酔っ払いのキス(蜉蝣×疾風)

海のすぐ近くにある水軍館。夜も更けてくると、仕事を終えた水軍の面々は酒を飲みつつ、
今日の疲れを癒していた。
「あはは、お前らもっと飲め!!ほらほら!!」
テンション高く他の者に酒を注いでいるのは、疾風であった。疾風はそれなりに酒には強
いが、それ以上にかなりの量を飲むので、酔っ払うことが多かった。しかし、酒癖が悪い
というわけではなく、とにかく楽しげに他の者に絡むという感じだ。
「蜉蝣ももっと飲めー!!」
「お前、少し飲み過ぎじゃないか?」
疾風にお酌をしてもらいながら、蜉蝣はそんなことを尋ねる。今日は別に特別な日でも何
でもない。明日も普通に仕事はあるのだ。
「そんなことねぇよぉ。俺、酒は強いしー。」
「でも、だいぶ酔っ払ってるだろ。」
「こんくらい平気平気。今、超いい気分だし♪」
ほろ酔い気分だと疾風はへらへらと笑いながら、そう口にする。第三協栄丸や鬼蜘蛛丸に
も酒を注ぎ終えると、疾風はふらふらとした足取りで立ち上がる。
「どうしました?疾風さん。」
「んー、ちょっと便所行ってくる。」
鬼蜘蛛丸に尋ねられ、疾風はそう答える。トイレに行くと言ったのに、疾風が向かったの
は何故か蜉蝣のところだった。蜉蝣の服をぐいっと引っ張り、無理矢理立たせようとする。
「何だ?疾風。」
「蜉蝣も便所行くの。」
「俺は今は別に行きたくないぞ。」
「俺が行きたいんだ!」
「行ってくればいいだろう?」
つれない蜉蝣の言葉に、疾風はぷく〜と頬っぺを膨らます。そして、さらに強い力で蜉蝣
の服を引っ張り、何んとかして連れて行こうとした。
「一人で便所行くのは怖いだろ!!だから、お前はついて来なくちゃダメなんだよ!!」
普段なら絶対口にはしない本音を、酔っ払っているためにハッキリと口にしてしまう。し
かし、疾風が水軍一怖がりなのは誰もが知っていることなので、別段驚いたようなリアク
ションも見せずに他の者達はクスクスと笑いながら、酒盛りを続けていた。
「全く仕方ねぇなあ。子どもじゃねぇんだからよ。」
呆れるような言葉を放ちながらも、蜉蝣の顔は笑っている。酔っ払っている時の疾風の発
言と行動はいつも以上に可愛いと、蜉蝣はゆっくりと立ち上がる。
「早く行くぞ!!」
「はいはい。」
疾風に引っ張られ、蜉蝣はトイレに向かうための廊下に強制的に連れ出された。トイレの
前まで来ると、疾風は蜉蝣に念押しするように言葉をかける。
「俺が出てくるまでちゃんと待ってろよ!!絶対絶対先に戻ったらダメだからな!!」
「ああ。」
そう言われると、逆に隠れて驚かしたくなるのが人の性だ。疾風がトイレに入っている間
に、蜉蝣は廊下から庭へ下り、疾風が出てくるのを待った。
「あ、あれ?蜉蝣??」
蜉蝣の姿が見当たらないと、疾風は不安気な表情で辺りを見回す。しかし、蜉蝣の姿はど
こにも見当たらない。
「蜉蝣っ、どこだよ!?」
かなり焦った様子の疾風を見て、蜉蝣は声を殺して笑う。そして、タイミングを見計らい、
大きな声を出して疾風を驚かす。
「わっ!!」
「うわああっ!!」
想像していたよりも素直に疾風は驚いてくれ、その場で腰を抜かす。そんな疾風を見て、
蜉蝣は声を上げて笑った。
「あははは、見事に引っかかってくれたな。」
「う〜・・・蜉蝣のバカァっ!!うわあぁぁんっ!!」
相当怖かったようで、疾風は幼い子どものように泣き始める。もともと酔っ払いなので、
こんなことは想定の範囲内であったが、思った以上に号泣しているので、蜉蝣はなだめな
いわけにはいかなくなった。
「あー、そんなに大泣きすることじゃねぇだろ。」
「だって蜉蝣が・・・蜉蝣がぁ・・・」
「分かった分かった。俺が悪かったから。」
「ふっ・・・ひっく・・・だったら、ここで今すぐちゅうしろ!!」
「は?」
思ってもみない疾風の言葉に、蜉蝣は一瞬固まってしまう。何故そこでキスをせがむのか
分からないが、それくらいなら嫌がることでもないと、蜉蝣はちゅっと軽く疾風の唇にキ
スをしてやった。
「そんなんじゃ足りねぇよ!これくらいがいい!!」
そう言いながら、疾風は思いきり蜉蝣に抱きつき、自らより激しいキスをする。初めは驚
いていた蜉蝣であったが、疾風の口の中の酒の匂いにやられ、自分もその気になってきて
しまう。
「んっ・・・ふぁ・・・んん・・・・」
先程の口づけとは比べものにならないくらい、長く深いキスをしていると、疾風の口から
甘い吐息が漏れ始める。これは結構クるなあと思っていた蜉蝣であったが、突然ガクンと
疾風の体が自分の方へもたれかかってきた。
「おっと・・・どうした?疾風。」
いったん唇を離し、そう尋ねるが疾風からの返事はない。よくよく見てみると、疾風は蜉
蝣の肩にもたれながら、すっかり寝入ってしまっていた。
「予想はしてたけどな・・・してたけど、これじゃ生殺しだよなあ。」
苦笑しながら、溜め息をつき、蜉蝣は呟く。とりあえず、この子どものような幼馴染をち
ゃんと部屋に寝かしてやろうと、ひょいっと抱き上げ、蜉蝣は他の者がいる部屋ではなく、
寝室へ向かって歩き始めた。

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