新学期が始まってすぐの氷帝大学。後期最初の授業が終わり、跡部はテキストやノートを
片付けていた。どうやらこの授業を滝も取るつもりらしく、跡部を見つけて声をかける。
「久しぶり、跡部。」
「ああ、滝か。テメェもこの授業取るのか?」
「うん。まあね。あれ?今日は宍戸は一緒じゃないの?」
「今日は取りたい授業がないから、オフにするだとよ。まあ、三年だしな。授業によっち
ゃそういう日も出てくるだろ。」
跡部としては少々不満であったが、こればかりは文句は言えない。もともと学科が違うた
め、こうなることはもとから分かっていた。
「ふーん、そっか。あっ、宍戸といえばさ、そろそろ宍戸の誕生日だよね。今年もさぞ豪
華なプレゼントするんでしょ?」
宍戸の誕生日という言葉を聞いて、跡部は少し困ったような顔をする。意外な反応に滝は
驚いた。
「どうしたのさ?」
「いや・・・そのことなんだが・・・」
「何か問題でもあるの?」
「確かに豪華な食事を用意してやって、それなりに高価なプレゼントをやれば、もちろん
宍戸は喜ぶんだけどよ・・・」
「うん。」
「それだけじゃ何か宍戸を完全に満足させれねぇ気がするんだよな。何かこう、今までに
したことをないことをしたいと思うんだが・・・」
まさか跡部がそんなことを考えているとは思わなかったので、滝は驚きつつも微笑ましく
思う。確かに宍戸は、もともとそんなに裕福な家庭に育っていないので、高級料理や自分
では絶対に手に入れられない高価なものをプレゼントすれば、喜びはするのだが、跡部は
その中に躊躇や戸惑いの気持ちがあるのを見抜いていた。しかし、育ちの違いからそこを
どうやって埋めたらよいのかが分からないのだ。
「へぇ、跡部にしては珍しいね。そんなことで悩んでるなんて。」
「うるせー。本当はこんなことで頼りたくねぇんだが、どうすればいいと思う?俺には、
さっぱり思いつかねぇ。」
「うーん、そうだねぇ・・・とりあえず、場所変えようか。もうお昼休みだし。ご飯食べ
ながら考えない?」
「ああ。そうだな。」
お腹も空いたし、腹ごしらえをしながらの方がよい案が思い浮かぶだろうと、二人は学食
へ移動する。これは、自分の腕の見せどころだと、滝はしっかり跡部の相談に答えようと
歩きながら頭をフル回転させた。
昼食を取りながら、二人は宍戸の誕生日に何をすればよいかを考える。様々な案を跡部も
出すのだが、やはりそれは、お金にものを言わせているような感じがするのでダメだと、
滝はキッパリ却下する。
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ?」
「そうだなあ・・・」
滝も一生懸命考えてみる。すると、今、食べている天ぷら定食がふと目に入った。天ぷら
は確かによいものを食べれば、それなりな値段にはなるが、一般的にそれほど高価なイメ
ージはない。
「ねぇ、今までの御馳走ってさ、当然跡部んとこのコックが作って、内容もすごく高級な
ものばっかりって感じだったんだよね?」
「アーン?当然だろ?」
「今年の宍戸の誕生日の御馳走、全部跡部が作ってみたら?」
「は?」
「しかも、高級料理じゃなくて、昔宍戸が食べてたみたいな庶民的なものを。」
「そんなんじゃ全然御馳走になんねぇだろ。」
誕生日という特別な日にわざわざ庶民的な料理を出すなどありえないと、跡部は滝の言葉
に呆れる。しかし、滝は食い下がらなかった。
「分かってないなあ。ここは、跡部が作るってとこがポイントなんだよ。しかも、庶民的
なものでも、宍戸にとっては御馳走になるものはいっぱいあるんだから。」
「だけどよ・・・・」
「宍戸、絶対喜ぶと思うよ。気兼ねもすることないだろうし。何よりも跡部の手作り料理
なんて、そう滅多に食べれないでしょ?」
あまりにも滝の言うことがもっともなので、跡部は何も言い返せなくなる。まだ、納得の
いっていないところもあるが、やってみる価値はあるかもしれないと跡部はこの滝の案を
受け入れた。
「まあ、テメェにしちゃいい案なんじゃねぇの?」
「もっと素直に感謝してよ。御馳走の内容は、さりげなく宍戸に聞いた方がいいと思うよ。
跡部が調べると何か庶民の料理を誤解して作りそうだからさ。」
「アーン?そんなことねぇ。でも、宍戸の好きなものを作ってやりてぇしな。確かに内容
は宍戸に直接聞いた方がいいだろ。」
滝の言葉に少しカチンときながら、跡部は宍戸の誕生日にすることが決まったことを喜ぶ。
料理もそれほど苦手ではないので、何とかなるだろうと思い、跡部はそれを決行すること
を心の中で決めた。
その日の夜、寝る少し前にくつろいでいるとき、跡部は早速宍戸に昔食べた御馳走の内容
を聞いてみた。
「なあ、宍戸。」
「おう、何だよ?」
「そろそろテメェの誕生日だろ?テメェが子供の頃、誕生日の御馳走ってどんな感じだっ
た?」
「子供の頃の御馳走?うーん、最近跡部に食べさせてもらってるような御馳走とは、全然
格が違うけどよ、ハンバーグとか唐揚げとかコーンスープとか・・・あと、色がすっげー
カラフルな野菜サラダに、あっ、フルーツヨーグルトとかもあったぜ。」
「フルーツヨーグルト?イチゴとかブルーベリーとかのソースが入ってるヨーグルトのこ
とか?」
「違う違う。バナナとかリンゴとか缶詰のパインとかが、ヨーグルトとあえてあるんだ。
これ、結構好きでさぁ、毎年誕生日とかクリスマスとかに作ってもらえるのが楽しみだっ
たんだぜ!」
その時のことを思い出しているのか、宍戸は実に楽しそうな表情だ。滝の言っていること
はあながち間違ってはいないと、跡部は今言われたメニューを何度も頭の中で繰り返し、
脳内にしっかりインプットした。
「どれもさ、レストランとかで食べる奴とは違って、何かいかにも家で作りましたって味
でよ、かなり庶民的なんだけど、俺にとってはすげぇ御馳走だったな。」
「なるほどな。」
「で、いきなり何でそんなこと聞いてくるんだ?」
「いや、別に。少し興味があっただけだ。」
「ふーん。まあ、跡部は絶対食べたことのねぇ味だと思うぜ。てか、ちょっと今、心の中
でバカにしてんだろ。」
「そんなことはねぇ。食ったことのねぇ味だったら一度食ってみてぇもんだな。」
いつもの雑談と同じように話す跡部であったが、それはもう重要な情報であった。ただ問
題は食べたこともない料理の味をどう再現するかだ。自分の知識として持っているハンバ
ーグや唐揚げやコーンスープと全く違うのは、宍戸の話を聞いていればよく分かる。どう
しようか考えながら、跡部はゴロンとベッドに寝転がった。
「そろそろ寝ようぜ、宍戸。」
「もう寝るのか?ちょっと早くねぇ?」
「いいんだよ。ほら、早く布団に入れ。」
「お、おう。」
宍戸を布団の中に招くと、跡部は本当にそのまま瞳を閉じてしまう。何か様子がおかしい
なと思いつつも、宍戸は特にそのことについては深く追求しなかった。
一晩考えた結果、跡部はある結論に辿り着く。何もない状態でそれらを作ることは不可能
なら、それを作った本人にその作り方を聞けばよい。つまり、宍戸の母親に直接作り方を
聞いてしまえば、他のもので調べるよりも断然その時の味に近づくことが出来ると気づい
たのだ。そうと決まれば、早速跡部は行動を起こす。幸い宍戸とは違う曜日にオフ日があ
るので、その日に宍戸の実家を尋ねることにした。
「じゃ、いってくるな、跡部。」
「ああ。いってらっしゃい。」
宍戸を大学へ送り出すと、跡部は宍戸の実家に電話をかける。突然押しかけるのは、マナ
ー違反なので、しっかりアポをとっておこうと思ったのだ。
トゥルルル・・・トゥルルル・・・
何度かの呼び出し音が耳元で響いた後、電話を取る音が聞こえる。
『はい、宍戸です。』
電話に出たのは宍戸の母だった。
「もしもし、突然お電話してしまってすいません。跡部です。」
『あら、景吾くん?久しぶりねぇ。どうしたの?』
「実はちょっとお願いしたいことがありまして・・・・」
跡部は端的に、しかし、熱意を持って事の事情を説明した。その話を聞き、宍戸の母は実
に嬉しそうな声で答える。
『そういうことなら、喜んで協力するわ。』
「ありがとうございます。それで、このことは亮には内緒にしておいて欲しいんですけど。」
『もちろんよ。景吾くんがそんなことを考えてくれているなんて、本当に嬉しいわ。』
「いえ、俺はただ亮を喜ばせたいと思って・・・・」
『ふふ、ありがとう。これからも亮と仲良くしてやって頂戴ね。』
「はい。もちろんです。」
宍戸の母は喜んで協力してくれるということだったので、跡部はホッと胸を撫で下ろす。
もともと料理はそれほど苦手ではないので、教えてもらえれば何とかなるだろうと跡部は
早速宍戸の実家に行く準備を始めた。
宍戸の母に料理を教えてもらってから数日が経ち、ついに宍戸の誕生日がやってきた。こ
の日は大学があったので、帰ってから誕生日パーティーをする予定になっている。
「はあー、やっと授業終わったー!!」
「ああ。今日は早めに帰ろうぜ。」
「おう!何たって今日は俺の・・・」
誕生日だと言いかけた瞬間、ドアの方から聞き覚えのある声が聞こえる。ふとそちらの方
に目をやると、元氷帝テニス部レギュラーメンバーがそろっていた。
「おー、お前らみんなそろってどうしたんだよ?」
「どうしたって、今日は宍戸の誕生日だろー?みんなでプレゼント持ってきたんだぜ。」
「マジで!?そのためにわざわざ長太郎とか樺地とか日吉も来てくれたのか?」
「まあ、同じ大学ですからね。そんなに来るのは大変じゃないですから。」
「ウス。」
「一応、世話になってますし。」
岳人や忍足、滝やジローなどの同学年メンバーが来るのは分かるが、わざわざ後輩メンバ
ーまで来てくれるとは思っていなかったので、宍戸は感動する。ちょっと妬けるが、宍戸
が素直に嬉しそうにしているので、跡部は黙ってその光景を後ろから見ていた。
『ハッピー・バースデー宍戸!!』
『誕生日おめでとうございます、宍戸さん!』
一人一人からプレゼントを受け取り、宍戸は満面の笑みでお礼を言う。大学に入ってまで、
こんなにプレゼントがもらえるとは思っていなかったので、その喜びは半端なものではな
かった。
「それじゃ、後は跡部とのパーティー楽しんでね。」
「そーそー。俺達はプレゼントさえ、出来れば十分だからねー。なあ、樺地。」
「ウス。」
「跡部、さっきからずっと見てるだけでヤキモチやいてそうだから、俺らはとっとと消え
とくぜ。」
「せやな。跡部、今年はすごいプレゼントしてくれるて俺らの間で噂になってんで。」
「頑張ってくださいね、宍戸さん。」
「それじゃあ、俺らは帰ります。」
「えっ、おい!!・・・行っちまった。ったく、渡すだけ渡して他には何もなしかよ。」
余りにもあっという間にその場から去ってしまったメンバーに宍戸は唖然。しかし、跡部
はこれで二人きりになれたと、ホッとしたような笑みを浮かべていた。
「よーし、お邪魔虫もいなくなったことだし、帰るか、宍戸。」
「お邪魔虫って何だよ!せっかくプレゼント渡しに来てくれたのに!」
「冗談だ。行くぞ。」
ふっと笑いながら跡部は歩き出す。他のメンバーの妙な気遣いや跡部の態度を不思議に思
いながら、宍戸は跡部の後に黙ってついて行った。
マンションの部屋に戻ると跡部は鞄を自室に置き、タンスの奥にあるエプロンを出してく
る。そして、昨日のうちに買っておいた材料を広いキッチンに並べ、気合を入れてエプロ
ンを身につけた。
「跡部、今日の夕飯はどうす・・・って、うわあ!何だよ、その格好!?」
大学の鞄を部屋に置いてきて、キッチンにやってきた宍戸は跡部のその姿を見て、素直に
驚く。跡部がありえない格好をしていると、宍戸は少しの恐怖さえ覚えた。
「今日の夕飯、もとい誕生日の御馳走は俺様が作ってやろうと思ってな。」
「しょ、正気か?跡部がそんなことするなんて激ありえねぇんだけど。」
あまりにもらしくない跡部の言葉に宍戸は驚嘆する。そこまで意外かと、跡部は何だか腑
に落ちなかったが、もう今日は自分で御馳走を作ると決めたのだ。宍戸に何を言われよう
がやめるつもりはさらさらなかった。
「さてと、さっさと作っちまわねぇとパーティー始められねぇしな。宍戸、少しの間、待
ってろよ?」
自信あり気に笑いながら、跡部は宍戸にそう言い放つ。ちょっと心配になりながらも、宍
戸は黙って跡部が夕食を作るのを見守ることにした。
「これをやってる間にこいつを・・・」
あまりに真剣に料理をしている跡部に宍戸は思わず見惚れてしまう。じゅうじゅうとした
音と同時になつかしい香りが鼻をくすぐる。
(あっ、この匂い・・・)
もう十何年も前に食べた誕生日の御馳走を思い出す。しかし、まさか跡部がその時の御馳
走を再現しようとしているとは、全く思っていなかった。小一時間ほどすると、額の汗を
拭いつつ、出来上がった料理を跡部がテーブルへと運んできた。
「待たせて悪かったな。」
「いや、全然構わねぇよ。御馳走って何作ったんだ?」
「さあ、それは見てのお楽しみだぜ。」
いつもの通り、見たこともない御馳走が運ばれてくるのだろうと思っていた宍戸だったが、
テーブルの上に運ばれてくる料理を見て、言葉を失う。まず運ばれてきたのは、レタスの
上に盛り付けられた何の変哲もないからあげだった。そして、色鮮やかな野菜サラダに、
溶き卵が入ったコーンスープ。メインは手作り感溢れるデミグラスハンバーグだった。
「これ・・・」
「あっ、そういやデザートもあるんだぜ?もちろんケーキとは別にな。」
そんなことを言いつつ、跡部が持ってきたのは、たくさんのフルーツにヨーグルトがあえ
られたフルーツヨーグルトだった。
「今年の御馳走は、いつもに比べりゃちょっとちゃっちいかもしれねぇがな、テメェにと
っては、ちゃんとした御馳走だろ?ほら、冷めねぇうちに食べ始めようぜ。」
「お、おう。」
今までとは違う手作り感たっぷりの御馳走に宍戸は本気で感動する。子供のころに食べた
御馳走が今目の前にある。なつかしさと感動で、宍戸は胸がいっぱいになった。
「い、いただきます。」
「ああ、せっかく俺様が作ってやったんだ。たくさん食えよ?」
「ああ。」
ドキドキしながら、宍戸は跡部が作ってくれた料理を口に運ぶ。口の中に広がったのは、
子供の頃に食べたハンバーグやコーンスープと全く同じ味だった。
「マジかよ・・・」
「どうした?お気に召さなかったか?」
「いや・・・激嬉しい・・・」
なつかしさと嬉しさで言葉が出ない。しかも、この料理はすべて跡部が作ってくれたのだ。
その事実があまりにも衝撃的で、言葉にならない気持ちが目頭を熱くさせる。
「あー、ヤベェ・・・」
「ん?」
「嬉しすぎて、泣きそう・・・」
「ふん、別に泣いてもいいんだぜ?泣くほど嬉しがられたら、こっちも作った甲斐がある
ってもんだ。」
そう言われれば、涙腺も緩んでしまう。両目を手で覆い、宍戸は跡部に涙を見せまいとし
ながら、その雫を瞳から溢した。一度涙を流してしまうと、なかなかそれを止められない。
ぐしぐしと涙を拭いつつ、宍戸は跡部の作ってくれた御馳走を再び口に運び始める。
「本当、激うめぇ。」
「そうだろ。俺様がテメェのために心を込めて作ったんだからな。」
「マジで子供のときに食った味と同じだぜ。跡部、こんな庶民的なもの食べたことねぇだ
ろ?どうしてこんなに同じように作れんだ?」
「そんなの、テメェに対する愛に決まってんだろ?」
冗談めかしてそんなことを言うと、宍戸は笑みを溢す。泣き顔や笑い顔、コロコロ変わる
宍戸の表情に、跡部は御馳走を作ってやったのは正解だったと心底思った。ここまで素直
に喜んでもらえるとは予想していなかったので、このときばかりは滝に感謝をした。
「どんなことをして、この料理が作れたのかは知らねぇけど、マジで嬉しいぜ、跡部。最
高の誕生日プレゼントだ。」
「おいおい、誰がこれが誕生日プレゼントって言ったよ?プレゼントはプレゼントで別に
用意してあるぜ。」
「えっ?」
こんなに素敵な御馳走を、あんなに一生懸命に作っているところを見れば、これがプレゼ
ントだと思ってもおかしくない。しかし、跡部は違うと言う。その言葉が、宍戸をまた驚
かせた。
「こいつが食べおわったら渡してやる。嬉しいのは分かったから、どんどん食っちまえ。
ケーキもデザートもあるんだからよ。」
「おう!」
ニコッと笑って宍戸は返事をする。愛情いっぱいの跡部の手料理を思う存分味わうと、宍
戸はお腹も心もこれ以上なくいっぱいになった。
簡単に夕食で使った食器を片付けると、二人はざっとシャワーを浴びてしまい、リビング
のソファに座る。ワインをグラスに入れ、軽くそれを飲みながら、跡部は用意していたプ
レゼントを宍戸の前に差し出した。
「ほらよ、これが誕生日プレゼントだ。」
「おう。サンキュー。中、何が入ってんだ?」
「見ていいぜ。」
リボンでとめられた袋を開けてみると、中に入っていたのは見たことはあるが、一瞬何だ
か分からない器具だった。
「何だこれ?」
「ピアッサーだ。ピアスの穴を開ける器具だぜ。」
「ふーん。つーことは、俺にピアス開けろってことか?」
「まあな。でも、テメェだけ開けるのは不公平だろ?その袋ん中、いくつピアッサー入っ
てる?」
「えっと・・・1、2、3・・・4つか?」
「ああ。二つはテメェ用、後の二つは俺様用だ。」
どうやら今年の誕生日を機会に、二人そろってピアスを開けてみようという計画らしい。
「そのうちの青い方は、俺もお前も今日開ける。で、赤い方は俺の誕生日に開けるってこ
とにしたいんだが、いいか?」
「別に構わねぇぜ。てことは、右耳と左耳で色違いってことになんのか?」
「そうだな。青い方が9月の、赤い方が10月の誕生石だ。」
「なるほどな。いいぜ、開けてやろうじゃねぇの。」
「今日のは、俺が開けてやる。いいだろ?」
「おう!じゃあ、お願いするぜ。」
ピアスを開けることにそれほど抵抗がないらしく、宍戸は嬉々としてその提案を受け入れ
る。嫌がられるのではないかとも考えていた跡部は、そんな様子の宍戸を見て安心した。
「青いのは左耳にしとこうぜ。」
「俺はどっちでも構わないぜ。跡部の好きな方で。」
「でも、今日はテメェの誕生日だぜ?テメェの意見はちゃんと尊重しないと。」
「それは、後でそういうことするときにしてもらうからいい。でも、そんなに俺の意見が
聞きてぇんなら、左耳で。」
跡部の意見に賛同する形で宍戸は自分の意見を言う。それならと、跡部は宍戸の左耳を消
毒液で軽く消毒し、青い石のついたピアッサーを出し、宍戸の耳たぶにあてた。
「うわー、何かドキドキするな。」
「少し痛いかもしれねぇが、テメェが痛がるほどの痛さじゃねぇと思うぜ。」
「平気、平気。開けるんだったら、思いっきりいっちゃおうぜ。」
本当にお気楽だなあと思いつつ、跡部はピアッサーを握り締める。その瞬間、バツンっと
大きな音がし、宍戸の耳たぶにピアスが通った。
「思ったよりすげぇ音で、ちょっとビビッた。」
「大丈夫か?」
「全然余裕だぜ。音にビビッて痛いとかほとんど感じなかったからな。」
「そうか。ならよかった。」
それほど痛みを感じなかったという言葉を聞いて跡部はホッとする。宍戸が耳たぶに本当
にピアスが通ってることに対して、すごいすごいとはしゃいでいる間に、跡部は自分の左
耳を消毒し、ピアッサーをあて、何の躊躇もなしにそれを握り締めた。
バツンっ!
「・・・確かにすげぇ音だな。」
「あー、何だよ!!何で自分で開けちまうんだ!俺がやりたかったのにー。」
跡部のは自分が開けたかったと、宍戸は不満そうに文句を言う。しかし、跡部は悪びれた
様子もなく、宍戸の頭を撫でながら、なだめるように言葉をかけた。
「俺のは、俺の誕生日にしてもらうからいい。今日は、あくまでもテメェの誕生日なんだ
からな。」
「むー。」
「そんなに拗ねんなって。これから可愛がってやるからよ。」
頬に軽くキスをしながら、跡部は甘いトーンで囁く。恥ずかしいと思いつつもそれが嬉し
くてたまらない。甘えるように腕を首に回し、宍戸はまだ少し怒ったような口調で、跡部
にあることを命令した。
「だったら、俺を抱いて、ベッドまで連れてけ!!今日は俺の誕生日なんだから、俺の言
うことはちゃんと聞いてもらうからな!」
子供っぽい宍戸に跡部は思わず笑ってしまう。本当に飽きさせないと思いつつ、跡部はそ
の言葉に頷いた。
「仰せの通りに。」
そのままひょいっと宍戸の体を姫抱きすると、跡部はベッドルームへと移動する。跡部に
抱かれている間、宍戸は恥ずかしがりつつもどこか嬉しげな表情で、ぎゅうっと首に抱き
ついていた。
to be continued