Million Loves

秋も深まり始めているとある日の夜更け、134号室の二人はまだ眠りにはついていない。
いつもはもう少し早く眠る種ヶ島も今日は全く眠る気配を見せない。
「まだ、寝ねぇのかよ?」
いつものように読書をしながら、大曲は種ヶ島に声をかける。
「今日はまだ起きてるで。ちゅーか、竜次にも起きてて欲しいんやけど。」
「はあ?何でだし。まあ、別にまだ寝る気はないから構わねぇけどよ。」
そんな大曲の返事に種ヶ島はあれ?と思う。今の時間は23時半を少し過ぎたくらいだ。
そして、今日の日付は10月26日だ。
(竜次、もしかして気づいとらんのかなー。)
日付が変われば、大曲の誕生日だ。一番にその日を祝いたいと、種ヶ島はその時間が来る
のを今か今かと待ちわびていた。日付が変わるまであと5分ほどとなった頃、種ヶ島は自
分の机の方に向かって動き出す。
「どうしたよ?」
「んー、ちょっとな。」
机の一番下の引き出しを開けて、ごそごそと何かを取り出す。何をしているのだろうと、
横目で眺めていると、種ヶ島のスマホから突然音楽が鳴り響く。
「お、日付変わったな。」
「勘弁しろし。ビックリするだろーが。」
「竜次、ハッピーバースデー。」
心から嬉しそうな笑顔を浮かべ、種ヶ島はそう口にする。よくよく聞いてみると、種ヶ島
のスマホから流れているのは、ハッピーバースデートゥユーだ。そういえば、今日は自分
の誕生日かと大曲は初めてそこで気づく。
「ああ、今日は俺の誕生日か。急にこんなことされると反応に困るし。」
「竜次の誕生日、一番に祝ってやろう思てな。はい、これプレゼントやで☆」
机の引き出しから出したと思われるプレゼントの袋を大曲に渡す。予想外にその袋は大き
く何が入っているのか全く見当がつかなった。
「随分デカい袋だな。」
「竜次に何あげたら喜んでくれるかなーって、メッチャ考えたんやけど、全然決めきれな
くて思いつくものぜーんぶ買った。」
「マジかよ。」
「とりあえず、開けてみ。」
袋の中には、さらにラッピングされたものがいくつも入っており、一つ一つ丁寧に開けて
いく。ブックカバーに栞、海の中の写真集にヘアバンド、ニッカポッカにそれとコーディ
ネート出来そうな上着など、大曲が好きそうなものが詰め込まれていた。海の中の写真集
や服に関しては種ヶ島の趣味が多少入っているが、それがまた大曲の心を掴んだ。
「こんなにいいのかよ?」
「もちろんやで。ぜーんぶ、竜次のために用意したんやからな。」
「どれもセンスいいし、俺の好きなものばっかだし、普通に嬉しいわ。ありがとう。」
素直にお礼を言われ、種ヶ島は少し照れてしまう。ほのかに頬を赤く染めて、はにかむよ
うに種ヶ島は笑った。その表情を見て、大曲は図らずもドキッとしてしまう。
「喜んでもらえたならよかったわ。」
「お前のことだから、自分にリボンでも結んで、俺がプレゼントだみたいなことやるのか
と思ってたし。」
「あはは、もし、そういうふうにしてたらどうしてたん?」
「まあ、それはそれで普通にもらってやるけどな。」
そんな大曲の言葉を聞いて、種ヶ島の心臓はドキンっと跳ねる。考えていないわけではな
かったが、勘弁しろしとスルーされるか寒すぎだしと馬鹿にされるかのどちらかだと思っ
ていたので、実行出来なかったのだ。しかし、今、大曲は普通に受け取るというようなこ
とを口にした。大曲が丁寧にほどいたラッピングのリボンを手にすると、真っ白な髪の一
部にきゅっと結んでみる。
「何してるんだし?」
「ほ、ほら、竜次の好きなものぎょうさんプレゼントとして用意したやろ?せやから、も
ひとつ竜次の好きなものプレゼントしよかなーと思て・・・」
普段の種ヶ島なら何の恥じらいもなくこういうことをやってのけるのだが、緊張からかそ
ういうことをしているわりには、どぎまぎとした様子が見てとれる。それが何だかどうし
ようもなく可愛く感じ、大曲はドキドキしてしまう。
「何だし?もう一つ俺の好きなものって。」
「・・・俺?」
自分で言っておきながら、その言葉は何故だか疑問形だ。髪につけられたリボンが無駄に
その可愛さを倍増させ、大曲の心を惑わせる。
(くそ、可愛すぎだろ・・・)
あまりに心乱されすぎて、大曲は思わず舌打ちをしていつもの言葉を口にする。
「デカ勘弁しろし・・・」
「えー、普通にもろてくれるって言うたのに・・・」
やっぱりそういう反応かとしょんぼりする種ヶ島の腕を引き、自分の方へ引き寄せると大
曲は種ヶ島の唇にキスをする。突然のことに種ヶ島の頭の中は真っ白になる。
「もらわねぇなんて言ってねぇし。お前がプレゼントってことは何してもいいんだな?」
「へっ!?え、えーと、竜次が喜んでくれるなら・・・全然構へんで?」
そういうところが勘弁して欲しいところだと心の中でつっこみながら、大曲は種ヶ島をベ
ッドに連れ込む。自分でしておきながら、こういう展開になったことに種ヶ島は非常にド
キドキしてしまっていた。

いつの間にか服は剥ぎ取られ、身に着けているものは髪についたリボンくらいになってい
た。素肌に触れる大曲の指が心地よく、種ヶ島は甘い吐息を漏らし、時折ピクンと身体を
震わせる。
「な、なあ・・・竜次。」
「何だし?」
「今日は竜次が喜ぶことしたいんやけど、どうして欲しい?」
「急にそんなこと言われても困るし。あー、なら・・・」
せっかくの誕生日なので、大曲の喜ぶことがしたいと種ヶ島はそんな質問をする。その言
葉に少々困惑気味の大曲であったが、ふと思いついたことを口にする。
「何つーか、お前はわりと普段も言う方だけどよ、好きとか愛してるとかそういう類のこ
と、たくさん言われると結構嬉しいかも。」
「そんなんお安い御用やで。あ、お安い御用だからって竜次に対する好きが軽いって意味
ちゃうからな!」
「そんなの言われなくても分かってるし。」
少し恥ずかしいことを言ってしまったなと思っていた大曲であったが、種ヶ島の反応を見
てどうでもよくなってしまう。くすっと笑うと、大曲は種ヶ島の首筋にちゅっと口づける。
「んっ・・・」
「あ、あと・・・」
「何?」
「お前の喘いでる声好きだから、我慢すんなし。たくさん聞かせろよ。」
それはかなり恥ずかしいなあと思いつつ、大曲が喜ぶならと種ヶ島は顔を赤くしながらも
頷く。それならば存分に鳴かせてやろうと、大曲は種ヶ島の弱い部分を責め始める。
「ふあっ・・・ああっ・・・・」
「ここ、弱いよな?お前。」
「やっ・・・あん・・・竜次ぃ・・・・」
種ヶ島の反応がなかなかよいので、大曲は次から次へと弱いところに触れていく。その度
に種ヶ島は甘い声を上げ、大曲の耳を楽しませる。せっかくの誕生日で、しかも種ヶ島が
自分自身をくれているということで、大曲はわざと自分のものだという印をいたるところ
につけていく。
「いっ・・・竜次っ・・・」
「跡つけられるのは嫌か?」
「もうたくさんつけてるやろ・・・・まあ、つけられるの全然嫌やないけど。」
「そうか。なら・・・」
「ひゃっ・・う・・・そんなところにもつけるん?」
太腿の内側にもしっかり跡をつけられ種ヶ島は苦笑する。自由な恋愛を求めながら、独占
欲も強いよなあと種ヶ島はその身を持って感じていた。しかし、そんな大曲の独占欲が種
ヶ島にとっては嬉しくて仕方がなかった。
「竜次に跡つけられるのな・・・・」
「ああ。」
「俺が竜次のものって感じがして・・・メッチャ嬉しいで。」
顔を赤く染めたまま、種ヶ島はにこっと笑う。そんな種ヶ島の言葉と表情に大曲の胸は激
しく高鳴る。
(そんなこと言われたら余裕なくなっちまうし。)
跡をつけるのはこのへんで止めておき、大曲は繋がるための準備を始める。ただ慣らして
いくだけでは味気ないので、種ヶ島のそこを慣らす間、大曲は種ヶ島と口づけを交わすこ
とにする。
「ふぁ・・・んんっ・・・んっ・・・・」
(キスされながら中弄られるとか、気持ちよすぎてアカンな・・・)
口内を探られ中を弄られ、ぞくぞくとした甘い痺れが種ヶ島を襲う。うっすらと目を開く
とゼロ距離での大曲の顔。心臓が壊れそうなほど高鳴り、頭から爪先までとろけそうな快
感が突き抜ける。息を吸うために軽く唇が離れると、種ヶ島は今感じていることを素直に
口にする。
「竜次ぃ・・・」
「ハァ・・・どうした?」
「竜次とキスするの・・・メッチャ気持ちええ・・・・中弄られるのも・・・イキそうな
くらい・・・イイ・・・」
呼吸を乱しながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。もう少し種ヶ島の声を聞いていたいと唇
を塞がないでいると、その艶めいた唇が溢れる想いを言葉に変えていく。
「好き・・・竜次・・・メッチャ好き・・・・」
繰り返される『好き』という言葉が大曲の耳から脳へと沁み込んでいく。それがひどく心
地よく有り余るほどの幸福感が大曲の胸を満たしていく。
「もっとお前をもらっていいか?」
「ええで・・・全部竜次にあげたる・・・・」
種ヶ島のその言葉を聞くと、大曲は十分に慣らしたそこを自身で貫く。弄られているだけ
でも達きそうな状態になっていた種ヶ島は、大曲が入ってくるその刺激で達してしまう。
「ああっ・・・あああ―――っ!!」
「くっ・・・いきなりそれはかなりクるな。」
「んっ・・あ・・・竜次っ・・・ああぁ・・・・」
達した余韻がなかなか治まらず、ビクビクとその身を痙攣させながら種ヶ島は大曲の名を
呼ぶ。ぎゅうぎゅうと奥の奥まで引き込まれそうな動きに大曲もかなり余裕がなくなって
いた。
「はぁ・・・んんっ・・・ふっ・・ぅ・・・・」
「ちょっとは落ち着いたか?」
そんな大曲の問いに種ヶ島はふるふると首を横に振る。
「竜次と繋がってるとこ・・・熱くて気持ちよくて・・・全然治まる気せぇへん・・・・」
「少し動いても大丈夫か?」
「んっ・・・動かれたら、またすぐイってまいそうやけど・・・それでもええ?」
色めいた表情でそんなことを言われてしまっては、大曲も抑えがきかなくなってしまう。
種ヶ島の内側を存分に堪能するかのように動くと、種ヶ島は隣の部屋にも聞こえてしまい
そうなほど激しく喘ぎ、大曲のモノを強く締めつける。
「あっ・・・ああぁっ・・・・んっ・・・ああぁんっ・・・!」
「ああ、すげぇたまんねぇな。」
「竜次っ・・・竜次・・・好きっ・・・好きぃ・・・・」
ふと大曲の言っていたことを思い出し、種ヶ島は『好き』という言葉を繰り返し口にする。
切羽詰まったような声で何度も繰り返されるその言葉に、大曲の熱は一気に高まる。
「くっ・・・ぅ・・・・」
「ひあっ・・・あああぁ―――っ・・・」
ドクドクと自分の中に熱が放たれる感覚に種ヶ島も達してしまう。
(竜次の熱い・・・メッチャ気持ちええ・・・・)
うっとりと大曲の熱に酔いしれていると、顔にかかった髪をかき上げながら大曲が声をか
ける。そんな仕草に種ヶ島は思わずドキッとしてしまう。
「おい。」
「何・・・?」
「まだ平気か?」
「へっ・・・?」
「足りねぇ。もっとしてたいんだけどよ。」
大曲からこんなことを言ってくることはあまりないので、種ヶ島はドキドキしつつ、すぐ
に頷く。
「竜次がしたいんだったらええで。」
「お前がしたくないなら無理強いはしないけどよ。」
「ええって言っとるやん。俺も竜次ともっとしてたい。竜次が満足するまでなんぼでもし
て。」
嘘偽りのない笑顔で種ヶ島は答える。そんなこと言われてしまったら、本当に止められな
くなってしまうと、大曲は少々困ったような表情になる。
「何でそんな顔するん?したいんやろ?」
「いや、したすぎて途中でお前が嫌がっても止められなさそうだし。」
「そんな心配せんでもええって。俺、竜次のことメッチャ好きやから、竜次とこういうこ
と出来るのホンマに嬉しいんやで。」
「お前、後悔しても知らねぇし。」
「後悔なんてせぇへん。ほら、続きするで。竜次。」
「デカ勘弁しろし。」
どちらも口元に笑みを浮かべながら、続きを始めようと口づけを交わす。大曲が満足する
まで、身体を重ね合っていると、時間はあっという間に過ぎていき、気づけば空が白んで
きていた。

(一軍No.1のスタミナ舐めてたわー。いや、メッチャ気持ちよかったし、竜次も満足
してくれたし、俺的にも大満足やけども、今日がたまたま休みでホンマよかったわ。)
朝の早い中学生は起きてきそうな時分になって、二人はシャワーを浴びに大浴場へ行き、
汗を流して部屋に戻ってきた。一晩中そういうことをしていた疲労感で、どちらもベッド
に横になっている。
「わりぃ。やりすぎたな。何か止められなくなっちまって。」
「別に謝ることないで。」
「いや、さっき風呂入ったときよ・・・思ったより跡がすごくて、ここが合宿所で他の奴
らと風呂入る可能性があること忘れてたし。」
「あはは、そんなん気にせんでもええって。適当に誤魔化しとくから。」
「でもよ・・・」
自分でやったことではあるが、思ったよりやりすぎてしまったと大曲は種ヶ島に謝ってい
た。しかし、種ヶ島にとってはそこまで大曲が自分に夢中になってくれていたことは嬉し
いこと以外の何物でもなかった。
「やりすぎたと思って謝るくらいやったら、違うこと言って欲しいんやけど。」
「何だし?」
「俺もな、好きとか愛してるとか言われるのメッチャ嬉しいんやで。」
種ヶ島が言わんとしていることを理解し、大曲の顔は赤くなる。自分がして欲しいと言っ
たことを種ヶ島もして欲しいということだ。普段なら勘弁しろしの一言で済ますのだが、
今回はやりすぎたという気持ちがあるのでそれで済ますわけにはいかない。
「あー、何だ・・・その・・・」
照れながら大曲が言いにくそうにしているので、後押しをしてやろうと種ヶ島は自分から
思っていることを口にする。
「竜次、大好き、愛してる。竜次の誕生日にこんなふうに二人でいれてメッチャ嬉しいと
思っとるで。誕生日おめでとう。」
種ヶ島の言葉が素直に嬉しいと感じ、大曲は自分からもそういう言葉を言おうと決める。
「誕生日プレゼントどれも嬉しかった。もちろんお前自身ってのも含めてな。こんなふう
に誕生日を祝ってくれるお前といれて、俺も心底嬉しいと思う。俺もお前のこと好きだし。
修二、愛してる。」
普段はほぼ言わない言葉なので、大曲は恥ずかしくてたまらなかったが、種ヶ島の顔を見
てそんな気持ちはどこかに飛んでいってしまった。頬を赤く染め、少し驚いたような顔を
見せた後、最高に幸せそうな笑顔を見せる。自分の言葉でそんな表情になるのかと、大曲
は種ヶ島を愛しく思う気持ちで胸がいっぱいになる。その顔をずっと見ていると何だか泣
きそうになってしまいそうで、大曲は種ヶ島をぎゅっと抱きしめた。
「アカン、メッチャ幸せすぎて泣きそうや。」
「それはこっちのセリフだし。」
「えっ・・・?」
「冗談だし。まあ、今が幸せってのは嘘じゃねぇけどな。」
種ヶ島を抱きしめたまま、大曲はそう呟く。言葉では誤魔化すようなことを言っているが、
抱きしめる腕の強さとぬくもりは大曲の本当の気持ちを伝えていた。
「竜次、あんな・・・」
「どうした?」
「もう一回だけでいいから、俺のこと好きって言うて?」
大曲の肩に顔をうずめたまま、種ヶ島はそんなことをねだる。勘弁しろしと言われるのも
覚悟の上だったが、少しの間があった後、大曲は種ヶ島の耳元で囁いた。
「好きだ。」
たったその一言で種ヶ島の胸は幸福感でいっぱいになる。本当に嬉しそうな声色で、種ヶ
島は大曲に言葉を返す。
「おおきにな、竜次。俺も竜次のこと、大好きやで。」
「何度も聞いてるし。」
「俺が竜次を好きやって気持ちは、100万回言うても足りないくらいやで。」
「そりゃすげぇな。」
種ヶ島の言葉に大曲はくすっと笑う。100万回言っても足りないのであれば、この先ど
れだけその言葉が聞けるのだろうと大曲は嬉しくなる。
「なあ、竜次。」
「何だし?」
「来年もこんなふうに竜次の誕生日祝えたらええな。」
来年はどうしているか分からないが、さらっとそんなことを言う種ヶ島に大曲はきゅんと
する。否定する必要もないので、大曲は素直に頷いた。
「そうだな。」
「ほなら、約束。指切りげんまんでもしよか。」
今の段階では来年も一緒にいられる確証はない。だからこそ、種ヶ島は『約束』という形
でそれを実現しようとした。
「指切りなんてしねぇし。」
「えー、約束してくれないん?」
「そんな子供だましより、こっちの方がいいだろ?」
そう言うと、大曲はぐいっと種ヶ島の顎を掴み、ちゅっとキスをする。
「っ!?」
「指切りより、誓いのキスの方が効力強そうだし。」
「ちょっ・・・竜次、それ反則やろ。」
「何だよ?不満なのか?」
「そないに大人な約束の仕方思いつかへんかった。さっすが竜次やな☆絶対絶対、来年も
竜次の誕生日祝ったるからな!」
「楽しみにしてるし。」
来年の約束をしてテンションの上がった種ヶ島の言葉を聞いて、大曲は笑いながらそう返
す。年に一度の特別な日。大好きな相手と過ごすその日は、二人にとって、いつも以上に
特別で幸せな一日になるのであった。

                                END.

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