Loving you

「わーい、タコヤキやー!!財前、おおきに!」
「ちょっとは遠慮せぇや。」
学校からの帰り道、金太郎と財前はタコ焼きを買い食いし、寄り道をしていた。タコ焼き
を買った後、近くの公園のベンチに座って食べ始める。
「熱々でメッチャうまいわー。」
「そないに慌てて食ったら火傷するで。」
「こんくらいへっちゃらや。財前ももっと食べや!」
「俺はそんなに腹減ってないからええよ。」
「ホンマに?ほんなら、ワイが全部食べてまうで。」
金太郎に財前が奢る形でタコ焼きを買ったのだが、財前自身はそこまで空腹ではなかった。
どうせ食べるなら白玉ぜんざいが食べたいなーと思いつつ、金太郎がタコ焼きを頬張るの
を眺めている。
(はあ、別に遠山と一緒に帰るつもりなかったんやけどなあ。どうせだったら、師範と一
緒に帰りたかったわ。)
小さく溜め息をつき、財前は金太郎にちらりと視線を向ける。早食いな金太郎はもうタコ
焼きを全て食べきってしまったようで、ニコニコしながら空になったタコ焼きの蓋を閉め
ている。
「ごちそーさまでした!」
「もう食べきったんか。」
「せやで。ホンマはもっと食べたいんやけど、今日はこれくらいで我慢しとくわ。」
偉いやろ?と言いたげな視線を向けてくる金太郎に財前は小さく頷いてやる。お腹は空い
ていないが、少し喉が渇いたので、財前は鞄から飲み物を出す。
「なあなあ、財前。」
「何や?」
軽く返事をした後、持っていた飲み物を口に含む。
「財前は、何で銀に好きって言わへんの?」
思ってもみない金太郎の言葉に財前は飲んでいた飲み物を吹き出し、激しくむせる。
「ゲホっ、ゴホっ・・・な、何アホなこと言うてんねん!」
「えー、財前、銀のこと好きと違うん?」
「そんな・・・師範のことは、確かに他の先輩らと違うて尊敬しとるけど・・・す、好き
やなんてそんな・・・」
明らかに動揺し、顔を真っ赤にしている財前を前にし、金太郎は首を傾げる。傍から見て
いて、どう見ても財前は銀のことを好いている。自分の気持ちは全力で伝えたい金太郎に
とっては、必死で否定しようとする理由が分からなかった。
「ワイは好きやったら好きってちゃんと伝えるで。白石にもいっつも言っとるしな!」
「その好きはそういう好きとちゃうやろ。遠山はわりと先輩らみんなに言うとるやん。」
「確かに千歳もケンヤも銀も小春もユウジも財前もみーんな好きやで!せやけど、白石は
ちゃうねん。白石は特別な好きなんや!」
「特別な好きって何やねん。」
ドギマギとしながら財前は金太郎にそう返す。財前のその言葉に金太郎は二パッといつも
通りの子どもらしい笑みを浮かべて答えた。
「白石はワイのこといっつも心配しとって、口うるさくて、何やオカンみたいなとこある
し、ワイがわがまま言うたらすぐ毒手で脅かしてくるんやけど・・・」
「そりゃお前がどうしようもないくらいのゴンタクレやからやろ。」
「せやけど、誰よりもワイのこと大事に思っててくれて、ワイの話嬉しそうに聞いてくれ
るし、白石とおると楽しいし、ドキドキするし、安心する。それからな、白石が嬉しそう
に笑ってる顔がホンマに大好きやねん!せやから、白石とおるときはぎょーさん大好きや
でって伝えるんや。」
「それが特別な好きっちゅーことなんか?」
「せやで。財前も銀のこと、ワイが白石のこと好きと思うとる感じで好きなんかなーと思
っとったんやけど、違うんか?」
金太郎にそう言われ、財前は改めて自分の気持ちを考えてみる。
(師範は他の先輩らみたいに無茶振りしてくることもないし、いつも落ち着いてて、尊敬
出来るところもぎょうさんあるし、格好よくて、一緒にいると安心出来て、俺の好きなこ
とにも興味持ってくれて・・・出来ればいつも一緒にいたいと思うとって・・・あれ?こ
んなん遠山の言うてる特別な好きと変わらんのとちゃう?)
そう自覚してしまうと、急に恥ずかしくなり、心臓がドキドキと高鳴る。まさか金太郎と
話していて、こんなことに気づくとは思わなかったので、財前は非常に戸惑っていた。
「財前ー?どないしたん?」
真剣な顔で黙りこくっている財前に、金太郎は財前の顔の前でひらひらと手を振りながら
声をかける。
「・・・違わないかもしれん。」
「へっ?」
「はあ、ホンマありえへんわ。そんなことに気づいたところで、伝えられるわけないやろ。」
「何でや?好きやったら好きって伝えればええやん。」
「そないなことしたら、師範が困るかもしれへんやろ。俺なんかに好きって言われたって
嬉しくないやろうし・・・」
自虐的にそんなことを言う財前に金太郎は首を振って否定する。
「そないなことあらへん!銀だって財前のこときっと好きやで!」
「そんな証拠ないやろ?伝えたところで、気まずくなったらどうするん?俺は師範の側に
いたいだけやのに、気まずくなったらそれも出来なくなるやん。」
「だって、財前と一緒にいるときの銀、メッチャ嬉しそうな顔しとるで。財前のこと、素
直で照れ屋で可愛いって言うとったし。そんなこと、銀以外は絶対に言わへんで!それに、
財前が元気ないときとか寂しそうなときとか、もっと頭撫でたり、一緒にいれたらええな
あって言うてたで。せやけど、そないなことすると財前が嫌がるかもって、せやから出来
へん言うとった。そんなん、お互いに好き言えたら思いきり出来るやん。何で伝えへんの
や?」
お互いに相手のこと想っているはずなのに、どこかすれ違っているような状況に金太郎は
捲し立てるようにそう言い放つ。知り得なかった自分に対する銀の言葉を聞いて、財前は
真っ赤になって何も言えなくなる。
(何で遠山がそないなこと知ってるんや。って、遠山、わりと師範と何かすること多いも
んな。いや、今の話ホンマ?ホンマやったら、嬉しすぎてアカン・・・)
「・・・お前、そんな話伝えられて、俺はどんな顔で師範に会えばええんや。」
「いつも通りでええやろ?」
「それが出来なそうやから、困っとんねん・・・」
「ほんなら、やっぱ好きって伝えるしかないな!」
「何でやねん。」
実に楽しそうな表情の金太郎とは対照的に財前はひどく困惑した表情を浮かべている。今
回ばかりはこの場に銀がいなくてよかったと財前は高鳴る胸を押さえていた。

金太郎と財前が公園でタコ焼きを食べて話をしている時間とちょうど同じとき、白石と銀
は部室で話をしていた。
「すまんなあ、部活ないのに呼び出したりして。」
「別にかまへん。何や悩み事でもあるんか?」
「そうやねん。こんなん銀にしか話せなくて。いや、ホンマは銀にも話すんははばかられ
るんやけど・・・小春やユウジは無駄に盛り上がってうるさそうやし、千歳はそんなん知
らんって感じやろうし、ケンヤには茶化される感じがしてな。」
何か悩み事があるようで、白石は苦笑しながら銀にそう話す。これは真面目な相談かと銀
は気を引き締める。
「ほんで白石はんが悩んでるんは、どんなことなんや?」
「・・・金ちゃんのことなんやけど。」
「金太郎はんか。それはまた難儀そうな悩みやなあ。また何かやらかしたんか?」
「い、いや、金ちゃんが何かやらかしたとかでは全然ちゃうくて、問題は俺の方やねん。」
気まずそうに目をそらしながら、白石はそう呟く。金太郎自身が何かしたのではなく、白
石に問題があるとはどういうことだろうかと、銀は白石の次の言葉を待った。
「金ちゃんはホンマにゴンタクレで、手を焼くことも多くて、目が離せないことばっかり
で、いっつも叱ってばっかなんやけど・・・」
「はは、白石はんはホンマに金太郎はんのオカンみたいやな。」
「せやねん。金ちゃん相手やとどうしてもそうなってまうんやけどな、たまに俺が喜ぶよ
うなことしてくれて、それがホンマに嬉しくてな。それからこないだな、金ちゃんと出か
けてるときに、逆ナンされてん。」
「白石はんはモテるからなあ。」
「せやけど、俺、逆ナンされるのトラウマで、どないしよーって頭真っ白になってたら、
すかさず金ちゃんが『白石はワイのや!!絶対渡さへんで!!』って言って、まあ、金ち
ゃんあんなやから、声かけてきたお姉さんらくすくす笑ってどっか行ってもうたんや。傍
から見たら微笑ましい光景なのかもしれんけど、俺としては心底困っとったから、普通に
金ちゃんにときめいてしまってな。」
恥ずかしそうにそう語る白石を見て、銀は何となく白石の相談したいことの内容に気づく。
「その後も、金ちゃん俺の手握って、『白石を困らせるヤツがおったら、ワイが追い払っ
てやるからな!』ってメッチャ目キラキラさせながら言うてきて、不覚にもメッチャきゅ
んとしてしまったんや。」
「男前やないか金太郎はん。白石はんがそう思うのも仕方ないで。」
他の仲間であれば、茶化しそうな話の内容ではあるが、銀は落ち着いた口調でそう返す。
ああ、やっぱり銀に相談してよかったなと思いつつ、白石は話を続けた。
「正直、金ちゃんのこと後輩とか弟っぽいとかそんなん通り越して、手のかかる自分の子
どもみたいに思うとこあったけど、何や最近、そないなことがあったりして、金ちゃんと
いると、ちょっとドキドキしたり、一緒におられるんがすごい嬉しかったりするようにな
ってん。」
「白石はんは、ホンマに金太郎はんのこと好きなんやな。」
「・・・やっぱ、そういう感じなんやろか?せやけど、あの金ちゃんやで?男なのに母性
全開みたいな雰囲気で接しとったのに、急にこんな感じになって、今、メッチャ戸惑っと
る。」
「そりゃ初めは戸惑うかもしれへんなあ。せやけど、白石はんはどうしたいんや?そうい
う気持ちになって、金太郎はんと距離をとりたいんか?それとも、もっと仲良うなりたい
んか?」
銀の問いかけに白石は自分の気持ちを考える。今までとは少し違う好きを感じて困惑して
はいるが、金太郎とはもっと一緒にいたい。こんなことで距離をとるなどということは考
えられなかった。
「俺は・・・もっと金ちゃんと仲良うなりたい。」
「ほんなら、その気持ち素直に金太郎はんにぶつけたらええ。金太郎はんなら、きっと笑
顔で応えてくれると思うで。」
何故だかは分からないが、銀の言葉には説得力があった。確かに金太郎になら、こんな気
持ちを伝えたとしても疎まれることはないだろうと素直に思えた。
「分かった。こんなことでうじうじ悩んでてもしゃーないしな!次、金ちゃんに会ったら
伝えてみるわ。ありがとうな、銀。何やメッチャすっきりしたわ。」
相談をし始めたときとは打って変わって、スッキリ明るい表情になっている白石を見て、
銀はふっと微笑む。そろそろ日も暮れてきているので、二人は部室を出て家路を辿ること
にした。

白石と銀が家路を辿っていると、近くの公園から金太郎と財前が出てくるのに気づく。二
人が金太郎と財前に気づいたのと同時に、公園から出てきた二人も白石と銀に気づいた。
「あー!!白石と銀やー!!」
白石と銀を見つけ、金太郎は嬉しそうに二人に駆け寄る。銀の姿を見て財前はドキっと胸
が高鳴る。白石も同じように金太郎を見て、胸が高鳴るのを抑えられないでいた。
(何で師範こんなところに・・・まさかさっきの今で会うと思わないやないか。)
(次、金ちゃんに会うたらって考えとったけど、まさかこんなに早く合うとは・・・まだ
全然心の準備出来てへんで。)
先程金太郎や銀と話したことを思い出し、財前も白石もドギマギとしていた。そんなこと
などお構いなしに、金太郎は白石に抱きつき、一緒に帰りたいとねだり始める。
「なあなあ、白石ぃ、一緒に帰ろうやー。」
「べ、別にかまへんけど・・・なあ、銀。」
さっきの話を思い出し、銀は気をきかせて、白石と金太郎を二人きりにしてやろうと考え
る。
「あっ、ちょっと財前はんに用があったんや。せやから、二人で帰ってもらえんやろか。」
『えぇっ!?』
銀の言葉に白石と財前は同時に声を上げる。四人なら特に意識することはなく、先程の話
は次の機会にとなるはずだったのが、二人きりになるとなってはそうはいかない。
「へぇ、そうなん?ほんなら、白石、二人で一緒に帰ろう。銀、財前、また明日な!」
「えっ、ちょっ・・・」
「お疲れ様。ほんなら、財前はんちょっと付き合ってもろてもええか?」
「えっと・・・はい。」
白石と金太郎を置いていく形で、銀は財前を連れてその場を去る。金太郎と二人きりにさ
れた白石も、銀に連れて行かれた財前も、もう気が気ではなかった。
(ちょっ・・・銀の奴、この状況で金ちゃんと二人きりにするなんて、どないせいっちゅ
うねん!どないしよう・・・メッチャ心臓ドキドキしとる。)
「白石ぃ?どないしたん?腹でも痛いんか?」
「別にそんなことあらへんで!」
「ホンマに?何やさっきから変やで?」
「だ、大丈夫や!何も問題あらへん!」
自分に言い聞かせるように、白石はそう呟く。とりあえず、自分達も歩かないとというこ
とで歩みを進める。
「あんなー、さっき財前とオモロイ話してたんやで。」
「どんな話しとったん?」
「財前が銀のこと好きなのに、好きって言わへんから言ったらええやん!って話してん。」
「っ!!へ、へぇ・・・そうなん?」
通学路を歩きながら、金太郎は先程財前としていた話を白石に話す。まさかそんな話を金
太郎と財前がしているとは思わなかったので、白石は自分のことのようにドキドキしてし
まう。
「ワイは白石にちゃんと伝えてるもんな!ワイは白石のことメーッチャ好きやで!」
ニコニコと満面の笑みを浮かべ、好きだと伝えてくる金太郎に、白石は素直にときめく。
しかし、金太郎の伝えてくる好きが自分の感じている好きとは少し違うかもしれないと、
白石は胸がぎゅっと締めつけられるような気分になる。
「金ちゃんの言う好きは、みんなに言うてる好きと、きっと同じやろ?」
「ちゃうで。白石に言う好きは特別な好きや!他のみんなとおるのもメッチャ楽しくて好
きやけど、白石とはもっともーっとずっと一緒にいたいと思うし、白石が困っとったら、
ヒーローみたいに助けたいと思うし、手ぇ繋いだり、ぎゅってしたりしたいと思う好きや。
せやから、白石は特別な好きなんやで!」
「金ちゃん・・・」
それはきっと自分の感じている好きと同じだと、白石は気がつく。そんな好きな気持ちを
金太郎はこんなにもハッキリと嬉しそうに伝えてくれる。好きな相手に好きだと言っても
らえる喜び。それを金太郎にも返してあげようと、白石は金太郎の頭をくしゃっと撫でた。
「白石?」
「俺もな、金ちゃんのこと大好きやで。」
「ホンマに!?メッチャ嬉しいわ!」
「しかも、金ちゃんと同じ特別な好きや。金ちゃんとはもう十分仲がええと思うとるけど、
俺としては、もっと金ちゃんと仲良うなりたいと思っとるで。」
そんな白石の言葉を聞いて、金太郎は目をパチクリとさせ、驚いたような表情を見せるが、
次の瞬間、大輪の花が咲いたように顔いっぱいの笑顔になる。
「ホンマに!?ホンマやな!?白石に好きって言われてもうメッチャ嬉しい!!ワイも白
石ともっと仲良うなりたい!!」
白石に抱きつきながらピョンピョンと跳ね、全身で嬉しさを表現する。自分の想い人は何
て可愛らしいのだろうと思いながら、白石はふっと顔を緩ませる。
「せや!」
「どないしたん?金ちゃん。」
「白石の好きは特別な好きなんやろ?ほんなら、ちゅーしてもええ?ちゅーしたら、もっ
と仲良うなれるやん!」
思ってもみない金太郎の提案に白石の心臓はドキンと跳ねる。さすがにそれはと、白石は
顔を真っ赤にして、困ったような反応を見せる。
「い、いや、さすがにそれは・・・・」
「えー、何でやー。白石とちゅーしたいー。」
いつもの駄々っ子のような口調で金太郎は白石にそう訴える。それがまたひどく可愛らし
く見えてしまい、白石は葛藤する。
「俺、ファーストキスになるんやけど・・・」
「ワイもやで!」
「そういうのは好き同士でせんといかんで。」
「せやから、ワイと白石は好き同士やろ?何が問題なん?」
先程の流れ的には確かにそうなる。実際のところ、金太郎とキスすること自体は嫌でも何
でもない。しかし、さっきの今で心の準備が出来ていないのだ。ドキドキとしながら悩ん
でいると、金太郎が子供らしい真っすぐでキラキラとした瞳で見上げてくる。
(こないに純粋な目でそんなこと言い出すのホンマに何なん?もうダメとか嫌だとか言え
へんやん。)
「はあ、しゃーないなあ。」
「してもええの!?」
「ほ、ほんのちょっとだけやで!今、人はおらんけど、いつ誰が来るかも分からんし。」
「おん!ほんなら、ちょっとだけ屈んで、白石。」
金太郎の顔が自分の目の前に来るくらいの場所まで白石は屈む。白石の顔が目の前に来る
と金太郎は、その頬を両手で挟み、ちゅっと軽く唇が触れるだけのキスをした。
(うわ、ホンマに唇当たっとる。ヤバイ、俺、今金ちゃんとキスしとるんや。)
白石に言われた通り、ほんの少し口づけただけで、金太郎はすぐに唇を離す。しかし、そ
れだけのことでも白石の胸はこの上なくときめき、鼓動が速いリズムを刻んでいた。
「白石とちゅーしたで!これでもっと仲良うなれるな!」
「せやな。」
ほんの少しだけ顔を赤く染めながらニッと笑い、金太郎はそんなことを言う。その言葉に
白石も照れながらも頷いた。
「あんなぁ、白石、もう一つお願いがあるんやけど。」
「今度は何や?」
「今日、白石んちに泊まりたい。もっと白石と一緒にいたいねん。」
「俺は別にかまわへんけど、ちゃんと家には連絡しぃや。」
「する!ちょっと待ってな!」
ポケットからスマホを出すと、金太郎は家に電話をかける。白石の家に泊まることを連絡
すると、ニパっと白石に向かって笑いかける。
「泊まってもええって。よっしゃー、今日はまだ白石と一緒にいられるで!!」
「そんなに嬉しいか?」
「嬉しいに決まっとるやん!はよ、白石んち帰ろ!」
そうと決まれば、早く白石の家に行きたいと金太郎は白石の手を掴んで、引っ張るように
駆け出そうとする。
「ちょっと、金ちゃん・・・」
少々強引な金太郎に苦笑しながらも、白石はこの後も金太郎と一緒にいられることを非常
に嬉しく思っていた。
(銀の言う通り、自分の気持ち伝えてよかったな。)
金太郎との距離が少し縮まったのを感じ、白石の胸はほっこりと温かくなる。夕日が照ら
す道を二人で歩きながら、白石と金太郎はまだ二人きりでいられるこの時間を心から楽し
んだ。

白石と金太郎と公園前で別れた銀と財前は、商店街にある甘味処にやってきていた。
「すまんなあ、財前はん。急に連れ出してもうて。」
「別に構わないっスわ。ちょうど白玉ぜんざい食いたいと思ってましたし。」
「金太郎はんとタコ焼き食べてたんと違うんか?」
「俺自身はそんなにタコ焼き食いたいわけやなかったんで、ほとんど遠山が食ってます。
おかげで、師範と甘味処で好きなもん食えてるんで、それでよかったと思うてます。」
「そうか。ほんならよかった。」
白玉ぜんざいを食べながら、財前はじっと銀を見る。公園で金太郎が話してくれたことを
思い出し、何となく恥ずかしくなってくる。
「どないしたん?ワシの顔に何かついとるか?」
「いや、そういうわけやないっスけど・・・公園で遠山が変な話してきて・・・」
「変な話?どないな話や?」
そんなことを言ったら、銀がそう返してくるのは分かっていたにも関わらず、公園で金太
郎と話したことを思わず話題に選んでしまったことを後悔した。
「いや、その・・・大した話やないんスけど・・・・」
「気になるなあ。そこまで言うたなら聞かせてもらおか。」
そう聞かれたら、話さないわけにはいかないと、財前は銀にだけ聞こえるような小さな声
で金太郎から聞いた話を話し始める。
「遠山が、師範が俺のこと、素直で照れ屋で可愛いって言ってるとか・・・俺が元気ない
ときは、頭撫でてやりたいとか一緒にいてやりたいと思ってるとか・・・・言っとったん
スよ。」
「なっ・・・」
「ホンマなんですか?師範。」
別に追及したいとは微塵も思っていなかったのだが、ついそんな言葉が口をついて出てし
まった。銀にしては珍しく動揺し、困った表情をしている。確かに金太郎にそんな内容の
話をしたが、まさか本人に伝えられてしまうとは思っていなかった。
「・・・確かに、金太郎はんにそんなような話はした気がするな。」
「そうっスか。」
いつも通りクールな返事をしたつもりなのだが、財前の顔は真っ赤に染まっていた。それ
に気づいて、銀もひどく恥ずかしくなる。
「そないなこと言われても、財前はん困ってまうな。すまん。」
「別に謝ることやないです。正直、遠山からその話聞いたときは、信じられへんと思った
けど、師範の口からその話が本当だって聞いて・・・結構、いや、かなり嬉しいと思って
ますんで。」
「財前はん・・・」
「いや、もちろん他の先輩らやったらありへんし、キモイッスわーって一蹴すると思うん
やけど、師範なら、むしろ嬉しいというか・・・上手く言えへんのやけど・・・」
一生懸命に財前が自分の気持ちを伝えてくるのが愛おしくて、銀はその大きな手で無意識
に財前の頭を撫で、感謝の言葉を述べる。
「おおきに。財前はん。」
「師範・・・」
財前が真っ赤な顔で自分を見上げてくるのに気づいて、銀はパッと慌てて頭の上に置いて
いた手を離す。
「あっ、すまんな。断りもなしにこんなことしてしもうて。」
「せやから、謝らんといてください。嫌やないんですってば。師範に頭撫でられるんも師
範と一緒おるんも。俺が嫌がるかもと思って出来ないってことも遠山から聞きました。師
範がしてくれることなら、俺は何も嫌やないんです。」
銀の学ランの袖口を掴みながら、財前は必死で自分の想いを訴える。自分に対して必死に
なっている財前の姿を見て、銀の胸はひどく高鳴る。
「だって俺は、師範のこと・・・」
勢いで告白しそうになり、財前はギリギリのところで口を噤む。このままこの想いを伝え
てしまっていいのかと頭の中で葛藤していると、金太郎の言っていたことが頭をよぎる。
自分と銀の距離をもっと縮めたい。そんな想いが心の奥底から湧き上がり、ギリギリ銀に
聞こえるか聞こえないかの小さな声で言葉を続けた。
「好き、やから・・・」
(言ってもうた。あー、もうアカン・・・)
恥ずかしさと銀がどんな反応を返すのか分からない不安感で、財前は涙目になっている。
今にも泣いてしまいそうな財前を見て、銀はもう一度財前の頭をポンポンと撫で、こそっ
と財前の耳元で自身の想いを囁く。
「ワシも財前はんと同じ気持ちやで。」
その言葉を聞いて、財前はばっと顔を上げる。先程までの不安感は綺麗さっぱり消え去り、
激しい胸のときめきと嬉しさでいつもは低い体温がみるみる上がっていくのを感じる。
「・・・ホンマですか?師範。」
「ああ。ホンマや。」
「うわ・・・どないしよ。メッチャ嬉し・・・」
両手で顔を覆って、財前は銀の放った言葉を噛みしめる。予想以上に財前が可愛らしい反
応を見せるので、銀の胸も財前と同じくらいかそれ以上にときめいていた。
「財前はん。」
「はい。」
「これからもっと仲良うなれるとええな。」
「っ!!・・・はい。」
穏やかな口調で銀はそう口にする。その銀の言葉がどうしようもなく嬉しくて、財前は口
元を緩ませながら頷く。ときめきが治まらないまま口に運んだ白玉ぜんざいは、先程より
も何倍も甘く幸せな味を財前の舌にもたらした。
「だいぶゆっくりしてしてもうたな。そろそろ帰らなアカンか。」
「そうっスね。」
「ここはワシが奢ったる。財前はんから嬉しいこと言うてもろたしな。」
「えっと・・・ありがとうございます。」
銀に奢ってもらい、財前はドギマギしながらお礼を言う。甘味処を後にすると、ゆっくり
と家の方角に向かって歩き出す。
「何やこの感じアレやな。」
「何スか、アレって。」
「放課後デートみたいやな。」
「なっ・・・あっ・・・」
銀の口から出る『放課後デート』という単語に財前はボンっと火がついたように赤くなる。
「はは、今日の財前はんはすぐ顔真っ赤になって、いつもより体温高そうやな。」
「ぜ、全部、師範のせいですわ。」
「ワシだって、財前はんのせいで今日はもう煩悩まみれやで。」
「そうなんスか?」
「そりゃそうやろ。自分が好きやと思うとる相手に好きやと言われたんやで?」
甘味処では『同じ気持ち』という言葉で表現されたその言葉をさらりと銀は口にした。も
う一度その言葉が聞きたくて、人の通りがほぼなくなった場所で財前は立ち止まり、銀の
学ランの裾を掴む。
「師範、一つだけわがまま言うてもええですか?」
「ええで。どないしたん?」
「師範が俺のことどう思うてるか、もう一度だけでいいんで、言うて欲しいです。」
何て可愛いわがままだと思いながら、銀はふっと微笑みながらその言葉を口にする。
「ワシは財前はんのこと、好きやで。」
「俺も師範のこと、メッチャ好きです!」
銀にその言葉を言われ、溢れる想いを抑えきれず、財前は今度はハッキリとその言葉を銀
に伝える。少し驚きながらも銀はその表情をほころばせ、財前の頭に手を置き、優しく髪
を撫でる。
「おおきに、財前はん。今日はホンマにええ日や。」
「俺も、そう思うとります。」
「これからは、何も心配せずにこないに頭撫でたり、一緒におったり出来るんやなあ。」
「当然やないですか。今までだって、ホンマはよかったんスから。」
照れながらもそう返してくれる財前を銀は心から愛おしく思う。
「何や寮に帰るの惜しいなあ。」
「師範でもそんなこと思うんスね。まあ、俺もそう思うてますけど。」
「はは、財前はんはホンマに素直でかわええなあ。」
「そんなん言うの師範だけですわ。」
本音と冗談を交えてて、銀と財前はそんな会話を交わす。ほんの少しの沈黙があった後、
銀が口を開く。
「・・・財前はん、ワシからも一つわがまま言うてもええやろか。」
「何です?」
「今日はワシの寮で一緒に夕飯食べへんか?まあ、さっき白玉ぜんざい食うとったから、
そんなすぐには食べれへんかもしれんけど。」
「ええんですか?」
「もちろんや。」
「そんなん行くに決まっとるやないですか。家族には先輩と夕飯食べるって連絡しとくん
で、問題ないです。」
「即答やな。ほんなら、一緒に寮に帰ろか。」
「はい。」
まだ銀と一緒にいられるという状況に、財前は顔が緩むのを抑えられなかった。もう少し
続く二人で過ごす時間。今日はなんて幸せな日だろうと思いながら、二人は夕闇が広がる
寮までの道のりを心を躍らせながら歩むのであった。

                                END.

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