越知×毛利
越知Side
「・・・来たか。」
「お待たせしてすんません、月光さん!」
「待ったといってもさしたる時間ではない。そう気にするな。」
「ありがとうございます。」
合宿所の外で、越知を呼び出した毛利は、少し遅れて約束の場所へと到着する。
「それより、何か用事があると言っていなかったか?」
「はい、今日は月光さんにこれを渡したいと思て。」
そう言いながら、毛利は可愛らしくラッピングされたチョコレートを越知に渡す。今日は
バレンタインデーであるので、それがバレンタインのチョコレートであることに気づく。
「これは・・・チョコレート?バレンタインの贈り物か。」
「そうです。受け取ってもらえます?」
「・・・・・・」
毛利からチョコレートを受け取りながら、越知は考え込むように黙ったままでいる。どう
したのだろうと、首を傾げながら毛利は声をかける。
「月光さん?」
「ありがとう。何か気の利いた言葉を言おうと思ったのだが・・・」
「はい。」
「とっさには思い浮かばなかった。うまくいかないものだな。」
「あはは、月光さんでもそんなこと考えるんやね。」
チョコレートをくれた毛利へ返す言葉を考えるために黙っていたということを聞いて、毛
利は声を上げて笑う。
「少し時間をもらいたい。」
「へっ?何のですか?」
もう少し毛利といたいと思う越知であったが、言葉足らずで毛利には伝わらず聞き返され
てしまう。一息置き、ちゃんと伝わるように話そうと越知は言葉を続けた。
「お前さえ良ければもう少し時間を共に過ごしたいと思うのだが・・・どうだろうか?」
「もちろんええですよ。俺も月光さんともう少し一緒にいたいです。」
「お前に予定がないようで良かった。」
「今日は月光さんにチョコあげるんが、一番大事な予定でしたから。」
毛利が誘いに乗ってくれたので、越知はふっと笑う。せっかくなら毛利の行きたい場所に
行きたいと、どこに行きたいかを尋ねる。
「何かやりたい事や、行きたい場所はあるか?」
「やりたい事や行きたい場所・・・うーん・・・」
「急に誘ってしまった手前、お前の希望があれば優先するが・・・」
「とりあえず外は寒いですし、ファミレスに行くとかどうです?」
「ファミレスでいいのか?」
思ったよりも身近な場所に行きたいと言われ、越知は本当にそこでよいのかと聞き返す。
しかし、毛利にはファミレスに行きたいと思う理由があった。
「はい。ちょっとファミレスで見せたいものもありますし。」
「・・・見せたいものがある、と。わかった。では、行くとしよう。」
理由があってのことであるなら、断る理由もないので、越知は毛利と近くのファミレスへ
向かうことにする。
「ほら、月光さん見てください!この猫のマシュマロコーヒー、めっちゃ可愛くないです
か?」
期間限定のメニューを開き、毛利は猫のマシュマロコーヒーを指差す。
「猫のマシュマロコーヒー?そういえば、猫を飼っていると話した事があったか。」
「はい!それに月光さん猫ちゃん大好きですもんね。せやから、これは見せんとと思て。」
「些細な話題だったが覚えてくれていたのだな。」
越知が猫好きであることはよく分かっているので、毛利はこの可愛らしいコーヒーを見せ
たいと思っていた。毛利のその心遣いが嬉しくて、越知の口元は緩む。
「俺も頼むんで、月光さんも一緒に頼みましょ。」
「なら、同じものを頼むとしよう。・・・溶けてしまうのがもったいない気もするが。」
「確かにそうかもしれんですね。まあ、写真に撮っていつでも見れるようにしといたらえ
えんちゃいます?」
それもそうだと越知は毛利の言葉に頷く。とりあえず、猫のマシュマロコーヒーを頼もう
と毛利は店員を呼んだ。
「ふあ〜、実物メッチャかわええ〜!!」
「確かに可愛いな。」
写真で見るよりも実際に見た方が猫のマシュマロの立体感がよく分かり、その可愛さが際
立っていた。
「これが溶けてまうのは確かにもったいないですね。溶けてまう前に写真撮っときましょ。」
「そうだな。」
ずっと見ていたいが、その猫はマシュマロなので、時間が経てばコーヒーの中に溶けてし
まう。溶ける前に写真を撮っておこうと二人はスマホを出す。
「月光さん、月光さんのスマホで月光さんとマシュマロコーヒー撮ったりますわ。」
「それはありがたい。お願いしよう。」
「はい!」
カシャ
自分のマシュマロコーヒーを何枚か撮った後、毛利はそんなことを提案する。越知からス
マホを受け取ると、毛利は上手いこと越知とマシュマロコーヒーが入るような角度で写真
を撮った。
「一応、月光さんもコーヒーも入るように撮ったつもりなんですけど、どうです?」
「ああ、よく撮れている。」
背が高い越知の写真を撮るのは難しいときもあるが、ある程度毛利は撮り慣れているので、
コーヒーと共にしっかりと写真に収まっていた。
「よかった。ほんなら、早速・・・」
「少し待ってもらってもよいだろうか。」
毛利がコーヒーの飲もうとすると、越知がそれを制止する。
「へっ?構わんですけど、どうしたんです?」
「お前とそのコーヒーも撮っておきたい。」
「なるほど。ええですよ。」
カシャ
毛利と猫のマシュマロコーヒーを自分のスマホで撮っておきたいと、越知はスマホを毛利
に向ける。撮られることが分かっているので、毛利はマシュマロコーヒーを顔に近づけ、
撮りやすいようにポーズを決める。
「イイ感じに撮れました?」
「ああ、とてもよく撮れている。」
可愛らしい写真が撮れたと、越知は毛利と猫のマシュマロコーヒーを写した写真を見て、
満足そうに微笑む。
「さっきの月光さんの写真も一緒に、あとで送ってください。」
「分かった。」
せっかくなので、今撮った写真と先程撮った写真を送って欲しいと毛利は頼む。こういう
思い出を共有するのも悪くないと、越知は頷いた。
「ほんなら、飲みましょうか。」
「そうだな。」
「って、アッツ!!猫舌なんでまだ飲めなかったですわ。」
マシュマロはだいぶ溶けてしまったものの、コーヒーはまだ冷めておらず熱々の状態であ
った。猫舌な毛利はこの熱さは無理だと舌を出す。
「フッ・・・マシュマロは溶けてしまっても、お前を見てると飽きないな。」
「あっはは、ちょっと恥ずかしいとこ見られてもうた。」
「火傷しないように、気をつけて飲むといい。」
「はい!」
マシュマロが完全に溶けきるまで待ち、フーフーと息を吹きかけて冷ましながら、少しず
つコーヒーを飲む。そんな仕草も愛らしいと思いながら、越知は微笑みながら毛利を眺め
ていた。
「もう夕暮れか。」
「月光さんと一緒におると、時間過ぎるのあっという間ですわ。」
ファミレスでゆっくりとした後、二人は駅の方まで移動する。かなり長い時間ファミレス
で過ごしていたようで、空はすっかり茜色に染まっていた。
「少しと言ったが、だいぶ長い事つき合わせてしまったな。」
「いえ、俺も楽しかったんで。」
「おかげでいい時間を過ごせた。チョコレートも大事に食べよう。」
「はい、食べたら感想聞かせてくださいね!」
チョコレートの感想をあとで聞かせてくれると約束し、毛利は合宿所に帰ろうとする。越
知はまだこれから行く場所があるとのことで、一旦ここで別れることにした。
「気をつけて帰ってくれ。・・・それじゃ。」
「はい。月光さんはまだ帰らんのですね。それじゃ、また合宿所で。」
合宿所の部屋は同室なので、あとでまた話をしようと毛利は越知に手を振る。そんな毛利
を見て、ふっと笑いながら越知も小さく手を振った。
ホワイトデー
越知に呼び出された毛利は、待ち合わせ場所に越知の姿を見つけ、そこまで走っていく。
「急に呼び出してすまない。ずいぶんと慌てながら走って来たようだが・・・」
「バレンタインのときは遅れてまったんで、今度は遅れないようにと思うて。」
「今度は遅れないように?フ・・・気にするなと言っただろう。」
「あはは、せやけど、早よ月光さんに会いたかったんで。」
笑顔でそう言ってくる毛利の言葉に、越知の胸はときめく。とりあえず、先月のお返しを
渡そうと、用意してきたお返しを毛利の前に差し出す。
「ひとまず先月のお返しを用意したから受け取ってくれ。」
「はい!ありがとうございます!」
越知からのお返しを毛利は嬉しそうに受け取り、お礼を言う。
「楽しい時間を過ごせた礼もこめた。気に入ってもらえるといいのだが。」
「月光さんからもらえるんやったら、どないなもんでも嬉しいです。」
自分が込めた想いを毛利は全力で受け取ってくれるだろうと思いながら、越知は毛利が今
あげたものを開けるところを想像し、口元を緩ませる。
「お前さえ良ければ、また共に出かけられると嬉しい。ではな。」
「そうですね。俺的には今からでもええですけど。」
そんな毛利の言葉に越知は少し驚きながらも、小さく頷く。ひとまず今日は合宿所でゆっ
くりしようということで、二人で合宿所に向かうことにした。
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毛利Side
越知に呼び出され、約束の場所に早めに着いていた毛利は越知が来るまで隠れて待ってい
た。越知が側まで来ると後ろから驚かす。
「・・・わっ!」
「・・・っ!!」
「ははっ、びっくりしました?」
「毛利か。驚かすな。」
「先着いたから驚かしたろ思て、隠れて待っとったんです。」
悪戯っ子のように笑いながら毛利はそんなことを言う。そこまで怒ってはいないものの、
ちょっと反省させてやろうと、あることを言ってみる。
「チョコレートを用意してきたのだが、驚かされたから無しにするか。」
「え?驚かされたからチョコレートは無し・・・?」
「どうする?」
「わー!ごめんなさい!チョコレートください!」
「フッ、そこまで欲しいのか。」
あまりに必死に毛利が謝ってくるので、越知は思わず吹き出してしまう。
「・・・って、めっちゃ笑てるやん。冗談やのうて本気で焦りましたわ。」
「先程のは冗談だ。チョコレート、受け取るといい。」
渡さないつもりなど毛頭なかったので、越知は用意してきたチョコレートを毛利に渡す。
越知からバレンタインのチョコレートをもらい、毛利は満面の笑みを見せる。
「ありがとうございます。あとで大事に食べさせてもらいますわ。」
「ああ。」
「せや、このあと時間あります?」
「このあとは特に予定はないが・・・」
「このままお別れすんのもオモロないやないですか。どこか遊びに行きません?」
「さして問題はない。」
毛利からの遊びの誘いに越知は迷わず頷く。遊びに行くのが決まったなら、今度はどこへ
行くかを決めようと、毛利は考える。
「うーん、どこがええかな。」
「俺はどこでも構わないぞ。」
「2人やったらどこ出かけても楽しそうやから迷ってまうわ。」
「そうだな。」
「行きたいところとか、何かしたい事あります?」
越知の意見も聞いておこうと、毛利は尋ねる。少し考えて、越知は思いついた場所をあげ
た。
「あまり行くことはないが、ゲームセンターに行くのはどうだろうか?」
「お、ええですね!新しいゲームとかあるかなぁ。」
「毛利はよく行っていそうだな。俺もたまに行くことはあるが。」
「オススメのやつあったら教えてください。」
越知がゲームセンターを提案してきたのは意外だったが、案外楽しめるかもしれないと、
毛利は乗り気になる。それならばと、二人はゲームセンターへと向かった。
「うーん、2人揃ってクレーンゲームで撃沈やなんて・・・」
「俺達には機械が低くて難しいな。」
可愛らしいぬいぐるみがクレーンゲームにあったので、2人で何度か挑戦してみたが、少
しも取れそうになることなく撃沈してしまった。
「・・・ええとこ見せよ思て、緊張してもうたのがアカンかったわ。」
「そんなことを考えていたのか。」
身長のせいでただでさえ難しいクレーンゲームが、緊張などしていればさらに難しくなる。
それなら仕方がないのではないかと、越知はそう漏らした。
「あっちのお菓子タワーで挽回しましょ。両手に持ちきれんほどお菓子取りましょうね。」
「フッ、そうだな。」
気を取り直して次のゲームに挑戦しようと、毛利はお菓子タワーへ向かう。そんな毛利の
あとを越知はついていった。
「うーん、取れたは取れたけど、両手に持ちきれんほどは無理でしたね。」
「そうだな。だが、あまり菓子ばかり取っても、文字通り手に余る。」
「確かにそうですね。俺と月光さんが食べる分って考えると、十分な気がしますわ。」
クレーンゲームとは違い、お菓子タワーではある程度のお菓子を取ることができた。毛利
としてはもう少したくさん取りたかったと思っているようだが、越知の言葉で考えを改め
る。
「お前はチョコレートもあるしな。」
「せやった!まずはそれを存分に味わわな!」
越知にそう言われ、毛利は越知からもらったチョコレートの存在を思い出す。ゲームセン
ターで取ったお菓子よりもそれは俄然大事だと、毛利はそう口にした。
「・・・・・・」
もっといろいろなゲームで遊んでみようと歩き回っていると、あるゲームの前で越知が足
を止める。
「ん?月光さん、なんか気になるもんでもありました?」
「いや、さして興味は・・・」
興味はないと言い終わる前に、越知の視線の先のゲームが何かを毛利は確かめる。
「へぇ、性格判断兼相性占いのゲームか。オモロそうですね!やってみません?」
「お前がやりたいのなら、構わない。」
「ホンマは月光さんもちょっとやってみたかったんとちゃいます?」
「ノーコメントだ。」
性格診断よりは相性占いが気になっていた越知は、誤魔化すような言葉を返す。とにかく
試しにやってみようと、毛利はそのゲームの椅子に座り、隣に越知を座らせ、必要な枚数
の百円玉を入れた。
「へー、こんなふうに質問に答えてくんや。月光さんは月光さんで同じ質問に答える感じ
ですか?」
「そのようだな。」
二人でプレイする場合は、画面が半分に分かれ、各々が質問に答えていくような流れにな
っていた。簡単に答えられる質問が多いので、どちらもポンポンと回答していく。
「よし、出来た!」
「俺も終わった。」
ほぼ同時に入力が終わり、診断待ちの画面になる。二人プレイの場合は、性格診断と同時
に相性診断もしてくれるようで、特に追加の入力は入力は必要なかった。
「これで、相性占いみたいになるみたいですね。」
「結果は紙とメールとで出るようだな。」
「じゃあ、メールアドレスも入れとかなですね。」
メールでの結果を受け取りたい場合は、メールアドレスを入れる必要があるようで、毛利
は自分のアドレスを入力していく。
「紙への出力は終わったようだ。」
「メールも来ましたよ。結果ちょっと怖いけど見てみましょ!」
「ああ。」
越知は紙の結果を、毛利は登録したメールアドレスに送られてきた結果を見る。どちらも
気になっていた相性占いの結果はかなり良いものであった。
「よっしゃ、性格は正反対ですが、足りない部分を補える最高の相性でしょうやって!」
「嬉しそうだな。」
「嬉しいに決まっとるやないですか。そう言う月光さんこそ、メッチャ嬉しそうな顔しと
りますよ。」
「そうか?」
「はい!えっへへ、試しにやってみてよかったですね!」
最高の相性という結果に、どちらも嬉しそうな笑顔を見せる。なんとなくやってみたゲー
ムであるが、越知も毛利もやってみてよかったと思っていた。
「次、どこ行きます。」
「さすがにそろそろ帰らないといけない時間ではないか?」
まだまだ遊ぶつもり満々の毛利に越知はストップをかける。越知にそう言われ、毛利は時
計を見た。
「ん?時間?うわ、もうええ時間ですね。」
「だいぶ日も傾いているからな。」
「楽しくてつい夢中になってもうてました。おかげで楽しいバレンタインを過ごせました
わ。」
「ああ、とても充実した時間だった。」
普段はあまり二人では行かないゲームセンターで存分に遊び、充実した時間が過ごせたと
笑い合う。
「まだまだ遊び足らんけど、キリなくなってまうし解散しときましょうか。気をつけて帰
りましょ。」
「そうだな。」
合宿所でも一緒にはいられるので、二人は帰ることにする。またどこかに遊びに行こうと
いうような話をしながら、二人は駅の中へと向かった。
ホワイトデー
「あれ、待ち合わせ場所はここのはずやけど・・・まだ来てへんのかな。」
「・・・・・・」
毛利が待ち合わせ場所に来るのを見計らって、越知は音もなく毛利の目の前に現れる。大
きな声で驚かすわけではないが、毛利は非常に驚いた。
「って、うわ!?びっくりした!」
「フッ、予想以上に驚いてくれたな。先月のお返しだ。」
「先月のお返し?あー・・・そういえば俺が驚かしたんやったね。」
そういえば、バレンタインは自分が驚かしたのだったと毛利は自分のしたことを思い出す。
まんまと驚かされたと、毛利は苦笑した。
「お返しは大成功といったところだな。」
「お返しって事やったら・・・はい、これ。こっちも先月のお返しです。」
今日はホワイトデーのプレゼントを渡すために越知を呼び出したので、用意してきたお返
しを渡す。
「ああ、ありがとう。受け取らせてもらう。」
毛利からのお返しを受け取ると、越知は穏やかな笑顔で感謝の言葉を返す。
「改めてやけどチョコレートありがとうございます。またどこかに遊びに行きましょ。」
「そうだな。」
バレンタインの日にしたデートがとても楽しかったので、また是非遊びに行きたいと毛利
は改めて越知を誘う。今日ではないとしても、時間があるときにどこかに遊びに行きたい
と、二人は行きたい場所をあげ合った。