った
こんな瞬間がすごく好きだ

梅雨の午後の帰り道
ひとつの傘に二人きり
大好きな雨に包まれている紫陽花は
俺達の周りで嬉しそうに微笑み続けている

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