誰もいなくなった部活後の部室。そんな部室で、跡部は部誌を書き、宍戸はパソコンでネ
ットサーフィンをしていた。特に一緒に帰る約束などはしていない。ただ何となく宍戸は
跡部と一緒にいたいなあと思い、もういつでも帰れる状態であるにも関わらず残っていた。
「跡部、今日樺地は?」
パソコンを見たままの状態で宍戸は尋ねる。そんな宍戸の問いに、跡部も部誌を書きなが
ら答えた。
「遅くなりそうだから、先に帰らせた。ここんとこ忙しかったから、書くことが結構たま
ってたんだよな。」
「ふーん。」
「テメェはまだ帰らねぇのかよ?」
「んー、もう少し。ちょっと調べたいことがあってよ。」
そんなことを宍戸は口にするが、別に調べたいことなど何もなかった。ただもう少し、こ
のまま跡部と話していたいと時間を稼ごうとした。チラッと跡部の方を見ると、真剣な顔
つきで、カリカリとペンを走らせている。
(やっぱ、綺麗な顔してんよなあ、跡部。跡部が真剣に何かしてる顔って、好きだなあ。)
口に出さなければ何を思っていても大丈夫であろうと、宍戸は跡部を見つめながら、そん
なことを思う。あまり見ていると怪しまれると思い、宍戸はふとパソコンの画面に視線を
移した。しばらくカチャカチャとキーボードを打ち、適当なことを調べていた宍戸だった
が、特にすることもないわけで、何だか飽きてきてしまう。
(そろそろ飽きてきちまったなあ。跡部はまだ終わってないのか?)
そんなことを考えながら、ふと跡部の方を振り向くと、自分の顔のすぐ目の前に跡部の顔
がある。思ってもみない状況に、宍戸は思わず大きな声を上げてしまった。
「うわあっ!!」
「そんなに驚くことねぇだろ。部誌が書き終わって、暇になっちまったから、テメェが何
調べてんのか見に来てやっただけじゃねぇか。」
「い、いきなり人の後ろに立ってんじゃねぇよ!!ビックリするだろーが!!」
まさか跡部がこんなに自分の近くにいるとは思っていなかったので、宍戸の心臓はバクバ
クと高鳴っていた。宍戸がパソコンで何を調べてるかが気になった跡部は、その顔を画面
を覗き込むようにパソコンにずいっと近づける。そうすることで、跡部と宍戸の顔はさら
に近くなった。
(うわ・・・跡部の顔、近っ!!)
あまりに近くにある跡部の顔にドキドキしながら、宍戸は跡部の顔から目が離せなくなる。
じっと跡部の顔を見ていると、宍戸は自分でも信じられないほど自然に、跡部の唇にキス
をしていた。
『・・・・・・』
唇が重なっている間は、時間が止まったかのように静かであった。ふと唇を離すと、宍戸
は今自分がとった信じられない行動に驚愕する。
「〜〜〜〜〜っ!!??」
「随分大胆なことしてくれるじゃねぇか、宍戸。」
思ってもみない宍戸からのキスに、跡部はニヤニヤしながらそんなことを言う。自分でし
たことだが、宍戸は顔から火が出そうなほど恥ずかしく、何故そんなことをしたのか自分
でも理解出来なかった。
「い、今のはっ・・・・」
「今のは何だ?」
「べ、別に俺がキスしたいと思ってしたわけじゃねーからな!!跡部の顔が目の前にあっ
たから、思わず・・・って、だから、何言ってんだ俺!!」
もう自分で何を言っているのかわけが分からなくなり、宍戸はパニック状態だった。あわ
あわと顔を真っ赤にして、焦っている宍戸を見て、跡部はぷっと吹き出す。
「ふっ・・・あはははっ。」
「な、何で笑うんだよ!?」
「今のお前がすげぇ可愛くて面白いからよ。別に俺がキスしたいと思ってしたわけじゃね
ーって、どんなツンデレのテンプレだよ?」
「なっ・・・!!」
「キスしたかったんだろ?だったら、そう素直にそう言えばいいじゃねぇか。」
「ち、違ぇーよ!!俺は別にキスしたいなんて思ってなかったんだからな!!」
「じゃあ、何でしてきたんだよ?」
「それは・・・・あう〜・・・・」
それが自分でも分からないと、宍戸は言葉を失ってしまう。もう本当に可愛くて仕方ない
と、跡部はぐいっと宍戸の顎を上げ、先程宍戸がしてきたキスよりももっと深いキスをす
る。
「んむっ・・・・」
驚きはしたが、跡部からのそのキスは宍戸にとって全く嫌ではなかった。じっくりと宍戸
の味を味わうと跡部はゆっくり唇を離す。
「テメェがキスして欲しいって言うから、してやったぜ。」
「んなこと言ってねぇっ!!」
「言ってなくても、顔に書いてあんだよ。実際、今のキスだって嫌がってなかったじゃね
ぇか。」
「う・・・と、とにかく、違うったら違うんだ!!」
どこまでもツンデレな宍戸に、跡部はキュンキュンしてしまう。もう楽しすぎると、跡部
の顔は先程から緩みっぱなしであった。
「宍戸。」
「何だよ・・・?」
「帰るぞ。お前、俺と帰りたくて待ってたんだろ?」
「・・・・・っ。」
跡部の言葉に顔をより赤く染めながら、宍戸は黙ってしまう。その恥ずかしさを誤魔化す
ように帰る支度をすると、跡部より先に部室を出ようとする。
「別にテメェと帰りたいなんて思ってねぇんだからな。けど、テメェがどうしても一緒に
帰りてぇっつーんなら帰ってやるよ。」
照れ隠しの言葉はやはりツンデレのテンプレートだ。そんな宍戸の言葉に萌えまくりなが
ら、跡部は宍戸と共に部室を後にするのであった。