Loving Friendship

ここは、イギリスウィンブルドン。各国のジュニア代表が集められたあの大会から、しば
らく経ってから、跡部と宍戸はプライベートでイギリスへやって来ていた。
「で、次はどこに行きてぇんだ?宍戸。」
「そうだなあ、ビッグベンにも行ってみてぇし、バッキンガム宮殿も興味あるしなあ・・・」
あの大会があった時もだいぶ観光はしたが、学校単位で来るのとプライベートで来るので
は、使える時間が違う。とりあえず、有名な場所はもう一度見ておきたいと、宍戸はそん
な場所を跡部に返した。
「ここからなら、バッキンガム宮殿のが近いな。とりあえず、市街に出るか。」
「そうだな。」
まずは街へ繰り出そうと、二人はロンドン市街へ向かう。街をゆっくり歩きつつ、観光名
所に向かうのも悪くないと、二人が街の中を歩いていると、見たことのある顔が目に入っ
た。
「あっ・・・」
「どうした?跡部。」
「いや、ちょっと知った顔を見つけてな。」
「ここでか?他にも日本から観光に来てる奴がいるってことかよ?」
「そうじゃねぇ。おい、お前ら。」
その見知った顔に近づくと、跡部はためらいなく声をかける。跡部に声をかけられた二人
は、その声に足を止めた。
「久しぶりだな。」
「あ、お前は・・・」
「こんなところで会うなんて、奇遇だな。どうだ?元気にやってるか?」
「お陰様で。今日は何でここにいるんだ?大会とか・・・ではないよな?」
跡部が声をかけた二人。それは、元クラックのキースとシウであった。あの事件があった
後、クラックは解散し、二人は以前と同じようにテニスの試合にも出場することが出来る
ようになっていた。
「今日はプライベートで観光だ。な、宍戸。」
「お、おう。・・・てか、こいつら誰だっけ?」
宍戸はキースやシウと直接顔を合わせていなかったので、首を傾げてそんなことを言う。
そういえば、確かに会っていなかったかもしれないと、跡部は軽くキースとシウを宍戸に
紹介した。
「宍戸は、あの時ケガして病院だったからな。あの事件のリーダー格だったキースとその
親友のシウだ。」
クラックのリーダーであったキースは説明しやすいが、シウはどう説明したらよいだろう
かと考えた結果、跡部はそんなふうにシウを紹介する。跡部に紹介されると、キースはす
まなそうな顔で宍戸に謝った。
「あの時は本当にすまなかったな。反省している。」
「い、いや・・・ほぼ初対面でいきなり謝られてもよ。別にもう気にしてねぇから、そん
な顔すんなよ。」
「悪いな。」
キースに謝られ、宍戸は困ったような顔をしながら、そう口にする。確かにあの時は、気
を失うほどのケガをさせられたが、それほどひどいものではなかったため、宍戸自身あま
り気にしていなかった。そのことを伝えると、キースもシウも少しホッとした様子で、顔
を見合わせる。
「お前らはこれからどこに行くんだ?」
「どこに行くと言われてもなあ。特に決めてはいないが、とりあえずテニスをしにかな。」
跡部の問いに、キースはそう答える。それならばと、跡部は宍戸に予定を変更しようと提
案する。
「宍戸、観光は明日にしてよ、こいつらと一緒にテニスしに行かねぇか。」
「いいぜ。テニスしに行くっていうんなら、大歓迎だぜ。」
「このへんでテニスをしに行くなら・・・」
近くのストリートテニスコートへ案内しようとするシウであったが、跡部がその言葉を遮
る。ただのストリートテニスコートでは、他の人が使っていた場合は使えないし、面白味
が足りない。そんなことを考え、跡部はとある場所を候補に出した。
「せっかくだからよ、キング・オブ・キングダムに行こうぜ。」
「キング・オブ・キングダム?何だそれ?」
「俺様の元別荘だ。あの事件の時は、こいつらがアジトとして使ってたみてぇだけどな。」
ふっと笑いながら、跡部はキースとシウを見る。跡部の言葉にキースとシウは苦笑する。
「アジトっていうか・・・まあ、そうだな。」
「でも、あの時、キースと越前が戦ったせいでかなり壊れてなかったか?」
「あのままにしておくわけねぇだろ。とっくに修復済みだ。お前らに限らず、他の奴らも
いろんなところを壊してくれたけどな。」
その場にいなかった宍戸は、全く話が見えないが、とにかく大変なことになっていたんだ
なあということはよく分かった。あの時の話を跡部から聞き、その場所にも行ってみたい
と思ってはいたので、宍戸はそこへ行くことに賛成する。
「とりあえず、無茶苦茶なネーミングの跡部の別荘だってことはよく分かったぜ。個人的
にはすげぇ行ってみてぇんだけど。」
「無茶苦茶なネーミングって失礼だな。まあ、いい。お前らはどうだ?」
「あそこなら、変わったテニスコートもたくさんあるし、悪くないと思うぞ。」
「俺も賛成だ。」
「じゃあ、決まりだな。」
全員一致で、キング・オブ・キングダムに行くことが決まる。テムズ川をボートで渡り、
四人はキング・オブ・キングダムに向かった。

キング・オブ・キングダムに到着して、まず目に入るのは門をくぐった後の跳ね橋だ。ギ
ギーっと音を立てて、橋が下りると、あの時と同じように砂が敷き詰められ、テニスのネ
ットが現れた。
「すげー。」
「砂のコートで試合することなんて、滅多にねぇだろ?いい練習になると思うぜ。」
「中央に二人、外側に二人でダブルスが出来るな。中央と外側、どちらにする?」
跳ね橋のコートは地面が砂になってるだけではなく、ネットが二つあるという変わったコ
ートであった。ダブルスを行うとすれば、二つのネットに挟まれた内側とネットの外側と
いったコートになる。
「俺らはどっちでもいいぜ。」
「どうする?キース。」
「内側のが難易度は高そうだが、二人で協力するのであれば、そっちの方がいいと思う。」
「了解。なら、俺らは内側にするぜ。」
「じゃあ、俺達は外側だな。」
キース・シウペアは内側、跡部・宍戸ペアは外側のコートで試合を行うことになった。変
則ダブルスはどちらのペアにとっても難易度が高く、地面が砂ということもあいまって、
思うようにいかないこともあった。
「あっ!」
「任せろ、シウ!」
しかし、そこはダブルス。片方がミスしたボールはもう片方がカバーする。キースとシウ
は、もともとダブルスを組んでいたこともあり、息はピッタリであった。
「ほぅ、やるじゃねぇか。ハッ!」
「今度は俺がっ!」
「止まって見えるぜ!」
外側の跡部と宍戸も、負けじと二人の返すボールを打つ。互いのペアの力は互角で、ポイ
ントを取り取られの攻防がしばらく続いた。
「行ったぞ、跡部!」
「分かってる。くらえ、破滅への輪舞曲だ!」
「くっ!」
跡部の打った破滅への輪舞曲は、キースの手に当たり、ラケットを弾いた。帰ってきたボ
ールを再び打ち込み、跡部・宍戸ペアにポイントが入る。
「俺達の勝ちだな。」
「あー、もう少しだったのに!」
「くそ、いい勝負だったんだけどな。」
「なんかあんまりしたことない形式だったけど、楽しかったぜ。」
結局ほんの少しの差で、勝ったのは跡部・宍戸ペアであった。悔しそうにしながらも、キ
ースとシウもいい試合が出来たと嬉しそうな顔をしていた。
「さてと、次の場所へ移動するか。」
「城の中に入るのか?てか、これが跡部の元別荘?」
「そうだぜ。なかなかのもんだろ?」
「城が別荘って、どんなだよ?マジありえねぇし。」
「それは同感だな。まさか日本人の別荘だとは思ってなかった。」
「確かにな。」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで、先に進むぞ。」
城が別荘ということに対してツッコミを入れつつ、宍戸、キース、シウの三人は、跡部の
後について行く。城の中に入って、まず初めに向かったのは、地下室にあるワインセラー
であった。
「ここもテニスコートなのか?」
「まあな。」
「でも、ネットがないぜ。」
「ああ、それはな・・・」
宍戸の疑問に跡部がそう答えると、金属音と共に、鋼鉄のフェンスが天井から下りてくる。
ガシャンッ
いつの間にか、キースとシウは向こう側のコートに移動しており、鋼鉄のフェンスを挟み、
キースとシウ、跡部と宍戸は、それぞれのコートに入っている状態になっていた。
「まさか・・・ネットってこのフェンス?」
「ああ、そうだ。」
「試合をするには、フェンスの隙間にボールを通さなければならない。かなりのテクニッ
クが必要ってことだな。」
もともとこの城をアジトにしていたキースは、このコートがどのようなコートであるかを
しっかり理解していた。これはまたすごいと、宍戸は感心する。
「すげぇな。こんなテニスしたことないぜ。」
「ま、俺達も初めて見たときは驚いたけどな。」
ラケットを肩に乗せながら、シウはそう口にする。もともとシウもクラックの一員であっ
たので、このコートでも何度かテニスをしたことがあった。
「ま、とりあえず、軽く打ち合いでもしてみるか。」
跡部のその言葉を合図に、四人は打ち合いを始める。キースとシウは何度かっこのコート
で試合をしたことがあるし、跡部に関しては元自分の別荘であるため、当然のことながら
どうすればいいかを把握している。しかし、宍戸だけはテクニックが必要なプレイがあま
り得意でないため、なかなかフェンスの隙間を通して、ボールを打つということが出来な
かった。
「あー、くそっ!全然向こう側へ行かねぇ!」
「ったく、お前はテクニックをもっと鍛える必要があるな。」
「うー、お前らすごすぎるだろ。」
悔しそうな顔をしている宍戸を見て、キースもシウも苦笑する。こんなコートは他のとこ
ろには存在しないのだから、仕方ないよなあという気持ちを込めてだ。何度もフェンスに
向かってボールを打ち、宍戸はフェンスを越えられるよう懸命に練習をする。そんな宍戸
に付き合い、他の三人は宍戸にボールを回してやった。
「おらぁ!」
「だいぶこっちに来るようになったな。」
「行ったぜ、宍戸。」
練習の甲斐もあり、だいぶフェンスを越えて打ち合いが出来るようになった。息を切らし
ながらも、宍戸の表情は実に楽しそうなものになっていた。
「そろそろここは終わりにするか。」
「結構長い時間やったしな。」
随分長い時間打ち合いをしたので、とりあえず四人はワインセラーでのプレイをやめる。
「ちょっと疲れたな。」
「確かにな。少し休んでから次の場所に行くか。」
跳ね橋での試合もあったため、四人は軽く疲労感を感じていた。
「キース、何か飲み物持ってねぇ?」
「水でいいならあるぜ。」
飲み物を切らしていたシウは、キースに飲み物をもらう。ペットボトルに入った水をゴク
ゴクと飲むと、ふぅっと溜め息をついて、その水をキースに返した。
「サンキュ、キース。」
「水、口のところに垂れてるぞ。」
口の端に垂れている水を、キースは笑いながら、指で拭う。こんなことはいつものことな
ので、特に気にとめていなかったシウだが、跡部と宍戸がじっと見ていることに気づく。
「あっ・・・」
「どうした?シウ。」
「い、いや、別に何でもない。」
なんとなく恥ずかしくなって、シウは赤くなりながら、キースから目をそらした。キース
が不思議そうな顔でシウを眺めている横で、跡部と宍戸も各々持っている飲み物を口にす
る。
「俺らもちゃんと水分補給しなきゃな。」
「そうだな。跡部は何持ってるんだっけ?」
「普通にスポーツドリンクだぜ。ま、俺様専用に調整されたやつだけどな。」
「へぇ、普通のと味が違うのか?」
「味はそんなに変わらねぇと思うぜ。何なら飲んでみるか?」
「ちょっと味見はしてみたいかも。」
跡部専用のスポーツドリンクとはどんなものだろうと、宍戸はそれをもらって飲んでみる。
味は普通のスポーツドリンクと何ら変わりはないが、飲みやすさは抜群であった。
「何かすげぇ飲みやすい。」
「そうか。お前は何持ってるんだ?」
「俺も普通にスポーツドリンクだぜ。飲むか?」
「ああ、じゃあもらっとくぜ。」
自分の持っている飲み物ではなく、お互いの飲み物を交換する形で水分補給をしている二
人を見て、キースとシウは跡部と宍戸は仲がいいんだなあと思う。
「跡部って、宍戸と仲がいいんだな。」
「まあな。お前とシウだって、かなりのもんなんじゃねぇの?さっきのやりとり、何だか
恋人同士みたいだったぜ。」
冗談じみた口調でそんなことを言う跡部の言葉に、シウの顔は真っ赤に染まる。そんな反
応をするシウを見て、宍戸は今跡部が言ったことは、本当なのかもしれないなあと思った。
シウの近くにすすっと移動すると、宍戸はコソッと話しかける。
「お前も大変だな。」
「へっ!?な、何がだ?」
「それはお前が一番よく分かってんだろ?ま、俺も似たような感じだから、その気持ちが
よく分かるってわけ。」
始めは宍戸の言葉の意味が理解出来ないシウであったが、似たような感じの意味に気づき、
ハッとする。宍戸と跡部の関係も自分とキースの関係と同じなのかと思い、シウはなるほ
どというような顔をする。そして、ふっと吹き出すように笑うと、宍戸に言葉を返した。
「悪い奴じゃなさそうだけど、相手がアレだと大変なんだろうな。」
「分かるか?まあ、それでも嫌いにはなれないんだけどな。」
照れたように笑う宍戸を見て、シウはくすくす笑う。仲良く話をしている二人に気づき、
キースと跡部はつかつかと二人のすぐ側まで歩いて行く。そして、キースはシウの肩に腕
を回し、跡部は宍戸を後ろから抱きしめた。
「随分楽しそうに話してるじゃねぇか。」
「暑苦しいぞ、跡部。」
「何を話していたんだ?シウ。」
「んー、内緒。ほらほら、水分補給も出来たし、十分休めたから、次の場所へ行こうぜ。」
話をそらすかのようにシウはそんなことを言う。気になるなあと思いつつ、跡部もキース
もシウの提案に異を唱えることなく、次の場所へと向かうことにした。

四人が次にやってきたのは、野外にあるリアルテニスコートだ。城壁に囲まれたそのコー
トは、変わったテニスが出来るものの、あまりにも普通のテニスとは得点のつけ方が違い
すぎるため、ここで試合をすることはパスすることになった。
「あの事件のとき、跡部はこのテニスコートでエンドゥーと試合したらしいな。」
「ああ、そうだぜ。」
「全部が終わって、他のメンバーを探しに行ったら、物凄いことになってて驚いたぞ。」
「物凄いことって、どんなことだ?」
「この壁にボールと一緒に磔にされてるって感じだったな。」
どういう状況だと、宍戸は想像しながら首を傾げる。
「ま、アイツは俺の域には達してなかったってことだ。」
「そういえば、エンドゥーから聞いたんだが、たくさんのボールを使ってたのに、まるで
ビリヤードをするみたいに、一つのボールを打って全部の球を止めたらしいな。」
そんなシウの言葉に反応したのは、宍戸だ。テニスをしていて、ビリヤードのように球を
止めるというのは、なかなか想像し難いが、このコートならありえるかと思ってしまう。
「ビリヤードみてぇにか。どんな感じかあんまり想像出来ねぇけど、すごそうだな。」
「一応、テメェの敵討ち的な意味もあったからな。」
「えっ?」
自分の敵討ちという言葉を聞いて、宍戸は図らずもときめいてしまう。確かに氷帝の中で、
病院送りになるほどケガをしたのは、自分だけであったが、まさかそんなつもりで、跡部
がこの場所に向かっているとは思っていなかった。
「テメェはビリヤードが得意だろ?アイツを倒すときにそういう要素も入れといてやるの
もいいかなあと思ってよ。」
そういうことが簡単に出来てしまう跡部に少しムカっとしながらも、宍戸は素直に嬉しい
と思ってしまう。しかし、その嬉しさを素直に表に出してしまうのは、恥ずかしい。いつ
ものツンデレ口調で、宍戸は跡部に言葉を返した。
「本当は俺が直々に倒してやるつもりだったのに、余計なことしてくれるぜ。・・・ま、
まあ、氷帝がなめられなかったから、結果的にはよかったと思ってるけどよ。」
「素直に感謝しろよ。」
「べ、別に敵討ちして欲しいなんて言ってねぇし。」
「けど、俺様がそういうふうな気持ちで試合したって聞いて、ちょっと嬉しいと思ってん
だろ?」
図星を指され、宍戸の顔はかあっと赤くなる。これは分かりやすいなあと、キースとシウ
はくすっと笑った。
「ま、とにかく跡部は宍戸のために戦ったってことはよく分かったぜ。」
「だな。」
「うー。」
何だかすごく恥ずかしくなり、宍戸は何も言えなくなってしまう。こういう反応をする宍
戸は、本当可愛いなあと、跡部は顔を緩ませていた。
「ここでは特に試合はしねぇし、次のところに移動しようぜ。」
「そうだな。」
跡部の言葉に、他のメンバーは頷き、再び城の中へと入る。次のコートは、光の差す広い
ホールに作られた幻想的なコートであった。四人がこの城に来てから、だいぶ時間が経っ
ているため、日は傾き、オレンジ色の光がそのコートに差し込んでいた。
「おー、なんかすげぇ綺麗な部屋だな。」
「コートも実際に線が引かれてるんじゃなくて、ホログラムになってるんだぜ。」
「へぇ、このコートにもまた何か仕掛けがあるのか?」
ホログラムのコートの仕掛けを知らないのは、宍戸だけであった。その状態で試合をする
のはあまりにも不公平だと、シウが教えてやる。
「コートの線がホログラムになっているから、試合をしているうちに、微妙にコートの大
きさが変わるんだ。それに気づかないと、アウトだと思ったボールが入ったり、ライン際
すれすれのボールが、アウトになってしまったりする。それがこのコートの仕掛けだな。」
「そんなこと教えちまっていいのかよ?知らないから面白くなるんじゃねぇの?」
「仕掛けを知らないのはお前だけだ。お前だけ、今シウが言ったみたいなことになって、
慌てているのを見るのも面白いが、それはフェアじゃねぇだろ。だから、教えてやったん
だぜ。」
「なるほどな。大きさの変わるホログラムのコートがどんなものか試してやるぜ。」
やる気満々な宍戸に、跡部はとある提案をしてやる。
「さっきまではずっとダブルスの試合だったからよ、今回はシングルスでもいいんじゃね
ぇか?」
「ああ、確かにな。俺かシウのどっちかが宍戸と戦うって感じでいいか?」
「いいぜ。俺はどっちでも大歓迎だぜ。」
「なら、俺がやる。」
そう言ったのはシウであった。大きなホールに現れたコートの中に入ると、二人はネット
越しに握手をし、試合を始める。初めに優勢になったのは、このコートで試合をすること
に慣れているシウであった。
「なかなかやるな。けど、俺の方が余裕があるぜ」
「くっ・・・また、アウトか。くそー、ライン際狙いはやっぱ難しいな。いつの間にか、
ラインの位置が変わっちゃってるんだもんな。」
そうボヤきながらも、宍戸はシウの打つボールにしっかり食らいつく。
「ライン際がダメなら、コートの中心に打ち込むまでだ!」
「それは、どこに打つか言ってるようなもんだぜ。」
得意のライジングで、宍戸は攻めに転ずるようボールを捉える。思ってもみないタイミン
グでボールを返され、若干シウは押され始めた。
「やるじゃねぇか。そのまま、やっちまえ。」
「負けるなよ、シウ。まだまだお前の方が有利だぜ。」
宍戸は跡部に、シウはキースに応援され、二人は俄然やる気になる。どちらも一歩も譲ら
ず、ボールを打ち続けた。
「おらぁっ!」
「ハッ!」
もうコートの大きさが変わることなど、全く関係ないような試合を二人は見せる。結局、
その試合に勝利したのは、初めにある程度ポイントを取っていたシウであった。
「あー、くそ!もうちょっとで追いつけたのに!」
「危なかったぜ。慣れてないコートなのに、やるじゃないか。」
「でも、負けは負けだぜ。あーあ、まだまだだなあ、俺も。」
試合を終えた二人のもとに、跡部とキースはコートに入る形でやってくる。
「見てて面白い試合だったぜ。」
「ああ、なかなか興奮する試合だったな。」
「結果はさておき、久しぶりのシングルスだ。すげぇ楽しかったぜ。」
「俺もかなり楽しめたな。」
いい試合が出来たと、宍戸もシウも嬉しそうな顔でそんなことを言う。それはよかったと、
跡部もキースもふっと笑った。
「次のコートで最後だが、最後は俺とキースで試合をしたいんだがいいか?」
「ああ、全然構わないぜ。」
「このコートでは、俺達が試合させてもらったからな。」
自分達もシングルスの試合がやりたいと、跡部は今しがた試合を終えた二人にそんなこと
を言う。自分達はもう十分に楽しんだので、最後のコートでは、跡部とキースの二人に戦
ってもらおうと、宍戸とシウは快く頷いた。
「それじゃ、最後のコートに移動するか。」
『おう!』
跡部の一言で、四人は更に城の奥にあるコートへと移動する。

最後のコートはシャンデリアの灯りに照らされた大広間にあるコートであった。
「・・・なんか、牢屋みてぇ。」
「そうだな。初めてここに来たときは、なんて悪趣味なコートだろうって思った。」
「何気に失礼だな、お前。」
「確か越前も似たようなこと言ってたよな。」
「ああ、確かにアイツは言いそうだ。」
牢屋のような鉄柵がある大広間のコートを見て、そんな会話を交わす。跡部としてはなか
なか気に入っているコートなので、少々心外であった。
「それじゃ、始めようぜ。本気でくるのは構わねぇが、城を壊さねぇ程度に頼むぜ。」
「はは、了解。」
あの時の戦いを知らない宍戸は、どうしてテニスをやっていて城が壊れるのだろうと不思
議で仕方なかった。まあ、日本の選手でも無茶苦茶な技を使う選手はごまんといるので、
そういうこともあるかと、とりあえずは納得する。跡部とキースの試合が始まり、その非
常にレベルの高い試合に、宍戸とシウの目は釘付けになる。あの時の試合もすごかったが、
万有引力の所為で正直コートの中がどのような状態になっているかはよく分からなかった。
しかし、今の試合はテニスの試合として、しっかりと成り立っている。お互いに得意技を
出し合い、いい勝負をする二人に、宍戸とシウは夢中になって声援を送った。
「行っけー!跡部!」
「負けるな、キース!」
好きな人に思いきり応援されるのは、心地が良い。大好きな声を耳にしながら、跡部もキ
ースも更にテンションを上げて、試合を続けた。ターンホイザーサーブに、破滅への輪舞
曲、氷の世界などなど、跡部は次から次へと技を繰り出す。そんな跡部に負けず劣らず、
キースも気を使った技を次々に出した。
「これで終わりだ!」
「させるか!」
床が抉られてしまうのではないかというような音が響き、ボールがコートの外へ転がる。
接戦の末、この勝負に勝利したのは、跡部であった。
「よっしゃー、跡部の勝ちだ!」
跡部が勝って、跡部以上にはしゃいでいるのは宍戸だ。嬉しそうにはしゃぐ宍戸を見て、
跡部は口元を緩ませる。
「惜しかったな、キース。」
「ああ。でも、かなりいい試合だった。」
負けてしまったが、キースは実に満足気な顔をしていた。純粋にテニスの試合をするのが、
こんなにも楽しいものだということに改めて気づく。クラックにいた時には感じられなか
った感覚に、二人は心からの笑顔を見せた。
「もう日も暮れちまったし、テニスも存分に出来た。せっかくここに来たんだ。夕飯もこ
こで食べようぜ。」
「えっ?けど、ここは元別荘であって、もう使ってないんだろ?」
「普段は使わないが、使うことは出来る。うちのコックに連絡して、夕飯は作らせてある
から、お前らも食ってけよ。」
いつの間にそんな連絡をしたんだと思いながらも、キースとシウは跡部の言葉に甘えるこ
とにする。もともと宍戸は跡部と一緒に行動しているので、どこで夕食を食べようが構わ
なかった。
「たくさんテニスしたから、腹減ってしょうがねぇぜ。早く食べに行こうぜ。」
「ああ、そうだな。」
宍戸の言葉に頷き、四人は城の中にある食堂へと向かう。食堂に到着すると、長いテーブ
ルにたくさんの料理が並んでおり、跡部以外の三人は、目を丸くした。
「うわあ、すげぇ・・・」
「まさか、こんなご馳走が用意されているとは思わなかったな。」
「本当にこんなたくさんご馳走になっていいのか?」
「当然だ。遠慮なんかせずにたくさん食えよ。」
たくさんのご馳走を前に、三人のテンションは一気に上がる。育ち盛りの男子が四人も集
まっているのだ。少々多すぎるほどの夕食も、あっという間に四人の腹の中へと消えてい
った。

夕飯を食べ終えると、四人はそのまま食堂に留まり、お茶を飲みながら話をする。
「キースとシウは、どうしてあんなことをしてたんだ?テニスで他の奴を傷つけるみたい
なことをよ。」
テニスの話をしていると、宍戸がふとそんなことを尋ねる。他のメンバーはシウからある
程度その話を聞いていたが、宍戸は病院にいたために聞いていなかった。
「俺の所為かな。」
困ったような顔でそう答えたのはシウであった。あの時、他のメンバーに話したのと同じ
ように、シウはクラックが出来た経緯を説明する。
「普通の公式の試合でな、俺が相手の選手からラフプレイで攻撃されたんだ。わざとボー
ルを当てられるみたいな感じでな。その時、キースとダブルスを組んでいたんだが、俺の
仇をとるみたいに、キースが気を使ったボールを打ったんだ。キースの気はすごくてな、
相手の選手はフェンスにぶつかるように吹っ飛んだ。」
「へぇ、すごいな。」
「それが危険なプレイだと判断されて、キースは公式の試合に出られなくなった。学校で
もテニススクールでもテニスをすることを断られて、俺達は行き場をなくした。テニスを
するのが大好きなのにな・・・」
悲しげな笑みを浮かべて、シウはそう話す。それは辛いと宍戸はシウの話に真剣に耳を傾
ける。
「キースは普通にテニスがしたいだけだったんだ。だけど、それが出来ない。そのうち、
普通にテニスが出来る奴が恨めしくなってな。俺達と同じような理由で、公式の試合に出
られなくなった奴らが集まって、クラックが出来た。」
そんな経緯があったのかと、宍戸は言葉を失う。何とも言えない沈黙が訪れた後、口を開
いたのはキースであった。
「でも、お前達、日本の学校の奴らが来てくれて、俺はもう一度、人を傷つけないテニス
の楽しさに気づいたんだ。」
「それがあの事件だったわけだな。」
「そうだ。その後、お前達を始め、あのときの試合に出たメンバーが交渉してくれたおか
げで、俺達は公式の試合にもう一度出られるようになった。本当に心から感謝している。」
穏やかな笑顔を浮かべながら、そう言うキースの言葉に宍戸は胸を打たれる。あの時はテ
ニスを使って人を傷つけるなんて許せないと思っていた宍戸であったが、この話を聞いた
ら、許せないもなにもないと思った。
「大変だったんだな。俺もテニスは大好きだからよ、それが出来なくなる辛さは痛いほど
分かるぜ。」
「俺達に感謝するのもまあ分かるが、お前が一番感謝しなきゃいけないのは、シウなんじ
ゃねぇのか。キース。」
「えっ?」
跡部の言葉に、思わず声を上げたのはシウであった。自分の所為でそうなってしまったの
に、一番感謝されなければならないとはどういうことだろうと、首を傾げる。
「ああ、そうだな。シウが俺のことを本気で考えてくれたから、お前達とこの城で試合を
することになったんだもんな。」
「あれは・・・やっぱり、あーいうテニスは間違ってるって、俺が勝手に思ってたから。」
「でも、それは間違いじゃなかったんだろ?」
「そうだ。お前がいたから、俺はもう一度、テニスの本当の楽しさに気づけた。それに、
お前と一緒にテニスをするっていう大切なことにも。ありがとうな、シウ。」
心からのキースの感謝の言葉に、シウは何だかジーンときてしまう。なんとなく泣きそう
になってしまい、シウは顔を手で覆った。
「どうした?」
「・・・お前がそんなこと言うからっ、ちょっと泣きそうになっちまったじゃねぇか!」
「泣きたいときは泣けばいいんじゃねぇの?」
跡部の一言に、シウの涙腺はより緩んでしまう。必死で涙を堪えてはいるが、声はもう完
全に涙声であった。
「・・・俺は、キースとテニスがしたかった。たとえ、試合に出れなくたって、キースと
テニスが出来れば、それでいいと思ってた。だって、テニスの楽しさを教えてくれたのは、
お前だから・・・」
「シウ・・・」
「だから、今、お前と一緒にテニスが出来て、俺はすごい幸せだぜ。」
涙を堪えていたために、目には溢れんばかりの涙が溜まっているが、そんな涙を拭い、シ
ウは満面の笑顔で、キースにそう伝える。その言葉は、キースはひどく感動する。
「やっぱり、俺はお前がいないとダメだな・・・。これからも、ずっと一緒にテニスをし
ていこうな、シウ。」
「ああ。」
そんな二人のやりとりを見ていて、跡部と宍戸の胸も熱くなる。こういう関係もいいよな
あと思っていると、今度はキースが二人に質問を投げかけた。
「お前らは、テニスに関して何か印象に残ってる話はないのか?」
「まあ、なくはないぜ。俺もテニスが出来なくなるかもっていう経験はしてるからな。」
「そうなのか?」
「ああ。お前達ほどそんな深刻なもんじゃねぇけど、俺にとっては結構辛い時期だったな
あ・・・」
そんな言葉から、宍戸は自分がレギュラー落ちをした時のことを話し始める。
「今年の春頃にな、ある試合で俺は無様に負けちまったんだ。俺達の通ってる学校はテニ
ス部の部員が二百人くらいいて、本当完全な実力主義。負けた奴はレギュラー落ちで、も
う一度レギュラーに戻るなんてことはありえなかった。」
「でも、お前はその学校のレギュラーなんだろ?だから、あの時、イギリスに来たんだろ
うし。」
「まあな。レギュラーから外されてから、俺は何度も跡部に勝負を挑んだ。でも、全然歯
が立たなかった。そんなことは分かってたんだけどな。そんなとき、跡部が言ってくれた
んだよ、ダブルスでなら、何とかなるかもしれねぇってな。」
あの時のことを思い出しながら、宍戸はしんみりとした様子で語る。
「それから俺は血の滲むような特訓をしたんだ。例えじゃなくて、本当に傷だらけになり
ながら。どうしても、もう一度レギュラーに戻りたかったからな。そんな特訓の中で自分
なりのテニスを見つけて、レギュラーの一人を倒した。だけど、そんな簡単には戻れなか
ったんだよ。監督は俺ではなく、他の奴をレギュラーにするって言ってな。」
「すごいな・・・」
宍戸の話に、キースもシウも引き込まれる。宍戸の話していることは、何もかも全て跡部
は知っていたので、特に口を出すことはしなかった。
「どうして俺じゃないんだ!って、文句を言っていたら、また、跡部が口を出してきてな、
俺に言うんじゃなくて、監督に言って来いって。だから、俺は監督を追いかけて、土下座
して頼んだんだ。俺を使って下さいって。それでも監督は頷いてくれなくて、俺は自慢だ
った長い髪を切った。自分の覚悟を見せたくて。そうしたら、一緒に特訓をしてくれた後
輩と、跡部も監督に頼んでくれたんだ。跡部の言葉で、やっと監督は頷いてくれた。それ
で、俺は再びレギュラーに戻れたんだ。」
レギュラー落ちからレギュラーに復帰するまでの話を聞いて、キースとシウは感動してし
まう。
「いい話だな。」
「ああ。跡部は宍戸が努力してたのを知ってたのか?」
「当然だ。こいつは昔っから諦めが悪くて、どんなに俺に負けたって、何度でも勝負を挑
んできてよ。けど、俺はそういう奴が好きでな。ダブルスなら何とかなるかもしれねぇっ
て言ったのは俺だし、宍戸がどう這い上がってくるかを見届けてやろうと思って、陰から
ずっと見てた。そしたら、こいつは俺の想像以上に過酷な特訓をしててよ。だからこそ、
宍戸がレギュラーに戻れるようにしてやりたいと思ったわけだ。」
「跡部は、宍戸のことを心から想っているんだな。」
跡部の話を聞いて、そう口にしたのはシウであった。今の話でそういうことを言われると
は思っていなかったので、跡部は少し意外そうな顔をする。しかし、すぐにいつもの自信
に満ちた笑みを浮かべ、シウに言葉を返した。
「そうだな。俺はこいつのことが好きだし、しょっちゅうケンカもするが、なくてはなら
ない存在だと思ってるぜ。」
そこまでハッキリ言われると、恥ずかしくなってしまう。ふいっと跡部から顔を背けると、
宍戸は耳まで真っ赤になって、いつもの文句を言うような口調で、言葉を紡ぐ。
「恥ずかしいこと言ってんじゃねぇよ、ったく・・・」
「アーン?思っていることを言っただけだぜ。」
「そうかもしれないけど・・・何か俺ばっか恥ずかしがったり、浮かれたりしてさ・・・
どうすればいいか分かんねぇじゃん。」
文句を言っているわりには、嬉しいというようなニュアンスを含んだ言葉も入っている。
跡部は言葉で表すが、宍戸はあからさまに態度に出るんだなあと、キースとシウは顔を見
合わせて笑った。
「ま、跡部も宍戸もお互いのことが大好きってことだな。」
「べ、別にそんなこと言ってねぇし!」
「言ってなくても、見れば分かるぞ。なあ?」
「そうだな。宍戸は逆のことを言うくせに、顔とか態度には表れまくりだからな。」
「うー・・・」
そう言われてしまっては、もう返す言葉がない。火照る顔をどうすることも出来ずに、宍
戸はとにかく胸の高鳴りが治まるのを待った。
「話は変わるけどよ、日本に帰国したら、この別荘は本当そう滅多に使わなくなるんだよ
な。」
「ああ。」
「だけど、別に売り払うとかそういうつもりはねぇ。たまに来るにはいい場所だからな。」
「確かに、ちょっと変わった部分がたくさんあるっていうところ以外はかなりいい場所だ
な。」
「だからよ、俺達が使ってない間は、お前らが好きなように使っていいぜ。」
そんな跡部の提案に、キースとシウは戸惑うような顔を見せる。それは嬉しいが、本当に
いいのかという気持ちが勝ってしまう。
「気持ちは嬉しいけどよ、こんな城を自由に使っていいとなるとなあ・・・」
「ああ、さすがにな。」
遠慮するようなことを二人が口にすると、跡部は呆れたような口調で、つっこみを入れる。
「クラックにいたときは、勝手に使ってただろ。」
『あっ・・・』
「しかも、アジトとしてだろ?そんなふうに使ってたんなら、今更遠慮することないんじ
ゃねぇの?」
宍戸からもそう言われ、キースとシウは苦笑する。そう言われてしまったら、遠慮する要
素はどこにもなくなってしまう。
「まあ、確かにそうだよな。」
「使ってたな、がっつり。」
「別に遠慮することはねぇぜ。ここなら、テニスも存分に出来るしな。」
「じゃあ・・・」
「せっかくだから、使わせてもらうか。」
結局、二人は跡部の提案を受け入れた。たまに、テニスをしに来たり、遊びに来たりする
にはかなり良い場所である。
「なら、決まりだな。ここを使ってて、何か困ったことがあったら、いつでも連絡してく
れていいからな。」
「ありがとな。」
「使う奴がいるんだったら、その方がいいと思ったまでだ。」
ふっと笑いながら、跡部はそんなことを言う。何だかんだで跡部は、気前がよくて優しい
よなあというようなことを思いながら、宍戸は跡部を眺めていた。
「さてと、もうだいぶ遅い時間になっちまったし、今日はここに泊まるか。」
『えっ!』
「客室ならいくらでもあるからな。そんじょそこらのホテルよりはよっぽど豪華だぜ?」
「本当にいいのか?」
「ダメな要素が全く見当たらねぇがな。まあ、お前らにも都合があるだろうから、無理に
とは言わねぇぜ。」
「これから帰るのも面倒だしな。」
「泊まるか、シウ。」
「そうだな。」
もう夜も遅いので、これから家に帰るというのはさすがに億劫であった。泊めてもらえる
のなら、その方が楽でいいと、キースとシウは跡部の言葉に甘えることにする。
「部屋はどうする?別々にするか?」
『一緒でいい。』
まさかそんな言葉がかぶるとは思っていなかったので、宍戸は思わず吹き出す。本当に仲
がいいんだなあと、改めて思わざるを得なかった。
「分かった。じゃあ、キースとシウは同じ部屋でいいんだな。後で部屋に案内してやるか
ら、とりあえず、もう少しこの部屋で喋ってようぜ。」
「ああ。」
「そうだな。」
「今度は何について話そうか。」
泊まるとなれば、まだまだ夜は長い。もっといろいろな話がしたいと、四人はもうしばら
くこの部屋でくつろぐことにした。

イギリス旅行から日本へ帰ってからしばらくして、宍戸は跡部の家に遊びに来ていた。部
屋に通されると、跡部がとあるものを持ってくる。
「何持って来たんだ?」
「この前、キースとシウからエアメールが届いてな。」
「へぇ、マジか。どんな内容だったんだ?」
「まあ、手紙の内容はいたって普通だったんだけどよ、学校でこんなことがあったとかな。」
「なるほどな。で、手紙の内容はってことは、他に何か入ってたってことだよな?」
跡部の話の語り口から、手紙以外のものが入っていることは明白であった。それが何か気
になると、宍戸は早く見たいと跡部にせがむ。
「まあな。手紙と一緒にな、こんなもんが入ってたぜ。」
そう言いながら、跡部が宍戸に手渡したのは一枚の写真であった。その写真には肩を組み、
自分撮りな感じで撮られた二人が写っていた。
「なんか女子高生のプリクラみてぇ。」
「はは、確かにな。」
「でも、本当こいつら仲良いよな。こんな写真を送りつけてくるくらいだし。」
二人の写真を見ながら、宍戸は笑ってそんなことを言う。写真の中のキースはシウの肩を
しっかり抱き、腕を伸ばしてカメラを自分達に向けている。シウは、恥ずかしそうにしな
がらも、楽しげな笑顔を浮かべていた。
「こんな写真を送られるとよ・・・」
「ああ、何だよ?」
「俺達も撮りたくなるよな。」
「は?」
「俺らもツーショの写真撮って、キースとシウに送りつけてやろうぜ。」
対抗心半分、普通に撮りたいと思う気持ち半分で、跡部はそんなことを言う。初めはあま
り乗り気ではなかった宍戸であったが、跡部がカメラを持ってくると、仕方ないなあとい
った様子で、跡部の側に寄る。
「ま、跡部がどうしても撮りてぇっつーんなら、撮ってやってもいいぜ。」
「ふっ、じゃあ、撮るか。ほら、もっと近づけよ。」
ぐいっと宍戸の肩を掴み、跡部は自分の方へ引き寄せる。あまりの近さにドキドキしなが
らも、宍戸は何だか無性に楽しくなって、その顔は自然と緩む。
「じゃ、撮るぜ。ちゃんと笑えよ。」
「おう!」
どちらもカメラ目線で、最高の笑顔を作る。パシャっとシャッターを押すと、その撮れ方
を確認する。
「なかなかいいんじゃねぇ?」
「そうだな。でも、もう何枚か撮ってもいいんじゃねぇ?」
「あんまり乗り気じゃなかったくせに、随分乗ってきてるじゃねぇか。」
「別にいいだろ。ほら、もっと撮ろうぜ!」
一度撮ってしまうと、宍戸の方がノリノリになる。何枚も撮り、その中から宍戸は気に入
ったものを選んだ。
「これがいいな。あいつらに負けないくらいの写真だと思うぜ!」
「そうだな。ついでに手紙も書こうぜ。」
「ああ。何書くか迷うなあ。」
自分達の写真を見たキースとシウの反応を想像しながら、跡部も宍戸も楽しげに手紙を書
き始めるのであった。

                                END.

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