花香るバレンタイン
〜After Valentine〜(跡宍)

跡部×宍戸

二人の予定が空いているタイミングで、跡部と宍戸は合宿所の屋上にやってきた。冷たい
風が吹いているものの今日は青空が広がり、日差しはとても暖かかった。
「今日は先客はいないみてぇだな。」
「その方が都合がいいだろ。バレンタイン当日には渡せなかったが、ちゃんとお前のため
に買ったもん、持ってきてやったぜ。」
そんなことを言う跡部の腕にはなかなかの大きさのものが抱えられている。
「随分デカいな。何買ったんだよ?」
「それは開けてみてからのお楽しみだ。」
「俺も跡部にプレゼント買った。跡部みたいにそんな高いもんは買えなかったけど、たぶ
ん気に入ってはもらえると思う。」
「ほう。それは楽しみだな。」
用意してきたプレゼントをお互いに渡し合う。跡部から宍戸へのプレゼントは大きな袋に
入っており、宍戸から跡部へのプレゼントは両手に収まるくらいの箱にラッピングが施さ
れているようなものであった。
「開けてみてもいいか?」
「ああ。」
受け取ったものをどちらも開けてみる。大きな袋から出てきたものを見て、宍戸は思わず
呟く。
「チーズだ!」
「チーズではねぇけどそっくりだろ?店の中でそれを見つけて、俺も同じこと思ったから、
お前へのプレゼントにピッタリだと思ってよ。」
「うっわあ、マジでチーズに激似だし!すげぇ可愛い!」
跡部からのプレゼントは、愛犬によく似た大きめのぬいぐるみであった。大好きな愛犬に
あまりにもよく似ているため、宍戸の顔には素直に笑みが溢れる。
「跡部へのプレゼント、ちょっと被っちまってるかも。」
「そうなのか?」
それなら早く確かめようと、跡部も宍戸から受け取ったプレゼントを開ける。中に入って
いるものを見て、跡部も宍戸と同じような反応を示す。
「マルガレーテとチーズだな。」
「跡部もそう思うよな?この置物見つけて、そっくりだと思って思わず買っちまった。跡
部のリクエストとも合ってたしな。」
宍戸からのプレゼントは、跡部の愛犬のマルガレーテとチーズによく似た置物であった。
跡部が宍戸に対してリクエストしていたのは、自分好みの何か飾っておけるものであった。
「マルガレーテだけじゃなくて、チーズに似たのも買うのはお前らしいな。」
「だって、可愛かったからよ。それに、マルガレーテ1匹だけだと寂しくて可哀想だろ?」
「はは、確かにそうだな。お前は本当犬のこととなると、素直で可愛らしいな。」
「べ、別にそんなことねーし!」
「とにかく、気に入ったぜ。このプレゼント。マルガレーテもチーズも部屋の机の上に飾
っておいてやるよ。」
「おう!俺は・・・机に置くのはちょっと邪魔だな。あ、ベッドに置いて一緒に寝るぜ!
チーズもよく俺の布団に入ってくるしな。」
大きな犬のぬいぐるみと一緒に寝ている宍戸を想像し、跡部は口元を緩ませる。
「フッ、いいんじゃねーの?」
「ここにいると、写真でしかチーズの様子見れないから、本当これは嬉しいかも。ありが
とよ、跡部。」
嬉しそうに犬のぬいぐるみを抱えてお礼を言ってくる宍戸の可愛さに、跡部の胸は躍る。
このプレゼントを選んで正解だったと、跡部は満足気に笑った。
「宍戸、ちょっとそのぬいぐるみ貸せ。」
「えっ?何でだよ?」
「いいから貸せ。」
何がしたいか分からないが、宍戸は素直にぬいぐるみを渡す。宍戸からぬいぐるみを受け
取ると、跡部はポケットから何かを取り出し、シュッとぬいぐるみに吹きかけた。
「あっ!ちょ、何してんだよ!?」
「俺様がいつも使っている香水をつけてやったぜ。」
「なっ!?」
「チーズと一緒に寝ながら、俺とも一緒に寝ている気分が味わえるぜ。」
宍戸にぬいぐるみを返しながら、跡部のそんなことを言う。それを聞いて、宍戸の顔は真
っ赤になる。試しにぬいぐるみを嗅いでみると、確かに嗅ぎ慣れた好きな香りが鼻をくす
ぐる。
「余計なことするなよ。」
「アーン?余計なことではないだろ。」
「せっかくいい気分で寝れると思ったのに、これじゃあドキドキして寝づらくなるだろーが。」
ぬいぐるみに顔を埋め、恥ずかしそうに宍戸はそう呟く。その仕草が可愛すぎると、跡部
はもっと宍戸をからかいたくなる。
「その匂いは嫌いか?」
「いや、嫌いではないけどよ。跡部の匂いだし・・・」
「今もしっかり嗅いでるもんなあ?」
「ち、ちがっ・・・」
「匂いがしなくなったら、またつけてやるから持って来いよ。」
「するわけねぇだろ!たぶん・・・」
否定しつつも、自信なさげな言葉をつけ足すあたり、本当は気に入っているんだろうと跡
部は嬉しくなる。宍戸のプレゼントだけオプションがついているのも何だということで、
跡部はふと思いついたことしてみる。宍戸からもらったマルガレーテの置物にちゅっと口
づけ、チーズの方は宍戸の唇に触れさせる。
「何してんだよ?」
お互いの唇につけた置物同士をキスさせ、ふっと笑う。
「これでいつでも間接キスが出来るな。」
「何考えてんだよ!?変なことするな!」
跡部の行動に宍戸は、真っ赤になりながら文句を言う。
「ていうか、そんなにしたいんだったら、間接じゃなくて、直接すればいいだろ・・・」
「そうだな。じゃあ、遠慮なくさせてもらうぜ。」
恥ずかしそうに顔を背けながらそう言う宍戸に、跡部はそっと口づけた。

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