仲直りのさせ方@六年生

いつもと変わらぬ忍術学園の休日。そんないつも通りの学園内に二人分の怒声が響いた。
「ダメだって言ってるのに、どうして言うこと聞かないんだよ!?文次郎!!」
「別に俺の体のことなんだから、何しようと俺の勝手だろうが!!」
「ぼくは保健委員なんだよ!?怪我人はちゃんと保健委員の言うことを聞かなきゃダメな
んだよ!!」
「お前は保健委員じゃなくて、不運委員だろ!?この怪我だって、もとはと言えばお前の
所為だろーが。」
「ぐっ・・・それはそうだけど・・・だからこそ、ちゃんと手当てしてっ、ちゃんと治し
て欲しいから!!」
「もう付き合ってらんねぇ。俺は戻るからな!!」
「文次郎っ!!」
大声で怒鳴り合いながらケンカしているのは、六年生の文次郎と伊作だ。この二人がここ
まで派手にケンカをすることはそう滅多にないので、同じ保健委員の下級生メンバーは、
普段穏やかな伊作の怒りっぷりに驚き、その二人のケンカを全く止められないでいた。
バンっ
と、障子を激しく閉めながら、文次郎は医務室を去る。そんな文次郎に下級生メンバーは
ビクビクしながら、伊作の方を見た。
「文次郎のバカ!!もう知らないからな!!」
立ち去る文次郎に、伊作はそう叫ぶ。文次郎が去ってしまうと、伊作はじわっと目に涙を
浮かべ、ぎゅっと膝の上で拳を握りながら、唇を噛む。
「い、伊作先輩?」
「・・・ゴメンね。ちょっと一人にしてくれる?」
「は、はい。」
たまたまその場に居た乱太郎と伏木蔵は、伊作にそう言われ、医務室から出て行く。そん
な保健委員と文次郎のやりとりを、他の六年生メンバーはこっそり眺めていた。
「あの二人がここまで派手にケンカをするのも珍しいな。」
「確かにな。伊作がそこまでキレないし。」
「これから合同の野外実習があるというのに、呆れた奴らだな。」
「・・・どうする?」
「どうするも何も放っておくわけにはいかないだろ。なあ、仙蔵。」
「そんな面倒なことはしたくなんだがな。今回ばかりは仕方がない。」
「何かおもしろそー!!私も協力するぞ!!」
「それなら・・・計画を立てないとだな。」
伊作と文次郎のケンカを見て、他の六年生メンバーはそんなことを話す。近く六年生合同
で野外実習があるために、ケンカをしているという状態はあまりよろしくない。そのため、
文次郎と伊作以外のメンバーは二人を仲直りさせるための作戦をこっそりと立て始めた。

文次郎や乱太郎、伏木蔵が医務室を出て行ってからしばらくすると、新野先生が帰ってく
る。こんな状態で、怪我人や病人が来てもちゃんと手当てが出来ないかもしれないと、伊
作は新野先生に医務室の番を頼み、気分転換に学園内を散歩することにした。
「全くどうして文次郎は、あんなに無茶ばっかりするんだ。」
そんなことをボヤキながら、学園にある池の方に向かって歩いていると、木から木へ飛び
移りながら、仙蔵が自主練をしているのを見つける。
「仙蔵も自主練か。全然隙のない動きだし、さすがだなあ。」
しばらく仙蔵の様子を眺めていると、ふとした瞬間に、仙蔵の乗っていた細い木の枝がポ
キリと折れた。
「うわっ・・・」
「あっ!!」
仙蔵も予期していなかったことなのか、そのまま地面に向かって落下する。不運にも落ち
る途中で掴めるような枝がなく、仙蔵は真っ逆さまに地面に落ちていった。
(危ないっ!!)
仙蔵が地面に落ちるのを見ていられず、伊作は思わずその目をぎゅっとつぶる。しばらく
して、恐る恐るその目を開けると、そこには仙蔵ともう一人、同じ六年生である人物の姿
があった。
「大丈夫か・・・?仙蔵。」
「長次。」
「お前が木から落ちるのが見えたから、慌てて飛んできた。」
「さすがだな。お前が受け止めてくれなきゃ、伊作の世話にならなきゃいけなくなってい
た。」
仙蔵が木の上から落ちるのに気づき、たまたま近くにいた長次がその体を受け止めたのだ。
長次の腕に抱かれながら、仙蔵は長次の首に腕を回し、ニッコリと微笑む。
「ありがとう、長次。お前のおかげで助かった。私を受け止めることで、お前はどこか怪
我してたりしないか?」
「ああ、大丈夫だ。それに、私が怪我をするより、仙蔵が怪我をした方が私としては困る。」
「何故だ?」
「お前が怪我したら・・・すごく心配だから。」
伊作が見ているのに気づいていながらの演技ではあるが、仙蔵は長次のその言葉に心底と
きめいてしまう。
「長次・・・」
「また、こんなことがあると危ないからな。今から一緒に自主練してもいいか?」
「ああ、長次なら大歓迎だ。それに二人じゃなきゃ出来ないような訓練もあるしな!」
二人で訓練をすると言いつつも、長次と仙蔵は姫抱きという状態から動こうとしない。そ
んな二人の様子を少し離れているところから眺めていた伊作は、仙蔵が怪我をしなかった
ことにホッとしつつ、二人のあの雰囲気が少し羨ましいなあと思っていた。
(そういえば・・・文次郎も、今の長次と似たようなことを言ってた気がする・・・)
文次郎が怪我をしたのは、他の学年が放った火矢が伊作に当たりそうになったのを、庇っ
たためであった。文次郎が怪我をしたことに気づいた伊作が慌てていると、文次郎はお前
に当たらなくてよかったと、ふっと笑って呟いていた。そんなことを思い出し、伊作は先
程あんなにも怒鳴ってしまったことを反省する。

「文次郎はぼくの所為で怪我したのに、しかも、ぼくが怪我をしないでよかったって言っ
てくれたのに・・・何であんなに怒っちゃったんだろう。」
そんなことに気づくと、早く謝らなければという気持ちでいっぱいになる。散歩をするの
をやめ、伊作は文次郎を探しに行くことにした。
一方、イライラしたまま医務室から出てきてしまった文次郎は、いつものように自主練を
しようと、学園の門に向かって歩いていた。先程怪我をした右腕がほんの少しズキズキと
痛むが、これくらいは問題にならないとそう思い込もうとしていた。
「ど、どうしたんですか!?七松先輩!!」
「あはは、どっかに引っ掛けたみたいだ。」
(ん?あの声は、小平太と滝夜叉丸か?)
声のする方に目をやると、そこには同じ体育委員同士である小平太と滝夜叉丸が話をして
いた。慌てた様子の滝夜叉丸といつも通り元気に笑っている小平太。一体どんなやりとり
をしているのだろうと、文次郎はその様子を探ってみる。
「どうしたらそんな怪我するんです!?」
「さあ、私にはさっぱり。」
「とにかく、医務室行きますよ!!」
「あー、今、医務室行きたくない。伊作の機嫌が何か悪くてさー。」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!?」
「このくらいの傷、舐めときゃ治るって。とにかく今は医務室は行きたくないんだ!!」
「そこまで言うなら仕方ないです。医務室に連れてくのは諦めます。でも、ちゃんと手当
てはしますからね!!少しの間、ここを動かないで下さいよ!!」
よくよく小平太の腕を見ていると、どこかに引っ掛けたのかパックリと腕が切れ、その傷
口から血が滴っていた。確かにそんな大きな傷を見せられれば慌てるだろうと、いつもと
は違う滝夜叉丸の態度に、文次郎は納得する。
(伊作の機嫌が悪いのって、絶対俺の所為だよな。)
小平太が医務室に行きたがらない理由が伊作の機嫌が悪いからだということを聞き、文次
郎はほんの少し責任を感じてしまう。そんなことを考えている間に、どこかへ走って行っ
た滝夜叉丸が何かを持って戻ってくる。
「どこ行ってたんだ?滝夜叉丸。」
「医務室に行く気がないなら、私が手当てします。腕、出して下さい!」
救急箱を抱えた滝夜叉丸は、その中から消毒液や包帯を出し、テキパキと傷の手当てをす
る。
「おー、すごいな滝夜叉丸。保健委員でもないのに、こんな綺麗に包帯巻いて。」
「これくらい忍者として当然です。それに、七松先輩がいっつも無茶するから、下級生が
怪我するじゃないですか。それの手当てをいつもしてるから慣れたんですよ。」
感心する小平太に、滝夜叉丸は呆れたような口調で返す。さすが滝夜叉丸と思いながら、
小平太はニコニコと笑う。
「よーし、滝夜叉丸に手当てしてもらったことだし、他の体育委員の奴らも呼んでバレー
でもするか!!」
「何言ってるんですか!?」
「ん?何がだ?」
「何がじゃないですよ!!せっかく手当てしたのに、そんなことしたら傷口が開いちゃう
じゃないですか!!」
「大丈夫大丈夫。このくらいの傷、大したことないって。」
「ダメですっ!!」
叱るような強い口調で、滝夜叉丸はハッキリとそう言い放つ。そこまで強く言われるとは
思わなかったので、小平太はビックリしてしまう。あまりにも小平太がきょとんとしてい
るので、滝夜叉丸はあっというような顔をし、少し強く言いすぎてしまったことを謝る。
「あっ・・・えっと、すいません。怒鳴るような言い方してしまって。」
「どうして滝夜叉丸は、そういうふうに言ってくれたんだ?」
文次郎が自分達の話を聞いていることに気づいている小平太は、そんなことを滝夜叉丸に
尋ねる。
「そんな傷でバレーなんかしたら、治るものも治らなくなっちゃいます。私は七松先輩の
ことを思って・・・・」
「ありがとう、滝夜叉丸。」
「へっ・・・?」
うつむくように小平太から目をそらして言葉を紡いでいた滝夜叉丸だったが、小平太のそ
の一言を聞いて、顔を上げる。滝夜叉丸が顔を上げたのと同時に、小平太は滝夜叉丸の頭
を撫でた。
「お前は私のことを心配してくれたから、そういうことを言ってくれたんだよな?」
「・・・はい。」
「こんなにしっかり傷の手当てをしてくれたし、こんなにも私のことを心配してくれる。
お前は本当に優しいな、滝夜叉丸。」
「七松先輩・・・」
「これ以上、滝夜叉丸に心配かけたくないし、バレーボールは諦めるよ。その代わり、外
へ団子でも食べに行こうと思うんだが、一緒に行くか?」
「いいんですか?」
「もちろんだ!それじゃ、用意してここで待ち合わせしよう。」
「はい!」
いつもの自信過剰でナルシストな雰囲気とは一味違う滝夜叉丸にほんの少し違和感を覚え
ながらも、文次郎は自分が伊作にとってしまった態度を反省する。伊作もきっと今の滝夜
叉丸と同じ気持ちだったのだろうと思うと、自分が悪かったと思わざるを得ない。今から
伊作に謝りに行こうと、文次郎は自主練に行くのをやめ、医務室へと向かう方向を変えた。
「作戦成功。」
「へ?何か言いました?」
「いーや、何でもない。ほら、早く用意しに行くぞ!いけいけどんどーん!!」
「ちょっ、七松先輩!!待って下さいよ〜。」
学園内に戻って行く文次郎を見て、小平太は笑いながらそう呟く。文次郎と伊作がケンカ
をしていることも、六年生がそれを仲直りさせようとしていることも、知らされていない
滝夜叉丸は、少し変だなあと思いつつも、それほど気にすることなく、いつも通り小平太
に振り回されていた。

文次郎を探している伊作は、途中で乱太郎と伏木蔵に会う。伊作を見つけると、二人は六
年生に頼まれた伝言を伊作に伝えた。
「あっ、伊作先輩。」
「乱太郎に伏木蔵。」
「さっき、伊作先輩に医務室へ戻ってくるように言ってくれって新野先生に言われました。」
「本当に?なら、戻らなくちゃ。ありがとう、二人とも。」
文次郎を探したいのは山々だが、そう言われてしまっては仕方ない。伊作は文次郎を探す
のをやめ、いったん医務室へ戻ることにした。
「これでいいんだよね?」
「たぶん大丈夫だと思うけど。」
医務室に戻るように言ってくれと言ったのは、新野先生ではなく食満であった。こんな伝
言の仕方でいいのかなあと思いながら、乱太郎と伏木蔵は顔を見合せた。一方、この二人
にそんな伝言を頼んだ食満はと言えば、学園の門の方から医務室へ向かう道の途中で、文
次郎を待ち伏せする。
「よぉ、文次郎。」
「何だ?留三郎。」
早く伊作に謝りたいのにと思いながら、文次郎は若干イライラしながら、食満の言葉に答
えた。
「お前、伊作に何したんだ?伊作すごい怒って、もう文次郎なんかとは絶交してやるって
言ってたぞ。」
「それ、本当か?」
「それは自分で確かめてみろよ。」
挑発的な食満の言葉に舌打ちをしながらも、今は食満に構っている場合ではない。一刻も
早く伊作に謝らなければと、文次郎は医務室へ向かって駆け出した。

文次郎よりも一足早く、伊作は医務室に到着していた。新野先生に何の用かを聞いたが、
あの伝言自体が食満のついた嘘だったので、特に新野先生は呼んでいないと話す。おかし
いなあと思って首を傾げていると、突然医務室の障子が大きな音を立てて開く。
パーンっ!!
「伊作っ!!」
「も、文次郎・・・?」
「さっきは俺が悪かった!!お前は俺のことを心配して、あんなふうに言ってくれてたの
に、あんな自分勝手なこと言っちまって・・・」
「文次郎・・・」
突然やってきて謝り出す文次郎に驚く伊作だが、その言葉を聞いて、自分も謝らなければ
という気持ちになる。
「ぼくの方こそゴメン文次郎!!文次郎はぼくの所為で怪我しちゃったのに、あんな怒る
ような言い方して。」
「いや、悪いのは俺の方だ。すまなかった伊作。」
「ううん、いいよ。さっきはぼくのことかばってくれてありがとう。それに怪我させちゃ
ってゴメンね。」
「そんなことは気にしなくていい。俺の方こそ、こんなにちゃんと手当てしてくれて、心
配して怒ってくれて、ありがとな。」
お互いに謝った後、今度はケンカの原因になったことに対して、感謝の言葉を口にする。
自分の想いをしっかりと伝えると、二人の顔には笑顔が灯る。何が何だか分からないが、
ケンカをしていて仲直りをしたんだなと悟った新野先生は、にこにこしながら、二人の様
子を眺めていた。

その日の夜、文次郎と伊作の二人は会計委員の部屋にこっそりやって来ていた。今日は特
に委員会などはなく、この部屋に他の誰かがやってくるということもない。特に何をする
ということではないが、とりあえず二人きりになりたいと、文次郎と伊作はここへやって
来たのだ。
「腕の調子はどうだい?」
「まだ少し痛むが、大したことはない。お前がしっかり手当てしてくれたからな。」
「保健委員として当然のことをしたまでだよ。それにその怪我はぼくの所為だし。」
「もうそのことは気にするな。」
いまだに怪我をさせてしまったことを気にしている伊作に、文次郎はふっと笑いながら、
そんなこと言う。しばらく他愛もない話をしていたが、薄暗い部屋の灯りと二人きりで夜
も遅い時間という状況が、何となく二人の気持ちを高ぶらせる。どちらからともなく、腕
を絡め、ゆっくりと唇を合わせる。初めは唇をくっつける程度の軽いものであったが、次
第にその口づけは舌を絡めるような深いものになってゆく。
「んっ・・・ぅ・・・・」
文次郎のキスにうっとりしながら、伊作はその心地よさに酔いしれる。唇を離される頃に
は伊作の顔はすっかり紅潮し、息もあがっていた。
「はっ・・・ハァ・・・」
「・・・・ヤベェ。」
「どうしたの?文次郎。」
「いや、別に・・・何でもねぇ。」
何かを誤魔化すかのように文次郎は目を泳がせる。しかし、保健委員の伊作がその変化に
気づかないわけがない。悪戯っ子のような笑みを浮かべると、伊作は文次郎の袴に手をか
ける。
「お、おいっ、伊作っ!?」
「腕怪我しちゃってるから、やりにくいでしょ?だから、今日はぼくがしてあげる。」
先程のキスですっかり勃ち上がっている文次郎の熱を取り出し、伊作はそれを自分の手の
中に収める。そして、自分でするときのようにそれを上下に擦り始めた。
「・・・・っ!!」
「文次郎、分かりやすいよね。さっきよりもおっきくなってる。」
文次郎のモノを弄りながら、伊作はドキドキしてきてしまう。文次郎が自分のすることに
素直に反応してくれることが嬉しくて、伊作はその口元に笑みを浮かべた。
「気持ちイイ?文次郎。」
「・・・あ、ああ。」
口元を押さえながら、与えられる刺激に反応しすぎないように堪えている文次郎に伊作は
追い打ちをかけるような行動に出る。手の動きはそのままで、文次郎の耳元にそっと顔を
近づけた。
「大好き、文次郎。」
耳元でそう囁かれた瞬間、文次郎の熱は白い雫を迸らせる。ぞくぞくと全身を駆け抜ける
快感。それは自分でするのとは一味違う何とも言えない感覚であった。
「ハァ・・・」
「どうだった?」
「そんなこと・・・聞かなくても分かるだろ。」
顔を赤くして文次郎は少し怒り口調でそんなことを言う。これ以上、無理に問いつめると
またケンカになってしまうと、伊作はそれ以上感想を聞くことはしなかった。
「文次郎もこれですっきりしたし、今日はここまでで部屋に戻ろうか。」
顔を赤くしたまま伊作はそんなことを言う。いつも通りを装っているが、文次郎には伊作
もかなりキていることが分かっていた。
「別に最後までする気はねぇが・・・・」
「えっ?」
「テメェのコレも何とかしねぇとな。」
ニヤリと笑いながら、文次郎は伊作の袴を剥いでしまう。下帯は伊作の高まった熱で押し
上げられていた。
「い、いいよ。これは後で自分でするから!!」
「そんなもったいねぇことさせられるか。手は使えなくても、こっちは使えるからな。」
自らの口を指差し、文次郎は自信満々にそう言う。素早く下帯も外してしまうと、文次郎
はパクッと伊作のそれを口に含んだ。
「ふあっ・・・!!」
「いい声上げるじゃねぇか。そういう声、ちゃんと聞かせろよ?」
いつもよりオクターブ高い伊作の声を聞き、文次郎は口元を緩ませる。もっとたくさん鳴
かせてやろうと、文次郎はくちゅくちゅと濡れた音を立てながら、伊作の熱を存分に味わ
った。
「あっ・・・あぁ・・・んっ・・・ひぁっ・・・!!」
文次郎が口を動かすたびに、伊作は甲高い声を上げる。その声がたまらないと思いながら、
文次郎は黙って口での愛撫を続ける。
「んんっ・・・文次郎ぉ・・・あっ・・・気持ちいっ・・・」
素直な言葉を放つ伊作に、文次郎の鼓動は早くなる。もっともっとそういう言葉が聞きた
いと、その行為を続けていると、伊作の反応はより大きなものになる。
「ふあぁっ・・・やっ・・・文次郎っ・・・あっ・・ああ・・・」
ビクビクとその身を震わせ、伊作は文次郎の髪をぎゅっと掴む。そろそろ限界が近いのだ
ろうと悟った文次郎は、伊作のそれを根本まで咥え込み、きゅっと口を閉じて熱自体を吸
い上げる。
「ひぅっ・・・あ・・ああぁ―――っ!!」
一際大きくその身を震わせ、伊作は熱い蜜を文次郎の口の中へと放つ。その蜜をこぼさな
いように熱から口を離すと、文次郎は口の中にある蜜をごくんと飲み込んだ。
「ふっ・・・ふぅ・・・・」
「ごちそうさん。」
「なっ・・・!?」
「これで、お前もすっきりしたろ?まだちょっと足りねぇ気がするが、明日は合同実習が
あるからな。今日はここまでにしねぇと。」
飲み込んだ後に御馳走様的なことを言われ、伊作は急に恥ずかしくなり、赤い顔をさらに
赤く染める。そんな伊作の反応を楽しみつつ、文次郎はニヤニヤと笑って、そんなことを
話す。
「そ、そうだよね。明日、合同実習だもんね。」
そう答えながら、伊作は下帯と袴を元通りに身につけた。
「ま、続きは明日実習が終わってからのお楽しみってことにしておこうぜ。」
「続きするの?」
「お前がしたくないっつーんなら無理にはしないけどよ。」
「・・・する。」
軽く誘ってみたが、予想以上に素直な返答が返ってきたため、文次郎は思わずニヤけてし
まう。これは明日の実習を頑張らなければと、不純な動機で妙に気合が入った。
「明日のために今日は早めに寝とくか。そろそろ長屋に戻ろうぜ。」
「うん。」
今日はもうこれ以上進むことが出来ないので、二人は長屋へ戻ることにする。会計委員の
部屋を出たところで、伊作は文次郎の服の裾を掴む。
「どうした?伊作。」
「明日・・・楽しみにしてるから。」
「っ!!・・・お、おう。」
まさかそんなことを言われるとは思わなかったので、文次郎の心臓はドキンと跳ねる。そ
れ以上に伊作の心臓はバクバクと速いリズムを刻んでいた。

そんなバカップル同然なやりとりをする二人を、他の六年生メンバーはこっそり隠れて覗
いていた。もちろん会計委員の部屋でのやりとりからだ。
「一応・・・ちゃんと仲直りは出来たみたいだな。」
「仲直りしすぎだけどな。あそこまで見せつけられると逆に腹が立つ。」
長次の言葉に仙蔵は少々不機嫌な口調で続ける。腹が立つと言っているが、イライラして
いると言うよりは、二人のイチャイチャした雰囲気にあてられ、少々ムラムラしていた。
それをイライラしているようにして誤魔化しているのだ。
「でも、あんなの見せられたらこっちもしたくなっちゃうよなー。これから滝夜叉丸のと
こ行って来ようかなあ。」
「やめとけ、小平太。もう時間も遅いし、明日合同実習もあるんだから。」
「だよなー。う〜、我慢我慢。」
あの二人にあてられたのは、仙蔵だけではなかった。小平太も相当あてられており、滝夜
叉丸のところへ行きたい気持ちをぐっと堪えなければならなかった。
「私達も戻るか。とりあえずあの二人が仲直りしたのは分かったわけだし。」
食満のその言葉に、そこにいたメンバーは頷く。少々欲求不満的なもやもや感は残るが、
仕方がない。特に相手のいない食満以外は、明日の実習が終わったら、文次郎と伊作がし
ようとしていることと似たようなことをしようと心の中で決め、自分の部屋へ向かって歩
き始めるのであった。

                                END.

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