部活のない放課後、そろそろ帰ろうと岳人と忍足は廊下を歩いていた。
「今日は部活もねぇし、どっか寄り道して行こうぜ、侑士。」
「せやな。どこ行く?」
「んー、そうだなあ・・・久しぶりにカラオケとかどうよ?」
「悪くないんちゃう?二人だったら、結構歌えるしな。」
「なら、カラオケで・・・・」
決まりだと言おうとしたところで、岳人は向こうの方から走ってきた同級生とぶつかる。
倒れはしなかったものの、その衝撃はかなりのものだ。
「ってぇ・・・」
「大丈夫か?岳人。」
「全く廊下は走るなって、小学校の時習わなかったのかよ!」
「そないに文句を言える元気があるなら大丈夫やな。」
特に大きなケガはしていなさそうなので、忍足はひとまず安心する。廊下を走るなと注意
するということに関して、忍足はふととあるボケを思いついた。普段は他の者のすること
につっこみまくりの忍足であるが、自称ボケということらしい。それを岳人に披露し、つ
っこんでもらおうと忍足は今しがた思いついたボケを口にする。
「あないな奴を見ると、誰かにズバッとちゅうして欲しくなるよなあ。」
注意というところをあえて、ちゅうと言ってみる。ここで、何でちゅうして欲しくなるん
だよ!注意だろ!というつっこみを忍足は望んでいたのだが、岳人は一瞬ハテナを頭に浮
かべた後、少し背伸びをして、忍足の唇にちゅっとキスをした。
「っ!?」
自分の予想とは全く違うことをされ、忍足は固まってしまう。そして、ハッと我に返ると
それは違うと岳人につっこんだ。
「な、何しとんねん!!」
「へっ?だって、侑士がちゅうして欲しいって言うから。」
「ちゃうねん!!廊下を走ってる奴を見たら、誰かに注意して欲しくなるやろ!?それを
ボケて、ちゅうして欲しい言うたのに、何でホンマにちゅうしとんねん!!」
「あー、なるほど。あはは、全然気づかなかったぜ!」
そんなボケが隠されていたのかあと、岳人は感心しながらけらけらと笑う。また、自分の
方がつっこんでしまったと、忍足は大きな溜め息をつく。
「はあー、またつっこんでもうた。」
「つっこんじダメなのか?」
「別にダメやないねんけど、俺の周りはホンマ天然でつっこみどころ満載のことする奴ら
ばっかやから、なかなか俺がボケられへんのや。」
「侑士はつっこみなんじゃねぇの?いつも誰かしらにつっこんでるし。」
そんな岳人の言葉に忍足はあからさまに不満そうな表情を浮かべる。
「ちゃうねん。俺、ホンマはボケやねん。」
「あんまりボケっぽくない気がするけどなあ。」
「それは周りがボケかましすぎてるからや。」
少し意外だなあと思いながら、岳人は忍足を見る。ボケということはつっこまれたいとい
うことだよなあと、岳人は考えた。
「要するに侑士はつっこむより、つっこまれたいってことだよな?」
「そうやねん!分かってるやん、岳人。」
「でも、俺はいつも侑士につっこんでやってるじゃん。」
「は?そうやっけ?どう考えても、俺がつっこんでる回数のが多いと思うんやけど・・・。」
「そんなことないぜ。侑士のココにつっこむのは俺の得意技♪」
忍足のお尻をぽんと叩きながら、岳人は言う。聞いてすぐはよく意味が分からないと思っ
ていた忍足だったが、しっかりとその意味を理解すると、顔を真っ赤に染め、先程よりも
激しくつっこむ。
「そのつっこむやないやろ!!」
「えー、同じだろぉ?」
「どこがやねん!メッチャ下ネタやん!下ネタ禁止!!」
「やっぱり、侑士つっこんでるじゃん。どこがボケだよ?」
「それは岳人が無茶苦茶なこと言うからやろ!」
「侑士はあれだな。ボケっていうより、受だな!!」
「ボケと受って確かに言葉的には似てるな・・・って、違うやろ!!」
「あはは、ノリつっこみ〜。」
忍足のつっこみはなかなか面白いと、岳人は楽しそうに笑う。赤くなりつつ、膨れっ面に
なっている忍足の顔を岳人はぷにっと指でつつく。
「侑士も笑えよ。その顔も悪くはないけど、俺は笑ってる顔の方が好きだぜ。」
「・・・・・・。」
しばらくはむすっとした顔をしていた忍足であったが、岳人がずっと笑顔でいるので、何
だかもうどうでもよくなってしまう。もうつっこみだろうがボケだろうがどっちだってい
いやと、忍足はふっと口元を緩ませた。
「全く、ホンマに岳人にはかなわんなあ。」
「へへへー、やっと笑ったな侑士。ほら、カラオケ行くんだろ?さっさと学校出ようぜ!」
「せやな。」
最終的にはどちらも笑顔になり、アフター5を楽しもうと、二人は昇降口へと向かう。今
までの二人のやりとりを見ていた周りの生徒は、本当に漫才みたいな会話をナチュラルに
するなあと、クスクスと二人にはバレない程度に笑っているのであった。