クリスマスパーティーが一段落し、暖炉で暖められたレクリエーションルームで眠り始め
る者がちらほら出てきている時分、越知はスタッフの用意したランタン型の懐中電灯を手
に取る。
「毛利。」
「あっ、月光さん。懐中電灯持ってどこか行きはるんですか?」
「一度部屋に戻ろうと思うのだが、お前も一緒について来てくれないか?」
「はい、構わんですよ。」
停電はまだ復旧していないので、寮の部屋へ戻るとなると懐中電灯は必須だ。非常電源が
使われているとは言えども、最低限のものにしか使われないので、レクリエーションルー
ムを出ると暗い廊下が伸びていた。
「まだ真っ暗ですね。」
「ああ。懐中電灯があるとは言えども気をつけるんだぞ。」
「はい。」
暗い廊下を懐中電灯で照らしながら部屋へと向かう。外ではまだ強い風の音が響いている。
「そういえば、こんな暗くて寒い中、何で部屋に戻るんです?レクリエーションルームに
おった方が暖かいと思うんやけど。」
「もうすぐ日付が変わるだろう?お前にクリスマスプレゼントを用意してある。それを渡
したくてな。」
「ああ、確かにそうですね!俺も月光さんにプレゼント用意してたんやった。」
外では吹雪が吹き荒れ、合宿所内は停電してしまっているが、今日はクリスマスだ。特に
相手に話しているわけではないが、越知も毛利も互いにクリスマスプレゼントを用意して
いた。せっかくのクリスマスの夜なので、そのプレゼントを渡したいと、越知は寮の部屋
に戻ろうと考えたのだ。
「ホンマやったら、暖かい部屋でクリスマスプレゼント交換してイチャイチャできるはず
やったのに残念ですね。」
「そうだな。」
「でも、まあ、こういうクリスマスもあんまり体験出来へんし、おもろいと思った方がえ
えか。」
「ふっ、お前のその前向きなところ、好きだぞ。」
さらっとそんなことを言ってくる越知の言葉に、毛利は足を止め、ぼぼっと顔を赤くする。
「いくら周りに人がおらんからって、そないなこと言わんといてください。」
「何故だ?」
「やって、恥ずかしくて、月光さんの顔見れへんです。」
懐中電灯の灯りで毛利の顔を照らしてやると、確かに赤くなっているようだった。しかし、
越知はあえて気づかないふりをする。
「こんなに暗ければ、そこまでハッキリは見えないだろう。」
「た、確かにそうですけど・・・・」
「ほら、早く部屋に戻るぞ。」
毛利が足を止めているので、越知は懐中電灯を持っている手とは逆の手で毛利の手を掴む。
その手を引くようにして、越知は歩き始めた。
「ちょっ、月光さん・・・手ぇ・・・」
「はぐれてしまっては大変だろう?懐中電灯は俺が持っているし、この方が安心だ。」
クリスマスのせいか、いつもと違う状況のせいか、越知は非常に上機嫌であった。そんな
越知の言動に毛利はドキドキしまくりだ。
(月光さん、今日はえらい楽しそうやな。せやけど、こないにいつもと違うことばっかり
されると心臓がもたへん。)
越知に手を握られ、胸が高鳴るのを抑えられないまま、毛利は暗い廊下を手を引かれなが
ら歩く。やっとのことで部屋の前まで来ると、隣の部屋から物音が聞こえる。
「あれ?大曲さん達も戻ってきてはるんですかね?」
「そのようだな。」
「俺らも部屋に入りましょ。」
「ああ。」
隣の部屋のことは気にせず、越知と毛利は133号室に入る。懐中電灯を窓際の机の上に
置くと、どちらも用意していたクリスマスプレゼントをごそごそと取り出した。
「これだけ暗いとプレゼント出すのも一苦労ですね。」
「そうだな。」
お互いに用意したプレゼントを手にすると、懐中電灯の前で向かい合う。そして、お互い
の目をしっかりと見ながら持っているプレゼントを手渡した。
「メリークリスマス、月光さん。クリスマスプレゼントです。」
「ありがとう。俺からもお前にプレゼントだ。」
「ありがとうございます!月光さん!」
受け取ったプレゼントを懐中電灯の灯りを頼りに早速開けてみる。袋状のラッピングから
中身を取り出すと、越知の胸はトクンとときめく。毛利から受け取ったプレゼントの中に
は白い猫のカイロケースと猫柄の青く大きなブランケットが入っていた。
「月光さん、猫好きやから、猫で暖かくなったらええなあと思って選んでみました。」
(どちらもとても可愛いな・・・)
「ああ。・・・すごく嬉しい。」
毛利が贈ってくれた猫のポカポカグッズに越知はメロメロだった。喜んでもらえてよかっ
たと思いながら、毛利は越知からもらったプレゼントの中身を出す。リボンのついた袋の
中から出てきたのは、オレンジ色のパーカーであった。
「わあ、パーカーや。」
「おさがりばかりでは悪いと思ってな。」
「あれ?このパーカー、フードと腰のあたりに何かついてますね。あー!猫や!猫の耳と
尻尾がついとりますね、コレ!」
パーカーを広げてみると、フードには猫耳が腰のあたりには尻尾の飾りがついていること
に毛利は気がつく。しかも、よくよく見ると、パーカーの前面にも可愛らしい猫のイラス
トが描かれている。
「うわあ、メッチャ可愛いですね!というか、こないな感じのパーカー、よく俺のサイズ
ありましたね。」
「今はわりと大きなサイズもそろっているようだ。」
「へぇ、そうなんですね。ちょっと着てみてもええですか?」
「ああ、もちろんだ。」
越知もこのパーカーを毛利が着た姿を見てみたいと思っていたのでそう言いながら頷く。
さすがに今着ている服の上からは着れないので、毛利は一旦今着ているものを脱ぎ、着替
えるような形でパーカーを着る。サイズはピッタリで、ちょうど尾てい骨のあたりから、
飾りの尻尾が垂れ下がるようになっていた。
「これ、こうした方がええですかね?」
せっかくの猫耳パーカーなので、毛利はフードをかぶる。猫耳付きフードに、猫の尻尾、
お腹のあたりには猫のイラストという猫づくしな状況に、越知のテンションはだだ上がり
だ。しかし、クールな越知のこと、それを顔に出したりはしない。
(予想より可愛いな。ああ、すごく可愛い・・・)
しかし、頭の中は毛利が可愛くて仕方がないという思いでいっぱいだ。
「似合うな。すごく可愛いぞ。」
「ホンマですか?えへへ、嬉しいです。」
照れたように笑う毛利に越知の胸の高鳴りは最高潮になる。毛利に向けて大きく腕を広げ
てやると、毛利は目を輝かせ越知の胸に飛び込んでくる。そんな毛利を越知はぎゅっと抱
きしめた。
「本当にお前は可愛いな。」
「月光さんに可愛い言われると嬉しいです。」
「少し上を向けるか?」
「こうですか?」
抱き合ったまま毛利の顔を自分の方に向かせると、白い息を吐く唇に口づけを落とす。
「っ!?」
驚いたような反応を見せるが、毛利は越知の背中に手を回し、甘い口づけを受け入れる。
そんな毛利の行動に気をよくした越知は、左手では腰を右手では猫耳のついたフードごと
毛利の頭を掻き抱く。懐中電灯の灯りだけが光る薄暗い部屋の中で、越知は何度も何度も
毛利にキスをした。
「毛利・・・」
「ハァ・・・月光さん・・・・」
触れ合う部分から伝わる鼓動はどちらも速いリズムを刻み、体温が上がっていくのを感じ
る。普段であれば、このままもっと先へ進む雰囲気であるのだが、外では吹雪が吹き荒れ
ているにも関わらず、暖房がきかない状況だ。摂氏0℃に近い部屋の中は、そういうこと
をするにはあまりにも寒すぎる。
「もっと月光さんとイチャイチャしてたいですけど・・・・」
「ああ・・・」
「やっぱ、寒すぎますね。」
そう言いながら、毛利は苦笑する、これだけ抱き合っているにも関わらず、越知の手も毛
利の手も冷えきっていた。クリスマスのプレゼントを交換し、少しだけ触れ合うことが出
来たので、二人は暖かいレクリエーションルームに戻ることにする。
「このまま戻っちゃアカンですかね?」
猫耳パーカーを着た毛利は越知にそんなことを尋ねる。少し考えたあと、越知は少し言い
辛そうに口を開く。
「個人的には着替えて欲しい。」
「やっぱ、みんなの前で着るにはちょっとあれですもんね。」
「いや、そういうことではない。その・・・あまりにも可愛すぎるから、他の者にあまり
見せたくない。」
独占欲全開な越知の言葉を聞いて、毛利はきゅーんとしてしまう。着替える前に、越知の
前でくるっと回ってみせ、嬉しそうな笑みを浮かべて越知の手を握る。
「ほんなら、このパーカー着るのは月光さんの前だけにしときますわ。」
(どうしてこんなにも嬉しいことを言ってくれるのだろう。)
ドキドキとしながら、越知は毛利が着替えるのを眺める。着替えが終わると、毛利は自分
が越知に贈ったブランケットを手に取った。
「これは持っててもええですよね?向こうにも毛布ぎょうさんあると思うんですけど、こ
れもあったらよりあったかくなれるかなー思て。」
「ああ、構わない。」
「それじゃ、戻りましょうか。月光さん。」
猫のブランケットを抱える毛利も可愛らしいと思いながら、越知は机の上に置いていた懐
中電灯を手にする。部屋は凍えるほど寒いが、気分は非常にポカポカしている。どちらも
そんな気分になりながら、寒い部屋から出て行った。
越知と毛利がプレゼント交換をしているときとほぼ同じ頃、隣の部屋の大曲と種ヶ島も部
屋に戻り、クリスマスプレゼントの用意をしていた。
「部屋ん中も真っ暗やなあ。」
「仕方ねぇし。それよりも寒さがヤベェな。」
越知達と同じようにランタン型の懐中電灯を机に置き、それぞれ用意したプレゼントをし
まっていた場所から取り出す。
「メリークリスマスやで、竜次☆」
「おー、サンキュー。開けてみてもいいか?」
「もちろんやで。寒いの苦手な竜次にはピッタリやと思うけど。」
種ヶ島から受け取った包みを開けると、白いニット帽に青いチェックのマフラー、そして、
茶色の手袋が入っていた。防寒具のセットに大曲は素直に喜ぶ。
「これはありがてぇな。この合宿所、合宿所内は普段は暖かいけど、この時期出かけると
なると結構さみぃんだよな。お前、センスいいからデザインもいい感じだし。」
「ふふーん、しかもそれ、俺とおそろいなんやで☆」
そう言いながら、種ヶ島はラッピングのされていない袋から大曲と同じセットを取り出す。
おろそいとは言えども、若干色味は変えてあり、ニット帽は茶色、マフラーは大曲よりは
少し薄い青、手袋は白であった。しかし、デザインは全く一緒なので、おそろいと言って
間違いではない。
「おそろいとか、勘弁しろし。」
そんなことを言う大曲だが、その口元はほのかに緩んでいる。暗い中ではあるが、種ヶ島
はそのことに気づいているので、嬉しそうにニコニコ笑う。
「今、つけてみてもええで☆」
「まあ、リアルにさみぃし、ちょっとつけてみるか。」
暖房のきいていない部屋は極寒なので、大曲は種ヶ島からもらったプレゼントを身に着け
る。
「どうよ?」
「うわー、やっぱ竜次似合うわ。俺の見立て間違うてなかったな。」
「つけた感じも悪くねぇし。これは普段使いにちょうどいいな。」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。ホンマに似合うてるし、やっぱ竜次かっこええな☆」
にぱっと笑ってそんなことを言ってくる種ヶ島に、大曲はときめいてしまう。種ヶ島から
もらった防寒具の暖かさもあるが、可愛らしい種ヶ島を見ているとそれだけでもう心と体
が温まってくる感じがした。
「お前のターンはこれくらいにして、今度は俺のターンだし。」
「ターンって何やねん。何々?竜次は何くれるん?」
竜次からクリスマスプレゼントがもらえると、種ヶ島はわくわくとした表情で大曲を見る。
「メリークリスマス。」
そう言いながら、大曲が種ヶ島に渡したものは封筒にリボンがついたようなものであった。
「何やろ?図書カードとかそういう類?」
「いいから開けてみろし。」
大曲にそう言われ、種ヶ島はそれを開けてみる。図書カードだとそんなに嬉しくはないな
あと思っていたが、中から出てきたのは見慣れたキャラクターが描かれた二枚のチケット
であった。
「うわあ、これっ!!」
「行けるのは合宿が終わってからとかになるかもしれねぇけど、お前わりと行きたがって
ただろ?」
「夢の国のパスポートや!ホンマに!?こんなんもらってええの?」
「クリスマスプレゼントなんだから当然だし。一応、ペアチケットにしといてやったから
一緒にはしゃいでくれる奴と行けばいいし。」
ペアチケットにも関わらず、誰と行ってもいいといったニュアンスのことを言ってくる大
曲に種ヶ島は惚れ直す。しかし、こんなものを渡されて一緒に行きたい者など一人しかい
ない。
「誰と行ってもええの?」
「ああ、好きな奴と行けばいいし。」
「なら、竜次と行きたい!竜次以外考えられへん。」
「俺だとそんなにはしゃげねぇし。俺と行っても楽しくないんじゃねぇ?」
「そんなことあらへん!竜次は自分で気づいてないかもしれへんけど、俺とデートしてる
ときの竜次、メッチャ楽しそうにしてるんやで。」
「そんなことねぇし。」
「誰と行ってもいいって言ったの竜次やん。せやから、俺は竜次と行くで。」
もう決めたと言わんばかりに種ヶ島はきっぱりとそう言い放つ。もちろんそう言われるこ
とを想像していなかったわけではない。ただ別の者と行きたい可能性もあるので、誰と行
ってもよいということを伝えたかったのだ。
「しゃあねーなあ。」
「一緒に行ってくれるん?」
「お前が行きたいなら、そうするしかねぇだろ。」
「わーい、竜次と夢の国デートなんて夢みたいやぁ。」
「何だしそれ。」
「おおきに、竜次。メッチャ嬉しいで☆」
満面の笑みを浮かべ、種ヶ島は大曲にお礼を言う。懐中電灯でふんわりと照らされる種ヶ
島の笑顔にきゅんとしながら、大曲はふいっと種ヶ島から目をそらす。
「喜んでもらえたならよかったし。この部屋さみぃし、そろそろレクリエーションルーム
に戻るか?」
大曲のそんな問いかけに種ヶ島は少し考えた後、首を横に振る。
「竜次がどうしても耐えられん言うなら戻ってもええけど、そうやないなら、まだ竜次と
ここにおりたい。」
「俺はこんな格好だから大丈夫だけどよ、お前がさみぃだろ。」
「ほなら、俺も竜次と同じ格好するから、もう少しだけ・・・」
「しゃあねーなあ。ほら、さっさとつけろや。」
種ヶ島にニット帽とマフラーをつけさせると、大曲はニット帽越しに種ヶ島の頭を撫でる。
「オメェも似合ってるし。」
「せやろ?竜次とおそろいなのメッチャええな。」
「てか、部屋の中なのにこんな格好しなきゃいけないって、ありえねぇし。」
「息もこんなに真っ白やしなー。なあ、もっとくっついてあったまろ?」
一歩大曲に近づくと、大曲の手が頬に触れ、顔が近づく。唇が触れるとどちらもその冷た
さに驚いたが、舌を絡めるほどに深い口づけになると唇の冷たさなど一切感じなくなる。
「んっ・・・んん・・・・」
(唇は冷たかったけど、さすがに口ん中は熱いなあ。ドキドキしてちょいあったまってき
たかも。)
(暗くてすげぇ寒いけど、こうしてるとわりとクリスマス感あって悪くねぇし。相変わら
ずこういうときのこいつは可愛いし。)
少しでも温まろうと体をピッタリとくっつけ、幾度も幾度も口づけを交わす。白い息と共
に漏れる声に大曲の体温は上がっていく。
「はっ・・・んぅ・・・りゅ・・じ・・・」
(本当可愛すぎだし。デカ勘弁しろし。)
一度夢中になるとなかなかやめられず、大曲と種ヶ島はかなり長い時間唇を重ねていた。
どちらもかなりそういう気分になっているのだが、雪山のような部屋の寒さがその気を削
いでしまう。
「ハァ・・・メッチャええ気分やし、少しはあったまったけど・・・」
「さすがにこれ以上は無理な寒さだよな。」
防寒具を身に着けているが、そういうことをするとなると部分的にはかなり無防備な状態
になってしまう。それはさすがに無理だと、二人は苦笑しながら顔を見合わせた。
「もう結構時間経っちまったし、さすがに戻るか。」
「せやな。向こうは暖かいし、これは置いていってもええよな。」
「そうだな。」
ニット帽とマフラーを机の上に置くと、二人は懐中電灯を手にして部屋を出る。
「俺らが寝れる場所あるんかな。」
「確かに結構な人数が集まってるしな。」
「どうせみんな雑魚寝やろし、今日は隣で寝てもええ?」
「いいんじゃねぇ?もう誰が隣とかどうでもよくなってそうな感じだったし。」
「竜次寒がりやし、バッチリ添い寝してやるわ☆」
「はあ?勘弁しろし。」
そう言いながらも、大曲はどこか嬉しそうだ。暗い廊下をゆっくりと歩きながら、二人は
他愛もない話をしながらレクリエーションルームへと向かった。
レクリエーションルームに戻ると、中学生達は各々好きな場所で眠りについていた。暖炉
に近いところで眠っている者はとても心地よさそうで、少々うらやましいと感じるほどで
あった。
「中学生らはみんな暖炉の近くで寝とるな。」
「まあ、その方が暖かいしな。さすがにそれは譲るべきだろ。」
「せやなあ。」
どこかいい感じに眠れる場所はないかと、種ヶ島が辺りを見回していると、暖炉からかな
り離れた壁のところに越知と毛利を見つける。二人は横になってはおらず、体育座りに近
い座り方で、越知が毛利を後ろから抱くような体勢で前と後ろから毛布をかぶっていた。
ちょうど二人の前にあるスペースが空いていたので、大曲と種ヶ島は話しかけに行きがて
ら、越知と毛利の近くへと移動する。
「何つー体勢だし。」
「ああ、大曲さんに修二さん。戻ってきはったんですね。」
「あれ?俺らが部屋に戻ってたって知ってたん?」
「俺らも一回部屋に戻っとって、そのとき修二さん達の部屋から音がしてたんで。」
「なるほどな。ちゅーか、すごい体勢なっとるけど、何で横にならんとそんな格好しとる
ん?」
「俺らが横になったら、すごいスペースとってしまうやないですか。それに横になると月
光さんの足、毛布からはみ出てまうし。こうしといたら、使うスペース少なくなるし、月
光さんも寒くなくて一石二鳥やと思いません?」
それはそうなのだが、傍から見るとかなりすごい光景だぞと心の中で思いつつ、二人はそ
れ以上はつっこまなかった。
「まあ、確かに暖かそうではあるな。そのせいか、ツッキーもう半分寝かけとるし。」
もともと前髪で隠れている越知の目は、今はもうほぼ閉じられている。話に全く加わって
来ないところを見ると、ほとんど寝ているらしい。
「ホンマですね。せやったら、俺も寝ようかな。」
「もう結構遅い時間だし。寝といた方がいいだろ。」
「そうですね。それじゃ、おやすみなさい。」
「おー、おやすみー。」
大曲と種ヶ島にそう言うと、毛利は軽く越知に寄りかかりながら目を閉じる。1分もしな
いうちに、すーすーと寝息が聞こえてきた。
「メッチャ寝つきええな。あの毛布の中どうなってるか気になるけど、まあ、想像通りの
感じになってるんやろな。」
「だろうな。暖炉からは離れてるけどよ、この辺り床にも何か暖かそうなもん敷かれてる
し、わりと広めに空いてるからここで寝るか?」
「せやな。あ、ちょっとクッションか枕みたいなの持ってくるから待っとって。」
「おう。」
毛布は持ってきたが、枕になるようなものは持ってきていなかったので、その辺りにたく
さん用意されているものを種ヶ島は二つ持ってくる。
「よし、これで寝る準備はオッケーやな☆」
隣合わせで枕を置くと、毛布をかぶりながら種ヶ島は横になる。
「竜次もはよ横になってや。」
「枕近すぎじゃね?」
「そないなことないで。ツッキーと毛利やないけど、くっついとった方があったかいやん。」
「確かにそうだけどよ・・・」
「こんな状態やし、誰も気にせぇへんって。」
「ったく、しゃあねーなあ。」
横になることを急かしてくる種ヶ島に呆れたような言葉を漏らしながら、大曲も毛布をか
けて横になる。思ったよりも種ヶ島の顔がすぐそばにあり、大曲はドキドキしてしまう。
「何や想像してたクリスマスの感じとはちゃうけど、こんなふうに竜次と一緒に寝れるん
は嬉しいと思うで。」
「・・・勘弁しろし。」
「竜次。」
「何だし。」
「メリークリスマス。プレゼントもぎょうさんキス出来たんもメッチャ嬉しかったで。」
目と鼻の先の近距離でそんなことを言われ、大曲の心臓はドキンと跳ねる。目を細め、口
元を緩ませながらそんなことを言う種ヶ島の表情は、大曲にとってひどく魅力的であった。
横向きで上側にきている方の手を少し伸ばし、種ヶ島の頭に触れる。
「俺もだし。」
「ホンマに!?」
「嘘つく意味ねぇだろ。まあ、悪くないクリスマスなんじゃね?」
大曲も自分と同じ気持ちでいてくれていることが嬉しくて、種ヶ島はさらに笑顔になる。
吹雪と停電というマイナスの状況などどうでもいいと思えるくらい、大曲も種ヶ島も幸せ
な気持ちでいっぱいだった。
「とりあえず、もう寝とけ。」
「おん。」
「おやすみ。」
「おやすみ、竜次。」
種ヶ島の頭に触れている手はそのままに大曲は目を閉じる。大曲の掌のぬくもりを感じな
がら、種ヶ島も幸せな気分で夢の中へと落ちていった。
明け方が近くなると停電は復旧し、暖炉の火は消え空調が作動しだしている。かなり早め
に目を覚ました不二は他の者を起こさないように起き上がる。
(随分、早く起きちゃったな。あ、停電は復旧しているみたいだ。)
周りを見回してみると、まだみんなぐっすりと眠っている。何だか修学旅行のような雰囲
気だと不二は少しわくわくする。
(みんなでこんなふうに寝るなんてこと滅多にないし、記念に残しておきたいな。)
昨晩、停電の中でもクリスマスパーティーが行われていたこともあり、不二はこのレクリ
エーションルームにカメラを持ってきていた。私物ということもあり、それは手の届く場
所に置いていたので、カメラを手に取り、ひとまず自分の周りの光景を写真に収める。せ
っかくなので、他の学校のメンバーも撮っておきたいと、不二はゆっくりと移動し始めた。
「ふふ、うちのルーキーと西のルーキーは本当に可愛らしいな。やっぱり、こういうとこ
ろは一年生だよね。」
リョーマと金太郎が肩を寄せ合いぐっすりと眠っている姿をパシャリと撮る。暖炉のすぐ
近くでは氷帝の面々が雑魚寝をしていた。
「跡部まで雑魚寝してるなんて、かなり珍しい光景だな。彼はすごく贅沢な感じで眠って
いるし。」
ジローだけたくさんのクッションに囲まれてソファで眠っているのを見て、不二はくすく
す笑う。ジローらしいなあと思いながら、そんな光景もしっかりと写真に収めた。そして、
暖炉から少し離れたところに移動すると、高校生もこの部屋で眠っていることに気がつく。
「先輩達もここで寝てたんだ。それにしても・・・」
高校生の部屋も当然のことながら停電しているので、ここで寝ているのは何の違和感もな
いのだが、気になるのはその寝方だ。ダブルスのペア同士で近くに寝るのは分かるが、ど
のペアも近いというレベルではない。近いというより触れ合っていると言った方が正しい
寝方をしている高校生に不二は少々戸惑いつつも、これも記念かとカメラを向ける。
「まあ、怒られたら謝ればいいか。」
そんなことを呟きつつ、不二はかなり仲良さげに眠る高校生達を写真に収める。中学生よ
りもかなり夜更かしをしていた高校生は、写真を撮られるというようなことでは目を覚ま
さなかった。
クリスマスが終わってしばらくして、レクリエーションルームでカメラを持って不二や忍
足、ジローや蔵兎座が談笑していた。そんな中学生のところに、越知、毛利、大曲、種ヶ
島が通りかかる。
「あっ、先輩。」
「随分と楽しそうやん☆何してるん?」
「この前のクリスマスのときの写真見てるC〜。不二がね、みんなでここで眠ってる写真
撮ってくれてたんだー。」
「ジロー、先輩達には敬語使わなアカンで。」
「へえ、そうなん?俺達も撮ってあったりするん?」
興味本位で毛利はそんなことを尋ねる。少し気まずそうな表情で、不二は頷いた。
「一応・・・。見ますか?」
「見せて見せて。竜次も見たいやろ?」
「どっちでもいいし。」
「俺も見たいわ。見せてもらってもええ?」
「はい。」
写真が写真なので、他の中学生には見せないような形で、不二は四人に写真を見せる。そ
こに写っている写真を見て、四人は言葉を失う。
『っ!?』
そのときはとても暖かくかなり心地よい感じで眠れたのだが、第三者から見るとこんな状
態だったのかと恥ずかしくなる。
「うわー、傍から見るとこんな感じやったんですね。そりゃ大曲さんも修二さんもつっこ
みたくなりますね。」
「せやろー?」
「お前らもなかなか仲の良い状態で眠っているな。」
「そこはさして興味はないって言っとけし。」
「あの・・・消した方がいいですか?」
そこまで怒られるような雰囲気ではないが、不二は一応そんなことを聞いてみる。返って
きた言葉は少し意外なものであった。
「いや、別に消さんでもええよ。その代わり、この写真ちょっと印刷してもらってもええ
か?」
「あっ、俺もこの写真欲しいわ。月光さんはどないします?」
「さして興味は・・・いや、俺も一枚もらおう。」
「なら、竜次の分も印刷してや☆」
「はあ?勘弁しろし。」
「分かりました。先輩達の写真、印刷して渡しますね。」
まさか印刷して欲しいとは言われるとは思っていなかったので、不二は少し驚くがいつも
通りにこりと微笑んでそう返す。すぐには印刷出来ないので、渡すのは後日ということで
高校生と中学生はその場では別れた。
「あないな写真、撮られてるなんて思わんかったな。」
「けど、何やクリスマスをあーいうふうに過ごしたってのが残ってええですね。」
「本当なら勝手に撮るなって怒ってもいいことかもしれねぇけど、そんな気にはならなか
ったんだよな。」
「そうだな。」
「いい記念と思って、写真もらうの楽しみにしときましょ。」
楽しげにそんなことを言う毛利の言葉に、三年生のメンツは頷く。吹雪に見舞われ、白い
夜に包まれたクリスマス。例年とは一味違ったクリスマスを過ごした四人は、寒さと暖か
さの余韻をしばらく楽しむのであった。
END.