お返しのキス(竹谷×孫兵)

真夜中の生物小屋の前で、竹谷と孫兵は泥だらけになりながら、地面に腰掛けていた。今
日も今日とて、孫兵の飼っているペットが脱走して、それを二人で探してやっとのことで
探し出して、今さっき小屋に戻したところなのだ。
「こんな遅くまで付き合わせてしまってすいません。」
「気にすんなって。お前の大事なペットだろ?全部、見つかってよかったじゃないか。」
「ありがとうございます。」
夜も遅くなってしまったので、後輩メンバーは先に長屋に帰らせてしまい、その後からは
二人でペットを探していた。大変なことに付き合わせてしまっているのに、竹谷は嫌な顔
一つせず、笑顔で気にするなと言ってくれる。そんな竹谷の言葉が嬉しくて、孫兵はふっ
と笑った。
「竹谷先輩って、本当変わってますよね。」
「はあ?いきなり何言い出すんだよ。」
「だって、こんな夜遅くまで、ぼくに付き合ってくれて、文句一つ言わないんですもん。」
「そりゃそうだろ。」
「何がです?」
「だって、孫兵と一緒に居られるのは、委員会の時だけだろ?それなのに、こんな時間ま
で孫兵と一緒に居られるんだ。これで文句を言ってたら罰があたる。」
さっきよりもよりいい笑顔で竹谷は孫兵に向かってそう言う。思ってもみないことを言わ
れ、孫兵は何となく恥ずかしくなり、頬を赤く染める。しかし、辺りが暗いため竹谷がそ
の顔の赤さに気づくことはなかった。
「やっぱり・・・変わってますよ。」
「そうかぁ?」
「ぼくと一緒に居て嬉しいだなんて・・・」
「まあ、他にそんな奴が居たら、困るけどな。」
「えっ・・・?」
ボソッとそんなことを呟く竹谷の顔を孫兵は少し驚いたような顔で見る。今しがた言って
しまったことを誤魔化すかのように、竹谷は孫兵の頭にポンっと手を置いた。
「とにかく、俺はお前と居て、嫌だと思うことはないから安心しろ。」
「・・・はい。」
頭をポンポンを撫でられ、孫兵の胸はキュンと高鳴る。ちらっと竹谷の顔をのぞくと、い
つもの笑顔がそこにあった。
(すごくドキドキする・・・)
首にはいつものようにジュンコが巻かれているが、その感覚を忘れてしまうほど、孫兵は
ドキドキしていた。自分のために竹谷がいろいろなことをしてくれているように、自分も
竹谷のために何かをしたい。そんなことを思いながら、孫兵は竹谷の顔を見上げながら口
を開いた。
「竹谷先輩。」
「ん?どうした?孫兵。」
「ぼくが竹谷先輩にしてあげられることって、何かないですか?」
「いきなりだな。」
「ぼくばっかり、いつも竹谷先輩に迷惑かけてばかりなので、竹谷先輩のために何か出来
たらなあって思って・・・・」
なかなか可愛いことを言ってくれると、竹谷は口元を緩ませた。そして、ダメでもともと
今何となくして欲しいことを口にしてみた。
「だったら、孫兵からちゅうして欲しいなあ・・・なんて。」
「・・・・っ!?」
あまりにも孫兵が驚いたような顔をするので、竹谷は慌てて冗談だと言って取り消そうと
する。
「あはは、今のは冗だ・・・」
「わ、分かりました。」
「へっ!?」
「竹谷先輩がして欲しいなら・・・・」
「お、おう。」
まさか本当にしてもらえるとは思っていなかったので、竹谷はドキドキしながら返事をす
る。
「ほんのちょっとだけゴメンね、ジュンコ。」
片手でジュンコの顔を覆うと、もう片方の手で竹谷の服をぐいっと引っ張り、竹谷の唇に
ちゅっとキスをする。ほんの少し唇が触れ合うだけのキスであったが、この二人にとって
はそれだけでも十分にドキドキするキスであった。
「こ、これで・・・いいですか?」
あまりの恥ずかしさから、孫兵はうつむいたままそう尋ねる。ジュンコの顔を覆っていた
手は下ろしたが、もう片方の手は竹谷の服を握ったままであった。
「うわあ、超嬉しい。すっごい嬉しいぞ、孫兵!!」
「それは・・・よかったです・・・」
「ありがとな、孫兵。」
孫兵からキスをしてもらい、テンションの上がった竹谷は、調子に乗って孫兵の頬にキス
をする。まさか竹谷にそんなことをされると思っていなかった孫兵は、かあぁっと顔を赤
く染め、目を見開いて竹谷を見た。
「驚かせちまったか?」
「心臓、止まるかと思いました。」
「あはは、大袈裟だなあ。ま、俺の心臓も無茶苦茶ドキドキしてるけどな!」
「ずるいですよぉ、もう。こんなんじゃ、今夜は竹谷先輩のことで頭がいっぱいになっち
ゃうじゃないですか。」
「それは俺だって同じだ。もうお前のことで、頭も胸もいっぱいだよ。」
笑いながらそんなことを言ってくる竹谷の言葉を聞いて、孫兵もつられて笑顔になる。そ
んな楽しそうに笑い合っている竹谷と孫兵を見ながら、頭にハテナを浮かべ、ジュンコは
不思議そうに首を傾げるのであった。

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