風の病

いつも通りの朝、疾風はゆっくりと寝床から起き上がろうとする。しかし、起き上がろう
とする体で感じるのは、いつもとは明らかに違う感覚であった。
(あれ?何か目が回る気が・・・)
「疾風、いつまでもぼーっとしてると、若い奴らに朝飯食われちまうぞ。」
「お、おう・・・」
既に支度を済ませている蜉蝣にそう言われ、疾風は返事をしながら立ち上がる。一瞬ぐら
っと目眩を感じたが、立てないというほどではなかった。きっと昨日少し飲みすぎてしま
った所為だろうと思いながら、疾風は仕事着に着替え、朝食を食べに向かった。

朝食を食べに来たものの、疾風はほとんどそれを食べることが出来なかった。
「疾風兄ィ、どうしたんですか?全然食べてないじゃないですか。」
「んー、ああ。何かちょっと二日酔いみてぇで、あんまり食欲ねぇんだ。」
「疾風兄ィにしては珍しいー。それに昨日はそこまで飲んでたとは思わないけど。」
「そうだったけ?」
パクパクと朝食を口にしながら、そんなことを言ってくる間切と網問に、疾風は苦笑しな
がら答える。そんな疾風の様子を少し離れた席から蜉蝣はじっと眺めていた。
(やっぱり、少し様子がおかしいな。今日はちょっと注意して見といてやるか。)
先程軽く話をした時に感じた違和感を、蜉蝣は間切達と話している疾風に覚える。体調が
優れない原因を疾風自身よく分かっていないのだろうと、蜉蝣はそんな憶測を頭の中に浮
かべていた。

今日の水軍の仕事は、船内の掃除と武器の手入れであった。蜉蝣や疾風の四功は船内の掃
除をすることになっていた。太陽が船の真上に昇る頃、船内にいるメンバーは一旦休憩を
することにした。
(あー、何か朝よりもくらくらする。それに寒いのか暑いのかよく分かんなくなってるし
・・・)
「・・・て、疾風っ!」
ブラシを抱えたままぼーっとしていると、自分の名前を呼ぶ声に、疾風はハッとする。声
の主は船頭である由良四郎であった。
「あっ・・・悪ぃ、ちょっとぼーっとしてた。」
「おいおい、大丈夫かぁ?」
「あはは、平気だって。で、何の用だ?」
「今は休憩時間なのに、ブラシ持ったまま動かないからよ。」
「休憩時間か。了解。」
休憩時間なら、少し休もうと疾風はその場から動こうとする。その瞬間、ぐらっと目の前
が揺れ、体が傾いた。
「おっと、危ねぇ。」
倒れかけた疾風の体を側にいた蜉蝣がしっかりと受け止める。こうなることを予想してい
たかのような蜉蝣の動きに、そこにいたメンバーは驚いた。
「あ、あれ・・・?」
「お前、すごい熱があるじゃねぇか。」
受け止めた体から伝わる熱は、尋常ではない熱さであった。ここまでひどいものとは思っ
ていなかったので、蜉蝣は少々焦る。
「・・・熱?」
「全くここまで上がる前に普通気づくだろ、自分で。」
「あー、朝からちょっとふらふらするなあとは思ってたんだけどよ。」
「だったら、ちゃんと熱を計るなり、お頭に言うなりしとけ。」
怒られてはいるが、熱で頭がぼーっとしている疾風は蜉蝣の言葉に何を返せばいいのか分
からず、黙っていた。
「ちょっとこいつを、水軍館に連れて行くから、後はよろしくな。」
「了解。向こうで手が空いてる奴がいそうだったら、こっちに回してくれ。」
「分かった。」
疾風を抱え、蜉蝣は船に乗せてあった小舟で岸へと向かう。岸へ戻って行く二人を見なが
ら、鬼蜘蛛丸は心配そうに由良四郎に尋ねた。
「大丈夫ですかね?疾風さん。」
「蜉蝣に任せておけば大丈夫だろ。昔っからああなんだよなあ、あいつは。」
「疾風さんがですか?」
鬼蜘蛛丸と由良四郎の話に少し離れていた場所にいた義丸も加わった。
「そうそう。自分では平気だって言ってるんだけど、全然平気じゃなかったりするんだよ
な。まあ、今みたいに蜉蝣が気がついてくれるから大事には至らないんだけどよ。」
『なるほど。』
由良四郎の話に鬼蜘蛛丸と義丸は妙に納得してしまう。疾風が自分から調子が悪いという
ことは聞いたことがないが、蜉蝣からあいつは何かあっても自分では気づいてないから困
るということを聞かされることはよくあることだった。
「さてと、休憩はこのくらいにしとくか。掃除再開!」
『へいっ!』
とりあえず、疾風のことは蜉蝣に任せておけば大丈夫だろうということで、船に残ったメ
ンバーは仕事を再開することにした。

その日のうちに、忍術学園の新野先生に来てもらい、疾風は診察を受けて薬をもらった。
特に心配することもない風邪だが、熱が高いので、二、三日は安静にするよう言われた。
「二、三日は寝てなきゃダメだってよ。」
「そっかぁ。久しぶりだなー、こんな寝込むほどの風邪引くの。」
「体調管理がなってないんじゃないか?」
「そんなことねぇよ。・・・そんなことねぇと思う、うん。」
思い当たる節があるのか、一度は否定してみせる疾風であったが、繋げた言葉はひどく自
信なさげであった。
「まあ、とりあえず今はしっかり休んどけ。」
「お、おう。」
手拭いをしていない頭をわしゃわしゃと撫でられ、疾風はほんの少し赤くなりながらうつ
むいた。そんなやりとりをしていると、襖の外から兵庫第三協栄丸の声が聞こえる。
「第三協栄丸だけど、入っていいか?」
疾風の代わりに蜉蝣が入っても大丈夫だということを第三協栄丸に伝えた。
「大丈夫ですよ。」
ガラっ
蜉蝣の言葉を聞くと、第三協栄丸は部屋の中へと入って来る。部屋の中に入るや否や第三
協栄丸はトコトコと疾風の寝ている布団の側まで行き、蜉蝣の隣に腰を下ろした。
「忍術学園の新野先生から、かなり熱が高いって聞いたんだけど大丈夫か?」
心配そうにそう尋ねる第三協栄丸に、疾風は笑顔で答える。
「このくらいの風邪何ともないですって。今はちょっとだけ熱がありますけど、すぐに元
気になってみせますから!」
思っていたよりも元気そうな疾風を見て、第三協栄丸はホッと胸を撫で下ろす。
「そっかぁ。それならよかった。」
「お頭にうつっちゃうといけないんで、あんまりこの部屋に長居はしない方がいいですよ。」
「うーん、そうだな。俺がいるとゆっくり寝られないだろうしな。早く元気になれよ。」
そんな言葉を残すと、第三協栄丸は疾風や蜉蝣のいる部屋からそそくさと出て行く。第三
協栄丸が部屋から出ていくと、疾風は必死で作っていた笑顔を崩し、大きな溜め息をつい
た。
「はあー、本当は全然余裕ないけどな。」
「別にそんな無理して、元気なフリする必要もないだろうに。」
「お頭に心配かけるわけにはいかねぇだろ。あー、しんどい。」
「しんどいなら寝とけ。ちゃんとここにいてやるから。」
「・・・おう。」
きつそうにしている疾風をしっかりと布団に寝かせると、蜉蝣は濡らした手拭いを疾風の
額に乗せてやる。その冷たさに心地よさを覚え、疾風は深い眠りに落ちていった。

次の日、疾風が目を覚ましたのは日が空のかなり高いところへ昇ってからであった。重い
まぶたを開くと、そこには蜉蝣の姿があった。
「蜉蝣・・・」
「お、目覚めたか?どうだ気分は?」
「まだかなりだるいけど、昨日よりはだいぶマシだな。」
「薬が効いて、熱も昨日よりはだいぶ下がってるみたいだな。」
起き上がった疾風の額にペタっと自分の額をくっつけながら、蜉蝣はそんなことを言う。
「そんなにくっつくと、風邪うつるぞ。」
「こうしないと分からないだろ?」
「普通に手でやっても分かるだろうが。」
顔が非常に近いことが恥ずかしく、疾風は熱とは違う理由で顔を赤くした。蜉蝣の顔が離
れると、疾風はふいっと蜉蝣から視線を外す。そして、話題を変えようとパッと思いつい
たことを口にした。
「そういえば、お前仕事はどうしたんだよ?」
「今日の俺の仕事はお前の看病をすることだそうだ。昨日水を取り替えに行ったら、お頭
に言われてな。」
「ふーん、そうなんだ。」
他の若い者が看病に来るよりは、蜉蝣に世話をしてもらった方が素直に甘えられると、疾
風は少し安心する。
「そういや、腹減ってないか?昨日からほとんど何も食ってねぇだろ。」
「んー、あんまり食欲はねぇけど、ちょっと減ってるかも。」
「鬼蜘蛛丸がおかゆを作ってきてくれてな。お前が目覚ましたら食わせてやってくれだと
よ。」
そろそろお昼になるということで、料理の得意な鬼蜘蛛丸はおかゆを作って、蜉蝣に渡し
ていた。渡されてからそれほど時間が経っているというわけではなく、冷めづらい鍋に入
っているため、そのおかゆはまだ熱々であった。
「おかゆなら食えそうだ。」
「そうか。」
蜉蝣の持っている鍋に手を伸ばそうとする疾風であったが、蜉蝣は何故かその鍋を渡そう
とはしない。
「食うってば。」
「鬼蜘蛛丸は、『食わせてやってくれ』って言ったんだぞ。だから、俺が食わせてやる。」
「別に自分で食えるのに・・・」
「遠慮すんなって。病人は甘えときゃいいんだ。」
少し納得いかないなあと思いながらも、疾風は蜉蝣におかゆを食べさせてもらう。疾風の
口に運ぶ前に、蜉蝣はふーふーと息を吹きかけ、ちょうどよい温度になるように冷ます。
「熱くねぇか?」
「おう。いい感じの熱さだ。」
「しっかり食べて、たくさん寝て、早く治せよ。」
ふっと笑いながら、そんなことを言う蜉蝣の言葉を聞いて、疾風は何だかなつかしい気分
になる。
(ずっと昔にもこういうふうにされたことある気がするなあ・・・)
大人になるずっと前、今の若い衆よりももっと幼い年齢の頃、疾風は今のように風邪で寝
込んだことがあった。その時も蜉蝣はずっと自分の側にいてくれて、ご飯を食べさせてく
れたり、着替えをさせてくれたりと色々な世話を焼いてくれた。そんなことを思い出し、
疾風はほわっと胸の奥が温かくなる。
「やっぱ、お前じゃなきゃダメだな。」
「いきなり何言い出すんだ?」
「いや、こっちの話だ。」
「変な奴。」
何気なく呟いた疾風の言葉に蜉蝣はつっこむが、疾風は誤魔化すような言葉を繋げる。お
かしな奴だと笑いながら、蜉蝣は小さな鍋が空っぽになるまで、疾風におかゆを食べさせ
た。おかゆを食べ終えると、疾風は用意されていた薬を飲む。
「へぇ、ちゃんとこんな苦い薬も自分で飲めるようになったんだな。」
「当たり前だろ。ガキじゃねぇんだから。」
「子どもの頃は、絶対飲まねぇって駄々こねてたくせに。」
「そ、それはガキの頃の話だろ!しかもどんだけ嫌がってもお前が無理矢理飲ませてたじ
ゃねぇか!」
「そりゃ薬を飲ませることも看病の一つだからな。」
当時は無理矢理飲まされることに腹が立ったが、今考えると蜉蝣のその行動が自分を思っ
てのことであったと実感出来る。そう思うと、そのときのことに関しても、今のこの状況
に関してもとある言葉を伝えなければと疾風は思った。
「まあ、確かにそうだよな。あんときは本当に嫌だったから、こんなこと思わなかったけ
どよ・・・」
「何だ?」
「その・・・何だ・・・」
伝えようと思ってはみるが、普段なかなか言わない言葉なので、なんとなく気恥ずかしく
疾風は口ごもる。
「どうした?何か言いづらいことなのか?」
「あ、ありがとう。」
疾風からの思ってもみない言葉を聞いて、蜉蝣はきょとんとしてしまう。何だか恥ずかし
くて、蜉蝣の顔を見られないと疾風は蜉蝣に背を向けて布団に入り、掛け布団で顔を隠し
た。疾風が口にした言葉とその後の行動に、蜉蝣は思わず顔を緩ませる。
「感謝の言葉を口にするとは、本当成長したなあ、疾風。」
「う、うるせー!せっかく言ってやったのに、何でバカにしたようなこと言うんだよ!」
「いや、すごく嬉しいと思ってるぞ。そんなこと言われたら、この後もはりきって看病し
なきゃなあ。」
「も、もう寝るから黙ってろよ!」
「はいはい。」
これ以上蜉蝣に何かを言われるのは、耐えられないと疾風は怒鳴るような口調でそんなこ
とを言う。しかし、それは単なる照れ隠しでしかない。それが分かっているが故に、蜉蝣
は顔を緩ませたまま、黙って疾風が寝付くのを待った。

昼ご飯を食べた後で、ぐっすり寝付いた疾風は子の刻の時分に再び目を覚ます。
(だいぶ汗かいちまってるな。着替えてぇ・・・)
熱の為、どうしても普段より多く汗をかいてしまう。汗で湿った寝巻きを着替えたいと、
体を起こすと、手拭いを濡らすための水を取り替えに行っていた蜉蝣がちょうど戻ってき
た。
「どうした?疾風。」
「汗かいちまって、寝巻きを着替えたいんだけど。」
「分かった。今、新しい寝巻き持ってきてやるから、ちょっと待ってろ。」
「お、おう。」
真新しい寝巻きを持って、蜉蝣は疾風のところに戻ってくる。寝巻きと一緒に数枚の手拭
いを蜉蝣は持ってきていた。
「着替える前に、体も拭いた方がいいだろ。汗かいたままだと、冷えちまうからな。」
「そうだな」
着替えさせる為に寝巻きを脱がし、蜉蝣は腕から順番に疾風の体を濡らした手拭いで拭い
ていく。熱を持った肌にはその冷たさが何とも言えない心地よさを生みだしていた。ゆっ
くりと疾風の体を拭きながら、蜉蝣は疾風に話しかける。
「熱はもうほとんど引いたみたいだな。」
「ああ。たぶん明日にはキツイ仕事じゃなければ、いけると思うぜ。」
「あんまり無理するなよ。明日の状況を見て、一応お頭には伝えといてやるけど。」
「おう、頼む。」
そんなことを話しながら、腕、上半身、背中、脚と余すことなく蜉蝣は丁寧に汗を拭きと
る。一通り全て拭き終わると、蜉蝣はまっさらな寝巻きを疾風に着せてやった。
「かなりさっぱりしたぜ。ありがとな、蜉蝣。」
「どういたしまして。」
着替えさせてもらい、さっぱりとした疾風はもう一度布団に入る。隣で先程使った手拭い
を水に浸している蜉蝣を見て、疾風はもう少しだけ自分のわがままを聞いて欲しくなる。
「なあ、蜉蝣。」
「ん?何だ?」
手を止め、蜉蝣は疾風の方へ顔を向ける。そんな蜉蝣の寝巻きの袖を捉え、疾風は控えめ
にして欲しいことを口にする。
「たぶん、風邪は今日で終わるから、最後のわがままいいか?」
「いいぞ。何でも聞いてやる。」
「今日、一緒に寝て欲しい。もう一緒に寝ても、風邪はうつらないと思うし・・・」
「随分子どもみたいなわがままだな。」
「べ、別にいいだろ!それに今何でも聞いてやるって・・・」
「聞いてやるさ。まあ、そんなわがままなら、別に風邪ひいてるときじゃなくても聞いて
やるけどな。」
ふっと笑いながら、蜉蝣はそう言って、疾風の寝ている布団に潜り込む。そして、疾風の
体に腕を回してやった。
「これでいいだろ?」
「お、おう。」
「明日は元気になるといいな。」
「蜉蝣があんだけいろいろしてくれたから、大丈夫だ。」
「そうか。」
恥ずかしそうにしながらも、ぎゅっと寝巻きを握ってくる疾風を可愛いなあと思いつつ、
蜉蝣はポンポンと疾風の背中を撫でてやる。その感覚に安心感と心地よさを覚えながら、
疾風は甘えるように蜉蝣にすり寄った。
「たまには、風邪ひくのも悪くねぇなあ。」
「どうしてだ?」
「蜉蝣のこと一人占め出来るし、わがまま言い放題だからな。」
率直で素直な疾風の言葉に蜉蝣は思わず吹き出してしまう。こんなに可愛いことを普通に
口にするのは流石だと思いながら、蜉蝣は声を殺して笑った。
「な、何でそんなに笑うんだよ!」
「すまんすまん。お前、本当可愛すぎだなって思って。」
「悪かったな、ガキっぽくて!」
「いや、ガキっぽいとかそういうことじゃないんだけどな。まあ、いい。とりあえず寝と
け。」
蜉蝣の言葉に納得のいっていない疾風であったが、素直に目を閉じ眠ろうとする。昼間あ
れだけ寝ていたため、そうすぐには眠れないだろうなあと思っていた疾風であったが、一
人で寝ていたときには感じられなかった安心感にすぐに睡魔が襲ってくる。
(ああ、眠い・・・やっぱ、風邪ひいてるときって、いくらでも寝れるもんなんだな・・・)
程無くして疾風は蜉蝣の腕の中で眠りに落ちる。スースーと規則的な寝息を立てる疾風を
見て、蜉蝣はふっと口元を緩ませる。
「本当子どもの頃から全然変わってねぇな。」
近くにある寝顔も首筋にかかる寝息も腕から伝わる体温も、蜉蝣にとっては幼い頃からよ
く知っているものであった。今でも変わらずこうして自分に甘えてきてくれる疾風を愛し
く思いながら、蜉蝣は疾風の額に優しく口づける。
「おやすみ、疾風。」
疾風の耳元でそう囁くと、蜉蝣もゆっくりと目を閉じる。波の音が遠くで聞こえる部屋の
中、二人は穏やかな寝息を立てながら、懐かしい夢を見るのであった。

「疾風兄ィ、すっかり元気になったみたいだね。」
「病み上がりなはずなのに、いつも以上にパワフルだし。」
「まあ、あの方が疾風兄ィっぽくていいんじゃない?」
「だな。」
いつも以上にはりきって仕事をしている疾風を見て、航、重、網問、間切はそんなことを
話す。そんな無駄口を叩いている四人を見つけ、疾風は遠くから注意する。
「こらー、そこのお前ら!サボってないで、手動かせ!」
『はーい!』
疾風に注意され、四人は元気よく返事をした後、顔を見合わせてクスクス笑いながら、そ
れぞれに任された仕事を始めた。
「全くあいつら何やってんだ。」
「病み上がりであんまりはりきりすぎると、ぶり返すぞ。」
「大丈夫だって。お前のおかげで、もう完全に治ったからな。」
心配するような蜉蝣の言葉に、疾風はニッと笑いながらそう返す。全くしょうがないなあ
と苦笑しながら、蜉蝣はポムッと疾風の頭に手を乗せた。。
「あんまり無理するなよ。」
そう一言言うと、蜉蝣は自分の持ち場に戻ろうとする。そんな蜉蝣を疾風は呼び止めた。
「蜉蝣!」
「何だ?」
立ち止まって振り向く蜉蝣に、疾風は満面の笑みを浮かべてお礼の言葉を口にする。
「ずっと俺の看病してくれてありがとう。お前が風邪ひいたときは、俺が心を込めて看病
してやるからな!」
「どういたしまして。俺はそう簡単には風邪はひかないけど、そのときは頼ってやるよ。」
頼ってやるという蜉蝣の言葉が、疾風にとっては素直に嬉しかった。お互いの言葉を聞い
て、どちらも自然と笑顔になる。嬉しい気分に胸を弾ませながら、二人はここ数日間出来
なかったいつも通りの仕事を、いつも以上にはりきってこなすのであった。

                                END.

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