日が沈み、あたりが闇に包まれると、どこまでも広がる空に満天の星が輝き始める。それ
はプラネタリウムなど比にならないほどの星の数だ。
「景吾ー。」
「ん?どうした、宍戸。」
「外がさ、すげぇ星なんだ。もう全部が天の川じゃねぇかってくらい。」
「へぇ。そりゃすげぇな。」
「なあ、懐中電灯かなんか持って見に行こうぜ。」
テントの中でランプをつけ、本を読んでいる跡部の前にペタンと座り、宍戸は言う。今日
は宍戸の誕生日、跡部が宍戸の誘いを断るはずがない。パタンと本を閉じると宍戸と一緒
に外へと出た。外は全くの闇。ランプがなければ、歩くこともままならない。しかし、宍
戸の言った通り、砂漠の上に広がる夜空には何億もの星が輝いている。
「・・・・すげぇな。」
「だろ?なあ、しばらくここらへんにいて天体観測しようぜ。」
「そうだな。でも、砂の上に直接座るわけにはいかねぇだろ。鞄の中にレジャーシートが
あるはずだからそれを持ってくるか。」
「おう!!」
宍戸はランプを持って、テントへ戻って行った。置いていかれた跡部はその場を動けない。
しょうがないのでそのまま夜空を見上げた。
「こんなたくさん見たのは初めてかもしれねぇなあ・・・。」
仕事や旅行で何度も海外に行ったことはあるが、ここまでたくさんの星は見たことがない
なあと跡部は心の中で呟く。
「おーい、景吾、持って来たぜ。」
「さっさと来い。ランプがねぇと動けねぇんだよ。」
レジャーシートを抱えた宍戸はランプをぶんぶん振って、跡部のもとへ戻って来た。パタ
パタと跡部の近くまで駆けて来ると、持ってきたレジャーシートをバサっと広げる。
「へへへ、これでオッケーだな。」
「もうちょっと丁寧にやれよな。」
レジャーシートに座り、二人はまた空を見上げる。まわりが真っ暗なので、全てが空にな
ったようなに感じる。
「なんかさ、宇宙にいるみたいじゃねぇ。」
無邪気に笑いながら宍戸は言った。ハッキリと見えるものが空に浮かぶ星々だけなのだか
らそう思うのも当然であろう。跡部は頷き、ぎゅっと宍戸の肩を抱き寄せる。
「そうだな。」
「景吾?」
いきなり抱き寄せられ、宍戸は不思議そうな顔で跡部の顔を見上げた。側にあるランプに
照らされたその顔は、とても優しい表情をしていて、いつもの跡部とは少し違うように感
じられる。
「あまりにも周りが広いから、こうしてないとお前が分からなくなりそうだ。」
「そんなこと心配すんなよ。俺、景吾からは絶対離れねぇもん。」
そんなふうに自分を大事にしてくれているのが嬉しいと宍戸も自ら跡部に抱きついた。砂
漠の夜は寒い。しかし、そんなことは全く感じられないほどのぬくもりが二人の間には確
かにあった。
「・・・あれ?」
「どうした?」
「何か・・・景吾いつもと違う匂いがする。」
顔を跡部の胸にうずめているために感じた跡部の匂い。いつも使っている香水とは全く違
う優しい感じの香りだ。
「ああ。昨日、カイロで買った香水だ。試しに今日つけたんだったな。」
「へぇ、そっか。」
「この匂いは嫌いか?」
「ううん。いい匂い。なんかすげぇホッとする。」
胸に顔を埋めるような感じで宍戸は目を閉じる。ほのかに香る花のような甘い香りが宍戸
にはひどく心地がよかった。甘えるような仕草を見せる宍戸の髪を跡部は弄る。軽く撫で
ていると、ふとした弾みにゴムが外れ、ぱさりと長い黒髪が背中に落ちた。
「あっ、外れちまった。」
「ああ、別にいいぜ。そのままでも。それに景吾は俺が髪の毛下ろしてんの好きなんだろ?」
「まあな。」
下ろされた黒髪にキスをしながら跡部は言う。しばらくそのままでいるが、やはり何か物
足りない。どちらともなくお互いの唇を求め、そのまま重ね合わせた。無音の砂漠地帯。
何度も重ねる度に漏れる宍戸の声や甘い蜜の絡まる音が二人の耳に鮮明に響いた。
「・・・ぁ・・んん・・・」
「何かいつもよりドキドキするな。」
「・・・ハァ、テメェがそんなこと言うなんて珍しいな。」
「いいじゃねぇか。それよりこの後進んでいいだろ?」
「・・・・おう。」
恥ずかしそうに宍戸が小さく頷くと、跡部はゆっくりと宍戸をレジャーシートに押し倒す。
そしてまた、優しく口づけを施した。
満天の星の下、二人は熱を交換し合う。砂漠の寒さなど微塵も感じないほど二人の熱は高
まっている。
「うっ・・・ぁん・・・あっ・・・」
「こんなところでも、やっぱすることは同じだな。」
「こんなところだから・・・いいんだろ?」
跡部の言葉に宍戸はふっと笑いながら返す。ちょっと意外な宍戸の言葉に跡部もつられて
笑った。
「言うじゃねぇか。だったら、こっちも手加減なしでいかせてもらうぜ。」
「えっ・・・?ちょ、ちょっと待っ・・・ひゃっ・・ああっ・・・」
先ほどまで敏感な前を弄っていた手を後ろに持ってゆく。そして、何の躊躇もなしに宍戸
の内側を探り始めた。予測出来なかったことではあるが、宍戸のそこはしっかり跡部の指
を受け入れ、弄られる度にその蕾を開かせてゆく。
「あっ・・・やぁ・・ん・・・・景・・・吾ぉ・・・」
「いい音立ててるじゃねぇか。もう一本入りそうだぜ?」
「ひっ・・・だ、だめぇ・・・・そんなに弄るなぁっ・・・」
「あーん?こんなにしといて何言ってんだ。」
すっかりテンションの上がった跡部をそう簡単に止めることは出来ない。いつも以上にじ
っくり尚且つ激しくそこを弄られ、宍戸はとにかく身を捩じらせ、喘ぐことしか出来なか
った。しかし、どんなに恥ずかしいことを言われようが、指だけでイカされようが、その
行為自体をやめて欲しいとはさらさら思わない。むしろ、もっとして欲しいとばかりに宍
戸は全身で跡部の与えてくれる快感を受け止めた。
「んっ・・・んん―――っ!!」
「やっぱ、いつもと違うとこでするのはいいな。お前も興奮してんだろ?あーん?これだ
けでイッちまうんだもんなあ。」
「・・るせぇ・・・それより、さっさと進めろよ。」
息を乱しながらも宍戸はそんなことを言う。これ以上進めろというのは、要するに早く挿
れてくれと言っているのと何ら変わらない。分かってはいるのだが、跡部のこと。あえて
こういうところでいじめたくなるのだ。
「今日は嫌に積極的だな。で、今日はどんなふうにして欲しいんだ?」
「どんなふうにして欲しいって・・・?」
「どういう体位がいいとか、優しくして欲しいとか、激しくして欲しいとか、いろいろあ
るだろ?」
「は・・・?え、えっとぉ・・・・」
冗談で言っているのに宍戸は真剣に考える。というかこんなことはそこまで真剣に考える
ことではない。しばらく考えた結果、一応は結論を出す。それを跡部に伝えるというのが
また至難の技だ。ただ言うだけなのだが、どれをとっても口に出すには恥ずかしくてしょ
うがない。真っ赤になりながら、跡部を見て宍戸は自分のして欲しいことをそのまま言葉
にした。
「た、体位は、こういうのがいい・・・」
跡部を起こし、足を跨ぐような形で首に腕を回す。要するに向き合った形の座位だ。
「それで?」
「えっと、それから・・・優しいとか激しいとかはお前の好きにしてくれていい。でも、
ちゃんと気持ちよくしてくれよな?」
「了解。」
宍戸の要望を全て聞き、跡部は満足そうに笑った。そして、軽くキスをした後、宍戸の希
望通りの体位で自分のモノを挿れてやる。今まで一連の宍戸の反応や言葉が可愛くて、跡
部のソレはすっかり高ぶっていた。
「うっ・・・くぅんっ・・・」
「そんなに緊張すんな。もっと力抜けよ。」
「うん・・・はっ・・・ああっ・・・!!」
跡部の言われた通りにすると、一気に奥の方まで入っていく。その感覚があまりにも気持
ちよくて宍戸は思わず跡部にしがみついた。
「大丈夫か?」
「う・・・どうしよ・・・あっ・・・これ・・よすぎ・・・・」
「それなら問題ねぇな。少し動くぜ。」
「やっ・・・あっ・・・景吾っ・・・!!」
跡部が少しでも動くと内側が擦れ、次から次へと強い快感が生み出される。どうしてここ
まで感じるのか分からない。しかし、確かなのは跡部と繋がっているから気持ちイイとい
うこと。乱れる呼吸の中、宍戸は跡部の名前を何度も呼び、跡部の存在を確かなものとし
て捉える。
「あっ・・ぅ・・景吾・・・けい・・ご・・・」
「ハァ・・・いいぜ、亮。」
「景吾・・・はぁ・・・あっ・・・」
「なあ、お前は俺とこういうことするの好きか。」
「う・・うん・・・好きぃ・・・」
「それじゃあ、お前の誕生日には毎年毎年、これをしてやるな。」
「今までだって・・・そうしてきたじゃねぇか・・・」
「はは、確かにそうだったな。でも、これからもずっとしてやる。約束だ。」
いつになく真剣な眼差しで跡部は言う。遠まわしではあるが、これはこれからもずっと宍
戸のことを思い続けるという、ある意味誓いの言葉のようなものなのだ。その言葉の真意
を理解したのか宍戸は嬉しそうに笑って、自ら跡部にキスをする。
「約束・・・絶対破んじゃねぇぞ・・・」
「ああ。この星に誓ってもいいぜ。」
「そりゃすげぇ約束だな。こんなにたくさんの星の下で誓ったら、絶対破れないもんな。」
「だろ?・・・俺はこれからもずっとお前を思い続けるぜ。」
「・・・俺も・・・俺もずっと景吾のこと・・・思い続ける。」
宍戸がそう言い切った瞬間、頭の上で大きな流れ星が流れた。二人の誓いはエジプトの空
に浮かぶ星がしっかりと受理したのだ。それが合図かのように、たくさんの流れ星が姿を
現わす。星の雨が降る中、二人は大自然の中で一つになるのであった。
一通りの行為が終わると二人はレジャーシートに横になる。仰向けで星空を眺めながら、
他愛もない会話をする。何もかもが日本にいる時とは違う。広大な自然に身を置きながら、
ただ感じられるのは驚かされるばかりの自然の素晴らしさとお互いの存在のみ。全てが解
放されるような感覚に二人は今までに感じたことのない心地よさを感じていた。
「景吾。」
「何だ?」
「今夜は寝たくねぇな。」
「そうだな。こんな気分はそうそう味わえねぇ。」
「こんないいところに連れてきてくれて、ありがとな。」
「別に大したことじゃねぇよ。でも、お前がそう思うんだったらよかった。」
お互いに心の内を打ち明けあう。普段素直になれない二人がここまで素直に思っているま
まのことを言うのは珍しい。おそらくこの何とも言えない雰囲気がそうさせているのだろ
う。眠りたくないと言っていた宍戸だが、やはり体は疲れている。しばらくすると、跡部
の腕を枕にして眠りについてしまった。
「何だよ、寝ちまったじゃねぇか。」
ふっと笑いながら跡部は呟く。まあ、しょうがないかとその幼い寝顔に触れる。柔らかい
頬と滑らかな黒髪が跡部の心をリラックスさせる。結局、跡部も眠気に勝てず、ゆっくり
と眠りにつく。こうして夜は更けていった。次の日、二人は朝日の眩しさで起こされる。
朝一番に目に飛び込んできた景色。それは昨日の夕方見たあの幻想的な光景とほとんど変
わらない素晴らしい光景だった。跡部からの誕生日プレゼント。それは物には変えること
の出来ない宍戸にとって最高のプレゼントであった。
to be continued