銀×財前
二人の予定が空いていた休日、銀と財前はオーガニックカフェにやってきていた。
「今日はそこまで混んでなくてええ感じっスね。」
「せやな。ドリンクと食べ物も注文したし、用意したプレゼント、渡してもええやろか?」
「はい。ほんなら俺も渡しますね。」
バレンタインのプレゼントにと準備してきたものを二人ともテーブルの上に出す。どちら
もそこまで派手ではないが、いかにもプレゼントといったラッピングが施されていた。
「まずはワシから渡すな。バレンタインは過ぎてしもうたけど、財前はんのために選ばせ
てもろたプレゼントや。」
「ありがとうございます。師範のおすすめの香り、ホンマ楽しみにしとったんで嬉しいっ
スわ。」
「気に入ってもらえるとええんやけどな。」
銀に渡された包みを財前は開けてみる。中には精油と精油を垂らすのに使うアロマウッド
が入っていた。
「ここでこれに垂らすのは出来んかもしれへんけど、ちょっと匂いを嗅ぐくらいなら大丈
夫っスかね?」
「それくらいなら大丈夫やないか?」
「ほんなら少しだけ・・・」
精油の蓋を開け、財前はその匂いを嗅いでみる。
(この匂い知っとるな。結構嗅いだことある気がする。何やろ・・・?)
しばらく嗅ぎながら、どこで嗅いだことのある匂いか財前は考える。少しして、それがど
こで嗅いだことのある匂いかを思い出した。
「あっ、お寺の匂いや。」
「ほぼ正解やな。それはサンダルウッド、日本語では白檀の精油や。お寺の香木や線香に
も使われてることが多いからそう感じるんやろな。」
「なるほど。これが師範のおすすめってことっスね。メッセージでも香りは花には限らへ
んって言っとりましたもんね。」
「ワシとしては、やっぱりお寺を感じられる香りは好きやし、精油の中でもサンダルウッ
ドは結構メジャーやからええかなと思うて。そないな理由で選んでみたんやが、どうやろ
か?」
お寺の匂いと言われ、気に入ってくれるかどうか分からなかったため、銀は控えめにそう
尋ねる。
「この匂い、メッチャ師範って感じがしてええ匂いです。結構好きっスわ。」
「そ、そうか。それならよかった。」
予想以上に嬉しそうな財前の様子を見て、銀はホッとする。精油の蓋を閉めると財前は自
分の用意していたプレゼントを手にする。
「次は俺の番っスね。」
「早くにマルシェに入って買うてくれたんやろ?ホンマにおおきにな。」
「まだ渡しとらんのにお礼言うの早いっスわ。師範が欲しがっとったものなんで、気に入
ってもらえるとは思います。」
財前からプレゼントを受け取ると、銀は嬉しそうに笑う。包みの中には、リーフレットを
見て気になっていたアイテムが入っていた。
「それ、なかなかええっすよね。」
「うむ。写真で見てもええ感じやと思ったが、実物は写真で見るよりも何倍もええな。」
「そういえば、これも白檀で出来てるんスよね?」
財前が銀のために用意したプレゼントは、白檀のリングストラップであった。白檀で作ら
れた指輪のようなパーツがいくつかのウッドビーズと共に繋がっているような見た目をし
ている。
「ああ、確かにせやな。ワシの贈ったプレゼントともとはお揃いやな。」
「お揃いといえば、俺もそれ結構気に入ったんで、師範とお揃いで買っちゃいました。限
定品やし、俺も持っとってもええかなあと思て。」
そう言いながら、財前は鞄の目立たない場所につけているそれを見せる。それを見て、銀
は少し驚いたような顔を見せた後、実に嬉しそうな笑顔になった。
「財前はんとお揃いのストラップか。そりゃ、自分だけがもらうよりもっと嬉しく感じる
な。」
「ホンマですか?」
「好きな人とお揃いいうんは、嬉しいもんやろ?」
「それは、そうですけど・・・」
『好きな人とお揃い』という言葉に財前はドキドキしてしまい、頬を赤く染める。そんな
財前の反応も可愛らしいなあと思いながら、銀は顔を緩ませる。
「と、とにかく、喜んでもらえたみたいでよかったっス。」
「ホンマおおきにな。」
「俺もありがとうございます。師範のおすすめの匂い、メッチャ気に入りました。」
「はは、そりゃよかったわ。白檀の匂い嗅いだら、今日のこと思い出して、ええ気分にな
れるな。」
「確かにそうですね。」
ふわりと白檀の香りが漂う中、二人は顔を見合わせて笑う。受け取ったプレゼントを大事
にしまうと、ふうっと一息つく。
「お待たせしました。」
それと同時に注文した品が運ばれてくる。
「頼んだもん来ましたよ。」
「美味しそうやな。」
「俺が頼んだのちょっと分けるんで、師範が頼んだのも分けてくれません?」
「ええで。何やこういうんもデート感あってええな。」
頼んだものを分け合うのが少しデートっぽいと銀はそんなことを口にする。それを聞いて、
財前は照れながらも素直に頷いた。
「そうかもしれんです。」
「ここでゆっくり食事をして、次はどこへ行こうか決めような。まだ、一緒にいられるや
ろ?」
「もちろんです。この後も楽しみっスわ。」
美味しい料理を分け合いながら、二人はこの後の予定を考える。今日は存分にデートを楽
しもうと話す。そんな二人の顔には幸せいっぱいの楽しげな笑みが浮かんでいた。