『もうこんな時間か。お前と話してるとあっという間だな。』
「そうですね。」
U−17のW杯が終わり、それぞれ地元に戻っている君島と遠野であったが、少し時間が
出来るとビデオ通話でちょくちょくやりとりをしていた。明日はどちらも予定が入ってお
り、そこまで夜更かしは出来なかった。
『まだ、話していてぇが明日も早いしな。お前と一緒にいられりゃ処刑もしてやれるのに、
残念だぜ。』
「処刑されるのは遠慮しておきます。」
『遠慮なんてしなくていいんだぜ!俺が処刑したいんだからな!』
「結局自分本位じゃないですか。まあ、また時間があるときにお話しましょう。」
『ああ。また、今度な。おやすみ、君島。』
「ええ。おやすみなさい、遠野くん。」
眠る前の挨拶を交わし合うと、ビデオ通話を切る。相変わらず処刑の話ばかりする遠野に
少し呆れながらも、以前よりは嫌な気分になることは少なくなっていた。
「全く遠野くんは相変わらずですね。」
お気に入りの紅茶を飲みながら、君島はくすっと笑う。
(遠野くんは本当日常的にも『処刑』という言葉をよく使いますね。まあ、テニス以外で
使う『処刑』や『血祭り』は何かしらの比喩であることが多いんですけどね。そういえば、
今日も『処刑してやれるのに』と言っていましたが、あれも実は違う意味が込められてい
るのでは?)
遠野が日常的に使う処刑関連の言葉は、何かしらの比喩であることが多いと君島は気づく。
それであれば、先程の言葉も言葉通りの意味ではないはずだと考える。
「そういえば、誕生日やバレンタインデーのときに贈り物をしたときも、似たようなこと
を言っていた気がするな。嬉しいはずなのに『処刑をしたくなる』なんて、物騒だと思っ
ていたし、いつものことだと気にせずにいたけれども・・・」
そのことに気づくと、君島は遠野がそう口にする理由を知りたくなってしまう。遠野と向
き合い理解するなら、そのような観点で考えを巡らせてみるのも悪くないと、遠野が言う
『処刑』という言葉の裏に隠された意味や感情を君島は分析してみることにする。
(遠野くんにとって『処刑』とは、おそらく『自分の持つエネルギーの全てを、一点に集
中させて叩きつけること』。そしてそれは、彼にとって最高の美学であり、決して譲れな
い信念のはず。つまり、遠野くんは大きな喜びや愛情を感じたとき、それを自分にとって
最も強い言葉、すなわち『処刑』という言葉で表現せずにはいられないのでは・・・?)
そう考えると、遠野がそのような場面で『処刑』という言葉を使うことが腑に落ちると君
島は考える。その想定を前提として、本来の意味で分かりやすい言葉で表すとどうなるか
を考えてみる。
(そうなると、遠野くんがそういう場面で使う『処刑』という言葉は、『自分の全ての感
情と力を懸けた、相手への究極の関心と愛情表現』になるのではないか?)
「つまり、『処刑したくなる』という言葉の意味は、『嬉しすぎて、今すぐ全身全霊で愛
したい!』といったような意味になるということですね。」
まるで暗号を解いたような達成感を感じつつも、その言葉にそんな意味が込められていた
のかと君島はドキドキと胸が高鳴るのを感じる。
「そうなると同じくらい口にしている『血祭りにあげたい』も似たような意味が込められ
ているのでしょうね。さながら『自分の情熱的な想いを全身に浴びさせてやる』といった
ところですかね。」
それは実に遠野らしいと君島の口元は緩む。そして、過去にそのような状況で言われたこ
とを、先程ビデオ通話していたときに『処刑してやれるのに』と言っていたことを思い出
す。その言葉を口にしている遠野は心の底から嬉しそうであり、期待に満ちた瞳で君島の
ことを見据えていた。
「ビデオ通話を切る直前のあの言葉は、一緒にいれたら直接的にイチャイチャ出来たのに
という意味なのでしょうね。」
過去の言葉もそういう意味だったのかと気づき、君島は今更ながら顔が熱くなり赤く染ま
る。そして、それに気づけなかったことを悔やむ。
「今まで、こんなにも情熱的な言葉を呆れながら撥ね退けてしまっていたのですね。分か
りにくいにもほどがあるでしょう。全く、遠野くんは・・・」
遠野の言葉の真意に気づけた嬉しさと今まで気づくことが出来なかった後悔とで、複雑な
気持ちになりながら、君島はそうぼやく。しかし、もう気づいてしまった。テニス以外で、
特に遠野の気持ちがポジティブなものになっている場面で使われる『処刑』は、この上な
く愛に溢れた言葉であることに。
「ふふ、遠野くんのあの言葉の持つ本当の意味を理解しているのは世界中で私だけ。これ
からは、しっかりその気持ちを受け止めてあげますよ。」
自信に満ちた様子でそう呟き、君島の中に知的な優越感と遠野への深い愛情が湧き上がる。
『処刑』という言葉にポジティブな意味を見出した君島は、ふと思いついたように遠野の
技である13の処刑法を紙に書き出す。
「・・・あなたの美学は理解しましたよ、遠野くん。ならば、アナタが好きな方法で、ア
ナタを支配するのが私の愛です。次に会うときは、この愛の処刑法で私だけの愛の儀式を
執行させてもらいますよ。」
13の処刑法が書かれた紙を見ながら、アイドルをしているときとは全く異なる笑顔で君
島はそんな言葉を呟いた。
また別の日、今日もあまり時間がない中、君島と遠野はビデオ通話をしていた。
「ところで遠野くん。」
『ん?何だよ?』
「遠野くんの処刑法の技あるじゃないですか。それぞれについて、各技に込めている目的
や感情を教えてくれませんか?今日は時間があまりないので、一言二言で説明してもらえ
ると助かります。」
『おっ、ついにお前も俺の処刑に興味を持ち始めたか。いいぜ、いくらでも語ってやる!』
「語ってもらうのは追々してもらうとして、今日は一言でお願いします。」
『チッ、仕方ねぇなあ。』
本当はもっと語り尽くしたいのだが、今日はそれほど時間がないことは遠野も理解してい
た。あれだけテニスでの処刑法を嫌がっていた君島が自分の技に興味を持ってくれたのが
嬉しくて、遠野は嬉々として自分の技に込めている目的や感情を話し出す。
『まずはギロチンだが、これは高速サーブで一撃で試合を支配するのが目的だ。次に電気
椅子。上半身にボールを当てて相手を痺れさせ、抵抗を完全に封じるのが目的だ。鉄の処
女(アイアンメイデン)は逃げ場のない状態でグッサグッサに突き刺して戦意を喪失させ
る。聖アンデレの十字架は強力な十字架の閃光を放つ打球で精神的にノックアウトさせる
技だぜ。』
「ダブルスの際に何度も見てますけど、そんな意味が込められていたのですね。見ている
だけでは意外と分からないものですね。」
『それはお前が興味を持たないどころかやめさせようとしてたからだろ。とりあえず、続
きいくぜ。松の木折り(ディアスフォンドネーゼ)は、一撃で全身を引き裂くようなイメ
ージだ。ウィッカーマンは、心臓への一打でジリジリといたぶるのが目的だ。ファラリス
の雄牛は、ギュウゥっと焼け付くような痛みを味わってもらうもんだな。セメント靴(シ
ューズ)は足首への強烈なショットで相手の動きを封じる意味がある。』
「前半のものは精神面でのダメージが大きめで、中盤のものは肉体面でのダメージが大き
そうですね。」
『おっ、よく気づいたな!ちゃんと理解してるじゃねーか。続きいくぜ。コロンビア・ネ
クタイは、喉への一撃で声すら発せなくする攻撃だ。苦痛の梨は開いた口に打球を詰め込
む。生き埋めは息も出来ない苦しさを体感させてやるのが目的だぜ。銃殺は、額へのクリ
ーンヒットで、立ち上がることも許さねぇ。切腹は球をぶち込んだラケットで切腹のよう
に自害、すなわち自発的な降伏を促すのが目的だな。そして、介錯。13の処刑法を受け、
俺のボールをうなじに当てられたらもう指一本動かせなくなるぜ!』
「なるほど。とても参考になりました。」
遠野の13の処刑法に込められた意味や目的をあたらめて聞き、君島は遠野の処刑に対す
る美学をさらに深く理解する。
『参考になったってどういう意味だ?お前も処刑をするつもりかぁ?』
「さあ、どうでしょうね?」
冗談じみた口調でそう問う遠野に、意味ありげな笑みを浮かべ君島はそう返す。思っても
みない返答に遠野はドキッとしてしまう。
『否定しないのかよ?まあ、いい。お前が処刑に興味持ってくれるのは、俺にとっちゃ嬉
しいことだからな。』
(でしょうね。)
心の中でそう呟いた後、君島は話題を変える。
「そういえば、遠野くんの予定が空いている日程で続けて休みが取れたのですよ。こちら
に来て欲しいので、新幹線の切符を送ろうと思うのですがよいですか?」
『それは全然構わねぇし、ありがてぇんだけどよ、毎度上京するのにお前が切符買ってる
けどいいのか?』
「私が来て欲しくてそうしているので、何も気にすることはありませんよ。」
『それじゃあ、お願いするぜ。久しぶりに直接会えるな。楽しみだ。』
本当に嬉しそうな顔でそう口にする遠野を見て、君島の胸はときめく。次会うときまでに、
自身の考えた処刑法を完成させようと、君島は意気込む。
「そうですね。おっと、そろそろ時間ですね。それでは、また。」
『おう。またな。』
ビデオ通話を切ると、君島は遠野から聞いた13の処刑法の目的や感情をメモした紙に視
線を落とす。遠野の処刑への情熱を存分に反映させた自身の処刑法を執行するのを楽しみ
にしながら、そのメモを参考に具体的にどんなことをするのかを考え始めた。
君島が上京するように指定した日に、遠野は東京へとやってくる。軽く食事を取ったり、
観光をした後、東京を拠点として活動している間、君島が借りている部屋に遠野は招かれ
る。
「ホテルじゃなくて、君島の部屋に入れてくれるのは珍しいな。」
「たまには、と思いまして。」
「久しぶりにお前に会えたし、おあつらえ向きにベッドもあるし、処刑したくなってくる
よなあ!」
今までは処刑に興味はないと一蹴していた言葉であるが、遠野の言葉の本当の意味を理解
している君島は、遠野のその言葉にひどくときめいてしまう。
「そうですね。今日は私の考えた愛の処刑法を遠野くんに受けてもらうためにここに招い
たのです。」
「は?」
意味が分からないとポカンとしている遠野に、君島はこの日のために用意した道具や玩具
を見せる。SMプレイに使われるような道具と玩具のラインナップに遠野は顔を赤く染め
る。
(処刑をテーマにするんだったら、まあそうなるだろうけど、君島の奴、何を企んでるん
だ?)
「きょ、今日はこれを使ってするってことか?」
「ええ。これらを使って、今日は私がアナタを血祭りにあげてあげますよ。アナタが私に
教えてくれたあの13の処刑法でね。」
自分が言うようなことを君島が言っていることに遠野はどうしようもなく興奮してしまう。
「いいぜ。受けて立ってやるよ。」
「おや、一旦は断られると思いましたが案外すんなり受け入れるんですね。」
「お前がどれだけ俺の処刑を理解してるのか興味あるしな。」
それならば、と君島は遠野の13の処刑法を模した愛の儀式の始まりを告げる。
「では、始めますよ。遠野くん。」
「ああ。」
自分の考えた処刑プレイには服が邪魔だと、君島は遠野の服を全て脱がしてしまう。遠野
の処刑法に倣い、まずは真っ赤なチョーカーを手にし、遠野の首につける。
「処刑法其ノ十三ギロチン。ギロチンは最初の一撃でこの場を支配する処刑法です。なの
で、今からアナタを支配させてもらいますよ、遠野くん。」
ギロチンの象徴である真っ赤なチョーカーをつけられ、支配することを宣言される。その
ままベッドの上に押し倒され、遠野は甘い口づけを施される。そこまで深い口づけではな
いが、遠野の理性を奪うには十分であった。
「ハァ・・・わりとちゃんとしてるじゃねーか。」
「でしょう?」
「この後も楽しみだぜ。」
君島のしてくれることにゾクゾクわくわくしながら、遠野はそんなことを言う。ここまで
乗り気になってくれるとは思わなかったので、君島もいい気分で自身の考えた処刑を続け
る。
「処刑法其ノ十二電気椅子。これから遠野くんを電気の刺激で痺れさせて、抵抗する気を
なくしてあげますよ。」
電流を流せる低周波玩具のパッドを遠野の腰回りや胸の突起にギリギリ触れないくらいの
位置に貼りつける。どんな刺激が与えられるのかドキドキしながら、遠野は君島を見る。
「まずは弱い刺激でしてあげますね。」
君島がスイッチを入れると、軽くビリっとするような電流が流れる。刺激はそこまで大き
くないが、性感帯に近い部分にパッドが貼られていることもあり、遠野は素直に感じてし
まう。
「んあっ!!」
「痛いですか?」
「ちょっとピリっとするくらいで、痛くはねぇ・・・」
「そうですか。だったら、だんだんと強くしていきますね。」
遠野の様子を見ながら、君島はゆっくりと強さを強くしていく。
「ああっ・・・んっ・・・!!」
「まだ余裕がありそうですね。」
「うあっ・・・ビリビリするっ・・・!!」
「もう少しいけますか?」
「いっ・・・あああぁんっ!!」
大きな反応を見せつつも、痛がるような様子を見せないところで、君島は強くするのをや
める。
「結構強めにしてみましたけど、遠野くんはこれくらいがちょうどいいようですね。」
「あっ、あんっ・・・君島っ・・・!!」
「どうですか?痛いですか?気持ちいいですか?」
「んっ・・・気持ちいいっ・・・!!」
「さすが遠野くんですね。」
強めの低周波を流しても痛がらずに気持ちいいと口にする遠野に、君島はぞくぞくしてし
まう。しばらくビクビクと上半身を痙攣させながら気持ち良さそうにしている遠野を眺め
た後、君島はスイッチを止めパッドを外す。
「ハァ・・・ハァ・・・」
「電気椅子も楽しんでもらえたようですね。」
存分に電気椅子を楽しんだ遠野を横目に、君島は服を脱ぎ、一枚の大きな布を手にする。
「遠野くん、身体を起こしてください。ついでに脚もある程度開いて。」
「あ、ああ。」
言われた通り、まだビリビリとした痺れが残っている身体を起こし、遠野は軽く脚を開く。
遠野の熱に自分の熱が重なるように密着し、君島は手にした布で自分と遠野の身体を包み
込むように巻きつける。
「これは・・・?」
「処刑法其ノ十一鉄の処女(アイアンメイデン)。逃げ場のない密着状態で、刺すような
強い快感を与えてあげます。」
背中には布がピッタリと纏いつき、胸や腹は君島と密着している。それに加え、既に勃ち
上がっている熱同士が触れ合い、その熱さを互いに伝え合う。そんな状態で君島は腰を動
かし、自分の熱を遠野の熱に擦りつける。
「んああっ・・・!!」
「んっ・・・逃げ場のないこの状態で擦り合わせるの、結構キますね。」
「あっ・・・あぁんっ・・・君島っ!!」
「ふふ、気持ちよさそうですね、遠野くん。こんなにくっついていると、ココだけでなく
肌も擦れて気持ちいいですね。」
たった一枚の布で、鉄の処女(アイアンメイデン)の密閉感が再現されており、遠野は感
心すると共に言いようもない興奮を覚える。遠野自身も君島の背中に腕を回し、ぎゅっと
しがみつく。抱き合いながら、肌や熱が擦れ合う快感にどちらも呼吸が乱れてくる。
「ハァ・・・んんっ・・・あっ・・・ああっ・・・!!」
「ハァ・・・遠野くん。」
「君島ぁ・・・コレ、ヤバイ・・・」
「そうですね。」
(ここだけじゃなくて、胸も腹もまだ電気流された影響が残ってて肌が敏感になってるか
ら気持ちいい・・・続けられたら結構ヤベェかも。)
「んっ・・・ふあっ・・・ああっ!!」
身体が密着しているため、遠野がどれだけ感じているかが直に伝わる。遠野の反応に気を
よくしながら、君島はより激しく重なり合っている熱を責める。
「随分気持ちよさそうですね。イキそうなんじゃないですか?」
「ああぁんっ!!ダメだっ・・・そんなに擦られたら・・・っ!!」
逃れられない状況で、君島の楔で執拗に責められ、遠野は達してしまう。鉄の処女(アイ
アンメイデン)の扉を開けるかのように、ふわっと布を取り去ると、君島は肩に顔を埋め
ながら激しく呼吸を乱している遠野の背中を優しく撫でてやる。
「まだ処刑法は三つ目なのに、もう達してしまったのですね。」
「しょうがねぇだろ・・・お前の処刑、気持ちよすぎて・・・」
「おや、遠野くんにそう言ってもらえるとは光栄ですね。」
冗談っぽくそう言うと、君島は絶頂の余韻に脱力している遠野を仰向けに寝かせる。
「処刑法其ノ十聖アンデレの十字架。今から遠野くんをこのベッドに磔にします。手足を
伸ばしてください。」
君島の処刑を最後まで受ける覚悟は出来ているので、遠野は言われた通り、X十字に磔に
されるかの如く、腕と足を少し開いて伸ばす。その手首と足首を細い紐で括り、ベッドの
脚にその紐を結び付け拘束する。
「こんなにいろいろ準備してんのに、拘束するのは分かりやすい手枷とか足枷じゃないん
だな。」
「X十字への磔は、手足を釘で打ちつけるのではなく手首と足首を縛るんですよね?」
「よく調べてるじゃねーか!その通りだぜ。」
思ったよりも君島がしっかりと調べているので、遠野は嬉しくなる。手足を縛られ、自由
に動けなくなったものの、遠野の胸は期待感で埋め尽くされていた。
「これで遠野くんは抵抗することも逃げることも出来なくなりましたね。」
「端からそんなつもりはねぇけどな。」
「残る処刑法で、遠野くんを存分に気持ちよくしてあげますね。」
「ああ。期待してるぜ。」
君島の言葉にゾクゾクしながら、遠野は妖艶な笑みを浮かべそう返す。
「処刑法其ノ九松の木折り(ディアスフォンドネーゼ)。八つ裂きの前と考えるとこの状
態はわりと間違ってない気がしますね。」
「確かにそうだな。」
「本当に八つ裂きには出来ないので、本来引き裂かれるこのラインに、私のものである証
を刻みつけてあげますね。」
そう言いながら、君島は遠野の首の真下から下腹部までのラインをつっとなぞる。そして、
そのなぞったラインに沿って、唇を押しつける。
「んあんっ・・・!!」
唇をつけた場所に跡をつけるように強く吸い、跡がついたことを確認するとその部分をペ
ロリと舐める。
「あっ・・・」
「遠野くんは肌が白いので、跡が目立っていいですね。」
「き、君島・・・」
首の下、胸の中心、みぞおち、臍の上、臍の下と君島はくっきりと遠野の肌に紅い跡をつ
けていく。肌を吸われるたびに遠野はビクンとその身を跳ねさせ、君島の目を楽しませる。
「綺麗につきましたよ。」
「ハァ・・・そうだな。」
「この次とさらにその次は用意した道具を使いますよ。」
処刑法の順番を思い返し、遠野は何を使われるかを予想する。用意されている道具や玩具
は一通り見ているので、そこに何があったかを同時に考える。
(処刑法其ノ八はウィッカーマン、処刑法其ノ七はファラリスの雄牛か。共通点は火と熱
さ。あっ、まさか・・・)
ご機嫌な様子で君島が手にしたのは、まるで血のような色をしたロウソクであった。当然
プレイ用のロウソクなので、火傷するほど熱くはないものの、そんなものを使われるのは
初めてなので、遠野の心臓はひどく高鳴っていた。
「処刑法其ノ八ウィッカーマン。ウィッカーマンは心臓への一撃でしたよね。ウィッカー
マンらしく燃えるような熱さを味わわせてあげますよ。」
赤いロウソクに火をつけると、炎の周りの蝋がが溶けるのを待つ。そして、ある程度溶け
た蝋が溜まると、遠野の心臓の上をめがけその蝋を垂らす。
「あああぁっ!!」
「垂らすと本当に血の色みたいになりますね。」
「ハァ・・・あっ・・・」
「どうですか?熱いでしょう?」
そう尋ねながら、君島は先程とは違う場所にポタポタと蝋を垂らす。
「あっ、あっ・・・熱っ・・・んんっ・・・」
確かに熱いのだが火傷するほどではないので、その刺激は遠野にとって、今までに感じた
ことのない種類の快感を呼び起こす。蝋を垂らされ、そのたびにビクッと反応しながらも、
その顔は赤く染まり、ひどく感じているような表情になっている。
「もしかして、これも気持ちよく感じてます?」
「そ、そんなこと・・・」
ポタポタポタ・・・
「あああぁんっ!!」
否定しようとした瞬間、再び多めに蝋を垂らされ、遠野は素直に感じてしまう。そんな遠
野を見て、君島は高揚した気分になる。
「可愛いですね。このまま次の処刑もしてあげます。」
「やっ・・・君島っ・・・」
「処刑法其ノ七ファラリスの雄牛。もっと感じやすい部分で存分に熱さを感じて、いい声
を聞かせてください。」
テニスの処刑では内もものあたりに打球を当てていたため、それを思い出し、君島はその
あたりに蝋を垂らす。先程より多めに垂らした後、固まる前にその蝋を自身の手の平で伸
ばす。
「んああんっ!!」
「確かにそれなりの熱さがありますね。触れられないほどではないですが。」
「ハァ・・・そこ、さっきよりも熱ぃ・・・」
「感じ方は場所によっても違うでしょうから。逆の脚にも垂らしてあげますね。」
ポタポタポタ・・・
「あああっ!!」
「こうしたらより熱さを感じられるでしょう?」
「ひああぁんっ・・・んああっ!!」
先程と同じように蝋を広範囲に薄く広げられ、遠野は激しく感じてしまう。焼け付くよう
な快感に遠野は何も考えられなくなっていく。
「ロウソクを使った処刑法はこれくらいにしておきます。」
「ふぅ・・・ふぅ・・・」
「ふふ、遠野くんのココ、蜜が溢れていますよ。ウィッカーマンとファラリスの雄牛、そ
んなに気持ちよかったんですか?」
「んあっ!!君島の手、熱ぃ・・・」
蜜の溢れているそこに軽く触れると、遠野はそう言いながら身を捩る。そんな遠野の反応
を心から可愛らしいと思いながら、次の処刑のために君島は一旦遠野の拘束を解く。
「一旦手足が自由になりましたけど、何かここでしたいことはありますか?」
「まだ処刑法は六つも残ってるだろ?余計なことはしなくていいから、さっさと進めろ。」
次の処刑法も違う方法で拘束するようなものだったので、一応そう尋ねてみた君島であっ
たが、遠野の答えに思わずニヤけてしまう。
「そんなにも処刑して欲しいなら、お望み通りしてあげますよ。」
次の処刑のために、君島は先程解いた紐を一本手にする。今度は手首は縛ることはせず、
両方の足首同士をくっつけた状態でそこを縛り拘束する。
「処刑法其ノ六セメント靴(シューズ)。今度は足だけを拘束させてもらいました。身動
きが取れないこの状態で、遠野くんのココを存分にほぐしてあげますよ。」
足を自由に動かすことが出来ないその状態で、君島は遠野の身体を横向きにさせる。そし
て、温感ローションをたっぷり指に絡めると、きゅっと閉じている遠野の蕾を抉じ開ける。
「ああぁんっ!!」
「どうですか?このローション。冷たくなくていいでしょう?」
「さっきの処刑で君島の手が熱くなってるから、スゲェ熱く感じる・・・」
「それは好都合ですね。内側でもじっくり私の熱さを感じてください。」
「んあっ・・・あっ・・・ぬるぬるしてて、気持ちいい・・・」
熱くぬるぬるした指で内側を弄られ、遠野は甘く濡れた声でそう漏らす。ローションのお
かげで、遠野のそこはすぐに柔らかくほぐれる。君島の指がより奥に入り、いいところを
擦り始めると、遠野は思わず逃げを打とうとするが、足を拘束されているためそれは叶わ
ず、逃すことの出来ない快感が遠野を襲う。
「ひぅっ・・・君島、そこっ・・・ダメっ・・・!!」
「ここがいいのですね?」
「あああぁっ・・・そんなに擦られたらぁ・・・っ!!」
「遠野くんの中、もうトロトロですね。ほら、いい音立てているの聞こえます?」
「ひゃああっ!!ああぁ・・・ダメだっ・・・もう、イッ・・・!!」
特に感じる部分を激しく擦られ、自由に身体を動かすことが出来ないという興奮もあいま
って、遠野は大きくその身を震わせ達してしまう。
「またイッてしまいましたね。」
「ハァ、ハァ・・・んっ・・・はぁ・・・」
セメント靴(シューズ)の処刑も終わり、これ以上拘束する必要はないので、君島は足首
を拘束していた紐を解く。もう一度遠野を仰向けにさせると、ぐいっと顎を上げさせ、ギ
ロチンのときにつけたチョーカーを外し、あらわになった首をつつっとなぞる。
「あんっ・・・!」
「処刑法其ノ五コロンビア・ネクタイ。コロンビア・ネクタイはココを切り裂く処刑法で
すよね。もともと遠野くんは首が弱いですし、声が出せないくらいの快感を与えてあげま
すよ。」
遠野の首にちゅっとキスをし、ゆっくりと舌で舐める。首が性感帯である遠野はそんな刺
激を受け、喉の奥から甘い声を漏らす。
「はぁ・・・あんっ・・・!!」
少しずつ位置を変えながら何度も舐め上げていると、遠野の身体はビクビクと震える。自
由になった脚をもぞもぞさせながら、ぎゅっとシーツを握るような仕草を見せたところで、
君島は大きく口を開き、喉仏のあたりを甘噛みする。
「ひっ・・・―――っ!!」
その衝撃に遠野は声を出せないほどの快感を覚える。遠野の首から口を離すと、君島は遠
野の耳元でそっと囁く。
「舌を出してください。」
実際に出来るかは定かではないが、コロンビア・ネクタイは切り裂いた喉から舌を引きず
り出す処刑法だ。そんな処刑法に倣い、君島は遠野に舌を出させる。遠野が舌を出すと、
君島はその舌をパクっと食むように咥え、じゅっと音を立てて吸い上げる。
「んぁっ・・・んんんっ!!」
咥えるだけでなく、舌の裏も表も余すことなく舐め、時折強く吸ってやる。そんな君島の
舌への集中的な責めに、遠野はまともに声も上げられず、ただただその痺れるような快感
に悶えることしか出来なかった。
ちゅぷ・・・
「んはっ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
「ふふ、舌が出たままになっていますよ?とてもいい顔していますね。」
君島がその口と舌を離すと、遠野は恍惚とした表情で君島を見る。これでコロンビア・ネ
クタイは十分に再現出来たと、君島は次の処刑に移る。
「処刑法其ノ四苦痛の梨。テニスでは口にと言っていましたけど、もともとの処刑法を考
えるとこちらでも何ら問題はないですよね。」
そう言いながら、君島は遠野の脚を大きく開き、先程慣らした蕾に自身の熱を押し当てる。
そして、そのまま十分に大きくなった楔を苦痛の梨を挿入させるかのように遠野の中に挿
れた。
「ああぁっ・・・んあああぁっ!!」
「んんっ・・・遠野くんの中、なかなかいい具合ですね。」
「んあっ・・・君島ぁ・・・」
奥まで挿れていた熱をゆっくりと引き抜き、ギリギリのところで止める。そして、自分の
熱の形をしっかりと認識させるかのように、再びゆっくりと挿入する。
「遠野くんのココが私の形に拡げられていくの、分かりますか?」
「ハァ・・・あっ・・・君島の・・・デカい・・・」
「苦痛の梨としてはその方がらしいんじゃないですか?」
「あんっ・・・もっと、奥まで・・・」
「遠野くんにとっては、この処刑法は苦痛でもなんでもないようですね。」
もっと欲しいとねだる遠野に、君島は情欲を掻き立てられながら妖しく笑う。その熱の形
を覚えさせるかのように、何度か非常にゆっくりとしたピストンをした後、君島は鉄の処
女(アイアンメイデン)のときに使った布を手に取る。
「処刑法其ノ三生き埋め。逃げ場のない息苦しくなるほどの濃密な快感を共有しましょう。」
手に取った大きな布を頭から足まですっぽりと覆うようにかけ、その布の下で遠野の手を
ぎゅっと握る。布が上からかけられているため、まるで埋められているような閉塞感に遠
野はゾクゾクする。そんな状態で、君島は激しく遠野の中を穿ち、遠野の口を自身の口で
塞ぐ。
「んむっ・・・んんっ・・・んんんっ・・・!!」
内側から与えられる大きな快感に、遠野の呼吸は乱れる。しかし、口が塞がれ、君島の舌
で口内を弄られているため、十分に呼吸をすることが出来なかった。
「ふあっ・・・んっ・・・んぐっ・・・!!」
(キスされてるし、布がかかってるから、まともに息が出来ねぇ・・・苦しいけど、それ
以上に気持ちよくて・・・)
酸素不足で頭がぼーっとしつつも、遠野は大きな快感に恍惚感を覚える。まさに生き埋め
だと思いながら、遠野は君島の手を力の入らない手で握り返す。
(そろそろ離してあげないと、遠野くんが窒息してしまいそうですね。)
握っていた手を離し、上にかけていた布をバサッと取り去る。そして、ゆっくりと遠野か
ら口を離した。
「はっ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
不足している酸素を取り込もうと、遠野は肩で息をしながら、ピクピクとその身を震わせ
る。君島を見る目はトロンと潤み、赤く染まった頬はその快感の強さを物語る。小さく開
かれた口からは飲み込みきれなかった唾液が漏れ、口の端から雫が垂れていた。
「すごく魅力的な表情になってますね。」
「んっ・・・君島・・・」
非常にやらしく艶やかな表情になっている遠野を見て、君島は次の処刑を実行したくなる。
「処刑法其ノ二銃殺。急所である額にキスしてあげます。その後、イキたくなるほど中を
責めてあげますね。」
蕩けた遠野の額に君島は優しく口づける。優しく触れるだけの口づけであるが、これが銃
殺であると理解しているため、遠野はどうしようもなくゾクゾクしてしまう。
「んあんっ・・・」
「額も感じるんですか?可愛いですね。」
どこもかしこも感じやすくなっている遠野を愛でたくなる気持ちで胸を高鳴らせながら、
君島は遠野を絶頂させるために大きく動き出す。
「ああぁんっ!!あっ、あっ・・・あんっ!!」
「ハァ・・・今日の遠野くん、本当に素敵ですよ。」
「あっ・・・君島ぁ・・・あっ・・・ああぁっ!!」
君島に奥の奥を撃ち抜かれるように突かれ、遠野の絶頂感は確実に高まっていく。
「んあああっ・・・君島っ、もう・・・っ!!」
イキそうになっている遠野を見て、君島はピタッと動き出すを止める。
「き、君島・・・?」
当然動きを止められたら達することは出来ない。激しく呼吸を乱しながら、困惑した様子
で遠野は君島を見る。
「処刑法其ノ一切腹。切腹は自発的な降伏を促すんですよね。イキたければ、私に介錯を、
イカせて欲しいと懇願してください。」
「んっ・・・」
普段の遠野であれば、自発的な降伏などするはずがないのだが、今は甘美な処刑を受けて
いる最中だ。自分がそれをしなければ介錯はしてもらえない。それこそ自身の美学に反す
ると、遠野はそれを求める。
「ここを切り裂いたら、お前の蜜が溢れ出るくらい俺の中に出して、早く俺をイカせくれ。」
しなやかな指で腹部をすっと横になぞり、遠野は君島に懇願する。切腹を思わせるその仕
草と直接的な懇願の言葉に君島の心臓は跳ねる。
(ああ、何て甘美な願いだろう・・・)
「分かりました。私の介錯を以て、この処刑を終わらせてあげますね。」
そう口にし、君島は再び遠野の中を蹂躙する。先程絶頂直前まで高められていたこともあ
り、遠野はすぐに達きそうになる。
「んああっ・・・あっ・・・ああぁっ!!」
「くっ・・・私もそろそろ・・・」
「君島っ・・・奥で、奥に欲しいっ!!」
「いいですよ。遠野くんの奥に全て注いであげます。」
「あああぁっ・・・イクっ・・・!!」
「介錯、ちゃんとしてあげますね。」
自身も限界の状態でそう呟くと、君島は遠野の一番奥を突き上げ、それと同時に遠野の首
に歯を立てる。
「イッ・・・ああああぁっ!!」
「んんっ・・・!!」
最奥へ君島の雫が注がれる充足感と介錯を思わせる首への刺激に、遠野は今日一番の絶頂
を迎える。どちらも指一本動かせないほどの達成感と充実感を覚えると同時に、君島の愛
の処刑は完了した。
君島の処刑が終わると、君島は使ったものの片付けをし、遠野は服を着ない状態で自撮り
をしていた。そんな遠野を見て、君島はドキドキしながら何のつもりか尋ねる。
「何をしてるんですか?遠野くん。」
「大事なとこはちゃんと写らないように気をつけてるから問題ないぜ。」
「いや、そういうことではなくて・・・」
「蝋垂らされたところが血塗れ状態みたいになってるからよ、スゲェなと思って。」
「まあ、確かに。もともとの色がそんな感じでしたからね。」
「・・・つーのは建前で、この蝋の跡も首の噛み傷も君島が付けてくれたキスマークも、
しばらくしたら消えちまうだろ?君島がこんなことしてくれたってのを残しておきたくて
よ。」
少し恥ずかしそうにしながらも、遠野は正直にそう話す。それを聞いて、君島は図らずも
キュンとしてしまう。
「・・・それ、私も欲しいです。後で送ってください。」
「何だぁ?俺に会えないときのオカズにでもするつもりかぁ?」
からかうようにそう言う遠野に、君島は赤くなりながら反論する。
「するわけないでしょう!・・・たぶん。」
「はは、たぶんなのかよ?いいぜ、後で送っといてやるよ。」
君島もその写真が欲しいという言葉を聞いて、ご機嫌な様子で遠野はそう答える。使った
ものを片付け終えると、君島はベッドに座っている遠野の横に腰かける。
「あの処刑法、遠野くんの処刑法を何とか理解しようと思って考えた末のものだったので
すが、どうでしたか?」
「正直に言っていいか?」
「ええ。」
「最悪で・・・スゲェ最高だった。」
言い方としては、最高の方が上回っている気がするが『最悪』とはどういうことかの方が
気になってしまう。
「えっ!?それはどういうことですか?」
「予想以上にお前がちゃんと俺の処刑法を理解してて、それぞれの処刑法をビックリする
くらいあーいう行為に落とし込んでて、その完成度が高すぎてちょっと悔しくて最悪だな
と思った。」
処刑は自分の専売特許だと思っていたところ、君島が予想以上の完成度で処刑をしてきた
ことが遠野は悔しくてたまらなかった。それゆえ、『最悪』という言葉が先に出る。
「だけど、あれだけ俺のプレスタイルを嫌っていたお前が、俺の処刑法に興味を持ってく
れて、真剣に考えてくれて、独自の処刑法を考えてくれた。その完成度がメチャクチャ高
くて、俺のことをそんなに理解してくれてるのかって、スッゲェ嬉しかった。どの処刑法
もメチャクチャ気持ちよくて、処刑法って言いながらも俺を傷つけることは一つもなくて、
ぶっちゃけスゲェ愛されてるなって感じて、本当最高だった。」
恥ずかしそうに笑いながら、遠野は自分の気持ちを素直に述べる。その表情から、遠野が
喜んでくれていることを君島は理解する。
「そうですか。それならよかったです。」
「急に俺の処刑について知りたがるから、どんな心境の変化があったんだ?とは思ったけ
どな。」
そう言われ、君島がつい最近気づいたことを遠野に話すことにする。
「遠野くんは、テニス以外でも『処刑』という言葉をよく使うじゃないですか。」
「まあ、そうだな。」
「その中でも、遠野くんが嬉しいと思っているようなとき、例えばプレゼントをもらった
ときや、私と電話しているときなども、『処刑をしたくなる』みたいなことを言いますよ
ね?」
「ああ。」
「その言葉が、文字通りの『処刑』ではなく、何と言うか・・・イチャイチャしたい的な
愛情表現の意味を持つのではないかと最近気づきまして。」
「は?最近って、今まではどう捉えてたんだよ?」
遠野のその反応を見て、自分の解釈は間違っていなかったと君島は確信する。
「どうって・・・文字通りに捉えてましたけど。」
「どおりで微妙に会話が噛み合わねぇなと思ってたんだよな。そういうことか。」
「いや、普通は気づきませんからね。分かりにくいことこの上ないですよ。ちなみに『血
祭りにあげたい』も似たような意味ですよね?」
「ああ。そうだな。」
遠野としては端からそのつもりで使っていたのかと、君島は呆れたように笑う。
「全く、そういうところが・・・」
「でも、もう気づいたんだろ?だったら、今まで通りに言っても伝わるってことだよなぁ?」
「そうですね。」
自分が使う言葉の意味を君島が正しく理解してくれるようになったことを喜びながら、遠
野は今の気持ちを口にする。
「今日お前がしてくれた処刑、最高だったぜ!今度は俺も同じような処刑を考えてお前に
してやる。楽しみにしとくんだな!」
「おや、それは楽しみですね。私としても、今日遠野くんを処刑したことで非常に満たさ
れました。また処刑してもいいですか?」
「いいぜ!お前の処刑を受けられるのは、この俺だけだからな!」
『処刑』という言葉を使って気持ちを伝え合うことが出来ることを遠野は非常に嬉しく思
い、君島に対する想いがその表情や態度に表れる。君島にとっても、まるで秘密の暗号の
ようなその言葉のやりとりは、意外に楽しいものだと感じられた。二人の間だけで通じる
『処刑』という愛の言葉。それは君島が吟ずる抒情詩(リリック)のように、二人の中で
幾重にも紡がれるのであった。
END.