Happiness of Christmas 2

「岳人遅いなあ〜。」
いつもより少し豪華な夕食を前に忍足はコタツに頬づえをついて呟いた。今日はクリスマ
ス・イブなはずなのに岳人がなかなか帰ってこないのだ。何度目かの溜め息を漏らした後、
玄関のチャイムが突然鳴った。
ピンポーン
「岳人や!!」
忍足は岳人が帰って来たのだと思い、慌てて玄関に行く。そして、ドアを開けた。
「遅かったな、岳人・・・?」
だが、そこには誰もいない。確かにチャイムは聞こえた。だが、今目の前には誰もいない。
首を傾げて、不思議そうな顔をしていると後ろから何かが弾けたような音がする。驚いて
振り返ると真っ赤なサンタクロースの服を着た岳人が笑いながら立っていた。
「あはは、ビックリした侑士?」
「もう驚かすやな、岳人〜。」
「遅くなってゴメンな。ちょっと仕事が長引いちゃって。」
「ええよ。気にせんといて。」
岳人がちゃんと帰ってきたことに忍足はとにかくホッとした。早くパーティーを始めよう
と岳人は忍足の手を引き、食事の用意された部屋へと連れてゆく。
「わあ、準備万端じゃん。今日の夕食超豪華だしー♪」
「跡部や滝んとこには全然かなわんけどな。」
あの二人の家のご馳走を想像し、忍足は苦笑する。
「そんなことねぇよ。俺にとっては、どんなに高級なフランス料理よりも高いケーキより
も侑士が作ってくれた飯の方が断然ご馳走だぜ。」
「岳人・・・。」
忍足、感動。こんなにも嬉しいことを言ってくれるのはおそらく岳人だけであろう。腕を
ふるって作った甲斐があったと心底嬉しく感じた。
「早く食おうぜ、侑士。」
「せやな。」
『いただきます。』
食べる前のあいさつをするといろんなものに箸を出す。もちろん岳人の好物もいっぱいだ。
バランスの整ったこのご馳走は色合いもかなりいい。赤や緑、黄色や白と様々な色が並ん
でいる。
「うめぇー。やっぱ侑士の料理が一番だぜ。」
「そうか?そりゃおおきに。」
「ケーキもあるよな。」
「ああ。ちゃんと買ってあるで。」
今日のケーキはいつもと違う。クリスマスということで忍足は二人で食べきれるくらいの
大きさのブッシュ・ド・ノエルを買っておいた。だいたいメインディッシュを食べ終える
と机の上を片付け、その木の形をしたケーキだけを机の上に乗せる。
「可愛いー!何このケーキ、すっげぇ可愛いじゃん。」
「ブッシュ・ド・ノエル言うんやで。」
「ブッシュ・ド・ノエルかあ。なかなかうまそうじゃん。」
「今、包丁と皿持ってくるからちょっと待ってな。」
忍足が台所に向かおうとするのを岳人は止める。
「このケーキ切っちゃうのもったねぇよ。このままで食べようぜ。」
「えっ、でも・・・」
「だから、フォークだけ持ってきて。」
「分かった。」
岳人がそういうなら別に切らなくてもいいかと忍足は二本のフォークだけを持ってきて、
片方を岳人に渡す。岳人は渡されたフォークでケーキを一口分だけ取り、忍足の口元へ持
っていった。
「侑士から食べろよ。」
「えっ?」
「今日は侑士がいっぱい頑張ったんだから、侑士が最初。」
「ええの?」
「うん。ほら、口開けて。」
忍足は素直に口を開ける。岳人はケーキを忍足の口に入れた。クリームの甘さとフルーツ
の甘酸っぱさがあいまって、とろけるような甘さとさわやかさが口いっぱいに広がる。
「このケーキ、なかなかうまいで。」
「ホント?じゃあ、俺も食べよう。」
「あっ、岳人には俺が食べさせたる。」
「サンキュー。」
岳人は忍足に食べさせてもらい、そのケーキのおいしさを味わう。岳人の口にもその甘さ
はとてもおいしく感じられた。
「ホント、うまい!!これ。」
「せやろ?デザートおいしいのが食べれてよかったな。」
「おう。侑士のおかげだぜ。」
思った以上に用意したケーキがおいしかったので、二人は気持ち的にすごく楽しくなり、
自然に笑みがこぼれた。そんなに大きいものではなかったが、食べ終わると二人とも満腹
で大満足だった。
「あっ、岳人、ほっぺにクリームついてるで。」
「マジで?じゃあ、侑士取ってよ。」
「しゃあないなあ。」
本当にまだまだ子供みたいだと忍足は笑いながら手を伸ばした。その手をつかみ、岳人は
満面の笑みで動きを止める。
「取ってって言ったら普通口でだろ?侑士。」
「へっ?」
「ほら、早く。」
またそういうことを〜と恥ずかしがりながらも忍足は岳人に言われるまま、軽く唇を岳人
の頬につけ、そのクリームを舐め取る。岳人は嬉しそうにお返しといわんばかりに忍足の
口にキスを返した。
「侑士、甘ーい♪」
「が、岳人・・・。」
忍足の顔は真っ赤。いつまでたってもこういうことには慣れない。岳人としても忍足のそ
の初々しい反応がたまらなく可愛いとぎゅうっと抱きしめる。
「本当、侑士いくつになっても可愛いままだよね。あっ、そうだ!!まだクリスマスプレ
ゼント渡してないじゃん。ちょっと待ってて。今、持ってくるから。」
「あっ、せやな。じゃあ、俺も持ってくるわ。」
二人はパートナーに渡すためのプレゼントを取りにいき、また同じ場所へと戻ってくる。
岳人も忍足も包みはどちらもなかなか大きいものであった。
「メリークリスマス、侑士。はい、これクリスマスプレゼント。」
「ありがとな。俺からもメリークリスマス岳人。」
お互いにプレゼントを交換し、中身を出した。岳人が忍足にあげた包みには千代紙の模様
のような柄の手帳とうぐいす色のストールが入っていた。
「うわあ、これいいデザインやん。俺、こういうの好きやな。このストールもキレイな色
しとるし。」
「だろ?侑士、そういうの好きそうだからさ、見たらもう決定!!ってすぐ決まったぜ。」
「さずが俺のパートナーやな。俺の好みしっかり分かっとるやん。」
「侑士のプレゼントもかなりセンスいいぜ。この羽のアクセも可愛いし、マフラーのデザ
インも俺好み♪」
「そのマフラー、俺の手編みやで。なかなかうまいやろ?」
「マジで!?すっげー!!俺、買ったやつかと思ったぜ。」
マフラーが忍足の手編みだということを聞いて岳人はさらに喜ぶ。どちらもお互いの好み
を完璧に把握しているので、最高のプレゼントになったようだ。
「侑士、そのストールちょっと肩にかけてみてよ。」
「こないな感じか?」
「おう。やっぱ、似合う〜。超似合ってるぜ侑士。そこらへんの女の人より百倍キレイ。」
「そんな・・・」
そんなことを言われて素直に照れてしまう忍足はもう岳人にとっては、可愛い以外の何も
のでもない。
「岳人もマフラーしてくれへん?ちゃんと似合うか俺も見たい。」
「いいぜ。どうだ?」
「やっぱその色、岳人によく似合っとる。最高にカッコイイで。」
「サンキュー侑士Vvメチャクチャ暖かいぜ。」
二人ともお互いのプレゼントに包まれ、これ以上ない暖かさを感じているようだ。どちら
も愛情いっぱいなのだから当然であろう。くすくすと笑い合っていると岳人が突然ふざけ
て忍足のことを押し倒した。その瞬間、ストールが羽のように忍足の下で広がる。
「何や、岳人?」
「今夜は眠らせないぜ侑士♪」
「今はダメやで。ちゃんと風呂入ってからな。」
あまりにも冷静なつっこみに岳人は爆笑する。でも、断られているわけではないので、こ
の後が楽しみとばかりに何度も忍足の顔にキスの雨を降らせた。
「今日は俺がサンタさんだから、侑士にいっぱい幸せあげてやるからな。」
「ほなら俺も岳人のサンタさんになるで。お互いにあげてこそクリスマスやろ?」
「そうだな。」
予測不可能な忍足の言葉に岳人はちょっと驚きを感じながらも、嬉しくてたまらない。も
う一度唇に触れるだけの接吻をすると二人はそこの部屋を後にした。

ジローと樺地はもう既にどっちも家についていた。クリスマス・イブなど関係がないのか
ジローは今日もぐっすりと眠っている。どちらももうお風呂や着替えは終えてしまってい
るので、後は夕食を食べるだけだ。ジローがぐっすりと眠っている間、樺地は黙々と夕食
の準備をしていた。全ての用意が終わるといつも通りジローのことを起こしに行く。
「ジローさん・・・夕食出来ました。」
「んー・・・何、樺地?もうご飯・・・?」
まだ寝ぼけているのかぼーっとしながら、ジローはソファから起き上がりペタペタと歩き
出した。ふあ〜と大きなあくびをし、夕食の用意されたリビングへと向かう。リビングま
でくるとたくさんのご馳走の匂いがジローの鼻をくすぐる。
「おー、何かすげぇいい匂い。うっわあ、今日すげぇご馳走じゃん!!」
やっと目が覚めたのかジローはたくさんのご馳走を前にしてはしゃぎ出した。樺地はジロ
ーの向かい側に座り、用意しておいたシャンパンをグラスに注ぐ。
「マジマジすっげー!!そっかあ、今日、クリスマス・イブだもんねー。すっかり忘れて
た。」
クリスマスケーキと部屋に飾られたツリーを見て、ジローはやっと今日がクリスマス・イ
ブだったということに気がつく。既に用意されたご馳走とケーキは何から何まで全て樺地
の手作り。中学のころから家庭科が得意だった樺地はこの程度の料理を作るのは朝飯前な
のだ。
「なあなあ、樺地、もう食べていい?」
「ウス。」
「じゃあ、いっただきまーす!!」
さっきまで眠っていたのにその食欲は何だ?というくらいにジローはご馳走をパクパクと
すごい勢いで食べ始める。樺地もそこまでの勢いはないが、それなりな量を黙々と食べた。
「うめー!!これ全部樺地の手作りだろー?さっすがだよな。本当すげぇよ!!」
「・・・ウス。」
ジローがあまりにも料理を絶賛するので、樺地は照れてしまう。確かに前々から自分の能
力を褒めてくれる人はいたが、その他のことでここまで素直に褒めてくれるのはジローだ
けだ。素直な心をもっているが故、樺地はこんなちょっとしたことでも大きな嬉しさを感
じる。メインディッシュもデザートも全て食べ終わるとジローは満足気な溜め息を漏らし
大きく伸びをした。
「はあ〜、うまかったあ。超満足♪」
「ウス。」
「あっ!あのな、俺、樺地にクリスマスプレゼント買ったんだよ。今、持ってくるな。」
ジローにそう言われ、樺地もジローにプレゼントを用意していたことを思い出し、それを
取りに行く。この二人も他のメンバーと同じようにプレゼント交換をすることになった。
「はい。樺地。メリークリスマス!!」
「ウス。」
「見て見て。なかなかいい感じじゃねぇ?」
ジローが樺地にあげたものは真っ青なエプロンと白いボンボンのついたキーホルダーだっ
た。いつも家事をしてくれる樺地にはこれがピッタリだとジロー自ら店に出向き買って来
たのだ。樺地は体が大きいためになかなか普通には着れるようなサイズのものが売ってい
ない。そのため、樺地はいつもエプロンなしで料理などをしていたのだ。
「そのキーホルダーはな、何か可愛いなあって思って。エプロンだけじゃダメかなあって
思ってさ。」
「ありがとうございます・・・。」
「どういたしまして♪樺地がくれたプレゼントは何かな〜?」
自分のプレゼントを渡し終えると今度は自分がもらったプレゼントを開ける。中には真っ
白な可愛いコートが入っていた。フードの部分にはふわふわの毛皮がついている。持ち上
げてみると見かけよりもずっと軽い。そう、毎日アルバイトをしているジローがあまりに
も寒そうだと樺地は可愛いデザインの軽いコートをプレゼントとして選んだのだ。
「うっわあ、何これ、ちょーかわE〜!!これ、俺の?マジで俺にくれるんだよね?」
「ウス。」
「やったー!!最近、寒くてバイト行きたくないなあって思ってたんだよねー。これがあ
ればポカポカ度100%だぜ。マジあんがと樺地!!」
ジローがあまりにも喜んでくれるので、樺地も嬉しくなる。少し値段は高かったのだが、
こんなに喜んでくれるとは思っていなかったので、心から買ってよかったと思った。
「ふあ〜、何かはしゃいだら眠くなっちゃった。俺、寝るね。」
さっきあんなに眠っていたのにまだ寝るのかと言いたくなるが、樺地はそんなことは気に
しない。隣に座っていたので、ジローは樺地に寄りかかる形ですっかり眠ってしまった。
こんなこともあろうかと樺地はあらかじめ手の届く場所に毛布を置いておいたので、それ
を取りジローの体にかけてやる。毛布が大きいので必然的に樺地の体にもかかる形になっ
た。
「おやすみなさい・・・。」
そう呟くと樺地はテーブルの向こう側にあるクリスマス・ツリーに目を移した。クリスマ
ス・イブといういつもとは違う雰囲気を楽しみながら樺地はそのままジローと一緒に眠っ
てしまうのであった。

聖なる夜、クリスマスの幸せはどこの家でも溢れている。夜はまだ始まったばかりだ。ク
リスマス・イブがクリスマスに変わる時、さらなる幸せをサンタクロースが運んできてく
れるのであろう。

                                END.

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