銀×財前
銀Side
「話があると聞いたが、どないしたんや?困った事でもあったんか。」
財前に呼び出された銀は、何か相談したいことがあるのだろうと思い、そんなことを尋ね
る。
「いえ、別に困った事はないっスけど・・・」
「ワシにできる事やったら協力するで。遠慮なく、なんでも言うてくれ。」
「師範、ホンマ優しいっスよね。けど、ちょっと鈍感っスわ。」
今日はバレンタインデーだ。そんな日に呼び出されているのに、普通の相談事だと思って
いる銀に、財前は用意してきたあるものを差し出す。
「ん・・・その箱は・・・」
「バレンタインのチョコレートです。師範に。」
「バレンタインのチョコレート・・・?ワシにくれるんか?」
「そのために呼び出したんスけど。」
「おおきに。それで呼ばれたとは気付かんかったわ。」
本当に気づいていなかったのかと財前は少し驚く。
「今日がバレンタインってこと、忘れてたんっスか。」
「今日がバレンタインやとは知っとったが、まさかもらえるとは思うてなくてな。」
自分が銀のことを好いていることもあり、財前は銀はそれなりにモテると思っている。だ
からこそ、銀のその言葉は聞き捨てならなかった。
「いやいや、師範結構モテそうやないですか。少なくとも俺はずっとあげたいと思うてま
したよ。」
「・・・全然そないな素振りがなかったというか・・・ワシも期待し過ぎてはアカンと思
たというか・・・」
「えっ?」
「あぁ、余計な事まで言うてしもた。気にせんとってくれ。」
本当のことを言うと、銀は財前からチョコをもらいたいと思っていたのだ。しかし、それ
を期待しすぎると、もらえなかったときのショックが大きいと考えないことにしていた。
「とりあえず、そのチョコはちゃんと受け取ってください。」
もちろん受け取らせてもらうと、銀は財前からその箱を受け取った。チョコレートを受け
取ったものの、銀としてはまだ財前と一緒にいたいと考える。
「せや。このまま帰ってまうんももったいない事やし、どこかに寄っていかへんか?」
「ええんですか?」
「もちろん無理強いはせえへんが、つき合うてくれたら嬉しいで。」
「そんなんつき合うに決まっとるやないですか。」
銀からの誘いを断るわけがないと、財前は即答する。財前と出かけられることが嬉しくて、
銀の頬は緩む。
「ほな、よろしゅう頼むわ。せやけど、どこに行こか・・・」
「どこに行くかはノープランなんっスね。」
「風が冷たい事やし、暖かい所で過ごすんがええやろか。」
「その方がありがたいっスね。」
「行きたい場所があったら言うてな。」
財前が行きたいと思う場所があるなら、そこに行くのが一番だろうと銀はそう伝える。少
し考えた後、財前は二人で行って楽しそうだと思う場所を提案する。
「室内で師範と楽しめそうな場所っスか。別に腹も空いてるわけやないし、ゲームセンタ
ーとかどうっスか?」
「オモロそうやし、ええな。」
「なら、決まりっスね。」
「遊んどるうちに寒さも吹っ飛びそうや。ほな行こか。」
ゲームセンターなら二人で楽しめるし、寒さもしのげるだろうということで、早速近くの
ゲームセンターへと向かった。
ゲームセンターに着くと、ちょっとよさげなぬいぐるみが目に入ったので、二人はクレー
ンゲームに挑戦する。しかし、いざやってみるとなかなか難しく、何度か挑戦してもその
ぬいぐるみは取れなかった。
「クレーンゲームとは難しいもんやな。次こそリベンジしてみせるで。」
「結構設定で取りやすさはちゃいますからね。次は別のゲームで遊びましょ。」
「もうええんか?あのぬいぐるみがほしかったんやろ?」
「別にそこまでではないっスわ。こういうんは欲張っちゃアカンのですよ。」
取りづらい設定のものにそこまでお金をかけるのはよくないと、財前はそんなことを言う。
それを聞いて、銀はほんの少し残念そうな顔で笑った。
「そうか。せっかく来たからには、おぬしの喜ぶ顔を見たかったんやが・・・欲張るのは
ほどほどにしとこか。」
「それは大丈夫っスわ。師範とこうして一緒に遊べるだけで、俺は十分嬉しいんで。」
サラッとそう言う財前の言葉を銀は聞き逃さなかった。嬉しいことを言ってくれるなあと、
顔が緩むのを抑えられないでいた。
「師範。」
「どないしたんや?」
「俺、これが欲しいです。」
ガチャガチャがたくさん並んでいるコーナーへ移動すると、財前は1つのガチャガチャを
指差し、銀に声をかける。
「これも当たるかどうかは分からないんちゃうか?」
「それでも、クレーンゲームよりは確実やと思いますよ。」
「確かにそうやな。」
欲しいと思っているものが出る確証はないが、クレーンゲームと違い確実に何かを手に入
れることが出来るのがガチャガチャだ。
「俺もやるんで、師範もやってください。その方が確率は上がるでしょ。」
「せやな。」
「ちなみに師範はこの中だったらどれが欲しいっスか?」
「うーむ、この中やったらこれやろか。」
せっかくなので、銀が欲しいものがどれかを聞いておこうと財前は尋ねる。銀が指差した
ものは財前とは別のものであった。
「ほんなら、まず俺からやりますね。」
ハンドルを回すと、コトンと1つ落ちる音がする。
「欲しいの出たやろか?」
「俺が欲しいのじゃないっスね。けど、師範が欲しい言うてたのが出ましたわ。」
取り出し口から出てきたものを取り出すと、その中身を確認する。自分が欲しいと思って
いたものではなかったが、銀が欲しいと言っていたものが出て、財前としては大当たりだ
と思っていた。
「そうか。ほんなら、次はワシの番やな。」
財前に続いて、銀もガチャガチャを回す。
「師範は何出ました?」
「ちょっと待ってな・・・おっ、これは財前はんが欲しい言うてたやつやな。」
カプセルを開けると、中には財前が欲しいと言っていたものが入っていた。それを見て、
財前は嬉しそうに笑う。
「なら、交換します?」
「うむ、それがええな。」
「やっぱ、師範運ええっスよね。」
「はは、それは財前はんもやろ?」
お互い相手の欲しいものが出て、それを相手に渡すことができ、どちらも嬉しそうな顔に
なる。
「ガチャガチャなんで、大した金額やないっスけど、結構嬉しいっスね。」
「財前はん、ホンマに嬉しそうな顔しとるもんな。なんやこっちまで嬉しくなるで。」
「そうっスか?けど、まあ・・・師範から欲しいもんもろて、師範も嬉しそうやったらや
っぱ嬉しいっス。」
素直に嬉しさを表している財前を見て、銀はふと思ったことを口にする。
「財前はんの笑てる顔、やっぱり好きやな。」
「へっ!?急に何言うとるんスか?」
「はは、急にすまんな。せやけど、思わず心の声が漏れてもうた。」
「そんなん言うのずるいっスわ・・・」
銀に好きと言われ、財前の顔は赤く染まる。そんな顔も可愛らしいなあと思いながら、銀
はニコニコと財前の顔を眺めていた。
「夕暮れを眺めとると、少し寂しい気持ちになるものやな・・・」
「ちょっと分かります。帰んなきゃいけないっていうんがそう感じさせますよね。」
ゲームセンターで楽しい時間を過ごし、外に出るとすっかり夕暮れ時になっていた。いい
時間なので、そろそろ帰らなければならないが、どちらも寂しいなあと感じていた。
「フ・・・なんや浸ってもうたわ。改めてやけど、チョコレートをおおきにな。」
「いえ、俺がしたいと思ってしたことなんで。」
「ええ時間を過ごせて、ホンマに楽しかったわ。」
「俺も・・・めっちゃ楽しかったです。」
今日は本当にいい日だったと、どちらも満足そうな笑みを浮かべてその思いを伝える。
「名残惜しいけど暗くなる前に帰らなアカンな。気を付けてや。」
「はい、また明日学校で。・・・明日、チョコの感想聞かせてください。」
財前の言葉に頷くと、銀はその大きな手で財前の頭を撫でる。そんなことをされるとより
離れがたくなってしまうと思いながらも、銀を心配させないために財前は自分の家に向か
って歩き出した。
ホワイトデー
「来てくれておおきに。」
ホワイトデーの日、銀は財前を呼び出していた。約束していた場所に財前が来るとお礼を
言う。
「師範から呼び出してくれるなんて珍しいっスね。」
「今日はホワイトデーやから、1か月前のお返しを用意したんや。」
そう言いながら、銀はホワイトデーの贈り物を財前に渡す。銀からバレンタインのお返し
をもらい、財前は嬉しそうに微笑む。
「なるほど、今日ホワイトデーですもんね。ありがとうございます。」
「バレンタインでは美味しいチョコレートと、おぬしの時間をくれておおきにな。」
「バレンタインは、ホンマに俺も楽しかったんで、お礼を言うのはこっちの方っスわ。」
バレンタインの日に一緒に出かけたことを思い出すと、どちらも自然と笑みがこぼれる。
「あの日の事を思い出したら、胸が温かくなるんや。ホンマにええ思い出や。」
「ちょっと大袈裟っスわ。せやけど、俺もそう思うとります。」
財前が自分と同じ気持ちであることが嬉しくて、銀は今この瞬間も胸の中が温かくなるの
を感じる。また財前とはどこかへ出かけたいと素直にその気持ちを伝える。
「おぬしがよければやけど、またつき合うてくれたら嬉しいで。ほなな。」
「師範とだったら、いつでもつき合います。また、二人でどこか行きましょうね。」
銀と一緒に出かけたいという気持ちは財前も同じであった。また一緒に出かけられること
を楽しみにしながら、今日は帰ることにした。
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財前Side
「おー、おった。用ってなんです?」
銀から来て欲しいと連絡があり、財前はすぐに呼び出された場所へとやってきた。予想以
上に早く来てくれたので、銀は驚きつつも嬉しくなる。
「来てくれておおきに。財前はん、さっき連絡してからえらい早く来たな。」
「えらい早よ来たって?たまたま近くにおっただけですけど。」
「そうか。それは少し嬉しいな。」
「ニヤニヤせんといてくれます。たまたま言うとるやないですか。」
照れ隠し全開な財前の態度に銀の顔は思わず緩んでしまう。あまりからかうようなことを
言うと機嫌が悪くなってしまうので、銀は謝りながら用意していたチョコレートを財前に
渡す。
「はは、すまんな。ほんなら、これ、財前はんに。今日はバレンタインやからな。」
「あぁ、チョコくれるんスね。どーもおおきに。」
「予想しとった感じか。思たより反応が薄いなぁ。」
「反応薄いとか言われても・・・。14日に呼び出されたら大抵察しつくと思いますけど。」
チョコを受け取ってもいつも通りクールな財前に銀は感心しつつ、受け取ってもらえたこ
とに安心する。
「さすが財前はんやな。ワシからのチョコレートも予測済みっちゅーわけか。」
「ていうかチョコの包装、えらい気合い入ってますね。中身にも期待してええスか?」
「ええで。財前はんの喜ぶもん、選ばせてもらったつもりやからな。」
「自分でハードル上げてきますね。ほな楽しみにしときますわ。」
「食べたら感想聞かせてや。」
財前はきっと自分以外からもたくさんチョコレートをもらおうと予想して、銀はそれなり
に目立つような包装と財前好みのチョコレートを選んだ。銀からのチョコレートがどんな
ものであるか早く帰って確認したい気持ちもあるが、それよりももっとしたいことが財前
にはあった。
「・・・あの、このあと暇なんっスよ。師範も予定ないならどっか行きません?」
「構へんで。これ以外の予定はないしな。」
「このまま帰るんも何やし、お互い暇つぶしっちゅー事で。」
「せやな。」
「またニヤニヤしとるし・・・まーええけど。」
財前に誘われたのが嬉しくて、銀はまた顔が緩んでしまう。財前とならばどこに行っても
楽しいと思うが、どこに行くかは決めなければならない。
「で、どこに行くんや?」
「流行ってるカフェは・・・こっからやと遠いな。」
「どこがええやろなぁ。」
「近場で何かないか調べるか・・・」
「ワシも何か調べた方がええか?」
「どっか希望あるんやったら、そこでもええですよ。」
財前に希望を聞かれ、銀は具体的にどこがよいかを考える。なるべく財前の好みそうな場
所を考えていると、ある場所が思い浮かぶ。
「今日はだいぶ冷えるし、室内の方がええやろなぁ。せや、カラオケで歌うのはどうやろ
か?」
「ええんちゃいます?近くに最新機種の入ったとこ知ってるから、そこ行きましょ。」
「それはええな。」
「気になってた新曲入ってたら、歌ってみよかな。」
「それは是非聞かせて欲しいもんやな。」
思ったよりも財前がノリ気になってくれたので、そこまで場所のチョイスは間違っていな
かったと銀はホッとする。どちらも歌うことはそれなりに好きなので、うきうきとした気
分で近くのカラオケボックスへと向かった。
「カラオケの選曲って、本人の性格とかセンスが出るって言いますよね。」
「せやなぁ。」
「師範はイメージ通りっていうか、センスは悪ないっスよね。」
何曲か入れた歌を歌い終わった合間に、財前はそんなことを言う。どちらも自分の好きな
曲を歌うので、財前は洋楽を、銀は演歌をメインに歌っていた。
「つい演歌ばかりになってしまうからなぁ。財前はんの歌う曲も英語の歌詞の曲が多くて、
かっこええと思うで。センスがええのはお互い様やな。」
「お互い様って、なんですかそのドヤ顔。生意気っスわ。」
冗談めいた口調で財前はそう言う。挑発的な財前のセリフに銀も負けじと言葉を返す。
「ほう、そないに言うなら、採点で勝負でもしてみよか。」
「ええですよ。のぞむところっスわ。」
今度は採点で勝負してみようと、どちらも得意な曲を入れ出した。
「ええー、師範メッチャ高得点やないっスか。」
「自分でも驚いてるわ。せやけど、財前はんやってなかなかの高得点ばかりやと思うで。」
「そりゃまあ。」
「素直に認めるところは財前はんらしくてええな。」
得意な歌を歌っていることもあり、どちらもかなり高得点をたたき出していた。そろそろ
採点はいいかなーと思いながら、次歌う曲を考える。
「それで、次何歌います?」
「もう結構歌っとるからなあ。何にするか迷うわ。」
「あ、ほんなら次は二人で歌いません?」
「二人でか。それはええなあ。」
せっかく二人で来ているのだから、別々に歌うだけでなく、デュエットのように二人一緒
に歌ってみようと財前はそう提案する。
「せっかく今日はバレンタインですし、アレ歌いましょ。」
「アレ?」
「バレンタイン言うたらこれしかないでしょ。」
デンモクでその曲を検索すると、その画面を銀に見せる。曲名を見て、銀は納得する。
「ああ、白石はんやケンヤが歌っとった歌やな。」
「バレキス、師範と歌った言うたら自慢になりますわ。」
「ワシと歌ったからと言って、自慢にはならへんのとちゃうか?」
「師範がバレキス歌うのは、結構レアいと思うんで。」
「まあ、確かに自分では選ばへんかもしれへんなぁ。」
「でしょ?ほら、始まりますよ。」
銀と話しながら、財前はバレンタイン・キッスを入れていた。すぐに前奏が始まり、二人
は画面を見ながら歌い出す。チームメイトが歌っている歌ということもあり、銀もなかな
かノリノリで歌っていた。
「師範、なんだかんだでノリノリで歌うやないですか。」
「せっかく歌うんやったらその方がええと思てな。」
「そういうとこ嫌いやないっスわ。」
「それに財前はんと一緒に歌えるんが楽しくてな。」
「!・・・俺も師範と一緒に歌えて、楽しかったですよ。」
「ほんなら、もっといろいろ一緒に歌おか。」
「ええですよ。」
二人で歌うのが思いのほか楽しく、もっといろいろな歌を歌ってみようと、二人で歌える
曲を探し出す。
「次は何歌おか?二人で歌える曲となると、デュエット曲とかやろか?」
「そうっスね。あ、これとかどうっスか。」
「ええな。もっといろいろ探してみよか。」
自分の好きな曲を歌い、採点ゲームで勝負をし、最後は二人でデュエットをする。時間が
来るまで、二人は存分にカラオケを楽しんだ。
「もうこんな時間か。結構ええ暇つぶしになりましたわ。」
「カラオケでだいぶ盛り上がったもんな。」
数時間カラオケで歌い、外へ出るとだいぶ日が傾いていた。バレンタインの日にこんなに
も二人で楽しめたことが嬉しくて、財前は銀にお礼を言う。
「あと、ええバレンタインでしたよ。おおきに。」
「はは、素直でええなぁ。ワシにとってもええバレンタインやったで。」
「素直でよろしいって・・・普通に思た事言うただけですし。」
「そりゃなおさら嬉しいと思うで。ホンマええ時間やったで。」
いい時間を過ごせたと思うのは銀も同じであった。ほんの少しだけ寂しい気持ちもあるが、
それ以上に満足感が上回っている。
「ほな、また明日。」
「うむ。また明日学校でな。」
明日学校で会うことを約束し、二人は笑顔で帰路についた。
ホワイトデー
「おー、来た。今日ホワイトデーでしょ?」
「そういえば、そうやな。」
ホワイトデーに財前に呼び出された銀は、財前のもとにやってくる。銀が目の前に来ると
財前はバレンタインのお返しにと用意したプレゼントを銀に渡す。
「ほな、お返しです。バレンタインはおおきに。」
「ワシの方こそおおきに。バレンタインはホンマにええ時間を過ごさせてもらったで。」
「もらったチョコも美味かったし、一緒に出かけたんも悪なかったです。」
「喜んでもらえたようでよかったで。」
バレンタインにあげたチョコレートが喜んでもらえたようで、銀はふっと笑う。お返しを
渡すと、財前は学校に戻ろうとする。
「用はそれだけです。部活あるんで、そろそろ行きますわ。」
「うむ。部活頑張りや。」
自分はもう引退してしまったが、二年生はまだまだ部活があるということに気づき、銀は
応援するような言葉をかける。学校に戻ろうと歩き出そうとして、財前は何かを思い出し
たかのように銀の方に向き直す。
「・・・あ、言い忘れとりました。また暇つぶしにつき合うてください。ほな。」
「ええで。また二人で出かけような。」
また一緒に出かけたいというニュアンスの言葉を聞いて、銀は嬉しそうに頷く。部活に向
かう財前を見送り、銀は財前からもらったお返しに視線を移してふっと笑った。