ジロー×樺地
ジローＳｉｄｅ
「おーい、お待たせ。」
「こんにちは、ジロー先輩。」
「遅くなってゴミンね。学校出る時、先生に呼び止められちゃってさぁ。」
「それは、仕方ないです。」
バレンタインデー当日、樺地はジローを呼び出していた。約束の時間より少し遅れてきた
ジローであったが、樺地は全く気にしていなかった。
「ふわぁ・・・それで俺に用事って何〜？」
いつものように眠くなり、一つあくびをして、ジローは樺地に尋ねる。
「今日はジロー先輩に、チョコレートを渡したくて・・・」
「・・・チョコ？もしかしてバレンタインの？」
「ウス。」
「マジマジ！？超ウレＣーっ！」
樺地からバレンタインのチョコレートがもらえると聞いて、ジローのテンションは一気に
上がる。
「嬉しい・・・ですか？」
樺地の質問にジローは頷き、キラキラとした目でもらったチョコレートを見つめる。
「このチョコ、なんかすっげーキラキラして見える。」
「それは少し大げさかもしれません。自分が渡したチョコなので・・・」
「大げさ？そんな事ないっしょ。」
そう言ってくれるジローの言葉が嬉しくて、ホッとしたように樺地は微笑む。
「喜んでもらえたなら、良かったです。」
「へへ、さっきまで眠かったのに嬉しくて眠気がどっか行っちゃった。」
「確かに少し眠そうでした。」
さっきまであくびをしていたのが嘘のようにジローはニコニコとしながらはしゃいでいる。
「ねぇ、このあと暇だったりする？暇なら一緒に遊ぼうよ。」
「えっと・・・」
「もしかして、何か予定ある？」
「このあとは特に予定はないので、大丈夫です。」
「・・・ない？良かったー。このまま解散！ってのが、もったいない気がしちゃってさ。」
「ウス。」
せっかくなら樺地とどこかへ遊びに行きたいと、ジローは樺地を誘う。今日は特に予定は
なかったので、樺地はジローの誘いに応じることにする。
「どこか行きたいとこある？２人ならきっとどこ行っても楽しいＣー。」
「それならば・・・マンガのコラボカフェに行くのはどうでしょうか。」
少し考えて、樺地はそう答える。自分がとても行きたいというわけではないのだが、ジロ
ーが行きたがっていることを知っていた。
「それって大通りのカフェの？俺行きたかったやつだ！」
「少し前に他の先輩達と話しているのを聞いていたので。一緒に行けたらいいなあと思い
ました。」
「・・・前に俺が話してるのを聞いたから？そっか、それで誘ってくれたんだね。んじゃ、
早く行こ〜。」
「ウス。」
決まったなら早速行こうと、ジローは樺地の手を引き、そこへと向かう。
ジローが行きたかったコラボカフェは今日はたまたま空いていたようで、すんなりと入る
ことが出来た。コラボカフェでの食事や飲み物を存分に楽しむと、二人はカフェを後にす
る。
「予約なしで入れて良かったね！」
「ウス。」
「ご飯も美味しかったし、記念のコースターももらえてすげーテンション上がっちゃった。」
「自分も初めてこのようなカフェに行きましたが、楽しかったです。」
ジローが始終楽しそうであったので、樺地もそんなジローを見て楽しいと思っていた。
「マンガの事、もうちょっと話したいしこのまま、あっちのファミレス寄ってこうよ。」
「ウス。」
お腹はいっぱいであるがもう少し樺地と話したいとジローはファミレスへと誘う。まだ時
間に余裕があるので樺地はその誘いに頷いた。
「なんかさっきのカフェで結構食べちゃったから、あんまりお腹は空いてないね。」
「ウス。ひとまず飲み物だけ頼みましょう。」
「そうだね〜。」
お腹はいっぱいであるが、何も頼まないわけにはいかないので、とりあえず飲み物だけで
も頼むことにする。
「ドリンクバーでよいですか？」
「うん、いいよ〜。んじゃ、頼んで取りに行ってから話しよー。」
「ウス。」
ドリンクバーを頼み、ドリンクを取ってくると二人は向かい合わせに席につく。テーブル
の上に先程カフェでもらったコースターを広げると、ジローはわくわくとした様子で話し
始める。
「さっきコースターいくつかもらったじゃん？この中だと樺ちゃんは誰が好き？」
「そうですね・・・こちら、でしょうか。」
ジローが並べたコースターの中で、自分が気になるキャラクターを樺地は指差す。
「へぇ、そうなんだ。こっちとかちょっと跡部っぽいから、これかなーと思ってた。」
「マンガの内容はあまり分からないので・・・」
「あはは、そうだよね。」
「このキャラクターは、雰囲気が少しジロー先輩に似ています。」
「へっ！？そう？」
「だから、このキャラクターが良いと思いました。」
まさかの理由にジローはドギマギとしてしまう。しかし、そう言われて悪い気はしなかっ
た。
「へ、へぇ〜、そっかぁ。えへへ、なんかちょっと恥ずかしいけどうれＣ〜。」
「今度、ジロー先輩が読んでいるマンガを貸して欲しいです。」
「全然いいよ〜。そしたらもっといろんな話ができるね！」
「ウス。」
樺地がマンガを貸して欲しいと言うのを聞いて、ジローは嬉しそうに頷く。自分の好きな
ものを自分の好きな人に興味を持ってもらえるのは嬉しいと感じていた。
「樺ちゃんに貸すんだったら何がいいかなあ。アレもいいし、コレもよさげだＣ〜。」
「ジロー先輩のオススメであれば、何でも構いません。」
「自分の好きなものを知ってもらえるって、なんかうれしいね！」
「確かに・・・そうかもしれません。」
「俺の好きなマンガもたくさん教えるから、今度は樺ちゃんの好きなものも教えて欲しい
なー。」
「ウス。」
自分の好きなものを知ってもらうだけでなく、樺地の好きなものも知りたいとジローはそ
んなことを言う。
「楽しみだなー。ていうか、今日はずっと楽しい！」
「ウス。自分もそう思います。」
「ね！バレンタイン、本当最高だＣ〜！」
二人で過ごすバレンタインが最高だとどちらも嬉しそうな顔で頷き合う。まだまだ話は尽
きないと、二人はもうしばらくファミレスにいることにした。
ファミレスから出ると、空は夕焼け色に染まっていた。
「うわ、もう夕方になってる！」
「時間が過ぎるのがあっという間ですね。」
「いつもは寝てても、こんなに早く時間経たないのに。やっぱり楽しいとあっという間だ
なあ。」
「ウス。楽しい時間は早く感じます。」
楽しい時間は短く感じると二人は顔を見合わせる。もう少し一緒にいたい気持ちはあるが、
さすがに帰らなければいけない時間だ。
「今日はあんがとね。チョコももらったし、いっぱい遊べたからいい夢見れそう。」
「・・・帰る途中で寝ないようにしてください。」
「・・・帰りながら寝ないように？へへ、気をつけながら帰るＣー。それじゃあ、また明
日ね。」
「ウス。それではまた。」
名残惜しいと思いつつ、二人はまた明日学校で会うことを楽しみに思いながら、別れの挨
拶をする。楽しかった時間の余韻を胸に、二人は家路を辿ることにした。
ホワイトデー
「おーい！こっちこっちー！」
「ジロー先輩・・・」
「へへ、今日は俺の方が先に来れた。」
「遅くなってすみません。」
バレンタインデーのときは、樺地の方が先に待ち合わせ場所に着いていたが、今回はジロ
ーの方が先に待ち合わせ場所へやってきていた。
「はい、これ。先月のチョコのお返し！」
「ありがとうございます。」
「すっげー美味しかった。来年も楽しみにしてるから。」
「来年も・・・少し気が早くありませんか？」
来年も楽しみにしているという言葉を聞き、樺地の胸はトクンと高鳴る。
「気が早すぎ？いいじゃん、予約ってことで。期待してるね。」
「ウス。」
ジローのその言葉は、来年も自分と一緒にいてもよいということを表している。その言葉
が嬉しくて、樺地は迷わず頷いた。
*****************************************************************
樺地Ｓｉｄｅ
「自分に用事があると聞きましたが、なんでしょうか？」
ジローに呼び出された樺地は、ジローに指定された場所にやってくる。
「あっ、樺ちゃん。来てくれてありがとー。はい、これ！」
「？これは――バレンタインのチョコレート、ですか。」
「そうだよー。樺ちゃんにはいつもお世話になってるから。」
「・・・・・・」
ジローからチョコレートを受け取った樺地は、驚いたような表情でしばらくの間固まって
しまう。
「あれ？どうした？」
「・・・すみません。まさか自分がもらえるとは思っていなかったので、驚いてしまって。」
「へへ、ビックリしてる樺ちゃんも新鮮でいいね！」
「ありがとうございます。チョコレートは大事にいただきます。」
「食べたら感想聞かせてね！」
ジローの言葉に頷きつつ、樺地はまた黙り込んでしまう。
「・・・・・・」
「今度はどうしたの？」
「あの、このあとお時間はありますか？」
せっかくジローと会えているので、もう少しジローと一緒にいたいと控えめに尋ねる。
「時間？うん、このあとは特に予定ないし、暇だよー。」
「良ければもう少しお話したくて。無理にとは言いませんが・・・」
「全然オッケーだＣ〜！話するなら、お茶をしながらとかどう？」
「それならお茶をしながら・・・ですか？」
「うんうん。外だと寒いし、その方が落ち着いて話せるじゃん。」
「もちろん、自分は構いません。」
「じゃあ、決まりだね！」
話をするなら室内でお茶を飲みながらしたいというジローの提案に樺地は頷く。お茶を飲
むのであれば、カフェやファミレスがいいのではないかと考えつつ、ジローに意見を聞い
てみる。
「お店はどこにしますか？」
「そうだなあ・・・ちょっと遠いけどせっかくだし、大通りのカフェに行ってみようか。
今、流行ってるみたいだし。」
「大通りのカフェ・・・。人気のお店があるんですね。」
「俺もあんまり詳しくはないんだけどねー。とりあえず行ってみてもいいかなーって。」
「自分も行ってみたいです。電車で移動しましょう。」
大通りまでは電車で移動する必要があるため、二人は駅へと向かった。
目的のカフェに向かいながら大通りを歩いていると、樺地はあることに気がつく。
「あのお店ですか。手芸店へ行く途中に、そばを通った事があります。」
「樺ちゃん手芸店とか行くんだ！へぇー。」
これから行こうと思っているカフェはよく行く手芸店の近くにあった。その話をすると、
思いのほかジローが興味を持ってくれているようなので、樺地は少し嬉しくなる。
「・・・手芸店に興味があるんですか。」
「俺、入ったことないんだよね。どんなとこかちょっと気になるかもー。」
「それならお茶をする前に寄っていきませんか。生地や道具を一緒に見ましょう。」
「うん！樺ちゃんがどんなの買うのとかもかなり興味あるＣ〜。」
樺地の好きなものを知れるということで、ジローはわくわくとした様子で樺地と手芸店
へ行くことにする。
「こちらです。」
「へぇ〜、手芸屋さんってこんな感じなんだ〜。」
手芸店に入ると樺地は自分のよく買うもののコーナーにジローを連れて行く。
「たまに生地も買いますが、よく見るのはこのあたりです。」
「うっわー、なんか可愛いのがいっぱいあるＣー！」
「キットになっているので、妹のためによく作ったりしています。」
「すごいね！いいなあ、俺もなんか作って欲しいかもー。」
作って欲しいというジローの言葉を聞き、樺地は是非作ってあげたいと考える。
「構いません。作って欲しいものがあれば、選んでください。」
「本当に！？いいの！？」
「ウス。」
「えー、どれにしよう。どれも可愛いから迷っちゃうＣ〜。」
「お好きなものでよいです。」
樺地にどれを作ってもらおうかジローは壁にたくさんかかっているキットの中から選ぶ。
しばらく迷った末に選んだのはやはり自分の好きな動物であった。
「うーん・・・よし！」
「決まりましたか？」
「うん！これにする！やっぱ、羊が好きなんだよね〜。」
「これは可愛いと思います。」
「だよねー！このふわふわした感じ、手触りとかもよさそうだＣ〜。」
「ウス。」
お気に入りのものが選べたとジローはかなりご機嫌な様子でそのキットを樺地に渡す。
「えへへ、樺ちゃんの手作りのマスコット、超楽しみ〜。」
「では、これを買ってきます。」
「あっ、お金俺が出そうか？俺が欲しいって言ったやつだし。」
「大丈夫です。せっかくなので、自分が買ってプレゼントしたいので。」
「分かった。ありがとう、樺ちゃん。」
「作り終わったら、すぐに渡します。」
「うん！楽しみにしてるね！」
自分からのプレゼントにしたいと思い、樺地はジローから受け取ったマスコットの作成
キットを自分でレジへと持って行く。会計を終えると、入口近くで待っているジローの
もとへ早足で戻る。
「買いました。ここで時間を取ってしまってすいません。」
「謝ることなんて全然ないよ！手芸屋さんも楽しかったＣー。じゃあ、カフェに行こう
か。」
「ウス。」
どちらもほくほくとした気分で手芸店を出ると、もともと行く予定であったカフェへ向
かった。
「いつの間にか日が暮れていますね。」
「もう夕方かー。早いなー。」
カフェから出ると、夕方になっており、西日が空を赤く染めていた。
「ジロー先輩と話していると、時間があっという間です。」
「分かるー。俺も樺ちゃんと一緒だと楽しくて、時間が短く感じるよ。」
「改めて今日はありがとうございました。チョコレート、食べるのが楽しみです。」
「お世話になってるからって言ったけど、義理っていうよりは本命チョコに近いからね！」
ジローのその言葉に樺地はときめく。しかし、どう返していいかが分からなかったので、
無難な言葉を返すことしか出来なかった。
「気をつけて帰ってください。・・・それでは。」
「樺ちゃんも気をつけて帰ってね。じゃあ、また明日〜。」
樺地と楽しい時間を過ごすことができ、ジローは満足そうに笑いながら樺地に手を振る。
樺地も言葉には表さないが、嬉しそうに微笑み、小さく手を振った。
ホワイトデー
「急に呼び出してしまってすみません。」
「大丈夫だよー。今日はホワイトデーだし、もしかして・・・」
今日はホワイトデーなので、樺地に呼び出されたジローはその用事をなんとなく予測して
いた。
「先月のお返しを渡したくて・・・こちらを受け取ってもらえますか。」
「やったー！ありがとう、樺ちゃん！」
分かってはいたものの、やはりお返しをもらえるの嬉しいものだ。全力で喜ぶジローを見
て、樺地はホッとしたように笑う。
「・・・喜んでもらえて何よりです。」
「えへへ、チョコレートを渡したのは俺の方だけど、お返しもらえるのも超うれＣーね！」
「チョコレートをもらった時の自分のように、ジロー先輩にも笑顔になってもらいたくて
・・・」
「もうメッチャ笑顔になっちゃうよ！ありがとね。」
樺地の言葉が嬉しくて、ジローはもう一度お礼の言葉を言う。もう少しジローと一緒にい
たいと思っていた樺地であったが、今日は部活があるのでそれは叶わなかった。
「今日は部活があるので、もう行きます。今度また、ゆっくりお話ししましょう。」
「そっか。二年生はまだ部活あるもんね。じゃあ、頑張ってね！また、明日。」
部活があるなら仕方ないと、ジローは笑顔で樺地に手を振る。そんなジローの嬉しそうな
笑顔を目に焼きつけ、樺地はテニス部の部室に向かって歩き出した。