Hardly&Softly

最近、跡部が異常に厳しい・・・。部活はもちろん、授業中や休み時間、一緒に勉強して
いる時なんかもありえないくらいだ。確かにあと二週間くらいでテストが始まるし、部活
もここで気合を入れなきゃいけないのも分かってる。でも・・・でも・・・どう考えても
あの厳しさは尋常じゃねぇ。何がそんなに気に入らないんだよ!!

宍戸をここまで困惑させているのは、ここ一週間の跡部の態度だ。普段から物事に関して
厳しい一面を持っているが、今週はそれがまた顕著に表れている。それも宍戸に対してだ
け。どうして自分ばかりこんなに厳しくされなければならないのか、宍戸は不満いっぱい
だ。この一週間、跡部がどんなであったかいくつか例をあげてみてみよう。

自習時間・・・
「跡部、英語の宿題が全然分かんないんだけど。」
「あーん?あんなのただ、単語調べて適当に和訳すりゃいいだけだろ。」
「それが出来ねぇんだよ!!なあ、教えてくれよ。」
「しょうがねぇなぁ・・・。」
自習の時間に宍戸は英語の宿題が難しくて出来ないと跡部に聞きに行った。何度か頼み込
んで何とか教えてもらえることになったが、機嫌が悪かったのか跡部の表情はひどく厳し
い。そして、自分の持っている辞書をドサッと宍戸の前に落とし、調べるように指示した。
「まずは自分で出来る限りやってみろ。教えてやるのはそれからだ。」
「お、おう。」
言われるまま、宍戸は辞書を開き分からない単語を調べ始めた。今回はいくつか意味のあ
る単語が多く、なかなか前に進まない。
「跡部・・・全然分かんねぇ。」
「テメーは辞書も使えねぇのか?」
「辞書の見方は分かるけどよぉ、何かいっぱい意味があってどれ使えばいいのかが分かん
ねぇんだよ。」
「そんなの、文の流れからいくらでも予測出来るだろ。」
「文の流れ?」
宍戸はもう一度教科書に視線を落としてみる。確かに英文はたくさん書かれているが文の
流れとは何ぞや。文法的なこともまだ理解が曖昧なのでさっぱりだ。
「・・・・・やっぱ、分かんねぇ。」
「あーん?ここの部分はこの前の授業で散々説明してたところだぜ。お前は何しに学校へ
来てるんだ?」
「部活?」
それを聞いて跡部はプチっとキレた。せっかく時間を割いて教えてやっているのに、宍戸
は何も理解していない。確かに自分はまだ教えるということは何もしていないが、まだそ
の段階にも宍戸は達していないのだ。
「ほう・・・俺様がせっかく教えてやろうとしてるのにそんなことを言うんだな。この一
時間で徹底的に教え込んでやる。覚悟しな。」
「えっ・・・・」
この後の跡部はまさに鬼だ。一つ一つの単語を一から自分で調べさせ、全てノートに写さ
せる。そして、文法的なことも五文型から応用まで完璧に分かったというまで教え込んだ。
ただ宿題を教えてもらえればそれだけでよかった宍戸にとっては地獄だった。こんなのは
自習の時間としてありえない。よくもまあ、時間内に終わったものだ。
「よし、これだけやりゃあ、十分だろ。」
「鬼〜、別にここまでする必要ねぇだろが・・・。」
「あーん?あんだけ教えてやったのにそれでも不満なのか?」
「うぅ・・・」
確かに教えてくれと頼んだのは自分の方だ。文句を言える立場ではない。へとへとになり
ながら、アルファベットで埋め尽くされたノートを見て宍戸は溜め息をつく。今日の跡部
は機嫌が悪い。そんなことを考えながら机に突っ伏した。

部活の時間・・・
「今日の練習は自分の弱いところをなくすための練習だ。各自、弱点を克服するように自
主練を始めろ。」
レギュラー陣に向かって跡部はそう言い放った。太郎からの伝言らしい。
「弱点かぁ。侑士、俺の弱点って何だと思う?」
「せやなぁ、持久力とかパワーやないの?」
「そうだな。えっと、それじゃ、まず筋力トレーニングでもしに行くか。侑士も一緒に来
いよ。」
「ああ。」
岳人と忍足は筋力トレーニングということで、レギュラー専用部室にあるトレーニングル
ームへと向かった。鳳はテクニックがいまいちなどのでコーン当てを、樺地と日吉は試合
を通して、実力アップを図り、ジローはいつも通りベンチで眠っていた。
「うーん、俺の弱点・・・持久力も足りないし、パワーもいまいちだよな。テクニックも
メチャクチャいいってわけじゃねぇし・・・。何から練習しよう?」
宍戸はスピードと反射神経には自信があるが、その他のことに関してはいまいちパッとし
ない。何から練習しようかと悩んでいるとそこへ跡部がやってくる。
「宍戸。」
「あっ、跡部。」
「俺と打ち合いをしろ。」
「へっ?何で?」
「お前の弱点、俺様が全部鍛えてやるよ。」
自信に満ちた笑みを浮かべながら、跡部は打ち合いをしようと宍戸を誘う。跡部と打ち合
いをするというのは、普段はなかなか出来ないので、宍戸はそりゃいいとその提案を呑ん
だ。しかし、そこから地獄の特訓が始まる・・・。
「ほらほら、ちゃんとボールを追いかけろ!それじゃあ、俺から点は取れねぇぜ。」
「くっ・・・」
「足だけで試合をしようとするな!ちゃんと上半身も使って球をコントロールしろ!」
跡部の指示は的確ではあるが、宍戸からするとそれがうまくいかない。そんな自分に歯が
ゆさを感じながらも、必死でボールにくらいつき、何とか跡部から点を取ろうと頑張った。
しかし、やはり弱点を突かれているだけあり、結果はボロボロ。ゼーゼーと息を乱しなが
ら、跡部を睨んだ。
「何だよ?何か言いたげだな。」
「跡部っ、明日も明後日もこの練習しろ!!今度は絶対負けねぇ!!」
それを聞いて跡部はふっと笑う。まさに思惑通り。自分の練習が出来なくなるのは少々残
念だが、そんなのは他の時間に取り戻せばいい。宍戸を鍛えてやろうという計画はバッチ
リ成功しそうだ。
「いいぜ。その代わり、途中でやめるなんて言い出すなよ?」
「当たり前だろ!!」
「俺様の練習は厳しいぜ。」
「へっ、絶対最後まで耐えてやるよ。」
こんなことを言った宍戸だが、この後の跡部の特訓は本当に厳しいものだった。何度も何
度も打ち負かされて、馬鹿にされる。それが悔しくてまた繰り返す。そんなことが数日続
くとさすがに体も精神力もへとへとだ。思った以上の厳しさにさすがに宍戸もへばってく
る。それで、最初のような文句が生まれたというわけだ。

そして、今日は休みの日の前日。最近続いていたハードな特訓を終えると、二人は部室に
着替えに戻った。とっくに他のメンバーは帰ってしまっている。
「はあ〜、疲れたー。跡部、お前ちょっと厳しすぎだぞ!」
「テメーがやりたいって言ったんだろ?」
「うっ、確かにそうだけどさぁ。」
「まあ、明日は休みだ。今日、泊まってくだろ?」
「え?ああ。あっ、でも、今日はマジで疲れてるからそういうのはなしな。」
ちょっと不満気な顔を見せるが、一応跡部は頷いた。
「本当はしたいけど、しょうがねぇ。その代わり、明日、今日の分も取り戻させてもらう
からな。」
「うっ。まあ、明日なら別に。とにかく今日はゆっくり休みてぇ。」
そんなことを言いながら、宍戸は着替える。跡部もテキパキと身の回りの片付けと戸締り
を済ませていた。
「着替え、終わったか?」
「ああ。よっしゃ、じゃあ帰るか。つっても、お前んちにだけどな。」
厳しい特訓で確かに疲れてはいるが、かなり充実感もあるようだ。宍戸は大きく腕を上げ、
伸びをすると、跡部の方を向いて笑った。つられて跡部も笑顔になる。涼しい夜道を並ん
で歩きながら、二人は跡部の家へと向かった。
いつものように豪華なディナーと一日の疲れを取るための入浴を終えると、跡部の部屋で
のくつろぎタイムだ。ゆったりとしたパジャマを着て、お互いに好き勝手なことをしてい
る。
「跡部、喉渇いた。」
「紅茶でも持って来させるか?」
ソファに座りながら、テレビを見ていた宍戸がそんなことを言う。跡部はベッドの上で本
のページをめくりながら宍戸の言葉に答えた。
「んー、俺、ミントティーがいい。」
「別に何でもいいぜ。ミントティーだな。」
跡部はベッドの横にある電話で執事に飲み物を持ってくるように言う。しばらくするとメ
イドの一人が台車にポットとカップを乗せ、二人がいる部屋にやって来た。
「失礼します。坊ちゃま、お茶を持って参りました。」
「そこのテーブルに置いとけ。」
「かしこまりました。」
メイドはポットとカップをテーブルに置き、一礼してから跡部の部屋から出ていった。本
を閉じ、跡部は宍戸の隣にやってくる。二つのカップにハーブティーを入れると一つは自
分で飲み、もう一つは宍戸に渡した。
「サンキュー。・・・うん、やっぱ跡部んとこのお茶って何でもうめぇな。」
「当然だろ?あっ、そういや今日もお前、派手に転んでただろ。ケガとかしてねぇか?」
「ああ。足と腕ちょっと擦りむいたくらいだから大丈夫だぜ。」
「ちょっと見せてみろ。」
「うわっ!?」
足と腕を擦りむいたと聞き、跡部はパジャマの裾を捲くり上げた。確かに右足と右腕に擦
り傷がある。だが、宍戸が言うようにそんなにひどくはないようだ。
「確かに擦りむけてはいるが、そんなにひどくはないみてぇだな。」
「だから、言っただろ?大丈夫だって。」
「でも、俺としてはやっぱあんまり傷はつけて欲しくはねぇなあ。」
そう言いながら、跡部は傷口に軽く口づける。痛いような痺れるようなその感覚に宍戸は
ビクっと身を震わせた。
「跡・・部、痛ぇよ・・・。」
「ああ、すまねぇ。宍戸はこっちの方が好きだったな。」
「ん・・・」
笑いながら傷口から口を離すと、今度はお茶を飲んだことでほのかに熱くなった唇に口づ
ける。反射的に宍戸は離れようとするが、既に跡部はしっかり宍戸の体を抱いていたので
容易にそれは出来なかった。むしろ、無理やり離れようとしたことが原因でバランスを崩
し、ソファに倒れてしまう。
「わ、待て・・・跡っ・・・」
「ちょっと黙ってろよ。」
「んぅ・・・ん・・・んん・・・・・」
文句を言おうにもあっという間に口を塞がれてしまうので、言うことが出来ない。しかし、
今日のキスはやけに優しい。この一週間、跡部の態度やすることが厳しかったからそう感
じるのかもしれない。だが、宍戸にとってはそのいつもより優しい口づけがこの上なく嬉
しかった。思わず自ら腕を伸ばし、跡部に抱きついてしまう。
「ん・・・はぁ・・・」
「どうしたんだ?今日は随分素直に甘えてくるじゃねぇか。」
宍戸から抱きついてきてくれたことが嬉しくて、跡部は顔を緩ませながらそう尋ねる。宍
戸は真っ赤になりながら、小さな声でこう答えた。
「何か・・・今日の跡部優しいから・・・つい・・・」
「俺はいつでも優しいじゃねぇか。」
「どこがだ!!・・・てか、お前学校にいる時と家にいる時でギャップありすぎ。」
そうか?と跡部はしばらく黙って考えてみる。確かに学校にいる時の方が宍戸に対して、
若干厳しくしている節がある。しかし、跡部からすればそんなに大差はないことなのだ。
「でもよ・・・」
「何だよ?」
「仮に学校にいる時に家にいる時と同じくらい俺がお前を甘やかしてたらどうよ?」
「・・・・・。」
学校で今の雰囲気でいるということを考えてみる。それはヤバイだろうとすぐさま宍戸の
脳は想像するのをやめた。
「ありえねぇ!!」
「だろ?じゃなかったら、家にいる時でも学校にいる時と同じくらい厳しかったら、どう
だ?」
「それも・・・ヤダ。」
「じゃあ、今のままでちょうどいいんじゃねぇの?それに学校で厳しくしてるのは、別に
お前が嫌いだからやってるんじゃないんだぜ?むしろ、お前のことを思ってしてやってん
だよ。」
「は?どういう意味だ?」
「しばらくすれば分かることだ。」
意味深なことを言って、跡部はいつもの自信にあふれた笑みを見せた。さっぱり意味が分
からないと宍戸は首を傾げる。
「まあ、細かいことは気にするな。それより、さっさと茶飲んじまえ。」
「おう。」
跡部に言われ、宍戸は入れてもらったミントティーをごくごくと飲んだ。満足気に溜め息
を漏らすと隣に座っている跡部の肩の頭を預ける。
「どうした?」
「んー、別に。ちょっとこうしてみたかっただけ。」
「可愛い奴。」
「ウルセー。・・・あのさ、跡部。」
「何だよ?」
声をかけておきながら、宍戸はしばらく黙ってしまう。一体何なんだよ?と跡部がつっこ
もうとした瞬間、うつむきかげんだった顔を上げて宍戸は思いきった様子で言う。
「学校で今日はしないみたいなこと言ったけど、やっぱしてもいいぞ。」
「・・・・・。」
宍戸の言ったことがすぐには理解出来なくて跡部は唖然とする。ちょっとの間があって、
ちゃんと宍戸が言ったことを把握すると、途端に跡部の顔は笑顔になった。
「へぇ、そっか。それじゃあ、早速ベッド行くか?」
「えっ、いきなり・・・」
「善は急げだろ?」
「別にいいって言ったけど、一応今日は疲れてるんだからな!!」
「分かってる。そんなに体力使わせずに、天国へ連れてってやるよ。」
「また、お前はそういう恥ずかしいことを言う・・・。」
跡部の言葉に顔を赤く染めながら、手を引かれ、宍戸は跡部と一緒にベッドへと向かう。
自分から誘ってしまったことを恥ずかしいと思いながらも、心のどこかで楽しみだと思っ
ている。これも全部跡部の所為だと心の中で文句を言いながら、宍戸はポスっとベッドに
横になった。その上に跡部がゆっくりと覆いかぶさる。これからが夜のお楽しみだ。跡部
の厳しさと甘さに酔いしれながら、宍戸は今日も跡部に流されてしまうのであった。

それから、数週間後。定期試験の結果が返却された。宍戸は英語のテストの点数を見て、
ビックリ。今まで取ったことのない点数を前にして、宍戸は思わず跡部に報告しに行った。
「跡部、跡部!!」
「あーん?何だよ、宍戸。」
「見てくれよ、このテスト!!こんないい点取ったの初めてだぜ!!」
満面の笑みで宍戸は跡部にテストを見せる。
「この前、教えてやったとこちゃんと出ただろ?」
「・・・・あっ、そういえばそうだな。だから、こんないい点取れたのかあ。」
今回の試験はこの前の自習の時間にやったことが100%役に立つ試験だったのだ。それ
に気づくと宍戸は跡部に抱きつく。
「サンキュー、跡部!!激うれしー。」
嬉しさのあまり、宍戸はここが学校だということを忘れている。一瞬、そのことを跡部は
言おうと思ったが、こんなにオイシイことはそう滅多にない。あえて黙っていて、十分に
宍戸の抱擁を味わった。
「今日の部活も楽しみだな。」
「へ?何で?」
「やりゃあ、分かる。」
部活でも宍戸は大活躍。今日は試合形式の練習だったのだが、宍戸はほとんどの試合で勝
つことが出来た。これもあの跡部の厳しい特訓のおかげであろう。

跡部って、厳しい時はメチャメチャ厳しいけど、全部俺のためだったんだなー。納得。確
かに学校と家でのギャップはありえねぇぐらいすごいけど、俺にとっては好都合だ。また、
跡部のこと惚れ直しちゃいそうだぜ。あー、今から跡部んちに泊まりに行くのが楽しみだ。
二人きりの時はまた甘えさせてくれよな、跡部♪

                                END.

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