曲種の日

「あっ!」
「急に何だし?」
部屋でスマホを弄っていた種ヶ島は何かに気づいたような声を上げる。その声を聞いて、
本を読んでいた大曲は種ヶ島の方を見た。
「見てみぃ竜次。今日は俺らの日やで☆」
「どういう意味だし?」
種ヶ島が見せてきたスマホにはカレンダーが表示されていた。今日の日付は『6月2日』
だ。種ヶ島の誕生日にはある程度近いが自分に関係ある日付とは思えない。何故今日が自
分達の日であるのか、大曲は理解していなかった。
「竜次はGenius10の中で、No.6やろ?で、俺はNo.2。せやから、6月2日の今日は俺ら
の日や。」
「あー、なるほど。」
種ヶ島の説明を聞いて、大曲は納得する。しかし、それならば、月と日が逆でもいいので
はないかと思えてしまう。
「それだったら、2月6日もそうなるんじゃねぇの?」
「あはは、確かにな。まあ、そんときは気づかなかったから、今日を俺らの日ってことに
しとこか。」
「まあ、どっちでもいいけどよ。」
「竜次、ちょっとスマホ貸して。」
「はあ?何でだし?」
「ええやん。ちょっとだけやから。」
「しゃあねーなあ。」
何がしたいのか分からないが、大曲は自分のスマホを種ヶ島に渡す。慣れた手つきで大曲
のスマホを操作すると、実に楽しそうな顔で大曲にそれを返した。
「記念日登録しといたったで☆」
「何勝手なことしてるんだし。」
呆れたような口調でそう返すものの別に怒るようなことではないと、大曲はスマホをその
ままポケットにしまった。そんな大曲を見て、種ヶ島はふっと笑う。
「記念日登録なんかせんでも、竜次は一度こういう話したら、ちゃんと覚えててくれそう
やんな。」
「どうだろうな。」
「まあ、俺らがここにいて、No.6とNo.2の期間なんてメッチャ短いやん。少なくとも来
年にはU-17ではなくなるし。せやから、ホンマ今ならではの記念日やな☆」
種ヶ島の言うことが間違っていないので、大曲はこういう記念日も悪くないかと素直に思
う。
「どう考えてもお前としか祝えねぇ記念日だけどな。」
「そこがええところやん。竜次と俺の日やもん。二人で祝うんが当然やろ?」
この記念日を二人で祝うことが当然であるかのような話を大曲も種ヶ島もする。来年以降
一緒にいるのかどうかは分からないが、今を楽しむことが得意な二人は二人だけの記念日
を見つけたわくわく感を素直に楽しんだ。

それから数年後、あのときとは違う場所で、大曲と種ヶ島は『6月2日』を二人で過ごし
ていた。もちろん何もせずとも覚えてはいるが、種ヶ島が設定した記念日を知らせるアラ
ームが大曲のスマホから鳴り響く。
「おい。」
「何や?竜次。」
「今日は・・・」
「今日?何かあったっけ?」
悪戯な笑みを浮かべながら、種ヶ島はとぼけたようなことを言う。もちろん種ヶ島がわざ
とそんなことを言っているのは百も承知なので、大曲は呆れたような溜め息をついて、一
人で出かける準備をする。
「一緒に行かねぇなら、俺一人で出かけるし。」
「嘘、嘘!冗談やって!もー、忘れるわけないやん。今日は竜次と俺の記念日やで☆」
「だったら、さっさと出かける準備しろや。」
「ちゃーい☆」
大曲に言われ、種ヶ島も出かける準備をする。どちらもいつもより少しおしゃれをし、街
へと繰り出す。
「竜次、今日の予定は?」
「とりあえず、昼飯は担々麺食って、お前の行きたい店で買い物でもして、夜は沖縄料理
でも食いに行くか。」
「てびち食わんとな!」
「そのための沖縄料理だし。」
「昼は竜次の好きなもん食べて、夜は俺の好きなもん食べるとか最高やんな!」
うきうきとした様子で隣で笑っている種ヶ島を見て、大曲はふっと笑う。
「今日は俺とお前の日なんだろ?」
「せやで☆でも、こんなに毎年竜次が一緒に祝ってくれるなんて、思ってへんかったわ。」
満面の笑みでそう言ってくる種ヶ島を見て、大曲はほんの少しだけ赤くなる。
「お前がそういう顔して喜ぶからだし・・・」
ぼそっとそう呟きながら、大曲はふいっと種ヶ島から目をそらす。
「えっ?何て?」
「別に何でもねぇし。」
「今年もこうやって今日を竜次と過ごせるのメッチャ嬉しいわー。大好きやで、竜次☆」
「デカ勘弁しろし。」
あのとき変わらない雰囲気で、二人は今日の日を過ごす。高校生のときに思いつきで作っ
た記念日。そんな記念日を変わらない想いを抱きながら、二人は今年も楽しく過ごすので
あった。

                                END.

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