『キス、キス、キス!』〜前編〜

「うっし。準備終わり。えっと、もう二時か。そろそろ行くかね。」
今日は大晦日。いつもなら特に何にもしないで過ごすんだけど、今年は特別。跡部んちに
行くことになってるんだよな。
「亮、今日も跡部くんの家に泊まるの?」
「ああ、そうだけど。」
「いつもいつもいいのかしら?迷惑かけちゃダメよ!」
「分かってるって。」
母さん無駄に心配しすぎなんだよ。泊まって欲しいって言ってんのはいつも跡部の方だし。
今日はちゃんと土産を持って行くんだから、別に大丈夫だろ。
「じゃあ、もう行くから。」
「いってらっしゃい。あっ、ちゃんとおソバの材料持った?」
「持った持った。じゃ、いってきます。」
今年も今日で終わりかー。早いもんだね。そういや俺、いつから跡部のこと好きになった
んだっけ?前はあんなに嫌いだったのになあ。まっいいか。

ピンポーン
ずいぶんと大荷物だな、宍戸の奴。あの袋何が入ってるんだ?
「上がれよ宍戸。」
「ああ。この荷物お前の部屋に持ってけばいいよな?」
「いいぜ。重そうじゃねーか。一つ持ってやるよ。」
「あっ、サンキュー。」
ちょっと早く来すぎたかなー。今から何するかって感じだし。夜までにはかなり時間ある
しなあ。
「そうだ、宍戸。」
「何だよ。」
「冬休みなる前に図書室で本借りたんだけど、一緒に読まねぇ?」
「本かよ。めんどうくせー。」
「結構おもしろそうな本だぜ。まあ、部屋にあるからちょっと見てみろよ。」
本ねー。どうせ小説かなんかだろうな。読むの面倒くさい。それに普通本って一人で読む
ものだよなー。
「ほら、この本だよ。」
「おい、投げんなよ。どんな本だ?」
うわっ、何だこの表紙。『キス、キス、キス!』?なんつー題だよ。でも、跡部こういう
の借りそうだな。つーか、何でこんな本が学校の図書室にあんだよ。
「おもしろそうだろ?」
「確かに。普通の本に比べたらおもしろそうじゃん。」
「じゃあ、早速読もうぜ。」
「跡部もまだ読んでないのか?」
「ああ。お前と一緒に読もうと思ってたから。」
「ふーん。」
借りてはみたけど、一人で読む気にはなれなかったんだよなあ。どんなことが書いてある
んだろうな?ふふ、楽しみ。
「何にやけてんだよ跡部。」
「別ににやけてなんかねぇよ。」
「で、どこで読むんだ?」
「机に決まってんだろ?何だ、それともベッドで読みたいとか?それはそれで俺は大歓迎
だぜ。」
「ちっげーよ!!」
ったく。何考えてるんだ跡部の奴。この本結構長そうだな。この机で読むのかよ。ちょっ
と狭いな。これじゃあ、かなり体が密着しちまうじゃねぇか。
「じゃあ、読み始めるか。」
「ああ。」
ふーん、プロローグの部分からかなりキワドイこと書いてあるもんだな。おっ、この部分
おもしろいこと書いてあるじゃねーか。
「なあ、お前虫歯ないだろ?」
「はあ?いきなり何だよ。今んとこはないけど。」
「ここの部分読んでみろよ。」
『1日1回のキスは歯医者いらずである。』
「お前さ、普段からミントガム噛んでるし、俺と1日に何回かはキスするもんな。絶対虫
歯になんてならねーじゃん。」
「うっ、で、でも、虫歯がないのっていいことだと思うぜ。」
「ふっ、そうだな。ページめくんぞ。いいか?」
「うん。」
そっか、キスしてんと虫歯にならないのか・・・。って、何感心してんだよ俺!!でも、
それはそれでおいしいことだよな。もう、第2章か1章が意外と短けーんだな。『欲望の
歴史』かあ。何かいかにもって感じのタイトル・・・。
「ずいぶんじっくり読んでんだな跡部。」
「ちょっとこのあたりに書いていること試してみていいか?」
「どれどれ?」
「ここだよ。ほら。」
な、何だよコレ〜。これを全部試すってのか!?普通、読みながら試したいとは思わねぇ
ぞー。
「まずは『直のキス』。」
チュッ
これはいたって普通だな。いつもやってる軽い感じのだ。次が何だっけ?
「次は『曲のキス』だな。」
これもいつもしてんのと大して変わんねーじゃん。ちょっと、顔を傾けただけって感じ。
でも、やっぱハズイな。
「次のは立たなきゃできねぇな。つーかこれが何で『回転のキス』なんだ?」
「知らねーよ。俺は座りっぱでいいんだよな?」
「そうだな。えっと、一方がもう一方の顔や顎をもち、上を向かせてキスをする。か。」
「・・・・。」
何か恥ずかしいー。てゆーか、これは少し人工呼吸って感じだな。でも、この文章だった
らここまでしなくても、ちょっと顔を上げて真正面からするっていうようにもとれるよな。
「・・・ふはぁ、跡部もうこれはこのくらいで終わりに。」
「何言ってんだよ。これからのがやったことないヤツで試さなきゃいけねぇヤツじゃねー
か。『圧迫のキス』に『強く圧迫するキス』、『上唇接吻』に『はさみつけるキス』」
「それ全部やるのかよ〜。そんなにいっぱいしたら唇腫れる。」
「そんなになるまでするわけねーだろ、バーカ。断ってやるだけいいと思え。」
「ヤダって言ってもするくせに。断る意味ねぇじゃん。」
「文句ばっかうるせーな。まずは『圧迫のキス』からだ。」
「・・ぅ・・・んっ・・」
うわあっ、コレ本当に圧迫されてる。下唇がメチャクチャ強く押しつけられてるって感じ
だぜ。何で跡部は文章を読んでこう実践できんだよ!?
「おっまえ、押しつけ過ぎ!痛ぇよ。」
「だって、『圧迫のキス』だぜ?これくらいが普通だろ。」
「次、痛くしたらもう意地でもやらせねぇからな!!」
「はいはい。次は『強く圧迫するキス』だ。何かこれ面倒くせぇな。」
何々?下唇を2本の指ではさみ、舌でそっと触れたあとで、上下の唇を強く強く押しつけ
ると。こうか?
「・・・ふっ・・・・」
何で唇を指ではさむんだよ!?そんな微妙に舐められたら・・・って、いきなり強く押し
つけるなーー!!
「・・・んっ・・・ぅんっ!!」
こいつ、本気で反抗してやがんな。でもマジで苦しそうだし離してやるか。
「・・ぅあ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
「お前今本気で嫌がってただろ。」
「だって、苦しかったんだよ。もっとマシなのねぇのか。マシなの。」
「次のは大丈夫だと思うぜ。」
今度は随分と軽くなったな。うん、こっちのがしてて楽だな。
「ほら、宍戸。お返しに俺にもすんだよ。」
「えっ・・・」
「書いてあるだろ。男が女の上唇にキスをし、女はそのお返しに男の上唇にキスをするっ
てな。」
「今度は上唇かよ・・・。って、俺は女じゃねぇ!!」
「どっちでもいいじゃねぇか。早くしろ。」
跡部の自己中野郎〜。もうどうでもいいや。キスくらいしてやんよ。
「これでいいだろ・・・。」
「顔真っ赤だぜ宍戸。可愛い奴だな。」
「うるせー!これでもう終わりだろ?」
「あと1個残ってる。最後は『はさみつけるキス』だ。」
「じゃあ、さっさとやれよ。」
うっ、何かコレが一番くるかも。いかにも食われてるって気分だな。でも、舌入れられな
いだけいいか。
「よし、試し終了。続き読もうぜ宍戸。」
「はいはい。」
こんなことしながらじゃ全然読むの進まねぇじゃねーか。いつまでかかるんだよ。

「はあー、やっと読み終わった。今何時だよ?」
「6時だな。意外と時間かかっちまったな。」
「お前がアレを試そう、コレを試したいっていろいろやってんからだろうが。」
「でも、いろいろ勉強になったじゃねーか。」
確かに知らなくてもいいよなこととかもいっぱい書いてあったけどさあ。こんなにキスに
ついて知ってどうすんだよ?
コンコンッ
「どうした?」
「本日の夕食はいかがいたしましょうか?」
あっ、そうだ!俺、年越しそばの材料持ってきてたんだっけ。作り方はバッチリ覚えてる
し、味もたぶん大丈夫だよな。
「あの・・・夕食俺が作ります。そばの材料持ってきたんで。」
「宍戸様はお客様ですので・・・」
「いえ、全然気にしないでください。それに年越しそば食べたことがないってこの前跡部
が言ってたんで。」
「宍戸がいいって言ってんだからいいんじゃねぇか?」
「坊ちゃまがそのようにおっしゃるのであれば、かしこまりました。」
「よし、決まり!キッチン行くぞ宍戸。」
「ああ。」
宍戸って料理できんのか?にしてもうれしそうな顔してんな。まあ、お手並み拝見ってと
こだな。
「鍋はここ。まな板はこっち。食器はここに入ってる。」
「分かった。跡部は向こうで待ってろよ。うまいそば作ってやるからな。」
「ああ。楽しみにしてる。」
見てろよ跡部、絶対お前にうまいって言わせてやるからな。
「よし、できた!人数は俺と跡部だからどんぶりは2つか。」
「見た目はなかなかじゃねーの。うまいのか?宍戸。」
「たぶん・・・それなりには。」
へぇ、なかなかやるじゃねーか。どれどれ・・・わっ、コレすげぇうまいじゃねーか。
「確かにコレうまいぜ。やるじゃねーか宍戸。」
うっわあ、跡部に褒められたー。俺ってもしかして料理の才能アリ?
「宍戸、おかわりあるか?」
「あるぜ。食えるんならどんどん食べろよな。」
すっげー、大好評だよ年越しそば!!うれしいなあ。作った甲斐があるぜ。

「宍戸、このあとどうする?」
「俺、紅白見たい。お前の部屋テレビあるだろ。見ようぜ。」
「紅白?俺そんなの見たことないぜ。」
「いいじゃん。見ようぜ。」
紅白か・・・。おもしろいのか?まあ、宍戸がどうしても見たいっつーんなら、見てやっ
てもいいよな。
「お前がそこまで見たいっつーんなら見てやるよ。他に見たいもんがあるわけでもねーし。」
「サンキュー!じゃ、早くお前の部屋行こうぜ。」
ホント可愛いな。たかが見たいテレビ見せてやるだけでこんなに喜ぶなんて。今日はきっ
と寝ねぇんだろうな。
「やっぱ紅白見ねぇと大晦日って感じしねぇよな。」
「俺は別にそうは思わねぇけど。」
「お前、ホンットに人と逸脱しまくってんな。」
「どうでもいいじゃねーかそんなこと。ほら、早くテレビつけねーと始まっちまうぜ。」
「そうだな。」
紅白見たことがないなんて本当に変わった奴だよな跡部って。でも、ここで一緒に見るか
ら、まあいいか。

                      to be continued

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