お昼休みの日常

いつもと変わらない昼休み。音楽室ではピアノが鳴り響いている。音楽室のピアノを奏で
ているのは鳳だ。鳳は時々こうしてピアノを弾きに、音楽室へ来ている。
「やっぱり、長太郎はすごいよね。」
「そうですか?これはそんなに難しい曲じゃないですよ。」
鳳がピアノを弾いている横で、滝は連弾用の椅子にすわりながら、お気に入りの本を読ん
でいる。鳳のピアノを聴きながら読書が出来るのは、滝にとって至福の時だった。
「だって、こんなふうに俺としゃべりながらも弾いてるし、譜面も見てないじゃない。」
「もう体が覚えちゃってるんですよ。俺は、こんなふうに俺と話しながら本を読んでる滝
さんの方がすごいと思いますけどね。」
「そうかな?こんなの誰だって出来ると思うけど。」
「少なくとも俺は出来ませんよ。今日は何の本読んでるんですか?」
「ヨーロッパ名詩選集。詩集だからさらっと読めちゃうんだよね。」
パラッとページをめくり、滝は答える。鳳の弾いている曲は、この本に載っている詩にピ
ッタリの雰囲気なので、イメージがより膨らむのだ。そんな詩の世界に浸りつつ、滝は鳳
の体に寄りかかる。ピッタリと滝がくっついてくるので、鳳はドキンとし、一瞬、ピアノ
の音が乱れた。
「あっ、ゴメン。邪魔しちゃったかな?」
「い、いえ!ちょっと驚いちゃっただけで・・・」
「じゃあ、このままくっついてていい?」
「・・・・はい。」
かあっと赤くなりながら、鳳は頷く。それが何だか嬉しくて、滝はニコニコしながら本に
目を落とした。ドイツ詩が読み終わるというところで、ちょうど鳳が弾いていた曲も終わ
った。
「今の曲はこれで終わりです。」
「俺もちょうどドイツの詩が読み終わった。」
「じゃあ、今度はちゃんと話に集中しましょうか。」
「そうだね。」
しばらく他愛もない話で盛り上がり、笑い声が音楽室に響く。
「へぇ、そんなことがあったんだ。」
「意外ですよね。それから・・・」
次の話をしようとした途端、ピアノの譜面台に置いていていた滝の本が床に落ちた。それ
を拾おうと二人で手を伸ばす。本に手が触れた瞬間、お互いの指が触れる。
「あっ、すいません。」
「いや、謝ることじゃないから。それにしても・・・」
本を拾い上げ、それを譜面台に戻すと、滝は鳳の手を取る。そして、先程まで美しい音を
奏でていた指にちゅっと口づけをする。
「わっ、滝さんっ・・・」
「長太郎の指、本当綺麗だよね。」
中学生にしては大人びた微笑みを向けられ、鳳の心臓はドキドキと速くなる。
「でも、キスするんだったらやっぱりコッチかな。」
唇に指をあてられ、そんなことを言われれば、そういうことを期待してしまう。滝の顔が
近づいてくるのを直視出来ず、鳳は目を閉じる。唇が重なり合い、もう少し深いキスをし
ようとお互いに口を開きかけた瞬間・・・
ガチャっ
『―――ッ!?』
突然、音楽準備室のドアが開いた。二人は慌てて顔を離す。そこから出てきたのは、太郎
であった。次の音楽に使う教材に気を取られていたようで、二人がそういうことをしてい
たことには気づいていない。
『か、監督。』
「何だお前達、居たのか。」
『はい。』
「ちょうどいい。所用で職員室に行かなければならない。私が戻ってくるまで、ここに居
てくれないか。」
『分かりました。』
何事もなかったかのようなフリをして、二人は太郎の言うことに答える。しかし、太郎が
音楽室から出てゆくと、心臓をバクバクさせながら、溜め息をついた。
「マ、マジビビった・・・」
「心臓止まるかと思いましたよ。」
「あー、顔熱い。ちょっと窓開けて涼もうか。」
「そうですね。」
緊張で熱くなった顔を冷やそうと、二人は窓の側に移動する。窓を開けると、滝は少し遠
くに見たことのある人物を発見した。
「あっ。」
「どうしたんですか?」
「あそこの木の下に居るのって、ジローと樺地だよね?」
一本の木を指差し、滝は言う。そこに目を移して見ると、確かにそこにはジローと樺地の
姿があった。しかも、樺地がジローに膝枕をしているという状態で、なかなか仲が良さげ
に見える。
「本当だ。樺地、今日は跡部さんと一緒じゃないんですね。」
「まあ、いつでも一緒ってわけじゃないからねー。」
「それにしても仲良さそうですね。あそこまで堂々と膝枕出来るってすごいと思うんです
けど。」
「確かに。でも、ジローだからね。あの程度は許されるでしょ。」
遠目から見てもほのぼのとした雰囲気の二人を眺め、滝と鳳は少し羨ましいなあと思う。
太郎がいつ帰ってくるのか分からないので、先程のようなことは出来ないが、また、少し
いい雰囲気になりたいと、二人は再びピアノの椅子に座った。

滝と鳳が見ていた木の下では、樺地に膝枕をしてもらいながら、ジローが気持ちよさそう
にすやすやと眠っている。昼休みの始めに忘れ物を取りに部室に行った樺地だったが、教
室に帰る途中でひたすら眠そうにしているジローに掴まった。そして、今の状態に至る。
(本当ジローさんって、よく寝るよなあ・・・)
ジローの寝顔を見ながら、樺地は心の中でそう思う。こういうことには慣れっこなので、
特に嫌だとは思わないが、こんなに野外でいつも寝られていると風邪でも引いてしまうの
ではないかと心配になってくる。
「へっくし・・・」
寝ながらジローはくしゃみをする。その衝撃で、いったん目を覚ました。
「うー、寒みぃ・・・」
「大丈夫ですか・・・?」
「はりゃ?樺地?」
何で目の前に樺地が居るか分からないというような表情で、ジローは樺地を見る。あまり
の眠気で、樺地に会って膝枕をせがんだことさえ覚えていないようだ。
「この季節に・・・外で寝るのはあんまりよくないです・・・」
「でも、眠いと寝ちゃうんだよね〜。」
「だったら、もう少し暖かい格好してください・・・」
そう言いながら、樺地は自分の着ていたブレザーを脱ぎ、ジローの体にかけてやった。樺
地のブレザーはジローの体に比べればだいぶ大きいので、いい感じにジローの体は覆われ
る。
「おー、超あったけー!!サンキュー樺地!」
「ウス。」
「でも、樺地が寒くなっちゃわねぇ?」
「膝があったかいんで・・・大丈夫です・・・」
眠っているジローの体温は、普通の人に比べて高くなっている。それがピッタリと膝にく
っついているのだ。温かくないわけがない。
「へへへ、やっぱ樺地やさC〜!」
樺地のブレザーに包まり、ジローは嬉しそうに笑う。そんなジローを見て、樺地もふっと
微笑んだ。
「樺地、手貸して。」
「ウス。」
ジローに言われるまま手を出すと、その大きな手をジローはぎゅっと握る。
「手も繋いだ方があったかいだろ?」
ニッと笑ってジローは言う。確かに温かいがこれはかなり気恥ずかしい。
「ウ、ウス・・・」
「まだ、昼休み残ってるよな?もうちょっと寝るから、チャイム鳴ったら起こして。」
「・・・ウス。」
樺地の手を握ったまま、ジローはまた眠ってしまう。昼休みが終わるまでは、後20分程
ある。しばらくこのままでいるのも悪くないかと、樺地はジローの手を握り返した。
(また寝ちゃった。でも、たくさんしゃべるのはあんまり得意じゃないし、ここに居るの
あったかくて気持ちイイし、まあいっか。)
ジローの体温を感じながら、樺地は目線をゆっくり正面へ移す。すると、向こうの方に岳
人と忍足が歩いていくのが見えた。
(あっ、向日さんと忍足さんだ。どこに行くんだろう?)
どこに行くのかが気になっても、ジローが膝の上で眠っているので動くにも動けない。視
界の見えるところまで、目で追いかけていたがすぐに二人は見えなくなってしまった。

「よーし、このへんでいいか。」
手にビニール袋を提げ、岳人は赤や黄色の落ち葉がある場所に腰かける。その隣に忍足も
腰かけた。
「だいぶ葉っぱも落ちてきとるな。」
「そうだな。でも、落ち葉のじゅうたんって感じで綺麗じゃん!」
「せやな。それより、早く食べんと俺のアイスやから溶けてまう。」
「あっ、そっか。んじゃ、早速食べようぜ。」
岳人と忍足の二人は、既に昼食は食べおわっているが、購買でデザートを買い、外で食べ
ようということでここへやってきた。岳人はかぼちゃプリンで特に早く食べなくてはいけ
ないということはないのだが、忍足はアイスクリームを買った。そのために早く食べなけ
れば、せっかくのアイスが溶けてしまうのだ。
「それじゃ・・・」
『いただきます!』
袋の中からデザートを出すと、二人はぺりっとフタを開けてそれを食べ始める。濃いオレ
ンジ色のプリンを口に運ぶと、岳人は舌鼓を打つ。
「うめぇー!かぼちゃプリンって普段はあんまり食わねぇけど、たまに食べるとうまいよ
な。」
「確かに普段はあんまり食べへんかもしれんなあ。」
「侑士買ったのアイスだよな?何味?」
「栗味やで。秋季限定らしいから、思わず買ってもうた。」
「へぇ、うまそうじゃん!なあなあ、ちょっと味見させて?」
「別にかまへんで。」
少し溶けた栗アイスをスプーンで掬い、岳人の口へと運んでやる。パクッとそれを口に入
れると、岳人はくぅーっと目をつぶった。
「どないしたん?口に合わへんかったか?」
「いやいや、その逆!!そのアイス、超うめぇ!!」
「そりゃよかったな。岳人のかぼちゃプリンはどんななん?それも季節限定?」
「いや、これは季節限定とかじゃないと思うけど。でも、まあ、確かに秋っぽいよな。一
口食ってみる?」
スプーンで橙色のプリンを掬うと、忍足の口元へ持ってゆく。そこまで近くに持ってこら
れたら、食べないわけにはいかない。小さく口を開けて、パクッと食べると濃いかぼちゃ
の味が口の中に広がった。
「ホンマにかぼちゃって感じやな。普通のプリンよりかは甘くなくてなかなかうまいんち
ゃう?」
「だっろー?また今度おやつとして買おーっと。」
どちらの買ったデザートもなかなかよい味だと、かなりお気に召したようだ。時間をかけ
てデザートタイムを楽しむと、二人は食休みということで、ゴロンとその場に寝転がった。
「はあー、大満足!」
「せやな。でも、ちょっと寒いかも。」
「あー、侑士、アイスだったもんな。そうだ、俺があっためてやろうか?」
悪戯な笑みを浮かべて、岳人はそんなことを言う。あやしいなあと思いつつ、忍足は一応
頷いてみた。
「そりゃ嬉しいな。でも、どうやってあっためるん?」
次の瞬間、岳人は起き上がり、早業で忍足の上に覆いかぶさった。
「人間ブランケットー。」
「重いで岳人。」
「別にいいじゃん。あったかいだろ?」
「まあ、あったかいはあったかいけど・・・こんなとこ誰かに見られたらどうするん?」
「そんときはそんとき。侑士はあったかいし、俺は侑士とくっついてられて嬉しいから、
いいの!」
どれだけ自分勝手な言い分だと思いつつも、そこまで嫌だとは思わない。少しくらいなら、
このままで居てもいいかと忍足は小さく笑みを浮かべながら、溜め息をついた。
「俺があったまるまでやで。」
「分かってるって。」
しばらくそんなふうにベタベタしていた二人だが、どこからか聞き覚えのある声がして、
むくっと起き上がった。
「今、超聞き覚えのある声が聞こえたんだけど。」
「俺もや。また、あの二人ケンカしとるな。」
自分達の真上あたりから聞こえるその声は、跡部と宍戸のものだった。しかも、ただの話
声と言うよりは、明らかに言い争いをしている声だ。
「よく飽きもせずにあんなにしょっちゅうケンカするよな。」
「まあ、あの二人の場合、それも愛情表現の一つなんやろ。」
「そうかもしれねぇけどー、ちょっとは周りの迷惑考えろって感じだよな。」
「確かにな。でも、今回はそれほどひどくはないみたいやで。」
声の感じからすると、宍戸が跡部に不満を言っているのに対し、跡部はさらっとかわして
いるという感じだ。それだったら、そこまでとばっちりを受けることはないだろうと忍足
は予想する。
「まあ、あいつらは放っておいて、俺らは俺らで好きなことしようぜ。」
「わっ、こら岳人!」
「ちょっとくらいいいじゃん。誰もいねーし。」
「だからって・・・」
「キスまでにしとくから。な、いいだろ、侑士?」
「はあ・・・しょうがあらへんなあ。」
跡部と宍戸なんて放っておけばよいと、岳人は忍足にひっつく。おねだり上手な岳人に絆
され、忍足は完璧に岳人のペースに呑まれてしまった。

岳人と忍足がいた場所の上の教室は生徒会室であった。生徒会の仕事があるということで、
跡部はこの部屋に来ているのだが、手伝えということで宍戸も無理矢理連れて来られたの
だ。
「何で俺がこんなことしなくちゃいけねぇんだよ!!」
「仕方ねぇだろ。他の生徒会の奴らは、他の仕事があるんだからよ。」
「だからって、何で俺なんだ!?樺地でも呼べばいいじゃねぇか。」
「別にいいじゃねぇか。暇してんだろ?たぶん樺地は今、暇じゃねぇ。」
「う〜。」
こんな面倒な仕事はやりたくないと、宍戸は跡部に文句を言いまくる。しかし、跡部は、
飄々とした態度で作業を進めている。樺地も忙しいとなれば、仕方がないかもしれないと
宍戸は嫌々ながらも跡部に言われた仕事を始めた。
「嫌がってるわりには、なかなか手際がいいじゃねぇか。」
「さっさと終わらせてぇからな。」
面倒な仕事と言っても、プリントを冊子にしてホチキスを留めていく作業なので、それほ
ど難しいことではない。黙々と作業を進め、宍戸は早く仕事が終わるように努めた。しか
し、5分程経っても跡部は手を休めない。
「跡部ー、後どれくらいあんだよ?」
「4部か5部くらいだ。もう少しだから頑張れ。」
「何だ。本当後ちょっとじゃん。よっしゃ、ラストスパートだ。」
跡部が組んだ冊子にひたすらホチキスを留めていく。数分もしないうちに、そこにあった
大量のプリントは冊子の形で綺麗に積み上げられた。
「よっし、終わり!」
「思ったより早く終わったな。」
「激頑張ったんだ。当然だぜ。」
「マジ、サンキュー宍戸。テメェが居なけりゃ、昼休みじゃ終わらなかったぜ。これ、本
当は俺一人でやる予定だったんだよな。」
この量の冊子を一人で作らなければいけないことを考えると気が遠くなる。これはさすが
に一人では無理だろうと、宍戸は思った。そう思うと無理矢理手伝わせたことも納得がい
く。
「確かに・・・これ一人でやるのは、無理があるよな。」
「部活の時間を削りゃあ、全然俺一人でも余裕なんだけどよ、やっぱ部活は出てぇからな。」
「部活削るなんてありえねぇ!やっぱ、俺に手伝わせて正解だったぜ、跡部!!」
そんなことを言ってくれる宍戸に、跡部は嬉しさを覚える。文句を言いつつも手伝ってく
れ、しかも、部活にはちゃんと参加して欲しいというニュアンスを含んだ言葉をかける。
本当に他愛もないことではあるが、それが跡部にとってはこの上なく気分をよくさせるこ
とであった。
「宍戸、手伝ってくれた礼だ。受け取れ。」
そんなことを言いつつ、跡部はポンと宍戸の手に一万円札を乗せる。この作業で、一万円
はありえないと宍戸は即行で突っ返した。
「今ので、それはありえねぇから!!」
「別にほんの気持ちだ。素直に受け取れよ。」
「無理無理!!てか、礼を金で示そうとすんな!!」
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ?」
金銭感覚のズレている二人は、こういうところで意見の対立が生じてしまう。礼を受け取
らない宍戸に対してムッとしながら、跡部は尋ねる。すると、宍戸は跡部の胸ぐらを掴ん
で、自らちゅっとキスをした。何が起こったのか分からず跡部は唖然としてしまう。
「礼だったら、今ので十分だ。あっ、後、今日の部活で俺の練習相手になれよ。それなら、
礼としてしっかり受け取ってやるよ。」
自分からしておきながら真っ赤になっている宍戸を見て、跡部の顔は緩む。
「今のじゃ俺の感謝の気持ちは伝わらねぇ。ちゃんとさせろ、宍戸。それから、部活でも
練習は付き合ってやるよ。」
「お、おう。」
宍戸が頷くと跡部は、宍戸の肩に手を置く。その瞬間、どこからかピアノの音色が聞こえ
てきた。
「音楽室で誰かがピアノ弾いてるみてぇだな。」
「長太郎じゃねぇ?長太郎、結構学校でもピアノの練習してるみたいだからよ。」
「なるほどな。いいBGMじゃねぇの。」
気分が盛り上がるようなBGMを聞き、跡部は機嫌よく宍戸に感謝の意を示す。確かにこ
れは、よいBGMだと思いつつ、宍戸は跡部からの心のこもったキスを受け取った。

キーンコーンカーンコーン・・・
昼休みの終わりを告げるチャイムを聞き、バラバラの場所にいた氷帝テニス部レギュラー
メンバーは、教室に戻ろうとする。同じ時間に同じ方向に向かうので、とある場所で、全
員がハチ合わせすることになった。
『あっ。』
「みんな今から教室帰るの?」
「おう。昼休み、終わっちまったからな。」
「そういえば、ジローさぁ、樺地に膝枕してもらって昼寝してたよね?遠目から見て、す
ごいラブラブに見えたよ。」
音楽室から見えた光景を滝はからかうような口調で話す。
「えー、滝見てたの!?全然気づかなかった。」
「まあ、ジローと樺地が居たところからは見えないところに居たからね。」
「あっ、そうだ。岳人と忍足、二人でどこ行ってたの?樺地が二人が楽しそうにどこか行
くの見かけたって言うからさぁ。な、樺地。」
「ウス。」
ジローはここまで帰ってくる途中で樺地にそんな話を聞き、それを岳人と忍足に尋ねた。
「えっ、見てたんだ樺地。特にどこってわけじゃないけど、二人でデザート食べに行った
んだ。校舎のすぐ側の落ち葉がいっぱいあるとこだぜ。」
「ふーん、そうなんだ。」
「あっ、校舎と言えばさ、跡部と宍戸、またケンカしてただろ?下まで声が聞こえてたぜ。」
「せや。今の状態見た限りでは、ケンカしてるようには見えへんけど、仲直りしたん?」
「別にもとからケンカしてたわけじゃねぇし。」
「俺らはいつもラブラブだぜ?」
「な、何言ってんだよ!!」
肩を組まれ、そんなことを言われ、宍戸は照れまくる。本当バカップルだなあと思いつつ、
他のメンバーは大きな溜め息をついた。
「そういや、長太郎、音楽室でピアノ弾いてたよな?」
「えっ、はい。聞こえてたんですか?」
「ああ。なかなかいい感じだったぜ。」
「ありがとうございます、跡部さん。」
「ふーん、何かおもしろいね。それぞれが違うペアのしてることを見てたってわけか。」
「こんなことってあるんやな。」
「本当。完璧一周してるし。すっげー。」
偶然にしろ、ここまで繋がっているのはすごいと、そこに居たメンバーは感心する。
キーンコーンカーンコーン・・・キーンコーンカーンコーン・・・・
そんな話をしていると、授業の始まりのチャイムが鳴ってしまった。
「ヤバっ。」
「授業始まっちゃいます。」
「急いで戻らねぇと!」
それぞれ帰る教室が違うので、バラバラの方向へ走り出した。長くて短い昼休み。どのメ
ンバーも思い思いに、好きなことを好きな人として、十分に満喫しているのであった。

                                END.

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