白雨の降りて語る事

「はー、疲れた。ちょっとやりすぎちまったかな。」
部活後の自主練を終えた宍戸は、ぐーっとストレッチをするように伸びをして、部室に戻
ろうとする。いくつもあるコートにはもう誰もいない。部活が終わってから一時間以上も
経っているのだから、当然と言えば当然だ。
「さてと、そろそろ帰るか。」
ラケットを人指し指の上に立て、バランスを取りながら歩いていると、ポツっと鼻の上に
雫が落ちた。自主練をしている間も曇ってはいたが雨が降る気配がなかったので、安心し
ていたのだが、いつのまにか雲は厚くなり、空は夜でもないのにだいぶ暗くなっている。
「雨か?でも、ま、この程度なら平気だろ。」
どうせ小雨程度だろうと思い、急ぎもせずに歩いていると、だんだんと雨粒は大きくなり、
雨足も強くなってゆく。夕立のようにザーザー降りになるとさすがにこれはヤバイと思い、
宍戸は部室に向かって走り出した。
「うわあ、マジかよ!?今日、傘持ってきてねぇのにー!」
パタパタと走りながら、宍戸はそんなことをぼやく。本降りになった雨はまるでシャワー
のようで、ラケットしか持っていない宍戸はそれを防ぐ術がなかった。

バタンッ!
雨に濡れ、ビショビショになった宍戸は勢いよく部室のドアを開けた。ミーティングルー
ムの電気は消えていて、人の気配は全くない。さっさと着替えようとロッカールームの扉
を開けると、一人がけのソファに座りながら跡部が何枚ものプリントを広げ、何か作業を
している。
「おわっ!?まだ居たのかよ、跡部。」
「アーン?テメェこそこんな時間まで何やってんだ?」
「自主練だよ、自主練!あー、もう、夕立でビショビショだぜ。いきなり降ってくるなん
て反則だよな。」
「夕立?今、雨降ってんのか?」
「ああ。すげぇぜ、外。ほんのちょっとの間で、こんなにびしょ濡れになっちまった。」
ポタポタと水滴が垂れるほど濡れている宍戸を見て、それは嘘ではないと跡部は悟る。カ
ーテンを開けてみると確かに土砂降りの雨が降っている。それを見て、跡部は軽く舌打ち
をした。
「ちっ、今日、雨降るなんて聞いてねぇぞ。」
「どうしたんだ?」
「傘持ってきてねぇんだよ。普段は置き傘してんだけどよ、この前、樺地に貸しちまって。」
「そっか。俺も持ってきてねぇんだよな。どうせ夕立だろうし、すぐやむだろ。おさまる
まで、少しここで雨宿りしとこうぜ。」
タオルで髪や体を拭きながら、宍戸はそんなことを言う。本当はもっと早く帰りたかった
が、この状況では仕方がない。机の上にあるプリント類を整理し、跡部は溜め息をついた。
「仕方ねぇな。上がるまで少し待つか。」
「ま、一人じゃないだけマシじゃねぇ?一人で雨宿りとか寂しいじゃん。」
「まあな。」
制服に着替えた宍戸が跡部のすぐ横に腰かけると、外からバシャバシャと誰かが走ってく
る音が聞こえる。少しして、部室のドアが開く音が聞こえた。何だろうと二人がロッカー
ルームの扉を見ていると、ずぶ濡れになった岳人と忍足が入ってきた。
「あー、もう!最悪ー!!」
「いきなりあの土砂降りはないやろ。」
「あれ?跡部に宍戸。まだ居たのかよ?」
「居ちゃ悪いのか?」
「別にそんなことはねぇけど。あー、それより宍戸、お前タオルとか持ってねぇ?」
「あるけど、使った後だからすげぇ濡れてるぜ。」
「それでもいいって。このままで居る方が無理。」
ビショビショに濡れた髪や体を拭きたいと岳人は宍戸からタオルを借りようとする。しか
し、それを見て跡部はあからさまに不機嫌そうな顔になる。そして、自分のロッカーの中
から真新しいタオルを出すと、岳人に投げつけた。
「うおっ!?」
「さっさと拭け。部室が濡れる。」
「お、おう。サンキュー。」
何故か不機嫌になりつつも、乾いたタオルを貸してくれた跡部の行動に岳人は首を傾げる。
「どうしたんだろうな?跡部の奴。不機嫌なんだけど、優しいぜ。」
「ホンマに分かりやすいやっちゃなあ。岳人、俺にもそのタオル貸して。」
「おう。分かりやすいって何が?」
「宍戸が使ったタオル、俺らに使わせたくないんや。ヤキモチって奴やな。」
「なーるほど。それで、怒りつつもタオル貸してくれたのか。」
跡部のとった行動の理由が分かると、岳人は謎が解けたと頷く。そんな二人の会話を聞い
て、宍戸はじっと跡部を見た。宍戸の視線に気づき、跡部は動揺を隠すかのようにそっぽ
を向く。
「べ、別にそんなことないぜ。何勝手なこと言ってやがんだ。濡れたタオルで拭いたって
意味ねぇと思ってな。部室を汚されても困るしよ。」
「そんなこと言っちゃって。宍戸、やっぱ俺、お前のタオル使いたいなあ。」
「おう。別にい・・・」
ガタンッ!
からかうように岳人がそう言うと、跡部はテーブルに手をつき、音を立てて立ち上がる。
そして、宍戸が持っていたタオルをひったくった。もちろん宍戸は呆然。岳人と忍足は必
死で笑いを堪えていた。
「あっ・・・」
跡部自身無意識にしてしまった行動なようで、宍戸のタオルを手にしたまましばらく固ま
ってしまう。本当にヤキモチだったんだなあと改めて実感すると、宍戸はクスクス笑った。
「テメェがそんなに嫌がるんなら、貸さないでいてやるよ。」
「せやなあ。跡部はどーしても俺らに使わせたくないみたいやし。」
「ゴチャゴチャうるせーぞテメェら!さっきから言ってるだろ、これ以上部室が汚された
ら困るってよ!!」
どんなに怒鳴ってみても、その動揺っぷりとさっきの行動で全く説得力がなくなってしま
っている。イライラしつつ、跡部はボスンとソファの上に座った。ある程度、髪や服を拭
き終えると、岳人と忍足も宍戸の向かい側のソファに座る。
「本当素直じゃねーなあ、跡部は。」
「ホンマに。なあ、宍戸。」
「そうだな。俺ってば、激愛されてる〜。」
冗談まじりの宍戸の言葉に跡部は無性に恥ずかしくなる。これ以上何かを言っても墓穴を
掘るだけになりそうなので、跡部はしばらく黙っていた。
「ところで、テメェらなんでこんな時間まで学校に居たんだ?もうとっくに帰ったと思っ
てたのに。」
「別に大したことやない。ちょっと教室に忘れ物して、取りに行ったらそこで話し込んで
まっただけやで。」
「ふーん。で、帰ろうとしたら、夕立にあったと。」
「まあ、そんな感じやな。」
普通にそう話す忍足の言葉を宍戸は何の疑いも持たなかった。しかし、黙ってその話を聞
いていた跡部は、忍足を見ていてとあるものを発見してしまう。それに気づいて、これは
形勢逆転が出来ると口元を緩ませた。
「おい、忍足。」
「何や跡部?」
「お前ら、本当に教室で話してただけか?」
「へっ!?そうやけど。」
跡部に尋ねられ、忍足は若干動揺を見せる。これは確実にそうだと、跡部は確信を突くよ
うなことを指摘する。
「首のトコ、キスマークついてるぜ。」
「えぇっ!岳人っ、つけへんって言ったやんか!!」
「ゆ、侑士っ!!」
完璧にバレるようなことを忍足が言ってしまったので、岳人は慌てて忍足の口を塞ぎ、口
元に人指し指を立てた。そうされて、忍足は自分の失態に気づく。
「ほぅ、テメェらは今まで教室でそういうことをしてたってわけか。」
「ち、違っ・・・」
「本当だ。首のここらへん、赤くなってるぜ忍足。」
追い打ちをかけるように宍戸はキスマークのことを指摘する。宍戸にまで指摘されたら、
もう言い訳も何も出来なくなってしまう。真っ赤になりながら、忍足は岳人の右肩に顔を
埋めた。
「あー、もう、メッチャ恥ずかしいわ。どうしてくれんねん、岳人。」
「お、俺の所為?だって、侑士可愛いからつい・・・」
「へぇ、お前らも学校でそういうことするんだ。てっきり俺らだけかと・・・」
『えっ?』
「あっ・・・」
いらないことを言ってしまったと宍戸は口をつぐむ。しかし、そこまで言ってしまったら、
もう遅い。完璧に自分達が学校でそういうことをしているということがバレてしまった。
「跡部ならしてるだろうなーって思ってたけど、本当にしてたんだ。」
「しかも、宍戸の口からそれが聞けるなんて思ってもみなかったわ。」
「い、いや、今のは口が滑って・・・」
「当然だろ。学校でって、結構スリルあるぜ。それがまたいいんだけどな。」
「余計なこと言うなよっ!」
今度は宍戸が焦ってるのを見て、忍足はひとまずホッとする。自分の話題からそれててく
れればそれでいいのだ。
「てかさ、やってんのは分かってんだからさ、ここはもっとポジティブにそういう話しち
ゃってもよくねぇ?俺、跡部達がどういうふうにしてるかとか超興味あるし。」
「別に俺は構わねぇぜ。その代わり、そっちのも話せよ。」
「おいっ、ちょっと待てよ!何勝手に話進めてんだ!!」
「せや。俺らはまだいいって言ってないで。」
「いいじゃん別に。他人のそういう話って聞いてて面白いじゃん!参考になるかもしれね
ぇし。」
『でも・・・』
そんなことを話したくないと言えばそうなるが、相手の話を聞きたいという気持ちもある。
宍戸と忍足は顔を見合わせると、ボソッと言葉を交わす。
「俺、それなりに話すからテメェも話せよ。」
「宍戸こそ、嘘はなしやで。」
『よし!』
二人で納得すると、岳人の意見に賛成する。二人が頷くのを見ると、跡部と岳人はニヤリ
と笑う。
「それじゃあ手始めにさっきどんなことしたか教えろよ。」
「はあ!?」
いきなりそれかと忍足は驚きの声を上げる。しかし、岳人の方はノリノリでさっきあった
ことを話し始めた。
「さっきはな、忘れ物して取りに行ったのはホントなんだよ。で、全部の教室見たんだけ
ど誰もいなくてさ、扉閉めちゃえば平気かなあと思って。」
「えー、でも、やっぱ廊下とか誰か通ったらバレるんじゃねぇ?」
「そりゃもちろん考えてるぜ。窓際からは見えねぇから、教卓の陰で廊下からの死角にな
るようにしたんだ。」
「へぇ。でも、忍足が声が上げちまったら一発でバレるだろ。」
「だから言ったじゃん。他の教室には誰もいなかったって。それに侑士必死で声出すの堪
えててさ。その顔がもう超色っぽくてさぁ。」
「だ、だって、バレたら困るやん。」
恥ずかしそうに口を挟む忍足に宍戸は同調の意を示す。
「その気持ち分かるぜ、忍足。誰も来ないって分かってても、やっぱり不安で我慢しちゃ
うんだよなー。」
「せやろ。で、我慢してると逆にな。」
「そうそう。」
受同士の二人はその状況がどんな感じなのかを気持ちを共有出来る。リアルに共有は出来
ないものの、攻の二人も宍戸と忍足が何が言いたいかを理解していた。
「お前、声出すの我慢してると感じやすくなるよな。」
「うっ・・・」
「侑士もそうじゃねぇ?やっぱ、見られるかもって思うと興奮するの?」
「そりゃな。家とかでするときとはやっぱ違うで。さっきもかなりドキドキやったで。」
「さっきとかすげぇリアルだよな。ちなみにどうだった?教室でって、かなりスリリング
だと思うけど、よかったのか?」
こんなとこでさっきの感想を言うのも恥ずかしいなあと思いつつ、忍足は素直に感想を述
べる。
「そりゃ・・・まあな。最近、岳人の奴がそういうこと上手なってきてるし。」
「でも、ま、俺様に比べたらまだまだだよな。なあ、宍戸。」
「な、何で俺にふるんだよ!」
「だって、宍戸じゃなきゃ分かんねぇじゃん。だよな、跡部。」
「ああ。ほら、どうなのか答えろよ。」
岳人と忍足がさっきしたときの話から何故か自分と跡部のことに話題が移ってしまい、宍
戸は困惑する。本当は答えたくないが、さっき忍足とああ約束してしまった手前、言わな
いわけにはいかない。
「跡部は・・・やっぱ、すげぇ上手いと思うぜ。指使いとか舌使いとか・・・って、俺、
何言ってんだよ!」
結構恥ずかしいことを言っていると宍戸は自分に対してつっこむ。宍戸の言葉を聞いて、
岳人と忍足は感心。跡部は当然だと思いつつも、宍戸にそう言われ、嬉しそうに顔を緩ま
せている。
「へぇ、やっぱ跡部は上手いんだ。ちなみに最近したのっていつ?」
「最近?今日は何曜日だ?」
「今日は火曜日やな。」
「じゃあ、一昨日だ。日曜日は宍戸が俺の家に遊びに来てたからな。」
「日曜日で遊びに来てってことは昼間から?」
「テメェらだって、さっきやったんだろ。別に夜じゃなきゃいけねぇって決まりはねぇん
だし、時間帯はいつでもいいだろ。でも、まあ、真昼間ってのは気が引けたからな。夕方
近くだ。」
「ふーん、そっか。で、感想は?宍戸。」
「だから、どうしてそういうとこだけ俺にふるんだよ!!」
跡部に聞いていたくせに、何故かそういうところだけは宍戸にふる。一昨日のことは覚え
ていないと言おうと思ったが、そんな話題を出され、宍戸はリアルにその日のことを思い
出してしまう。思った以上にすごいことをされていたなあと、言う前から顔が真っ赤にな
った。
「え、えっとぉ・・・・」
「顔真っ赤やで宍戸。そんなにすごかったん?」
「一昨日か。一昨日は何したっけなあ?・・・そうだ、一昨日は一緒にDVDを見てたん
だよ。何見てたかは忘れちまったけど。ただ無性にしたくなるようなことを宍戸が言った
んだよな。だから、もうそこでDVD観賞はやめて、ベッドにコイツを連れてってしたっ
て感じだったと思うぜ。」
「宍戸、何言ったんだよ?」
「そ、そんなの覚えてねぇよ!!」
「気になるなあ。で、した内容はどんなだったん?」
「そこまで聞くのかよ!?」
「だって、気になるじゃん。なあ、どうだったんだよ、跡部?」
どんどん内容の濃くなっていく話題に宍戸はつっこむことしか出来ない。あわあわと慌て
る宍戸を尻目に、跡部はその日したことを話す。
「一昨日はそんなにアブノーマルなことはしてないぜ。ホント、普通に進めたって感じだ
な。あっ、ただ・・・」
『ただ?』
「宍戸がいったん終わった後に足りねぇなんて可愛いこと言ってきやがるからよ、その後
で二回くらいしてやったぜ。」
「うわあ、ちょっと待てよっ!!何言ってんだ!!」
『へぇー。』
宍戸もやるなあと岳人と忍足はニヤけながら宍戸を見る。恥ずかしくてたまらない宍戸は
バシバシと跡部を叩いた。
「何だよ、本当のことじゃねぇか。」
「そりゃそうだけど、別にここで言うことじゃねぇだろ!だー、もう、激恥ずかしいー!」
「今更何言ってんだよ。でも、恥ずかしがってるテメェも可愛いぜ。」
「ウルセー!」
「あはは、本当バカップルだよなお前ら。でも、やっぱさ、もっととか言われると本当や
る気出るよな。」
「ああ。何だよ?忍足もそういうこと言うのか?」
「そりゃもちろん。今日もさ、してる最中に『そんな中途半端んは嫌や。もっとちゃんと
してぇ』なんて言ってくるんだぜ。もう下半身直撃だよな。」
「な、何言っとんねん岳人っ!!俺、そないなこと言ってへん!」
「言ってたじゃん。それともそのときはよすぎて、無意識に出ちゃった言葉とか?それは
それで嬉しいけどー。」
楽しそうに今日あったことを話す岳人の言葉に忍足は赤面しまくり。そこまで詳しく話さ
なくてもいいとつっこみはするが、岳人は聞く耳を持たないし、跡部や宍戸は興味津々と
ばかりにその話を聞いている。
「忍足も結構エロいこと言ってんじゃん。俺のこと笑えないぜ。」
「し、仕方ないやろ!勝手に口から出てまうんやから。」
「そういやさ、ちょっと気になったんだけど、宍戸って跡部にどう攻められるのが好きな
の?何か跡部の話聞いてるとさ、結構アブノーマルなのが多いじゃん。あれは、宍戸も合
意の上なわけ?」
「はあ!?な、何でそんなこと答えなきゃいけねぇんだよ!」
「それは俺も聞きてぇな。一応、分かってるつもりだが、間違ってる部分もあるかもしれ
ねぇし。」
「べ、別に公表することじゃねぇだろ・・・」
「じゃあ、侑士や俺らも言うってことで。それなら平等だろ?」
「俺も言わなアカンの!?」
「おう!それじゃあ、まず宍戸から。」
「だから、何で俺なんだよぉ・・・」
納得いかないという表情で、宍戸は三人の顔を見る。三人とも期待に満ちた目で自分を見
ている。これは言わなければならない空気だとを感じ、宍戸は重い口を開いた。
「そうだなぁ・・・当たり前のことなんだけどよ、痛いのよりは気持ちいいのが好きだな。」
「そりゃそうやわ。」
「でも、言葉で攻められるのは嫌いじゃねぇ。跡部、結構激しいこと言ってくんだよ、し
てる時。けど、それが俺、結構好きだったりするんだよな。」
「ふーん、どんなこと言ってんのさ、跡部?」
「どんなことって言われてもよ、毎回違うこと言ってるからな。いちいち覚えてないぜ。」
「残念やな。」
「あとは、あれだな。素直に好きだとか愛してるとかそういうふうなこと言われるのは、
照れるけど悪くねぇと思う。気分も盛り上がるし。」
照れながらも素直に好きなことを言う宍戸は、跡部から見てとても可愛らしく見えた。思
わずソファから立ち上がり、隣に腰掛け耳元でそういう言葉を囁きたくなってしまう。
「愛してるぜ、宍戸。」
「〜〜〜〜っ!!」
いきなりそんな言葉を囁かれ、宍戸はゾクッと背中に痺れが走る。耳を押さえて、跡部を
怒鳴りつけた。
「こ、こんなとこでそういうことすんじゃねぇ!!」
「テメェがそう言われるのが好きだって言うからしてやったんじゃねぇか。」
「時と場所を考えろってんだよ!」
「まあまあ。あっ、じゃあ、跡部は宍戸がどういうふうにしてくれるのが好きなんだ?特
別こういうのがいいってのあるか?」
「そうだな、基本的にはどんな感じも好きだが、あえて言うなら、素直に甘えてきたり、
逆にずっと抵抗してて、ふっと抵抗出来なくなった瞬間とか好きだぜ。」
「へぇー。だってさ、宍戸。」
「そうかよ。」
跡部にちょっかいを出され、不機嫌な宍戸は岳人の言葉をさらっと流す。しかし、内心は
そうだったのかと少しドキドキしていた。
「次はテメェらの番だぜ。忍足、テメェは岳人にどうされんのが好きなんだよ?」
「えっ?俺から?」
「俺だって言ったんだから、ちゃんとお前も話せよ。適当に答えるのはなしだからな。」
「うーん、せやなあ・・・俺は宍戸と違って、言葉も行動も優しくされる方が好きやな。
まあ、たまには、少し激しくされるってのもありやと思うけど。基本は優しい方がいいと
思うで。」
「なるほどな。で、岳人の方はどうなんだよ?」
「俺は侑士だったらどんな感じでも好きだぜ。でも、やっぱ、素直に気持ちよくなってる
顔とかが一番好きかな。あっ、あと、宍戸じゃねぇけど、最中に好きとかそういうこと言
われるのもかなり好きかも。」
「総合的に見ると、似たようなところあり、全然違うところもありって感じだな。」
「そうだな。ところで、宍戸、今何時か分かるか?」
「えっと・・・おわっ!もう8時過ぎてるぜ。」
今まで時間など気にせず話をしていたが、時計を見てみると思った以上に時間が経ってい
た。カーテンを開けて外を見てみると、雨はすっかりやんで、月も綺麗に見えている。
「随分時間経っとるんやな。雨もやんどるし、そろそろ帰るか。」
「そうだな。跡部達ももう帰るだろ?」
「ああ。これ以上ここに居たってしょうがねぇからな。」
「あー、でも、話してたおかげで時間経つのあっという間だったな。内容はなかなか濃い
話だったけどよ。」
「でも、面白かったと思うぜ。滅多にこういう話って出来ねぇじゃん!」
「ホンマに暴露トークやったもんなぁ。」
さっき話していたことを振り返りつつ、四人は帰り支度をする。すっかり服も髪も乾き、
気分としてはいい感じだ。
「さてと、明日も朝練はあるし、さっさと帰るか。」
「おう。せっかくだからよ、途中まで四人で帰ろうぜ。」
「ええんやない?な、岳人。」
「ああ。よーし、明日も練習頑張るぞー!!」
途中まで一緒に帰るということで、四人はそろって部室を出る。さっきまであんな話をし
ていたとは思えないテンションで、四人は校門へ向かって歩いて行った。夕立の後の澄ん
だ空気の中、妙な充実感を感じながら、そこにいるメンバーは分かれ道に着くまで、また
他愛も無い話で盛り上がるのであった。

                                END.

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