Vv仲直りの仕方vV

「なあー、侑士ぃーお願いだからさー。」
「ダメや!何度言ったら分かるんや。」
部活が終わった部室でいつもとはちょっと違う様子で岳人と忍足が、珍しく口喧嘩をして
いる。
「一回くらいいいじゃんかあ。やらせてくれても。」
「いい加減にしいや。そんなことばっか言ってると置いてくで。」
あまりにも忍足が拒むので、岳人は怒って拗ねてしまった。
「侑士のバカ!!もう知らねぇ!!」
さすがの忍足も岳人のこの態度にカチンときて、思わず怒鳴ってしまった。
「勝手にしい。岳人なんてもうキライや!!」
「なっ!?」
思ってもみなかった忍足の言葉に岳人はメチャクチャショックを受ける。大粒の涙を目に
いっぱい溜めて、ろくに着替えもせず、部室から飛び出してしまった。
「俺だって、侑士のコト嫌いだ!!」
残された他の部員はただ唖然とするしかなかった。あのラブラブバカップル、岳人&忍足
ペアが本気で喧嘩をしたのだ。それは誰でも驚くだろう。
「俺も帰るな。・・・ったく、岳人の奴。」
忍足も部室を出ていった。気まずい雰囲気が部室を包む。とそこへ、他の正レギュラーが
戻って来た。
「あれ?何かあったのか?」
「ずいぶんと騒がしいな。」
異変に気づく跡部達に今の状況を説明したのは滝だった。
「岳人と・・・忍足が大喧嘩して、それで・・・」
「忍足先輩と向日先輩が喧嘩ですか?珍しいですね。」
「まあ、あの二人のことだから明日には仲直りしてんじゃねぇの?」
「そうだよな。」
この時、他の部員は特に気にも留めなかった。ところがこれは大きな間違えだったのであ
る。

次の日、ざわざわと部員が騒いでいる。どうやらあの二人が未だに喧嘩状態のようだ。
「あいつら、まだ喧嘩してんのか?」
「全く、何が原因なんだよ。」
溜め息をついて跡部は着替えを始める。練習に向かうが、あのたくさんの部員が噂をして
いて、そのうえ、ダブルス2ペアがまともに練習しないという状況でとても部活どころで
はなかった。仕方がないので岳人と忍足以外の正レギュラーを集めて、緊急会議を行うこ
とにした。
「で、何が原因だって?」
「俺、滝さんに聞いたんですけど、それが・・・」
鳳は昨日あの後、滝に二人の喧嘩の内容を詳しく聞いていた。鳳の話を聞き、他の部員は
呆れかえる。
「マジでそんなことで喧嘩してんのかよ。」
「全く二人ともガキだよなあ。」
「真面目に考えてくださいよ。どうするんですか?」
「そうだな、問題は忍足を乗せるか、岳人に諦めてもらうかどうするかだな。」
跡部は解決方法を冷静に分析して、どうすればいいかを考える。宍戸や鳳も考えて、全員
一致で後者の方にしようということに決まった。
「じゃあ、樺地。あの二人以外の部員に今日の練習はこれで終わりだと伝えてきてくれ。」
「ウス。」
ここから跡部の考えた計画が始まる。まずは岳人と忍足以外の部員を早めに帰らせてしま
う。そして、二人が最後に部室に入ってこようとすると同時にある芝居をするというもの
だ。この芝居がポイントなのだが成功すれば必ずあの二人は仲直りするだろう。

樺地からの連絡を聞いた部員達が次々に部室に戻ってきた。人数を把握し、全員が帰った
ことを確かめると、準備が始まる。この芝居は他の人に見られると、いろいろと面倒くさ
い事態になるので2年生’Sは監督をなるべく部室に近づけないようにするため、校舎に
連れて行き、時間かせぎをすることになった。
「さてと、準備はいいな宍戸。」
「ああ。それにしてもスゴイ計画だよなコレ。」
「しょうがねぇだろ。コレが一番手っ取り早いんだからよ。」
部室に残っているのは、跡部と宍戸だけ。ユニフォームから制服に着替えてしまって、二
人が来るのを待っている。宍戸の方はネクタイを解き、ボタンも第三ボタンまで外して、
そのうえ、ベルトも外しているというかなり乱れた格好をしている。これも計画の一部な
のだ。
「あっ、あいつら来たぜ。」
「じゃあ、始めるか。」
窓から二人の姿が窓から見えると、跡部と宍戸は計画を実行し始めた。
「や、やめろ!!跡部!!」
「いいじゃねーか、ちょっとくらいよ。」
部室から聞こえる声に岳人と忍足の二人は立ち止まった。何かが変だと感じたからだ。
「うあっ・・・!!マジでダメだって・・・」
「あんまり騒ぐとこうするぜ。」
「痛っ・・・!!」
宍戸の様子がおかしいということは外から聞いていても、よく分かった。と、次の瞬間、
部室から何かと叩いたような大きな音が鳴り響いた。
「ふざけんな!!跡部の変態!!アホ!!もう知らねぇっ!!」
乱れたままの服装で宍戸は怒鳴り、目に涙を浮かべながら部室から飛び出してきた。さっ
きの音はどうやら宍戸が跡部を引っ叩いた音だったようだ。

そんな光景を見て、岳人と忍足は顔を見合わせ、恐る恐る部室へと入って行く。そこには
頬をおさえた跡部が一人残っていた。
「お前らまだいたのか。」
不機嫌そうな声で跡部が二人に尋ねる。
「跡部、宍戸に何したんや?」
「別に。ただもう全員帰ったと思ったから、ここでしようと思って。」
「しようとって・・・?」
「お前がしたがってたことだよ、岳人。」
岳人はおもわずうつむく。無理にしようとするとあんな反応が返ってくるということをま
の当たりにして罪悪感を感じたのだ。
「それからな岳人。お前、アレがただ気持ちイイだけだと思ってるみてぇだけど、それは
ちょっと違うぜ。」
「そうなの?」
「ああ。受ける方は初めてじゃメチャクチャ痛いみたいだし、宍戸だって初めての時は相
当痛がってたぜ。それに、攻める方だって・・・。」
跡部はYシャツを途中まで脱いで、背中の傷を見せた。背中には最近宍戸がつけたたくさ
んの引っかき傷が痛々しく残っている。
『うわっ・・・』
その傷を見て、二人は思わず声をあげた。こんなにも痛そうなものだとはどっちも思って
いなかったからだ。
「まあ、やりたいならやればいいんじゃねぇの?」
服を整え、肩にカバンをかけ跡部はドアの方へと向かう。そして、出て行く前に捨てゼリ
フのように一言つぶやいてから出ていった。
「するんだったら、これぐらいの覚悟がねぇとなあ。」
跡部は部室を出ると外で待っていた宍戸と窓から中の様子をのぞく。さすがに中の二人は
気まずさからどちらも黙っている。
「どうかな、跡部。」
「大丈夫だ。絶対、仲直りするぜ。」
沈黙をやぶったのは岳人だった。とてもすまなそうな表情で忍足に話しかける。
「ゴメンな、侑士。」
「ええよ、もう。俺の方かてゴメン。」
「跡部の話聞いてさ、確かに俺が痛いのはやだけど、それより、侑士が痛いっていうのは
もっとやだ。そう思った。」
「おおきにな。岳人はホンマに優しいよ。」
「もう怒ってない?」
「ああ、怒ってへん。」
岳人は忍足に抱きついて、いつもの笑顔で忍足の顔見た。
「俺、侑士のコト大好きだよ。昨日はキライなんて言ってゴメンな。」
「俺も岳人のこと大好きやで。」
「じゃあさ、仲直りのちゅうしよ。」
「ええよ。」
二人は仲直りの印としてお互いの唇を重ねた。それを見ていた跡部と宍戸はほっと胸をな
でおろし、その場に座り込んだ。
「一応、一件落着だな。」
「ああ。やっぱ、あいつらは学園一のバカップルだぜ。」
「ホント、ホント。あっ、そういえば、跡部ほっぺた平気か?さっき結構、本気で殴っち
ゃったからさ。」
「まあ、これくらいはなんともねぇよ。でも、気になるっていうんなら、お詫びにキスさ
せてもらおうかね。」
「調子に乗んな!!でも、ちょっとだけなら許してやるよ。」
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
跡部と宍戸もあの二人と同じように軽く口づけを交わした。この二人も岳人&忍足ペアに
負けないくらいのバカップルだろう。この二人も中の二人も気づいていないが今までの出
来事を一部始終見ていた者が一人。そう、さっきまで眠っていて話し合いに参加していな
かったジローだ。何にも知らされていないので、ジローはいろんな面で勘違いをしまくっ
ている。
(うわあ、何なのあいつら。けんかしてるのかなって思ったらラブラブだし。意味分かん
なーい。でも、一回で二組のキスシーン見られるなんて何かすっげー!!明日、みんなに
話そーっと。)
ジローはビックリしながらもおもしろそうに校舎に向かって行った。

その次の日、岳人と忍足はいつも通りに戻っていた。廊下でラブつなぎして歩くわ、教室
では無駄にイチャついているわで誰が見ても、仲直りしたのは一目瞭然だった。ところが、
ジローが昨日見たことをクラスの人やテニス部の他の部員に話してしまったので、さあ、
大変。今度は跡部と宍戸に妙な噂がたってしまった。
「跡部!!何なんだよ、この状況は!?」
「さあな、俺が知るかよ。」
「誰も部室に近づけるなって言ったのにー。全く、誰が・・・」
教室で二人が話していると、テンションの高い声が廊下の方から聞こえてきた。
「跡部に宍戸♪昨日はいいもの見させてもらったよん。」
『ジロー!!』
そこで二人は気づいた。この噂の元凶はジローだと。
「ジロ〜、お前が原因か、この噂は。」
「えー、俺は見たまんまのことをみんなに話しただけだよ。」
「余計なことすんな!俺が恥ずかしいじゃねぇか。」
「噂なんて三日で消えるから平気だよ。もうそろそろチャイム鳴りそうだから、俺、教室
戻るね。」
「あっ、おい!!ジロー!!」
ジローはさっさと自分の教室に帰ってしまった。宍戸は納得いかないと怒った表情を浮かべ
ている。
「いいじゃねぇか。俺達のおかげであいつら仲直りできたんだからよ。」
「そうだけど・・・でも・・・!!」
とその時、当の本人。忍足が二人の教室に入ってきた。
「あれ、忍足。岳人はどうしたんだよ?」
「岳人は日直の仕事で教室におるよ。」
「で、何か用か?忍足。」
「ああ。昨日のことおおきにな。」
「気づいてたのか。結構、いい演技だと思ったんだけどな。」
「気づくわ。あんなわざとらしい芝居。」
「でも、岳人は気づいてねーんだろ?」
「もちろん。あっ、チャイムなってしもうた。もう戻るな。」
もう一度礼を言うと忍足は急いで教室を出ていった。
「何だ。バレてんじゃん。」
「まあ、岳人が気づいてないんだったらいいんじゃねぇの?」
「そうだな。それより、俺達はあの噂をなんとかしないと・・・。」
チャイムがなったのを無視して宍戸はしゃべり続けている。先生が来たことにも気がつか
ずに・・・。ちなみに跡部と宍戸の席は前後で宍戸が跡部の前という形だ。後ろをずっと
向いている宍戸に先生が怒った口調で注意する。
「こら、宍戸!いつまでしゃべってんだ。もうHRは始まってるぞ。仲がいいのは結構だ
が、ほどほどにしろ!」
「えっ、あっ、すいません。」
クスクスと笑う声がまわりから聞こえる。宍戸は赤くなって前を向いた。
(くそ〜、これも全部ジローのせいだ。あとで、絶対仕返ししてやる。)
そんなことを思いながら、先生の話を聞き流す。これがまた問題を引き起こす引き金とな
るのだが・・・。跡部はそんな宍戸を楽しそう見るのだった。

                                END.

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