東の果ての向こうへ 〜後編〜

天使界と人間界を繋ぐ扉の前には、その番人であるジローと樺地が立っていた。そして、
何故か悪魔である岳人と忍足もそのドアの前で楽しそうに話をしている。
「あっ、跡部。滝から連絡もらったよ。今、開けるからちょっと待ってて。」
「ああ。・・・てか、テメェら何でここにいるんだ?」
「えー、悪魔界の扉の前で遊んでたらさ、滝とジローが話してんのが聞こえて、面白そう
だから、ちょっと来てみた。」
「来たくてポンポン来れる場所じゃねぇだろ。」
「こっちから声かけたら、ジローの奴が扉を開けてくれたんや。」
全然番人の意味をなしてないじゃねぇかと半ば呆れながら、跡部はジローを見る。そんな
跡部の視線は全く無視で、ジローは大きな扉を開けた。
ギーー・・・・
「お久しぶりです。跡部さん。」
「本当、久しぶりだな、鳳。あっちの生活はどうだ?」
大きな扉が開くと先程見せられた薬を持った鳳が姿を現した。鳳は一度滝に召喚された後、
滝のことを好きになってしまい、人間界にとどまっている天使なのだ。天使は一人の者だ
けのために力を使ってはいけないという決まりがあるので、ある意味鳳も堕天使である。
「楽しいですよ。いつでも滝さんと一緒に居られますし。」
「羨ましいな。」
「あっ、スイマセン・・・。これ、滝さんに頼まれた薬です。効果持続時間は二時間くら
いだそうなので、注意して使ってください。」
「二時間か。」
「跡部さんなら、絶対大丈夫ですよ。滝さんから話は聞きました。俺はこのくらいしか出
来ないですけど、頑張ってください。」
「ありがとな。」
薬を渡すと鳳は再び人間界へ戻ってゆく。バタンと扉が閉まると張り詰めた静けさが辺り
を包んだ。
「跡部、本当にあっちに行くの?」
「ああ。俺はどうしても宍戸にもう一度会いてぇんだ。」
「跡部がこないに真剣になってる顔、初めて見たわ。」
「俺も。そうだ!そんなに役に立たねぇかもしれねぇけど、俺らも協力してやるよ。」
何かを思いついたように岳人はそう言う。
「俺らっちゅーことは、俺も入ってるん?」
「当たり前だろー。跡部が本気で恋してるんだぜ?これを手伝わないでどうすんだよ?」
「だが、テメェらに何が出来るんだ?」
手伝ってくれるのは嬉しいが、悪魔の二人に出来ることなどあるのだろうか。そんな疑問
を跡部は率直にぶつけた。
「俺らがさ、あっちに行ったらきっと大騒ぎになるだろ?つまり、そこにいる天使は俺ら
に注目せざる得なくなる。」
「確かに跡部が行っても大変なことになるんだから、岳人や忍足なんかが行ったら、もっ
と大変なことになるだろうね。」
「ウス。」
「その間に、跡部は宍戸をさらってくんだよ。羽が白ければ、すぐには跡部だって気づか
れないわけだし。」
「それ、いい考えかもしれへんな。悪くない案やと思うで。」
「どうよ?跡部。」
少々心配な面はあるが、確かにそれはよい考えだ。少なくとも宍戸をこちらへ連れてきや
すくはなるだろう。願ってもない助けに跡部の心に自信が生まれる。
「ないよりは、全然マシだろうな。よし、テメェらも協力しろ。」
「そうこなくっちゃ。」
「ほなら早速・・・」
「行くか。」
決心が固まると三人はあの深い堀の前まで歩いてゆく。その向こう側を睨み、跡部は滝か
らもらった薬を飲む。メンタルの面で効果が作用されるこの薬、跡部の翼はもとが黒だと
は到底思えないほど、真っ白に染まった。

白くなった翼のおかげで、跡部は何の問題もなしに宍戸の居る家まで来ることが出来た。
岳人と忍足は悪魔お得意の変身で、純白の鳩に化けている。二匹の鳩を連れた白い羽の跡
部はその場所に居ても誰にも咎められることはなかった。
「よし、それじゃあそろそろ始めるか。」
「派手に頼むぜ。」
「まかせとき。ほな、行くで。岳人。」
「おう!」
跡部からある程度離れたところまで飛んでゆくと、二人は悪魔である本当の姿に戻った。
当然辺りは大騒ぎ。何故悪魔がここにいるのかと大混乱だ。宍戸の家の前で見張りをして
いたものも、悪魔が入ってきたという知らせを聞き、そちらの方へ慌てて走って行った。
その隙に跡部は宍戸の家の中へと入ってゆく。
「宍戸っ!!」
バタンとドアを開けながら、跡部は宍戸の名前を呼ぶ。膝を抱えうずくまっていた宍戸は
ゆっくりと声のする方へと顔を向ける。そこには、真っ白な翼の跡部の姿。夢でも見てい
るのではないかと自分の目を疑ったが、次の瞬間、体を強く抱き締められ、これは確かに
現実なのだということを悟る。
「跡・・部・・・?」
「悪かった。俺の所為でお前にこんな思いさせちまって。」
跡部の謝罪の言葉は宍戸の耳には届いていなかった。跡部が今、目の前にいる。ただそれ
だけが宍戸が認識出来る唯一のことだった。あまりの嬉しさに宍戸は何も言えず、とにか
く跡部のことを抱き締め、声を上げて泣いた。
「宍戸、時間がねぇ。あとで十分に泣かしてやるから今は逃げるぞ。」
「でも、羽が・・・」
「これを飲め。それで、俺とあの城まで逃げきると信じるんだ。それを飲めば、一時的に
だが、羽は白くなる。」
「分かった。」
跡部とまたずっと一緒に居たいということを思いながら、宍戸は跡部に渡された薬を飲ん
だ。その瞬間、黒くなっていた部分がもとのように白く染まる。そうなったのを確認する
と跡部は宍戸の手をしっかりと握り、慎重に家の外へと出た。
「あっちに行ったぞ!」
「追いかけろ!!」
岳人と忍足は派手に暴れているようで、遠くで騒ぎ立てる声が聞こえる。宍戸の家の周囲
にはもう誰も残っていなかった。
「よし、今なら行ける。宍戸、走るぞ。」
「おう!!」
ここまで来たなら後はあの城へ向かうだけだと、二人は手を取り合って走り出す。東の果
てまではかなりの距離があるのだが、二人は全力で走った。もうここには絶対の戻って来
ないとそう強く心に決め、走って走って走り続けた。

「そろそろヤバくねぇ?侑士。」
「せやな。このままだとホンマに殺されてしまいそうな勢いやわ。」
思った以上の天使の狂暴さに二人は少々焦りを感じる。そろそろ跡部も宍戸を連れ出した
ころだろうと思い、二人は天使の目をくらまし、城の方へと戻ることにした。しかし、天
使の力は予想以上に強力で、何人かの天使はその目くらましを弾いて、二人を追いかける。
「マジでこれはアカンて!!岳人、逃げるで。」
「おう!」
もうここは逃げるが勝ちだと二人は、蝙蝠のような真っ黒な羽を羽ばたかせ、城へ向かっ
て逃げ出した。それでも、しつこい天使はまだ二人のことを追いかける。
『待てーー!!』
「マジしつこいし。」
「だから、天使は好かんのや。」
天使がしてくる攻撃をひょいひょいとかわしながら、二人はあの大きな堀の前までやって
きた。ちょうどその時、跡部と宍戸もそこにやってきていた。
「あっ、跡部だ。」
「ホンマや。ちゃんとここまでは逃げきれたんやな。」
しかし、そう思ったのもつかの間。今自分達の後ろには攻撃的な天使が追いかけてきてい
るのだ。そのことに気づかず、跡部と宍戸は翼を羽ばたかせ、ふわりと体を浮かせる。走
っている間に薬が切れ、二人の羽はもとの色に戻っていた。
「何だ?あいつら・・・?」
「翼の黒い天使・・・あいつ、東の果ての堕天使だぞ!!」
二人が城に向かっているのに気づき、岳人と忍足を追いかけてきた天使は標的を二人に変
える。黒い翼の天使がこちら側に入ってきたら、どんなに攻撃してもいいというのが天使
の国の決まりだった。
「アカンっ!!」
「跡部っ!!」
その危険を知らせようと岳人と忍足は大声で叫ぶが、天使達はすごい勢いで二人に向かっ
て飛んで行った。そして、その中の一人が腰につけていた剣を振り下ろす。
『やめろーー!!』
ザシュッ・・・・
ひらひらと白い羽根が舞い散る。その白い羽根を赤く染めるかのように鮮やかな血がポタ
ポタと宍戸の背中から流れた。
「うあ・・・・」
「宍戸っ!!」
跡部が宍戸の方を振り向くと同時に先程の天使が再び剣を振り上げる。あまりにも突然の
ことだったので、跡部には為すすべがなかった。これ以上宍戸は傷つけまいとしっかりと
自分の腕に宍戸を抱き、跡部は大きく翼を羽ばたかせる。
ザクッ・・・
「っ・・・」
しかし、その場から逃げることは出来なかった。跡部の背中からも鮮血が流れる。黒い羽
根と白い羽根が赤く染まりながら、堀の下へと落ちてゆく。そんな光景を見ていた岳人と
忍足は、今見ていることが信じられず、目に涙を浮かべ、ただ呆然とするしかなかった。
『とどめだ!!』
もう抵抗が出来なくなった二人に、今度はそこに居た全ての天使が自分の持っている剣を
振り上げる。もうダメだと岳人と忍足が目をつぶった瞬間、城の方から何かを叫ぶ声が聞
こえた。
「タイムっ!!」
その瞬間、辺りは時間が止まったかのように静止する。そして、城の方からジローと樺地
が跡部と宍戸のもとに向かって飛んできた。
「ふー、ギリギリセーフ。跡部、生きてる?」
「ああ・・・何とかな。」
「大丈夫・・・ですか?」
「おう・・・でも、背中が死ぬほど痛ぇ・・・」
飛べなくなりかけている二人の体をしっかりと支え、ジローと樺地は城の方へと戻ってゆ
く。どうやら二人は助かったようだと、顔を見合わせると岳人と忍足も城の方へと戻って
いった。
「よし、ここまでくれば大丈夫っしょ。樺地、二人を城の中まで連れてってあげて。岳人
と忍足も手伝ってよ。」
「ウス。」
『了解。』
二人を安全なところまで連れて行くと、ジローは時間の流れをもとに戻す。そして、とど
めをさそうとしていた天使のもとへ飛んでいった。
「あれ?あいつらはどこに消えた!?」
「あー、天使さん達こんにちはー。今、黒い翼の天使があっちの方へ逃げてきたので俺が
始末しておきましたー。後で、ご褒美ちょうだいね!」
二人の体を支えていたため、ジローの服や手は血で赤く染まっていた。あまりにそれがひ
どいので、天使達はその言葉を信じるしかなかった。
「そうか。」
「それなら、問題ないな。」
「それじゃあ、帰るか。」
天使達が向こう側へと戻ってゆくのを見送ると、ジローはくるっと城の方に体を向け、べ
ーと舌を出した。
「天使ってやっぱ単純。さっさと城帰って、跡部達の手当てしてあげなきゃ。」
天使をだまし、もうこっちへ近づけさせないようにした後、ジローは城へと戻っていった。

跡部の部屋では、天使に切りつけられた二人の手当てを樺地がしている。
「あーあ、もったないなあ。あないに綺麗な黒い羽、悪魔でもそうそういないのに。」
「仕方ねぇだろ。それにしても、本当あいつらムカツクよな。俺だけならまだしも、こい
つにまで、手出しやがって。」
樺地に手当てを受けている宍戸を見ながら、跡部は言う。二人は命は助かったものの、宍
戸は右の翼を、跡部は左の翼を完全に失ってしまったのだ。
「確かに羽が片方なくなっちまったのは痛かったけどよ、俺は跡部にまた会えてすげぇ嬉
しいと思うぜ。」
そんな宍戸の言葉を聞き、跡部の気持ちは少し静まる。自分も宍戸と会えたことは心から
嬉しいと思う。それは、片翼を失っても得たいと思うことであった。
「終わりました・・・」
「おっ、サンキュー樺地。すげぇ、もう全然痛くねぇや。」
羽のない違和感は感じるが、痛みはすっかりなくなっていた。自分も宍戸も手当てが終わ
ったのを確認すると、跡部はそこにいるメンバーをいったん部屋の外に出そうとする。
「なあ、お前ら、少しの間部屋から出てってくれねぇか?」
「何でだよー?」
「こいつと二人きりで話してぇんだ。」
「ほらな、仕方ないわ。岳人、行くで。」
「はーい。」
「それじゃ、俺らは扉のとこ戻るか。俺らが番してないと誰が入ってくるか分からねぇか
らな。」
「ウス。」
跡部の気持ちを察し、四人は部屋の外へ出て行った。

部屋の中に二人きりになると、宍戸は思いきり跡部に抱きつき、今までの思いを泣きなが
らぶちまけた。
「跡部っ、会いたかった!!すげぇ会いたかった!!」
「俺もだ、宍戸。」
「約束守れなくて、ゴメン。すぐに戻ってくるって言ったのに・・・」
「気にすんな。すぐに助けに行かなかった俺も悪い。」
「なあ、今度はずっと一緒に居られるよな?」
「ああ。今度は何があってもお前を手放さねぇ。もう一人はごめんだ。」
「跡部・・・小さい頃から、あんな思いしてたんだよな?」
「あんな思い?」
突然切なげな顔になり宍戸はそんなことを言う。しかし、跡部にはそれがどんなことかを
すぐに理解することが出来なかった。
「あっちに帰ってからな、俺、いろんな人に怒られて、家に閉じ込められて、それに逆ら
おうとしたら殴られたりもしたんだ。跡部は小さい頃から、この城から出ることを禁じら
れてて、人に会うのもダメだったんだろ?ちょっとした時間でも、あんなにつらかったん
だから、跡部はもっとつらかったんだろうなあと思って・・・・」
そう言いながら、宍戸はポロポロと涙を流した。自分がつらかったから泣くのではなく、
跡部のことを思い、涙を流す。そんな宍戸の姿に、跡部の胸は何か温かいもので満たされ
るのを感じた。
「泣くな宍戸。俺はお前に出会えただけで十分だ。」
「でも・・・」
もっと何か出来たはずだと宍戸が顔を上げると、跡部の頬も涙で濡れていた。
「跡部・・・?」
「はは、泣くなって言ってるのにこれじゃ全然説得力ねぇな。」
今まで一人で暮らしてきて、どんなに寂しくても悔しくても跡部は涙を流したことなど、
一度もなかった。それなのに、今は涙が止まらない。自分のことを大切に思ってくれてい
る人がいる。そして、その人を自分も同じように大切に思っている。今までは感じること
が出来なかった感情が、跡部の心の中に溢れた。それが今、涙となって体にも溢れている
のだ。
「好きだぜ、宍戸。もう絶対に離さねぇ・・・」
そう呟きながら、跡部はもう一度宍戸のことをぎゅっと抱き締める。宍戸も肩に顔を埋め、
跡部の体を抱き締め返した。
「俺も跡部のこと、すげぇ好きだぜ。」
宍戸がそう言うと同時に、跡部は宍戸の顎をぐっと引き上げ、優しい接吻を施した。一番
初めにしたときとは少し違う長くて深いキス。心地よさとその熱さにうっとりしながら、
宍戸は静かに目をつぶる。
ピカッ!
二人がお互いを感じ合える心地よさに浸っていると、鏡が突然強い光を放ち、滝がそこに
現れた。あまりに突然のことだったので、二人は心臓が止まってしまいそうなほど驚く。
「跡部、ちゃんとさらって来れた?」
『っ!?』
「あっ、ゴメ〜ン。取り込み中だった?」
「いきなり現れるんじゃねぇ!!」
「だから、ゴメンって。でも、ちゃんと連れて来れたみたいだね。よかった。」
「跡部、こいつ誰?」
「人間界に住んでる滝萩之介。黒魔術やってるから、こんなふうに俺らと話せんだよ。」
「へぇー。」
宍戸にとっては滝は初対面なので、物珍しそうに鏡の中を見る。人間界の者を見たのは、
滝が初めてであった。
「あれ?跡部、羽どうしたの?」
「天使の奴らに切られた。」
「宍戸も?」
「ああ。」
「天使もかなり残酷なことするんだねぇ。でも、そうやって並んでると比翼連理って、感
じだよね。」
「ひよくれんり?」
「こっちの世界にある物語に出てくる鳥でね、それぞれ一つずつしか翼を持っていなくて
二匹で一つになって空を飛ぶっていう夫婦の鳥が居るんだ。それをもとにした言葉で、お
互いのことをすごく愛し合っている二人のことを表すんだよ。」
そんな説明を受け、跡部と宍戸は顔を見合わせる。『お互いを愛し合っている』という言
葉に強い魅力を感じた。
「へぇ、なかなかいい言葉じゃねぇか。」
「でしょ?今の二人にピッタリの言葉だと思うけどなあ。」
「そうか?」
照れながら宍戸は確かめるようにそう聞き返す。それに滝は即答で頷いた。
「うん。あっ、そうだ!ちょっと提案なんだけど、二人ともこっちに来て暮らす気ない?
そっちに居ても何か大変そうだからさぁ、二人がよかったら、うちに住んでもらってもい
いんだけど。」
滝自体、人間界では異端児扱いで、かなり山奥の人里離れた場所に住まされている。しか
し、そのおかげで、天使である鳳と住んでいても大丈夫であるし、こんなふうに跡部達と
連絡を取り合っていても何の問題もないのだ。
「悪くはねぇ話だと思うが、本当に俺らがそっちにいっても大丈夫なのか?」
「うん。平気平気。実際、長太郎と住んでても何の問題もないんだからさ。」
「宍戸は?お前はどうしたい?」
「え?えっと、人間界ってどんなとこか分かんねぇけど、少なくともこっちよりはマシな
ような気がする。」
「俺も、こんなところに閉じ込められているよりは、全然マシだと思うぜ。」
「じゃあ、来る?」
「そうだな。ジローと樺地が居りゃあ、こっちに戻ってこれねぇってこともねぇし、そっ
ちの方が楽しそうだしな。」
「じゃあ、決まりだね。宍戸もそれでいいの?」
「おう。跡部と一緒に居られるんだったら、俺はどこでもいいぜ。」
「お熱いねぇ。」
「それじゃあ滝、今からそっちに行こうと思うんだがいいか?」
「うん。俺はいつでもオッケーだよ。」
「じゃあ、ジローに頼んで扉を開けてもらうか。行くぜ、宍戸。」
「おう!!」
人間界に行くということが決まると跡部は早速行動を起こす。跡部は自分の部屋を出て、
ジローと樺地がいる扉の方へ向かった。

「そっか。滝のところに住むことにしたんだな。」
「それがいいと思うで。こないなとこ何も面白くないからな。」
「たまには遊びに行かせてもらうぜ。そんときはジローと樺地、よろしくな。」
「もち。俺も遊びに行きたいC〜。」
「ウス。」
「今日はいろいろとサンキューな。お前らも元気でやれよ。」
「本当にありがと。お前らには激感謝してるぜ!」
「まあ、好きな奴と一緒に居たいって気持ちはよく分かるからな。」
「せやな。跡部も宍戸も元気でな。」
『おう。』
滝と話したことを他の者はそれがいいと、全員一致で賛成であった。そんな四人と別れの
あいさつを交わすと、跡部と宍戸は開かれた扉から、人間界へと入っていった。

天使界を離れ、二人は人間界で暮らす。人間にはない力を二人とも持ち合わせているので、
そこでの暮らしはかなり楽な部分があった。愛する者と時を共に過ごし、ある程度の自由
を持って生活をする。それがどれだけ幸せなことかを跡部と宍戸は人間界での暮らしであ
らためて知った。もちろん跡部と宍戸だけではなく、滝や鳳、岳人や忍足、ジローや樺地
も同じようなことを思いながら毎日を過ごしている。種族の違いや周りがどう思っている
かなどは関係なしに自分が一番大切だと思う人を愛する。そして、その気持ちを共有出来
る仲間がいる。それは、自分達の考えることから外れたものを排除しようとする天使には
絶対に味わうことの出来ない、楽園の東の果ての向こう側で営まれる本当に幸せな生活な
のだ。

                                END.

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