「孫兵、おーい、孫兵!うーん、完全に寝ちゃってるな。」
ここは飼育小屋。二人でペットの世話をしていた竹谷と孫兵だが、授業やペットの世話の
疲れからか、孫兵はすっかり寝入ってしまっていた。
「本当は起こして自分の長屋に戻らせるべきなんだろうが、それはちょっと惜しいなあ。
孫兵の寝顔、超可愛いし。」
もっと孫兵の寝顔を見ていたいと、竹谷は孫兵の横に腰を下ろしながら考える。そんな竹
谷が出した結論は次のようなものであった。
「そうだ。俺の部屋に連れて行こう。そしたら、寝かせたまんま連れてってもおかしくな
いし、孫兵の寝顔もじっくり見てられるしな。」
そうと決まれば即実行。寝ている孫兵をひょいっと抱き上げ、しっかり飼育小屋の戸締り
をすると、竹谷は五年生の長屋へと向かって歩き出した。
「あれ?」
「どうした?雷蔵。」
「あれって、八左ヱ門だよね?誰か抱っこしてるみたいだけど・・・」
「ほぅ、本当だな。抱いているのは・・・三年生の伊賀崎孫兵だな。おっ、孫兵を抱いた
まま、自分の部屋へ入って行ったぞ。」
自分の部屋へ戻ろうと、廊下を歩いていた鉢屋と雷蔵は、竹谷の姿を見つける。委員会の
後輩を腕に抱いて、自分の部屋へ戻るなど只事ではない。これは面白い状況だと、鉢屋は
自分と雷蔵の部屋には戻らず、竹谷の部屋へ向かった。
「寝ている後輩に手を出そうとするなんて、なかなかやるなー、八左ヱ門。」
「うわっ!三郎!?」
自分の布団に孫兵を寝かしつけたところで、突然鉢屋に声をかけられ、竹谷は心底驚く。
鉢屋だけではなく、雷蔵もいつの間にか、自分の部屋に入っていた。
「な、何でお前ら、俺の部屋にいるんだよ!?」
「お前が、孫兵を抱いてこの部屋に戻るのを見かけてな。」
「ちょっと面白そうだなーと思って、様子を見に来たんだ。」
「雷蔵まで・・・別にやましい気持ちがあって、連れてきたわけじゃねぇよ。飼育小屋で
寝ちゃって起きないから、連れて来ただけだ。」
「でも、ちゃんと寝かすんだったら、八左ヱ門の部屋に運ぶんじゃなくて、三年生の長屋
に運んでやるのが、普通だろ。それをわざわざ自分の部屋に連れて来たってことは、やま
しい気持ちがないわけないよなあ?」
「本当に何もないっての!そ、そりゃ、もうちょっと寝顔を見てたいなあって気持ちはあ
ったけど・・・」
「ほら、やっぱりそうだ!八左ヱ門のエッチ!」
「だから、そんなんじゃないって!」
鉢屋がからかうように放つ言葉に、竹谷は必死で否定の言葉を重ねる。ぎゃーぎゃーと騒
いでいる二人を見ながら、雷蔵はクスクス笑っていた。そんな騒がしい竹谷の部屋の前を
お風呂上がりの久々知とタカ丸が通りかかる。
「気持ちよかったねー、久々知くん。」
「そうですね。って、何かここの部屋、やけに騒がしいな。」
「ここって、誰の部屋なの?」
「八左ヱ門ですけど・・・誰がいるんだろう?」
中の騒がしさが気になり、久々知は襖をスッと開ける。中には五年ろ組のメンバーが集結
していた。
「あれ?兵助。どうしたの?」
「いや、たまたまここの部屋の前通りかかったら、やけにうるさいから、誰が騒いでるの
か気になってな。」
「おー、兵助、タカ丸さん。聞いてくれよ!八左ヱ門ったらな・・・」
「だから、誤解だって、言ってんだろ!三郎!」
「ん・・・んん・・・」
「お前らがあんまり騒がしいから、孫兵、起きちゃったみたいだぞ。」
人の気配が更に加わり、鉢屋も竹谷も声のボリュームを落とそうとしないので、ぐっすり
と眠っていた孫兵もさすがに目を覚ます。しばらく、ぼーっとしていた孫兵だったが、上
級生に囲まれているという状況に気づき、ハッと気づいたように覚醒する。
「あ、あれ?ぼく、どうしてこんなところに・・・?」
「それはだな、八左ヱ門が・・・」
「三郎!余計なこと言うな!」
「君が飼育小屋で寝ちゃったみたいだから、ちゃんと寝かせてあげようと思って、八左ヱ
門が連れて来たんだよ。」
「そ、そうなんですか?すいません。」
竹谷に言葉を止められた鉢屋の代わりに、雷蔵が事の成り行きを話す。そういえば、小屋
で寝てしまったと、孫兵は雷蔵の言葉に納得し、竹谷に謝った。
「べ、別に謝ることはないぜ。俺が勝手に連れて来ちゃったわけだし。」
「ジュンコもちゃんと一緒に連れてきて下さって、ありがとうございます。」
「そんな礼を言われる程のこともしてな・・・」
竹谷が言葉を紡ぎ終わる前に、鉢屋は孫兵に話しかける。
「そうだ、孫兵!ちょっと面白い話があるんだけど、聞く気はあるか?」
「面白い話ですか?」
「そうそう。すぐに帰らなきゃいけない用があるならそう無理にとは言わないけどさ。」
面白い話があると言われれば、聞かないわけにはいかない。特にこれといった用もないの
で、孫兵は鉢屋の話を聞くことにした。
「聞きたいです。どんな話ですか?」
「そうか。じゃあ、話してやる。私と雷蔵と八左ヱ門は、五年ろ組で同じクラスなのは知
ってるよな?」
「はい。」
興味津津とばかりに、耳を傾ける孫兵の顔を見た後、鉢屋はニヤニヤ笑いながら、竹谷の
方を見る。これは何か企んでいるいるなと思いつつも、まだどんな話をされるか分からな
いため、竹谷は鉢屋の言葉を遮ることが出来なかった。
「八左ヱ門はな、生物委員会の委員会活動が終わった後、決まって私と雷蔵の部屋へ来る
んだ。」
「何故ですか?」
「ああ、三郎が話したいこと分かった。」
「えっ?」
鉢屋が話さんとしていることが分かったと、雷蔵は納得するような反応をする。何かマズ
イことを話されるかもしれないと、竹谷は口を挟む。
「ちょ、ちょっと待った!何の話するか分かんないが、それは俺にとってはあんまりいい
話じゃない気がするぞ。」
「別にそんなことはないさ。ありのままの事実を話すだけだぞ。」
「うんうん。」
「それで、竹谷先輩はどうして、先輩達の部屋へ行くんですか?」
途中で話を遮られたため、孫兵は早く続きを話して欲しいと、鉢屋にそう尋ねる。そんな
孫兵の質問に、鉢屋はニヤリと笑って答えた。
「私達に惚気話を聞かせるためさ。」
「なっ!?」
「惚気話ですか?」
「うん。生物委員会から帰ってくるとね、八左ヱ門は君のことをそれはもう楽しそうに話
すんだよ。」
「ぼくのこと・・・?」
「そうそう。今日は孫兵が床に伏して虫を観察してるのがすごい可愛かったとか、ジュン
コがいなくなって泣きながら俺に助けを求めるのがたまらなく可愛いとか、そんなことば
っかり話してるんだぞ。」
「ちょっ、な、何言ってんだよ!?そんな話、孫兵にするとかありえないだろ!」
鉢屋と雷蔵の話を聞き、孫兵はちょっと困惑したような表情になりながらも、嫌な顔はし
ない。あわあわと慌てまくってる竹谷の顔をじっと見て、孫兵は事の真偽を確かめようと
する。
「今の話、本当なんですか?竹谷先輩。」
「あー、その・・・何だ、えーと・・・」
「否定しないってことは、本当なんですね。」
「本当だって。もう委員会があるたびに聞かされるからな。なあ、雷蔵。」
「うん。」
「もう、二人ともやめろって!だぁー、もう本当ありえねぇ!」
もう誤魔化しきれない程にバラされてしまった竹谷は、鉢屋と雷蔵を怒鳴るしかない。そ
んな竹谷の制服をくいっと引っ張り、孫兵は苦笑しながら、二人を怒らないように言う。
「あの、竹谷先輩。」
「ま、孫兵・・・」
「お二人をそんなに怒らないで下さい。聞きたいと言ったのはぼくですし。それに・・・」
『それに?』
「今の話聞いて、ちょっと嬉しいなって思いましたから。」
孫兵の言葉に、竹谷の胸はひどくときめく。しかし、それを素直に出すと、また、鉢屋や
雷蔵にからかわれそうなので、あからさまに表には出さなかった。
「ひゅー、うらやましいねぇ。」
鉢屋が冷やかすような言葉を言った後、今まであまり会話に加わっていなかったタカ丸が
口を開いた。
「そういえば、今鉢屋くんや雷蔵くんが話したようなこと、ぼくも知ってるよ。」
「八左ヱ門が惚気るって話ですか?」
「ううん、孫兵くんがそういう話をしてるところを見たことあるよって話。」
「ええっ!?ぼく、そんな話、誰にもしたことないですよ!」
タカ丸のまさかの発言に、孫兵はひどく驚く。確かに竹谷のことは大好きで、委員会の後
は竹谷と話したり、一緒に作業をすることが出来て、かなり機嫌はいいが、それを他の人
に話したことなど一度もなかった。
「ぼくの見間違えじゃなければ、いつも飼育小屋の近くに座ってジュンコとお話してるよ
ね。その時に、今日の竹谷先輩かっこよかったよねとか、もうちょっと委員会の時間が長
くて一緒にいれたらいいのにねとか、そんな話を話してる気がするんだけど。」
「・・・・っ!」
「あ、それ、俺も見たことあるかも。タカ丸さんと一緒に歩いてるときだけど。」
タカ丸の言っていることに間違いはないので、孫兵はカアァっと顔を赤く染め、言葉を失
う。その反応を見て、そこにいる誰もがタカ丸の話していることは本当なんだなあと理解
する。
「なるほど、人には話してないけど、ジュンコには話してるってわけか。」
「孫兵らしいね。」
鉢屋と雷蔵に納得され、孫兵は恥ずかしくてたまらないと、顔を両手で覆う。そんな孫兵
の手をジュンコがペロペロと舐めるので、孫兵はその手を顔からゆっくりと話した。
「孫兵の顔、ジュンコと同じような色になってるな。」
「本当だー。真っ赤だね。」
「は、恥ずかしいので、あんまり見ないで下さい・・・」
「そうだぞ。お前ら。孫兵をいじめるな。」
「別にいじめてなんかないぞ。それに、今孫兵の顔を一番ガン見してるのは、八左ヱ門だ
と思うんだが?」
鉢屋の言う通り、真っ赤になっている孫兵の顔を一番見ているのは竹谷であった。その言
葉に、孫兵はチラッと竹谷の方を見て、すぐに目を伏せる。
「そ、そんなことないからな、孫兵!」
「は、はい・・・」
「何かもう、八左ヱ門と孫兵は相思相愛のバカップルって感じだよねー。見てるこっちが
恥ずかしくなっちゃう。」
冗談じみた口調でそんなことを言う雷蔵に、竹谷はこちらとてやられてるばかりではいら
れないと、言葉を返す。
「それは、雷蔵と三郎だって変わらないだろうが。」
「当然だろう。私と雷蔵は、お前達に負けないくらいラブラブだからな。」
「ちょっ、ちょっと三郎!何言ってるんだよ!」
雷蔵は少し動揺してくれているが、鉢屋は全くそんな素振りは見せない。ここまでハッキ
リ肯定されると、張り合いがないなあと、竹谷は軽く溜め息をつく。
「三郎にはこういうネタは通じないってことか。でも、あれだよなあ。雷蔵は何かにつけ
て迷うってことが弱点だけど、三郎は本当雷蔵が弱点って感じだよな。」
『えっ?』
それは予想外の言葉だと言わんばかりに、鉢屋と雷蔵は同時に聞き返すような言葉を放つ。
「あー、八左ヱ門の言ってること分かるかも。雷蔵のことになると、三郎は本当冷静さを
失うからな。優秀で何でも出来るのに、雷蔵に付き合って夏休みの宿題やらなかったり、
タソガレドキ忍者の組頭と戦ったときも、雷蔵がやられて順番無視で飛び出てったしな。」
竹谷の言葉に同意するような発言をしたのは、久々知だ。そんな久々知の言葉を聞いて、
雷蔵は固まってしまう。
「もしかして僕・・・物凄く三郎の足引っ張ってる?」
「いや、そんなことはない!断じてそんなことはないぞ!雷蔵!」
「まあ、雷蔵がどうっていうより、三郎の問題だからなあ。雷蔵のせいではないと思うぞ。」
「けど・・・僕がいなければ、三郎は忍者として、もっと優秀な力を発揮出来るわけだろ?
ああ、どうしてもっと早くそのことに気づかなかったんだろう・・・」
完全に悩みモードに入ってしまった雷蔵を見て、鉢屋はひどく慌てたような素振りを見せ
る。
「違う、雷蔵!私には雷蔵が必要で、雷蔵がいなければなんて考えただけでもっ・・・」
「雷蔵も三郎も落ち着けって。そこまで真面目に悩ませるつもりで、言ったわけじゃない
からさ。」
雷蔵も鉢屋も平常心を失い、冷静さを欠いているので、久々知は困ったような表情でそう
口にする。
「そうだよー。確かに鉢屋くんは雷蔵くんのことで、冷静じゃなくなったりすることもあ
るかもしれないけど、それは雷蔵くんのことがすごく好きだからでしょ?好きって気持ち
は、その人のためにすごく頑張れるってことだから、そんなに悪いことばっかりじゃない
と思うよ。」
いつもののほほんとした雰囲気で、タカ丸はそんなことを言う。確かにそうだと、そこに
いた全員が納得し、雷蔵と鉢屋もハッと気づいたように、落ち着きを取り戻した。
「そ、そうですよね。うん、タカ丸さんの言う通りだ。」
「確かに僕も、三郎の為に頑張らなきゃって思って、いつもより頑張れることがたくさん
あるし、もし、三郎もそう思ってくれてるなら・・・別に足を引っ張ってるばかりじゃな
いのかな。」
「そうだよ。ぼくもまだまだ出来ないこといっぱいだけど、久々知くんの為に頑張らなき
ゃって思うもん。」
へらっと笑いながらそう言うタカ丸の言葉に、久々知は何となく恥ずかしくなり、頬を赤
く染める。そんな久々知の様子に気づき、竹谷はからかいの対象を久々知に変える。
「愛されてんなー、兵助。」
「なっ!?」
「タカ丸さんは、兵助の為にどんなこと頑張ってるんですか?」
「えっと、まずは火薬委員会の仕事をしっかり出来るようにと思って頑張ってるよ。でも、
失敗することも多くて、結構久々知くんに怒られたりするけどね。あと、忍術の勉強も久
々知くんが教えてくれたりするから、いっぱい勉強したり、練習したりして、テストでい
い点とれるように頑張ってる。いい点とれたよーって言うと、久々知くん、すごく喜んで
くれるから、もっと頑張ろうって思えるんだ。久々知くんの喜んだ顔、ぼく、大好きだか
ら。」
ニコニコとしながら、喜んだ顔が大好きと言われ、久々知の顔はこれ以上なく赤くなる。
「久々知先輩、顔真っ赤です。」
あまりに赤くなっている久々知の顔を見て、しばらく黙っていた孫兵も思わず口を開く。
そういうことを指摘されると余計に恥ずかしくなるわけで、久々知はこぶしで顔を隠しな
がら、ふいっとタカ丸から顔を背けた。
「べ、別に赤くなんかなってないし。」
「いや、本当ビックリするくらい真っ赤だぞ。そんなにタカ丸さんの言葉が嬉しかったの
か?」
「そ、そういうこと今言うなって思った。」
「素直じゃないなあ、兵助は。嬉しかったって言ったら、タカ丸さんも喜ぶだろうに。」
ニヤニヤしながら、畳みかけるように言葉をかけてくる鉢屋と竹谷に、久々知はキッと睨
むような視線を向ける。しかし、二人の言っている言葉も一理ある。ドキドキと高鳴る鼓
動を必死で抑えながら、久々知はタカ丸へ視線を移した。
「久々知くん?」
「タ、タカ丸さん・・・その、タカ丸さんが俺の為にいろんなこと頑張ってるって聞いて
・・・」
「う、うん・・・」
「・・・嬉しかったです。」
「おー、兵助がデレた。」
「うるさい!」
「えへへ、ありがとう。久々知くん。」
必死に自分の気持ちを言葉で表現しようとする久々知に、タカ丸の胸はもうキュンキュン
しまくりであった。嬉しそうに笑いながら、お礼の言葉を口にするタカ丸の顔を見て、久
々知はふしゅうと頭から湯気が出るくらいな勢いでうつむく。
「そうだ!」
「何?三郎、いきなり大きな声出して。」
「ちょっと面白いこと思いついた。」
久々知の反応を見て、いいことを思いついたと鉢屋は楽しげな様子で声を上げる。
「面白いことって何だよ?」
「今から、告白大会をしよう!」
『は?』
突拍子もない鉢屋の思いつきに、鉢屋以外の全員は首を傾げる。『告白大会』とは何ぞや
と誰もが頭の上にハテナを浮かべていた。
「告白大会って何だよ?何を告白するんだ?」
「そんなの決まっているだろう。自分がどれだけ相手のことを好きかを告白するんだ。」
「はあ!?何だよ、それ!?」
「でも、ちょっと面白そー。」
わけが分からないと言う竹谷に、面白そうと乗り気なタカ丸。久々知や雷蔵もあまり乗り
気ではないが、強制的に鉢屋は話を進めていった。
「よーし、じゃあ、早速始めるか。」
「ちょっと待って、三郎!本当に告白大会なんてするの?」
「するに決まってるだろ。絶対面白いって。」
納得いかないなあと思いつつも、どこかで面白そうかもと思ってしまう。結局、鉢屋の提
案を受け入れ、そこにいるメンバーは『告白大会』をすることになった。
「まずは誰からいこうか。」
「言い出しっぺのお前がやればいいだろ。」
「別にそれでもいいが、そうすると二番目は雷蔵になるぞ。」
「えーっ!二番目とか僕絶対無理!どんなこと言えばいいか全然思いつかないもん。」
「んー、じゃあ、始めから乗り気だったタカ丸さんからってのはどうだ?」
「ぼくは全然構わないよー。」
話し合いの結果、一番手はタカ丸ということになった。もちろん告白の相手は久々知だ。
先程も十分告白じみたことを言っているが、もっと分かりやすくその気持ちを伝えようと、
タカ丸はその言葉を考えた。
「どんなタイミングで始めればいいの?」
「タカ丸さんの好きなタイミングでいいですよ。」
「分かった。」
すうっと大きく息を吸うと、タカ丸は久々知と向かい合わせになるように座る。タカ丸を
前にし、久々知は胸がドキドキと高鳴るのを抑えられないでいた。
「久々知くん。」
「は、はい・・・」
いつもと同じ穏やかな笑顔を浮かべ、タカ丸は久々知の名を呼ぶ。これから告白されると
いうことで、久々知はドギマギした様子で、タカ丸の顔を見た。
「ぼくは、久々知くんのその大きな目が、長い睫毛が、真っ黒でふわふわで綺麗な黒髪が
大好き。真面目なところも、ちょっと厳しいところも、お豆腐が大好きなところも、みん
な好き。ぼくは久々知くんの全部が大好きだよ。」
タカ丸の心のこもった告白に、久々知の心臓はもう破裂寸前だ。せっかく落ち着いた顔の
赤さも一気に戻り、熱があるのではないかと思うほど赤くなっている。
「さすがタカ丸さん。一番手にふさわしい告白をしてくれましたね。」
「そうかな?まあ、いつも思ってることを言葉にしただけなんだけどね。」
照れたようにタカ丸はそう口にする。あまりのドキドキ感に何も言えなくなっている久々
知に、竹谷はからかうような口調で声をかける。
「兵助、せっかくタカ丸さんが告白してくれたんだから、何か反応したらどうだ?」
「え、えっとぉ・・・」
「個人的には久々知くんの告白が聞きたいな。」
「っ!」
まさか自分が次に告白しなければならないとは思っていなかったので、久々知はどうしよ
うと慌てるような反応を見せる。しかし、タカ丸があれだけ素直で、素敵な告白をしてく
れたのだ。これは自分もちゃんと気持ちを伝えなければと、久々知はどんな言葉で伝える
かを必死で考えた。
「何かもう恥ずかしすぎて、全然頭回らなくて、タカ丸さんみたいにいろんなこと思いつ
かない・・・」
「兵助のタカ丸さんへの気持ちはその程度なのか?」
「違う!えっとぉ・・・俺は、タカ丸さんのこと、豆腐と同じくらい大好きです!」
鉢屋の言葉に、久々知はとにかく思いついた告白の言葉を口にした。そんな告白を聞いて、
他の五年生メンバーは、テンション高くすごい告白だと口々に言う。
「兵助の好きの最上級きたな。」
「だねぇ。兵助にとっては、この上ない最上級の告白だよね。」
「よかったですね、タカ丸さん。」
久々知がどれだけ豆腐を愛しているかを、五年生のメンバーは嫌と言うほど知っている。
そんな豆腐と同じくらい好きというのは、一番やすごくという言葉とは比べ物にならない
程、好きの度合いが強いことを表していた。
「うわあ・・・何か、すごい嬉しい・・・」
もちろんタカ丸も、久々知が無類の豆腐好きだということは分かっている。その豆腐と同
等に好きと言われ、タカ丸は顔が緩むのを抑えられないでいた。
「こ、こんな告白で本当にいいんですか?」
「もう十分過ぎるよ。どうしよう、嬉しすぎて、すっごい心臓がドキドキいってる。」
「まあ、あんな告白聞いちゃったらしょうがないですよ。うーん、タカ丸さんも兵助もな
かなかやるなあ。それじゃあ次は、八左ヱ門いってみようか。」
「お、俺!?」
タカ丸と久々知の告白はかなり満足のいくものだったと、鉢屋はうんうんと頷きながら、
バトンを竹谷に回した。
「えー、どうしよう・・・いきなり告白しろと言われてもなあ・・・」
そんな簡単には思い浮かばないと、竹谷も久々知と同じように困った様子でその言葉を考
える。当然告白の相手は孫兵だ。チラッと孫兵の方を見てみると、ジュンコと一緒に、じ
っと自分の方を見ていた。
(とにかく、思っていることをちゃんと言葉にすればいいだけだよな。)
孫兵の顔を見て、ちゃんと自分の気持ちを伝えようと決意した竹谷は、孫兵の両手をぎゅ
っと握った。そして、とにかく思いつくままに、その孫兵への想いを口にする。
「孫兵!」
「は、はい。」
「俺は、孫兵も孫兵のペット達も大好きだ!みんな大事で、俺の宝物だ。けど、一番大事
に思ってるのは、孫兵だからな!もうお前ら全部まとめて、俺が一生面倒みてやる!」
「竹谷先輩・・・」
自分だけではなく、ジュンコ達ペットのことも大好きだと言われ、孫兵はひどく感動する。
本当に自分が言って欲しいと思うことを言ってくれるなあと、孫兵は胸のときめきが高ま
るのを感じていた。
「何か八左ヱ門の告白、プロポーズみたいだよな。」
「あー、確かに。一生面倒みてやるとか、完全にプロポーズだな。」
久々知と鉢屋の言葉に、竹谷の顔はぼんっと火がついたように赤くなる。そんなつもりは
なかったのだが、確かに自分の言ったことを思い出すと、二人の言う通りプロポーズにし
か聞こえないと気づく。
「べ、別にそんなつもりはなくてだな・・・」
「そうなんですか?」
「えっ?」
「ぼくは、竹谷先輩の告白、すっごく嬉しいと思いましたよ。久々知先輩や鉢屋先輩のプ
ロポーズみたいだって言葉も、それはそれでいいなあと思いましたし。」
「本当か?」
「はい。」
プロポーズっぽいのも嬉しいと、照れたような笑顔で言ってくる孫兵に、竹谷は思いきり
抱きしめたい衝動に駆られるが、何とかその衝動は堪えた。
「ま、まあ、孫兵が喜んでくれたなら、いいかな。」
「次は孫兵でいいのかな?」
「えっと、はい。頑張ります。」
竹谷の次は孫兵でいいかという雷蔵の問いに、孫兵はそう答える。他の人の告白を聞いて
いる間も、孫兵は自分はどんな言葉で、竹谷に想いを伝えようということを考えていた。
「竹谷先輩。」
竹谷の膝に手をついて、上目遣いで顔を見上げながら、孫兵は言葉を紡ぐ。
「一生懸命考えたんですけど、上手く伝わらなかったらごめんなさい。こういうの、あん
まり慣れてないんで・・・」
「お、おう。俺も全然慣れてないから、大丈夫だ。」
「竹谷先輩は、ぼくにとってお日様みたいな存在です。明るくて、優しくて、いつもぼく
達のことを見守っててくれて・・・当たり前のように側にいてくれるんですけど、もし、
お日様がなくなっちゃったら、虫達も他の生き物もぼくも・・・生きていけなくなるじゃ
ないですか。竹谷先輩は、それくらいぼくにとっては大切で、なくてはならない人です。」
孫兵が思っていた以上に、その想いは竹谷の心に響いていた。孫兵の心からの告白を聞い
て、竹谷は先程から堪えていた衝動を抑えられなくなってしまう。すぐ目の前にある孫兵
の体を竹谷はぎゅっと抱きしめた。
「わっ・・・」
「ゴメンな、孫兵。何かもういろいろ耐えられなくて。」
「八左ヱ門は堪え性がないなあ。」
「うるせぇ!お前だって、雷蔵の告白聞いたら、絶対こうなるんだからな!」
からかうような言葉を放つ鉢屋に、竹谷はそう返す。孫兵をその腕におさめたまま、竹谷
は次の告白は誰かと尋ねる。
「で、次は三郎なのか?雷蔵なのか?」
「ぼ、僕、最後でいい。」
「なら、私だな。」
鉢屋は普段から告白じみたことを言ってくるので、雷蔵は、久々知や孫兵が感じていた程
のドキドキ感は感じていなかった。そんな雷蔵の気持ちを知ってか知らずか、鉢屋は真剣
な眼差しで雷蔵を見つめながら、口を開いた。
「雷蔵、いつもは冗談っぽく君のことを好きだと言っているけどな、その気持ちに全く嘘
はないんだ。君がいなければ、生きていけないと本気で思うくらい、私は雷蔵に心を奪わ
れているんだ。君と同じものを見て、君が感じるのと同じように感じたい。だから、これ
からも君と共に歩んでいきたいと思う。大好きだぞ、雷蔵。」
思っていたよりも、真面目で真剣な告白に、雷蔵の心は嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ち
でいっぱいになる。どんな言葉で告白するかなんてどうでもいい。そんなことを思いなが
ら、雷蔵は今の鉢屋の告白に答えるような言葉を口にした。
「僕も三郎のこと大好きだよ。これからもずっと一緒にいようね。」
少しも飾らず、これ以上なくシンプルな告白であるが、雷蔵のこの告白に、鉢屋は胸は撃
ち抜かれた。
「雷蔵!」
「うわっ、三郎!?」
先程の竹谷のように、鉢屋は雷蔵に抱きつく。ほら、やっぱりと言わんばかりに、竹谷は
鉢屋につっこんだ。
「やっぱり、雷蔵に抱きつくんじゃねぇか。ほらな、告白されたらそうしたくなるだろ?」
「悔しいが、全くその通りだな。」
「さ、三郎、ちょっと苦しい!手緩めてよ。」
あまりにも強い力で鉢屋が抱きしめてくるので、雷蔵は身をよじるようにしてそんなこと
を言う。しかし、鉢屋は雷蔵を抱きしめる腕を全く緩めようとはしなかった。
「なんか、みんなぎゅうってしてて、いいなあ。」
「そ、そうですね。」
「ぼくも久々知くんのことぎゅうってしたいけど、ダメかな?」
そんなタカ丸の問いを聞いて、久々知は腕を伸ばして、タカ丸に抱きついた。いきなり久
々知に抱きつかれ、タカ丸は戸惑いまくりだ。
「えっ、えっ!?久々知くん!?」
「・・・別に聞かなくたって、タカ丸さんのしたいようにしてくれればいいです。」
「久々知くん・・・」
「は、恥ずかしいけど・・・俺だって、好きな人に抱きしめられたらすごく嬉しいんで。」
「うん。ぼくもすごく嬉しい」
そう言いながら、タカ丸は久々知の体をぎゅうっと力強く抱きしめ返す。そんな二人をい
つの間にか体を離している四人がニヤニヤとしながら眺めていた。
「兵助ってば、大胆〜。」
「へっ!?あっ・・・」
「本当、タカ丸さんのこと大好きなんだな。いやあ、いいもん見させてもらった。」
「お、お前らだって・・・」
「僕や孫兵は抱きしめられただけだもん。兵助みたいに、自ら抱きついたりはしてないし。」
「あぅ・・・」
鉢屋、竹谷、雷蔵が次々に口にする言葉に、久々知は恥ずかしすぎてもう何も言えなくな
ってしまう。このままここに留まるのは、いたたまれないと久々知はいったんタカ丸から
離れ、立ち上がる。
「タ、タカ丸さん!」
「何?久々知くん。」
「そろそろ帰りましょう。」
「う、うん。」
立ち上がるとタカ丸の手を取り、久々知は竹谷の部屋から出て行こうとする。
「おー、じゃあな、兵助。また明日。」
「タカ丸さんもおやすみなさい。」
「うん、おやすみ〜。」
竹谷と鉢屋の言葉に、タカ丸は返事を返すが久々知は黙ったままだ。竹谷の部屋から出る
と、久々知は耳まで真っ赤にしながら、タカ丸にだけ聞こえるような小さな言葉で呟いた。
「・・・まだ、もうちょっと一緒にいたいんで、俺の部屋に来てくれますか?」
「うん!」
久々知の誘いにタカ丸は、嬉しそうな笑顔で頷く。傍から見たら手を繋いでいるような状
態で、二人は久々知の部屋へと向かって歩いて行った。
「さーてと、兵助とタカ丸さんも帰っちゃったし、私達も戻るか。」
久々知とタカ丸を見送ると、鉢屋はそう雷蔵に話しかける。
「そうだね。」
「んじゃ、八左ヱ門、孫兵。またな。」
「何だかんだですごく楽しかったよ。おやすみー。」
「おー、おやすみー。」
「おやすみなさい、鉢屋先輩、不破先輩。」
孫兵にいらないことをバラされたのはさておき、結果的に楽しかったので、竹谷は特に文
句は言わず、鉢屋と雷蔵の二人を見送る。竹谷の部屋から出た二人は、すぐ隣にある自分
達の部屋へと移動した。
「いやー、すごい楽しかったな。」
「だね。告白大会は、自分が言うのはちょっと恥ずかしかったけど、他の人の告白を聞く
機会なんて滅多にないから、あれはあれでよかったと思うよ。」
「だろう?雷蔵の告白も聞けたし、他の奴らの告白も面白かったし、満足満足。」
「僕も三郎の真剣な告白が聞けてよかったなあと思うよ。」
照れ笑いを浮かべて、そんなことを言う雷蔵に、鉢屋の胸はきゅーんとしてしまう。
「雷蔵!」
「何?」
「大好きだ!」
「うわっ、ちょっと三郎!」
二つ敷かれた布団にダイブするような形で、鉢屋は雷蔵に飛びかかる。全くしょうがない
なあと思いつつ、雷蔵は鉢屋を押し返すようなことなく、鉢屋の抱擁を受け入れるのであ
った。
「はあー、やっと静かになったな。」
「そうですね。」
鉢屋と雷蔵が出て行くと、竹谷の部屋はだいぶ静かになる。
「他の先輩達もみんな帰っちゃいましたし、ぼくもそろそろお暇します。」
自分もそろそろ帰ろうと立ち上がろうとする孫兵の腕を竹谷はしっかり掴む。
「孫兵。」
「はい、何ですか?」
「その・・・今日はここに泊まっていかないか?」
思ってもみない竹谷の言葉に、孫兵は一瞬固まってしまう。少し考えた後、孫兵は口を開
く。
「ジュンコもいますよ。」
「もちろんジュンコも一緒に泊まっていけばいい。」
「それなら・・・別に構いません。」
先輩の部屋に泊まるというのはなかなか緊張することであるが、竹谷ならばそこまで気に
することもないだろうと、孫兵は竹谷の提案を受け入れる。
「そっか。それじゃあ、とりあえず寝巻きに着替えとくか。その方がぐっすり眠れるだろ?」
「えっ、でも・・・寝巻きはさすがに持ってきてないですよ?」
「ちょっと大きくても構わないなら、俺のを貸してやるさ。」
「あ・・・はい。」
とりあえず、寝る準備をしようと、竹谷は制服から寝巻きに着替え、孫兵にも自分の寝巻
きを貸してやる。竹谷から寝巻きを受け取ると、孫兵はそれに着替えた。
(あっ、竹谷先輩の匂いがする・・・)
竹谷の寝巻きを身に纏い、孫兵はそんなことを思う。まるで竹谷に抱きしめられているよ
うで、少しドキドキするなあと思いながら、きゅっと腰紐を結んだ。
「やっぱり、大きいです。」
三年生と五年生では、それなりの体格差がある。丈も袖もかなり余っているような状態に、
少々困惑しながらも、孫兵は竹谷の寝巻きを身につけていられるということが嬉しかった。
「いやー、それはそれでいいと思うぞ。うん、似合ってる。」
「似合ってるって、どういう・・・」
「何ていうか・・・その袖とか裾が余ってる感じが、すごく可愛い。」
「そ、そうですか・・・」
「あ、あはは、そんなこと言われても嬉しくないよな!」
恥ずかしそうにうつむく孫兵に、竹谷は誤魔化すようにそんなことを言う。しかし、孫兵
は赤く染まった顔を上げて、竹谷の言葉を否定した。
「そんなことはないです。ぼくは竹谷先輩より年下ですし、年下に対して『可愛い』とい
う言葉は褒め言葉になると思うので、竹谷先輩にそう言って頂いて・・・嬉しいです。」
「そ、そっか。」
孫兵があまりにも可愛いことを言ってくるので、竹谷は緩む口を抑えながら、ほんの少し
だけ孫兵から目をそらす。
「あの・・・竹谷先輩。」
「ん?どうした?」
「竹谷先輩は、久々知先輩がタカ丸さんにやったみたいなことを、ぼくがしたら・・・嬉
しいと思いますか?」
「兵助がタカ丸さんにしたこと?」
少し考えて、竹谷は久々知がタカ丸に抱きついていたことを思い出す。それを孫兵がして
きてくれたら嬉しいかと聞かれれば、イエスとしか答えられない。
「ああ、そりゃ嬉しいと思うな。」
「本当ですか?」
「もちろんだ。」
竹谷がそう答えた瞬間、孫兵は久々知がしていたように、首に腕を回すような形で竹谷に
ぎゅっと抱きつく。まさか本当にしてきてくれるとは思わなかったので、竹谷の心臓はド
キンと跳ねた。
「ま、ま、孫兵!?」
「ぼくがすると、子供が甘えてるみたいな感じかもしれないですね。」
ぶかぶかの寝巻きを着て、こんなことをしたら、子供みたいだと孫兵は思う。しかし、竹
谷にとっては、全くそんなことはなかった。
「い、いや、そんなことはないと思うぞ。」
「そうですか?」
「ああ。子供に甘えられてこんなに心臓はドキドキしないからな。」
そう言われて孫兵は竹谷の心臓の音を聞いてみる。予想以上に速いリズムを刻んでいる心
臓の音を聞いて、孫兵は何だか嬉しくなった。
「すごいドキドキしてますね。」
「当たり前だろ。孫兵がこんなにくっついてきてるんだから。」
恥ずかしそうにそう言う竹谷の言葉を聞いて、孫兵は嬉しそうに笑う。そして、すぐ目の
前にある竹谷の顔をじっと見た。
「竹谷先輩。」
「何だ?って、顔近っ!ジュンコも近っ!」
「そうですか?ぼくはこれくらいの距離が好きですけど。」
悪戯な笑みを浮かべて、そんなことを言う孫兵に竹谷は若干ムラッとしてしまう。こんな
近くに顔があったら耐えられないと、ジュンコの視界を手で塞ぎながら、竹谷は孫兵の柔
らかい唇に軽く口づけた。
「こ、こんな顔が近くにあったら、思わずしたくなっちゃうだろ・・・」
「してからそう言いますか。」
「う・・・悪い・・・」
「なんて、冗談ですよ。謝らないで下さい。別に嫌だなんて一言も言ってないじゃないで
すか。」
竹谷に接吻してもらったことが嬉しくて、孫兵は先程よりももっと楽しげな笑顔になる。
そんな孫兵の心を汲み取ってか、ジュンコもかなり上機嫌であった。
(本当、孫兵には敵わないよなあ。)
「何か言いました?」
「いや、別に。それよりほら、そろそろ寝る準備するぞ。」
「もう少しこうしてちゃダメですか?」
「横になったら、腕枕してやる。それなら、くっついてられるからいいだろ?」
「分かりました。」
寝転がっても竹谷とくっついてられるなら問題ないと、孫兵は竹谷の言うことをきく。一
つの布団に二人で入り、竹谷は孫兵に腕枕をしてやった。
「孫兵。」
「はい、何ですか?」
「こういうのが嫌じゃなければ、いつでも俺の部屋に泊まりに来ていいからな。」
竹谷の言葉に、少し驚いたような顔をした後、孫兵は今までで一番の笑顔で頷く。
「はい!」
お互いを想う気持ちが溢れる部屋の中、二人は幸せな気分で、もうしばらくその甘いひと
ときを楽しむのであった。
END.