「ごちそうさま・・・・」
まだ半分以上もおかずや御飯が残っている状態で、宍戸は箸を置いた。
「まだ全然食べてねぇじゃねぇか。嫌いな食べもんでも入ってたのか?だったら、他のも
の作らせるぜ。」
「いいよ。何か食欲がねぇんだ。先、部屋に戻ってるな。」
「ああ。」
見るからに元気のない宍戸を見て跡部は少なからず心配になる。どこか調子が悪いのであ
ろうか?自分がいない間に嫌なことでもあったのだろうか?様々なことを考えながら食事
を口に運ぶ。宍戸がいなければ、どんなに豪華な食事も美味しく感じない。しかし、お腹
は空いている。味気のない食事を平らげると、跡部は足早に自分の部屋へと戻っていった。
部屋に入ると宍戸がぼーっとしながら、ソファに寝転がっている。その目をどこか虚ろで
様子がおかしいのは確かだった。
「どうした?亮。気分でも悪ぃのか?」
「そんなことねぇけど・・・・」
「調子が悪ぃならちゃんとベッドで寝た方がいいぜ。」
そう言いながら、跡部は宍戸の顔にかかっている髪を上げてやろうとする。その瞬間、宍
戸はビクッとして、怒ったように跡部を怒鳴った。
「・・・っ!触んなっ!!」
「・・・つっ」
怒鳴っただけでなく、宍戸は無意識に手を出していた。跡部の頬にはくっきりと三本の引
っ掻き傷がついている。いきなり引っ掻かれ、さすがに腹の立つ跡部だったが、すぐには
怒ることが出来なかった。宍戸がそのことに気づき、今にも泣きそうな顔で自分の顔を見
ていたのだ。
「あ・・・悪ぃ・・・・」
「引っ掻いたことは見逃してやる。その代わり、どうしてこんなになってるのかちゃんと
説明してもらうぜ。お前、最近おかしいぜ。どうしたんだ?」
「・・・自分でも分かんねぇんだよ。ただあんまりもの食いたくなくて、意味もないのに
イライラしたり、何となく体が熱くなったり・・・・景吾と一緒にいると、それがひどく
なんだよ。」
弱々しく宍戸は言う。自分の感情がうまくコントロール出来ない腹立だしさと今も感じる
モヤモヤとしたわけのわからない感覚で、宍戸の目はだんだんと潤んできていた。
「もしかしてお前、発情期なんじゃねぇの?」
「へっ・・・?」
宍戸が来る前にも猫を飼っていたことがあったため、跡部はそう思った。本物の猫でない
ために、その時特有に鳴き声などはないものの、その他のことはほぼ当てはまっていた。
「ただ、一つだけ引っかかることがあんだよな。」
「何だよ?」
「お前のその症状、確かに猫の発情期に似てんだけどよ・・・・」
跡部は何となく口ごもる。この後の言葉を言うと宍戸が怒るかもしれないと思ったからだ。
「そこで、止めんな!ちゃんと最後まで言えよ。」
しかし、そこまで言われれば続きが気になるものだ。宍戸は最後まで言うように跡部に言
った。跡部は困惑した表情を浮かべながら、続きを話す。
「雄猫のそれじゃなくて、雌猫のそれなんだよな。」
「は?」
「だから、もっと率直に言っちまえば、テメェのその症状は、雌猫の発情期特有の様子な
んだよ。」
「・・・・・・」
跡部の言っていることの意味がしばらく理解出来ず、宍戸はしばし黙り込む。跡部の言っ
たことをもう一度頭の中でリピートしてみる。何度かリピートしているうちにやっと事の
おかしさを理解した。
「はあ!?ちょっと待てよ!!何でそうなんだ!?」
「こっちが聞きてぇよ。」
「激意味分かんねぇし。あ・・・でも、母ちゃんの方が猫だもんな。なあ、景吾。こうい
うのって、そんなふうに遺伝すんのか?」
「さあ。こんな特殊な親子関係、他にはねぇからな。でも、全くないとは言いきれねぇよ
な。」
「そっか。」
よく分からないことだらけだが、そう言われると認めざるを得ない。原因はハッキリした
とはいえ、これはなかなか困った状況だ。原因が分かっても解決の仕方が宍戸には分から
ない。
「で、どうすんだ?」
「何が?」
「お前が食欲ねぇのも、イライラすんのも、要するに欲求不満が溜まってるからだろ?俺
でよければ相手してやるぜ。」
ふっと優しさと妖しさをどっちも含んだような笑みを跡部は見せる。跡部からすれば、こ
んなにいいチャンスを見逃すわけにはいかないのだ。
「でも・・・俺、男だぜ。いくら発情期だからって、そんなこと景吾に頼むなんて・・・」
この何とも言えないモヤモヤ感を解消したいのはやまやまだが、それを跡部に頼むなんて
ことはそう簡単に出来ない。
「遠慮しなくていいんだぜ。それとも亮は俺のこと嫌いか?」
「ううん、そんなことねぇよ!!」
「俺はお前のこと好きだぜ。」
「俺だって景吾のこと好きだ。」
「じゃあ、何にも問題ねぇよ。猫は発情期にしかそういうことをしないかもしれねぇけど
人間は違うだろ?」
「う、うん・・・・」
跡部の巧みな言葉によって宍戸はだんだんと納得させられてしまう。本当はしてはいけな
いと思いつつも跡部がいいと言うのならと安心感も生まれる。いつの間にか跡部は宍戸の
隣に腰かけ、軽く腰を抱いていた。
「お前がいいって言うなら、最高によくしてやるぜ?」
「でも・・・」
まだ恥ずかしさが抜けず、宍戸はなかなかイエスと言わない。そんな宍戸を頷かせるべく
跡部は猫耳の方に唇を持っていき、ゆっくりと囁いた。
「しようぜ、亮。」
その瞬間、宍戸の体にビリビリと電気のような痺れが駆け抜ける。それは、今まで必死で
抑えていた猫の本能を呼び起こした。さっきとは全く違う雰囲気の表情で宍戸は跡部の顔
を見上げ頷いた。
月明りが差し込むベッドで宍戸はすっかり乱れている。先程までの恥ずかしそうな表情は
全く見られない。そんな宍戸に跡部はすっかり夢中になっていた。
「やっ・・あ・・・景・・吾っ・・・・」
「へぇ、いい顔見せるじゃねぇか。可愛いぜ。」
「んっ・・・ちょっ・・・待てっ・・・・そこは・・・あぁっ・・・」
一糸も纏わず跡部に全てを預けている宍戸は、嫌だと言いながらも跡部のすること為すこ
と全てを受け入れていた。一度もそんなことには使ったことのない双丘の間の蕾を無理矢
理開かされる感覚に、身悶えながらも感じてしまう。
「あっ・・・やだ・・・痛っ・・・あ・・・」
「少しの辛抱だ。すぐに気持ちよくしてやるよ。」
「ふっ・・ぅ・・・」
どうにもならない感覚に宍戸はシーツを握りしめ、唇を噛みしめる。そうでもしなければ、
その奇妙な感覚に耐えられなかった。
「亮、唇切れるぞ。そんなに噛みしめんな。」
「だ、だってぇ・・・・ひっ・・あ!」
一瞬宍戸の緊張が緩んだのを見計らい、跡部は蕾を慣らしている指を一本増やす。苦しい
くらいに内臓を圧迫され、宍戸はガクガクと震えながら、呼吸をする。
「はっ・・・景吾・・・苦し・・・」
「ゆっくり呼吸をするんだ。深呼吸するみてぇに。」
跡部に言われるまま、宍戸は呼吸を整えるかのようにゆっくりと息を吐く。すると先程ま
では、きつくてたまらなかったそこが少しずつ緩くなっていくのが感じられる。しかし、
落ち着いていられたのはつかの間。跡部の指に慣れてきたそこはじわじわと快感を感じ始
めていた。
「あっ・・・」
「少しはよくなってきたか?」
「何か・・・変だ・・・まだちょっと痛ぇんだけど・・・それ以上に・・・」
「気持ちイイって?」
宍戸はコクンと頷く。だんだんと慣れてきていることを跡部はその目と指で確認する。少
しずつ指を動かし、着々と次のステップに移る準備をしていった。
「んっ!・・ハァ・・・景吾・・・?」
根元まで埋め込まれた指を一気に抜くと跡部はいったん宍戸の体を起き上がらせる。そし
て、軽く触れるくらいのキスをしてやる。
「これからどうするか分かるよな?」
「えっ?」
「俺のコレを、お前のココに入れるんだ。」
これからすることを指で示され、宍戸の顔はかぁっと赤くなる。
「そんなこと・・・わざわざ言うなよ・・・」
「いや、お前を恥ずかしがらせたくて言ってんじゃねぇよ。どんなふうにして欲しいかを
聞きたくてな。」
「どんなふうにって・・・?」
最終段階に行く前に跡部は一つだけ宍戸に確認したいことがあった。入れるとは言っても
その方法はいくつかある。端的に言ってしまえば、どんな体位がいいのか。跡部はそれを
聞きたかったのだ。
「猫は基本的に後ろからだろ?でも、俺らはそれ以外の体位でもいくらでも出来る。それ
はお前が決めていいぜ。」
「え・・・んなこと言われても・・・・」
そんなこと言われても困ると宍戸は困惑するが、自分に選択権があるのは少し嬉しい。本
物の猫のように後ろからもいいと思うが、せっかく初めてこういうことをするのだ。繋が
る時くらい跡部と向き合いたい。ただ、普通の正常位では、尻尾が下敷きになってしまい
少々苦しい。
「後ろよりかは跡部と向き合えるのがいいけど・・・・」
「正常位がいいってことか?」
「でも、尻尾下敷きにすんのはちょっと嫌なんだよな。」
「それなら・・・」
そう言うと跡部は自分の足の上に宍戸の体を移動させる。
「こういうふうに入れるなら、向かい合わせになるし、尻尾も下敷きにならないぜ。」
「確かに。」
「これでいいか?」
「お、おう・・・」
いちいち確認してくれるのは嬉しいがやはり恥ずかしい。これからすることを考えると嫌
でも心臓がドキドキしてきてしまう。少し不安気な表情になっている宍戸の顔を跡部は優
しく撫でてやった。
「大丈夫だぜ。初めは少しきついかもしれねぇけど、すぐに平気になる。俺様がリードし
てやるんだから安心しろ。」
ドキドキ感は止まらないが、跡部の言葉は確実に安心感を与えた。跡部はしっかりと宍戸
の腰に手を添えてやり、ゆっくり腰を落とさせる。やはり初めは怖いのか宍戸はぎゅっと
目をつぶり、跡部の首にしがみついた。
「っ!!」
「大丈夫だ。ゆっくりいけば、痛くはねぇ。」
跡部の熱が触れた瞬間、宍戸がひどく体を強張らせるので跡部はそんな言葉をかけてやる。
さっき十分に慣らしたこともあり、宍戸の蕾はゆっくりでありながらも、跡部の熱の塊を
確実に呑み込んでいった。
「うっ・・・あ・・・・」
「くっ・・・まだ少しきついが、特に問題はなさそうだな。」
「景吾のが・・・俺ん中・・・入ってる・・・・」
「ああ。いい感じだろ?」
まだ今の状況がしっかりと把握出来ず、宍戸は小刻みに震えながらそんなことを口走る。
特に苦しいわけでもきついわけでもないのに勝手に呼吸が乱れてくる。
「苦しいか?亮。」
「う・・・だいじょ・・ぶ・・・」
「少し動くけど、我慢してろよな。」
今は馴染んできているため、それほど何を感じるというわけではない。しかし、跡部がほ
んの少し動いた瞬間、今まで感じたことのない感覚が身体を駆け抜けた。その感覚に宍戸
は思わず跡部の背中に爪を立ててしまう。
「ひっ・・・にゃっ・・あっ・・・」
「痛っ・・・ふ、やってくれるじゃねぇか。」
背中の痛みに顔を歪めながらも、跡部はニッと笑う。それを合図にするかのように跡部は
宍戸の身体を激しく揺らし始めた。
「んっ・・・あ・・あっ・・・にゃっ・・ああ・・・」
「ハァ・・・亮。」
もうどちらの頭の中にも理性という言葉は残っていない。爪を立てられる痛みも激しく内
側を突かれる苦しさも感じない。ただ今感じられるものは、お互いのぬくもりと全身が溶
けてしまいそうなほどの心地よさ、そして、重ね合わせる唇から流れ込む甘い甘い蜜の味
だけだった。
今まで感じていたモヤモヤ感やイライラ感がすっかりなくなった宍戸はかなりご機嫌な様
子で跡部に甘えている。
「あー、何かすっげぇ気分いいー。」
「よっかたじゃねぇか。」
もちろん跡部もご機嫌だ。少々頬と背中の引っ掻き傷が痛むが、そんなのは全く気になら
ない。尻尾をゆらゆら揺らしながら、跡部に抱きついている宍戸はふと跡部の背中に目を
落とした。そこには無数に引っ掻き傷がある。
「景吾っ、どうしたんだ!?この傷。」
「どうしたんだも何も、お前がさっきつけた傷だろ。」
「マジで!?」
「ああ。」
自分がつけた傷だと分かり、宍戸は本当に申し訳なさそうな表情をする。
「悪ぃ・・・痛いよな?」
「別に大したことねぇよ。」
宍戸とそういうことをしていてつけられた傷。跡部にとっては、それも嬉しく感じること
の一つなのだ。それを思うと自然に顔が緩んできてしまう。
「顔といい背中といい本当ゴメンな。俺にはこんなことしか出来ねぇけど・・・」
宍戸はその傷口をペロペロと舐め始めた。突然の行動に跡部は固まってしまうが、すぐに
その心地よさに浸る。
「猫式の傷の治し方か?」
「おう。痛むか?」
「いや、平気だ。」
「顔が終わったら、背中な。」
心を込めて傷を舐める宍戸を跡部はぎゅっと抱きしめる。動けなくなるのは分かるが無性
にそうしたくなったのだ。
「景吾?」
「いいから続けろ。」
「おう。」
急に抱きしめられたことを不思議に思いながら、宍戸は傷を舐めることを続ける。何とな
く嬉しくなって、宍戸はくすくす笑った。
「何がおかしいんだ?」
「別に。ただ何となく笑いたい気分。」
「ふーん。ま、楽しいんだったらそれでいいんじゃねぇ?」
「だよな。」
どちらともニコニコしながら顔を見合わせる。何てこともない一日だが、心から感じる小
さな幸せ。ふわふわとしたそんな雰囲気が二人の周りを包んでいる。
END.