退屈しのぎ

先生の言葉なんて、全然耳に入ってこない。
いや、入れようと思えば入れれるが、頭が拒否するのだ。
好きな教科なら良い。
しかし今は、苦手中の苦手な科目、英語なのだ。
得意な者からすれば何も問題は無いだろうが、苦手なのだから仕方ない。

「・・・戸!」

ただ教科書を読んで英文を訳して、こんなことで英語が解れば苦労なんてしないだろう。
そう思うせいもあり、余計に授業に身なんて入らない。
教科書はもはや、机の上に乗っているだけのものと化している。

「・・・し戸!」

そんな興味の無い授業よりも、頭の中は放課後のことでいっぱいだ。

今日はどれくらい練習出来るだろう。
今日はどんな練習をしよう。
今日は誰を負かしてやろう。

もはや部活のことしか考えていない。

「・・・宍戸!!」

挙句の果てには、帰りのことまで考えている自分がいる。
誰とどこに寄って帰ろうかとか、帰る頃には疲れているだろうかとか。

「宍戸・・・宍戸亮!!!」
「うわぁはい!!!」

怒声に近い声で呼ばれ、反射的に立ち上がる。
ガタガタと音を立てて倒れる椅子を正すことも出来ないままに、教卓にいる教師を見る。
もちろん、真後ろで不快な顔をしてみせる跡部には気付かない。

怒っている。
確実に怒っている。
何度名前を呼ばれたのかも解らないほどに、宍戸は自分の考えに没頭していた。
それでもフルネームで呼ばれるほどだから、結構な回数で呼ばれたのだろうことは解る。
教科書を持つ教師の手が震えているように見えるのは、気のせいだろうか。
そこでやっと、席が後ろの方で良かったと実感した。
前だったらきっと、その怒りに圧倒されていただろうから。

「え・・・っと・・・何・・・ですか?」
「この文章を英文にしてみなさい。さっきの説明を聞いていれば出来るはずです」
「え・・・」

もちろん、聞いていなかったのだから解るはずも無い。
それでも教師は構わず、答えを催促してくる。

ここで横暴だのと言ってはいけない。
別に授業に集中していなかった自分が悪いと反省するとかではなく、言えば言うほど教師
からの罰が増えるからだ。
発言は必要最低限に。
これが教師を怒らせないようにするための、一応の基本だ。

「え、と・・・。“私は”だから“I”だろ・・・それで・・・」

一応考えてはみるものの、やはり解らないものは解らない。
教科書を見れば少しは解るかも知れないが、どこを見れば解るかということすら解らない。
全くのお手上げ状態だった。

明らかに呆れている教師の姿が目に入る。
もはや宍戸を見る気力すら無いのだろう、宍戸から視線を外して溜め息を吐いている。

「オイ、宍戸」
「・・・?」

不意に声をかけられて、その主を探すために視線を彷徨わせる。
そうして視界に入ったのは、宍戸の後ろで澄ました顔で授業を受けていた跡部だった。
英語の得意な跡部は、何の苦労も無いかのように余裕のある顔付きをしている。
苦手な宍戸からすれば羨ましい限りだ。

「何だよ・・・」
「答え、教えてやろうか」
「ぇっ・・・!・・・マジ?」

大きな声を上げそうになって、慌てて抑える。
跡部が何を企んでいるのか解らないが、今、この状況から脱出出来れば良い。

「マジだ。ほら、これを読めば良い。・・・読めねぇなんてバカなことは言うなよ」
「るっせ・・・一言多いんだよ、アホ」

跡部のものであろうノートを渡されて、素直に受け取る。
跡部のノートは綺麗に要点がまとめられており、宍戸からすれば不思議な気持ちしか
湧かない。
だいたい跡部は英語が出来るんだから、こんなに綺麗にまとめなくても良いんじゃないか
と思うのだ。

「仕方無いな・・・別の人に・・・」

さほど仕方無く思っていなかった教師が、さも思っていたかのように他の生徒を探し出す。
いけない。
せっかく跡部にノートを借りたのに、意味が無くなってしまう。
そうなれば跡部はきっと、不快に思うだろう。
放課後にその不機嫌さを残されると部長命令と称して何を言われるか解ったものじゃない。

「お、俺、解りました!」
「なら、答えてみなさい」

形だけの教師の言葉が、耳に入ってくる。

良かった。
これで跡部のノートは無駄にならずに済みそうだ。
改めて、ノートに視線を落とす。

人に得手不得手があるように、宍戸は筆記体が読めない。
しかしノートに羅列している文字は全て筆記体ときている。
日頃ブロック体を使う宍戸からすれば、筆記体はただのぐねぐねしたものとしか認識され
ないのだろう。
もしかして跡部はそのことを知っていて自分のノートを貸してくれたのだろうか。
バカにされているのだという怒りが、ゆっくりと湧き起こってくる。

「早く読んで、ノート返せよ」
「わ、解ってるよ・・・!」

それでも怒りを抑えて、何とか答えなくてはならない。
自ら「解りました」と言ってしまったから、今更答えないわけにはいかないのだ。

ゆっくりとノートを辿っていく。
そうして宍戸はあるものを見つけた。
ノートの下の方に、ポツンとブロック体で英文が書かれている。
跡部にしては珍しい気遣いらしいが、宍戸にしてみればやはり、バカにされているように
しか思えない。
跡部への感謝も忘れ、怒りがむくむくと湧き上がってくる。
そして宍戸は、怒りと共に勢いでその英文を読み上げた。

「I love Atobe,so that I die!」

読み上げた途端、教室中が静まり返る。
何か問題のある発言をしただろうか。
言った本人は何も考えずにノートの英文を読み上げたため、解っていない。
そこで不意に、背後から噛み殺したような笑い声が聞こえてきた。
もちろん後ろの席には跡部がいるだけだ。

「く・・・ッ、くくく・・・!」
「な、何だよ・・・?」

続いて、教室中が我に返ったように騒ぎ出す。
大胆だの凄いだの、宍戸にとってわけの解らない言葉が聞こえる。
挙句には熱烈告白まで言われ、ますます解らなくなる。
そこで改めて、跡部に渡されたノートを見てみた。

「・・・んん!?」

ブロック体で書かれた文字は、
「I love Atobe,so that I die.」。
さすがにこれくらいなら宍戸にだって意味は解る。
意味は、「私は死ぬほど跡部を愛しています」。
しかも幸か不幸か、このクラスに「Atobe」という名前の人物は一人しかいない。
この言葉を大声で言ってしまったという事実が、宍戸を再度現実に戻した。
それと同時に、恥ずかしさとはめられた悔しさが湧き起こる。

「あっ・・・跡部ー!!!テメー!!!!」
「あーっはははははは・・・!!お前バカすぎだー!」

その日は珍しく本気で笑っている跡部が目撃されたとか、されなかったとか。
どうやら跡部も、英語の授業はつまらなかったようだ。


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実和様の素敵サイトの6万HIT記念に!

ということで、押し付ける形で書かせていただきました〜(爆!
実和様から、『授業中の跡宍。英語ならなお良し!』(少々着色表現有り)という
素晴らしい課題をあげてもらったにもかかわらず・・・活かしきれてません(コラ
しかもラブ要素があればさらに良し!だったにもかかわらず・・・ラブ要素、
ありませんね(爆死
結局のところ、跡部も(解りすぎて)授業がつまらなくて宍戸でからかって
遊んでる・・・みたいな話になっちゃいました。
そもそもあたしは英語が出来ません(いきなり言い訳を・・・
凄い殺し文句とか、解りません。
なので宍戸にも解るような英文で!というわけであのような・・・はい。

ごごごごごごめんなさい、実和様!!!
遅くなった上につまらないものを押し付けちゃいます!(滝汗
こんなので良かったら、さっくりと貰ってやってください。
や、捨ててくださっても構いませんが・・・。
何はともあれ、6万HITおめでとうございます!!!

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ありがとうございます!!
大感激ですよ。今度は何か記念があれば私からも書かせて頂きます。
本当嬉しいですVv
どうもありがとうございましたー!!
                     実和あむる

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