宍戸の誕生日から数日が経ち、今日は10月3日。そう跡部の誕生日の前日だ。宍戸はい
まだに跡部にあげる誕生日プレゼントが決まらず、岳人や忍足に相談していた。
「あー、もう明日なのにー。マジ思いつかねぇ!!」
「少し落ち着けよ、宍戸。そんなに焦ってたら思いつくもんも、思いつかねぇぜ。」
「せや。それに、誕生日プレゼントになるもん言ったら、いくらでもあるやろ。」
焦りまくっている宍戸をなだめるように、岳人と忍足は言葉をかける。しかし、宍戸はど
うしようどうしようと頭を抱えるばかりだ。
「だってよ、跡部だぜ?俺の頭で思い浮かぶもんなんて、すげぇくだらねぇもんばっかだ
し。」
「例えば?」
「時計とか思ったけど、跡部山ほど持ってるし。アクセサリー系もイマイチいいの思い浮
かばないし。雑貨系は、跡部が好みのは高すぎて買えねぇ。」
「なるほどな。まあ、宍戸のあげるもんやったら、どんなもんでも跡部は喜ぶと思うんや
けどな・・・」
「でも、やっぱ、もらってそれ自体も嬉しいって方がいいじゃん。マジ、どうしよ〜。」
本気で悩んでいる宍戸に、岳人も忍足も困惑してしまう。今、言ったものを除外すると確
かに考えるのは難しい。何がよいのかと、頭の中で考えていると、岳人は宍戸に関して、
あることに気がついた。
「あれ?」
「どないしたん?」
「どうした?いいプレゼントでも思い浮かんだか!?」
「いや、そういうわけじゃねぇんだけど・・・。宍戸ってさ、ピアス開けてたっけ?」
宍戸の左耳に青い石が光っているのに気づき、岳人は尋ねる。そう言われて、忍足もその
ことに気がついた。
「ホンマや。いつ開けたん?」
「あー、これ?俺の誕生日に跡部がくれたんだ。つーか、開けたって言えばいいのか?跡
部も同じとこに同じのしてるぜ。」
「片耳だけ?右耳してないじゃん。」
「いや、右耳は明日開ける。俺の誕生日に片方だけ開けて、跡部の誕生日にもう片方開け
るって話になってんだよ。」
「へぇー。何か跡部らしいー。」
「誕生日に二人でピアス開けるってのも、なかなかええな。」
跡部の粋な計らいに岳人と忍足は感心。ちょっとうらやましいなあなんて思っていると、
ふと忍足の頭になかなかよいアイディアが浮かんだ。
「あっ!」
「ど、どうした?侑士。」
「宍戸、誕生日プレゼントでいいの思い浮かんだで。」
ニヤッと笑って、忍足は言う。
「本当か!?」
「せっかく二人で、ピアス開けるんやったら、ピアスでええんちゃう?値段もそんなに高
くないし、ことによっては跡部も喜ぶで。」
「跡部も喜ぶ?何でだ?」
ここはラブロマンス映画鑑賞が趣味な忍足。そういうアイディアに関しては、他の人がそ
う簡単には思い浮かばないようなことを提案する。
「ピアスの穴が完全に開くまでは、一ヵ月くらいかかるけど、それまでのお楽しみってこ
とでな、二種類のピアスを買うねん。」
「おう。」
「で、その二種類のピアスの片方だけを跡部にあげるんや。」
「片方だけ?それじゃ、両耳に開けてる意味ねぇじゃん。」
「二種類だから、ちゃんと二つになるやろ?それで、それぞれの片割れを宍戸がつける。
二人でいて、ちゃんとした組み合わせのピアスになるってことや。」
『おー。』
忍足の出した提案に聞いていた二人は感心する。さすが忍足だなあと思いつつ、それは使
えるかもしれないと、宍戸の表情が明るくなる。
「それ、いいかもしれねぇな。使えるぜ!」
「さっすが、侑士。俺には絶対思いつかないネタだぜ。」
「せやろ?跡部への誕生日プレゼント、これでええんちゃう?」
「そうだな。よーし、そうと決まったら早速買いに行かねぇと!テメェらもちょっと付き
合ってくれねぇか?」
決まったならすぐに行動だ。宍戸は、ガタンと椅子から立ち上がり、買い物へ行こうと他
の二人も誘う。
「おもしろそうだし、付き合ってやるぜ。」
「どうせこの後、暇やしな。」
跡部のためにあまりに一生懸命な宍戸に、少しは協力してやりたいと、岳人と忍足は宍戸
の誘いに応じる。テキパキと荷物を片付けると、足取りの軽い宍戸の後を追うように、歩
き始めた。
ピアスを買うにも数時間悩み、買い終わった頃には、既に日が傾いていた。川べりを歩き
ながら、岳人と忍足はヘトヘトになっていた。
「宍戸、時間かかりすぎー!!」
「わ、悪ぃ。跡部に似合うのどれだろうとか、どういうのが好きだろうとか考えてたら、
時間忘れちまって・・・」
「でも、まあ、気に入ったのが買えてよかったんちゃう?そんだけ、心を込めて選んだん
やから、ちゃんと跡部も喜んでくれるはずやで。」
忍足ももちろん待ち疲れはしているのだが、ここまで一生懸命な宍戸にキツイ言葉はかけ
られない。むしろ、なんて素敵なラブロマンスなんだと、逆に楽しくなり始めている。
「全く、本当宍戸は跡部にメロメロだよな!あんな俺様な奴のどこがいいのか俺にはさっ
ぱり分かんないけどー。」
「うっ・・・だって・・・」
「確かに彼氏としては微妙やな。」
「忍足まで〜。」
『ぶっ・・あははは!!』
ちょっとからかってやっただけなのに、真っ赤になって困惑している宍戸を見て、二人は
大爆笑。こんなことで、そこまで笑われるとは思っていなかったので、宍戸はさらに恥ず
かしくなる。
「な、何でそんなに笑うんだよ!!しょうがねぇだろ、好きなもんは好きなんだからよ!」
「あはは、分かっとるってそんなことは。」
「そうそう。それに、跡部だって、宍戸に超メロキュンなんだぜ!」
「へっ?」
突然、跡部が自分に対してどうなのかを言われ、宍戸は立ち止まってしまう。
「跡部ってばさぁ、会うたび会うたび、宍戸のことばっか話すんだぜ。何してるのが可愛
いだの、自分はそんな宍戸から目が離せないだの、もう聞いてるこっちが恥ずかしくなっ
ちまうぜ。」
「そ、そんなこと言ってんのか?跡部の奴。」
「俺も岳人といることが多いからよく聞くけど、かなりあれは重症やで。」
「何だよ、重症って・・・?」
『宍戸大好き症候群。』
声をそろえて二人が言うので、宍戸の顔はかあっと熱くなる。何だそれはと思いつつ、微
妙に心当たりがあるあたり反論も出来ない。
「ま、宍戸も十分跡部に愛されとるってことやな。」
「そーそー。」
「・・・・そんなの俺が一番よく分かってんだよ。」
『えっ!?』
「い、いや、別に何でもねぇぜ!ほら、さっさと帰るぞ。俺の長い買い物に付き合って、
テメェらも疲れてんだろ?」
思わず口走ってしまった言葉を誤魔化すかのように、宍戸はペラペラと関係ない話をする。
しかし、岳人と忍足には、ボソッと呟いたその言葉がしっかりと耳に入っていた。
「てかさ、宍戸もかなり重症だよね、侑士。」
「せやな。」
『跡部大好き症候群!』
内緒話をするかのように二人はこそこそと話し、声を殺して笑う。夕日が沈んでゆく川べ
りを歩きながら、岳人と忍足は前を歩く宍戸をニヤニヤしながら眺めていた。
「じゃあ、俺たちコッチだから。」
「じゃあな、宍戸。跡部の誕生日、ちゃんと祝ってやるんやで。」
「分かってるよ!!じゃあな!」
さっきのことを引きずり、宍戸はちょっと怒ったような口調で返事をする。恥ずかしさが
治まらぬまま、二人と別れてから、宍戸はしばらく川べりを歩き続けた。もうすっかり日
は沈み、あたりは夕闇に包まれている。しばらく歩いていくと、宍戸の目にえも言われぬ
光景が映る。
「うわあ・・・」
宍戸の目に映ったのは、土手に広がるすすきの群生だった。夕闇に浮かぶ白いすすきは、
その美しさで宍戸の心を魅了する。
「すげぇ綺麗・・・」
こんなところがあったのかと、感動しつつ、ふとある思いが宍戸の頭をよぎる。
(跡部にも見せてやりてぇ。)
こんな素晴らしい光景を自分一人で楽しむにはもったいないと、宍戸は跡部のいるマンシ
ョンに向かって駆け出した。
家に帰り、宍戸は跡部に土手で見たすすきのことを話す。思った以上に跡部はそのすすき
に関して興味を持ち、見に行きたいと言い出した。
「へぇ、そりゃすげぇな。見に行ってみたいもんだ。」
「だろー?もしよかったらさ、今日の夜中一緒に行ってみねぇ?」
「夜中?何でだ?」
「そんなすげぇすすき見ながら、テメェの誕生日を迎えるのもいいんじゃねぇかなあと思
って。嫌なら別にいいんだけどよ。」
「なるほどな。そりゃいい。見に行こうぜ。日付が変わる少し前に。」
なかなかいい提案だと、跡部は宍戸の誘いを素直に受ける。すすきを見ながら、誕生日を
迎えるというのもなかなか風流だ。跡部が誘いに応じてくれたのが嬉しくて、宍戸の顔は
花が咲いたようにパッと明るくなる。
「じゃあ、それまでに、夕飯とか風呂とか済ませちまおうぜ!」
「そうだな。」
ニコニコとしながら、宍戸は動き出す。落ち着かない奴だなあと思いつつも、跡部はそん
な宍戸が可愛くて仕方がない。夕食を用意したり、お風呂を沸かしたりを分担しながら行
い、その時間が来るのを楽しみに待った。
夕飯もお風呂も済ませ、二人はその時間が来るまでくつろぐ。時計が午後11時を回った
頃、二人は出かける準備をし始めた。準備が終わると、二人はしっかりと戸締りをして、
外へ出る。
「わー、何かすげぇ楽しみだぜ!」
「テメェは一回見てんだろ?」
「そうだけどよ、一人で見るのと二人で見るのじゃまた違うじゃん。」
子供のようにはしゃいでいる宍戸を見て、跡部はふっと笑みをこぼす。これは二重の意味
で期待が出来ると、どうしようもないわくわく感が跡部の胸の中に生まれた。
「それじゃ、行こうぜ!跡部。」
「ああ。」
マンションを出たあたりで、宍戸は周りに人がいないかを気にしながら、控えめに跡部の
手を握った。少し冷たいくらいの風が吹きぬけている外では、その体温はとても心地がよ
いものであった。
「誰もいないから、いいよな?」
「別に誰かいたって、俺様は構わねぇけどな。」
「俺が恥ずかしいんだよ!」
「自分から握ってきといて何言ってんだ?」
「ウ、ウルセー!!とにかくあっち着くまでは、繋いでるからな!」
照れながらもそういうことをしてくる宍戸の手を、跡部はぎゅっと握り返してやる。無言
の同意に宍戸の顔は自然と緩む。しばらく何も言わずに歩いていくと、宍戸が口を開いた。
「なあ、跡部。」
「何だ?」
「今夜はさ、跡部の好きなふうにしていいからな。」
「は?何のことだ?」
「・・・・分かれよ、アホ。」
暗くてよく分からないが、おそらく宍戸の顔はかなり赤くなっている。そのことに気づき、
跡部は宍戸が何を言いたいのかに気がついた。
「あー、そういうことか。そんなの言われなくともそうするつもりだ。」
ニヤニヤと笑いながら跡部は言う。そんな跡部の言葉にドキンとするが、宍戸は必死でそ
れを隠そうとしていた。
「ま、まあ、明日は跡部の誕生日だからな。誕生日くらいは、全部跡部の言うこと嫌がら
ずに聞いてやるよ。」
「そりゃ嬉しいな。期待してるぜ。」
「お、おう。」
何ともないふりをしているが、宍戸の心臓は今の時点で、もう壊れそうなほどドキドキし
ていた。繋いだ手が熱くなる。早く目的の場所に到着したいと、宍戸は歩く速さを速めた。
河原の近くまでくると、少し先に白い固まりが見えてくる。暗闇に浮かぶそれは、まるで
その部分だけ雪が積もっているかのようにも見えた。さらに近づいていくと、さわさわと
風で揺れる音が聞こえる。
「着いたぜ。跡部。」
「確かにこれはすげぇな。」
思った以上のすすきの美しさに跡部も感動する。ゆっくりと手を離し、宍戸はもっとすす
きの方へ近づこうと歩いてゆく。離れていく宍戸を逃がすまいと、跡部は離された手を再
び掴んだ。
「何だよ?」
「一人で勝手に行くんじゃねぇ。俺も一緒に行くぜ。」
「そうだな。じゃあ、行くか。」
外から見るのもよいが、もっと近くですすきを感じたいと二人はすすきの群生の中へ入っ
てゆく。立っていれば、まだ自分達の方が背丈があるが、座ってしまうと完全にすすきに
埋もれる形となる。自分より背丈のあるすすきを眺めると、また違う美しさがあった。
「すげぇ。真っ暗なのに真っ白。」
「意味分かんねーよ。でも、確かにいい光景ではあるな。」
しばらくそんな景色を眺めていると、突然宍戸の携帯が鳴る。
「おっ、そろそろ時間だ。」
「アーン?何の時間だって。」
「あと一分で、跡部の誕生日だぜ。」
ニッと笑って携帯電話に表示された時計を見せる。一分前にアラームがなるように、設定
しておいたのだ。十秒前になると、宍戸は自らの口でカウントダウンを始めた。
「10、9、8、7・・・・」
跡部の顔を見ながら、数を数える。三秒というところで、宍戸は跡部の首に腕を回す。
「・・・2、1・・・」
ゼロと言う代わりに宍戸は跡部の唇に自分の唇を押し付ける。誕生日になった瞬間、キス
をしてくるとは、自分の喜ぶことをよく分かっていると跡部は顔を緩ませる。
「誕生日おめでとう、跡部!!」
唇を離すと宍戸は満面の笑みで祝福の言葉を跡部にかける。そして、ぎゅうっと跡部に抱
きついた。
「サンキューな宍戸。嬉しいぜ。」
「へへへ、俺も嬉しいー。」
「何でだよ?俺様の誕生日だぜ。」
「だからだよ。今日は跡部の生まれた日なんだぜ!こんな嬉しい日って他にねぇよ。」
自分の生まれた日だから嬉しいという宍戸の言葉に、跡部はぬくもりの伴う嬉しさを覚え
る。そんな感情から、跡部は無意識に宍戸の体を抱き締めていた。
「わっ・・・あ、跡部?」
「テメェは、どうしてそう俺を喜ばす言葉をくれるんだ?」
「どうしてって言われても・・・思ってること口に出してるだけだぜ?」
「ふっ、本当、テメェには敵わねぇよ。」
この嬉しさをどう表したらよいのか分からず、跡部は心を込めて宍戸に優しいキスをした。
いつもとは違う温かいキスに、宍戸の心はとろけてゆく。何度も触れる唇の感触を味わい
ながら、宍戸はうっとりと目を閉じる。
「宍戸・・・」
「ん・・・はぁ、何?」
「今、ここでしてぇ。」
「えっ・・・?」
「このすすきの中で、テメェを抱きてぇ。」
率直な跡部の言葉に、宍戸の心臓は大きな音を立てて胸を打つ。しかし、こうなることを
全く予想してないわけでもなかった。
「誕生日プレゼントもまだ渡してねぇんだけど・・・」
「そんなもんは、あとででもいい。俺の誕生日はまだ始まったばかりだぜ。」
「でも・・・やっぱ、ここじゃ恥ずかしいし・・・・」
「誰も気づきゃしねぇよ。」
「う・・・ど、どうしてもしてぇか・・・?」
うつむきつつ上目遣いで宍戸は尋ねる。もし、本当にしたいと言うのであれば、跡部の求
めることをしようと思っていた。
「ああ。今すぐテメェを抱きてぇ。今日は俺の誕生日なんだぜ?いいだろ、宍戸。」
迷うことなく跡部は答えた。それならば、もうするしかない。宍戸は、覚悟を決めて顔を
上げた。そして、色香たっぷりの笑みを浮かべながら、合意を表すキスをする。
「いいぜ、跡部。俺もテメェに抱かれたい。」
「なら、遠慮なくさせてもらうぜ。楽しませてくれよ?」
「おう。テメェが満足するまで付き合ってやるよ。」
乗り気になった宍戸の魅力は言葉では言い表すことが出来ない。そんな宍戸を前にして、
跡部の理性はぶっつり切れた。白いすすきに囲まれた自然のベッドに、跡部は宍戸を自分
の下に組み敷いた。
to be continued