千歳×橘
休日のお昼、千歳と橘は橘おすすめの和食屋にやってきていた。九州料理がメインの和食
屋で、ここであれば千歳の好物も食べられるだろうと考えてのことだ。
「ここの料理、たいぎゃうまかぁ。こんな店あるの知らんかったばい。」
頼んだ料理を食べながら、ご機嫌な様子でそんな感想を口にする。実に美味しそうに料理
を食べている千歳を、橘は嬉しそうに眺める。
「どの料理も美味いよな。俺も結構気に入ってるばい。」
「連れてきてくれてありがとう。」
「大したことじゃないさ。」
「これ、食べ終わってからでよかばってん、桔平に用意してきたプレゼントあげてもよか
ね?」
「ああ、構わないぞ。だったら俺もお前に渡したいものがある。」
せっかく二人で出かけるということで、どちらもバレンタインに用意したプレゼントを持
ってきていた。頼んだ定食を食べ終えると、千歳は橘へのプレゼントを手にする。
「これ、桔平へのプレゼントばい。バレンタインに渡せればよかったばってん、どうして
も直接渡したくて。」
「それは俺も同じたい。それにバレンタインにはチョコを送ってきてくれてたしな。あり
がとう。」
千歳からプレゼントを受け取ると、橘はお礼を言う。袋にリボンがついているような簡易
な包装であるが、中には箱が入っているようで、それなりの大きさがあった。
「開けてみてもよかね?」
「もちろんばい。」
リボンを解き袋を開け、橘は中に入っているものを出してみる。それは予想だにしていな
いものであったが、その中身を見て橘は目を輝かせる。
「結局あんまりバレンタインっぽくはないし、プレゼントとしてちょっと変わってるかも
と思ったばってん、桔平なら喜んでくれるかと思って。」
「いや、これ、普通に嬉しい。へぇ、そんなのも入ってるのか。」
千歳が橘に用意したものは、天然だしのセットであった。定番のものから少し変わったも
のまで、様々なだしがパックの形でたくさん入っている。料理が趣味の橘にとっては、そ
れは非常に魅力的なプレゼントであった。
「ありがとな、千歳。これ使って新しい料理にどんどん挑戦してみるばい。」
「そんときは、俺を味見係に呼んでくれてもよかよ?」
「はは、そうだな。まずはお前に食べさせてやらないとな。」
思ったよりも嬉しそうにしている橘を見て、このプレゼントのチョイスは間違っていなか
ったと千歳はホッとする。一旦出したそれを再度袋にしまうと、橘は自分が用意していた
プレゼントを出す。橘が千歳のために用意したプレゼントは千歳のものに比べるとかなり
小ぶりであった。
「俺からのプレゼントはこれだ。気に入ってもらえるとよいが・・・」
「桔平がくれるもんなら、何でも嬉しかよ。」
「それ、メッセージでも言ってたな。受け取ってくれるか?」
「もちろんばい。」
橘からプレゼントを受け取ると、千歳はワクワクとした様子でそれを眺める。
「開けてみてもよか?」
「ああ。」
「そんじゃ早速・・・」
小さな袋を開けると、そこには小さな黄色の花を模したピアスが一つ入っていた。
「これは・・・」
「ちょっと可愛らしいすぎるかとも思ったばってん、千歳、タンポポ好きだろ?ピアスも
開いてるし、ちょうどいいかと思ったんだが・・・」
雑誌に書いてあることを気にして迷い過ぎてしまったりしていたので、橘は自信なさげに
そんなことを言う。
「ちなみに桔平、バレンタインのプレゼントとして、ピアスを贈る意味は知っとる?」
「あー、まあ、杏が送ってきた雑誌に書いてあったからな。」
「それ、知ってた上でコレ選んでくれたと?」
「『いつも自分の存在を感じてほしい』って意味だろ?それだったら、別にそこまで間違
ってはないかと思ったんだが・・・さすがに重かったか?」
意味を知らずにではなく、しっかりと理解した上でしかもその気持ちが込められているこ
とを橘の口から聞き、千歳は言葉に出来ないほどの嬉しさを感じる。顔が熱くなるのを感
じ、それを隠すように思わず両手で顔を覆ってしまう。
「やっぱり、気に入らなかったか?」
「いや、その逆ばい。タンポポが好きなのは桔平に似てるからで、そんなタンポポモチー
フのピアスを、ピアスを贈る意味を分かった上で贈られて、嬉しすぎてどう反応していい
か分からなくなっとる。」
「なら、俺の選択は間違ってなかったってことか?」
「大正解すぎて、もう大変たい。」
「はは、それならよかったばい。」
贈ったプレゼントを喜んでいるのは確かなようなので、橘は嬉しそうに笑う。
「お前が嫌じゃなけりゃ、そのピアスつけてやろうか?」
「ええ!?桔平がつけてくれると?」
「嫌ならいいが・・・」
「いや、つけてくれんね!」
「了解だ。」
楽しげに笑いながら橘は、もともとつけていたピアスを外し、タンポポのピアスをつける。
「思ったより似合うな。」
「ほんなこつ?」
「ああ。贈ってよかったばい。」
にっこりと笑いながら橘はそんなことを言う。そんな橘に千歳はドキドキさせられっぱな
しだ。
「桔平からこぎゃんプレゼントもらって、しかもつけてもらって、ほんなこつ幸せばい。」
「大袈裟だな。ばってん、俺もお前とこうしていられて、たいぎゃ嬉しかよ。」
嬉しい気持ちで胸いっぱいになり、二人は少しの恥ずかしさを感じながらもその顔にはず
っと笑みが溢れていた。