奥深い森の中、そこには一件の家が建っていた。その家の近くで子犬のような鳴き声が響
き渡っていた。
(何の鳴き声だ?こんなとこ、ほとんど他の動物は来ないのに。)
うさぎの滝はその長い耳を澄ませ、鳴き声のする方に向かう。だんだんとその鳴き声が大
きくなり、かなり近づいているということを滝に伝える。
がさっ
茂みから道に出ると、自分の方を向いて、真っ白な何かがビクッと体を震わせる。そこに
は、雪のように白い耳とふわふわの尻尾を持った自分より大きな動物がうさぎ用の罠にひ
っかかり、痛い痛いと鳴いていた。
「大丈夫?今、取ってあげるからね。」
「きゅーん・・・」
犬のような鳴き声を上げながら、その白い動物は滝を見る。うさぎの罠の仕組みを完全に
熟知している滝は、いとも簡単にその罠を壊して外した。
ガシャンっ!!
「結構血が出てるね。俺の家、このすぐ近くだからそこで手当てしてあげるよ。」
「・・・ありがとうございます。」
ぱたぱたとふわふわの尻尾を揺らしながら、犬のようなその動物は滝に向かってお礼の言
葉を述べる。
「君の名前は?」
「長太郎です。鳳長太郎。一応、狼です。」
「ふーん。狼か。俺はうさぎの滝萩之介。ロップイヤーだからちょっと分かりにくいかも
しれないけど。」
狼と聞いても滝は鳳を怖がったりはしない。むしろ、その真っ白な毛と狼にしては穏やか
な雰囲気に惹かれ、興味を持ち始めていた。
「足、痛むよね。俺のが小さいから少し頼りないかもだけど、肩貸してあげる。」
「すいません。ありがとうございます。」
滝の肩を借り、怪我をした足を引きずりながら、鳳はゆっくりと歩く。自分の家に到着す
ると、滝は鳳を椅子に座らせ、救急箱を部屋の奥から持って来た。
「ちょっとしみるかもしれないけど、我慢してね。」
「はい。」
井戸の水で傷口を綺麗に洗い、薬草から作った薬を丁寧に塗る。仕上げにまっさらな包帯
を巻いて、滝は鳳の怪我の手当てをテキパキと終わらせた。
「はい、完了。あとは安静にしてれば、大丈夫だと思うよ。」
「ありがとうございます。」
「礼には及ばないって。ところで、君はどうしてあんなところにいたの?このへんは、森
の中でもかなり奥の方だから、あんまり他の動物って来ないんだよね。」
「俺の村では、ある程度の年齢になると、一人立ちしなきゃいけないんです。俺は今年が
その年齢で、村を出ることになったんですよ。でも、今までそんなに村から出たことがな
かったんで、森に入ったら迷っちゃって・・・。どうすればいいのか分かんなくて泣きそ
うになってたら、あの罠にひっかかっちゃったんです。」
「それは大変だったね。この森、禁猟区なはずなんだけど、結構あーいう罠をしかける輩
がいるんだよね。」
全く仕方のない奴らだよと、滝は小さな溜め息をつく。そんな滝に鳳はパタパタと尻尾を
動かし話しかけた。
「でも、滝さんのおかげで助かりました。本当にありがとうございます。」
感謝してもしきれないと、鳳は頭を下げて再びお礼の言葉を述べる。せっかくなので、も
う少し鳳のことを知りたいなあと思いつつ、滝はとある提案をしてみる。
「一人立ちをして村を出てきたってことは、長太郎は今特に行くあてはないんだよね?」
「そうですね。特にはどこへ行くとかは決まってないです。」
「それならさ、俺と一緒にここに住まない?」
「えっ?」
「さっきも言った通り、このへんはあんまり他の動物もいないんだ。一人だとやっぱり寂
しいというか、暇でさあ。ま、無理強いはしないけど。長太郎がよければって話。」
「いいんですか?」
「もちろん。俺としては、そうしてくれた方が嬉しいんだけど。」
これから一人で生きていくということに大きな不安を感じていた鳳にとって、滝のその誘
いはこれ以上ないほどの幸運だった。
「滝さんがいいなら、俺は全然構いません。」
「本当!?」
「はい。」
「それなら決まり!!これからよろしくね、長太郎。」
「こちらこそ。よろしくお願いします。」
ふとしたことで出会った二人は、これから生活を共にしていくことを決めた。うさぎと狼
という種族の違いはあるが、一目会ったときからお互いに惹かれ合っている二人にとって
は、そんなことは全く問題にならなかった。
二人で暮らし始めてから、しばらくして初めての満月の夜がやってくる。昼間は何ともな
かった鳳ではあるが、日が沈み、夜になって、代わりに月が昇る頃になると、その様子に
変化が現れた。
(ああ、今日は満月なのか・・・・どうしよう・・・)
まるで熱があるかのように、顔を紅潮させ、小さく息を乱している。そんな鳳の様子に気
づいた滝は、心配そうにどうしたのか尋ねる。
「大丈夫?長太郎。調子悪そうだけど。」
「・・・だ、大丈夫です。満月の夜は、いつもこうなるんで。」
「でも、顔真っ赤だし、熱でもあるみたいな・・・・」
そう言いながら、滝は鳳の顔にそっと手を当てる。その瞬間、鳳の体はビクンと跳ねた。
「ひゃぁんっ!!」
「ちょ、長太郎・・・?」
思ってもみない反応をする鳳に滝はドキドキしてしまう。あからさまな反応をしてしまっ
たことをひどく恥ずかしいと思いながら、自分に起こっている身体の変化を滝に伝えるこ
とにした。
「ご、ごめんなさいっ!!俺、満月の夜になると・・・すごいHな気分になって、身体が
疼いちゃうんです。他の狼は食欲が増すっていうか、狼の本能的な部分が強くなるらしい
んですけど・・・俺は他の狼と違って・・・・」
自分の言っていることがとても恥ずかしいことだと意識して、鳳の顔はさらに赤く染まる。
そんな鳳の話を聞いて、滝はドキドキと胸を高鳴らせながらも、ニヤリとその口元を緩ま
せた。
「ということは、長太郎は満月の夜になると、食欲じゃなくて、性欲が増すってこと?」
「・・・・たぶん、そうです。」
「へぇ、それは興味深いね。なら、今長太郎はすっごくHな気分になって、身体中が敏感
になってるんだ。」
「・・・はい。」
「それなら、俺がその疼き、何とかしてあげる。」
妖しげな笑みを浮かべながら、滝はそう言い放つ。うさぎはある程度の年齢を超えれば、
万年発情期な状態なので、こんなオイシイ状況を逃すはずがない。滝のいつもとは少し違
う視線を感じ、鳳の身体はさらに熱くなっていくのを感じた。
鳳の服を脱がし、ベッドの上に座らせると、滝はどこからかブラシを持って来た。ブラシ
を手にしながら、滝は楽しそうな笑みを浮かべている。
「それじゃあ、手始めに毛づくろいでもしようか。」
「毛づくろい・・・ですか?」
「うん。毛づくろい♪」
何故毛づくろいなどするのか理解の出来ない鳳であったが、尻尾の毛をブラシで梳かされ、
真っ白な耳を舐められた瞬間、滝の目的を理解した。
「ひゃっ・・・ああぁんっ!!」
「ふふ、やっぱりイイ反応。」
「やっ・・・滝さんっ・・・ふあっ・・・」
尻尾を梳かれるたびに、ゾクゾクとした痺れが体中に走る。それと同時に耳を食まれ、舐
められ、より敏感に感じてしまう。
(尻尾も耳も・・・すごい気持ちイイっ・・・)
「んっ・・・きゅ・・・ぅんっ・・・」
ビクビクと身体を震わせながら、鳳は滝にしがみつく。予想以上に可愛いと、滝はニヤニ
ヤと顔を緩ませる。しばらく毛づくろいを続けていると、鳳は顔を真っ赤にして、息を乱
し、このままでは達してしまうというようなことを滝に伝えようとする。
「はっ・・・た、滝さんっ・・・・もう・・・やめてくださ・・・」
「どうして?毛づくろい、気持ちいいでしょ?」
「気持ちいいからっ・・・あっ・・・これ以上、されたら・・・・」
「これ以上されたら、どうなるの?」
シャッとブラシで尻尾を刺激しながら滝は尋ねる。そんな刺激に鳳はビクンとその身を震
わせ、達してしまいそうなのを必死で堪える。
「これ以上されたら・・・イっちゃいます・・・」
「ふーん。長太郎は、こんな毛づくろいでもイっちゃうんだ。」
ふっと笑いながら、滝はかぷっと鳳の柔らかい耳に噛みつき、ブラシを少し深く差しこみ
ながら動かす。その瞬間、鳳の熱を持った茎からは尻尾や耳と同じように真っ白な蜜が溢
れた。
「ひあっ・・・ああ―――っ!!」
「可愛い、長太郎。本当にどこもかしこも感じやすくなってるんだね。」
「ハァ・・・あっ・・・ぁ・・・・」
達した余韻に浸っている鳳の頭を優しく撫で、滝はその頬にちゅっと軽くキスをする。ふ
わふわの尻尾の手触りを楽しんだ後、その手を尻尾の付け根の方に移動させ、双丘の中心
にある蕾に触れた。
「あっ・・・」
「ここ、弄ったことある?」
「・・・・ないこともないです。」
「そう。正直だね。」
正直に弄ったことがあると答える鳳に、滝は何とも言えない興奮を覚える。ちゅぷっと自
分の指を唾液で濡らすと、その指をもう一度双丘の間に持っていった。濡れた指で入口を
撫でるように弄っていると、その指を内側に引き込むかのように、先程までは閉じていた
蕾がひくつき始める。
「そんなに入れるつもりはないのに、勝手に引き込まれていくみたいに動いてる。」
「んんっ・・・やっ・・・・あ・・・・」
「ちゃんと入れて弄って欲しい?長太郎。」
自分の意思とは関係なしに疼いてしまうそこをどうにも出来ず、鳳はかなりの羞恥心を感
じていた。しかし、身体は正直で滝の問いに勝手に首は頷くように縦に振られる。
「それなら、弄ってあげなくちゃね。」
鳳が頷くのを見て、滝は入口でヤワヤワと動かしていた指を蕾の中へと侵入させる。入れ
るだけではとどまらず、中に入れた指を滝はゆっくりと動かし始めた。
「あっ・・・ああっ!!ふあっ・・・あっ・・・!!」
「すごいね。こっちの口で指が食いちぎられそう。」
「やっ・・・あぁん・・・あっ・・・あ・・・」
「ふふ、可愛い声。ここ弄られてそんなに気持ちいいの?」
内側でぐいっと指を曲げると、鳳の体はビクビクと震える。そんな反応が可愛らしくてた
まらないと、滝は少し激しめに鳳の内側を弄る。
「ああっ・・・滝さんっ・・・だ・・めぇ・・・」
「何がダメなの?もうこんなに柔らかくなってるのに。」
「そこ弄られるの・・・気持ちよすぎてっ・・・変になっちゃいます・・・・」
激しく息を乱しながらそんなことを言う鳳に、滝はどうしようもなく興奮してしまう。小
さく開かれた鳳の口に深く熱い口づけを施すと、指の本数を増やし、ぐちゅぐちゅとさら
に激しく滝はそこを弄り始めた。
「んんぅっ・・・んっ・・・んん――っ!!」
激しいキスと内側を弄られる快感に、鳳は頭の中が真っ白になる。満月の夜は、自分で疼
く体を慰めることはあっても、こんなに気持ちよくなれたことは一度もなかった。身体が
とろけてしまそうな気持ちよさに、鳳は再び熱の先から白い雫を迸らせる。
「ふぁ・・・ぅ・・・んんん――っ!!」
くちゅっと濡れた音を立てながら、滝は鳳の唇から自分の唇を離す。それと同時に、鳳の
内側に入れていた指も全て引き抜いた。
「あっ・・・ん・・・」
「気持ちよかった?」
「・・・・はい。」
「これだけ慣らせば、もう大丈夫だよね。」
「ふえ?」
自分の腕の中で存分に乱れる鳳の姿に、滝自身も相当高ぶっていた。
「長太郎、四つん這いになって。」
「どうして・・・ですか?」
「長太郎のココに、俺のを入れるんだよ。」
先程まで弄っていた蕾に触れながら、滝はそんなことを口にする。滝のその言葉に鳳の胸
はひどく高鳴った。鼓動が速くなるのを感じながら、鳳は滝に双丘を向けるような形で四
つん這いになる。
「すごくいい眺め。」
「は、恥ずかしいです・・・」
「恥ずかしがってる長太郎も可愛いよ。」
ニッコリと笑いながら、滝は真っ白でふわふわの尻尾をくいっと上に上げる。尻尾の下に
見えるいまだにひくひくとひくついている蕾を見て、滝は我慢出来なくなる。
「入れるよ・・・長太郎。」
すっかり高まった熱を目の前にある蕾に押し当て、大きく息をつくと滝はその身を進める。
「んっ・・・ああ―――っ!!」
指とは比べ物にならない質量のモノで内側を貫かれ、鳳は腕を折り、その顔をシーツの上
に埋めた。
「長太郎の中、すごい。」
「ふあっ・・・滝さんっ・・・あっ・・・ああっ・・・!!」
「すごく気持ちいいよ・・・こんなに気持ちいいとあんまりもたないかも。」
あまりの鳳の中の気持ちよさにすぐにでも達してしまいそうだと、滝は苦笑する。しばら
く受け入れるだけでいっぱいいっぱいになっていた鳳であるが、ある程度滝の熱が入って
いることに慣れると、自ら腰を動かし始める。
「んっ・・んぅ・・・・あっ・・・」
「ふふ、本当長太郎Hだね。自分で腰動かして。」
「あ・・んっ・・・だって・・・すごく気持ちい・・・からぁ・・・・」
「そういうふうに素直に言ってくれるとこも、本当ツボだよ。」
「滝さん・・・もっとしてくださいっ・・・・」
「いいよ。長太郎が満足するまでいくらでも付き合ってあげる。」
鳳の可愛らしいおねだりに、滝の心は完全に奪われる。鳳がよい反応を見せるたびに、内
側にある熱は高まり、大きく締めつけられれば、そのまま果て、鳳の中に熱い雫を注ぎ込
む。そんなことを何度か繰り返し、二人は心ゆくまで種族を超えた交わりを楽しんだ。
全てが終わると、身体がひどくすっきりしているのを感じながら、鳳は眠りについた。久
しぶりにこんなことをしたので、滝も程なくして眠りにつく。いつもよりかなり遅い時間
に寝たために、二人が目を覚ましたのは昼近くであった。
「ふあ〜、結構寝ちゃったね。もうお昼だ。」
「そうですね。何か昨日はすごく恥ずかしかったですけど、体はすっきりしてるんで、す
ごく気分はいいです。」
はにかむように笑いながら、鳳はそんなことを口にする。そんな鳳を可愛いなあと思いつ
つ、滝は着替え始める。
「着替えたら、外に散歩にでも行こうよ。食料調達がてら。」
「はい。じゃあ、俺も着替えちゃいます。」
ベッドから下りると鳳も着替え始める。しっかりと外出する用意が出来ると、二人はそろ
って家の外へと繰り出した。
「んー、いい天気だし、絶好のお散歩日和だよね。」
「はい。あったかくて気持ちいいです。」
穏やかな日差しの中、気分よく歩いていた二人であったが、ピクンと鳳の耳と鼻が震える。
(火薬の匂い・・・)
滝には感じられないが、鳳にはしっかりと感じられていた。どこからするのだろうと、耳
と鼻を澄ませ、神経を尖らせる。それがどこからするのか、何を狙っているのかがハッキ
リ分かった瞬間、鳳は滝を庇うようにその身を翻す。
「危ない!!滝さんっ!!」
パァン!!パァンっ!!
続けざまに二回銃声が鳴り響く。禁猟区であるにも関わらず、滝に向けて銃を放ったのは、
人間であった。放たれた弾はどちらとも鳳の胸に当たり、鳳はその場に崩れ落ちる。
「えっ・・・何・・・?」
「逃げて・・・ください・・・滝さ・・・」
かすれた声で鳳はそう呟く。滝はいまだに状況が掴めなかった。しかし、自分達のいる少
し先の場所から人間の声が聞こえるのに気づく。猟銃を持ったその姿を見て、滝は何が起
こったかを理解する。
「よくも・・・よくも長太郎をっ!!」
怒りに震え、滝はその人間に向かって行こうとする。それを鳳は滝の腕をぱしっと掴んで
止めた。
「だ・・め・・・」
「でも、でもっ・・・・」
「俺は滝さんが守れただけで・・・十分ですから・・・滝さんはちゃんと逃げて・・・」
そこまで言葉を紡いで、鳳は咳きこみながら血を吐く。もうどうしたらいいのか分からず、
滝はボロボロと涙を流した。
「嫌だっ・・・嫌だ・・・長太郎っ!!死なないで!!」
「滝さ・・・ん・・・」
消え入るような声でそう呟くと鳳はその瞳を閉じる。そんな鳳の姿を見て、滝の中で何か
が壊れた。自分の命をかえりみず、猟銃を持った人間に向かって駆けて行く。
「うわあぁぁっ!!」
人間には滝は普通のうさぎに見えている。うさぎが自らこちらの方へ向かって来ているの
だ。当然のように銃口を滝の方へ向けられ、引き金には指がかけられた。
(長太郎を失うくらいだったら、俺も死ぬっ!!)
パァァンっ!!
森の中に再び銃声が響く。バサバサと鳥達が飛び立つ音と共に、放たれた弾は滝に向かっ
て飛んでいった。その弾が滝の心臓を貫くか貫かないかというところで、辺りは急に静か
になり、全てのものが静止する。
「ったく、俺様の森で何てことしやがる。」
「・・・・跡部?」
「大丈夫か?滝。あ、そっちにいる奴はとりあえず応急処置はしといてやったから。死に
はしねぇから安心しろ。」
かなりピンチな状態の滝の前に現れたのは、この森の主である跡部であった。跡部は他の
動物とは違い、精霊のような存在なので、時を止められるなどの不思議な力を持っている。
「長太郎助かるの!?」
「ああ、俺様の力で体の中の弾を抜いて、傷口も閉じてやったからな。」
跡部のその言葉を聞いて、滝は鳳に駆け寄る。確かに傷は消え、目は閉じられているもの
の辛そうな様子は微塵も感じられなかった。
「よかった・・・」
へたりとその場に座り込むと、滝は安堵の涙を流す。その涙が鳳の顔に落ちた瞬間、鳳は
ゆっくりと目を開く。
「滝さん・・・?」
「長太郎っ!!大丈夫!?どこも痛くない!?」
「はい。俺、撃たれたはずなのにどうして・・・?」
「跡部が治してくれたんだ。跡部はこの森の主で、精霊みたいなもん。俺達動物には見え
るけど、人間には見えない。」
滝の話を聞き、鳳は跡部の方に目をやる。鳳と目があった跡部はふっと笑った。
「またこんなことされちゃたまんねぇからな。このあたりには、もう絶対人間が入って来
れねぇようにしといてやるよ。」
そう言うと跡部は、今までそこにいた人間をどこかに消し去り、何か呪文のようなものを
唱えた。
「これでもう大丈夫だぜ。俺達にとっちゃ大して変わってないように見えるが、人間にと
っては一度入ったら、もう戻れねぇような迷いの森になってる。そんな森にそうそう近づ
こうとはしねぇだろ。」
「ありがとう、跡部。跡部のおかげで、俺も長太郎も死なずに済んだ。」
「本当にありがとうございます。何てお礼を言ったらいいか・・・・」
「別にいいってことよ。俺様の森であんなことをするあいつらが100パーセント悪いん
だからよ。」
当然のことをしたまでだと跡部は余裕の表情でそんなことを言う。そして、何事もなかっ
たかのようにスーッとどこかへ帰って行った。
「よっかた、長太郎。本当によかった・・・・」
跡部が帰ってしまってから、滝は鳳をぎゅうっと抱きしめ、鳳が生きていることをその腕
で確かめる。自分の体を抱きしめる腕の強さから、鳳は滝の想いを感じとり、ぎゅっと胸
が締めつけられた。
「心配かけちゃってすいません・・・滝さん。」
「ううん、気にしないで。生きていてくれただけでも十分だから。」
「滝さん・・・」
しばらくそのまま抱き合いながら、二人はお互いのぬくもりをしっかりと感じ合う。触れ
合っている部分から伝わる鼓動。その鼓動が二人をひどく安心させた。
「好きだよ、長太郎。」
「えっ・・・?」
鳳の体を抱きしめたまま、滝はぽつりと呟く。滝のその言葉を聞き、鳳の胸はトクンと高
鳴った。
「大好き。俺、もう、長太郎なしじゃ生きていけない。」
「・・・・俺もです。」
「えっ?」
「俺も滝さんのこと好きです。」
「本当に・・・?」
「はい、初めて会ったときから、ずっと好きでした。」
「嬉しい。すごく嬉しいよ、長太郎。」
鳳の想いを聞いて、滝は抱きしめている腕の力を緩め、鳳の顔を見ながら、ニッコリと微
笑む。そんな滝の笑顔に、鳳の心はすっかり奪われてしまった。鼓動が速くなっていくの
を感じながら、二人はゆっくりと唇を重ねる。お互いに想いを伝え合った後の口づけは、
甘くとても心地の良いものであった。
そんな出来事があってから、二人の住む森の奥に人間が入ってくるということは一切なく
なった。二人で過ごす楽しい毎日。そんな充実した時間を存分に噛みしめながら、滝と鳳
は幸せな時間をいつまでも共有し合うのであった。
END.