越知のところへ嫁いだ毛利は、君島や越知の言っていた通り、社から出れなくなるような
ことはなく、今までと同じように過ごしていた。ただ、強いて変わったところと言えば、
出かける際は越知と一緒に行動し、越知の言葉を他の村人達に伝えるような役割を担うよ
うになったことだ。
「毛利。」
「はい、何です?」
「ここのところ、少し供物が多すぎる。俺に供えるよりは、村人達自身で食べて欲しい。」
「分かりました!伝えておきますね!」
越知の言葉を聞くと、毛利は早速村人を集めて、その言葉を伝える。最近、越知の加護で
豊作だったため、その感謝のためだということを聞いたが、越知は納得していなかった。
「村の人達の気持ちも分かりますし、月光さんの言うことももっともなんですよねー。あ
っ、せや!!」
「どうした?」
「ええこと考えました!ちょっと待っとってください!」
「あ、ああ。」
何かを思いついたと、毛利は村人のところへ再び走る。そして、すぐに越知のところへ戻
ってくる。
「月光さん、これから用意するんで、月光さんもちょっと手伝ってください!」
「ああ。」
楽しげな笑顔で毛利はそんなことを言う。越知に少し手伝ってもらいながら、毛利は越知
に供えられた作物を使って、料理を始める。かなりの量があったので、時間をかけて毛利
はそれを調理する。
「出来ました!お昼に社の前に来てもらうように話して来たんですよ。今、作ったこれ、
村の人達に振る舞おうと思て。」
「なるほど。」
「これならきっと食べてもらえますよね。」
「そうだな。俺は食べる必要はないのだが、それでも食べたくなるくらい美味しそうだ。」
「別に食べれんわけではないんですよね?月光さんも食べてみてください!」
木の器に入れられたそれを毛利は越知に差し出す。毛利の言う通り、食べる必要がないだ
けで、食べることが出来ない、食べてはいけないわけではなかった。
「いただきます。」
器に入っているそれを木のスプーンで掬い、越知は口へと運ぶ。
(美味いな。)
「どうですか?」
「とても美味しい。こんなに美味い料理を食べたのは初めてだ。」
「ありがとうございます!」
「このようなものであれば、毎日でも食べたいものだ。いや、でも、そうしてしまうと、
村人の食糧が・・・」
「あっはは、どっちにしても俺は食べなアカンから、そないに悩まんでもええですよ。俺
が食べるときに一緒に食べましょ。」
「ああ。」
食べる必要がないため、自ら何かを食べたいと思うことは今までなかった。しかし、毛利
の料理はそんな感覚さえも覆すほど、越知の舌を喜ばせる味であった。
「あっ、もうそろそろみんな来るかもしれません。月光さんも美味しいって言っとったっ
て言いますね!」
「ああ。頼む。」
しばらくすると、毛利が呼んだ村の人達が越知の社の近くへと集まってくる。集まってく
れた村人に毛利は作った料理を配る。
「土地神様も美味しいって言ってくれた料理やで!みんなが供えてくれた作物で作ったん
や。まだまだぎょーさんあるから、おかわりいっぱいしてってな!」
明るく人懐っこい毛利の人柄もあり、集まった村人達は毛利の料理を嬉しそうに食べる。
土地神様も食べたと聞き、土地神様に嫁いだ毛利が作ってくれたということで、遠慮する
ことなく村人は皆毛利の料理を口にしていた。
「これなら月光さんに供えられた食べ物も無駄にならんし、みんな喜んで食べてくれるか
ら問題ないやろ?」
「ああ、お前らしい良い発想だな。」
嬉しそうに毛利の料理を口にする村人達の顔を見て、越知はふっと顔を緩ませる。普段は
クールな越知の表情が緩んだのを見て、毛利は越知よりももっと嬉しそうな顔になる。大
きな鍋いっぱいに作った料理もたくさんの村人が食べにきてくれたため、綺麗になくなる。
空になった鍋を洗って片付けると、毛利はご機嫌な様子で越知の社に戻った。
「月光さんへの供物、みんなに食べてもらえてよかったですね!」
「ああ、お前のおかげだ、毛利。ありがとう。」
「いえいえ、俺は俺にできることをやっただけですよ。」
自分には思いつきもしない方法で、自分の懸念を解決してくれた毛利に、越知は感心する
とともに、言いようもない愛おしさを感じる。
(毛利がここに来てから、心が高揚することが増えた。それと同時に力も安定している気
がする。それから・・・)
「毛利。」
「はい!何ですか?」
「もう少し側に来てくれないか?」
越知にそう言われ、毛利はすすっと越知の目の前へ移動する。手の届く場所にいる毛利を
前に、越知はある気持ちがこの上なく高まる。
(毛利に触れたい。)
ぎゅっ・・・
「わわっ!!」
越知に抱きしめられ、毛利はドギマギしてしまう。恥ずかしそうに赤くなりながらも、そ
の胸は嬉しさでときめいていた。
「突然すまない。どうしても毛利に触れたくなってしまった。」
「月光さん・・・」
「お前が来る前はこんな気持ちになることはなかったのだが、今はいつでもお前と一緒に
居たいと思うし、側にいるとどうしようなく触れたくなってしまう。」
抱きしめられながら、そんなことを言われ、毛利の顔は思わず緩む。
「ええんやないんですか?だって俺、月光さんのお嫁さんですよ。」
「しかし、それは俺の力を安定させるために・・・」
「それだけのために俺が月光さんに嫁いだと思っとるんですか?そないなわけないでしょ!
俺は月光さんが大好きです!」
越知の顔を見上げて毛利は越知の背中に腕を回しながらそんなことを言う。
(ああ、嬉しい。可愛い。好きだ。)
毛利に対する想いが溢れ、越知はすっと毛利の頬に触れる。そして、軽く口づけると、心
を込めて深い想いを口にする。
「俺も大好きだ。」
「っ!!」
越知からの告白に毛利の顔は真っ赤に染まる。想いを伝えるのは初めてではないにもかか
わらず、今でもこのような初々しい反応を見せる毛利に、越知の胸はひどく高鳴る。
「本当に可愛いな。」
「えっ!?」
「もっと触れたくなってしまう。」
越知のその言葉を聞いて、かなりドキドキしながらも毛利は言葉を返す。
「あの・・・ええですよ。」
「えっ・・・」
「月光さんになら何をされても嬉しいです。月光さんがしたいと思うこと、してください。」
「毛利。」
そんなことを言われたら、いろいろと我慢ができなくなってしまうと越知は少し戸惑うよ
うな表情を見せる。
「本当にいいのか?」
「月光さん、いっつも心配そうに確認しますよね!ホンマに大丈夫でっせ!俺、月光さん
のこと、ホンマに好きなんで。」
くすくすと笑いながらそう言ってくる毛利に越知の理性は鳴りを潜める。
(ああ、本当にどうしようもなくなってしまう。)
あまりの毛利の愛らしさに、一人でいたときには感じたことのなかった独占欲や執着に近
い想いを感じながら、越知は毛利をしっかりとその腕の中に捕らえて抱きしめた。
前の日に十分すぎるほどの魚を獲った大曲は、今日も種ヶ島のいる島に遊びに来ていた。
「今日も来てくれて嬉しいわ!」
「まあ、昨日も大漁だったしな。」
「俺の加護、すごいやろ?」
「最近またやりすぎじゃねぇ?また、君島に何か言われるぞ。」
「大丈夫やって。竜次に言われた通り、無駄にはならへんように調整しとるし、いろんな
種類の魚が入るようにしとるからな。」
「まあ、それならいいけどよ。」
相変わらず漁に出ると大漁になるので、大曲は以前よりも漁以外に使える時間が増えてい
た。それが種ヶ島の加護のおかげであることもわかっているので、大曲はそのお礼として、
最近は種ヶ島のもとへ行くときは自分で作った手土産を持ってきていた。
「そうだ。またこの海で獲れたもんで身につけられそうなもん作ってきたし。」
「ホンマに!?竜次、ホンマに器用よな。今までもらった腕輪とか首飾りとか、どれも完
成度半端ないし。」
「浜辺にいい感じのヒトデと貝殻があったからよ、ヒトデの方は髪飾りに、貝殻は羽織紐
にしてみたし。」
そう言って、大曲は自作の髪飾りと羽織紐を種ヶ島に渡す。
「うっわー、今回のもメッチャええやん!!ちょっとどっちも付けてみてもええ?」
「好きにすればいいし。」
大曲からもらったヒトデの髪飾りと貝の羽織紐を種ヶ島は早速付けてみる。
「どや?似合っとる?」
「似合うだろうなと思って作ってたけど、予想以上に似合ってるし。特に髪飾りの方、星
が頭に付いてるみたいでお前らしくていいんじゃねーか?」
澄んだ水面に顔を映し、種ヶ島は自分でもその姿を確認してみる。確かに大曲の言う通り、
ヒトデの形、すなわち星形の髪飾りは白い髪に映えていた。
「ホンマ似合うやん俺☆こんなええもん作ってきてくれるなんて、さすが竜次やな!」
「喜んでくれたならよかったし。その羽織紐も付けてる感じ悪くねーな。」
「竜次のおかげで、オシャレが出来てホンマ嬉しいわ!普通にしてたら、何の代わり映え
もせん着物だけやからな。」
心から嬉しそうな笑みを浮かべている種ヶ島を見て、大曲も嬉しくなる。はしゃいでいる
種ヶ島の後ろ、ちょうど祠の横あたりに大曲は今まで見たことがないものが置いてあるこ
とに気づく。
(あれはシャコ貝か?随分デカいな。)
「どないしたん?竜次。」
大曲の視線が自分ではないところに向いていることに気づき、種ヶ島はそう尋ねる。
「いや、祠の横に随分デカい貝が置いてあるなと思ってよ。」
「ああ、竜次が最近いろんなもんくれるから、それをしまうために置いたんやで。ほら、
見てみ。」
そう言いながら、種ヶ島はそのシャコ貝の近くに大曲を呼び寄せる。近くで見ると、大き
く口の開いた貝の上に今までにあげた腕輪や首飾り、帯留めや紐が綺麗に並べられていた。
「俺があげたもん、こんなふうにしまってくれてんのか。適当に置いといてもいいのに。」
「そういうわけにはいかんやろ。竜次からもろたもんは全部大事な宝物やもん。」
それ聞いて、大曲の胸は図らずもときめいてしまう。普段はかなり適当で大雑把なところ
があることを知っているので、自分のあげたものをこんなふうに大事にしてくれているこ
とが大曲は素直に嬉しかった。
「宝物って大袈裟だし。」
「全然大袈裟やないで!自分の好きな人が自分のために作ってくれたもんなんやで?そん
なんメッチャ嬉しいし、そりゃ宝物にもなるやろ!」
「フッ、勘弁しろし。」
大曲からもらったものがどれだけ大事かを力説する種ヶ島に、大曲は思わず笑ってしまう。
そして、これは物が物だけに渡すかどうか迷っていたものをそっと取り出す。
「なあ。」
「ん?何?」
「もう一つ作って来たもんがあるんだけどよ・・・」
「えー、今日はメッチャいっぱいくれるやん!」
「これはちょっと渡すかどうか迷ってるんだが・・・」
「竜次がくれるもんなら何でも嬉しいで!それもちょーだい☆」
大曲の作ってくれるものなら全て欲しいと、種ヶ島は両手を差し出す。強欲な神様だと思
いながら大曲は苦笑し、差し出された種ヶ島の片手をくるっと反転させて、作ってきたそ
れを種ヶ島の指につける。
「おっ、ピッタリだな。測ったわけじゃねぇから、ちゃんとはまるかどうか分からなくて
よ。」
だから渡すかどうか迷っていたと大曲は言う。手の甲を上にさせられた左手の薬指につけ
られたそれを見て、種ヶ島はしばらく言葉を失った後、テンション高くはしゃぎ出す。
「ちょっ、えっ!?嘘やろ!!指輪や!!指輪!!しかも、メッチャ綺麗な真珠ついとる!
えー、メッッチャ嬉しいんやけど!!」
「はは、そんなにかよ?獲れた貝の中にかなりいい質の真珠があったからよ、せっかくな
らそれで何か作りてぇと思って。綺麗だけどあんまりデカくはねぇから、指輪が妥当かと
思ってよ。その反応見る限り正解だったみてぇだし。」
予想以上にはしゃいでいる種ヶ島を見て、大曲は満足気に笑う。キラキラと輝く真珠の指
輪を眺めながら、種ヶ島の頬は軽く染まり、その顔はひどく緩んでいる。
「これ、もしかして求婚されとる?俺、竜次に嫁いだらええ?」
「神様が人に嫁いじゃダメだろ。毛利みてぇに神様に嫁ぐならありかもしれねぇけど。」
「けど、竜次が俺に嫁ぐんはちょっとちゃう気がするな。」
「フッ、確かにな。まあ、そんなん抜きにしても、お前とはこれからも仲良くしていきた
いって気持ちは込めてるし。」
「っ!!」
自分が大曲を好きなのは間違いないのだが、大曲がどれほど自分のことを想ってくれてい
るかは測りかねていた。少し照れたような表情でそう言う大曲の言葉を聞いて、種ヶ島は
その想いが一方通行でないことに気づく。あまりの嬉しさの居ても立ってもいられなくな
り、種ヶ島はガバっと大曲に抱きつく。
「竜次、大好き!!」
「おい、いきなり抱きつくなし。危ねーだろ。」
「はあー、もうホンマに好きすぎる!!俺だけが竜次のことすっごい好きやと思っとった
けど、こんなん贈ってくれるってことは竜次も俺のこと好きやんな?」
「まあ、好きでもねーやつに、こんなにいろんなもんは作らねーし。」
素直な言葉で返すのは照れくさく、大曲はそっぽを向きながらそう返す。大曲の性格を分
かっているので、種ヶ島にとってはそれは肯定の言葉として十分であった。
(あー、竜次ともっとイチャイチャしたい!)
「なあ、竜次。」
大曲の首に腕を回したまま、種ヶ島は顔を紅潮させ、物欲しそうな目で大曲を見つめる。
(海神相手にこんなこと思うのはあれかもしれねぇが、本当可愛いし。)
種ヶ島の魅力にドキドキしながら、大曲は心の中で呟く。そんな大曲の気持ちを知ってか
知らずか、種ヶ島は悪戯な笑みを浮かべ、分かりやすく大曲を誘う。
「もっと竜次とイチャイチャしたい。イイコトしよか☆」
「ったく、しゃあねーなあ。」
こんなに分かりやすく誘われてしまっては断れないと、大曲は種ヶ島の誘いに乗る。それ
が嘘でないことを表すために、大曲はほんの少し潮の味がする種ヶ島の唇に口づけた。
それほど頻度は多くないものの遠野の力を使うときは、どうしても遠野に傷ができてしま
うので、村人用のものも合わせ、君島は薬草で薬を作っていた。最近は遠野も薬作りを覚
えたので、ある程度の工程は遠野に任せることが多くなっていた。
「ヒャーッハッハ!!火炙りにしちゃうよー!」
テンション高くそんなことを言いながら、薬にする前に炒る必要のある薬草を遠野は火に
かけていた。
「うるさいですよ、遠野くん。そんな雰囲気でする作業じゃないでしょう。ちゃんと弱火
で炒ってくださいよ。」
「分かってるっつーの。ちゃんとじっくりじわじわ炙ってやるからなあ!」
「はあ・・・」
薬作りくらい静かにできないのかと思いながら君島は溜め息をつく。炒る作業が終わると、
冷ましている間に別の工程を進めてもらおうと、君島は次の作業を遠野に頼む。
「冷ましている間にそこにある薬草を薬研ですり潰しておいてください。」
「おう!任せろ!」
その作業も好きだと言わんばかりに遠野は薬研を出し、君島に指定された薬草を薬研に入
れる。
「クックック、俺が粉々にすり潰してやるよ!!」
そう口にして、遠野は薬研をゴロゴロと動かし始める。いちいち言動が大袈裟すぎると思
いつつ、君島はちらりと遠野を見ながら自分の作業を進める。
(遠野くんの傷に塗る薬はこんな感じでよいかな。少し滲みるかもしれないが、遠野くん
はそれくらいがちょうどいいはず・・・)
「君島。」
「何ですか?」
「薬草すり潰し終わったぜ。いつも通り分けて紙に包んでおけばいいか?」
「ええ、お願いします。」
騒ぎながら作業をしているわりには手際がよいと君島は素直に感心する。しばらくすると、
その作業も終わったことを伝えにくる。
「包むのも終わったぜ。一応、問題ないか確認してくれ。」
「早いですね。」
遠野から受け取った薬を君島は確認する。一つだけ紙を開いて確認すると、遠野のすり潰
した薬は非常に細かく均一に砕かれており、包み方も完璧であった。
(遠野くん、あんなにうるさくしているわりには、手先が器用で手際もよくて、薬のとし
ての質はかなり高く作ってくれるんですよね。そこは非常に助かるんですが・・・)
やはりあの謎のテンションは理解できないと、君島は何とも言えない気分になる。とりあ
えず、今日必要な作業は全て終わったと君島は遠野に伝える。
「作ってくれた薬、問題ありませんね。先程炒ってもらったのは明日まで置いておく必要
がありますし、今日の分の作業はこれで終わりです。」
「君島の作業も終わってるのか?」
「ええ。遠野くん用の傷薬を作ったのですが、今、試しに少し塗っておきましょうか。」
「おう。」
指先の切り傷はほぼ治っているが、別の日につけた手の甲や腕の内側の傷に君島は薬を塗
り込む。
「つっ・・・結構滲みるな。」
「痛いですか?」
「少しだけな。まあ、この程度なら別に問題ないけどよ。」
ほんの少し痛そうな顔をする遠野を見て、君島は口元が緩みそうになる。いけないと思い
つつ、やはり遠野のそういう顔は好きだと思っていると、また違う遠野の好きな顔を見た
くなってきてしまう。
「今日しておかなければいけないことは終わりましたし、今日はこの後時間がありますね。」
「どこか出かけるのか?」
「いえ、今日は出かけずに遠野くんと過ごしたいと思うのですが・・・」
そう言いながら、君島は遠野の顎を上げる。君島がこういうことをしてくるのはどういう
ときか分かっているので、遠野の胸はドキドキと高鳴る。
「それなら、今日も痛いじゃねぇヤツ教えてくれよ。」
君島の首に腕を伸ばしながら、遠野は妖しく笑ってそう口にする。この表情も好きな顔の
一つだと君島は口元を緩ませる。
「いいですよ。今日もたくさん教えてあげます。」
遠野にそう返すと、君島は遠野の唇に自分の唇を重ねる。
「んっ・・・」
ピクンと震える遠野に幾度か軽く口づけた後、唇を離し小さく囁く。
「口を開けて、舌を出してください。」
ドキドキしながら、遠野は言われた通りに小さく口を開け、舌を出す。愛らしいその表情
を数秒堪能すると、君島は再び口づけ、その舌を捉える。
「んむっ・・・ぁ・・・」
君島が与えてくれる深く甘い口づけに、遠野の胸はひどくときめき、うっとりとしながら
その心地よさを堪能する。
(君島とこうしてるの本当気持ちよくて好きだ。もっとたくさんして欲しい。)
もっと欲しいことを伝えるために、遠野は君島の口づけに応えるように舌を絡める。遠野
のその行動に気分を良くした君島は、フッと笑いながら先程薬を塗った遠野の傷口に触れ
る。
「んあぁっ・・・!!」
傷口に直接触れられ、遠野は触れ合う唇の隙間から声を漏らす。傷口に触れられ痛いはず
なのだが、遠野が感じていたのは単純な痛みではなかった。
(何か痛いっつーか、これは・・・)
遠野が戸惑っていることに気づいていながら、君島は別の傷に触れる。
「んぁんっ・・・!!」
君島が傷口に触れると、遠野の身体はビクンと跳ねる。
(やっぱり、君島に傷口触られるとゾクゾクする。痛いっつーか、気持ちイイ・・・)
そのことに気づいた瞬間、遠野の顔はぶわっと赤く染まる。遠野の様子に気づいた君島は
少しだけ唇を離し、遠野に話しかける。
「どうしたんですか?遠野くん。」
「ハァ、ハァ・・・いや、何か、その・・・」
「傷口やっぱり痛みます?」
そんなことはないだろうというニュアンスを込め、君島はつつっと遠野の傷口をなぞりな
がらそう尋ねる。
「ああぁっ!!君島っ、そこ触られると・・・」
「何ですか?」
「何かちょっと・・・気持ちいいから・・・」
顔を真っ赤にして、目を逸らしながら遠野は君島にそう伝える。思った通りの反応をして
くれる遠野にゾクゾクしながら、君島は妖しく笑って、また別の傷を撫でる。
「んあっ・・・!」
「ふふ、可愛いですね。もう少し楽しませてください。」
痛いと気持ちいいの境界が分からなくなっている遠野をもっと愛でていたいと、君島はも
う一度遠野に口づけ、傷を撫で続ける。その感覚が堪らず、遠野は君島にしがみつきなが
らビクビクとその身を震わせる。
(もうわけ分かんねぇ・・・でも、やっぱ気持ちいいから、やめて欲しくねぇ。)
痛いはずなのに気持ちいいという感覚に翻弄され、遠野の心は蕩けていく。それが君島に
ただただ触れて欲しいという欲求に変わるまでそれほど時間はかからなかった。
「そろそろ満足しました?」
長い口づけから遠野を解放し、君島はそう尋ねる。蕩けたような表情になりながら、遠野
は首を横に振る。
「ハァ、ハァ・・・まだだ。もっともっと君島に触れて欲しい。」
すっかり蕩けた様子でそんなことを言ってくる遠野に、君島の心はすっかり魅せられる。
「仕方ないですね。遠野くんがそこまで言うのであれば、もっと続けてあげますよ。」
そう言いながら、これから遠野がどんないい顔を見せてくれるかという期待感に胸を膨ら
ませ、君島は遠野に手を伸ばした。
END.