花香るバレンタイン
〜After Valentine〜(君篤)

君島×遠野

バレンタインの夜、部屋の周りに人がいなくなったタイミングを狙って、君島は遠野の部
屋を訪ねる。
コンコン
「よお、約束通り来たな。」
「こんばんは、入ってもよいかな?」
「ああ、いいぜ。」
君島を部屋へ招き入れると、遠野はドアを閉める。バレンタイン・マルシェで買ったプレ
ゼントを手に取り、遠野はベッドに腰かける。
「お前も座れよ。」
「ええ。」
遠野の隣に座ると、君島は今日の朝、自分宛に届いていたチョコレートの感想を口にする。
「今日はチョコレートを送ってきてくれてありがとうございます。バレンタインの贈り物
自体はたくさんもらいますが、キミからの贈り物はやはり特別なので。少しだけ食べまし
たが美味しかったですよ。」
「おー、俺もお前からのチョコ受け取ったぜ。俺好みで嬉しかったぜ。お前が送ってくる
だけあって、味も最高だったしな。」
「気に入ってもらえたなら何よりです。」
嬉しそうに笑っている君島を横目に、遠野は手に持っているプレゼントに視線を落とす。
チョコとは別にバレンタインの贈り物として君島のために用意したプレゼント。気に入っ
てくれるかは分からないが、君島のことを想って選んだものであることは間違いなかった。
「なあ。」
「何です?」
「ホワイトデーにはコーディネートしてやるつもりだし、その服にあった小物も用意して
やってるんだけどよ、それとは別に用意してるものがあってな。」
「それは興味深いですね。」
「だから、やる。」
照れているのか、顔を見ずに遠野は持っていたプレゼントを渡す。遠野らしい真っ赤な包
装紙に包まれた小さな箱を受け取り、君島は口元を緩ませる。
「ありがとうございます。開けてもいいかな?」
「ああ。俺の趣味で選んだから、お前の趣味とは違うかもしれねぇけど。」
大切な宝物を開けるかのように、君島は丁寧に包みを開けていく。赤いベールを脱いだ箱
の中に入っていたのは、黒い石を中心に薔薇の形をかたどったシルバーの指輪であった。
「これは・・・」
「い、一応、お前に似合うかもって思って買ったんだからな。」
思ったよりも自分好みのデザインに、君島は嬉しくなる。その指輪を指にはめると、遠野
に見せる。
「どうです?似合いますか?」
「ああ!やっぱ似合うな!俺の見立ては間違ってなかったぜ!」
君島の指を彩る黒薔薇の指輪を見て、遠野は嬉しそうにそう口にする。指で光る指輪をし
ばらく眺めた後、指輪をつけた方の手で遠野の頬にそっと触れる。
「っ!!」
「バレンタインに指輪を贈るのも、黒薔薇の花言葉も『永遠の愛』という意味です。随分
と情熱的な贈り物をしてくれますね。」
「べ、別にそういうわけじゃ・・・」
そこまで大層な意味を込めるつもりはなかったが、そういう意味があるということは理解
していた。それを指摘されると思ったよりも恥ずかしく、遠野は顔を赤く染める。
「私も遠野くんにプレゼントを用意してるんです。受け取ってくれますか?」
「えっ!?お、おう。」
君島もチョコレート以外に遠野へのプレゼントを用意していた。高級感があるもののシン
プルなラッピングが施されたプレゼントを遠野に渡す。
「開けてみてください。」
君島からもらったプレゼントを遠野は開ける。中から出てきたのは、中心部分にリングと
チェーンがついた赤いチョーカーであった。そのプレゼントに遠野は目を輝かせる。
「赤いチョーカーとはいいセンスしてるじゃねーか!」
「つけてあげますよ。貸してください。」
遠野からチョーカーを受け取ると、君島は遠野の首にそれをつける。ピッタリと首に巻き
付いている赤いチョーカーは、まるで首輪のようにも見え、君島の目を楽しませる。
「つけ心地も悪くねぇ。」
「とても似合っていますよ。」
「赤いチョーカーはギロチンで処刑された人々の象徴だからな。そんなもんを俺にくれる
なんて、いい趣味してるじゃねーか。」
「それは知りませんでしたが、束縛や独占欲の意味があるのは知っていますよ。」
「へぇ。なら、そういう意味を込めてんのか?」
「さあ、どうでしょうね。」
誤魔化すかのような言葉を放った後、君島はチョーカーについているチェーンを引っ張り、
遠野の顔を引き寄せる。
「いいですね、これ。」
「こんなに顔を近づけて、キスでもするつもりか?」
「して欲しいんですか?」
「バレンタインの夜だし、するのもありなんじゃねーの?」
「随分遠回しなお誘いですね。しかし、キスをしてしまったら、それだけでは終えられま
せんよ?」
「フン、最初からそのつもりだっつーの。」
そう口にしながら、遠野は君島の唇を奪う。そんな遠野の行動に君島もその気になる。
「足りないですね。」
「だったらもっとしようぜ。俺には『キミ様』としてじゃなく、『君島』として相手して
もらうぜ。俺が好きなのは、ありのままのお前だからな。」
「フッ、本当うんざりするほど正直な言葉ですね。いいですよ。ファンのみんなには見せ
ないようなありのままの私で、存分に愛してあげます。」
そう言いながら、今度は君島から遠野の唇に口づける。二人きりで過ごす甘い甘いバレン
タインの夜。お互いへの想いを存分に込めて贈り合ったアクセサリーが二人の肌の上でキ
ラリと光った。

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