満月とレム

大きく丸い月が夜空に浮かぶ夜、越知は窓から月を見ながらなんとなくもやもやする気分
を持て余していた。もやもやと言っても何かに対してイライラしてるわけではない。無性
にそういうことをしたい感覚、簡単に言ってしまえば、ムラムラした状態なのだ。
(たまには仕方のないこととはいえ、どうしたものか・・・・)
この感覚をどう処理しようかと考えていると、テレビを見に行っていた毛利が部屋へ戻っ
てくる。
「月光さん、ただいま戻りましたー。」
「ああ、おかえり、毛利。」
いつも通りのやりとりだが、越知の様子がいつもとは違うことに毛利はすぐに気がつく。
もちろん毛利以外は気づけないほど、傍目から見れば越知はいつも通りであった。部屋の
ドアを閉めると、毛利は越知のもとへ駆け寄る。
「どないしはったんですか?月光さん。」
「何がだ?」
「体調悪いんですか?それとも何か怒ってます?」
「さして問題はない。」
そう言いながら、越知は毛利を見る。その瞬間、毛利の体が強張った。自分では全く意識
していないのだが、どうやら精神的重圧を与えるような視線になっているらしい。
「すまない。別に怒っているわけではないのだが・・・」
「い、いや、大丈夫です。でも、ホンマに大丈夫ですか?俺に何か出来ることがあれば、
何でもしますよ。」
精神的重圧を感じながらも、心配そうにそんなことを言ってくる毛利に越知の胸は高鳴る。
いつもならそれだけで済むのだが、今日はもう一つ違った感情が付随してしまう。
(こんな状態で毛利に触れてしまうのはまずい。ああ、でも・・・触れたい。)
ただ一目見るだけで、こんなにも精神的重圧を与えてしまうのだ。そんな状態で触れてし
まえば、毛利にかかる負担は大変なものになってしまう。それが分かっているのだが、ど
うしようもなく毛利に触れたい。そんな葛藤が越知の中でぐるぐると巡る。
「あの・・・月光さん・・・」
「何だ?」
毛利の方をなるべく見ないようにしながら、越知は答える。越知が頭の中でぐるぐると様
々なことを考えている間に、毛利は越知が今どのような状態なのか気づいてしまった。状
況が状況故、ある部分に目をやればそれが分かってしまうのだ。
「違ったらすんません。月光さん、もしかして、その・・・エッチなことしたいとか、そ
ういう気分になっとります?」
「っ!!」
毛利に指摘され、越知の顔は赤くなる。内心かなり動揺しているのだが、口から出る言葉
とその表情は、ごく冷静で盛っているとは思えないものだった。
「生理現象なので仕方ないとは思っているが、そういうことだ。戻ってきたばかりなとこ
ろすまないが、少し部屋を空けてくれないか?」
「そんなんやったら、俺、全然相手しますけど。」
「いや、今日はそういう気分が強すぎて、コントロールが出来なさそうだ。だから、お前
に付き合ってもらうというのは・・・」
「付き合います!」
越知の言葉が言い終わる前に毛利はキッパリと言い放つ。困ったような表情で、越知は毛
利を見る。やはりその視線は強すぎて、毛利を怯ませてしまう。しかし、そんなことを告
白されて何もしないわけにはいかないと、毛利は少し考える。
「今は視線のコントロールも出来ないのだぞ。」
「それは俺が弱いからで・・・あっ、せや!」
「?」
「俺も本気出してもええですか?レム状態なら、月光さんの視線も全然平気やと思うんで
す。そしたら、月光さんの顔、しっかり見ながら出来るやないですか。」
いいアイデアを思いついたと、毛利は楽しげにそんなことを言う。確かにレム状態の毛利
は自分の視線など意に介さないはずだ。
「しかし、レム状態というのは眠っている状態ではないのか?」
「眠っている状態と同じなだけで、ちゃんと動けますし、たぶん大丈夫と思います。変な
こと言うかもしれんけど。それに、月光さんの本気モードでしてもらうって、なかなかな
いやないですか。月光さんいつもはメッチャ優しいから。」
「本当にいいのか?」
「ええです。ね、月光さん。しましょ?」
どうやら毛利もかなりそういう気分になってしまったらしく、キラキラとした瞳でそんな
ことを言ってくる。もともとそういう気分になっていた越知はそんな毛利に耐えられず、
その誘いに頷くしかなかった。

数秒でレム状態になれる毛利は、すっとそのモードになり、一度閉じた目をゆっくり開く。
深い眠りと同じ脳波の状態ではあるが、その身体はまるで起きているかのように振る舞う。
どこからか髪を留めるためのピンを取り出したかと思うと、毛利はご機嫌な様子で越知の
前髪を上に上げるように留め始めた。
「何をしているんだ?毛利。」
「この方が月光さんの顔がよく見えよるから。やっぱ、月光さんの顔、メッチャかっこえ
え。」
うっとりとした笑顔で毛利は呟く。前髪で隠れていない、しかも熱を持った瞳で毛利を見
つめるが、毛利は少しも怯んだり怯えたりすることはない。レム状態はさすがだと感心し
ながら、越知は毛利の顔に触れる。
「だったら・・・」
「何ですか?」
「その目を閉じずにしっかりと俺の目を見ていろ。」
そう言いながら、越知は毛利に口づける。意識があるのかないのか分からない状態である
が、毛利は越知に言われた通り目を開けたまま、その口づけを受け入れる。
(本当に目を開けたままでいるな。しかし、レム状態で見えているものなのだろか。)
そんなことを考えながら、越知は毛利の唇と舌をゆっくりと味わう。前髪が邪魔をしない
で見る毛利の顔は、いつも以上に明るく魅力的に見えた。
「んんっ・・・んぅ・・・・」
ほぼゼロ距離での越知の瞳に、毛利の鼓動は速くなっていく。深い睡眠状態と同じである
がゆえに、越知に見つめられたとしても怖いと感じることはないし、過度に緊張すること
もない。しかし、意識としてそう感じないだけで、猛獣さえも大人しくさせる越知の視線
は、毛利の無意識に精神的重圧をじわじわと与えていた。
「ハァ・・・んんっ・・・んっ・・・!んんっ・・・!」
深い口づけをしばらく続けていると、毛利は甘い吐息を漏らしながら、ビクビクと身体を
震わせるようになる。まるで、一番感じる場所に触れているかのような反応を見せる毛利
に越知は興奮してきてしまう。
「キスだけでそんなに感じているのか?」
ほんの少しだけ唇を離し、そんなことを尋ねてみると、毛利は呼吸を乱し、恍惚とした表
情で答える。
「キスも・・・メッチャ気持ちええんですけど、それ以上に月光さんの目見てると・・・
身体の奥がぞくぞくして、何や頭の中が気持ちええ感じでいっぱいになるんですわ。」
越知の眼力によって、意識では感じられないが精神的に追い詰められているのと同じ状態
になっている。そんな状態の回避行動として、毛利の無意識は脳内麻薬を分泌させ、越知
の目を見るまたは越知に見つめられるという状況に快感を感じるように変換していた。
「そうか。」
「せやから、月光さん。」
「何だ?」
「今日は・・・ぎょーさん俺のこと見といてください。」
口元に笑みを浮かべながら、毛利は言う。レム状態のせいなのか、その笑みはどこか妖し
さを含んで見える。すっと越知から離れると、毛利は着ている服を自ら脱いでいき、上は
軽くシャツを羽織る状態、そして、下は何も身につけていない状態になり、椅子に座った
ままの越知の足を軽く開かせる。そして、その間に座るように膝をつき、越知のズボンに
手をかけた。
「月光さんのもうこんなになってるやないですか。」
「毛利・・・」
「月光さん、ちゃんと見といてくださいね。」
そう言いながら、毛利はかなり大きくなっている越知の熱を口に含む。濡れた感触と熱い
舌。毛利の口内に包まれた越知のそれはさらにその大きさを増す。
「んっ・・・」
口の中でさらに大きくなった越知の熱に毛利は多少の息苦しさを感じつつ、嬉しさも感じ
る。じゅぷじゅぷと頭を動かしていると、上から越知の荒い息遣いが聞こえる。
「ハァ・・・毛利。」
ちらっと越知の顔を見ると、紅潮した顔で自分を見下ろしている。普段なら前髪で隠れて
いる両方の瞳が自分に向けられているのを見て、毛利はぞくっと下半身が熱くなるのを感
じる。越知の熱が高まっていくのと同時に毛利の熱も高まっていく。
(毛利が俺のものを口でしてくれている・・・・ああ、もっと奥に・・・)
普段なら毛利のことを気遣い、そこまで無理はさせないのだが、今日は本気モードになっ
ていることもあり、つい自分の欲求を優先させてしまう。精神的重圧を十分に与えるよう
な視線のまま、毛利の髪を掴み、もっと奥へと入れるように頭を押しつけた。
「んっ・・・ぐ・・・っ!」
口の奥ギリギリまで入ったそれに咽そうになるが、レム状態ということもあり、毛利はそ
こまで苦しそうにはしない。むしろ、多少乱暴にされていることにぞくぞくしてしまい、
普段は感じられない快感を感じてしまう。
「毛利っ・・・」
髪を掴まれたまま、喉の奥に熱い雫が放たれる。普通に起きている状態では、間違いなく
咳込んでしまうような状況であるが、ほぼ眠っているのと同じ状態がゆえに放たれるまま
嚥下し、気づけば自分自身も達してしまっていた。越知の出したものを飲み込んだという
感覚と先程から治まらない快感。ほぼ無意識状態の毛利は、ぺろりと唇を舐め、目を細め
ながら嬉しそうに呟く。
「月光さんのせーえきうまぁ。メッチャええ気分や♪」
普段の毛利なら言わないようなセリフに越知の心臓はドキっと跳ねる。あんなことをした
にも関わらず、嬉しそうに笑っている。これでは本当にいろいろ我慢出来なくなってしま
うと、越知は困惑しつつも、その口元は上がっていた。
「毛利。」
「はい、月光さん。」
「今日は俺に見てて欲しいのだろう?」
「はい!」
「だったら、今日は自分でココを慣らしてみせろ。」
長い指で毛利の双丘の中心に触れながら、越知は言う。もちろん普段の越知であれば、こ
んなことは言わない。しかし、普段とは違う毛利の様子と自身の眼力を存分に使えるとい
う高揚感からそんな言葉が口をついて出た。そんな越知の言葉に毛利は頷き、越知の向か
いにある椅子に腰かける。その座面の端に爪先を乗せるようにして足を開くと、利き手の
指を舐め、まだ閉じているそこに指を持っていく。
「んっ・・・あ・・んっ・・・!」
自らの指が入ると、毛利の身体はピクンと跳ねる。その表情に羞恥の色は見てとれず、何
の躊躇いもなしにその指を動かし始めた。
「あっ・・・ん・・ぁ・・・月光さんっ・・・」
「・・・・・。」
「はぁ・・・月光さん・・・月光さんっ・・・」
自らそこを弄りながら、いつもより幾分高い声で何度も名前を口にする。予想以上に刺激
的な光景に、越知の心臓は壊れそうなほど高鳴り言葉を失う。毛利を映すその瞳は、いつ
も以上に鋭い眼光で毛利の姿を捉えていた。そんな越知の視線を感じ、毛利の身体はさら
に敏感になっていく。
「あっ・・・ああっ・・・ハァ・・・んんっ・・・!」
越知に見られているということが、毛利に果てしない快感をもたらす。羞恥心など余計な
感情を感じない無意識のレム状態では、ただただ本能に従い、身体は気持ちよさを求めよ
うとする。いつの間にか毛利の蕾を弄っていた指は数本に増やされ、越知のモノを受け入
れる準備が整ってきていた。
「ひあっ・・・月光さん・・・も・・イ・・・クっ・・・!!」
中を弄る刺激と越知の視線に耐え切れず、毛利はビクビクとその身体を震わせ吐精する。
(これは思った以上に・・・・)
まるで自分を想いながら自慰をしている毛利を見ている気分になり、越知はどうしようも
なく興奮し、呼吸が荒くなる。すぐにでも自分のモノを毛利の中に埋めたいと思っている
と、ストンと椅子から降り、毛利の方から近づいてくる。
「月光さん・・・」
「毛利・・・」
「月光さんに見られるのメッチャ気持ちよくて、たまらんです。もうたぶん入ると思うん
で、今度は月光さんので、気持ちようしてください。」
座っている越知の足を跨ぐと、毛利は越知の熱を自分の中に入れるようにしてゆっくりと
腰を下ろす。
「んっ・・・はぁ・・・・」
越知の首に腕を回し、床から足を少しだけ離す。床にかかっていた体重が接合部に集中し、
越知の熱は一気に毛利の中へと入っていく。
「ああっ・・・ああぁ―――っ!!」
「・・・・っ!!」
「ハァ・・・月光さんの・・・・大きい・・・中、あっという間にいっぱいや・・・・」
「お前の中は狭いな。それがひどく気持ちいいが。」
「今日は月光さんの顔ぎょーさん見られて・・・嬉しいです。」
いまだに前髪を上げたままの越知の顔に触れ、毛利は嬉しそうに呟く。その笑顔と言葉に
胸を撃ち抜かれ、越知はぎゅっと毛利を抱きしめる。
「あまりそんなことを言われると、優しく出来なくなってしまうぞ。」
「ええです。月光さんになら、優しくされても激しくされても嬉しいですもん。」
「本当にお前には敵わないな。」
すぐ目の前にある毛利の顔に、自分の顔をさらに近づけ、越知はキスをする。ちゅっと触
れるだけのキスを一回した後、あの言葉を口にし、もう一度口づける。
「目は開いたままでいるんだぞ、毛利。」
「はい。」
目を合わせたままの深く甘いキス。そこまで激しく動くことは出来ないが、近すぎる越知
の視線と内側を擦る越知の熱に、毛利の身体はとろけるほどに熱くなる。次第に高まって
いく快感は越知にも伝わり、毛利の内側も越知の熱もその心地よさに震えていた。
「はっ・・・月光さ・・ん・・・月光さんっ・・・・」
「ハァ・・・そろそろイキそうか?」
「んっ・・・は・・い・・・・」
「それならば、一緒にイクか。」
越知の言葉に毛利はこくこくと頷く。お互いの身体を掻き抱き、絶頂の中お互いの名前を
呼ぶ。
「ああっ・・・月光さん・・・―――っ!!」
「毛利っ!!」
激しく脈打つ鼓動が重なり合い、呼吸と熱が混じり合う。二人が一つになる心地よさと多
幸感。いつもとは一味違ったふれあいをどちらも心から楽しんだ。

行為を終えると、毛利はそのまま眠ってしまう。もともと眠っているようなものではあっ
たが、ベッドに運んでやると、しっかりと瞳を閉じ、穏やかな寝息を立てて眠りについた。
椅子の周りを片付けながら、越知は先程までしていた行為を思い出す。
(もともとそういう気分であったとはいえ、毛利にはかなり無茶をさせてしまったな。)
そんなことを考えているが、反省はすれども、後悔はなかった。毛利が帰ってくる前に感
じていたもやもや感は綺麗さっぱりなくなっている。
「片付けはこんなものか。」
あとは軽く手を洗いに行こうと、洗面所へと向かう。夜も遅い時間であるため、廊下は静
まりかえっていた。手を洗いながら鏡を見ると、前髪が上げられた自分が映っている。
(他の者が怖がるからと前髪で隠していたが、この顔を見てあんなことを言ってくれると
はな。毛利は様々なことを気づかせてくれる。)
前髪を留めている髪留めを外し、越知はいつも通りの髪型に戻す。やはり毛利のことは好
きであるし、大切な存在であるということを再確認しながら、越知は自分の部屋へと戻っ
た。

次の日の朝、毛利はいつもより早くすっきりと目覚める。
「んー、よく寝た。何や今日はすっきり起きれたな。」
大きく伸びをしながら毛利はそんなことを呟く。一足先に起きていた越知は毛利が起きた
ことに気づき、気遣うように声をかける。
「おはよう、毛利。体は特に問題ないか?」
「はい!むしろ、いつもよりすっきりですわ。」
「そうか。」
朝練に行く準備をしながら、越知は少し気になっていることを毛利に尋ねる。
「毛利。」
「何です?」
「お前はその・・・昨日のことは覚えているのか?」
「あー、あんまりちゃんとは覚えてないです。レム状態だとどうしてもそうなってまうん
ですよね。あ、でも・・・」
「何だ?」
「月光さんとしてる間、ずーっとメッチャ気持ちよかったってのと、月光さんの顔がメッ
チャかっこよかったってことは覚えとりますよ。」
はにかむように笑いながら、毛利はそんなことを言う。どうしてまたこんなにも可愛らし
いことを言ってくれるのかと、越知はドキドキしてしまう。
「月光さん。」
「どうした?」
「もう一回、月光さんの顔見せてもろてもええですか?」
そう言いながら、毛利は越知の前髪を両手で上げる。今日はそれほど強い視線ではないが、
越知の目は通常状態でもある程度の精神的重圧を与える。しかし、そんな越知の顔を見て、
毛利が感じたのは精神的重圧とは全く別のものだった。
(あれ?何やろ・・・何か・・・・)
身体の奥がぞくっとなり、鼓動が速くなる。しているときに感じる『気持ちいい』感覚。
何故今そんな感じがするのか分からず、毛利は混乱しながら越知の髪から手を離した。
「大丈夫か?毛利。」
「あっ・・・はい。」
「無理して見ようとするな。これから朝練なんだぞ。」
頭にハテナを浮かべながら、毛利は頷く。今まで感じたことのない感覚。昨日の夜、一体
何があったのかとドキドキしながら朝練へ行く準備をする。
(何なん!?今の感じ。月光さんの目見てたらすっごいドキドキして、ちょい気持ちええ
感じになったけど!やばない!?)
「そろそろ行くぞ、毛利。」
「は、はい。」
準備を終えると、越知を追いかけるように毛利は部屋を出る。さっきのことは後で考えよ
うとひとまずテニスに集中することにした。朝練では、越知も毛利もいつもよりかなり調
子がよく、観戦している外野から見てもそれは一目瞭然だった。
「今日はツッキーも毛利も絶好調やな☆」
「ああ。特に毛利なんかはすげぇ調子よさそうなんだけどよ・・・」
「けど?」
「お前、何か気づくことねぇのかよ?」
「んー、何やろなー。うまいこと言えんのやけど・・・ちょいえろい?」
「分かるし。何だしあの感じ。」
「特にツッキーがサーブのときとかなー。どこがとか何がとか分からんけど、そういう雰
囲気があんねんな。」
いつもとは少し様子の違う毛利に大曲と種ヶ島はそんな会話をする。これは何かあったな
と種ヶ島はわくわくした表情になる。
「朝練終わったら、ツッキーに聞いてみよか。」
「野暮なことすんなし。つーか、何で越知限定だよ?」
「竜次やって気になるやろ?たぶん毛利に聞いても分からんからやで☆」
よく分からないが観察力の鋭い種ヶ島の言うことなので、そういうものかと大曲は納得す
る。二人の練習が終わり朝練を終えると、種ヶ島は朝食に向かおうとする二人を捕まえる。
何だかんだ気になるのと、種ヶ島が余計なことをしないようにするため、大曲もついてい
った。
「ツッキーと毛利、今日は絶好調やったやん☆」
「ありがとうございます!今日は何や体が軽くて。」
種ヶ島に褒められ素直にお礼を言う毛利に、いい後輩だなーと種ヶ島も大曲もほっこりす
る。それはさておきと、種ヶ島は本題に入る。
「で、ツッキー昨日は毛利にどんなエロいことしたん?今日の毛利、メッチャエロかった
で。」
「っ!!??」
毛利は顔を真っ赤にして言葉を失い、越知は珍しく動揺したような反応を見せる。
「おいおい、聞くにしても直球すぎだし。もうちょっと考えろや。」
「えっ・・・あ・・・俺、そんな・・・」
「・・・誰が見てもそう見えていたのか?」
種ヶ島と大曲を睨むような目線で、越知はそう問う。精神の暗殺者のひと睨みは効くなあ
と思いながら、種ヶ島は答える。
「絶好調に見えたのはみんなそやろうけど、エロく見えたってのは、俺と竜次くらいやと
思うで。普通に考えたらそんなこと思わんやろうし。」
「そうか。」
少しホッとしたような表情で越知は呟く。精神の暗殺者の視線に耐えながら詳細を聞くの
はなかなか難易度が高いなあと思っていると、大曲があることに気がつく。
「おい。」
「どしたん?竜次。」
種ヶ島にだけ聞こえるような声で大曲は声をかける。黙ったまま大曲は顔で毛利の方を指
す。指摘されたことを恥ずかしがっているとは間違いなく違う毛利の表情。試合をしてい
たときよりあからさまなその感じに、二人は顔を見合わせる。
「メッチャ興味があるし、ちょっとだけ教えてーな。」
「何も話すことはない。」
茶化すような種ヶ島の言葉に越知は再び睨みをきかせる。その瞬間、毛利の肩がビクンと
跳ねるのに二人は気づく。その顔は越知の視線に怯えているというよりは、高揚している
という感じだ。このやりとりだけで、洞察力に優れた種ヶ島は越知に教えられなくとも、
二人の間に何があったのかだいたい理解した。
「なるほどな。細かいことは分からんけど、ツッキー、毛利をレム状態にさせて何かした
やろ?レム状態て無意識の状態だから、その影響が出とるみたいやで。おもろそうな試み
やけど、やりすぎたらアカンで。」
「俺も何がどうとかはよく分からねぇけどよ、たぶん毛利の近くでとか、毛利に向かって
とか、睨みをきかすようなことしない方がいいんじゃね?」
二人の言葉を聞いて、越知はハッと気づく。昨日のことを思い出すと二人の言っているこ
とに思い当たる節がある。むしろ、思い当たることしかない。
「ほな、俺らにはツッキーの精神的重圧メッチャきくから退散するで☆」
「よく分かんねぇけど、ほどほどにしとけし。」
だいたいのことが理解できて満足だと、大曲と種ヶ島は早々に退散する。二人の姿が見え
なくなると、越知はぼーっとしている毛利に声をかける。
「すまない、毛利。」
「へっ!?何で謝るんですか?」
「お前は覚えていないかもしれないが、昨日のことでお前に影響が出ているらしい。」
「修二さんの話聞いて、何や納得しました。これ、そういうことやったんですね。」
「どんな影響が出ているんだ?体に問題はないのか?」
自分でも気づいているというニュアンスの毛利の言葉に、越知は心配そうに尋ねる。少し
困ったような表情で恥ずかしそうにしながら毛利は答えた。
「別に痛いとことか辛いことがあるとかそういうわけやないんで、全然心配せんでええで
すよ。ただ、月光さんの目見たり、月光さんが睨んだりするのを見ると・・・何て言った
らええんやろ・・・?か、感じてまうというか・・・・」
恥ずかしいことを口にしている自覚があるので、毛利の顔は真っ赤になっている。そんな
毛利の言葉を聞いて、越知の顔も真っ赤に染まる。
「・・・本当にすまない。」
「謝らんでええですって!ホンマ、それだけのことなんで大丈夫ですから!」
「しかし・・・」
「ほんなら、みんなといるときはあんまり見んといてください。けど、部屋だったり、二
人きりのときなら全然構わんです。むしろ、ぎょーさん見てください。」
顔を赤らめながらも笑って毛利はそんなことを言う。レム状態の毛利にも同じことを言わ
れたのを思い出し、越知の心臓はドキドキと速くなる。そんな状態を誤魔化すかのように
越知は話題を変える。
「善処しよう。随分とここで時間をくってしまった。急いで朝食に向かわねば。」
「そうですね。早く行きましょ。」
何事もなかったかのように二人はレストランへと向かう。しかし、内心は今日一日普通に
過ごせるのかと、どちらもドキドキしていた。

満月の夜のレムのイタズラ。そのイタズラの効力はもうしばらく続くのであった。

                                END.

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