お出かけバレンタイン
〜Valentine & WhiteDay〜(甲斐凛)

甲斐×平古場

甲斐Side

「えー!こっちこっち!」
きょろきょろと何かを探している平古場を見つけ、甲斐は呼びかけるように声をかける。
「やっと見つけたし。全然見つからんからよー。探してしまったさー。」
呆れたような口調で平古場はそうぼやく。
「探した?悪かったやー。凛待ってたら、海になんか見えてよー。」
「で、海には何があったばー?」
「魚か?って思って近づいてよーく見たら、ただの空き缶だったさー。」
「なんだ、空き缶かよ。ゴミやし。」
「ゴミは拾っといたほうがいいだろ?だから今まで拾って・・・って・・・」
甲斐が話していると、平古場はおもむろに鞄から何かを出し、甲斐に差し出す。
「裕次郎にしてはえらいさー。そんな裕次郎にこれやるやし。」
「え、これなにか?いー、チョコなー・・・」
「そうそうチョコ。俺からのチョコさー。」
「チョコ!?バレンタインかー!?」
バレンタインのチョコと聞いて、甲斐は素直に驚いたような声を上げる。
「そんなに驚くことかや。」
「えー早く言えよー。それならここで正座して待ってたのによー。」
「はは、ここで正座してたらおかしいだろー。」
思った以上に甲斐が良い反応をしてくれるので、平古場は楽しげに笑う。
「ていうか俺のチョコでいいんだよな?渡すヤツ間違ってないよな?」
「女子ならともかく俺からのチョコだぞ?他に誰に渡すんばー?」
「・・・うん。にふぇーどー・・・」
平古場からチョコをもらえた嬉しさを噛み締めながら甲斐はお礼を言う。予想よりも甲斐
が喜んでくれているのを見て、平古場は嬉しくなる。
「どういたしまして。」
「あのよ、せっかくだし、これ一緒に食べんかー?」
「は?なんでよ?」
唐突な甲斐の申し出に平古場はポカンとしてしまう。
「ぬーが、この包みを開けるのに隣に誰かいて欲しいっていうか・・・」
「別に驚くようなものは入ってないんどー。」
「ぬーあびってるかわからんよーやー。俺もわからん。」
ドキドキしすぎて、甲斐は自分でも何を言っているのか分からなくなっていた。それをそ
のまま伝えてくるので、平古場は可笑しくなってしまう。
「はは、そりゃ俺もわからんさー。まあ、一緒にいてやるくらいは別にいいぜ。」
「え、一緒にいてくれる?そしたらどこ行くかやー。」
「すぐそこだし、海がいいな。」
「いいな、天気もいいしよー。じゃあそこから下りて歩くか。」
「だあるなー。」
とりあえずチョコを開けるまでは一緒にいたいと、甲斐は平古場と一緒に浜辺に下りる。
「アハハ、海にチョコ見せびらかしてやるさー。」
「海にかよ。どんなやし。」
チョコを海に見せびらかすと言う甲斐に、平古場は思わず突っ込む。なんとなく楽しい雰
囲気の中、二人は波打ち際まで歩いて行き、濡れない程度の場所へ腰を下ろした。

「やっぱりこれ、家で見ていいかー?明日チョコの感想言うからよー。」
「別にいいけどよ。」
「1人でコッソリ大事に見たいっていうか、いや家だと兄妹うるさいかもだけどよー。」
一緒に開けたいと言っていたのに、今度は家で開けたいと言い出す甲斐に平古場は苦笑す
る。
「じゅんに裕次郎は気分屋やし。まあ、そういうとこも俺は嫌いじゃないけどな。」
「気分屋で悪かったやー。えぇ、一緒に砂に絵ぇ描こうぜー。」
「お、いいな。何描くかー?」
気分屋らしく、次から次へと思いついたことを甲斐は口にする。絵を描くのが得意な平古
場は甲斐のそんな誘いに快く乗った。

「やっぱ、凛絵描くの上手やっし。」
「まあ、得意だからなー。」
「俺なんて、自分でも何描いてるか分からないくらいさー。」
「はは、それはさすがにだろ。」
砂に絵を描きながら、二人はそんな会話をする。何かよく分からないものを木の枝で描き
ながら、甲斐はしばし考える。
「うーん、せっかくだからちょっとでもバレンタインっぽいことしたいんだけど・・・」
「そしたら、こんなんはどうか?」
甲斐の言葉を聞いて、平古場は立ち上がり、長い枝を使って自分達の周りに大きな何かを
描く。描き終えると甲斐の隣に戻ってくる。
「でーじ大きいなにか描いてたな。」
「こん中入ってよ、裕次郎はそっちに寝転がるさー。」
「こう?」
「そうそう、で、俺はこっちに寝転がって・・・」
平古場の言う通りに甲斐は砂の上に寝転がり、平古場自身も甲斐の隣に寝転がる。平古場
が何がしたいのか、甲斐は分かっていなかった。
「いまいちどうなってるかわからんけど・・・」
「本当は写真撮れたりしたらいいんだけどよ、今、俺と裕次郎でっかいハートの中にいる
わけさー。」
バレンタインらしいことをということで、平古場は自分達の周りに大きなハートを描いて
いた。それを聞いて甲斐は感心する。
「はぁやぁ。そういうことか。」
「相合傘より、バレンタインっぽいかなーと思ってよ。」
「自分達からは見えないけどな。」
「そこは気分の問題さー。」
ハートの中に入るというなかなか可愛らしい提案に甲斐の顔は思わず緩む。
「凛、意外と乙女チックなとこあるな。」
「はあ?別にいいやし。」
「全然悪いなんて思ってないさー。じゅんに可愛いとは思うけど。」
「可愛いは余計やっし。」
乙女チックと言われ、平古場は少し照れたような態度を取る。さすがにハートはやりすぎ
だったかと思っていると、甲斐がわくわくとしたような表情で声をかけてきた。
「凛、俺もう1つバレンタインっぽいこと思いついたんだけど。」
「どんなことばぁよ?」
「あのな・・・」
思いついたことを甲斐は平古場の耳元で、内緒話をするかのように伝える。それを聞いて、
平古場の顔は赤く染まる。
「マジか・・・」
「やっぱ、ダメか?」
「いや、うーん・・・今日はバレンタインやし、特別さー。」
「よっしゃ、ありがとうな、凛。」
甲斐の提案に少し迷った様子を見せる平古場であったが、バレンタインを理由にそれを許
すことにした。平古場の許しを得ると、甲斐は大きなハートの中で、平古場の唇に優しく
キスをした。

「でーじ話したなー。時間あっという間だったさー。」
「夕焼けが眩しい時間さー。」
結局夕日が海に落ち始める時間まで、二人は浜辺で話をしていた。
「チョコ、一緒に食べなくて悪かったやー。」
「別に謝ることじゃないだろ。」
「謝ることじゃないって・・・まぁそうかもだけどよー。」
チョコを一緒に食べなかったことを謝ってくるが、甲斐のためにあげたものなので、平古
場自身はそれほど一緒に食べたいとは思っていなかった。むしろ、甲斐が自分のことを考
えながら嬉しそうに食べてくれる方が有難いとさえ思っていた。
「そのチョコ食べて、裕次郎が嬉しそうにしてくれたらそれで十分さー。」
「にふぇーやー。チョコくれたりとか、いろいろ。」
「いろいろ?はは、まあ、そうか。」
チョコをあげた後、浜辺で絵を描いて遊んだり、少しイチャイチャしたりしたことを思い
出し、平古場はくすっと笑う。日が沈んでしまうとさすがに真っ暗になってしまうので、
二人は帰ることにする。
「明日、また学校でな。」
「おー、また明日な。」
浜辺から道路へ上がるとそう言い合い、二人は自分の家へ向かって歩き出す。オレンジ色
の夕日が二人の嬉しそうな横顔を照らしていた。

ホワイトデー
「よう。チョコでーじ美味かったから、俺も美味いの持ってきたさー。」
ホワイトデー当日、甲斐は平古場を呼び出した。
「お、これはもしかして・・・」
「ホワイトデー。はい。」
「ちゃんと用意してくれたんだな。にふぇーやー。」
甲斐からホワイトデーのプレゼントをもらい、平古場は嬉しそうに笑う。
「今ここで開けていいぜー。それとも1人でコッソリ見たいかー?」
「そうだなー、1人でコッソリ見たいかもなー。」
バレンタインデーに甲斐がどうしたかを思い出し、それに合わせるように平古場はそう答
える。
「1人でコッソリ・・・。じゃああとで感想聞かせれよ。」
「ああ。食べたら感想聞かせてやるな。」
「俺と同じくらい嬉しくなるはずよ、きっと。」
そんなにもバレンタインのチョコが嬉しかったのかと、平古場はそれだけでもう嬉しくな
る。
「バレンタインのチョコ、そんなに嬉しかったんばー?そりゃあげて良かったさー。」
今からホワイトデーのお返しを食べるのが楽しみだと、平古場は笑顔でそんな言葉を返し
た。

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平古場Side

「遅れて悪かったやー。」
バレンタインの日、甲斐に呼び出された平古場は少し遅れて甲斐のもとへやってくる。
「いっつも俺のこと注意する風紀委員が遅刻してるさー。」
「風紀委員が遅刻?それはそれ、これはこれさー。」
「まあ、気にしてないけどな。」
しょっちゅう遅刻をする甲斐は、風紀委員である平古場に度々注意を受けている。しかし、
自分が遅刻魔であることもあり、平古場が遅れたことに対して気にしてはいなかった。
「で、用ってぬーが?」
「今日はバレンタインだろー?だから、これやるさー。」
「おお、チョコやっし。にふぇーやー。」
バレンタインのチョコを渡しても、さも当然かのように振る舞う平古場を見て、甲斐は感
心する。
「凛、余裕な感じやし。さすがさー。」
「あんしバレンタインって予想はしてたけどよー。嬉しいのは嬉しいさー。」
「嬉しいんだったらいいさー。」
「逆にチョコじゃなかったら、これから買いに行かせるところだったんどー。」
冗談めいた口調でそんなことを言ってくる平古場に甲斐は意外そうな顔を見せる。
「そんなに俺からチョコが欲しかったってことかやー?」
「ははっ、冗談だって。ハッピーバレンタインさー。」
「なら、俺も言わなきゃだな。ハッピーバレンタイン!」
お互いにハッピーバレンタインを言い合った後、平古場は甲斐を遊びに誘う。
「なあ、暇ならこのあとつき合わんかー?待たせた分、穴埋めするさー。」
「お、いいなぁ。どこ行くばー?」
「思いつきで言ったからよー、場所は決めてないんだけどな。」
「んー、どこがいいかやー。」
「どこでもいいぜー。穴埋めだし、裕次郎の好きなとこで。」
「どこでもいいって言われると迷うさー。」
二人で出かけようということにはなったが、どこへ行くかは迷ってしまう。せっかくなの
で、甲斐の行きたいところへ行きたいと平古場はどこに行くかの決定権は甲斐に委ねた。
「なんか食べるかー?それとも遊ぶか?」
「なら、ファミレスでパフェでも食べるさー。」
なんか食べるかと言われ、甲斐は小腹が減っていることに気づく。だったらファミレスに
でも行っておやつが食べたいと、平古場に提案した。
「そういえばもう春のフェアやってたかやー?それ目当てやっしー。」
「春のフェアだと、ストロベリーサンデーとかあるやんに?それ食べたいさー。」
「ストロベリーサンデーか。俺も食おうかやー。」
「凛もイチゴ好きだもんな。一緒に食おうぜ。」
今の時期、おそらく春らしいフェアをやっているのではないかと予想し、二人は近くのフ
ァミレスに行くことに決めた。

「フェア来週からだったか。うっかりしてたさー。」
「マジかー。結構楽しみにしてたんだけどなー。」
ファミレスでの春のフェアが来週からだったと知り、甲斐はかなり残念そうな声を上げる。
「あんしガッカリさんけー。ほら、このバナナサンデーも美味そうやっし。」
「今日はストロベリーの気分だったんばぁよ。」
「ストロベリーの気分だった?はいはい、またつき合うからよー。」
落ち込み気味の甲斐を元気づけるかのように、平古場は来週もまた一緒に来ようと提案す
る。その言葉を聞いて、甲斐は気持ちを切り替える。
「なら、来週もまた一緒に来ような!んー、今日は何頼もうかやー。」
ストロベリーサンデーは諦め、メニューを見ながら何を頼むかを考える。いざメニューを
見出すと、どれも美味しそうに見え、それはそれで迷う甲斐であった。

「フェアやってなくてがっかりしてたわりには、がっつり頼んでるやっし。」
「なんかメニュー見てたら腹減っちまってよー。」
結局、食べたいものは頼もうと甲斐は軽食系のものを何品か頼んだ。逆に平古場は、種類
が違ったとしてもパフェを食べたいと、チョコレートパフェも頼んでいた。
「そのポテト美味そうやっし。ちょっともらってもいいかー?」
「いいぜ。そもそも凛と一緒に食べるつもりで頼んだしな。」
「にふぇーやー。」
甲斐が頼んだフライドポテトを少し食べたいと、平古場は甲斐の前にあるポテトをつまむ。
「凛のチョコレートパフェも美味そうやぁ。」
「一口食うか?」
「食う!」
「ほら、あーん。」
自分だけもらうのは不公平だと、平古場は自分のチョコレートパフェを甲斐に食べさせる。
口に広がるチョコレートの味に甲斐は思わず声を上げる。
「んん!うっま!」
「はは、そりゃよかったさー。」
「凛があーんして食べさせてくれたから、もっと美味くなってる気がするさー。」
「味は変わらんだろ。」
平古場が食べさせてくれたことで美味しさ倍増だと言う甲斐に、平古場は苦笑しながら言
葉を返す。絶対そうだと言わんばかりに甲斐はさらに言葉を続けた。
「バレンタインに好きな奴にチョコ食べさせてもらうとか、じゅんに最高やんに。」
「なっ!」
「フェアやってなかったのは残念だったけど、凛と一緒にここ来られてよかったさー。」
「フェアは・・・始まったらまた来ればいいやっし。」
あまりに率直な甲斐の言葉に平古場の顔は赤く染まる。
「そうだな。ん?なんか凛顔赤くない?」
「はぁ?別にそんなことないし。」
「そうかー?」
「こ、このファミレスちょっと暑い気するさー。裕次郎、そのジュース飲ませれー。」
顔が赤く見えるのは、室内が暑すぎるからだと誤魔化す平古場であったが、照れて顔が赤
くなっていることに甲斐は気づいていた。
「いいぜ。はい。」
「おっ、このパインジュースも結構いけるな。」
「なー。ていうか、ストローで飲んでるから、思いきり間接キスだな。」
「そ、そういうこと言わさんけー!」
平古場が照れているのが可愛くて面白いと、甲斐はさらに照れさせるようなことを言う。
予想通り、平古場はさらに慌てた様子を見せる。
「あっはは、凛、さっきから照れまくっててうむさんやー。」
「照れてないやっし!」
図星をさされ、平古場は恥ずかしくなる。必死で否定するが、それがまた可愛らしいと、
甲斐は楽しそうに笑っていた。

ファミレスを後にし、海辺の道まで出ると、海の向こうからオレンジ色の光が差し込んで
いた。
「もう帰るんばー?やんばー。」
「おっ、凛、ちょっと寂しがってる?」
ほんの少し寂しそうな顔をしている平古場を見て、甲斐はそんなことを尋ねる。否定はし
ないが、ただ寂しがっていると思われるのも癪なので平古場は少しだけ強気な発言をする。
「暗くなるしなー。嫌でもまた明日会うしよー。」
「嫌でもは余計やっし。まあ、確かに明日も会えるしな。」
「嫌は余計?ははっ。」
明日も学校があるので、そこまで寂しくはないと平古場はそんなことを言う。
「じゃあ、また明日な。寂しくなったら、電話してくれてもいいぜ。」
「・・・じゃあ、また明日。チョコ、いっぺーにふぇーどー。」
ちょっとツンとした態度を取りつつも、電話してくれてもいいという言葉にときめき、チ
ョコレートをもらえたのが嬉しかったことを平古場は素直に伝える。最後まで可愛らしい
と思いながら、甲斐は平古場に手を振り、家に向かって歩き出した。

ホワイトデー
「待たせたかやー。学校でもいいかと思ったんだけどよー。」
「そんなに待ってないから大丈夫さー。」
渡すものがあると、平古場は甲斐と待ち合わせをしていた。今日はホワイトデーなので、
バレンタインのお返しを渡そうと思っていたのだ。
「これ、バレンタインのお返し。いつ渡そうか悩んださー。」
「にふぇーやー。いつでも渡してくれてよかったんに。」
「タイミングとかあるやっし。別に誰が見ててもいいけどよー。」
「タイミング?まあ、そういうもんか。」
「俺は良くても、お前が嫌かもしれんだろ。だから。」
気をつかってくれたのだなと甲斐は嬉しくなる。自分としてもいつ渡されても問題なかっ
たが、よくよく考えてみると、他の人がいる前で渡されたら、平古場からのお返しに大喜
びは出来ないなあと思ってしまう。
「俺も大丈夫だったけどな。んー、でも、みんなの前だとやっぱ素直には喜びにくいか。」
「・・・またそのうち、どっか行こうぜ。クラスのヤツらには内緒どー?」
「おう。また放課後デートしような!」
控えめに、しかし、二人きりで出かけようと言う平古場の言葉に甲斐は速攻で頷く。放課
後デートという言い回しが甲斐らしいと思いながらも少し恥ずかしく、平古場は顔が赤く
なるのを誤魔化した。

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